最初に言っておく。私は狂っていません。
日曜日。IS学園の校門前で待っていると、トテテと京水がやって来た。出会って早々、自分の私服姿を見せてくる。
「どう? どうかしら? 下手に悩まずシンプルに決めてきたわよ!」
「えっと……」
その場を元気よく回る彼女が着ているのは、純白なTシャツとカナリアイエローのスカート。まさしくシンプルに完結していて、白と黄色のコントラストが眩しい。加えて彼女の笑顔により、輝きは一層増している気がする。
助かったかな。一方の俺は紫を基調としたナイトローグのスタイリッシュでカッコよく、外に出しても恥ずかしくないシャツと普通のジーンズだ。京水がほどほどのオシャレに留めてくれたおかげで、気後れしない。彼女の格好は無性にルナメモリを連想させ、スーパーベストマッチしていた。
「まんま京水って感じ。文句なしに似合ってる」
「ホントに!? あぁ、嬉しすぎて嬉しさが身体に染みちゃうわ~!」
そう言って京水は己の歓喜を示すようにして小躍りを始める。くねくねとした動きを取り入れているのはご愛敬だ。
「それじゃあ行くか」
「ええ! あっ、どうせだから手繋ぎましょう?」
「いいけど」
「やった!」
これに京水は大喜びし、進んで俺と手を繋ぐ。彼女の手は柔らかく、ルナ・ドーパントもこれぐらいの柔らかさだろうかと頭に巡らせる。チラリと視線を横にすれば、もれなく上機嫌にフンフンと鼻唄を奏でる彼女の姿が目に写る。身長が百五十前半と低く、こうして肩を並べるとまるで可愛らしさが潰れる・溢れる・流れ出る小人だ。その頭を撫でたくなる。
そうしていると、駅前のショッピングモールへと到着する。IS学園とはモノレールで直通なので利用に優れている。
なお、京水とは未だに手を繋いでいる。俺が何気なく離れようとすれば、頬をプクーッと膨らませながら腕に抱き付いてくる。さながら、地獄の底までくっつく勢いだ。
試しに、離してほしいと目で訴えてみる。そんな様子の俺をふと目にした京水は、ニコリと微笑みながら声を発する。
「当ててるのよ♪」
「……」
なんという事だろうか。まさか、京水にドキリとする日が訪れるなんて。その一言で、腕に当てられている彼女の胸をついつい意識してしまう。それは年頃の乙女と済ませるにはあまりにも大きく、魅惑的だった。全ての男たちの帰りつく、命を育む約束の大地を体現したと言っても過言ではない。
世の中の男たちを女性を見る時、まずどこを見るのだろうか。脚、首、ニーハイなどと多数の意見が出る事は間違いないが、ここでハッキリ言えるのはただ一つ。本物に飾りは要らないという事だ。どんなに迷い、対立し、同志を作っても、やがて彼らは皆、同じ答えに辿り着く。聖なる探索の果てに得るものは、誰だって違わない。
それはすなわち、おっぱい! 女性の象徴!
……ハッ!? いけない、こんな事を考えては! 俺はナイトローグ……ナイトローグなんだ! 京水の胸が大きく柔らかいから何だ。そんなのは俺に関係ない。思い出せ、ナイトローグの今までの軌跡を。ラビットタンクスパークリングはとんでもないものを盗んでいった。それはナイトローグの栄光だ。マッドローグに走った内海を許すな。
その時、見慣れた三人の後ろ姿を見つける。尾行している素振りの彼女たちの遥か前方には、一夏とデュノアさんが歩いていた。
「あら? あの二人はもしかして一夏ちゃんとシャルロットちゃん? デートかしらー?」
「ハッ!? その声は京水!? てか弦人もいるし!」
「皆さん、こんにちは」
三人組の正体は鈴音さん、オルコットさん、ボーデヴィッヒさんだ。俺たちは静かに彼女たちの背後に立つと、挨拶を交わす。真っ先に振り返った鈴音さんが驚きの声を上げた。
京水のデート発言に大いに取り乱すのはオルコットさん。一夏の事だからデートはあり得ないのだろうが、その動揺ぶりは目も当てられない。どもりながらも、自分の意見を述べる。
「い、いえ。まだデートと確定した訳ではありませんわよ? 現にこうして、二人の関係を見極めている最中ですし」
「そうね。そもそも、相手が唐変木の一夏だし……で、そのくっつきぷりは何? 当てつけ? 当てつけなの?」
オルコットさんに相槌を打つ鈴音さんは、次に話の矛先を俺たちに向ける。若干、怒気を孕んでいるように見えた。
それもそのはず。現在進行形で京水は俺の腕に抱き付いている。これではイチャツキを見せびらかしていると勘違いされる。恋愛競争真っ只中の三人にとって、相当な刺激だ。弁明しなければ。
「買い物です」
「デート♪」
「えっ」
「えっ」
瞬間、互いに食い違った発言に動きが止まる。それから何度も京水と目を合わせていると、有無を言わせずに彼女が叫ぶ。
「……細かい事はいいのよ!」
「そうそう。細けぇこたぁいいんだよ」
「いいんかい!」
取り敢えず便乗。鈴音さんのツッコミが炸裂する。ともあれ、今はこの状況を深く考えるつもりはなかった。常にナイトローグを念頭に置いておかねば、例の感触がダイレクトに伝わってくるのだから。
これにオルコットさんはほとほと呆れ、ボーデヴィッヒさんは納得したような表情を示す。恐らく、その納得の意味は俺が予想しているものより斜め上を越えているであろう。公開キスをやってのけた凄まじさは、伊達ではない。
