美空ロストスマッシュ、可愛かったです。
合宿二日目の午前。今日は夕方まで徹底的に課外授業が続く。ISの訓練と考えると嫌気が差しそうだが、その分だけ昨晩はしゃいだから良しとする。温泉上がりの卓球でテーブルテニヌをしてはならないと俺とナギさんは学習した。まず、卓球のボールの耐久力が低くて壱式波動球で壊れる。
専用機持ちはそれぞれ本国から送られてきた大量の装備の試験運用とデータ取りをしなければならないので、てんてこ舞いだ。一般生徒は打鉄やラファールを使うだけである。
ナイトローグの場合? レオナルド博士から「葛城博士が装備持って出向くから待ってろ」との連絡はあったが、当の本人はまだ来ていない。ナイトローグに宛がわれる装備ってなんだろうね。ナイトローグ自体が通常のISの規格に合っていないから、普通に見当が付かない。一応、IS用のライフルとかはロケランみたいな担ぎ方で使えなくはないが。
「それでは各班、ISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツの試験だ。迅速にやれ」
織斑先生の指示に、クラスごと綺麗に整列している一学年が一斉に返事をする。場所はISを動かすのに適したビーチだ。俺はこの時点で既にナイトローグへ変身している。
「その前に篠ノ之、こちらに来い」
次いで、何故か織斑先生に呼び出しを受ける篠ノ之さん。それを尻目に俺も移動しようとすると、隣で京水から声を掛けられる。
「ねぇ弦人ちゃん。ワタシには石倉さんから何の連絡もなかったけど、何か言ってなかった?」
「なんか専用装備はナイトローグの分で手一杯だってさ」
「あら、そうなの? ショック~。ワタシも変身できるのに……」
「それも最近の話だからな。時期が悪かったと引き下がるしかない」
くよくよする京水の頭にポンポンと優しく手を置けば、心なしか表情が少し明るくなったような気がした。あっという間に機嫌を直し、「それじゃ行ってくるね!」と言って立ち去った。トランスチーム組は俺を除いて班行動だ。早く葛城博士来ないかな。
葛城と聞いて最初に思い付くのは悪魔の科学者である例のあの人だが、そもそも性別が違っていた。名前も巧ではなく、リョウである。これはこれでとてつもなくデジャヴを感じるが、マッドというよりも無表情が逆に恐ろしいだけだから気のせいだろう。人格的に問題はない……はず。
「ちーちゃあぁぁぁぁぁん!」
その時、ウサミミヘアバンドを着けた女の人がビーチを駆け抜けていった。何やらISらしきものを使っており、周囲の目を気にせずに織斑先生へ抱き着こうとする。
だが、真正面から織斑先生に頭をアイアンクローされ、敢えなく食い止められる。走行中の自動車を正面から片足で止めた名護さんと張れる御技だった。
「痛い! 痛いよ、ちーちゃん! せっかくの再会だからハグハグしよーと思ったのに!」
「うるさいぞ。それよりも自己紹介しろ。生徒たちが困惑している。早くしないとここから叩き出す。慈悲はない」
「わ、わかったよ! もー、せっかちなんだからー。はぁ……」
「何故溜め息なんだ? そんなに自己紹介が嫌なら私も手伝おう」
「あわわ! 無理やり頭を下げさせないで!? このままだと束さん土下座しちゃうよ!?」
かくして無慈悲な織斑先生のアイアンクローから解放されたウサミミの人は、気を取り直して俺たちの方に顔を向ける。ただし、雰囲気からしてやる気は感じられず、面倒くさそうにしていた。
「はろはろー。てぇーんさい! 科学者の篠ノ之束さんだよー。終わり」
「もっと真面目にできんのか……。まぁいい、一年はこいつを無視して早く持ち場につけ。山田先生もこいつは無視して生徒たちのサポートへ。時間がもったいない」
「へ? あ、えっと……はい、わかりました!」
「ちーちゃん酷い! こいつ呼ばわりなんて!」
そんな簡潔な自己紹介に織斑先生は苦言を呈しつつ、未だにボケッとしている生徒たちにテキパキと指示を飛ばす。
そうか、あの人が篠ノ之さんのお姉さんか。妹さんとは何から何まで大違いだ。織斑先生に抗議するが、まるで聞く耳を持たれていない。一方で山田先生は何か言いたげにしつつ、おろおろしながら織斑先生の指示に従う。
「やほやほー、箒ちゃん! お久しぶりー! おっぱい大きくなったねー!」
「下世話に話し掛けないでください、姉さん。殴りますよ。早く本題に移ってください」
「わぁ、箒ちゃんも酷いよー! シクシク」
早くも気持ちを切り替えた篠ノ之束博士は次に妹さんへ話し掛けるが、納刀された日本刀を構えられてあっさり撃沈する。姉妹仲は存外、冷たいみたいだ。
「ウソ泣きは結構です」
「ばれちゃった♪ うん、じゃあ早速本題に入ろっか! カムヒア、紅椿!」
そして、どこかともなく宙にコンテナが出現し、落下する。着地と同時に開かれたコンテナの中身からは、真紅に輝くISの姿があった。エボルや憎きブラッドスタークを思い出す。
「束さんお手製第四世代IS、紅椿だよ! ささっ、箒ちゃん。フィッティングとパーソナライズを始め――」
ザバアァァァァァァン……!!
