「零戦とラプターは言いすぎじゃね? せめてザクとガンダムにしろよ」
「ザクマシンガンしか持ってなかったらザクに微塵も勝ち目ないだろ。……その頃、旅館の方もラブ&ピースを胸に抱ける善良なブラッドスタークが生まれたり、ギガントスクエア狩りも成功したりと、色々結果オーライ。一夏のISも土壇場で強くなるのであった。羨ましいぜ」
「対してこっちは量産を意識してるのか、かなりシンプル。合体して強くなれるけど、片方が生身晒しちまうんだよな。なぁ、俺のギアエンジンと交換しない? かめはめ波の色は水色なんだよ。最近になってマトモな光球を維持できるようになったけど、白じゃモヤモヤする」
「変なところで力入れてるよな、お前……。てか、リモコンとエンジンじゃ使い勝手変わるぞ? パソコンで微調整なんて真似、できんのか?」
「あー……面倒くさいからやっぱりパスで」
ギガントスクエアの撃破及び、銀の福音の無力化に成功した日の夜。作戦終了後は旅館にいるIS学園の教員たちは後片付けに追われ、一夏たちも報告書を出さなければならないなど、山場を乗り越えてなお忙しかった。ちなみに弦人は帰投直後に脱水症状で倒れ、直ちに保健室の先生の元へ運び込まれた。
そんな中、人気の感じない静かな場所にて、束は空中投影されるディスプレイを見ながらキーボードを弄っていた。
「ふむふむ。紅椿の稼働率四十二%かぁ……。まぁ、こんなものかな?」
その結果にある程度の満足を示し、次の作業に移る。今の彼女の興味を惹いているのは、ISごとスマッシュ化を果たした先の現象についてだった。
「不思議だなー。細胞変化どころか金属の成分まで変わっちゃうなんて」
スマッシュ化に関する知識はずっと前から、先端物質学研究所のネットワークに侵入した際に得ている。その時は「ふーん」と反応するだけで記憶の片隅に追いやってしまったのだが、ISとここまでの化学反応を起こすのであれば話は別だった。
キリがいいところまでの解析と推論を済ませ、作業の手を休めるとおもむろにポケットから一つのキューブを取り出す。手のひらサイズのそれは玩具には見えず、かといって無機質さはない。人間では生で感じ取る事のできない莫大なエネルギーが、その中に胎動しているのだから。束が把握している時点でそれに気づいている者は、まだ誰もいない。
束がキューブを拾ったのはずっと昔の出来事だ。ある日、気紛れで作ったダウンジングセンサーにそれが引っ掛かったのである。場所は山の中だ。しかも、束が解析終了して丁寧に加工するまでは、当初はキューブ状ではなく隕石のような形に過ぎなかった。
また、各地にも似たような反応が出ていたので探索にも出たが、見つけたのは小石程度の破片ばかり。それらを全て綺麗にくっつけてもサイズはキューブと比べて小さい。されども、そんな小さなものが含んでいる未知のエネルギーに心が踊った束は、偶然にも安全に利用する術を確立させた。エネルギーを結晶体にする形で。
「ここにいたか。束」
「お? やぁやぁ、ちーちゃん」
「ああ」
すると、暗闇の中から千冬の姿が現れた。月の光に照らされながら二人は出会う。
ニコニコと笑っている束とは対称的に、千冬の顔つきは相応に厳しかった。それでも束は顔色一つ変えないまま、彼女が何の用で来たのかを話すまで待つ。
「お前、一体どこまで仕組んでいた?」
「んん? 何の事?」
「とぼけるな。自身の妹に第四世代の専用機を渡し、タイミング良く軍用ISが暴走してたまるか。でないと、わざわざお前が作戦室に乗り込んでくる理由がない。そこまで妹を活躍させたかったか?」
千冬に問い詰められ、最初は知らん顔を貫き通していた束もアイアンクローの飛来を察するや否や、根負けした。
「別に箒ちゃんといっくんなら問題なく勝てるように調整してたから平気平気――いぎゃあ!?」
しかし、運命は変えられなかった。頭を固く掴まれ、それ以上の申し開きが強制的にスキップされる。マッチポンプだとわかれば、千冬も執拗に責めたりはしない。ただ、腕力で語るだけである。
「ほう? 少なくとも二人の生徒が戦闘不能にされたのに“問題なく”か。その神経の図太さだけは見習いたいところだ。では、もう一つ聞こう。今回乱入してきたあの正体不明機について、何か知ってるか?」
「ううん、あの歯車についてはノータッチ! だからアイアンクローのパワー上げないで!」
いつものおちゃらけた様子がなくなり、切羽詰まった束は涙目で懇願する。それをしばらく見つめていた千冬だが、嘘は言っていないようだと判断すると拘束を解除。束はへとりと座り込んだ。
