「スゴいです! ナゴさんは最高です! ……あっ、いましたよ! 指名手配中の窃盗犯! 呑気にお茶してます!」
「よし、早速捕まえるぞ。私についてきなさい」
「はい! ボタン集めのために!」
「違う! ……これは、訓練も兼ねた正義執行だ……!!」
「ひっ!? し、失礼しました!」
『今週のニュースランキング第一位は、荒ぶるコスプレナイトローグ』
『先週水曜に街中で目撃されたコスプレナイトローグ。そのコスプレとは思えないスペックを発揮し、次々とトラブルや事件を解決していきました。政府によればIS反応は確認できずとの事。本物ではないと否認しています。渡辺さん、これをどう思いますか?』
『いやー、先ほどの大規模ゴミ拾いもそうですが、ナイトローグは凄まじい人気ですよね。本物は悪用されたらと考えて、個人によるこういった活動は依然として賛否両論なのですが、コスプレなら特にIS特務機関とかは動かないでしょうね。偽物なんですし、政府としては国防上の重大な過失として追及される事にもなりません』
『ええ。ナイトローグが初めて世間に知られた時は日本国内だけでなく、アメリカや中国、ロシアなどの反応も大変でしたよね。外交問題にまで発展して――』
とあるニュース番組がそんな事を言っている傍らで、俺は織斑先生と対面していた。場所は日曜のガラガラな職員室。目の前の世界最強は、そこはかとなく怒りのオーラを滲ませているようだった。職員室は俺たち以外に人はいないので、織斑先生の怒気に当てられる被害者は出ない。俺を除いて。
「……貴様が自重してくれたおかげでこの程度に済んだ。いや、それは別に構わない。南波重工の探りについて協力しようと互いに決めたのだからな。腕輪を外していった件も良しとしよう。ただし、仮病で外出となれば話は別だ。なぁ?」
「反省しています。気持ちが先走りしてしまいました」
頭を深く下げ、心を込めて謝罪の言葉を口にする。案の定、その直後に出席簿が頭に叩き落とされた。ダメージは低いが、痛いものは痛い。
「頭を上げろ。さっさと本題に移る。貴様が独自に動いたように、こちらも幾つか情報を仕込んできた」
そうして、お互いに知り得た情報の擦り合わせを行う。一人ではキツいので前から学園――主に織斑先生と協力する事にしたが、百聞は一見に如かずとも言う。なんやかんやで情報の一つや二つは伏せられそうな上、鵜呑みにする真似は避けたかったから単独行動を取らせてもらった。
まずは俺。聞き込みを重点的にやったら、興味をそそられる噂話や都市伝説を幾つか入手した。確証はないが、どれも不穏な感じがする。
夜な夜な街に現れる謎の怪人。刑務所に隣接する謎の施設。神隠し。前後数時間の記憶を失った行き倒れの人、あとその他。二つ目については、とっくに目星がついている。腕力による解決は最後の手段という事で。
次に織斑先生。やはり組織力の差か、こちらの方が情報の精度が高く感じられた。南波重工への探りは俺よりもずっと深くやれている。名簿データの取得とかほれぼれする。
彼女の口から語られる南波重工の裏事情。会長は政財界に様々な繋がりを持ち、集めた身寄りのない子どもたちに洗脳教育を施し、社会の各分野へと放っているそうだ。他にもこれはまだ未確定だが、とんでもない実験をしている話もある模様。
そして何より――
「最上魁星という名は南波重三郎の青年秘書官しか該当しなかった。壮年の男性については調査中だ」
「そうですか……」
最上魁星が検索ヒットした。これも相変わらず俺の予想斜め上を越えていたので気落ちしてしまうが、冷静になればかなりの収穫と言えよう。
「だが腑に落ちないな。なぜ最初に、南波重工がカイザーシステムの出所だと決め付けられた? 怪しさならスマートXユグドラシルコーポレーションも負けていない」
そんな疑問を発した織斑先生に、俺はついつい言葉が詰まる。勘で選んだと言えばそれまでだが、企業名から滲み出る黒さで見ればスマートXユグドラシルコーポレーションがダントツの勝利だ。対抗馬の南波重工などという名前は平凡すぎる。
そこで、前に南波重工のHPを眺めて見つけたあの存在の事を思い出す。
「一番目に付いたんです。ガーディアンっていう、わかりやすい無人兵器を作っているので」
