ここは日本の某先端物質学研究所。そんな今日、石倉レオ――通称レオナルドはエントランスへと客を迎えに行っていた。クマみたいな彼の足取りは、見た目に反して人間らしい。
「ようやく来たか、お前たち!」
「こんにちは石倉さん! パパは来てないの?」
「アイツなら出張だぞ。伊坂もいないし、つーかチームで居残りなのは俺だけだ」
エントランスで待っていたのは京水、ナギの二人だった。京水の質問をレオナルドは雑に答え、やれやれと肩をすくめる。
なお、その頃の伊坂は――
「ヘシン!」
『ターンアップ』
「ギャレンだとぉ!?」
そんなこんなで二人を奥へ案内した彼は、オフィスへと招き入れる。トランスチームシステムの研究チームが使っている部屋だが、中には誰もいない。レオナルドのパソコンだけが寂しく起動している。
客人たちをソファに座らせ、粗茶と菓子を用意するとともにタブレットを取り出す。それから画面を見せびらかし、テレビ電話を繋げる。映像に出てきたのは一人の若い女性、遺伝子学に長けている葛城リョウであった。心理学にも通じているのはここだけの話。騙し合いの某ライアーゲームとは何ら関係はない。
『こんにちは、泉京水さん。鏡ナギさん。葛城リョウです。本日は急な予定が入って不在ですので、録画で挨拶させていただきます。詳しい事は石倉くんに聞いてください。では最後に……人の繋がりは固いんですよ? お金があれば』
そうして、映像はぷっつりと途切れた。
「……え? それだけ?」
首を傾げて尋ねるナギに、レオナルドはゆっくりと頷。
「ああ。これがあの人の遊び心だ。ぞっとしたか? 無表情なのが怖いだろ」
「もぉー、いやぁ~な感じね。お金があればって発想、何だか冷たいわ!」
それを聞き、京水はクネクネとしながら感想を述べる。しかめっ面な辺り、あまり受け付けられる言葉ではなかったのが窺える。
レオナルドはそんな京水を気にせず、タブレットをしまって次の話をぱっぱと切り出した。
「ジョークだけどな。さて、話を早速進めるぞ。試作品ビルドドライバーと、トランスチームガンについてだ」
「あの、弦人くんは先に来てるんじゃないんですか? 私たち、そういう連絡もらったんですけど」
「弦人くんならナイトローグに変身した状態で電脳ダイブしてもらってる」
すかさず手を上げてそう質問するナギに、即答するレオナルド。それから有無を言わせず二人を自分のデスクまで招き、パソコンを手早く操作して映像を映す。
そこには、薄い毛布を被って仰向けになっているナイトローグの姿があった。少しも身動きを取らず、胸の安らかな上下運動を繰り返すばかり。とどのつまり、もう寝ているようなものだった。
これを見たナギは目を丸くし、京水は口元を手で隠すようにしながら一言呟く。
「あら、すっごくシュール。でも電脳ダイブして何の意味があるの?」
「説明しよう! 実はトランスチームガンのブラックボックス解放のために、急遽電脳ダイブが必要となったのだ!」
「急に来た」
「電脳ダイブするならパソコンでやれって? やったさ! でもな、途中から急にアクションゲームやシューティングゲームになっちまったり、とにかくコントローラーじゃ難易度がクソすぎて投げ出した!」
そんなナギの些細な言葉をスルーし、レオナルドはやや興奮気味に話を続ける。何気に綻んだ表情をしているのは、ここだけの話だ。この説明タイムに一種の愉悦を覚えている。
もちろん口だけでなく手も動かし、映像を切り替えさせる。次に流れてきたのは、ナイトローグの後ろ姿を見守る三人称視点だった。ほとんどゲーム画面で、端にはレーダーマップや体力ゲージなどが表示されている。
「見ろ、これを! 俺が詰んだ最終ステージを弦人くんが攻略中だ!」
『マザーシップだ! マザーシップが降りてきたぞ!』
『こちら作戦司令本部。恐ろしい数のスマッシュが押し寄せてくるぞ。撃って撃って撃ちまくれ!』
『ナイトローグ、聞こえるか! 助けに来たぞ!』
『レーザー砲、射撃用意!』
