「すみません、スーツ改造された同盟に入りたいんですが……」
「俺はもうこの世に存在しない……」
「それはそれは、ご愁傷様です。……って、ダークドライブさんにタイプスペシャルさんじゃないですか。どうしたんです、急に?」
「いえ、つい最近ボクも仮面ライダーハッタリに改造されまして。タイプスペシャルくんもボク流用だから道連れになったんです。ところでフィフティーンさんもスーツ改造されてたんですか? 知りませんでした」
「そうなんですよ。鎧武のファイナルステージに出てくる仮面ライダー魔蛇にされちゃいまして。所詮、映画のぽっと出ですから」
「そうだったんですか……すみません、辛い事思い出させてしまって」
「大丈夫です。気にしてません」
「よしよしタイプスペシャルくん。飴をあげるから元気出そうね」
「……お前は?」
「俺は閃光騎士ロード。スーツは一切作られず、CGだけで済まされた哀れな存在さ。劇中の活躍は皆無に等しい」
「……苦労してたんだな」
「ああ」
激しい攻防を繰り広げるヘルブロスと白式HS。爆ぜた広場は崩落し、鉄骨で組まれた奈落の底へと二人は落下していく。ひとたび得物を打ち合えば、喧しい金属音が奈落の底で大反響した。
暗闇の中を進んでいくとしても、この二人には支障はない。ぶつかる剣から散らされる火花はよく輝き、すぐに消える。ヘルブロスは自由落下に身を任しているため、もっぱら白式HSが彼を追走していた。僅かにスラスターを焚くだけで、凄まじい速度が叩き出せる。
白の騎士が突撃し、鍔迫り合い、歯車の戦士が突き放す。変化した雪羅から惜しみなくビームが連射され、やすやすと躱されていく。流れ弾の青い粒子が鉄骨を蒸発させ、徐々に黒鉄の城を揺らさせる一因を作り上げる。
ヘルブロスもスチームライフルで応射した。正確無比な射撃が白式HSを襲い、彼にセシリアのブルー・ティアーズを彷彿させた。バレルロールで華麗に回避し、それでも被弾しそうになると雪羅で防御。光弾を打ち消す。
圧倒的パワー、枯渇知らずのエネルギー、尋常ではない防御力。ハーフスマッシュに変身してからほんの少し。その計り知れない機体のグレードアップに一夏は舌を巻く。サイズダウンによる装着の違和感はまだ残っているが、じきに慣れるだろう。不足のない進化でヘルブロスと対等の立場になれた事に、ある種の高揚を覚える。
束の間、うっかり調子に乗ってしまったと諭される事となる。
《Gear remocon! ファンキーショット!》
スチームライフルから放たれた光弾を斬り払った次の瞬間、ヘルブロスの姿が消える。それから何もないところから殴られ、吹き飛ぶ白式HSを受け止めた鉄骨が千切れていく。
(ハイパーセンサーに反応なし!? いや、音と空気の流れから位置を割り出せきれるか!?)
そう考えて空中で姿勢を正し、両手で雪片弐型改を持って五感を研ぎ澄ます。
刹那、背後から迫り来るものを感知した。即座に一閃するが、手応えからしてスチームライフルの光弾を弾いただけだ。
「くそっ、弾丸の類も不可視か!!」
射撃地点と思しき位置に雪羅を撃ちまくるが当たらない。すると、腹部に強い衝撃を受ける。近くの鉄骨に押し付けられ、振った剣が空振る。ヘルブロスは一撃離脱の戦法だった。
これでは埒が明かない。もう一度集中し、不可視の敵を探す。
ちょっとした空気の音も聞き逃さない。じっとしていれば、周りの景色がセピア調に染まったかのように感じる。
その時、目の前に飛び込んでくる人影が歪んで浮かび上がった。
「――見えた!」
スチームライフルを振りかぶるヘルブロス。それよりも一歩速く白式HSは動き、擦れ違い様で胴を斬った。返す刃で脳天を叩き斬り、ヘルブロスを下に落とす。
そして追撃し、ライフル光弾と射出した歯車群で牽制される。特に歯車はどこまでも追尾してくるので、急旋回でも振り切れなかった分は零落白夜で全て消滅させた。ヘルブロスがボソッと喋る。
