「……」
「おっと、ナイトローグじゃないか。何そこでじっとしてるんだよぉ? 一緒にあらすじ紹介したいなら隠れてないで――」
《エレキスチーム》
「うおおぉぉっ!? 日室くん!? 急になして!?」
「スターク、今すぐそのダンディなボイスをやめろ……。でなければ、俺は貴様を『エボルトォ!!』と呼びながら殺しに掛かるのを抑え切れなくなる……」
「呼び方コロコロ変わるね。ごめんなさい」ペコリ
「素直でよろしい」
「でも『ナギ』ってまだ呼んでくれないんだ」ションボリ
「……すまない」
酷暑で熱せられたアスファルトの温度は、生に肉球を晒す猫や犬にとっては火傷を負いかねない大敵である。そのため世の中の飼い主たちは対策として、犬の散歩の時は専用の靴を履かせたりする。
無論、靴を履かせると歩き方がぎこちなくなるが、肉球を守りたいのであれば致し方ない。冬の時でも、路面にばら撒かれた凍結防止剤が肉球を損傷させるケースがある。良くも悪くも、犬や猫たちは現代社会への適応を求められている。
そして子猫、ロットロ(♂)。例にも漏れずに火傷する仲間入りのところを、意外にも平気でアスファルトの上を歩いていた。首輪の鈴を鳴らしながら、今日も街をブラブラ行く……はずだった。
このロットロ、かなりの放浪癖あり。キチンと毎日帰宅するものの、一日の大半が外出に費やされている。余りにも子猫外れた行動力と元気である。
ある日、この酷暑で肉球をやられないかと彼の心配した谷本癒子が気を利かし、ペット用品店に連れて行かれた。ケースの中に入れられ、悲しみを訴える眼差しを向けても癒子に「ごめんね。少しの我慢だから」と言われた。
確かに、靴のサイズ合わせには同行も必要かもしれない。そのついでに専用の服を買うつもりなら尚更だ。観念したロットロは、ケースの中で考えるのをやめた。
それからあれよあれよと時は過ぎていき、買い物が済む癒子とロットロ。用事を済ませたので真っ直ぐ帰ろうとしたところ、空の異変に気付く。
「え? え? えぇ!?」
上を向いた癒子が慌てふためく。何故なら、空から複数のスマッシュが降下してきたからだ。色彩豊かな通常体もいれば、漆黒の強化体もいる。一瞬にして街はパニックに陥り、癒子の目の前にプレススマッシュハザードが盛大に着地する。
突然の襲来に癒子は腰を抜かし、尻餅をつく。そんな状態で満足に逃げられるはずもなく、凶悪なプレス機の権化が彼女を殺さんと歩み寄っていく。近くに癒子を助けようとする人間は、いない。全員、他人を心配する暇もなく逃げ出した。
しかし一匹、彼女を見捨てなかった者がいた。ロットロである。近づいてくるプレススマッシュハザードを睨みつけるや否や、全身をスライム状に変化させて癒子に憑依した――
「ナイトローグだ! 白いナイトローグだぁ!!」
そんな子供の大声を耳にし、癒子の意識が覚醒する。気付けば彼女は、剣片手にスマッシュの屍の山を築いていた。厳密にはタコ殴りにしても戦闘不能になるだけで全く死なないのだが、とにかく死屍累々のスマッシュたちが地面を転がっていた。
癒子は咄嗟に辺りを見渡そうとして――自由に身体を動かす事ができなかった。
(……ん?)
喋る事もできず、頭の整理が追い付かない癒子はきょとんとする。
確か、自分はあの黒い怪人に襲われる寸前だった。そこまで順調に思い出すものの、不思議と記憶が途切れている。なら夢を見ていたのかと言われれば、それは違うと断言できる。あの時も、今の状況も現実だ。明晰夢でも何でもない。
そして身体が勝手に動き出し、子供がいる方へと振り返る。顧みるに、どうやら自分はこの子供を庇っていたようだった。路地裏の行き止まりに追い込まれ、鍵の掛けられたフェンスを背にしている。
(あぁ、びっくりしたぁ〜。何かと思えば大丈夫なんだね。怪我とかなさそうだし。なら一安心……じゃないよ)
ほっとするのも束の間、癒子はどうにかして自身の置かれた状況を確認しようとする。そうでないと何も始まらない。
再び身体が動き、表道へと歩き出す。やはり身体の自由が効かない。口惜しく感じた癒子だったが、程なくして窓ガラスを見つけた。ちょうど、自身の身体を映している位置取りだった。
漆黒のボディスーツに、白いブーツと籠手。両腕部には鋭利な刃が装着され、白と紫の配色パターンには上半身にも見られる。左右ショルダーアーマーにはそれぞれ二本のパイプ、胴体には一対の湾曲した長めのパイプ。特に胸部と頭部のデザインが羽ばたくコウモリという、癒子にとっても馴染みのあるものだった。
(……ほわぁっ!?)
