ナイトローグの再評価を目指す話   作:erif tellab

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ナイトローグのインナーは屋内や日陰だと黒、太陽の下だと茶色に変わるらしい。


ナイトローグに対する世間の反応

 ナイトローグ逮捕の報は、世間で良い意味でも悪い意味でも賑わっていた。

  まず、ナイトローグの装着者が男性である事について。実質、世界で二人目の男性IS適合者の出現により、日本だけでなく世界が騒然とした。中には、ナイトローグの慈善活動は日本のマッチポンプだと批難する国もいたが、大半が日本の技術力でナイトローグを作り上げるのは不可能だと主張している。この主張の原因は、主にナイトローグの霧ワープによるものだ。アメリカやロシアすら、解明に匙を投げ掛けている。

  次にISの生みの親である篠ノ之束の仕業だと考えられたが、これは政府だけでなくテレビ番組の方でも「慈善活動や人助けをさせている意味が不明」として、瞬く間に一蹴される。

  また、とある報道番組による街の聞き取り調査では、ナイトローグに対して肯定的な意見が多く占めていた。いくつかの例を上げると、次のようになる。

  一人目、母親と手を繋いで歩いている幼い少年。

 

「ボク、ナイトローグとまた会おうって約束したんだ。握手もした。なのに逮捕されちゃって……もうナイトローグには会えないの? 処刑されちゃうの? うえぇぇぇん!」

 

  二人目、不良男子。

 

「えっと……俺、仲間と一緒にこの間オヤジ狩りしようとしてたんですけど……そこにいきなりナイトローグが現れて『オヤジ狩りはよくない。やめなさい』って言われました……。その、最初は単なるコスプレ野郎って思って殴ったんですけど……殴ったこっちが痛かったです。あれはコスプレじゃなく本物だと気づきました。不気味で怖かったです。……あ、今は別に悪い事してないっすよ! 心入れ替えました!」

 

  三人目、メガネを掛けたサラリーマン。

 

「ナイトローグ? あー、この前助けてもらったよ。メガネをうっかり池に落としてさ、代わりに拾いに行ってくれたんだ。いやー、まさかアレがISとはねー」

 

  四人目、何か怪しい人。

 

「ナイトローグの中の人が美少女じゃなかったので幻滅しました。ナイトローグのファンをやめます」

 

  五人目、もはや高校入学を待つだけの女子中学生。

 

「ええ! 自動販売機の下に小銭を落とした時にやって来たのよー。あんな格好してたけど、ものすごく親切だったわ。スーツ越しでもわかったの。心がイケメンで、イイカラダをしてて……あら? 見劣りするけど意外とイケメンなのね。キライじゃないわ!」

 

  六人目、すらりと背が伸びている元気なお爺さん。

 

「助けてくれたお礼にかりんとうをあげたら食べてくれてねぇ。今時の若い子は見向きもしないのに、あの子は美味しい美味しいって。かりんとうの良さを知ってもらえて嬉しかったよ」

 

  七人目、自転車通学の学生。

 

「えー、この前、財布を落としまして。朝の時間だったのですけど、財布を拾ってくれたナイトローグがダダダっと走って追い掛けてきました。初めは、何故か自分の財布を天に掲げてるヤベー奴だと思って自転車を全力で漕いだのですが、あっさり追い付かれました。彼が落とし物を届けに来ただけだと知ったのは、その後です」

 

  このように反応は様々であり、確認されているだけでもナイトローグの慈善活動の件数は二百を突破している。活動期間はほんの一ヶ月だ。その上、拘束されたナイトローグを守るために、数千人規模のデモ行進が国会議事堂前で発生した。

  これに先立って、公開されたナイトローグの装着者“日室弦人”の親族の名乗り上げが続出。公的機関による親族捜索に呼応する形であるものの、本人と推定されるものは事故死で処理。家族も他界しており、親族を騙ったウソの申告が多いために政府は彼の身柄を保護するとの発表を示す。だが、混乱は未だに収まらないのだった。

 

 ※

 

  拘束されてから何日経過したのだろうか。ここ最近、取り調べ室ばかりにいたから体内時計が狂っている。居眠りしたいのに一睡すら許さないとか、人間の扱いではない。あ、俺ネビュラガス注入されているんだった。そもそも人権が適用されない。

