「仕方ありませんね、わかりました。えー、ネビュラガス発生事件終結後、己の無力さのあまりにナイトローグには相応しくないとか考え出す日室弦人。そんな彼の心を立ち直らせたのは些細なもの。されども大切な、今まで自分が助けてきた人の笑顔だった。街の傷痕はまだ癒えないまま。しかし、これ以上は最上魁星の好きにさせまいと彼は密かに心火を燃やす。……どうでしょうか、束様」
「よくできたね、くーちゃん! 偉い偉い。DNA採取に必要なもっくんの毛髪回収とかもしてくれるし、束さん自慢の可愛い娘だよぉ〜。ナデナデ〜」
「束様。それよりも怪我の手当を。最上魁星に左腕の骨を折られたのでしょう? 重体ではっちゃけないでください」
「そうなんだけどおかしいな〜。これぐらいの怪我なら、束さん特性の回復ナノマシン風呂で一発なんだけど……全然治らないや」
「ベホマのような即時回復は束様だけです。普通の人なら数日掛かるのですが……」
「うーん、ちょっと折られるのは不味かったかな? 『拳に地球の記憶の一部を内包させた』とかもっくん言ってたけど……それは後回しにしよーっと。ISの改造プラン閃いたから急いで形にしないと!」
「やはり最上魁星の仕業ですか。ところで束様、新造のISコア百個を追加で各国に提供したのは?」
「自己満足だよ♪ いやー、それだけでナイトローグがISじゃないって認めてくれるなんて、政治家って現金な奴らばかりだねー。とにかく、認めさせるのが簡単で大助かり!」
篠ノ之束、全治一ヶ月の大怪我(照井竜なら半年のところ)
ヒント……ガイアメモリ、ツインマキシマム、負傷
世界的なネビュラガス発生事件は一旦の区切りが着いた。まだ終結から日は浅く、各都市にはその爪痕が残っているが、徐々に元の日常を取り戻そうとしていた。たった一つ、失踪したスマッシュの群れ――多くの人間たちを置き去りにしたまま。
スマッシュ一斉撃滅作戦終了後、一夏たちは戦闘報告などの事後処理を終えるとあっさり解放された。他にも帰宅困難区域の復興などやるべき事が残されているが、小難しいのは大人の仕事。そもそも未成年なのだから、彼らには戦ってもらうだけでも十分だった。
今日の天気は曇り空。直射日光がない分だけ気温はいつもより低くなるが、夏なので暑い事には変わらない。せいぜい、日焼けせずに済む程度だ。
そんな中、一夏は一人で五反田食堂を訪れていた。親友の弾とは連絡が取れず、こうして自宅に来ても人がいる様子がない。平日にも関わらず閉店していた。
ここはあの沢芽市に近い。ならば避難所に行ったのだろうと考えるが、とっくに避難警報が解除されたのだから戻っていてもいいはず。今日まで連絡が取れないという事に、一夏は不安をよぎらせる。
もしかしたら、あの子守りをしていた怪人と同じくスマッシュ化したのだろうか。そのスマッシュが誰か気付かないまま、どこかで倒したのかもしれない。決してあり得ないとは断言できないのが心苦しい。
物心ついた時から一夏は、実の姉である千冬以外に親族がいないのを少なくともコンプレックスに感じていた。今こそ親の愛情に飢えるなんて事は無いが、それも幼馴染や親友たちがいての事。自分の知っている人がいなくなるのについては人一倍、敏感だった。
だからこそ、たった一人でも自分と繋がりのある人の事は、例え遠く離ればなれになっても忘れやしない。箒がその最もたる例だ。IS学園で再会するまで長い間音信不通だったのに、新聞で彼女が剣道の大会で優勝した記事が載ったページを一目で見つけるぐらいである。普通なら縁が自然消滅するところを、彼は大切に繋げてきた。
連絡と言えば、LINEでの応答もない。もう一人の親友である御手洗数馬がコラ画像で生存報告してきたぐらいだ。その画像で一時、中学時のクラスメイトのLINEグループが笑いに包まれた。
いつまで同じ場所に留まっても仕方ない。食堂前から立ち去った一夏は、近くにある噴水広場へ行く。噴水の前で涼み、次にどうするか思案する。
「困るよなぁ……こんな夏場に災害が起きるのは。今頃、避難所が地獄だ」
「……弾?」
そこに、一夏が心配している本人が忽然とやって来た。弾は仏頂面で彼の隣に立ち、同じく涼む。一夏の知っている、いつものヘラっとした明るさがない。
