「やったか?」
「勝った! 第三部完!」
「へっへっへ、施設もろとも吹き飛んだんだ。無事では済まないだろう」
「次回、Lカイザーの最期」
「ダイナマン! ダイナマン! ダイナマン!」
「誰なの!? あからさまにフラグ立ててる子は! そんな子はオシオキしなくっちゃ! お尻ペンペンの刑よ! エイッ、エイッ、エーイ!」
《Luna》
夜中に爆発四散した謎の施設の件は、翌日にニュースや新聞で取り上げられた。原因究明のために警察の捜査が入っているが、残されているのは瓦礫の山。あの怪しい研究ルームと地下室を発掘するなんて、なかなか難しいだろう。俺は警察に期待しない事にした。いや、超常犯罪対策課でもあれば望みはある……のか?
もしもLカイザーがあのまま爆発に巻き込まれて死んでいれば安心だが、それは絶対にありえない気がするのが実情だ。白いパンドラボックス擬きを持っていたくらいだし、俺と同じように霧ワープもできるはず。
それに加えて、俺たちがあの潜入で得た収穫は実験データと動画、画像ぐらいだ。武装化したガーディアンをあれだけ用意していた時点で南波の疑惑は深まるが、「それは盗まれたものなんです!」とでも言い訳できよう。警察の腰を上げるほどの確証には至らない。単純に潰すだけなら腕力で本社に乗り込めばいいが……相手が黒だと言える証拠を示さなければ世間体が悪すぎる。下手をすれば、ナイトローグの評価が急落してしまう。
よって、とにかく詳しい罪状は置いておき、社会的に南波重工の息の根を確実に止めるために証拠をまだまだ掴んでいく必要がある。それで黒幕が違っていたら、その時はその時。クライシス帝国のせいにしておこう。
「うーん、ついでだから南波重工の数々の不正の証拠も掴みましょっか? 完全に息の根断つスタイルね。あっ、あの実験に用いたとされるガスとかの行方はこっちで探っておくから、キミはゆっくり夏休みを過ごしなさいな。それじゃ、バイバーイ♪」
以上が、IS学園に帰った後の会長からのお言葉。一緒に行動してみれば、その頼もしさは当初とは抜群に違って感じられる。
しかし、そうは問屋が卸さない。パンドラボックス擬きを見てしまった以上は、個人的にもナイトローグとしても捨て置く訳には行かなかった。あれが本物のレプリカのようなものだとしても、かなり脅威であるのは間違いない。人の手で災厄の箱を作るという事実はあってはならないと思う。はてさて、どうしてくれようか。
製造技術があるとしても、その価値は一目瞭然なので流出の可能性はあまり考えなくていいだろう。つまり、最上がそこのところをしっかりしていれば、奴を倒すだけで大体が丸く収まる。
何だ、簡単な話じゃないか。問題は、いつも通り誰にも打ち明けにくいし信じられにくい情報である点だが、織斑先生も慣れてくれたっぽいから取り敢えずは耳を傾けてくれるかもしれない。それでも話すなら、白いパンドラボックス擬きを手に入れるなりしてからの方がベターだが。
……あー、ここでじっとしていてもどうにもならないな。果報は寝て待てと言うが、訓練ばかりするのも違う。今からでも無線機傍受やハッキングのスキルでも培っておくべきか? いや、器用貧乏になってもダメだ。やはり足で稼ぐ方向で、南波重工に関わる施設を片っ端から――
「日室」
「はい」
廊下の窓から誰もいない校庭を眺めながら考え事をしていると、ふとやって来た織斑先生に話し掛けられてしまった。条件反射で返事をし、回れ右をしてきっちり向き合う。
「楯無が生徒会の仕事を残して出掛けていった。どうせだから貴様も、仕事処理している他の役員の手伝いに行ってこい」
「え? 残してって……え?」
「いいか? 確かに私は言ったからな? 返事はイエス以外に受け付けん。学園から勝手に抜け出すなよ。ではな」
そうして織斑先生は立ち去っていった。突拍子もない事に戸惑う俺だったが、次第に釘を刺されたのだと察する。
確かに昨日の今日だ。これでIS学園をまた飛び出すものなら、織斑先生が怒りの刃を俺に叩き付けかねない。それに、そう言われてしまえば生徒会の件もスルーできなくなる。これは手伝いに行くしかないだろう、ナイトローグとして。てか会長……。
そんなこんなで生徒会室。事前に織斑先生が人手を呼んでくると伝えていたようで、話はすんなりと行った。入室の際に見た、高く積み重ねられている書類の山が少しエグかった。
「ヒムロン、いらっしゃ~い」
また、そこにのほほんさんがいる事に驚きを隠せなかった。聞けば、三年生の姉である布仏虚先輩と一緒に生徒会に所属しているそうだ。現在の役員数は会長含めて三人だけと、人手が欠けているのは明らかだった。基本は七、八人いるものだろうに。
