その時、不思議な事が起こった。リモコンブロスのファンキーショットを受けた福音が水落ちしたかと思えば、青い雷を纏いながら海面から飛び出てきたのだった。おまけに頭部、胸部などに小さな光の翼を生やして。
「――まずい、第二形態移行だ!」
ボーデヴィッヒさんが叫び、福音の目線が彼女へ。次の瞬間には、彼女の眼前に福音は立っていた。有無を言わせずに、ボーデヴィッヒさんのIS本体をエネルギーの繭に包む。中の様子は見えなくとも、聞こえてくる着弾音で何をされているのかはわかった。
数秒後、解放された漆黒の機体はボロボロになり、ぐったりと落下。合わせて砲撃パッケージも消失する。
「よくもラウラを!」
激昂したデュノアさんがショットガンを構えて突撃。速攻を決められた事に動揺している俺よりも行動は早かった。
だが、放たれた散弾は光の翼で容易く防がれる。それから福音は素早く彼女の背後を取り、再びエネルギーの繭に包んだ。程なくして繭から、傷だらけのラファールが捨てられる。
俺は急いでデュノアさんを拾いに行くが、彼女は気を失っていた。一方でボーデヴィッヒさんはまだ自力で動けているが、損傷が酷い。彼女とも合流し、スチームブレードからトランスチームガンを外そうとする。
「ぐっ、エネルギーが……! 目標に変化――全員、ここは一時撤退だ!」
「その必要はない。私が倒す!」
「っ!? 待て箒!」
「怖じ気ついたか、ラウラ!」
撤退指示を出したボーデヴィッヒさんを無視し、福音に単身突撃していく箒さん。いささか蛮勇すぎる気が……。
「おい、箒ぃ! くそっ、ラウラとシャルは先に行ってくれ! 箒を連れ戻す!」
遅れて一夏が箒さんの後を追い掛けるが、そもそも白式では高速に飛び交っている紅椿と福音に付いていけない。二機のスピードに振り回され、右往左往している。
「お待ちください、一夏さん!」
「セシリア、タクシーになって! あのバカ二人を追うわよ!」
「ちょっ、鈴さん!? あぁ、もう……わかりましたわ!」
次にオルコットさんが鈴音さんを背に乗せて飛び立つ。高速戦仕様のブルー・ティアーズで追い付けなければ、かなり不味い。暴走気味の箒さんを物理的に止められる人がいなくなる。
残された俺たち三人はその場で立ち尽くし、ボーデヴィッヒさんが厳しい表情になる。
「箒……やはりこうなったか……!」
「ボーデヴィッヒさん、霧ワープ行きますよ? デュノアさんを頼みます」
「ああ、すまない日室。先に撤退させてもらう」
デュノアさんを担ぐ役を代わったボーデヴィッヒさん。程なくして俺はトランスチームガンを使い、二人を霧ワープで撤退させる。これで残るは前線組だ。なるべく全員で一斉に撤退できるタイミングが欲しいな。
無反動で方向転換し、箒さんと猛スピードで何度も激突している福音の元へ目指す。オルコットさんがレーザーライフルを射つ以外に、誰も箒さんを捕まえられていない。
すると、福音が突如として狙いをオルコットさんに変えた。箒さんの横を難なくスルーし、一夏の頭上を越え、お返しと言わんばかりのエネルギー弾を前面乱射。鈴音さんとオルコットさんは二手に別れて回避行動に移るが、福音は多段瞬時加速でブルー・ティアーズに肉薄。回し蹴りで唯一の射撃武器であるレーザーライフルを破壊し、返す刀の如く次の狙いを鈴音さんへ。横から一夏が加勢しようとするが、間に合うかは疑わしかった。
瞬間、忽然と姿を現した水色の歯車に福音は寸前で急ブレーキ。それに合わせて黒煙が真下に出現し、そこからエンジンブロスがライダーキックの姿勢で飛び出してきた。
「おうりゃあああぁぁぁぁぁ!!」
腰バーニアの勢い込みのライダーキックは福音の背中にクリーンヒットし、ものすごい勢いで百メートル以上も蹴り飛ばされる。加えて、対称的に距離を取っていたリモコンブロスがネビュラスチームライフルで淡々と福音を狙撃する。
「あんた……」
「よっ! 福音なら俺たちに任せて撤退しとけ。んじゃ!」
歯車越しに言葉を交わす鈴音さんとエンジンブロス。呆ける鈴音さんにエンジンブロスはそれだけ言い残し、福音の追撃へ向かう。そんな中、やっけになった表情の箒さんが再び福音へ突出する。