瞬間、束博士の言葉を遮るかのようにして、海から一つの大きな轟音がやって来た。これに生徒たちの視線は再び一ヶ所に集まり、目を白黒させた束博士はゆっくりと振り返る。
海上には大量の水飛沫が生まれていた。しかし、それは上空から何かが落ちてきたというよりも、水中から一気に飛び出された感じだ。次第に目線を上にしていくと、空中に身を踊らせる人型のマシーンの姿を捉える。
丸みのあるずんぐりとした四肢に、つぶらな瞳。それはクマのキグルミと見紛う代物だったが、全長が明らかに三メートル近くあった。本体サイズは現在運用されているISの素体と遜色なく、非固定浮遊ユニットなどの装備はない。
クマロボットはくるくると前転を繰り返しながら、やがて砂浜に危なげなく着地。そのまま可愛らしく体育座りを決め込むと、頭部が上方向へと開放された。その中には、白い半袖ドレスに黒いハットを被った葛城博士が搭乗していた。彼女はスーツケースを持ち出して、せっせとクマロボットから降りる。クマロボットの頭部も応じて、元に戻る。
「遅れてすみません。葛城リョウと申します。日室くんはどちらに……あっ、そこですね。失礼します」
周りの反応など、どこ吹く風。俺の姿を見つけるや否や、葛城博士は淡々と歩み寄ってくる。
「こんにちは、葛城博士。ところであれって……」
俺が先んじて挨拶しにいくと、葛城博士はどこか飄々とした調子で答える。
「後ろのはベアッガイと言います。可愛いでしょう? 襲撃などを警戒した結果、色々な方と協力して密かに水路を取らせていただきました」
「そうですか……」
もはや何も言うまい。どの世界の学者も必ずどこかおかしいのだ。この人、遺伝子学と心理学専門だけど。
「おい、誰だよ。束さんの説明タイムを邪魔したのは。誰なの君? 静かにしてくんない?」
大半の観衆が黙って見守る中、声を上げたのは束博士だった。葛城博士の登場の仕方に気が触ってか、口調にトゲがある。
しかし、言われている葛城博士は表情を微塵も変えない。束博士の顔を見て、端的に述べる。
「それは大変失礼しました。気にせずにどうぞ続けてください」
「……ふん、まぁいいや」
それから束博士は先ほどの態度が嘘のように反転させ、ニコニコと妹さん――呼称区別したいから以降は箒さん――にあのISの説明を再開する。俺たちはまるで眼中になかった。
「日室くん。私たちも用事を済ませましょう」
「は、はい!」
葛城博士のその言葉に俺は慌てて返事する。通常のISを使っている他の人たちと、ようやく同じ時間を持てた。
最初に葛城博士が取り出したのはノートパソコン、タブレット、簡易イスだ。言われるがままにトランスチームガンを預けて、ノートパソコンとケーブルを繋がられる。
「何が始まるんです?」
「ナイトローグ強化のためのアップデートです。先日鹵獲した……日室くんはネビュラスチームガンと呼んでましたね。あれの解析が済んで、トランスチームシステムに取り入れられるものができました。一分も経たずに終わるので、再変身をお願いします」
そんな訳で、アップデート後に俺はナイトローグに再変身した。着心地は以前と変わりはなく、仮面越しに映される周りの景色やセンサー、スーツのコンディションといった見慣れたものが飛び込む。煩わしいと思っていた最初の頃が懐かしい。
だが――
「すみません。これ、前との違いは……?」
「外見の変化はありません。いじったのはソフトなので。トランスチームガンに特定のフルボトルを装填してから真価が問われますが……どのみちテストは必要です」
そう言って葛城博士は、どこからともなくビルドドライバーを取り出す。俺は破壊衝動をぐっとこらえて、ひとまず様子見を決め込む。
「ビーチの一部を借りて模擬戦するのは事前に通達してあります。せっかくですから、ビルドドライバーのデータ収集もやりましょう」
