ナイトローグの再評価を目指す話   作:erif tellab

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「前回までのあらすじ。ロットロという犠牲を払い、谷本癒子の救出に成功したナイトローグ一行。しかし最上の企みを阻む事は叶わず、世界中の大地を抉り取り、素材とした惑星級戦闘体エニグマの完成を許してしまう。奇しくもEVOLカイザーの弱体化には成功したが、地球へのダメージは小さくなかった」

『20xx年。止まる事を知らず崩壊を続けた白い巨塔は遂に崩れ落ち、大学病院は本来あるべき姿を取り戻そうと動き出した。旧態依然の権力構造を一掃し、患者第一を考えた患者のための医療である。そんな中、どこの大学医局にも属さない、いわゆるフリーランス。すなわち一匹狼のドクターが現れた』

「……おい、何だこのナレーションは?」

『例えばこの女。群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い。専門医のライセンスと叩き上げられたスキルだけが彼女の武器だ』

「無視? 無視なのか? おい、誰かナレーション止めてくれ」

『外科医、木野薫。またの名を、仮面ライダーアナザーアギト』

「言ったな? 遂に言い切ったな? ……もういい、ツッコむ気が失せた。オペに行ってくる」

テレテレテレテレテレ〰♪





プログラムされた悲劇

 巨人になったエニグマが去った後、織斑先生から作戦終了の通達が送られた。個人的にはかなり釈然としない決着だったが、とにかく人質の救出とIS学園の防衛には成功した。

 厳戒態勢は未だ続いており、いつまた敵が来ても即座に対応できるようにしている。一応、ローテーションが組まれているので休憩は満足に取れる。もちろん、ナイトローグである俺は二十四時間戦えるよう常に準備していた。そのせいで織斑先生に「休め」と脅されたのはここだけの話だ。

 手当を受け、追い返される。エニグマから帰ってきた面子の中で一番の重傷者は俺だった。左手の甲が串刺しにされるも大事には至らず、包帯ぐるぐる巻きにした左腕を吊るだけで済んでいる。一歩間違えれば左手喪失だったらしい。スタークにはもう一度お礼を言っておこう。

 他の皆は軽傷。それぞれ纏っているスーツが守ってくれたおかげだ。変身組はともかく、ISの絶対防御も燃費が悪いにしては意外に侮れない。

 その一方、なんやかんやで俺達と一緒に来たブロス兄弟はというと――

 

「……」

 

「どうも」

 

「なるほど、事情は大体わかった。この愚弟にして、この悪友ありとな」

 

 取調室にて、織斑先生に尋問されていた。バンダナを着けたロン毛の男がリモコンブロス、五反田弾。少し馬鹿っぽい方はエンジンブロス、御手洗数馬。一夏と交友を持つ人間はトラブルに巻き込まれる呪いでも掛けられているのだろうか。飛び火ってレベルではない。

 ブロス兄弟になった経緯は、わかりやすく言うと工藤新一がコナンになったような感じだ。普通なら取引現場を見られたギャングのように即殺しているところを、先天的にハザードレベル2.0以上あったので運が良かったらしい。ブロス兄弟の試験運用の実験台として扱われ、表沙汰にならないよう警察などは手回しを済ませて無力化。大企業である南波重工だからこそ可能な技だ。他にも監視や、ダメ押しの報酬金を二人に与えて事を有耶無耶にするなど、色々黒い事をしていたそうだ。

 金について織斑先生が尋ねると、数馬の方がやたらとキョロキョロしていた。もう反応だけでわかる、金に魅了される寸前だったと。

 そんなやり取りを、俺はマジックミラー越しに見ていた。近くには京水とデュノアさんもいる。

 

「なんだかワクワクするわねー、こういうの。ねぇ弦人ちゃん、シャルロットちゃん?」

 

「そ、そうかなぁ? マジックミラー越しでも織斑先生のプレッシャーが凄いから、あまり覗きたくないんだけど……」

 

「俺は最後まで耳を傾けよう。ここで織斑先生に怖気づいて逃げたらナイトローグ失格だからな」

 

「二人とも、山田先生が後ろで困ってるから程々にしよ? ね? 詳しい話なんて後でも聞けるんだからさ」

 

 困った顔をした山田先生を見ながら、俺と京水を引っ張るデュノアさん。しかし、身体を休める以外にやる事がない身としては、情報取得も兼ねて最後まで尋問の内容を聞いておきたい。このぶつかってくる織斑先生のプレッシャーは試練と考える。