人が深刻に考え始めたその矢先で。しれっと出てきた弾に一夏は怒りを少し覚えた。相手を詰ろうとする口調が僅かに荒々しくなる。
「お前なぁ、無事なら連絡の一つぐらい寄越せよ。全然電話繋がらないし、厳さんたちの安否もわからないしさ。どれだけ心配したと思ってるんだよ」
「悪い。ちょうど宇都宮の辺りまで家族全員出掛けててな。餃子が美味かった」
「そっか」
だが、その怒りはすぐ収まるほどのもの。悪びれた様子で言い分を語る弾を見て、一夏はあっさり引き下がった。こくりと頷き――違和感に気付く。
「……ん? まだお盆休みでもないのに食堂屋が日帰り旅行か? 近くで工事してるところあったから、作業員がたくさん来て繁盛ぐらいするだろ? ほら、お前んちの定食美味いし安いし」
瞬間、弾を纏う雰囲気が重くなった。その変わりように一夏は思わず動きを固め、事の成り行きをじっと見守る。
「……あー、ダメだ。口は災いの元だな。慣れない嘘はするものじゃない」
弾は重々しく口を開き、自身に呆れる。一夏は嘘と聞いて、すぐさま問い詰めようとするが――
「地震? 昨日の今日だぞ、おい!?」
突如として大地が揺れ始めた。体感では震度四。スマッシュとの大規模な戦闘から帰ってきたばかりの身である一夏には、とても平静さを貫けるものではない。最悪な状況をいくつも想定し、揺れる地面の上をしっかり踏み締める。
「いいや、違うぜ一夏。始まったんだ」
その時、弾の一言が地震から一夏の意識を逸らした。次第に揺れは収まり、意味深な言葉を聞いた一夏は恐る恐る耳を傾ける。
すると、遥か西の方角で一筋の赤い光が天に放たれた。
「赤い光……何だ?」
「あの方向だと富士山だな。今、環太平洋火山帯から噴火エネルギーを空になるまで集めてる。あの光はそのエネルギーを変換させたもの……らしい」
「弾? いきなり何言って……」
次から次へと起きる出来事に、一夏は戸惑いを隠し切れない。目の前にいる親友が、まるで別人のように見えてきた。
直後、上空で大量の煙が疎らに出現した。一夏も見覚えがあるそれは、ナイトローグが霧ワープする時のモノと酷似している。実際、雲のように形を維持している煙の中から怪人が飛び出してきた。
気流操作能力を持つフライングスマッシュハザードが空を駆け、その背中には飛べないスマッシュを背負っている。キャッスル、ミラージュ、ストロング、プレス、ニードル、ストレッチ。多種多様だ。フライングスマッシュの群れの中には時々、自ら希少であると訴えんばかりにオウルスマッシュが数体混ざっている。
「スマッシュ!? 嘘だろ、こんな……くそっ!!」
やがて遠くへと飛び去る個体もいれば、そのまま街に降下する個体もいる。険しい表情の一夏は白式を展開しようとして――足元を撃たれた。
明らかに相手への命中を意識していない威嚇射撃。咄嗟の銃撃音に一夏は訳もわからず飛び退き、ゆっくりと射撃手がいる方へ顔を向ける。
冷や汗と動悸が止まらない。特徴的な赤みがかった長髪にバンダナを目にして、それ以上は見たくないと心で拒む。しかし、危機的状況に晒されていると判断している頭がそれを許さない。とうとう、相手の全体像を確認する。
「おい待てよ。弾、今は何だ? その手に持ってるヤツも……。冗談だよな? 嘘だよな? そうだよなッ!? じゃないと、その見覚えのある銃は……俺は……!!」
「あのスマッシュたちは、状況を混乱させるための捨て駒だ。そして俺とアイツも……」
弾の右手にあるのはトランスチームガンの兄的存在、ネビュラスチームガン。受け入れがたい事実に一夏は歯軋りし、弾はそれに構わずギアリモコンを取り出し、ネビュラスチームガンにセットする。
《Gear remocon!》
「潤動」
《ファンキー!》
《Remote control gear》
銃口から放たれた黒煙と水色の歯車に全身が隠れる直前、弾は冷徹な瞳をしていた。
いくら親友と言えど、一夏は弾としばしば喧嘩する事はあった。しかし、先程のような瞳は生まれて初めて。本気で喧嘩した時でさえ、そんな極端な冷たさは存在していなかった。その印象が強烈に残り、本当に弾なのかと疑いそうになる。
それでも、目の前にいるリモコンブロスの変身者は紛れもなく弾本人と確信している。確信しているだけあって、現実を直視するのが辛い。なかなか割り切れない一夏に、リモコンブロスは淡々と話し掛ける。