「邪魔だ!」
「うおおっ!?」
エンジンブロスの隣に並ぶや否や、ブレードを振り回して彼を押し退ける。もはや連携のれの字すら残っていない。
この間にも鈴音さんはもう一度オルコットさんの上に乗り、負けじとウイングスラスターを焚かせる一夏の横にリモコンブロスが並走。彼を一瞥した一夏は、箒さんから目を離さないようにしつつ話し掛ける。
「お前ら一体何なんだ! この前のトーナメント戦、忘れてないからな!」
「あの時はゴメン! マジでゴメン! でも今は福音倒せって無茶振りされて来てるんだ! その話は後にしてほしい!」
「……わかった。後で覚悟しとけよ」
「助かる!」
切羽詰まった声を出しているリモコンブロスの頼みに、一夏は渋々頷く。かくはともあれ、聞きたい事があれど集中するべきは福音の撃破、もしくは箒さんを引っ張って撤退の二択だ。前者は割りと相手が未知数に強化してリスキーだが、早い内に倒したいという欲が出る。
やがて福音が全方位へエネルギー弾を発射する。なかなかに近寄り難い弾幕だが箒さんは展開装甲を盾に、エンジンブロスは右腕から出した白い歯車を盾に前進。二振りの剣は日射しを反射しながら踊り、合間に強烈な白の拳と蹴りが炸裂する。
あっ、これイケるかも。次いで、オルコットさんをタクシーにした鈴音さんが衝撃砲を撃ちまくり、リモコンブロスも援護射撃の手を休めない。一夏もようやく福音との近接戦に参加する。
だが――
「はあぁぁぁぁ!!」
「いっ!?」
箒さんがエンジンブロスごと、福音を串刺しにしようとしていた。
刹那、割って入った一夏が箒さんを受け止める。それをカバーするように俺はスチームパイプとセントラルチムニーを吹かし、福音の背後へ霧ワープ。スチームブレード片手で、意にせずエンジンブロスと共に福音を苛烈に攻め立てる。
「一夏、何故邪魔をした!? 犯罪者もろとも倒す好機を――」
「何言ってんだ、箒!! そんな事するなんて、お前さっきからおかしいぞ! らしくない……全然らしくないぜ!」
「バカ! なにケンカしてんのよ!」
突然の二人の口論に、遠くから鈴音さんが叫ぶ。こっちも福音を抑え込むのに限界が来ているので、ケンカは後にして欲しいのが本音だ。
それからハッとなってブレードを落としてしまう箒さんを尻目にし、俺は福音にトランスチームガンを零距離で発射。直撃は与えたが、余程のエネルギーバカなのか仰け反るだけだ。
直後、福音の後ろでエンジンブロスがネビュラスチームガンとフルボトルを取り出す様子を目にした。その意図をなんとなく察し、ギリギリまで福音に食らい付いてから離脱。エンジンブロスの射線上から逃れるや否や――
《フルボトル! ファンキーアタック!》
銃口より紅蓮の炎が放たれ、それを纏ったエンジンブロスは不死鳥のように福音をタックル。ものの見事に轢き逃げし、全身の炎は自然消滅。代わりに、福音が発動している絶対防御に延焼していた。
「よっしゃあ!」
エンジンブロスは歓喜し、振り返った矢先にネビュラスチームガンから自動的にフルボトルが排出される。海に落ちていくボトルの中身は空になっていた。
この隙を見逃さず、一先ず箒さんを後回しにした一夏は福音に突撃。日頃の練習の賜物により、必殺技の零落白夜はエネルギー節約のために瞬間的に出せるようになっていた。限界まで踏み込み、福音が逃げられない間合いで雪片弐型を一閃する。
「当たれえぇぇぇぇぇ!!」
一夏の叫びに応じるかのように、青い光の刃が解き放たれる。本日二度目の零落白夜は、容赦なく福音の身体を切り裂いた。
加速のあまりに一夏はそのまま通り過ぎ、福音は糸の切れた人形のように崩れ落ちる。既に炎は消え去り、けれども僅かながらのシールドエネルギーをやりくりしているのか、ISの展開維持だけはしてあった。
このままでは真っ逆さまに落ちていくだけなので、俺が彼女の手を掴みに行く事に。だが、その寸前で何者かが福音をキャッチした。周囲に微かな黒煙を漂わせて。
「っ!?」
右半身に赤い歯車の装甲。紛れもなくソイツはエンジンブロスの色違い、立派なカイザーリバースだった。腰バーニアの存在はもはや言わずもがなだ。
……へ? カイザーリバース?