まさかのテレビの向こう側で見慣れたアンドロイドの画像があったのである。その時の衣装は軍服や警備服ではなくレスキュー隊員や安全第一のヤツだったが、あの特徴的な逆三角形の頭部メインカメラは間違いない。ガーディアンだ。
「死の商人という噂か。そちらの裏付けはまだだが……一理あるな。人が死なない殺し合いが簡単にできるものだ。あれは」
ガーディアンに心当たりがあるのか、言わずとも織斑先生は独りでに納得する。
ガーディアンというよりは無人機に共通して言える事だが、戦場におけるそれらの有効性はすこぶる高い。少なくとも味方が完全に死なない戦術が編み出せるのだから、その価値は一定以下にまで下がる事はほとんどない。自衛隊の方でも防衛兵器として試験的に導入されているぐらいだ。
「それでもカイザーシステムをあんな風に晒す意味が不明だがな。新商品の紹介にしてはやり過ぎている」
でしょうね。普通に考えれば過去の素体カイザーやブロスの乱入は行き過ぎている。あれではむしろ敵を作るだけで、取引先が日の届かない裏社会に限定されてしまう。どこかのヤバい社長のようにARMMOゲームソフトの世界進出など、夢のまた夢だ。
しかし、南波重三郎がゴルフしながら「未来永劫に続く南波帝国を築き上げる」と宣う人物であれば、別におかしくない気がする。でも、この事は言わないでおこう。余計だから。
「日室。わかってはいるだろうが――何が出てきても絶対に一人で動くなよ?」
すると、凄んだ表情の鬼教師に強く念押しされてしまった。その凄みは俺を金縛りにさせ、肯定以外の返事は一蹴するという意志がひしひしと伝わる。
「スマートな解決法は確かに存在している。警察組織とも癒着している線が浮かんでいるが……法と秩序の下に動けばわざわざナイトローグを出す必要はないんだ。世論の力だけでどんなヤツも大抵は崩せる」
「……善処します」
俺がおずおずとそう答えれば、そっと溜め息をつかれる。軽く眉間を押さえた後、改めて俺と向き合った。
「ぜひそうしてくれ。頭と胃が痛くなるお偉方を増やさないようにな」
「あっ、そうなったらもう病院に行けとしか言いようが……」
「ほう、ナイトローグもさすがに医療行為は無理か。少し安心したよ。調査に進展があれば追って伝える。今の内に夏休みの課題でも片付けておけ」
「はい。失礼しました」
俺は席を立つ前に一礼し、その場を後にする。廊下はしんと静まっていて、数日前の休み時間の喧騒が懐かしく感じる。IS学園に残っている生徒はせいぜい勉強か、部活動に来ている子ぐらいだ。
暴力に頼らないで問題解決できるなら、俺としても願ったり叶ったりだ。ただし、相手は容赦なく力を振るってくる輩だ。その事は織斑先生もわかっているはずだが、穏便に済ますのは限りなく難しいだろう。圧倒的かつ原始的な力の前には、人間たちが築き上げてきた法や権力は塵に等しい。例えば首相官邸を飲み込むブラックホールとか。
そもそも話が通じる相手なら、周囲に多大な迷惑と甚大な被害を端からもたらそうとはしない。良識を弁える。俺? 山の遭難者を助けたり、気軽に大火事の中を突入できて逃げ遅れた人を救出したり、ゴミ拾いをしたりするナイトローグが多大な迷惑だと言われたら悲しむ。そんな、人の顔を変えたり、記憶を消したり、暗殺したり、毒殺したり、不法建築したり、贈収賄したり、ブラックホールで惑星滅ぼしたり、何千何万の命を奪ったりした宇宙人ではあるまいし。
最上魁星……目的はイマイチ測りかねるが、とにかく悪事を働くつもりなら見過ごす訳にはいかない。もしもの時は刑法無視の覚悟で愛と平和とナイトローグの礎にしてやる。地球を滅ぼすのはノーサンキューだ。
あっ、そうだ。手芸部の方でも夏休み中に何か作ってこいと言われていたんだった。素材が余っているし、クローズチャージとグリスのぬいぐるみでも作っておこう。
※
真夜中の住宅街にふらっと現れる幾つかの影。とても人間とは思えない姿をしているそれらの正体は、怪人スマッシュだ。近くにある明かりは街灯のみで、その身体はすっかり暗闇の中に溶け込んでいる。暗闇の度合いは、明らかに人が多く住む場所に似つかわしくない。さながら光の届かない深い森や海底のようだった。