 すると、室内からは見えていないはずなのに、織斑先生の正確無比な鋭い眼光が俺と京水を貫いた。これは完全にばれている奴だ。流石に生命の危険を感じ取り、京水と一緒にこの場からそそくさと離れる。

 

「ありがとうございます、デュノアさん。流石に長居させると私が織斑先生に怒られますから。本当はいけないんですからね? 泉さん、日室くん」

 

「「すみませんでした」」

 

 山田先生にやんわりとお叱りを受け、素直に頭を下げる俺たち二人。隣で京水が「不死身じゃなかったの忘れてた」と小声で呟いたのが耳に新しい。ネクロオーバーとでも言うつもりか、お前は。

 

「じゃあ僕は一夏と箒の様子見てくるね」

 

 そう言ってデュノアさんも、一夏たちのところへ向かって行った。帰還直後にハーフスマッシュの変身が解けた一夏は反動のためか、そのまま気絶。命に別状はなく、今は箒さんが付きっきりで看病している。

 それと時を同じくして、俺たちも谷本さんの元へ。彼女にはナギさんが付き添っていたが、今はどうしているだろうか。谷本さんの寮部屋に訪れる直前まで、緊張は解れなかった。

 数回ノックして入室する。そこには、傍に寄り添うナギさんに優しく背中を撫でられ、流れる涙をハンカチで拭きながら慰められる谷本さんがいた。うっかり刺激しないよう、無難に声を掛ける。

 

「谷本さん、気分は?」

 

「……もう大丈夫。日室くんたちに比べたら全然……」

 

 その強がりは満更嘘でもなさそうだが、精神的な方でまだ心配だ。大切な者を失った時の傷は、案外浅くない。子猫とスマッシュを比較するのもおこがましいかもしれないが、経験者だからわかる。他人にとってはただの猫で、俺にとってはSOLUでも、彼女にとっては家族のようなものだ。

 あの時、進化したバイカイザー――以後、EVOLカイザーと呼称しておく――に吸収されたマッドローグことロットロは、素直に奴の強化素材になるどころか弱体化を促進させるという大挙を成し遂げた。それが最上の虚を突いたのか、エニグマ巨人共々IS学園付近から撤退させる事となる。

 

 無論、それは長続きしない予感しかせず、早急に手を打つべきなのは百も承知。俺の知らない最上の強化フォームが現れた以上、手をこまねいてはいられない。あれは明らかにエボルやブラッド、キルバスなどと同じ次元に身を置いている奴だ。仮面ライダーブラッド程度なら刺し違えて倒す自信はあるが、変身デバイスはベルトではなくショットガン。ベルト破壊戦法が通じないだけでも頭が痛い。

 あの時、不謹慎ながらロットロが吸収されていなければ確実に詰んでいた。最上がその気なら、一夜で世界融合されて消滅していた。恥ずかしながら力及ばずだった。

 そして高望みをするならば、ロットロも谷本さんと一緒に助けるべきだった。スーツ改造されたナイトローグの仇討ちをしたいという思いは今もある。だが、ナイトローグとして生きる俺は全ての人を守りたいと考えている。目の前の谷本さんみたいに、一粒も涙を流させる事がないように。だからこそ、仇討ちはしないと決めた。そもそも相手が違う。

 守る相手が猫だろうと宇宙人だろうと関係ない。それでも結果が実らなかったのは事実なので、谷本さんに謝らずにはいられなかった。

 

「……ごめん。ロットロ、助けられなかった」

 

「ううん、あの子が自分の意志で決めた事だから。私を守るって。猫の恩返しって訳じゃないけど、ちょっと誇らしい」

 

 そう答える谷本さんはぎこちなく微笑む。こちらとしても胸が空くわれるが、やはり無理だけはしないでほしい。今はひとしきりに泣いても良い時間だ。

 

「その左手……」

 

「俺は平気。京水とナギさんも」

 

 すると、目線が左に移動した谷本さんに俺が逆に心配された。京水たちの容態も告げ、吊られた左腕を動かして大した怪我ではないとアピールする。

 その時、名前を呼ばれたナギさんがピクリと眉を動かした。何やら不満げな様子だ。ジト目で見つめながら、俺に口を尖らせる。

 

「ウソ言わないでよ、この中で怪我が一番悲惨なのに。私見てたんだから。左手にスチームブレード突き刺さってたの」

 

「むくれないの、ナギちゃん。男の子ならこの程度の傷は勲章物よ? てんやわんや騒ぐには手足が吹き飛ぶぐらいじゃないと」

 