「やはり積極的なアプローチに間違いはなかったようだな。しかし、京水たちも認識に齟齬が出ているような……」
「いいえ、ラウラ。あなたはそれで良いのよ。行きなさい! ヤりたいと何度も思う事は必ず遂行するっ! 絶対にっ! それが恋する乙女の掟よ! 掟を破ったら私たちにチャンスは二度と訪れない!」
「その事について迷いはない。ついこの間も一夏に夜這いを掛けた」
直後、鈴音さんとオルコットさんが吹き出す。夜這いとか、もう京水よりもレベル高すぎだろ。唐変木で芯のある一夏なら、きっと過ちなんて犯していないはず。ボーデヴィッヒさんの口ぶりからして、成功した感じではなさそうだ。
しかし、どんどん煽っていく京水にはヒヤヒヤさせられる。妙に熱意が込もっており、小動物のように愛くるしさを覚える顔をしている癖して、気迫は十分だ。
「……あ。一夏たち、そこの角曲がったんだけど」
鈴音さんたちがボーデヴィッヒさんを問い詰めようとした時、俺は遠くで姿を眩ます一夏たちの姿を垣間見たので、そっと全員に呟く。鈴音さん以下三名は一斉に顔を同じ方向に振り向かせ、ボーデヴィッヒさんがそそくさと前進していく。
「ではな。私は追跡を続行する」
「あっ、待ちなさいよ!」
「そうですわ! まだ聞きたい事が山ほどありますもの!」
そうして、三人は一夏たちの尾行を再開するのだった。デュノアさんがとても京水並みに猛烈なアタックをしそうにない以上、尾行する必要性は薄い気がするが、その事を告げるのは無粋だな。幸運を祈る。
「いってらっしゃあぁぁぁぁい!!」
彼女たちを見送る京水は盛大に手を振る。その暖かい目は、確実に今回の尾行の行く末を見守っていた。報告は後日となるな。
この後、午前中は買い物の前にゲームセンターや飲食店などを歩き回った。京水は知らないが、俺はネットオークションで流したナイトローグの手芸品売却の資金で財布が潤っているので、今日ぐらいの浪費は問題ない。道中でフルボトルのガシャポンを目にしたが、これを提案したのはどこのどいつなのだろうか。政府主導なら笑える。
「よーし、行くわよ~。えぇーい!」
「フルボッコだドン!?」
ゲームセンターで始めにプレイしたのは音撃の達人。太鼓とバチを使ったリズムゲームで、二基の太鼓で対戦も可能。京水とは何度も熾烈な勝負を繰り広げる事になった。もちろん、俺はべらぼうな初心者だったので、一回戦目はぼろ負けした。
その次は、押し寄せるゾンビたちを倒すガンシューティングだ。リロード時にライフルを縦に振る動作が少々苦しく、フルボトルとは勝手が違った。ずっと片手持ちだと腕が疲れてしまい、途中で両手持ちとなった。
「あぁ~ん! ダメよぉ、ダメダメ! もう私は身も心も弦人ちゃんのものなの! あなたたちにはあげられないわ! キャア、出たぁぁぁぁ!? モンゴリアンチョップ!」
また、隣で京水が終始騒がしかったのも記憶に新しい。笑ったり、困ったり、怖がったり。表情がコロコロと変わっていき、眺めるだけでも楽しかった。
他にもゲームセンターにて散々遊び倒し、昼頃になると飲食店探しへと向かう。小腹が空いたと感じた頃にちょうど良くアイス屋は見つけたので、京水と一緒に迷わずチョコアイスを注文した。その小さな口で溶けない内に急いで食べる様子は、なんだかハムスターを彷彿させた。可愛い。
そんなこんなで時間は過ぎ去り、午後は買い物に費やす。今月中にある合宿では海で泳げるそうなので、俺と京水はそれぞれ水着を用意したかった。生憎と、京水の水着は当日のお楽しみとして先送りされたので、彼女がどんなデザインのものを買ったかは知らない。俺? 水着以外にも色々購入させてもらった。
そして、締めにはハートストロー入りのジュースを持った京水が、キラキラと目を輝かせながら迫り来る。
「弦人ちゃん、一緒にこれ飲みましょう!」
「正気かよ」
「本気の本気! マジなんだから!」
どこまで後退ろうとも、彼女は逃がさないと言わんばかりに詰め寄る。気がつけば、周囲に野次馬が少しずつ集まってきていた。
「ママー、ナイトローグに彼女さんが出来てるー」
「あら、本当ねー」
そんな会話が飛び交い、俺は敢えなく言葉に詰まる。この外堀を埋められていく感覚は、あまり心地好くなかった。
まだかまだかと待っている京水。意を決して、この奇妙な空間を抜け出すためにハートストローに口をつける。合わせて京水も飲み始め、あっという間にカップの中身がなくなる。ここまで顔を近づけるのは気恥ずかしい。
飲み終わるや否や、京水は頬を真っ赤に染めながらピョンピョンとその場を跳ねた。
「幸せ! とっても幸せ! 愛してるわ、弦人ちゃん!」
それからガッシリと俺の胸元へと抱き着く。その時の表情は、最高の一言に尽きた。自然と周りから拍手が生まれ、その中で俺はついつい彼女の頭を優しく撫でてしまう。俺の手が頭に触れた瞬間、ハッとしたかのように彼女は「あっ……」と声を漏らす。
しまった。そう思って手を下げようとする俺よりも早く、京水は口を動かす。
「もっと撫でて?」
それを機に、不覚にも俺は一時的にやられてしまった。この日見た京水の喜んでいる顔を、なかなか忘れられそうにはない。
Q.京水可愛い。
A. welcome!
Q.京水がこんなにも可愛いはずがない。
A.彼女は最初から可愛いですよ?