地獄より中継。あらすじ紹介に協力してくれたEさん。
「やっと見つけた。ここにいたんだね。もっと僕と戦って、僕を笑顔にしてよ」
「おっと、白い闇のお出ましだ。いくら俺でも、細胞の一つ一つがプラズマにされて燃やされるのは勘弁だぜ。チャオ!」
「あっ、待ってよエボルト」
「だぁぁぁ!! お前も瞬間移動でついてくるんじゃない!!」
彼らの邪悪な魂が完全に清められるのはまだ先の模様。
ふと地球に辿り着いた、とある宇宙生命体SOLUの一体。生き残りのブラッド族に寄生された彼は、逆にその力を取り込んで事なきを得るという荒業に成功した。
その反動ゆえか身体はボロボロとなり、地球に降り立った後は満足に活動する事もできず。擬態能力の低下も見られ、意識不明の状態で谷本癒子に拾われた彼は、地球到着直後の事を何も覚えていなかった。
気付けば子猫の姿に擬態していた彼は、たった一晩看病されるだけで復活。なんやかんやで癒子の家に居座り、後にロットロと名付けられる事となる。急速に知性が芽生えたのがその頃だった。
拾われた時期は二月。ちょうどナイトローグが世間に姿を現して一ヶ月の時だ。アレコレ辺りを散策したりなどするがSOLUとしての能力面で本調子になる事はなく、むしろ何ヶ月経ってもあまり成長しない子猫としての生活を過ごす事となった。
飼い猫として扱われる事に不満はない。キチンと帰れば外出制限は設けられず、暖かい風呂やご飯にもありつける。すっかり精神が猫として変遷していくが、特に癒子に愛でられるのは満更でもなかった。顎を撫でられて、あれ程心地良いと思った事は一度もない。それと、拾ってくれた事について恩も感じている。
四月になると癒子は寮制のIS学園へと行ってしまうので、連続した休日がない限りは家を空ける事が続いた。その時は寂しくもあったが、すぐに気持ちは埋まった。金と銀の兄弟猫と会ったり、饅頭のように丸く巨大な黄色の猫と遊んだり、迷子の子猫を飼い主の元へ送り届けたり、額に小判を付けた人語を解す猫と勝負したりと、のびのびと暮らす日々が続く。
そんなこんなで夏休み。癒子が帰ってきていつになく心を踊らせるのも束の間、宇宙生命体としての勘が働いた。彼女が出掛ける先でトラブルに巻き込まれると。居ても立ってもいられなくなったロットロは、こっそり彼女の後を着いていく事にした。
尾行については問題ない。気配を消し、自身のサイズを縮めて、癒子のバッグの中に忍び込んだ。自分でも驚くほど上手くいったと今でも覚えている。
その時だった。沢芽市にネビュラガスが散布され、スマッシュが街中に解き放たれたのは。危機を察知したロットロは癒子を守ろうと彼女に憑依し、マッドローグへと変身した。
ここでどうしてマッドローグの姿を象ったのか。理由は簡単、テレビを賑わしていたナイトローグが印象深かったからである。結果として、変身後の姿がナイトローグに似てしまった。
それからは彼女を助けるだけでなく、逃げ惑う人々をスマッシュの魔の手から救った。事件発生直後のその行動が、より多くの人命が助かる事に繋がった。数時間後に警察・消防・自衛隊などが駆け付けると、後は彼らに任せてコッソリ姿を消した。
EVOLカイザーに掴み掛かるマッドローグから、癒子の身体が分離される。彼の後ろで尻餅を着いた彼女は、まるで理解していない様子でおずおずと尋ねた。
「ロットロ……?」
マッドローグは振り向かない。彼女に危険が及ばないよう、EVOLカイザーを前に押し出すだけだ。それも触れた箇所から融合が始まり、無駄になってしまったが。
上昇中の荒野は忙しなく揺れ、生身の人間では立つ事すら満足にできない。かと言って、満身創痍のナイトローグたちは融合の瞬間を口惜しく眺める事しかできなかった。マッドローグの身体が徐々に、EVOLカイザーの中へと融けていく。融合速度が遅いのは、ロットロが精一杯抵抗しているからだった。
時に誰が言ったか、人助けのために罪作り。よもやナイトローグだけでなく自分も同じ事をするとは、ロットロは思いもしなかった。癒子を悲しませてしまうのは容易に想像がつく。
そう考えるとついつい後ろが気になってしまうが、もう振り返る余裕がなくなる。既に全身の八割がEVOLカイザーに飲み込まれた。できる事と言えば、背中から自分の力を込めたフルボトルを彼女の元へ放り投げるだけだ。
小気味良い音と共に、一本のフルボトルが放たれる。緩やかに落ちていくそれは癒子の手のひらに収まり、反射光で真っ白に輝く。その光はさながら、彼の命の灯火であった。
「ロットロぉ!!」
