ナイトローグの再評価を目指す話   作:erif tellab

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「前回までのあらすじ。クローンヘルブロスの量産部隊が在日米軍基地を中心に襲撃を開始。目的は不明だけど、日本の防衛力を削いでるのは明らかね。てか、これもうただの戦争じゃない! ナイトローグ駆け付けて来るヤツじゃん!」

「つまりケルベロスのようなものか、面白い。凰、私は先に日本へ戻る。中国は任せた」

「ちょっと待ったサクヤ。戻るってバイクで? と言うより、そのバイクどっから出したの?」

「レッドランバスは私の愛車だ。ギャレンの意思を受けて海すらも走破する」

「海ぃ? 冗談キツイわよ」

「嘘じゃない。こいつには超小型原子力エンジンが搭載されている。それほどの馬力なら、水上バイク以上のスピードは叩き出せるからな」

「うん、今なんて? 原子力? その成りで?」

「ああ」

「……ハァ!? バイクにどんだけオーバーテクノロジー積んでるのよ!?」

「お前の甲龍と比べればずっと遅い」

「空と海とじゃね! てか、そういう問題じゃない!」

「では行ってくる!」ターンアップ

「あぁー!? ちょっとサクヤー!! そのナイトローグみたいな格好も知らないんだけどぉー!!」





高貴な毒針

 突如、佐世保基地に現れた量産ブロス部隊は配備戦力や施設に対して徹底的な攻撃を施した後、忽然と姿を消した。多くの航空機がスクランブル発進できる事なく大破し、量産ブロス部隊の奇襲に辛うじて対応できた兵士たちも、反撃の甲斐なく全滅。奇襲から三十分も満たず、佐世保基地の保有している戦力が軒並み壊滅した。

 この事件は地元の報道番組や取材班が偶然居合わせた事により、政府が情報規制を掛けるよりも早く日本中に伝わり、騒然となった。インターネット上のニュースサイトを次々と政府の介入でブロックさせるも既に遅く、ツイッターなどのSNSで情報が拡散。ジャーナリズムの執念で一度着けられた炎は留まる事を知らなかった。

 佐世保基地壊滅から更に一時間後。普天間、嘉手納、横田、厚木と、ことごとくの軍事施設──しかも在日米軍駐留──が量産ブロス部隊に襲われ、例外なく壊滅させられた。たった一個小隊規模に、あっさりと。出動したIS部隊が返り討ちに遭ったという報告もある。この短時間で日本は、あっという間にその防衛力を低下させた。

 

 そして横須賀基地。厚木の次に近い場所と言えば、ここである。量産ブロス部隊出没の報に戦闘配備を迅速に済ませていたが、ネビュラスチームガンの煙幕を纏えば空間跳躍が可能な彼らの敵ではない。いとも容易く防衛網の内側に侵入され、中から食い破られる。戦術クラスの火器を用いれば一縷の望みはあるが、それを基地内で使用するなど下策もいいところ。付近には住宅街がある。どの道、守備隊の蹂躙は免れなかった。

 遭遇する兵士たちに量産ブロスは寸分の狂いもなくヘッドショットを連続で決める。死屍累々の光景は瞬く間に完成し、最後に歯車を射出して爆発四散。死体は一つ残らず灰燼に帰し、港の方で炎上中の艦船が湾岸に沈む。

 

「オォラァァァァァーッ!!」

 

 その時、殺戮を続ける量産ブロスの顔面に、颯爽と駆け付けたエンジンブロスのドロップキックが炸裂した。後方にあった大破済み戦車の中へと蹴り飛ばされ、ケロリと立ち上がる。

 

「ピョンピョン日本中移動しやがって!! RTA気分か、コノヤロー!!」

 

「もしそうなら虫唾が走る。片を付けるぞ……」

 

 エンジンブロスの隣に、リモコンブロスがさっと並び立つ。合わせて量産ブロス部隊も集合し、三機一体となって彼らと退治する。

 

「俺も忘れるなよ! 弾、数馬!」

 

「わかってらぁ! 連携急拵えになるけどミスんなよ!」

 

 続けて、ブロス兄弟の元に白式HSが駆け付けた。その後ろには、ナイトローグの率いるトランスチームの戦士三人衆がいる。現時点で横須賀基地の救援に来たIS学園側の面子は、この六人だけである。

 

 一時期ネビュラガスが世界中に散布されて騒然となっていた頃、各国のIS出動は表向きであるものの、災害派遣という名目で行われていた。実質的に防衛出動であったが、そうだと公的に認めてしまっては軍事運用のアピールに他ならず、国連が取り決めたアラスカ条約を破ってしまえばここぞとばかりに他国からの批判や制裁は免れない。足の引っ張り合いに注意しつつ、体裁を保つための方便だ。