「ISを出せ、一夏。俺は、戦わなければいけない」
「じゃあ、なんだ……? 今まで、ずっと隠してきたのかよ……自分が何してきたのか……」
「ああ」
「だったら!! なんで今まで言ってくれなかったんだ!! お前がトーナメント中に襲撃したりするなんて、よっぽどの理由があるんだろ!? 一緒に騒いだり、バカしたり、たまたま帰ってきた千冬姉に怒られたり、今まで長く付き合ってきた親友だ。普通ならそんな事、絶対しない奴だって――」
「いいから早く着替えろ。白式に」
「っ!?」
問答無用で言いたい事を遮られ、銃口を向けられる一夏。わなわなと身体が震え出し、首を横に振り――堪えた。
「……うおおおぉぉぉぉぉ!!」
刹那、白式を即時展開した一夏は激昂し、リモコンブロスに斬り掛かった。雪片弐式を上段に振り、リモコンブロスは両腕を交差させて真正面から受け止める。
「そうだ、それでいい。だが……」
そのリモコンブロスの小声は、ハイパーセンサーで聞き取れる。白式のウイングスラスターを全力に吹かした一夏は攻勢に乗ったまま、地面を陥没させるレベルまでリモコンブロスを押し込める。このまま相手の防御をゴリ押しで破るつもりだった。
「動きが単調になってるぞ、バカ」
リモコンブロスにそれを指摘されるのも束の間、渾身の斬撃は綺麗に受け流される。有り余った力で振り落とされた刃は地面を容易く刻み、その隙にネビュラスチームガンを腹部に突き付けられ、ゼロ距離射撃をもろに受けた。並の拳銃を凌駕した威力により、その白い巨体は吹き飛ぶ。
「ぐっ……!!」
宙で姿勢制御し、停止する一夏。間髪入れずにリモコンブロスがエネルギー状の歯車を飛ばし、それを左腕に備え付けられた雪羅で打ち消す。
《ライフルモード》
とにかく得意の近接戦に持ち込ませる。一夏はリモコンブロスに射撃の暇を与えまいと、彼に肉薄した。ライフルモードでもIS視点では短いリーチのスチームブレードと、大太刀の雪片弐式が激しく鍔迫り合う。
だが、そんな一夏の全力でもリモコンブロスはサイズ差をものともしないパワーを誇る。スラスターの推進力で押されそうになれば、同じく腰部に光体推進ユニットを展開して持ち堪える。
そして、リモコンブロスが白式の剣を跳ね除けた。すかさず恐ろしく速い突きを繰り出し、穿たれ掛けた一夏の胸部に絶対防御が発動。事なきを得た一夏は即座にリモコンブロスの刺突を捌き続けるが、片手間でギアリモコンを装填されるのまでは食い止められなかった。
《Gear remcon! ファンキードライブ!》
一夏が荷電粒子砲の照準を合わせるよりも一寸早く、スチームライフルの音声が鳴り響く。次の瞬間、両者はほぼ同時に引き金を引いた。
青い閃光はリモコンブロスの顔を半分焼き、リモコンに具現化した水色の光弾が一夏の鳩尾に命中・爆発。リモコンブロスがよろめく一方で、一夏はものすごい勢いで吹き飛んでいった。
白の機体が近くの林に転がり込む。苦悶の表情を浮かべる一夏だが、心はまだ折れていない。必死に立ち上がり、シールドエネルギーの残量を確かめる。実に心許ない数値だった。ファンキードライブの威力が高すぎた事と、燃費の悪い兵装を使ったのが要因だ。もはや連発は厳しい。
「もっと冷静になれ。それじゃ前戦った時と何も変わってないぞ?」
「どの口が!」
「はぁ……もういい」
親切心で助言するが、熱くなりすぎて聞く耳を持たない一夏に溜め息をつくリモコンブロス。するとネビュラスチームガンをスチームブレードから外し、手を振る。
「残りのシールドエネルギーはもう少ないだろ? ならお開きだ。じゃあな」
「待て!! まだ俺は負けてねぇ!!」
叫ぶ一夏の声を、リモコンブロスは無視する。ネビュラスチームガンの引き金を引き、瞬く間に黒煙に覆われては姿を消す。
「弾!! ……チックショオオオォォォォ!!」
相手にまんまと逃げられた一夏は跪き、悔しさの余りに地面を叩き殴った。ISの腕で殴られた地面は軽く凹み、一夏の叫び声が虚しく木霊する。
※
空母一隻を中心に編成された空母打撃群。アメリカ第七艦隊に所属する彼らはネビュラガス発生事件当日、中国やロシアなどの動きに警戒するために航行していたが、司令部からの指示を受けて日本救援に駆け付けた。既に現地では、他の在日米軍が動いている。