『ナイトローグ。出会えて光栄だ。最期まで派手にやろうぜ』
『いや、光栄つーかお前らハードガーディアンじゃん』
空に浮かぶのは銀色に輝く球体状の星船。その周りを数体のフライングスマッシュ通常体が巡回し、低空位置に留まる円盤型キャリアーからは地上戦型のスマッシュたちが投下されている。
これらとナイトローグが戦う一方で、彼の味方はハードガーディアンの一個小隊などで構成されていた。他にも通常のガーディアンの部隊が点在するが、赤いヘルメットを被った隊長の指示の元、何故か敵の大軍へ無謀にも突撃していく。
『突撃だぁーっ!』
『おおーっ!』
《デビルスチーム》
『ぐおおおっ!?』
『隊長がやられたぞー!』
『ちくしょう、仇は取ってやる!』
『ナイトローグ! お前が指揮をしろ!』
『EDF! EDF!』
それをナイトローグは暗殺もとい峰打ちをしてやる事で、赤ヘルの魔の手から次々と味方を救っていく。こうして、ナイトローグによるマザーシップ攻略が始まるのだった。
「まるでわからないといった顔をしているな。まぁ、無理もない。大事なのはここからだ。ブラックボックスを解明し、戦闘中でもハザードレベルが上がるようにする!!」
そう強く断言したレオナルドの声が室内に響き渡る。だが、彼の予想に反して二人は無反応であった。ハザードレベル云々よりも、ナイトローグの攻略動画に意識が向いている。
「ノーリアクションかよ、チクショー!!」
「だって、これ地球防衛軍ですよね? ただの地球防衛軍ですよね?」
「うるさい。これはお前らも他人事じゃないんだぞ。ほら、ボトルだ」
「わわっ!?」
もはや、レオナルドはナギの突っ込みを聞き入れようとはしなかった。有無を言わせず、白衣のポケットから取り出したフルボトルの一本を彼女に投げ渡す。
慌てて受け取ったナギの手の中には、蛇のデザインが刻まれているフルボトルがあった。レオナルドとそれを交互に見て、驚きの声を上げる。
「ええっ!? これって、弦人くんと同じヤツですよね!?」
「いいや、改良型の電子レン……装置で作った新作だ。弦人くんのバットフルボトルとまでは行かないが、何度使っても成分が空にならない……はず」
「ねぇ、ナギ。今ワタシ、電子レンジって聞こえた気がするわ?」
「ううん、空耳じゃないよ。電子レンジって言い掛けてた」
フルボトルに関する一番重要な説明を隅に置いた疑問に京水とナギは互いに頷き、同時にレオナルドを見つめる。レオナルドは動きを固めたが、すぐにでも話を進めた。
「……トランスチームガンとビルドドライバーで変身するにはハザードレベル3以上が必要となる。また、ハザードレベルは戦闘中に上げる事ができる。ドラクエみたいなものだな。ただし、トランスチームシステムは例外。弦人くんがビルドドライバー嫌いとごねてるのもあって、今に至る訳だ」
「へぇー、そうなのね。そのビルドドライバーってのをワタシたちに使わせるつもりかしら? ワタシ、先にトランスチームガンもらってるのだけど」
「違う違う。完成されたトランスチームガンと違って、試作品をお前たちに使わせる訳には行かない。使うのは俺だ。どうだ、身体を張ったぞ? 褒め称えろ」
京水の疑問を解決し、己も実験に命懸けで臨んでいる事を誇らしげに胸を張るレオナルド。腰に両手を当てて、顎を上げる。ついでに流れ作業の如く、どこからともなく取り出したトランスチームガンをナギに再び投げ渡した。
「本当にさりげなく渡して来ますね。あっ、こっちも弦人くんと同じだ」
「じゃーん! ハザードレベル測定器ー! ナギは2.4! 京水は2.9! ちっ、ダメか……」
「もう突っ込みませんよ?」
戦闘力測定器スカウターの模造品を耳に装着した彼を見て、とうとうナギは突っ込みを放棄する。どんなに彼がクマのようであっても、舌打ちの際の物凄い表情を目撃すれば苦笑せざるを得ない。瞬く間にクマの可愛さが灰塵に帰した。
その一方で、京水は間髪入れずに次の質問を出す。