涙の混じる叫び声が木霊し、マッドローグは完全にEVOLカイザーと融合した。ベースボディはEVOLカイザーのまま、全身から黒く禍々しいオーラを放ちながら空高く浮かび始める。ゆっくりと両腕を開きながら宙に浮かぶ所作は見た目に反して美しく、嘲笑が響き渡った。傲慢な佇まいで地上を見下し、エニグマの屋上まで辿り着いた荒野の空がパッカリと開く。代わりに映り込んだのは、真夏の空に漂う大量の白い浮雲たちだ。ギラギラと眩しく照りつける太陽の明るさは、酷く沈んだ彼らの面持ちを変えてくれない。
「フハハハハハハ!! 馴染む、馴染むぞぉ!! ブラッド族の遺伝子が!! 数多の星を滅ぼしてきた破壊の力がッ!! 私の身体によく馴染むッ!! これでようやく、奴らと同じ土俵に立てた!!」
目的を果たして存分に酔いしれるEVOLカイザー。その声はこの大海に轟き、苛烈な攻防を繰り広げていた戦場が静まる。戦闘を中断したスマッシュはその場で動きを止め、交戦していたIS部隊もつられてエニグマの方へ視線を動かす。
ひとしきり喜びに打ち震えたEVOLカイザーは次第に落ち着きを取り戻し、ナイトローグたちと向き合う。
「さぁ慄け、跪け、命を乞え!! だが安心しろ、私も一介の科学者だ。この実証の責任を取って、今後百年は地球を守ってやる。地球だけをな。歯向かう者に容赦はせん」
直後、EVOLカイザーの肉体に異変が起きた。
「ぐぅっ!? なんだ、急に力が……ッ!?」
みるみるうちにフェーズ2へと弱体化していく。バイカイザーまで戻ってしまうのを堪えるEVOLカイザーは、苦悶の声を漏らした。
「ええぃ、何たる不測の事態!! SOLUの意識は完全に消滅したはずなのにッ!!」
それは最上の誤算、ロットロの抗いが化学反応を起こして出来た奇跡だった。どうにか弱体化の現象を止めようとするEVOLカイザーだったが、何度やってもフェーズ2以上への進化はできなかった。
ロットロは最後まで諦めずに戦っている。そんな彼のひたむきな姿勢に、癒子の目に涙が溢れた。荒野に這い蹲っていた面々も諦めまいと懸命に立ち上がり、癒子の隣にナイトローグが並んだ。
「くそっ!」
すると、EVOLカイザーの悪態を合図にナイトローグたちの足元がすり抜けた――否、エニグマが大きく浮上した。床や天井は次々と透過していき、気が付けば彼らは何もない空中に身を投げていた。
「あわわっ、わあぁぁぁぁぁ!?」
「谷本さん!」
影が掛かった頭上には、幅広いエニグマの底面。空を飛べる者はともかく、生身の癒子は危うく海へと真っ逆さまに落ちるところだった。間一髪でナイトローグに抱きかかえられていなければ、この高さだ。海目掛けての自由落下は、硬いコンクリートの床にぶつかるのと等しい。取り敢えず本来の目的を達成したエニグマ突入チームは、優先的に癒子をIS学園へ連れて行った。
※
一向に浮上を続けるエニグマ。エニグマと赤い光で繋がれている空母打撃群はそのまま引っ張られ、融合。原型が消えてなくなるレベルまでエニグマに融け込み、更なる巨大化を促進させる。
合わせて、戦域にいる全てのスマッシュがエニグマに引き寄せられていった。既に撃破されている個体も独りでに浮かび上がり、エニグマへ向かう様は出荷される養豚場の豚のようだった。ある程度まで近づくと肉体は霧散し、その中で現れた小さな光がどんどん吸収されていく。それは命の光だ。スマッシュ化解除という救いを与える慈悲など、EVOLカイザーにはなかった。
やがて全スマッシュの命の吸収が終わると、次に太平洋沿岸沿いに展開していた赤い光の壁が消滅する。その展開分のパワーが余った事により、エニグマは新たな段階へと一歩進める。
火山という地球の持つ地殻エネルギーの一部をもらった上で、増幅された白いパンドラボックスのエネルギーが再度、世界中に解き放たれた。
アメリカとメキシコの国境。地続きだったその場所は、突如として真っ二つに割れた。天から降りてきた赤い光が大地に突き刺さり、国境の端から端まで地割れを引き起こし、多くの移民志願者を巻き添えにする。割れた箇所からは大量のスカイウォールが精製され、何処かに飛んでいく。
国境に物理的な壁は築かれない。その代わりに、スカイウォールの材料として深く抉られた溝の部分に海水が雪崩込む。程なくして、国境に広大な大河が作られた。
また、環太平洋地域の活火山が軒並み活動を休止。モクモクと煙を昇らせていたはずの阿蘇山や浅間山は、いつしかひっそりと息を引き取った。
地球の悲劇はそれだけでは済まない。主に領土問題で取り扱われている多くの島々が、スカイウォールの素材として世界地図から消滅した。日本だけでも竹島、尖閣諸島、択捉島、国後島などが犠牲となり、その損失は計り知れない。