 京水、それは本当にただの女子かと疑うぐらいに肝が座り過ぎているぞ。いや、今更か。ナギさんも大概だった。一夏を取り巻く五人の乙女たちもだ。

 まだジーッと見つめ続けるナギさんから俺は少し顔を背け、「まぁ、すぐに治るからいいんだけど……」と小さく呟く。無言で額を小突かれる程度に怒られたのは言うまでもない。すぐにごめんと謝った。

 谷本さんの涙がそろそろと枯れてきた頃、彼女はそっと何かを握りしめる。それはロットロが最後に残した白いフルボトルだった。外見はノウスブリザードボトルのように、コウモリと発動機二つの紋章が刻まれている。

 

「そのフルボトルは谷本さんが持ってて。織斑先生が何か言うかもしれないけど、きっと無害だ。お守りになる」

 

「うん……」

 

 俺のその言葉に、谷本さんはゆっくり頷く。悲しみから癒えるには、まだ時間が掛かりそうだ。

 

 

 

 ※

 

 

 

 アメリカ合衆国ワシントンD.C.、ホワイトハウス跡地。バイカイザーの襲撃は日本の官邸だけに留まらず、世界各地へと狙われた。ホワイトハウスもその尊い犠牲の一つであり、たった一撃で爆発炎上。既に影も形もなく、政務機関は別の場所へと移された。

 そんな新たな執務場所にて。一人の秘書が仮設の大統領室へと入室した。

 

「大統領、会議の時間で――大統領? 大統領!?」

 

 しかし、室内にいるはずの当人はどこにも見当たらない。慌てた秘書は室内の捜索を始め――机の下に隠れていた男を見つける。

 

「あっ、いた。なに机の下で震えているんですか、出てきてください」

 

「……秘書君」

 

「何ですか?」

 

「どうして議事堂が大爆発したのかな?」

 

「謎のテロが起きましたから」

 

「どうして、国会議員が全滅したのかな?」

 

「議事堂が爆破されましたから」

 

 男と淡々と問答をこなす秘書。その素っ気なさに男の身体は徐々に震え始め、おずおずと次の問いを投げかけた。

 

「どうして、こんな時に限って俺が臨時大統領になったのかな?」

 

「あなたが唯一の指定生存者だからです。辞任は他の官僚たちが許しませんよ。誰も大統領をやりたがらないので」

 

「いや待って! それはおかしい! 国の一大事なのに愛国心なさすぎ! もっと熱意持とうよ、元住宅都市開発長官の俺なんかよりもさぁ!!」

 

「大丈夫です。あなたが大統領を辞めないよう、皆が全力で支えますので。さぁ、立ってください」

 

 そんなこんなで、不運にも臨時大統領の座に収まってしまった男は秘書に無理やり連れて行かれる。

 大統領になれてラッキーという思いは微塵もなかった。何せ今は非常事態。都市部に散布されたネビュラガスとスマッシュの群れが忽然と消滅した矢先に、アメリカ第七艦隊の一部が強奪され、メキシコとの国境に天変地異が発生。いくら周りが支えてくれるといっても、ただ普通に仕事をしていれば良かったこの男に大統領という任は重すぎた。

 襟を掴まれ、廊下に引き摺られる男の「何故死んだんだバレンタイン大統領ぉー!!」という叫びが、この奥行きのある広い一本道に虚しく響き渡る。自分よりもリーダーシップと能力に優れていた前大統領はこの世にいない。政治的空白を生み出してはならないという民主主義の力が、男を苦しめる。

 

「大統領、火急の報せです!!」

 

 その時、一人の部下が大急ぎで報せを持ってきた。それを見た男はものすごい表情のまま固まり、代わりに秘書が部下に発言を促す。

 

「メキシコとの国境の掘られた土地を吸収した未確認巨大飛行物体が南緯47度9分、西経126度43分にワープ!」

 

「やめてぇー!! 頭のおかしい真実突き付けるのやめてぇー!! 荒唐無稽なのに真実なのが質悪くて胃が痛くなるぅー!!」

 

「その一時間後、現在! ロシアが未確認巨大飛行物体に向け、三波に渡る核攻撃を実行! 数十発の核弾頭を受けても目標は健在。それどころか、撃った数発分が命中直前にワープゲートらしきものをくぐり、ロシアに撃ち返されました! ロシアのあらゆる核保有基地が焦土となっています!!」

 

「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 次から次へと聞かされる大事件に、そろそろ脳内が容量オーバーしかけた男は愕然とする。本日未明、ロシアは自らが所有している核弾頭によって、被爆した。

 

 





Q.ロシア

A.日本やアメリカと同じく、訳アリで臨時政権となっております。その結果がエニグマへの報復核。
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