ナイトローグの再評価を目指す話   作:erif tellab

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「前回までのナイトローグ。やっぱり織斑先生に怒られる弦人。それでも南波重工の悪事が徐々に明かされようとしていく中、その頃の一夏は親友の五反田弾とゲームセンターへ遊びに行っていた。彼の抱える闇に気づかず、一見して変わらない日常を謳歌して……」

「ゲームセンター……馴染みありませんわ。一体どのような場所ですの? 箒さん」

「あ、いや、私もろくに行った事はなくてだな。あくまで主観だが、ただ喧しいだけだった。それなら剣道をしていた方がマシと言うぐらいに」

「そうですの……やはり、わたくしのイメージに沿いませんわね。ならビリヤードか……」

(よし。これでセシリアが一夏をゲームセンターへ連れていく事はなくなるだろう。プリクラだけは絶対に阻止せねば。加えて夏休みはセシリアたちも帰国しなければならない日がある。この時期が勝負どころか……!!)

なお、その絶好の機会だったお盆の夏祭り




ブラッドスタークの夏休み

 ここは森林が大きく生い茂る国道の一つ。歩道はあまり使われるものではなく、常に無数の自動車が走り抜けていく。また、アスファルトの固め具合が粗い箇所もあり、地味に足場としては悪かったりする。

 そこで、透明なプラ袋とゴミハサミを持ったブラッドスタークが、ポイ捨てされている空き缶やタバコの吸殻などを回収していた。しっかりゴミの分別もして。

 

「よいしょ……よいしょ……」

 

 発せられたのは可愛らしい女の子の声。これは別のブラッドスタークを知っている人々からすれば、第一に似合わないと断言するだろう。そして、それが一切ボイスチェンジャーを通していない素の声だと知れば、なにわの天才物理学者や元格闘家、農家、政府関係者、火星人などは絶句する事間違いない。

 変身者はご存知の通り、鏡ナギその人だ。ナイトローグに習ってみた彼女は夏休みが始まるや否や、予定が空いていれば行動を早速起こした。その第一歩がゴミ拾いである。

 

 ナギは、ナイトローグ再評価活動の発端をよく知らない。しかし、ひたむきにボランティアや人助け、世のために動いては自分も相手も笑顔になっていく姿に心打たれるものを感じたのは確かだ。

 その裏側で弦人が見返りを求めているとしても、それはナイトローグの再評価――すなわち地位向上。承認欲求が大きいと言えばそれまでだが、厳密には弦人は自分自身ではなくナイトローグそのものを世間に認められてほしいと思っている。

 

 とどのつまり、ナイトローグという“他人のため”が行動原理の第一となっていた。ある意味、理想的なヒーローに近い。自分自身がナイトローグになるなどと言っているのは、そうする事で実際に誉められるのはナイトローグではなく中の人問題を解決するという図り方をしているから。わからない人にはとことんわからない論理的思考である。

 ナギがこうしているのは、少しでもそんな彼を理解するためだ。同じ事をすれば自ずとわかるかもしれないという希望的観測を以て臨んでいる。

 

 ブラッドスタークに変身を果たして以来、弦人とは妙に距離が離れてしまった。自分から逃げていく節があり、交わす口数も当然減る。この前に稼働データ収集のためにやった模擬戦では、どういう訳か呼び捨てかつタメ口で話し掛けられた。ちなみに、呼び名は本名ではなくスタークの一点張りである。

 出来る事なら本名で。そう思って彼に頼んでみるも、こちらの言葉はことごとくスルー。模擬戦も彼が持っているスチームブレードの内一本を渡されるものの、結果は敗北。試合中は一言も話さず、まさしく冷徹。手加減はなかった。

 その時に見たナイトローグの後ろ姿を見て、ナギは哀しみと虚無感を感じ取った。理由はわからなかった。しかし、それと同時にいつの間にか自分と彼の間に溝が出来ているのだと悟った。隣に並び立ちたい思いと、それを受け入れられない複雑な思い。互いの気持ちが擦れ違っている。未だに弦人から厳しい言葉はもらっていないが、仮にきつく言われてもナギは食い下がる気でいる。妥協なんて、難しかった。

 

 閑話休題。ブラッドスタークに限らずトランスチームシステムその他は宇宙空間での活動能力も備わっているので、コスプレナイトローグのように酷暑で悩まされる事なく快適に昼間からゴミ拾いができている。しかし、ゴミを拾う度に一々中腰にならなければいけない以上、足腰の疲労はどうしても溜まる。馴れない事をやってみせるナギは三十分過ぎたところで、一休みのついでに大きく背伸びした。

 

「う~ん……大変だなぁ……」

 

 そして、ナイトローグが過去に成し遂げた数々の業績の苦労を僅かに思い知った。少なくともゴミ拾いの他に多くの事をやっている上に、普通に考えて簡単に継続できるものではない。ついついナイトローグに感服してしまう。

 

「何してるの?」

 