しかし、ナイトローグが死ぬ気で頑張ったおかげでスマッシュ一斉撃滅作戦が早々に開始。急いで着いた翌々日にはとっくに戦闘行動が終了したという事で遅刻する形となり、人道的物資の提供や救助支援などに留まるだけになった。
そして再び日本を出港した矢先、空母打撃群から数百キロ先に不審な大型船を発見する。
初めは民間船だろうと判断して無視するが、不思議な事に相手は空母打撃群の進路を遮るように近づいてくる。次に通信で進路から外れるように求めるが、応答無し。飛んで行った早期警戒機からの報告で、ようやくその不審船の全貌が明らかとなった。
意図的に模しているとしか思えない、巨大な人の手。丁寧で鋼で構築されたそれは、実際には海上スレスレを浮かんで佇んでいた。
しかし、そのような奇妙な造形でも通信を繋げる事ができたのだから、誰の手も加わっていない自然物のはずがない。
すると、不審船からIS反応が検出された。数は――三十あまり。
「三十!? 何かの間違いじゃないのか!?」
「いいえ、計器に故障は見受けられません! 本当です!」
戦闘準備に移行していない空母のブリッジでは、三十機のISが出現というセンサー長の報告に艦長が耳を疑う。IS一機だけでも小編成の空母打撃群程度は殲滅できうるポテンシャルを秘めているのだから、それが事実だとすれば絶句するしかない。現在のアメリカのISコア保有数を上回っている。
直ちに戦闘配備の指示を飛ばし、空母以下全艦の武装を起動させる。そして攻撃前の勧告をしようとして――
「……は?」
艦長がCICに移動しようとする直前、ブリッジの中央で黒煙が発生した。成人男性ほどの大きさの煙はすぐに晴れ、その中から一人の戦士の姿を露わにする。全身に迷彩色の歯車を纏った、ネビュラスチームの戦士だった。
白く光るU字のバイザーが特徴的で、鋭い眼光で睨まれたブリッジ内の空気が一瞬凍り付く。それも束の間、戦士が放つ四枚の巨大な歯車によって、ブリッジは爆発四散した。
「目の前のマシンをISとしか判断できないというのは、哀れでしかない。いや、真相究明を放棄してUFOや幽霊の存在を認めない人間が世の中いるのだ。到底、無理な話か」
瞬時に空母打撃群が航行不能になった頃、バイカイザーは海上に浮かぶ大型マシン《エニグマ》内の一室で佇んでいた。送り込んだ戦士たちが中継する現地の映像を目にしながら、眼前に広がる大量の白いパンドラボックスを眺める。その数、十九×十九並びで計三百六十一個である。
それでも、パンドラボックスの欠片が埋め込まれているのは、今バイカイザーが持っている一つのみ。唯一品である白箱を起点に、他の白いパンドラボックスに赤い光を連動で灯させる。
「白いパンドラボックス同士が生み出す感応現象により、埋め込まれた欠片の力はどんどん増幅していく。それでもブラックホールを作り出すまでには行かないのが、オリジナルの末恐ろしさを物語っているが……それでも十分だ。さぁ、エニグマよ。祝う時が来たぞ。惑星級戦闘体として生まれ変わる、新たなお前の姿を!!」
この日、最初は単なる平行世界観測装置に過ぎなかったマシンが、再誕を迎えようとしていた。間を置かず、ネビュラガスとスマッシュから解放されたばかりの世界を震撼させて。
Q.パンドラボックス361
A.最高の課金アイテムにブラッド族全国民歓喜。それはさておき、最初エボルトは感情がないとは言っていたけど、厳密には喜楽の感情ぐらいしかハッキリ発露していないのだと思います。
劇場版のブラッド族三人組も、割りとコレに該当している気がします。特にスマッシュ組。やはりエボルトは異端。
Q.感応現象?
A.エボルトがハイになっている時に万丈が破壊衝動に駆られたアレみたいなものです
Q.リモコンブロス
A.ネビュラガスの影響で冷静さが三割増ししています。特に戦闘だとより顕著になる。
多少な性格や精神の変化は赤い光を浴びなくても、ロストスマッシュ製造でも起きているのでギリギリあり得るかと思います。ライダーシステムさえ使わなければ。
でないと農家の人間をハードスマッシュにし、恐らく一ヶ月にも満たない訓練期間で最前線に送って、PTSDやトリガーハッピーとか微塵も発症させずにガンガン敵兵を倒させるなんて普通なら難しい話。
勿論、単純に三羽ガラスの精神が鋼だったなら破綻します。