頭部のコウモリがツインアンテナのように鎮座し、紫の双眼が窓ガラスの中を覗く。エボルドライバーを着けていないマッドローグの姿に――名称は本人の預かり知らぬところだが――癒子は面食らった。唐突な出来事に頭が混乱するが、身体は変わらず動いていく。
(待って! 待って! 私の身体待って! つまりどういう事なの!? ストオオオォォォォォップ!!)
悲しいかな。心の叫びは届かず、気付けばマッドローグに変身していた癒子は強制的に恐怖と混乱が渦巻く地へと駆け出す。殆ど見た目が同じなスチームブレードを構えて、目にしたスマッシュを斬り伏せる。一撃でスマッシュは爆散、戦闘不能になる。
(うわああぁぁぁぁぁん!! もう訳がわからないよぉぉぉ!! なんで私戦ってるの!? なんでスタイリッシュに動いてるの!? ISでもこんなに激しく動いた事ないのにぃぃぃぃ!! ボディがぁぁぁぁぁぁ!!)
一つ、二つ、三つ。次々にスマッシュを撃破し、ついでに逃げ遅れた人を助けていくマッドローグ。時には強烈な素手のクローで穿ち、時には疑似スチームガンで撃ち抜く。終いには――
《Bat engine! スチームブレイク!》
《Bat engine! ボルテックアタック!》
敵に当たった一発の光弾が派手に爆発し、腰ベルトに備えられているスロットに専用ボトルを挿せば必殺キックが炸裂する。どんなに上手に戦えても、身体には何の負担も存在しない訳がない。半ば生きたインナーフレームと化した癒子は、死にそうな思いになっても死なないように動かされていると直感で察し、無性に泣きたくなった。
そして、周囲にいるスマッシュはあらかた殲滅。やっと身体が止まると思った癒子は、目が遠くなっていた。冷静に考えてみれば人を助けるためにこうして戦うのは間違っていないが、全然生きた心地がしない。先日起きた例の事件のニュースでナイトローグが活躍したという報道があったが、そこまで人のために戦える弦人をついつい称賛したくなる。命を賭けた戦いとは、かなり疲れるものだった。
(そう言えば、前にも記憶が飛んだ時があったっけ……。電車で沢芽市に行ってたら、いつの間にか家に戻ってて……)
のんきに別の記憶を呼び起こす癒子。その日はちょうど、世界中でネビュラガスがばら撒かれた日だった。当初は何故という疑問よりも、事件現場に行かずに済んで良かったという安堵が強かったので考えるのはずっと後回しにしていた。
(あっ、日室くん!!)
すると、道の角を曲がった先でナイトローグを見つけた。やられたスマッシュの山を築き上げていた彼は、丁寧に一体ずつ横にしてから連続でスマッシュ化を解いていく。実に手慣れた作業だ。改良型エンプティボトルのおかげで、ナイトローグがそそくさと通り過ぎるだけで被害に会った人間たちからネビュラガスが回収される。
元の姿に戻った人々は総じて前後数時間の記憶を失っている。だが、最初に起き上がった人からナイトローグの作業を目にし、助けてもらったのだと察して喜びと感謝に打ち震える。スマッシュ化を解かれた中には兄弟や姉妹、親子もいたようで、お互いの無事を喜び合った。
しばらくして、その場にいる全員のスマッシュ化を解除する。手短に「ここは危険だ」と伝えたナイトローグは、ふと頭上から強襲してきたフライングスマッシュを軽く倒し、避難を促す。この一連の様子を目の当たりにした人々は、それ以上彼に言われるまでもなく逃走を開始した。
それから一人になったナイトローグ。避難する人々を襲うスマッシュの影がない事を確認し、遂にマッドローグと対面する。
「お前は……!!」
(おーい日室くーん!! 私だよ私私!! 届けこの声、君に届け! 助けてぇー!!)
