……内海? 幻徳? ははっ、なんの事でしょう。
ようこそ、ナイトローグのお悩み相談室へ。ここでは皆さま方の悩みと真摯に向き合い、解決へのアドバイスをする事をモットーとしています。どうか、お気軽に御越しくださいませ。なお、織斑先生はお悩み相談室の存亡を揺るがす大変恐ろしい人なので、バレないようにひっそりとやらせていただきます。
先日よりバージョンアップしたナイトローグの仮面ですが、めでたくコスプレ一式を整える事ができました。皆さまの応援には深く感謝しております。
そんな訳で、俺は校内の隅っこでこっそりとお悩み相談室を運営する事になった。前回のアクティブ相談室――ゲリラ的に各所へ訪れては悩みを聞いてあげる――の反省を活かし、織斑先生にバレないようにする。
この日のための準備はバッチリだ。コスプレ一式はトランスチームガンのバススロットでスチームブレードと一緒にぶち込めるので、持ち運びは苦ではない。後は適当にイスと机を用意するだけだ。
「すまない。日室はいるか?」
「ようこそ、ナイトローグのお悩み相談室へ」
早速、悩みを抱えし者がやって来た。入り口の暖簾が上げられ、そこから篠ノ之さんの姿が露になる。そのまま彼女はイスに座り、机を間に挟んで俺と対峙する。
「お祈りですか? 懺悔ですか?」
「いや違う。そんな教会ではあるまいに……ゴホン」
わざとらしく咳をした篠ノ之さんは、場の空気を仕切り直して己の悩みを打ち明ける。
「実はだな……とてつもなく迷っているんだ。姉さん……篠ノ之博士に私の専用機を作ってもらうように頼むかどうか」
「なるほど。コネですか」
「うぐっ!? ひ、否定はしない。誠に遺憾ながら、一夏の周りにいる女たちは全員専用機持ちだ。このままでは訓練の時間でも、持っている力の方でも大きく出遅れてしまう……」
そこまで言って視線を落とす篠ノ之さん。言われてみれば、確かに一夏グループの中で専用機を持っていないのは彼女だけだ。おまけにデュノアさんとボーデヴィッヒさんまで恋愛競争に参戦したとなれば、ますます苦しくなる。
訓練機を借りるにしても、専用機と違って手間と時間も掛かる。整備や点検もしなければならなくなるので、一夏となるべく時間を共にしたいと考えているのならば辛いところだ。
「しかし、この間の千冬さんと日室の模擬戦を見て、気持ちが揺らいだんだ。専用機が欲しいなんて甘えなのではないのだろうか。訓練機でも勝てるように邁進すればいいのでないのだろうか。それと……姉とは連絡が取りづらい」
そうして篠ノ之さんは口をつぐむ。どうやら、自分の欲望と自制心の間に挟まれているようだ。今にも暴走しそうな自分を理性が縛っている。
それに対する俺の答えは――
「良いと思いますよ、専用機作ってもらうの」
「っ!? だが、それではっ!」
「軽く国際問題に発展しますね。日本のISコア保有数が増えちゃいますから。他の国が文句言います。しかし、その前にあなたは篠ノ之博士の妹。要人みたいなものです。誘拐とかされないように護身として持っておくのであれば……多分、平気だと思います」
「多分って……ハァ……」
溜め息をついた後、篠ノ之さんは項垂れる。だが、おもむろに姿勢を正しては再び口を動かす。
「……なるほど、そういう考えもあるのだな。力欲しさに視野が狭くなっていた。何より……専用機が欲しいなんて誰にも言えやしなかった……」
「ご安心ください。ナイトローグはあなたのプライバシーをきっちり守ります」
「うむ、そうしてくれると助かる。……何だか胸のつっかえていた部分がなくなったようだ。感謝する、日室」
「いえいえ、大した事ではありません」
篠ノ之さんは頭を下げて礼を告げると、「それではな」と言い残して相談室を去っていった。また一人、悩みが解決されたのだった。
本当にこれで良かったのかだって? バカ野郎、日本はスパイを取り締まる法がないスパイ天国だぞ。日本版CIAすら出来てないのに、要人保護はしていても現状で他国のスパイに拐われたらどうするのだろうか。霧ワープとかで。この前も素体カイザーやリモコンブロスに会ったり色々物騒だから、未然に防げるものは徹底して防ぎたい。
そうこうしている内に、本日二人目の来訪者がやって来る。その人は簪さんであった。
「ようこそ、ナイトローグのお悩み相談室へ」
「……どうも」
挨拶を交わすと簪さんはとててと駆け寄り、イスに座る。心なしか、ワクワクとしているように見えた。
「あの、話しても良いですか?」
「はい、どうぞ」
