「セシリアお嬢様。“さらっと”……何ですか?」
「チェ、チェルシー? 急に出てきて一体なんの……あっ、えっとあのその……ダジャレではありませんわ!! これは決して!! 言われるまで気付かなかったのだからセーフです!」
「正直すぎなのもいかがなものかと。それよりもお嬢様、続きをお願い申し上げます」
「えぇ。わたくしたちの祖国であるイギリスも、たった今騒ぎの渦中にありましてよ。ロンドン市街にネビュラガスが散布され、溢れてくるスマッシュが市民を襲う始末。わたくし、セシリア・オルコットも要請を受けて市民の救出に向かったのですが……」
「ゾンビドモォー! 酒ヲ持ッテコーイ!」
「「「DIO様バンザーイ!!」」」
「見覚えのない変な城に、一日中夜になっている摩訶不思議な区域に突入。そこにいる統率の取れたスマッシュやリーダー格にわたくしとブルー・ティアーズは苦戦を強いられます。不覚ですわ……!」
「人間讃歌ハ勇気ノ讃歌!!」
「しかもわたくしを助ける謎のスマッシュも現れて、謎が深まるばかり。あぁ、一夏さん……どうかわたくしに力を貸してくださいまし……」
ナイトローグが突入している場所とは異なるネビュラガス発生地域の近郊。そこで急造された自衛隊の拠点では、とある任務遂行のための準備がされていた。
事の始まりは、比較的ネビュラガスの濃度が低い場所にあるシェルターに籠もっている民間人からの救援要請だった。元々は核弾頭飛来時の放射能対策にと作ったものに数名がおり、スマッシュがドアバンしてくるという危機に陥ったという。現在は応答側の指示でとにかく息を潜めさせているが、民間で用意できる核シェルター程度の防御力でスマッシュの侵入を阻めるかも怪しい。
これを放置などできるはずもなく、かといって頼りのナイトローグは別のところで掛かり切り。ISの突入も未だに渋られており、白羽の矢が立った自衛隊は独自での救出作戦を余儀なくされた。
出撃人数は分隊規模。ネビュラガス対策に丈夫なマスクと防護服を纏い、基本装備はアサルトライフルではなく機関銃。移動は高速車両で迅速に行い、早期救出を図るというものだ。
無論、これだけでは死にに行くようなものである。スマッシュを一体倒すのに機関銃程度の火力では乏しく、弾薬の消費も激しい。理想としては、装弾数二十発連射可能のロケットランチャー(非実在)や高速飛翔体を軽々落とせる装弾数三桁のサブマシンガン(射撃時の反動で肩が抜ける)、個人携行型四連装巡航ミサイル(重くて無理)、連鎖雷撃銃(実用化されていない)などをデフォルトに装備したい。まず戦闘回避を念頭に入れなければ、救出など夢のまた夢。無謀すぎる。
「チッ、生身で突っ込めとかイカれてやがる」
「殲滅が目的じゃないだけマシだろ。それにアレがいる」
とある隊員二名が不満を零す傍らで、この作戦のために用意されたガーディアンの集団が整列していた。ポリス、土木用、警備、消防などと細部のデザインやカラーリングに統一感はない。性能も各分野に応じて異なっている。
今回の作戦に先当たり、高性能アンドロイド“ガーディアン”の使用も決まっている。人的被害を極力減らすのが目的で、わざわざ自衛隊で運用している試験部隊が投入されていないのは、ナイトローグと同じ理由だったりする。
「ガーディアンならウチでも使ってるだろ。なのに数足りないからってこれは酷くねーか?」
「でも無いなら無いで、上手くやるしかねぇよ。話に聞くと、土木用ガーディアンが工事現場に来たスマッシュ殴り倒したって話だし」
「えっ、マジ?」
「本当かどうか知らん。なんか警備用も南波本社に襲撃掛けてきた飛行型を無力化させたりとかも聞いたけど、民間用の性能まではサッパリだ」
確かに、性能を落とされている民間用ガーディアンでは軍用に及ばない部分もある。しかし、土木作業にとパワーに特化した機種や、足りない警備員の穴埋め・補強程度にしか任されていない機種が想像以上の戦果を上げれば、非常時に追い込まれてもそれを使わないでおく手は存在しない。
事実、この二人にとっては知る由もないが、民間用ガーディアンがスマッシュを倒したという話は本当の出来事であり、逆にそれが自ずと軍用ガーディアンの有用性も示す事となる。
もちろんISと比べればアリのように弱いが、そんな事は当たり前である。それでもISは空、ガーディアンは陸という住み分けが自然に出来上がっている以上、需要がゼロという事は決してあり得なかった。
そして何より、南波重工脅威のメカニズムの結晶である。複雑な人型の構造をしたロボットであるにも関わらず、整備無しで一年間通しての運用が可能。耐久年数は十年以上。下手をすれば兵士一人分を雇うよりも安く、理論上では師団規模の編成が余裕で可能。生身の指揮官が必要ではあるが、性能的にはそれでもお釣りが来る優秀ぶりだ。