原因は内一体のスマッシュにあった。それぞれの両肩から突き出している装置から、何やら怪しげな黒い霧を散布している。その霧は広範囲に渡って住宅街を覆い、ちょっとやそっとでは消える事のない不思議な闇夜をもたらしていた。普段とは違う夜に訝しむ者がいても、これに気づける者はほとんどいない。視界が悪くなる以外に害はないのだから。
住宅街をうろつくスマッシュたちは、一向にその場を離れない。目撃者には気をつけており、夜道を走る自動車が来れば上手にやり過ごす。
人間、非常識な存在を目にした時は何かしら己の耳や目を疑うもの。例えスマッシュの姿が一瞬だけ見えても、錯覚などと安易に結論づけるのが関の山だ。結果、スマッシュ目撃の都市伝説が誕生していたりする。
スマッシュたちはやがて、とある食堂屋の付近へと身を潜ませた。身近な建物の屋根の上に登っておくという昼間なら目立つ行為も、夜なら特に問題はない。さらに息を殺せば、ダメ押しに背景とも同化できる。そんなスマッシュたちの様子はまるで、十分な訓練を積んだ特殊部隊のようだった。
食堂の監視を始めた彼らはじっと動かない。休みの要らない肉体の恩恵により、何日でもぶっ通しで監視する事が可能だ。もちろん、戦闘面においても実質メンテナンスフリーでもあるので、デビルスチームで手軽に強力な生物兵器として投入できる点は正当に評価されよう。
気配を絶ち、彼らは与えられた役割をひたすら遵守する。そんな時だった。一体のスマッシュが何者かに背後から襲われ、一撃で後頭部を殴り抜かれたのは。
首は本体から離れず、そのままアスファルトの中に顔面を深く埋めて戦闘不能になる。仲間が静かにやられた事に気づいた残りのスマッシュ二体は、咄嗟にそちらへと振り向く。
「「……ッ!?」」
二体が共通して視界に収めたのは、リモコンブロスただ一人。闇夜に沈んだ戦士の特徴的な歯車の色は、近くに光がないためにダークグリーンに見えている。
一体が彼へ、もう片方が食堂へ赴こうとするよりも早く、リモコンブロスは駆けた。それぞれ一発の拳を与えるだけで容易く鎮圧せしめ、エンプティフルボトルを取り出す。
「――ううっ!?」
瞬間、彼の全身に電流が走る。電流にとうとう耐えられなくなった彼はがくりと膝を着き、一方で自分に近づいてくる足音を耳にする。そちらへ顔を動かすのと、変身が強制的に解けるのは同時だった。
リモコンブロスの変身者は、赤みがかった長い茶髪の少年。頭にバンダナを巻き、荒くなった息を整えながら暗闇の中からやって来る者を鋭く睨み付ける。
現れたのは、悠長に歩くLカイザーだった。右手には遠隔操作式のスイッチがある。
「ダメじゃないか、スマッシュを勝手に倒しては。いいか? 私はいつでも君を見ている。裏回しが面倒なのもあるが、君を監禁・拘束しないでいるのは温情なのだよ。本当なら体内に消滅チップを埋め込むのを、ネビュラスチームガン本体に自壊装置を備えるだけに留めているのが証拠だ。君が言う事を大人しく聞いていれば、我々は君の家族に危害など与えはしない」
「っ、どの口が……!」
白々しさが滲み出ているLカイザーの言葉に少年は噛みつく。電流のダメージは抜けておらず、額には冷や汗が流れている。
「元気はあるようだな。ならいい。次の召集があるまで、日常でも謳歌しておけ。……我々のレッドラインを越えない程度にな」
そうしてLカイザーは自分のネビュラスチームガンを構え、噴射させた霧の中に姿を消す。一人残された少年は歯軋りしながら、思い切り地面を叩いた。
「……弾?」
ふと名前を呼ばれた少年は、深く潜っていた記憶の底から意識を現実に引き戻される。今は昼間だった。
五反田弾は親友の一夏と一緒に遊びに来ていた。待ち合わせ場所は最寄りのゲームセンターの前。せっかくの夏休みであるのと互いの都合が良かったため、こうして集まっていた。
どうやらぼぉっとしていたらしい。そう思った弾は屋内のベンチから立ち上がり、隣にいる一夏へと顔を向ける。
「へ? あぁ、悪い。ぼぉっとしてた」
「何だよそれ。んじゃ早速やろうぜ」
「ああ」
飄々と答えた弾に一夏は軽く笑う。それから弾は何でもない様子を装い、気さくに首を縦に降った。
まずは格闘対戦ゲームから始まり、ガンシューティング、レーシング、リズムゲームと順々に回っていく。やはり一人でやるゲームよりも盛り上がりは格別で、普段ならすぐに飽きてしまうようなものでも満足に楽しめる。