 その時、後ろからスタークに声を掛ける人物が現れた。彼女が振り返ってみると、一時停止した車の運転席から顔を出している男がいる。

 善行を積んでいるとは言え、端から見ればナイトローグの親戚みたいなヤツに話し掛けるのはなんという勇気か。そう思ったスタークは戸惑いながらも、どこか冷めているこの男に言葉を返す。

 

「えっと、ゴミ拾いです。ほら」

 

「あっそう」

 

 次の瞬間、スタークに向かって中身の入ったビニール袋が放り投げられた。突然の事にスタークは思わずそれをキャッチし、実はゴミを押し付けられたのだと把握した頃には車は走り去っていた。

 

「……えぇェェェェェ!?」

 

 自身がゴミ箱扱いされた事に叫んでしまうスターク。 信じられないものを見る目で車の後ろ姿を眺めていると、いつの間にか近くを通っていた子どもたちが大声を出す。

 

「あーいけないんだー! ゴミポイ捨てしたー!」

 

「悪い大人だー! バチ当たりー!」

 

「悪い人だよ! やっちゃえナイトローグ! ……ナイトローグ?」

 

「わぁー! 赤いナイトローグ!」

 

 幼げながらも正しく倫理と道徳を覚えている子どもたちの言葉に、スタークはうっかり面食らう。その数秒後には情報の整理がつき、子どもたちに諭されるかのようにして気持ちを奮わせた。

 

「ううん、私の名前はブラッドスタークだよ。ブラッドスターク。んじゃこれからあの人追い掛けるから、このおっきなゴミ袋とハサミいじらないでね? ブラッドスタークとの約束だよ」

 

「「「「はーい!」」」」

 

 朗らかに自己紹介と釘打ちを済ませるスタークに、子どもたちは元気よく返事をした。それからは自分の使っていたゴミ袋とゴミハサミを歩道の奥側に置き、男がポイ捨てした中身入りビニール袋を抱えて綺麗にスタンディングスタートを決める。

 

「すみませーん!! 待ってくださーい!!」

 

 陸上部所属は伊達ではなく、スターク本来のスペックも相まって時速四十キロ近く出している車にあっさり追い縋る。サイドミラーを介してスタークと目が合った男は、瞬く間に驚愕の表情に包まれた。たまたま男の後ろを走る車の運転手も、脇目でスタークの姿を見つけるや否や絶句した。

 されども車は止まらない。むしろ驚きのあまりに男はアクセルを思い切り踏み、法定速度を超えようとしていた。

 

 これは不味い。こちらの呼び掛けを無視した男を前に、スタークは追跡の方法が適切ではないと判断。大きな事故に繋がってしまうのを避けるため、一旦歩道側に立ち寄って目標の車が遠くなるまで見送る。ゴーグル越しで補正された映像により、遠目からでも車は徐々にスピードを抑えていくのがわかった。

 そしてトランスチームガンを取り出そうとして――やめた。これでは相手を不用意に威嚇してしまう。あのナイトローグでさえ再評価活動中に人前で武器を曝す事はほとんどしなかった。なので、頭部の煙突ユニットからワープ用の霧を吹かした。霧は瞬く間にスタークの身体を飲み込み、気づけば彼女は男の車の助手席に座っていた。

 

 また、運が良い事に男は赤信号の前で行儀良く一時停止させていた。突如として隣に現れた赤い戦士に目を白黒させるが、おかげで暴走運転へ発展する事はない。ただひたすら、彼にとって得体の知れないスタークに戦慄するばかりだ。

 

「ダメですよ、自分で出したゴミはちゃんと持ち帰らなきゃ。誰かに押し付けるのももっとダメです。ほら」

 

「……あ……あ……す、すみませんでした……」

 

 かくしてスタークは自分にポイ捨てされたゴミを返却し、再び霧ワープで車内から立ち去る。そんな彼女を待っていたのは、律儀にゴミ袋とゴミバサミを預かっていた子どもたちだった。

 

「わっ! ブラッドスターク!」

 

「あれ? 皆待っててくれたんだ? ありがとうね、預かってくれてて。もう用事は終わらせたから」

 

「ホントに!? スゴいや! 何かワープもしてきたし!」

 

「ねぇねぇもう一回見せてー!」

 

 無邪気に興奮してはスタークに群がる子どもたち。その視線はキラキラとしており、その断り辛さにスタークはたちまち困惑してしまう。

 それでも意を決して、 口を開く。

 

「ごめんね。私これからこの辺りのゴミを無くさないといけないんだ。忙しいの」

 

「えぇ~」

 

「ぶーぶー!」

 

 案の定、駄々をこねられてしまう。しかし、スタークは子どもたちに目線を合わせて根気良く説得を続ける。

 

「ほら、ゴミ袋の中身見て? いっぱいゴミがあるでしょ? これ全部、近くでポイ捨てされてたものなんだよ。このまま放置してたら、悪い大人たちが皆ポイ捨てしていくの。皆がポイ捨てするんだから、自分だってしてもいいって。それって良くないよね? 悪い事だよね?」