「んもー、酷いよちーちゃん。束さんだって、ISとスマッシュ化の親和性が高いなんて思いもしないもん。でも、おかげで少し謎が解けたかな?」
「謎?」
「うん」
オウム返しをした千冬に束は首を縦に振り、よっこらせと立ち上がる。スカートについた土をはたき落とし、改めて彼女と向き合う。
「実はね、ナイトローグとISコアは反応が極めて似てるんだ。あの歯車コンビもね。同じじゃないんだよ? あっ、次点は大きく離れるけどスマッシュ。いやー、一時は急に通信が死んでびっくりしたね。唐突にスマッシュが出てくるんだもん、ちーちゃんたちが留守の間にさ」
「旅館での事件は聞いている。だが、それが本当なら……」
「どこのどいつなんだろうね。束さんが心血注いだ我が子同然の可愛いISのパチモン作ってくれたの」
束にとって、トランスチームシステムやカイザーシステムをISと同列以上に並べさせる事などおこがましかった。そもそも、今も昔もISを作れるのは自分だけ。自分にしか気付けなかったはずの物を他人が気付き、それを全くの別物としたのが自身の発明を穢されたような気持ちになって純粋に認められない。
本当なら、それらの存在を看過しておく事自体が耐えられなかった。ナイトローグの存在が世間に知れた時は容赦なく潰そうと目論んでいたものの、やっている事が人助けや慈善活動の連続で気持ちが萎えた。自分が初めて無人のISを送り込んだクラス対抗戦の日、その時に現れた素体カイザーを確認した次の瞬間には追跡で躍起になっていたが、電子空間で弾かれて結局は叶わず。口惜しい事この上ない。
だが反面、自分勝手な憎悪が優っているが嬉しさもあった。束にとって親友や肉親以外は見分けもつかないどうでもいい他人だったのに、もしかすると自分以上に天才なのではという片鱗に触れて、カイザーシステムの開発者の見る目が変わった。
ISを初めて発表した時に一笑した連中とは違う、顔も知らない人。進む道は完全に別れているが、ISの根源にはしっかり接しているはず。ならばナイトローグを安易にISと決め付けた政府関係者みたいに、ろくに本質をわかっていない訳ではない。もしも会っていれば、互いに互いの技術を理解し合える同格の存在だと初めて気付けた。
それでも、仮定の話に意味はない。束がトランスチームシステムやカイザーシステムを毛嫌いするのは変わらないまま、時間だけが過ぎていく。本日の事件は本当に、彼女にとっての想定外が連続した。それによって得られたものもあるが、自分の思い通りにならなかった事が大いに不満だった。
その勢いで愚痴を吐きそうになる束だが、手に持つキューブの存在を思い出しては話を脱線させるのを我慢する。次に彼女が話したいのは、そんなくだらないものではない。
「あっ、そーだ。ちーちゃん、これ何だかわかる?」
キューブを見せつけ、皆目見当がつかない千冬は首を傾げる。そして――
「いや。だが、どうせマトモな物ではないのだろう?」
「もー、少しは悪ノリしたっていいのに。それはそうと、私にもこれが何なのかちょっとしかわかってないんだよね。元の形がこれよりずっと大きな箱っぽくて、その破片って事。地球上に存在してない物質と未知のエネルギーが含まれてる。地球に落ちてきた時、大気圏でバラバラになって燃え尽きたりでもしたのかな? それとも最初からバラバラで、宇宙空間をさまよっていたり?」
そこまで自分の推論を述べた束は、キューブを早速スカートのポケットへと仕舞った。先ほどの苛立ちを滲ませた様子はどこ吹く風。千冬も内容にピクリと眉を動かすだけで何も答えない。
「ねぇ、ちーちゃん」
くるりと背を向け、顔だけを合わせようとする束。彼女が柔らかく笑顔を浮かべている一方で、千冬は素っ気なく返す。
「そこそこにな。お前はどうなんだ、束」
「私? 私はね――」
突如、風がうなり声を上げて二人に吹いた。束の言葉は風に掻き消され、千冬が瞬きした次の瞬間には忽然と姿を消していた。
千冬は溜め息をつき、夜空を見上げる。最後に見た束の表情は天真爛漫な笑顔だった。
※
引率として来ていた保健室の先生が言うには、俺は熱中症と脱水症状がベストマッチして倒れたらしい。目が覚めれば、旅館の一室で俺は寝ていた。倒れる前の記憶はしっかり残っている。
最初に目覚めた時間は夕方頃。一夏たちが見舞いに来てくれたが、特に京水がうるさかった。
「うんうん! 息がある、足もある、脈もある! 良かったぁぁぁ~!!」
「――ハッ! スタァァァァァク!!」
「ちょっ、弦人くんストップ!?」
「落ち着け弦人! 点滴してるんだから安静にしろ!」
あと、ナギさんを見つけた時の俺も条件反射でうるさかった。