事前通達? ふと辺りを見回せば、ぬいぐるみサイズのベアッガイが大量に出没していた。生徒たちがいるビーチ側に向けてビームバリケードを張る作業をしていて、その中でも黒服の個体が警備に当たっている。
「あれはベアッガイファミリーです」
「えっと、そのファミリーの意味ってマフィア的な?」
「いいえ。むしろシルバニアファミリーです。さて、ではこちらも準備を」
葛城博士は続けて、有無を言わせぬ勢いで俺に一つのフルボトルを手渡してくる。それにはエンジンを模したレリーフがあった。フタの表記にも、Eという頭文字が刻まれている。
人工タイプのエンジンフルボトル? 先日に研究所へ訪れた時は、こんなものは紹介されていなかった。いつの間にか作ったのか、それとも最初から隠していたのか。
エンジンフルボトル。その名に俺は良い印象を抱いていない。バットとエンジン、エボルドライバーが揃えば、あの泥棒猫であるマッドローグが誕生するのだから。
これを渡されたという事は、言外に使えという事。だが、気が進まない。別のと交換してもらおう。そう思って俺は、おずおずとしながらも葛城博士に頼み入れる。
「……博士、別のフルボトルでお願いできませんか?」
「ダメです。ナイトローグとの相性検査で優れた結果を残したボトルはそれだけでした。といっても作ったボトル自体の数が十にも……石倉くん、聞こえますか?」
『あー、あー、背番号9091、0108。ピッチャー、レオナルド』
「聞こえてるみたいですね」
片手間でビルドドライバーを腰に装着した葛城博士は、とことこやって来たミニベアッガイに持たせたタブレット越しにレオナルド博士と連絡を取る。彼は相変わらずだったが、特にツッコミもしなかった。
また、レオナルド博士も画面の向こうで何故かビルドドライバーを巻いていた。この光景に、ある種の既視感を覚える。
この間にもベアッガイファミリーによって戦闘場が構築されていき、生徒たちがいるところには途中でしっかりビームバリケードに遮られている。見るからにバリアタイプなので、流れ弾対策はできていると思われた。
そして、葛城博士は俺から数歩だけ距離を取り、タブレットに映るレオナルド博士と同じタイミングでフルボトルを取り出した。あれ? これって……。
《コオロギ!》
まず、レオナルド博士がコオロギフルボトルを装填。すると、それが目の前にいる葛城博士のベルトへと転送された。程なくして、レオナルド博士は糸が切れた人形のように倒れる。
《サイコロ! ロストマッチ! Are you ready?》
葛城博士が間髪入れずにサイコロフルボトルを装填すれば、素早くドライバーのレバーが回される。それから彼女はポーズを取る事なく、そっと呟いた。
「変身」
その一言に呼応して、周囲に形成されたランナーが彼女の身体に纏わっていく。ランナーは瞬時にれっきとしたパワードスーツとなり、装着を果たせば結合部より蒸気を吹き出す。
《双六チチロ! サイコローグ! イエーイ!》
現れたのは、どこからどう見てもビルドであった。サイコローグの要素と言えば、未だに見える首周りのケーブルや片眼のデザインぐらいだろう。
「「さぁ、実験を始めましょう / さぁ、お前の罪を数えろ!」」
そして、ビルドの中から葛城博士とレオナルド博士二人の声が聞こえる。息は完全に合ってなかった。
Q.それ、ガイアドライバーG2の……
A.アレックス・ウェスカーがいたのでしょう、きっと。ならば、他人の肉体に自分の意識を転送するのは、前例があるからよゆーよゆー。
Q.ナイトローグの翼って爆撃飛行ユニット扱いらしい。マッドローグも然り。
A.爆撃ってどうやるんでしょうね、 あのナリで。もしかしてライフルを空から撃つだけ……? それともクローンフライングスマッシュみたいに火炎玉とか?