「最近、嫌な人に付きまとわれてるんです。姿はいつも見えないけど、妙に視線を感じて……」
「ほうほう」
まさか、学園内でストーカー紛いの事がおこなわれているなんて。言葉を選んでいる節があるが、加害者はおそらく簪さんの知人だと思われる。とはいえ話の筋がまだ見えないので、もう少し詳しく聞いてみないとわからないな。
「その人、ものすごく勝手なんです。あんな風に私を突き放して、傷付けた癖に……いきなり手のひら回してのうのうと仲良くしようとか……。その……ナイトローグなら、あのストーカーをどうにかできるんじゃないかと」
「うん。遂にストーカーになったね。ところで心当たりとか、その人の特徴とか教えてもらえるかな? 直接的な被害を未然に防ごうにも、相手がわからないとちょっと……」
ガタン!! タタタタタタ……。
その時、どこからともなく大きな物音が聞こえてきた。俺と簪さんがそちらに振り向いた頃には、急いで走る足音が遠のいていく。簪さんは気を取り直して話を続けた。
「えっと……特徴を教えるのはちょっと嫌だと言うか、口にするのも憚れるぐらいに嫌いと言うか……取り敢えず、ナイトローグが私の側にいてくれたら解決すると思うんです」
「あー、そうくるかぁ……。ところで、さっきの足音立てた人ってもしかして?」
「そうだと思います。私の嫌いな人です」
瞬間、遠くの方から誰かが発狂するような叫び声が聞こえた。これは気のせいだろうか。目の前に簪さんは、特に気にするような素振りを見せない。
しかし、これはむしろ――
「これはあくまで自分の推測だけどさ、そのストーカーって簪さんと仲直りしたいんじゃ――」
「あり得ない」
「断言するの早いよ。てか、喧嘩してるのは確定っぽいな」
「あっ……」
発言を見事に遮られたが、誘導尋問を仕掛けてみればこの通り。プイッと顔を逸らされる。
この調子で頑なにストーカーの人を嫌うのならば、ちょっとやそっとでは仲直りなど限りなく不可能に近いだろう。簪さんがひたすら拒んでいる。まるでこの前の俺みたいだ。
ストーカーの人がずっとこそこそしている事から見るに、どういう訳か知らないが謝るのは苦手だと窺える。気まずいとかそういうのはさておき、このままではどう足掻いても真正面からの土下座だけでは仲直りの道が切り開かれないのは必定。ここは俺が、ほんの少しでもいいからキッカケを与えない事には何も始まらない。でないと平行線で両者の関係が終わる。
「プライバシーの事は心配しないで。秘密にするから。それはそうと……ストーカーの人がそんなにも嫌い?」
「はい」
「殺したいぐらい? 中身の火薬が湿気て使えなくなった無価値な弾のようにしたいぐらい?」
「えっと、それは……言い過ぎ、かな?」
「そうか、良かった。絶交一択じゃなくて安心したよ。それじゃ、簪さんが良ければ仲直りの可能性が生まれてくる訳だ」
しかし、俺がそう言うと簪さんの表情が苦くなる。これ以上は踏み込んで欲しくないといった感じだ。ならば、ギリギリを踏み留まるだけだ。
「別に無条件に許せとは言わない。だけど相手が本心で謝ってくるなら、せめて耳だけでも傾けるべきだ。それからどうするかは簪さん自身で決める事になるけど……」
簪さんは未だに表情に影を落としたままだ。とても俺の言葉をすんなり聞き入れているように見えない。やはり、仲直りには相応の抵抗があるらしい。溝が深すぎだろ。
「とんでもなく怒ってるなら言ってもいいと思うよ。『土の下に座って詫びろ』とか、『お前なんてタンスの角に小指を全力でぶつけてしまえ』とか、『デスノートに名前を書かれればいいんだ』とか」
「へ?」
俺が決め手の言葉を投げれば、きょとんとした様子でたちまち顔を上げる簪さん。見るからに、何を言っているのだろうかと混乱している。だが、数秒経過した頃には腑に落ちる仕草を示し、おずおずと俺に尋ねてくる。
「……そんなキツい事、言ってもいいのかな?」
「君たちが以前にどれだけ仲良かったかによる。親友っていうぐらいの間柄なら、全力でぶつけてもいいんじゃあ……ちょっと後が怖いから加減はしようか?」
「……はい」
すると、簪さんはコクりと頷いた。ほんの少しだけ、纏っているピリピリとした雰囲気は和らいだ気がする。かくはともあれ、少しは力になれて良かったと思う。
「あっ、最後に写真撮影いいですか?」
その後、ナイトローグの撮影会が始まり、たらふくの決めポーズをカメラに収めていった彼女はホクホク顔で帰っていった。それから入れ替わるようにして、三人目が訪れる。
「えっと、日室くんはいますかー?」