「不可視の世界に入門したか……」
「おかげさまで、そっちが隠れていたからな!」
一夏の意気込みは十分。間を置かずに二人は真正面からぶつかり合っていく。ヘルブロスが大きな鉄骨を投げ飛ばし、その上に乗る。無難に白式HSは躱すが、そこからヘルブロスは動かずに堂々と構えているため、自然と空中戦から接地戦へと移行した。
鉄骨の上で斬り合い、時々仕掛ける足払いを跳躍して回避する。肉弾戦では、白式HSの方がやや押され気味だ。ここから状況を打開しようと思った直後、暗闇が闇夜へと変わり、二人は鉄骨ごと高層ビルのど真ん中に突っ込んでいった。
オフィスの壁を容赦なく粉砕し、床の上を滑る鉄骨の勢いは止まらない。調度品やデスクなどは軽々と飛び跳ね、散乱する。居合わせた人々が社内でパニックになる。
無論、彼らはエニグマの作り出した、限りなく本物に近い偽者にすぎない。その極まりない不自然さから大体を察した戦士たちの視線は、刃を交える相手から一度たりとも外れなかった。そもそも、彼らに気遣う余裕がないほど互いを追い込んでいる。
やがて鉄骨は突き抜け、風穴が空いた高層ビルの破片の大半が地上へ降り注ぐ。すぐ落ちなかった分は二人が立つ鉄骨と随伴し、緩やかな軌道で飛んでいく。彼らを取り巻くガラス片が、まるで祝杯時の花びらのように舞い散った。
その最中、ヘルブロスの全身から発せられる歯車が、四方八方へ疎らに散りばめられる。水色と白に光るエネルギーの塊たちが宙を浮かび、闇夜を明るく照らす。
同時に水色の歯車から作用する力で、鉄骨やコンクリート片などの飛散物がその場に留まり始めた。ヘルブロスの鋭い蹴撃が白式HSの腹部を穿ち、鉄骨から吹き飛ばす。
吹っ飛んでいく事、十数メートル。軽やかに静止し、ヘルブロスが無数の浮遊物を指揮する様子を垣間見る。破片程度なら問題ないが、攻防一体エネルギーである歯車群の数が多すぎた。計測せずとも、目測で百枚以上はある。
(これはヤバイ!)
『ツイン!』
危機を察した白式HSは、本能で左腕のフルボトルを雪羅にセットした。ついぞ放たれる弾幕を前にし、神がかった手際で間に合わせる。
『ツインフィニッシュ!』
そしてトリガーを引き、雪羅の銃口二つからそれぞれ異なった性質のビームが飛び出す。砲弾のように強化された青い光線が連射され、白の全方位バリアが白式HSを包み込む。
ユニコーンフルボトル由来の光弾は何重にも張られた歯車の盾を貫通し、ヘルブロスに命中した。襲来する弾幕は全方位バリアによってあっさり掻き消されていく。バリアが役目を終えて消えるまでの間を置かず、白式HSが駆け出す。
真っ直ぐ突き出した雪片弐型改が刀身で防御するヘルブロスを押し退け、二、三度打ち合った後に強烈なタックルをかました。
クルクルと投げ出される身は、さっと受け身を取られる。襲い掛かる白式HSを間髪入れずに背負い投げ、広々とした公園の路上に揃って難なく着地した。
睨み合う両者。程なくして頭上から落ちてくる鉄骨の残骸を片手間で払う。剣で弾き返された残骸はあらぬ方向へ飛んでいき、アスファルトにグッサリと刺さる。
気が付けば、セピア調の世界は元の色に戻っていた。ヘルブロスの透明化も効果が切れている。それを合図に、再び踏み込んでは剣劇に演じる。
何十回も響く金属音は、三桁を越えようとしたところで不意に止んだ。激しい応酬の末に、二人とも得物が弾かれたの、だった。二本の剣が手元を離れて空を飛び、直後に肉弾言語が始まる。
装甲がひび割れ、バイザーや複眼に亀裂が走り、ウイングスラスターから黒煙が出る。どんなに打ちのめされようが、どちらも引かない。ここを譲り合えない。妥協はできなかった。
しばらくして、ヘルブロスの拳が白式HSの顎を打ち抜いた。重たそうな白い甲冑はふわりと浮き、次に足を摑まれて地面に強く投げ落とされる。