身体の自由が奪われている癒子は、先程の一部始終を電柱の裏でじっと見守っているだけだった。それでも諦めずに、明らかに不可能でも思念を飛ばさずにはいられなかった。しかし――
「マッドローグぅぅぅぅぅ!!」
(ぴゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?)
問答無用でナイトローグに襲い掛かられた。尋常ではない執着心と憎しみ、怒り、妬み、恨みを一斉に感じ取った癒子は、危うく発狂しかける。
だが、一方で独りでに動くボディは、ナイトローグの猛攻を全力で防いでいる。まさしくラッシュの速さ比べ。互いに得物を投げ捨て、拳を交わす。
これも現実。言葉だけでは変わらないし、変えられない。時に人は全力でぶつかり合わねば、分かり合えやしないのだ。ナイトローグが叫び、癒子は歳悩まされる。
「ナイトローグのぉ……パーツを返せぇぇぇぇぇ!!」
(よくわからないけど冤罪ぃぃぃーっ!?)
しかも、その怒りの声がナイトローグ本人しかわからない、癒子からしてみれば完全なとばっちりであった。徐々にラッシュ戦が劣勢になり、半歩下がったマッドローグは姿勢を落として足払いを試みる。
その時、グキッとした重たい衝撃が癒子の足裏を貫いた。
(切れたっ……! 今、私の中で決定的な何かが……!)
厳密には、足が吊っただけ。とは言っても、この場面で身体に支障をきたすなど致命的である。その拍子で仰向けに倒れ込み、ナイトローグの脚にもたれ掛かると同時に変身が解けた。
「……!? 君は……!?」
「ううっ……ううっ……酷いよ日室くん……」
そのままナイトローグにしがみつき、ポロポロと涙を流す癒子。しかし、先程までマッドローグに変身していた者に対するナイトローグは、例え相手が知り合いとよく似た顔をしていても非情である。忘れかけていた忌々しい悪夢を思い出し、癒子に怒鳴りつける。
「内海ぃぃぃぃぃーっ!!」
「谷本だよっ! 谷本癒子だよっ!! うええぇぇぇぇ〜ん!!」
そして、とうとう癒子は号泣した。彼女の凄みのある名乗りと、それとは真逆な泣き顔を前にして、ナイトローグは狼狽する。金縛りになったかのように指先一つ動かさず、癒子に泣きつかれたまま固まっていた。
少しして。停止した思考回路を復活させたナイトローグは、未だに泣き続ける癒子の頭を優しく撫でる。それから宥めさせようと言葉を優しく掛けるが――
「ごめん、谷本さん。俺、すっかり我を忘れてて――」
「ニャア」
「……」
癒子の頭からスライムが生えたかと思いきや、顔だけのロットロが出てきた。これにはナイトローグも真顔で黙り込み、自分の頭上にいる存在に気付いた癒子は途端に泣き止む。
すると、癒子の頭から完全に抜け出したロットロは、スライム形態から猫の姿へと戻った。彼女の肩へと降り立ち、器用にその上で身体を預ける。次の瞬間には、すやすやと眠っていた。
「Seeds of life universe……? コイツが下手人か」
「ストーップ! ストーップ!」
淡々とトランスチームガンでロットロを狙うナイトローグと、それを大慌てで制止する癒子。この後、癒子とロットロはナイトローグに任意同行された。
Q.忠誠をぉ……誓おぉぉぉぉぉーっ!!
A.杖を折る音
このマッドローグはナイトローグ目線ではエボルドライバーを着けていないのでマッドローグもどきですが、この世界においては初めて観測された存在であるのでマッドローグに落ち着きます。ドライバーを使わない、仮面ライダーという称号を持たないただのマッドローグです。
ドライバー使いの仮面ライダーマッドローグではありませんし、恥知らずのマッドローグでもありませんし、スーツ流用でナイトローグをこの世の亡き者にしたマッドローグでもありません。あしからず。
以下、武装とか
・疑似スチームガン
変身デバイス兼武器。黒一色。
・スチームブレード
デビルスチームが使えない以外はオリジナルとほぼ同じ。
・疑似ボトル“バットエンジン”
ノウスブリザードボトルのそっくりさん。
・腰部ボトルスロット
一つだけ。ライダーキック可。マキシマムドライブリスペクト。