「山田先生じゃないですか。ようこそ、ナイトローグのお悩み相談室へ。答えなら前回で出しましたよ? 指導は素直に受けるけどナイトローグとして戦う事はやめないって」
「あっ、いえ。そうじゃなくてですね! 失礼します」
一言断りを入れた山田先生は、そのままイスに座って俺を見据える。俺が素顔を晒している時とは違って、恥ずかしがらずに随分と直視してくれていた。ほっと一息ついてから、話を切り出す。
「日室くんは手芸部所属でしたよね?」
「はい。週に二、三回参加して、ナイトローグの手芸を作ってます」
「あれ? それ以外にも何か作っていませんでしたっけ? えっとぉ……思い出しました! ルリオオカミ!」
「コイツの事ですか?」
「はい、それです。あっ、動いてる……」
何気なく手のひらにルリオオカミを取り出せば、山田先生は感心しながらそれに見入る。コイツは気分転換にと試しに作ってみたものだ。モデルはディスクアニマルたちだが、流石に戦闘力は猟銃装備の農家のおじさんには及ばない。多分、束になっても生身の万丈には勝てない。ISに使われるような精密機械をわざわざ投入したのは、この一体のみである。ラジコン化させたけど校舎の壁にぶつかってシャカれたアカネタカを忘れてはならない。
直後、山田先生はブンブンと首を横に振り、「そうではなくてですね……」と話の路線を戻す。
「特別教育室は知っていますよね? 日室くんの場合、織斑先生に怒られては時々入ったりして」
「はい。あの独房みたいな部屋でしたよね。でも些細な事です」
「できれば校則はきちんと守ってほしいんですが……あっ、いえ! 校内清掃とかは良い事ですよ? ただ、それは一先ず置いておいて、日室くんが入った後の特別教育室の事で話があるんです」
「話……と言いますと?」
「特別教育室の内装をナイトローグに何度も染め上げるのは、やめてくれないでしょうか?」
「嫌です」
「そんなっ!?」
刹那、愕然とした山田先生の背後に雷が落ちたような気がした。彼女は依然として面食らったまま、しどろもどろに話を続ける。
「お願いします! 勘弁してください! アレを見る度に織斑先生が凄まじく静かに怒るのを間近で見るの、もう堪えられないんです! すっごくピリピリしてて、でも私副担任だから同行の拒否もできなくて……日室くん、私を助けてください~!」
「先生。自分は特別教育室にこれからも入れられるであろう生徒たちの希望になりたいんです。ナイトローグも入った事あるから悲観する事はないって」
「だったら……先生の希望にもなって……校則違反もやめて……!!」
気がつけば、俺の両手がぎゅっと握られる。すがるようにして懇願する彼女の目尻には涙が溜まっていた。瞳はうるうるとしていて、このままでは一気に泣き出すに違いない。途中で言葉が霞んでいったのが根拠だ。
“先生の希望にもなって”。それを聞いた俺の頭の中に、とある一人の魔法使いの姿が現れる。赤い宝石を象った戦士に変身している彼は、そっと口ずさむ。
――俺が最後の希望だ――
その際、まるで点眼薬を使って目が潤うような気持ちに襲われた。俺が特別教育室にしてやった事は、先生たちにとっては独り善がりに過ぎないものと遅れて気づく。ナイトローグならば生徒だけでなく先生の希望になれというのは、実にもっともだ。
どうしてこんな簡単な事を意識できていなかったのだろうか。ナイトローグであろうとするあまり、再評価活動に焦りを感じてしまったからか? もしかして、マッドローグにスーツ改造されてしまった疑惑が拭えていないナイトローグの怨念に、俺は取りつかれていて……。
ハッ! いけない、いけない。そんな過去の事に引き摺られるのはナンセンスだ。大事なのは今、未来、この瞬間、何をするべきなのか。その答えはとっくに決まっている。善は急げ。
「……それもそうですね。じゃあ、片付けてきます!」
この後、元の姿を取り戻した特別教育室の内装に山田先生は感極まり、俺に感謝しながら再犯しないように言い含めるのであった。校則の遵守に関しては善処します。
そして――
「弦人ちゃん! 今週の日曜、一緒に買い物に出掛けましょう!」
四人目が来たかと思えば、買い物に誘う京水に詰め掛けられるのであった。
Q.コスプレナイトローグのスペックは?
A.生身そのままです。
Q.浮気の数ならザビーもクローズも負けていないぞ!
A.浮気回数はザビーがトップ。デルタ? 彼はベルトとケータイでしょう?
Q.ディスクアニマルぅ!
A.すまんな。贋作だ。アームドセイバーの転用どころか、オリジナル以下のオモチャだ。