白式HSが地面と接吻する刹那、逆さまに浮かび上がってヘルブロスと対面した。すかさず――
『アタックモード』
「うおおぉぉ!!」
雪羅で相手の顔面を殴打。大きく背中を地面に引き摺らせながら、ヘルブロスは殴り飛ばされる。
その隙に雪片弐型改を拾いに行く。ヘルブロスの方も滑った先で偶然、放置されていたスチームライフルを手にした。
この時、両者の間に余韻が生まれた。すぐさま攻めに行く事はしない。痛めつけられた身体を休めながら、大技の準備を進めていく。
《エレキスチーム》
《Gear engine》
スロット部にギアエンジンを填めたスチームライフルに、雷光が迸る。ヘルブロスは確実に当てんと、スコープ越しに目標を捉える。
対して白式HSは零落白夜を発動させる。無尽蔵のパワーから生み出されるエネルギー量は、ISより二回りも三回り大きな青い刃を形成した。進化を遂げた刀身は、その尋常ではない熱量をしかと受け止める。微塵も融解したりはしなかった。お互い、技を繰り出すタイミングを窺う。一秒、二秒、三秒――
『待て待て待て待て待て待て待て待てえぇぇーッ!?』
その時、スピーカーを全開にしたパワーローダーが乱入してきた。続いてホールドルナと箒も現れ、止めに入る。
「待った一夏! 剣を下ろせ!」
「箒!? 邪魔だ、どいてくれ!」
「はーい。一夏ちゃん落ち着きましょうね〜」
「あっ、ちょっ、そこはぁ!?」
「遊ぶな泉ぃ!!」
ホールドルナの伸びされた腕が全身に巻き付き、こそばゆい感覚を覚えながらも背筋がゾッとする。意表を突かれたのはヘルブロスも同じで、パワーローダーの搭乗者と言葉を交わすとおもむろにスチームライフルを下げた。
「一夏、休戦だ。俺たちはこれから最上のところへカチコミに行く。着いてくるかどうかは好きにしろ」
「待ってくれ、急に何がどうなってるんだ……?」
箒の一喝でホールドルナの抱き締めが未遂に終わり、げんなりとしながらも態度の変えたヘルブロスに尋ねる。生憎と背中を向ける彼から返答は無かったが、チラリと一瞥すればパワーローダーのコクピットが開放される。
コクピットから出てきたのはガーディアン――否、数馬であった。ヘルメット代わりの仮面を外し、その素顔を見せる。
「よっ、一夏。なんか姿変わってるな」
思いがけない知人の登場に、うっかり変身を解除した一夏は言葉が出なかった。あっけらかんとした様子でガーディアンの格好をしているのも、可変作業用機械を操縦しているのも、どうしてここにいるのかも、まるで夢現のように感じた。
直後に「あっ、コイツ変身解けた」と数馬が零す。それをキッカケに放心した意識が戻り、これっぽっちも腑に落ちていない形相で口パクしながら、一言だけ呟いた。
「……なんで?」
「それはかくかくしかじか、ゴニョゴーニョゴニョゴーニョ」
「いや、わかんねぇよ。ちゃんと言えよ。事と次第じゃキレるぞ俺」
数馬の適当な説明を前に、眉間に皺を寄せながら拳を鳴らす一夏。その威嚇に数馬は苦笑いし、そっとパワーローダーの姿勢を上げた。そのままコクピットに乗り込まれそうな勢いから、難を逃れる。
それから、気を取り直した数馬から改めて説明がなされた。
今から十数分前。人質たちを独房から抜けさせた数馬は、彼らを引き連れてエニグマからの脱出を計っていた。パワーローダーを数台奪い取り、自ら搭乗する以外の物は遠隔操作。ついでにガーディアンを指揮下に入れて、容赦なくそれらを盾として活用する。
その際、通常の指揮官の命令を受け付けない洗脳プログラムが起動されても困るので、あらかじめ用意していた装置を顔面に張り付けた。
「数馬さん、私これ知ってます。フェイスハガーですよね?」
「いーや、ガワだけだね。作り込む暇も必要もなかったし」
「ひゃあ!? ちょっとぉ! うねうねしてるんですけどぉ!?」