「赤いエンジンブロス……誰だ?」
俺が茫然としている一方で、ふとリモコンブロスがそう呟く。彼も知らないって……え? どういう事?
《デビルスチーム》
しかし、その音声が響いてきた事で俺は我に返る。気が付けばカイザーリバースは片手にスチームブレードを持ち、刀身にネビュラガスを纏わせていた。
「っ、させねぇ!!」
間髪入れず、エンジンブロスが突進。俺も咄嗟にトランスチームガンを発砲するが、光弾はカイザーリバースの全身から放たれた謎の赤い波動にぶつかって消滅。エンジンブロスも波動に揉まれ、そのまま弾かれた。
「キャアアアアアアア!!」
そして、ネビュラガスは独りでに福音へ注がれていく。肉声に近いマシンボイスの悲鳴が上がり、カイザーリバースがその場を離れると次第に変貌を遂げていった。おまけに巨大化も果たす。
やがてネビュラガスが霧散すると、その中に隠れていた化け物が俺たちの前に姿を現す。
漆黒の巨体に、特徴的な右手のペンと四角い頭。全長は軽く二十メートルはあり、どこからともなく出した四角形のブロックを足場に宙を浮かぶ。
――仮称、スクエアスマッシュハザード――
割りと甦ってくるビルド本編での活躍と、俺が見た悪夢。その権化の強化体はさっとエリアカットペンを振ると、空間断切により生み出した無数のブロックやピラーで俺たちにオールレンジ攻撃を仕掛けてきた。
「嘘だろ、オイ!? げっ!?」
「あっ、これヤバ――」
間もなくして、頭上にワープゲートを作られたブロス兄弟はその中へ強制的に吸い込まれていく。対して俺は連続霧ワープを決行し、手始めにオルコットさんたちの元に跳んではトランスチームガンをかざす。有無は言わせず、次に一夏たちの元へ向かう。
「箒、動け!!」
視界を覆う霧が晴れ、一夏が箒さんの名を呼ぶ。どういう訳か放心していた彼女は、ぼさっとその場に浮かんでいたままだった。襲い掛かってくるブロックより早く一夏に引っ張られたので事なきを得たが、すぐに新たな攻撃がやって来る。悠長にしている暇はない。
的が減った事で降り注がれる火線の量がどっと増す中、俺たち三人はようやく一ヶ所に合流した。すかさずトランスチームガンの引き金を引き、一夏と箒さんを優先的に逃がす。
それも束の間、今度は俺も霧ワープしようとしたところで、横から勢い良くブロックをぶつけられた。その衝撃で霧の範囲外に軽く吹き飛ばされ、息つく間もなくブロックの波が押し寄せる。
「コイツっ……!?」
とにかくブロック弾幕の厚みがおかしかった。全ては避けきれずにトランスチームガンは弾き飛ばされ、翼を展開したままではナイトローグの被弾面積が大きくなるだけ。スーツのダメージを教えてくれるアラートが非常にうるさい。
迅速に全身のパイプから霧を吹かす。もうトランスチームガンは回収しない。危ないから。
だが、そんな俺の企みは叶わなかった。四方をワープゲートで閉じ込められ、霧を纏ったにも関わらず景色が変わらなかった。
(ワープキャンセル!?)
俺が驚愕するのに合わせて、ワープゲートよりブロックの軍団が吹き出てくる。霧ワープを無効化された俺には、素直に翼で防御体勢を取る他になかった――
Q.最近暑いですね。
A.はい。扇風機しかないので筆が進みません。気温三十度以上もある部屋で書くのはキツすぎます。どうか気長に待っててください。
Q.スクエアハザード強すぎない?
A.福音の性能を踏襲しています。スマッシュ化ってどんな個体になるかは人それぞれっぽいので。機動力はビグ・ザムやビグ・ランデ、サイコガンダムのように死んでいますが、相当レアな特殊能力を持っているスクエアが弱い訳がない。レア故に、ハイコストだから難波重工の主力として採用されなかったのでしょう。
毒持ちのニードル? 奴はスマッシュの恥さらしである。