さらに無人機という決定的なアドバンテージが、余りにも強すぎた。徐々にではあるが、ガーディアンの流通は日本全国に広まりつつあった。試験の域を超えない生産当初の細ボソとした売れ行きが嘘のようにひっくり返り、奇しくも今回の事件が南波重工の利になろうとしている。
※
深いネビュラガスの中を俺は静かに突き進んでいく。ナイトローグのスペック上、例え全力疾走しても足音は微塵も立てずに済む。流石ナイトローグだ、何ともないぜ。
そのおかげで、上手く行けばスマッシュの後ろを素通りする事も可能だ。こうも背中を見せられていると何となく蹴りたくなるが、今はこの街を覆っているネビュラガスをどうにかするのが先決。無用な戦闘は避けて、予想されるガス発生地点まで移動する。
また、途中から不意に通信障害が発生したので、スニーキングが楽勝でも油断はできない。生物の変異だけでなく電波すら乱すとなると、実はまだ俺の知らないネビュラガスの特徴があるのではないかと思えてくる。実際、先日のリモコンブロスのデビルスチームによる飛ぶ斬撃に物理的攻性があった。伊達にあの時ボコボコにされてはいない。
ふと登ってきたショッピングモールの屋上から、恐る恐る景色を見下ろしてみる。姿勢を低くし、頭だけを少し出してみると、ショッピングモール前のビル街には有象無象のスマッシュたちが蠢いていた。まるで、ゾンビパンデミック中のラクーンシティに来た気分だ。普通に悪夢である。
そんなこんなで地下駐車場へ。ここまで奥に来れば見掛けるスマッシュの姿が途端に減る。その理由がわかってしまうのが、地味に辛いところだ。
トランスチームガンを両手で構えて、ゆっくり慎重に探索していく。この地下駐車場自体がスマッシュの化けた姿とも考えられなくはないからだ。こんなにナメプができないのも、ライダーの敵がどんどん多彩化していくせいである。本当に化けてそうなのが困る。
「……何だ?」
すると、そこで地面に刺さっている一本の大剣を見つけた。長さ地下駐車場の車高制限ギリギリ。外見からしてスチームブレードにそっくりだが、スコープやライフリングが存在していない。
以後、これをスチームソードと呼ぶ。柄の辺りには赤いバルブが存在し、両刃の刀身からプスプスと断絶的にネビュラガスが微量に漏れている。どうやらガス切れを起こしているようだ。
さて、どうするか。壊すのは簡単だが、それは幾つか調べてからにしよう。依然としてバルブが開放状態であるので、特に期待もせず、まずダメ元で閉じてみる。
その時、不思議な事が起こった。バルブを閉じた瞬間、辺り一帯に込もっていたネビュラガスが物凄い勢いでスチームソードの元に吸引されていったのだった。刀身の近くまで吸い寄せられればガスは小さく凝縮され、物理法則を無視したかのような動きでソード内にどんどん収まっていく。
思わず驚いた俺はスチームソードから数歩下がって様子を見る。スチームソードのその絶大な吸引力はネビュラガスにしか適用されないみたいで、近くに立つ俺には吸引力が少しも働いていない。吸引速度も頭がおかしく、目視できる限りでは地下駐車場内のネビュラガスが確認できなくなった。
しばらくすると、スチームソードはガス吸引作業を完了してバルブを完全に閉じる。なるほど、再利用可能という訳か。こんな非道な代物を作るのは……わかりきっているな。奴が俺の知っているのとは別人なだけあって、最終目標が不明瞭だが。
この調子だと、外の方もネビュラガスはなくなっていそうだな。真っ先に確認したいが、このスチームソードはどうしてしまおうか。持ち帰りにしても安全な管理が難しい。破壊しようにも、先程吸い込んだものがアレなので不安要素がある。実に悩ましい。
「――ン!?」
瞬間、スチームソードの前で頭を抱える俺の横から、眩いばかりの灼熱の球が襲い掛かってきた。規模は大型トラック程で、スチームソードを抱える暇もなかった俺は身一つで咄嗟に飛び退く。
そこまでは良かったものの、射線上にあったスチームソードは案の定火球に飲まれた。火球が過ぎ去った後には、原型もなく溶解していた大剣が鎮座するだけ。ネビュラガスを漏らしている様子はない。
威力が半端じゃなかった。現に今の火球が飛んだ直線上にはコンクリートに真っ黒な跡が出来上がっている。おもむろに発射元を見てみると――
「……フゥ……フゥ……! 今さら……ナイトローグなんて……!!」
噴火口に似た窪みを持つ球体状の頭、肩、胸部。右腕にはバーナーが生えており、漆黒の上半身とは対象的に下半身は青い。ソイツが喋っている事も加えて特徴は例のアレに沿っているが、ならばと装填されているはずのフルボトルがどこにも見当たらない。
まさか……いや、それは有り得る話なのか……?