「科学者なのに、そんなに身体を張って大丈夫なの? その手の実験って別に被験者が用意されるものではなくて?」
「それな。でも用意した三百人の内、遺伝子検査をパスできたのは三名。内一人はネビュラガスが怖いからとドタキャン。残るは俺と葛城博士だった。けどまぁ、ガスの注入実験を葛城博士にやらせるのは男が廃るからな」
「見掛けに寄らずイケメンなのね。キライじゃないわ!」
原則、被験者と科学者は完全に住み分けされている。今回のレオナルドの行動は、周りにとってもあまり褒められたものではない。あくまで実験であるのだから、ネビュラガスの危険性を考慮すれば辞退するのが合理的だった。
だが、そんな事はお構い無しにと漢気を発揮。これには京水も共感し、思わず彼を尊敬した。結果論で助かったのが幸いである。
『緊急事態発生! 施設内B棟に襲撃! 各自、外へ避難を! 無理なら最寄りのシェルターまで!』
その時、研究所の至るところに警報が鳴り響いた。避難指示をアナウンスも出され、レオナルドは驚愕の表情で立ち上がる。
「B棟ってここじゃねぇか!? おい、避難するぞ!」
「待ってください! 弦人くんはどうするんですか!?」
直後、ナギの言葉が割って入ってきた。ただし、この状況下では誰もが当然のように思い至る。レオナルドはナギたちを部屋の外へ誘導しながら、捲し立てるようにして口を動かす。
「俺が起こしてくる! 途中で警備員に会ったらお前らを預けるから、急ぐぞ!」
のんびりとしている場合ではない。襲撃を受けている理由が不可解だとしても、現に警報はいつまで経っても止まないのだから。釈然としなくても二人は頷く他にない。
部屋を飛び出した後に遅れて、微かな爆発音と振動が遠くから伝わってくる。来た道を逆走しているだけだが、背後から無性に来る未知の恐怖というものは、彼らの逃げ足を急き立てる。
すると、角を曲がった先でとある男性研究員と遭遇した。非常時であるにも関わらず、彼はレオナルドたちの行く手を阻むようにして佇んでいる。
「野座間じゃねぇか。おい、コラ! 何ぼさっと――」
男性の名前を呼んだレオナルドだが、ふと言葉が止まってしまう。前進しようとした足を止めて、後ろにいる京水たちを制する。野座間の手には、マウス実験にて用いられていたスマッシュボトルが握られていた。
まだ浄化していないスマッシュボトルは、外部に漏れないように全て厳重に保管されている。それが持ち出されているという事は、何らかの異常が発生している事の証。瞬時に野沢から嫌な予感を覚えたレオナルドは、そっとビルドドライバーと二本のフルボトルを取り出しておく。
そして、その予感は的中した。野沢のスマッシュボトルのふたを開けて、中身の成分を自身に掛ける。姿が異形へと変わっていくのを見ながら、レオナルドは咄嗟にビルドドライバーを装備した。ベストマッチ先のイニシャルが存在していないフルボトルを振り、ベルトに装填する。
「ちっ! 二人とも、離れてろよ!」
『コオロギ! サイコロ! ロストマッチ!』
『Are you ready?』
「変身!」
手早くレバーを回し、間を置かずに叫ぶ。秒未満でドライバーから展開されたランナーがレオナルドを包み隠し、蒸気を吹かしながら創造の名に連ねる戦士を誕生させる。
『双六チチロ! サイコローグ! イエーイ!』
二つのハーフボディの色は白と黒。頭部の右目にはコオロギ、左目にはサイコロの意匠が存在する。後頭部から背中側に繋がれているドレッドヘアー型のパイプが、戦士が試作に過ぎない事をあたかも知らしめていた。
その戦士――サイコローグは、野沢を依り代に現れたプレススマッシュと対峙する。彼の後ろ姿は、京水たちに「今にもバイクに変形しそう」と思わせた。
Q.サイコローグ?
A.元ネタは仮面ライダー龍騎のミラモン。
Q.ロストマッチ!?
A.みーたんが……みーたんさえいれば……!!
Q.ハードガーディアンがEDFにいたら、ベガルタ以上の戦果を挙げそう。
A.人型の無人ミサイル車両みたいなものですから。