  ……いかんいかん。暗い事を考えてはダメだ。ナイトローグ再評価活動は生き甲斐でもあり、やり甲斐でもある。俺、この取り調べが終わったらカンボジアに行って、地雷の除去を手伝うんだ……。

  すると、千冬さんから次の宣告が言い渡される。

 

「日室。身寄りのないお前には二つの選択肢しか残されていない。一つは自発的にIS研究の手伝いをするか、もう一つは強制的に研究の――」

 

「はい! 快く手伝わせていただきます!」

 

「では決まりだな。IS学園入学の手続きを済ませるぞ」

 

  ごめん、カンボジア。変身道具一式を没収されているから、脱走してでも地雷除去を手伝えそうにないや。本当にごめん。己の命の危険を感じ取ってしまったんだ。

  男性IS適合者の希少性は耳にたんこぶができるほどにまで聞かされた。IS平等化や女尊男卑の社会を変えたい人々にとっては、俺はまさしく目に鱗、宝の山、最高のモルモットである。社会的に世界を破壊できるだけの危険性を秘めているので、慈悲はない。多くの偉い人に目をつけられるのだった。

  ただし、ナイトローグの再評価活動をしていた甲斐もあって、いくら身寄りのない俺でも日本政府は世間体を気にした待遇にせざるを得なかったそうだ。情けは人のためにならずがここで実証されるとは、世の中わからない事ばかりだ。

  その待遇とは、IS学園の強制入学。後々に髪の毛でのDNA鑑定で俺が日本人である事が証明されるようなので、場所が国際的な学校でも一応は日本国籍になる訳だ。

  そして、気が遠くなるような書類手続きを済ませた後、千冬さんから直々にバットフルボトルが返還された。他はない、まさかのこれだけ。返却物の不備に俺は言及する。

 

「えっと、トランスチームガンとテープ巻きにしたボトルはないんですか? どうしてこれだけ……」

 

「ナイトローグの逃走能力を分析した結果だ。逃げ出さないように爆弾付きの首輪を着ける案も出ていたが、人道的な観点からして却下された。当たり前だがな」

 

「いや、こうなったからにはもう逃げませんよ? 高校生活の休日、祝日は校内のクリーン活動に参加するつもりです」

 

「それは用務員に任せておけ。それと、ストロングスマッシュの成分とやらを閉じ込めたボトルの件だが、あらゆる意味での貴重なサンプルだ。解析が済めば返却される予定のトランスチームガンと異なり、こればかりは厳重な管理下に置かれる。構わないな?」

 

「……はい」

 

  ストロングスマッシュの扱いの是非は、現時点では素直に頷くしかなかった。いきなり暴走して人を襲った原因は未だに不明だが、解決策が浮かばないのなら封印措置でも取った方が、おそらくストロングスマッシュにとっても幸せだと思う。俺はアイツを、人殺しにさせたくない。

  一応、トランスチームガンとかの説明はできる限りおこなった。ただ、何だか事故が起きそうでとてつもなく不安だが、俺にできるのは安全を祈る事だけだ。自分の手の届く範囲に取り戻そうにも、保管場所を知らないし。

 

  そうして季節は三月下旬。入学そのものは決定事項であるので、入試は完全に形だけのものとなっていた。だからといって手を抜くつもりはなく、筆記試験は全力で取り組ませてもらった。しかし、IS関連の問題がてんでダメだったのは苦い記憶である。

  ISに搭乗する実技試験は、内容が模擬戦からバットフルボトルの運用試験に変更された。研究員曰く、持ち主本人の運用データが欲しいとの事。この口振りだと、自分たちでもフルボトルをシャカシャカ振ったのだろう。高校入試が完全に他者に介入されているが、深く考えない事にする。

  また、実技試験担当官は千冬さんだったので、次から彼女の事を織斑先生と呼ぶ。先生呼びを忘れると怒られるので注意だ。

  場所はIS学園のアリーナ。広場の周りはシールドエネルギーのバリアで常時保護され、脱出も侵入も難しい。電力さえあれば、とにかくずっとバリアを張れる仕様だ。観客席への安全にも配慮している。

 

「生身はもういい。次はISに乗り込め」

 

「はい!」

 

  織斑先生の指示の元、ISスーツを着た状態でそそくさと打鉄に乗り込む。ネビュラガスの恩恵だろうか、ナイトローグ以外のISでも普通に乗れるのだった。……浴びた覚えがないのにネビュラガスのおかげってどういう事だ?