「うわあああぁァァァァっ!!」
肩で息をしていたソイツ――バーンスマッシュは、どこか発狂染みた叫び声を上げながら俺に突撃していく。だが、そのがむしゃら過ぎて単純な動きは、俺にとっては全く脅威とは成り得ない。
適当に足払いをし、あっさり倒れたバーンスマッシュをそのまま地面に押さえ付ける。どうしてボトルも無しにハード超えてハザード化しているかは不明だが、そこまでわかっているならコイツの容態は深刻だ。しかも声からして子供である。
浴びすぎたネビュラガスを中和しなければ、助けられない。少々手荒になるが、まずは落ち着かせよう。ビルドジーニアスがいなくても、中和剤的なものを作ればチャンスはある。
「落ち着け。危害を加えるつもりは――ッ!?」
しかし直後、押さえ付けられたバーンスマッシュの肉体が突然粒子化を始める。まさかの出来事に俺は面食ってしまい、一瞬の隙を突かれてバーンスマッシュに振り払われる。
瞬時に受身を取り、再びバーンスマッシュを見る。粒子化は収まったかと思えば、再発したりと不安定だ。何もかも最悪すぎる……!
バーンスマッシュは俺を一瞥した後、急いでその場から逃げ出す。俺も次いで追い掛けるが、奴が左腕にもバーナーを新しく生やすや否や、発射口を下に向けて蒼炎の噴射を開始した。ジェット機の要領で推進力を得たバーンスマッシュは、その圧倒的な初速を以てして地下駐車場の天井を容赦なく突き抜けていく。
俺は慌てて飛翔し、バーンスマッシュが開けた穴を高速ですり抜ける。あっという間に空へ駆け出し、眼下の街からネビュラガスはなくなっているのが見える。
ネビュラガスが消えたならいい。急を要するのはこちらだ。バーナーから生み出される莫大な推進力頼りで空に直進し続けるバーンスマッシュは、やがてコツを覚えたのか航空力学完全無視の直角的なハイマニューバを派手に披露する。アイアンマンかよ。
スピードもあちらが圧倒的に上。まるでハザードレベル7以上のビルドホークガトリングを追い掛けているような切なさと悲しみを覚えると同時に、既に後ろ姿が小さくなっているバーンスマッシュが市街地へ急降下していくのを見て、途轍もない焦りに駆られそうになる。
あの辺り一帯はネビュラガス発生地域と近いのもあって、住民の避難は完了しているはずだ。だが、ここまで速いと活動領域も格段に広まり、迅速に捕まえなければ人的被害が生まれるのは必定。こういう時にこそ霧ワープは輝く。
ならばよろしい。待ち伏せだ。何度だってやってやる。
霧ワープで一気に距離を詰め、道路上を飛ぶバーンスマッシュの先頭に忽然と移動する。そのままタイミングを合わせて相手に掴み掛かり、激しい取っ組み合いへともつれ込んだ。
Q.今回のオリスマッシュ
A.
・DIOスマッシュ
名前はやっつけ。他のスマッシュたちを統率できる他、気化冷凍したり、ナイフ投げたり、物理的攻性がある背後霊を使ったり、空を飛んだり、時を止めたりとかなり強力なスマッシュ。最後はカッシスワームみたいなやられ方をしてセシリアに敗れる。
・ツェペリスマッシュ
名前は適当。セシリアの味方として活躍し、タルカスみたいなスマッシュに二人とも負けそうになったところで捨て身の奥義を発動。自身の命を引き換えにブルー・ティアーズを一時的に形態変化させ、勝利に貢献する。
元ネタはもはや、言うまでもない。
Q.土木用ガーディアンって……
A.ハードガーディアンのパーツを使用してたりします。装甲を抜きにしてもクローズの素パンチを受けて身じろぎしない程の踏ん張りが利かせられる=パワフルという解釈です。
なおかつ、劇中で大量生産できるぐらい安いだろうという事実。
Q.天然…物…?
A.香澄しかり、生方直進(グリスvsクマテレビの奴)しかり、フルボトルを用いない自我持ちが生まれる可能性は決してゼロではないと思います。
生方に至っては浄化済フルボトルを使ったせいか、スマッシュ化しても美空をそのまま襲わず誘拐したり、ビルドクマテレビフォームの番組アナウンサーに対してビルドと一緒にお辞儀したりする事から、ある程度の意識や知性は保っていると考えられます。
つまり、フルボトルで制御チップみたいな使い方をすれば、完全かつ安定して自我を保てるのでは……? そんな感じにハードスマッシュの考察も兼ねて主張します。