特に音撃の達人というゲームでは、難易度最高の譜面を弾が選択し、早々に二人のスコア差が広がっていった。コンボが繋げられない一夏の表情は苦しく、反して弾は今のところミスはなかった。二人のバチ捌きに、明確な違いが出ている。
『空洞虚無ゥ!!』
「うおぉ!? 何だこれムッズ! 弾、お前何選んでくれたんだ!」
「うるせぇ! 勝てればいいんだよ、勝てれば!」
「そっちはフルコンボかよ!? 」
『それは君が……○○だからさぁー!!』
この楽しい時間は弾にとって、枯れそうになる心を麗してくれるものだった。うっかり手放してしまいそうな日常を辛うじて繋ぎ止められる。そんな気がした。
弾がリモコンブロスに変身する羽目になったきっかけは、ある日怪しい男たちの謎の取引現場を偶然見てしまった事である。始めは好奇心が優っていたものの徐々に恐ろしさが芽生え、すぐに逃げ出そうとした。しかし、その時背後から近づくもう一人の人間の存在に気づくのが遅れ、なんやかんやで今に至る。
弾の不運であったのは、希少なスマッシュ化耐性を持っていた事だ。おかげでカイザーシステムを生み出した組織には目をつけられ、仮初めと化した日常の対価に数々の脅迫を受けている。家族に危険が及んでしまうのなら、ぼちぼち警察に相談する事も叶わない。また、警察が素直に自分の話を信じてくれるかすら疑わしかった。
無論、これより以前にも反抗は試みている。しかし、相手がこちらの変身を強制解除させる術を持っているので当然の如く失敗に終わった。生身ではいくらハザードレベルが高くても、弱いスマッシュやガーディアンを倒すのが限度だ。あの憎きLカイザーには勝てない。機械知識に乏しければネビュラスチームガンを弄る事もできない。打つ手無しだった。
フルコンボを目指していく片手間、一度画面から視線を外す。横で太鼓を打つのに悪戦苦闘している親友を見て、僅かに打ち明けて助けを求めようかという思いが涌き出る。だが、それは胸の内に押し込んだ。
あまりにも単純で幼稚。相手は世界でも貴重な男性IS適合者だ。元々身内にIS世界大会モンド・グロッソの優勝者の姉がいる事が拍車を掛けて、すっかり存在が遠くなってしまった。電話一つにしても政府のIS特務機関などが傍聴している可能性も拭えず、残されている手段としては手紙などのアナログ式。しかし、送り方に気を付けなければ検閲されるだけで終わる。今もこうして、怪しい黒服の連中がどこかで自分たちを監視しているかもしれない。
何か困った時は誰かに頼るべきなのは、弾も重々に承知している。一人で背負い込む必要はないと。
それでも、自分の周りに複雑に絡みついている状況が決意の程を鈍らせる。家族を危険に晒せない。余計な心配は掛けさせたくない。どう考えても両立が限りなく不可能で片方たりとも捨てられない願いが、弾の心を縛っていく。誰にも言いようがない悩みだ。
結局、前にも同じ事を考えては弾き出した結論へと辿り着いてしまった。どうにかして自力で解決しなければ。でなければ――
『フルボッコだどん!』
「あーくそっ、やっぱ無理だ……」
『フルコンボだどん!』
「やったぜ」
「うわぁ……お前、いつの間にそんなに上手くなったんだ?」
「いや、こんなもんだろ」
だからこそ、異変を悟らせないように演じる。いつもと変わらない姿を見せる。本当の気持ちが出てしまっている顔に仮面を付け、全力でにへら笑いした。
「よし、じゃあ次エアホッケーな」
「あっ、自分が絶対勝てるヤツ選んできたな!?」
この後、一夏が提案してきたエアホッケーの勝負で弾は惨敗するのであった。その瞬間、自分と違って比較的自由に動けるナイトローグを思い出し、羨ましく思った。
Q.何気に瞬殺されたオリジナルスマッシュ。しかも名無し。
A.本当にすまないと思っている。だが私は謝らない。ベースはミラージュ。
スマッシュの戦闘力って個体差激しいからなぁ……。一個分隊あればプレススマッシュの一体や二体は圧倒できる感じ。ただ、キャッスルが通常スマッシュとして出たら薙ぎ払いビーム砲でワンパンされる。フライングスマッシュはヘリの天敵。
つまりスマッシュ一体で最低でも武装化した兵士十二人分……?
Q.その後のナゴさん
A.犯人が人質取ってきたけど、不意打ちに例のボタン攻撃で形勢逆転。無事捕まえました。