「今まで三人だけで生徒会やってきたんですね。大丈夫なんですか?」
「ええ。生徒会と言っても行事とか絡まなければ、それほど忙しくないわ。それが例え、会長が故意でサボる時があってもね。でも、全校生徒の声を聞かないといけないから……」
「見てみてヒムロン~。これの三分の一が『オリムーを部活に入れろ』っていう嘆願書だって~」
その虚先輩の後ろで、デスクでのんびりとしているのほほんさんが書類の山を指し示す。虚先輩の雰囲気が仕事のできる人すぎて、この姉妹の正反対さが印象深くなる。
それから虚先輩はのほほんさんを見やり、少しこめかみの部分を押さえて俺に告げる。
「週によってはどっさり来る事もあるの。これは先月のまとめた分ね。優先順位の高いものは終わらせてあるから、残りは後回しの分だけよ。アンケートもあるから、あなたには集計お願いできる?」
「はぁ……わかりました」
俺はその嘆願書の内容とやらに呆れ、うっかり生返事になってしまう。入部の勧誘で生徒会頼りって……そう言えば、以前に一夏とこんな事を話していたな。
『なぁ弦人。お前、何かの部活に入った?』
『手芸部。そっちは?』
『いやさ、初めは剣道にしようかと思ってたんだけどさ。よくよく考えたら周り女子しかいない訳だろ? それって何か気まずくて、精神的に辛くなる気しかしないんだ。時々、箒たちもそうなんだけど擦れ違う女子たちの視線が変て言うか、なんて言うか……。てか、お前はよくそんな女子の群れの中に飛び込めたな。しかも手芸部』
『ああ、それならナイトローグの世界に入り込めば何の問題もなくなるよ。ナイトローグのぽんぽん作ったり、ナイトローグのブローチ作ったり、ナイトローグのつまみ布作ったりしてると、そんなの気にならん』
『ナイトローグばっかじゃねぇか』
『いや、他にも山のように積み重なったスパークリングの頂上に立つナイトローグも――』
『それただのガレージキット』
……さて、今はとにかく手を動かそう。数瞬『ビルドのくせになまいきだ。』の構想が浮かんだが忘れるんだ。
「あっ、そうだ。ヒムロンも食べる?」
「俺はこれ終わった後にいただくから、のほほんさんは作業ペース早めてくれ」
あと、マイペースを極めたかのように彼女の作業速度が遅かった。
※
白い箱を持ったLカイザーは、誰もいない地下の通路を歩いていく。そこで、どこからともなくRカイザーの姿が現れた。互いに横を通り抜けようとしたところで、Lカイザーがふと喋る。
「施設の爆破は事後承諾。誰にも言わないなんて、なかなかファンキーじゃないか」
それを受けて、赤い方はピタリと止まった。間を置かずに一言申し立てる。
「あそこは所詮、相手を誘き寄せるための餌場だ。本来ならそこまでせずとも、ガーディアンでの排除は容易かった」
一瞬、Lカイザーの眼光が揺らぐ。しかし、咄嗟に反応しようとする己を制止し、返事の調子は冷静であるように努めた。
「……まぁ、いいでしょう。データ採集の機会だと思えばいくらでも」
そうして自身を納得させて、昨日のもはや即時起爆と変わらない自爆装置発動の件は水に流す。これから成す事のためには、いついかなる時でも協力が重要だ。スタンドプレーでできる事など、たかが知れている。
特に今回は、いくらカイザーシステムであろうとも油断大敵というのが骨身に染みた。カイザーの力はまだ絶対的ではなく、敵であったナイトローグとミステリアス・レイディに戦術・戦略の幅を残してしまっている。文字通りの一蹴には程遠く、ロシアの国家代表を相手に善戦した結果に彼はあまり満足していない。結果に関して、かなりの貪欲さである。
かくして話が止み、二人が再び歩き出す直前、今度はRカイザーが何かを思い出すようにして口を開いた。
「例の計画は予定通り開始する」
「そうですか。各国の専用機が一極集中されていない今がチャンスですからね。この機はやはり見逃せない。では――」
淡々と呟く前者に対して、後者は少し興奮気味に言葉を返す。それから溜めを入れると、Rカイザーも察して心臓の位置に拳を構えた。
「「全ては南波重工のために」」
声が廊下を反響し、二人はその場を立ち去る。語った言葉は短く、逆にそれが二人の意志の強さを示していた。迷いはなく、決して中途半端に成し遂げようとはしないその覚悟。既に、対話で止められる段階が過ぎ去っていた。
八月上旬。世界に星雲の煙が放たれる。
Q.muscle brain?
A.意訳すると、筋肉バカ
Q.星雲?
A.ぜひ、英訳してみてください。