その装置を仮称、フェイスハガーとする。フェイスハガーを張り付けられたガーディアンは数馬の忠実な下僕となり、時にはバンザイ突撃、爆弾を抱えて特攻、肉盾となって活躍した。フェイスハガーさえ健在であれば、例えボディが破壊しつくされていても新たなボディに寄生するだけで復帰が可能となる。
このため、人質逃走に気付いた敵部隊に対応する戦力には困らなかった。無人パワーローダーも突撃していくので、打撃力は十分。大して苦労もせず、エニグマ中枢付近から遠く離れる事ができた。
その時、偶然にも箒・京水ペアと遭遇。スチームガンによる撤退は有効の位置にいたので、幻想のマスカレイドたちを護衛にIS学園へ一足先に逃した。メッセージボイスもしたためているので、伝達の不足もなかった。
そんな直近の出来事を静かに聞き終えた一夏は、うんうんと頷く。手で招き寄せる仕草をして、言外に近づくようにと数馬に要求する。
「おい、もうちょっと下に」
「ヤダよ殴るんだろ?」
「当たり前だろ。逆に何で怒らないと思った? 揃いも揃ってそんな大事な事を隠して」
口を尖らせる一夏の声質は、なるべく怒りを表面化させないように気を付けていた。それでも怒っているのは確かに相手側に伝わり、その視線に居たたまれなくなった数馬は顔を背け、「悪かったな」と小声で呟く。
しかし、そうと聞けば簡単に打ち明けられるようなものではないと渋々理解できた。家族が人質にされたなら、おいそれと積極的に誰かに助けを求めるのは憚れる。同時にそんな弾と数馬がつるんでいる訳も、自ずと悟ってしまう。ブロス兄弟の片割れ、エンジンブロスの変身者は彼であると。
「あっ、そうそう。ちなみになんだけど――」
「いや、いい。もうなんとなく全部わかってきたからさ。まだ話があるなら終わった後にしよう」
「……おう」
気まずげに話し掛けてくる数馬の声をやんわりと遮る。呆気にとられる数馬だが、すぐ意にも介さなくなる。パワーローダーを動かし、一足先にエニグマの奥へ向かっているヘルブロスの後を追い掛けた。
次いで、突入チームの三人も動き出す。ホールドルナが鼻歌を奏でながらステップを踏んでいる後ろで、箒は一夏の側に駆け寄った。
「一夏、白式は?」
「エネルギー切れ。けど、フルボトル挿せばまだ戦える」
「そうか。……ちょっと待ってくれ」
そう言われ、一夏は立ち止まる。待機形態となった白式のブレスレットに箒が神妙な面持ちでそっと手を添えると、ほのかに金色の輝く光が灯された。
その光のエネルギーは白式へと注がれ、空となっていた動力源が満たされる。やがてシールドエネルギーが満タンとなり、白式を再展開した一夏は感心する。
「これは……《絢爛舞踏》? すごいじゃないか、箒! 助かる!!」
「それほどでもない。だがマグレだ。まだコツは掴めてない」
「でも運も実力の内って言うだろ。とにかく、ありがとうな」
「あ、ああ……」
最初こそ雰囲気が暗めだった箒だが、一夏の純粋で素直な感謝を耳にして恥ずかしそうに照れる。頬と耳たぶが若干赤くなり、ニコッと微笑んだ彼の顔が直視できなくなる。
「お二人さーん! イチャイチャも程々にねー!」
「そーだそーだー! こんな時に死亡フラグ立ててんじゃねーよ! 縁起悪ぃーからよー!」
「イ、イチャついてなどいない! それに死亡フラグとはなんだ!」
「別に普通に話してただけだろ。なぁ箒?」
そして、足を止めた彼らを数馬たちが茶化すついでに先を急かす。咄嗟に箒が反論し、一夏も何気ない様子でそう返すが――
「あれ?」
ツーンという風に、同意を求めたはずの彼女にそっぽを向かれてしまった。そんなこんなで一行は、さらなるエニグマの奥へと突き進んでいく。
Q.消しゴム
A.『不可視の世界』という効果は拡大解釈です。グリスと三羽ガラスの消え方が特徴的だったので。しかし同じ透明系でも、当たり判定も消えるディエンドの『インビジブル』の方が優秀である。