東西南北より、不義のための礎となった黒壁の群れがエニグマを中心に集結していく。集まったスカイウォールの一枚一枚はまだ合体せず、全体的に球状を維持しながら全てのスカイウォールの集結を待ち侘びる。遠くから猛スピードで風を切ってくるのがほとんどなので、時間はそれほど掛からなかった。
エニグマを心臓部に据え置き、やがて巨人の姿を形作る。胴から手足の順にスカイウォールが合体していき、ただでさえ元から堅牢な壁の表面に強固な装甲板が張られていく。壁画が刻まれただけの地味な風貌が、観賞用に調達された高級フルプレートメイルかのように生まれ変わる。綺麗な銀色の装甲が日光を反射し、辺りを眩しく照らす。
繊細に組み込まれたスカイウォールは、そのサイズも相まって角張った見た目にはならなかった。用いたのは壁だと言うのにスタイルは整っており、下手すれば立派な御神像にも見えるだろう。その一見した神々しさは、見る者を惑わせる。普通なら明らかに自重で潰れる程のスケールという事を忘れさせて。
手足をよく確認すれば、SF風味の宇宙戦艦といったシルエットをしていた。サイズ的にはただの戦艦のカテゴリーには含まれない、名前の最初に《弩級》という称号を持つのに相応しい姿だ。
右腕の戦艦は、艦首下に主兵装の艦載ビームソードを装備した近接戦タイプ。左腕はシールドを兼ねた大型空母。脚部には円状に合体した弩級戦艦群が贅沢にもバーニアとして運用され、バックパックも戦艦同士で構築されている。どこからどう見ても、非現実的な様相だ。
しかし、それを体現させたのは地球のエネルギー。本来なら惑星滅亡が用途のパンドラボックスで――例え欠片を使用した下位互換でも――別の使い方をしたのだ。出力で考えれば、パンドラタワーとブラックホールを作り出すよりも確実に弱い方。この程度、さして不思議ではない。
全長42000メートル。空に浮かぶ鋼鉄の要塞が、IS学園付近の太平洋上に降臨した。エニグマを核とした惑星級戦闘体の完成である。
先程まで激戦を繰り広げていた海上は、しんと静まり返っていた。海にプカプカと浮かぶ残骸など、僅かな戦いの跡が残されているのみ。スマッシュの大群を返り討ちにしたIS学園は、この惑星級戦闘体に接触する事なく静観を決めていた。
しばらくして、惑星級戦闘体の頭上に巨大な正方形のワープゲートが出現する。ワープゲートは独りでに下降を始め、つま先まで降りた頃になると惑星級戦闘体は影も形もなくなっていた。
場所は変わって、南緯47度9分 西経126度43分。太平洋のど真ん中。ワープゲートをくぐり抜けたエニグマは、その場に下半身を海に沈めてじっと佇んだ。一つ一つの動きには、あり得ないほどの軽快さがある。
「ようやく完成した、新たなエニグマが……」
管制室にやって来た最上は、エニグマの状況を確認しながら恍惚な表情を浮かべる。EVOLカイザーだけでなく、続けて成功した実験に喜びを隠し切れない。そこには執拗なまでの研究欲求だけではなく、年甲斐もなく抱いた男のロマンがあった。
もちろん、単なるロマンで終わらせるつもりはない。実用性はそれなりに確保してあり、特に最高の目玉はブラックホールを消滅させる装置を搭載している事だ。ブラッド族というものは、ほんの少し力を得ただけでもブラックホールを生み出しかねない危険な地球外生命体。仮にパンドラボックスに依存せずとも、その気になれば簡単に惑星一つを滅ぼせる。自分の研究が妨げられるのであれば、そんな奴らをいつまでものさばらせる訳にはいかない。多くの研究が未完のまま殺されるなど、以ての外だ。
だからこそ、人間をやめる覚悟も辞さなかった。不老だけでなく、極めて高い不死性を手にした。後悔は最初からこれっぽっちもしていない。
次はどうしようか。世界融合プランでも再挑戦しようか。そんな明日への期待に胸を膨らませる一方で、混迷を極めるであろう世界情勢に思考を巡らせる。
各国の領土問題を物理的に解決したので、世界の敵として糾弾される事は間違いない。軍事的な処置が下される事も十分あり得る。何をしてこようと所詮はただの人間なので歯牙にも掛けないが、核弾頭をエニグマに毎日撃ち込まれる生活は御免被りたい。EVOLカイザーの弱体化という問題も抱えているのだ。
「人の世は……煩わしいな」
長考を終えた後、最上はボソリとそう呟く。
Q.惑星級戦闘体エニグマ
A.打倒、光の巨人。ブラッド族。仮面ライダーBlack RX。ハイパームテキ。ムゲン。レオパルドン。