一度旅館に戻った時に見つけた人影は何の冗談かと疑ったものだ。何故かブラッドスタークがホールドルナと行動を共にしていて、視界の端とセンサーでイクサやギャレンの幻覚を目にし、路傍にはプレススマッシュやニードルスマッシュ、アイススマッシュやらの成れの果てが転がっていたり。空にはドーム状のスカイウォールがあったのも少しの間だけだった。
なんやかんやで銀の福音は倒し、搭乗者も救出できたが、不可解な点はたくさんある。仲が悪そうなRカイザーとブロス兄弟。スカイウォールを生み出す装置の出所。未だにこの目で確認できていない青いカイザー等々。この感じからして、例え俺とナイトローグがいなくてもカイザーシステムは存在していたみたいだ。すなわち、この世界における異物の影響を一切受けていない純粋な産物という可能性が……。
いや、確証がまだ足りないので推理の域を出ないな。骨折り損になるのもあれだから程々にしておこう。
そんなこんなで合宿が終わり、三日目の午前中で迎えのバスに乗り込む。ハザードレベルが高いおかげで次の日には体調もある程度は回復した。とはいえナギさんと真っ向からお話ししてやるだけの元気はなく、大人しくするのが関の山だった。なお、新しい発信器付の腕輪はまだ渡されていない。IS学園に戻ったら織斑先生が着けに来ると思うので、今だけの解放感を味わうべし。逃げ切るのはまだ難しいと思う。海外に高飛び? 鬼側にCIAとか増やすだけ。再評価活動よりも逃走がメインになりうるから却下。
さて、それでもカイザーシステムは非常に気になるので、一学期の期末テストが終われば一念発起してみようか。それまでは一人の学生として、ナイトローグの再評価だけでなく日常も謳歌させてもらう。自己犠牲の余りに自身の日常が守れなければ本末転倒。ナイトローグ失格だ。いくらナイトローグでも過労死は超越できない。命はいつだって一つだ。最初の頃? 居場所なんてあってないような孤独状態だったからいいんだよ、あれはあれで。
「織斑一夏くんっているかしら?」
「あっ、はい。俺ですけど」
一方その頃、見知らぬ金髪の女性がふと乗り込んできた。何やら一夏に用事があるようで、先頭の座席で幾つか言葉を交わしていく。
すると女性はいきなり、一夏の頬に軽くキスをした。それからさよならを一言告げると、まるでからかうかのようにしてバスを降りていく。
「浮気者め」
「本当に行く先々で幸せが一杯ですこと」
「一夏ってモテるんだねぇ」
「はっはっはっ」
直後、彼に想いを寄せている四人の美少女から、嫉妬が込められた合計四本のペットボトルが投げられる。鈴音さんは二組なのでいない。ペットボトルは全て綺麗に一夏へ命中した。
なるほど、手始めはペットボトルか……。本当にいつか背中を刺されそうだな、アイツ。
Q.つまりどういう事だってばよ?
A.ちょっと火種は残ったけど明日の火星は守られました。
Q.夏休みどうする?
A.悩んでます。だが、夏休みこそナイトローグの本領発揮でもある。さすがに前回酷い目 (ナイトローグの元にブリュンヒルデが襲来。これは初戦のローグvsエボルコブラに相当しうる) に遭ったので、反省して自重モードになりますが。しかし、ナイトローグ出現初期の対応に追われていた内閣や高官たちの胃はまた死ぬ。ナイトローグをISと決め付けてしまった手前、肝心の人は政府の管理下を離れて無許可でやりたい放題するからね。仕方ないね。国会が盛り上がって内閣倒れそう。
Q.もしもあの時、ナイトローグが捕まっていなければ
A.世間が味方してもナイトローグには頼れる強力な味方がいないので、何気に近い将来詰んでいたりする。以下は具体例。
・指名手配の上、高額な懸賞金がかけられる。これによってナイトローグを通報する人や、無謀にもナイトローグを捕まえようとする人が続出。さらに情報操作でナイトローグの根も葉もない悪評が流され、実際にナイトローグに助けられた人々と政府その他が対立。
・国会でナイトローグ取締法案が出されて却下される。
・ナイトローグ追跡に本気を出す日本警察の公安。屋台でラーメン食べたり日向ぼっこするナイトローグの安息が奪われる。
・多くの店舗でナイトローグが出禁にされる。
・ISと誤認したまま、なんとかこちら側にナイトローグを帰属させたい日本。隙を窺うアメリカや中国。
・やがてナイトローグ撃墜・捕獲命令が本格的に下ろされる。なお、完全な敵対を決定付けたくないナイトローグは反撃を最低限に。エボル並みの絶望として立ちはだかる千冬から逃げられるかどうかが分岐点。なお、海外に飛んでも同じ事が起きる模様。