  バットフルボトルはパワースーツ越しでも効力を発揮した。しかし、飛び出す数式の量は生身の時とあまり変わらない。それからは、時たま入ってくる研究員のオーダーも叶えながら、コウモリごっこに興じるのだった。

 

「すごい……飛び出す数式の数が平均値の三倍だ! 本人と別人だと、ここまで差がでるのか……」

 

  途中で研究員のこんな発言も飛んでくるから面白い。取り敢えず全員でフルボトルを振ったのが、言外に窺える。この人もバットフルボトル片手に、天井にぶら下がって忍者の真似事とかしたのだろうか?

 

「次だ。今度はこの鉄の塊を殴れ。ボトルを握った状態でな」

 

「わかりましたぁ!!」

 

  織斑先生に言われた通り、用意された鉄塊に渾身の右ストレートを決める。鉄塊の殴られた箇所は砕け散り、握り拳が浅く埋め込まれる。しかし、真っ向から受け止めるには踏ん張りが足りなかったようで、ボルト付き固定台もろとも鉄塊は大きく後ろに吹っ飛んでいった。

  鉄塊が宙から地面へと落ちていく様子は、まるで山道から崖へ飛び出す自動車のようだった。端から見ているだけでは、それぐらいに鉄塊の重量感は伝わってこない。実際に殴りでもしなければ、薄っぺらくにしか思えないだろう。

 

「なんて事だ! 加速していない状態の打鉄にあれほどのパンチ力はないはずなのに……!」

 

「比較データ出します。あ、数値上の威力では戦車の装甲が凹みますね。パンチで。普通なら打鉄の拳が先に破損するからありえませんが」

 

  横では研究員たちの会話が飛び交う。確かに、打鉄の右拳には外見上でもシステム上でも損傷は見受けられない。打鉄から眼前に映される立体映像では、状態は緑色を示している。

  今思えば、ナイトローグに変身している時もこんな立体映像が見えていた。画面端にはシールドエネルギーの残量値も表示されていたり、二つの相似性に後で気づく。ナイトローグにおけるシールドエネルギーの意義が気になるところだ。もしかして、霧ワープの回数制限の原因ってこれか?

 

「これにてテストは終了だ。打鉄から降り次第、直ちに更衣室へ戻れ。研究員たちとのミーティングが待っているからな」

 

「はい。ありがとうございました!」

 

  指示された事を片っ端からこなしたところで、織斑先生から試験終了の合図を出される。その後はそそくさと着替えを済ませて、バットフルボトル運用のまとめ講座を聞く羽目になった。ほとんどの内容はナイトローグ時代の氷室幻徳の活躍を見ていればわかる事だったので、語るまでもない。活躍ではなく醜態の間違いとは、一言もつっこんではならない。いいね?

  しかし、トランスチームガンとバットフルボトルのセットでISコアの扱いかぁ……。フルボトルに込められたガス成分が変身プロセスの根幹であるのは、かなり特殊すぎる例らしい。つまり、普通のISコアは固形物? まぁ、考えてもわからないからいいや。細かい事は気にしない。

 

 





Q.キン肉バスターの予定は?

A.いや、ISに乗ってても女の子にかましてもいいのか、すごく悩んでいます。ダメだよね? 対象は悪党限定だよね?


Q.この世界における霧ワープの説明を詳しく。

A.使用可能回数はトランスチームガンとセントラルチムニーで共有。独立していません。霧ワープのエネルギーは、トランスチームガンからコネクタ経由で云々です。

まぁ、何も決めておかないと普通のチートになるから仕方ないね。

トランスチームガンで霧ワープしなかった理由? 敵意がない事を徹底的に示すためです。日本ならともかく、アメリカでトランスチームガンを呑気に出してしまうと先制的防衛として撃たれる可能性が……ナイトローグの再評価活動でそれはマズイです。

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