 

 返してもらったゴミ袋の中身を見せびらかし、わかりやすく伝えるように努める。子どもたちもそれを見て、自然と黙り込んで彼女の話を真摯に聞き始めた。

 

「でも、綺麗にしておけばポイ捨てが続けられる事はなくなる。ここでポイ捨てしちゃダメだって皆に伝えられるの。わかるかな? 私がこうする事で、悪い事がなくせるんだよ」

 

 周りにはわからないが、仮面の下でニッコリと微笑むスターク。すると、理解を得た子どもたちは大きく頷いた。その中の一人が勢い良く手伝いを申し出る。

 

「わかった! じゃあ僕も手伝う!」

 

「ありがとう。でも気持ちだけ受け取っておくね? こんなに暑い日に手伝わせるのは子どもに大変だから。今日の気温三十四℃だってさ」

 

「えっ、でも……」

 

「大丈夫。私、暑いのへっちゃらだし。君たちが応援してくれたら私も元気が出る。この辺りのゴミなんてすぐに片付けられるんだから」

 

 やんわりと断りを入れながら諭してくるスタークに子どもは口をつぐむ。言葉とは裏腹に、子どもたちの身体には汗がびっしょりだ。どんなに繕っても身体は正直。定期的に水分補給が必要である。

 数秒後、遂に根負けした少年はこの善良な赤蛇に頭を垂らしながらも、次には朗らかな様子で応えた。

 

「……うん。それじゃあ、ブラッドスタークを応援する」

 

 これにスタークは満足げに頷き、その場で百八十度回る。子どもたちに背を向け、その期待と応援に全力で心から応えようと張りきりだす。

 

「よーし! 本気出すぞぉー!」

 

 スタークが両腕を上に伸ばすのも束の間、胸部アーマーのクレストから緑色のエネルギー体であるコブラが何匹も召喚された。サイズは一メートルほどで、スイスイ這いずり回りながら地面に捨てられているゴミを次々と喰らっていく。スターク本人が動くよりも作業効率はダントツに跳ね上がっていた。

 

「「「「すっごーい!!」」」」

 

 一見して魔法としか思えない現象にあっさり魅力された子どもたちは歓喜の声を上げる。満更でもないスタークはコブラたちから回収したゴミを袋へまとめると、再び表へ解き放った。

 

 なるほど、悪い気はしない。誰かのために何かをするのが、こんなにも素晴らしく感じる時が来るなんて。少しだけナイトローグの気持ちがわかった気がする。

 そんなナイトローグが今まで頑張ってきたおかげで、少しずつだが世の中は良い方向に変わっている。誰かに頼りきるのではなく、自分たちができる事から何かを始めていく。ナイトローグが活動を自重していなければ、先日にテレビで騒がれた件の大規模地域清掃は発生しなかっただろう。たった一人のナイトローグが皆の意識を変えた。

 

 そうして、本気を出したスタークによる辺り一帯のゴミ拾いは完了する。集めたゴミは誰もいない開けた場所にて、トランスチームガンのスチームブレイクで爆発四散・跡形もなく消滅させるという方法で処理した。缶類やペットボトルなどはリサイクルに回して。奇しくも、かつてナイトローグが取っていた方法と同じである。

 

 

 




Q.ブラッドスターク、お前もか


A.宣誓! ブラッドスタークはビルド本編で散々やらかした悪行の精算や悪名返上のため、心清らかになって社会貢献する事を誓います!

へ? ならエボルト本人にやらせろって? アイツには無理だ。王蛇が綺麗な正義の味方になったり、ゴルドドライブが家族や親友を大切にする非の打ちようがない立派なお父さんになるぐらいに。


Q.とある新聞の見出し『ナイトローグの色違い出没!?』

A.政府はIS認定しているブラッドスタークを無断使用された事を隠蔽。法による威嚇が通用しない相手 (大体がナイトローグ) への対抗策として、織斑先生が出動。その裏側でナイトローグは、アイアンクローされるブラッドスタークを嘲笑した。されども無性に虚無感に襲われる。


Q.エボルトならオーバー・ザ・エボリューション

A.以下、ゴミをスタークに投げ捨てた人の話

「実は、以前にもナイトローグにゴミを押し付けた事があるんです。あの時はまだ有名じゃなかったし、ゴミ拾いしてるレイヤーさんお疲れ様ーって感じに嫌がらせも兼ねて……そしたら、泣きを見ました。

んで数ヶ月経って、思い返してみれば俺なんにも学習してなかったですね。ナイトローグが捕まったって聞いたから大丈夫という思いもありました。まさか赤色もコスプレじゃなくて本物だったなんて……。俺が車を乗り捨てた後も追いかけてきたナイトローグと同じぐらいに怖かったです。

あと、この事件の後にナイトローグとふと出会いました。『エボルトにゴミ投げてなくて良かったね』って。その瞬間、二人以外にもエボルトっていう奴がいるんだと理解した俺は清く正しく生きる事を誓いました」

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