 しかし、今回の軍事施設襲撃は明らかに災害という言い訳が通用しないもの。相手が国家でなくともテロ組織であれば、武力による防衛行動は成立し得る。ましてや相手はカイザーシステムの戦士、兵器なのだ。ここで堂々とISが助けに入ってしまえば、ただの軍事運用ではないかと周囲から咎められる。ただでさえ日本は臨時政権を立てるほど切羽詰まっているのに、更なる面倒事を抱えるのだけは絶対に避けたかった。

 そのため、常任理事国を中心とした多数の国家ぐるみでIS認定解除を認めたナイトローグたちに、白羽の矢が立った。ブロス兄弟もこの戦闘参加に志願し、白式HSは厳密にはスマッシュというカテゴリで誤魔化せる。

 

 その他の面々は、政府の強い圧力もあって学園での待機を余儀なくされた。この量産ブロス部隊が陽動という線は建前であったとしても否定できない。とは言え、戦力が豊富なIS学園が落ちる事などそうそうないだろう。

 

「弦人くん、無茶しないでね」

 

「ああ」

 

 スチームライフルを構えるナイトローグに、ブラッドスタークが声を掛ける。彼の怪我は完治していないため、鎮痛剤も使用してここに来ている。普段のようなスタンドプレーは自重するつもりだった。

 

「俺はサポートに徹する。スタークと京水は心置きなく戦え」

 

「もぉー!! またスターク呼びなんだからぁーっ!!」

 

「ウフフ♪ これが今のワタシとあなたの差ね。モチベーションアゲアゲよぉぉぉー!!」

 

 騒がしい二人にナイトローグは敢えて耳を傾けない。量産ブロスたちが動き出すや否や、ブラッドスタークとホールドルナの行動が切り替わった。

 互いに走り出し、双方は激しく入り乱れる。最初は戦力差を思わせない量産ブロスたちの戦いぶりも、徐々にナイトローグたちに押されていく。白式HSとエンジンブロスの激しい切り込みが小隊の連携を崩し、各個分断。ホールドルナと組んだブラッドスタークが安定して一体を攻め立て、残りの敵を彼らが叩く。

 直後、ホールドルナが召喚した幻影のマスカレイド軍団によって、量産ブロス小隊は袋叩きに遭った。

 

 

 

 ※

 

 

 

 いつからそのチョーカーを身に着けたのかは覚えていない。写真や周りの人の話などを調べる限りでは今年の四月下旬からだが、入手の経緯となるとハッキリと思い出せない。ただ、これは決して外してはならないという取ってつけられたような義務感が心の中にあった。

 蘭はそっと自身のチョーカーに手を触れる。それには極小な赤い宝石が装飾されていた。遠目ではわからない程度に、とても丁寧に形状が蜘蛛のように加工されている。その上から保護膜が被せられてあり、ちょっとやそっとでは傷はつかない。

 

 家族と共にIS学園に保護された彼女は事態が一段落着いた後、健康状態のチェックなどを受けて専用の部屋を与えられた。家族ごと誘拐された事もあって自由行動の利かない厳重な保護下に置かれ、外の状況を知る術は限られている。兄の弾が大変な事になっていると聞かされた時はやはりそうかと誰もが思い、何の事情を話さずにいきなり宇都宮に飛ばされた時よりもパニックはなかった。むしろ祖父の厳が冷静に、弾に再会できたら取り敢えず説教しようと決めていたぐらいである。

 

 すると、ズシンと地面が少し揺れた。この不自由はあまり感じられない部屋は地下シェルターの機能も兼ね備えている。地下にここまで震動が伝わるというのは、地上では今とんでもない状況になっているに違いない。先ほど、部屋の外でアラートらしき音が響き渡っていた。

 今頃、兄はどうしているのだろう。親友の数馬と一体何をつるんでいたのだろうか。家族の前で突然紫の銃を向けてきた後から、その姿は一度も目にしていない。人伝に様子を聞くばかりだ。

 思い返してみれば、弾の態度も四月になってから急に鳴りを潜めていた。変に静かになった分、数馬が多少騒がしくなった気さえする。時期的には、自分がチョーカーを着ける直前の事である。妙な憶測ばかりが浮かび上がり、気になって仕方がない。

 

 いつもの弾にならば跳ねっ返りな対応が取れていたのに、ここまで変わられると逆に困惑し、柄でもなく深く心配してしまう。親は大して気にしていなかったが、自分は違う。残しておいたデザートを盗み食いされる事や、茶化される事がめっきりなくなった。一夏の前での戻りようは、久しく思うと同時にぎこちなさを感じた。

 

 弾が何かに巻き込まれているのは確実。なら、自分は? 普段は特に気にも留めていなかったチョーカーが、ここに来てその存在感を増してきている。異様な不安が胸中で一杯になった。

 

「兄が心配か?」

 

 知らない男の声に蘭は咄嗟に振り返る。背後に立っていたのは黒いスーツ姿の青年だった。初対面のはずなのに既視感を覚える。

 危機意識から蘭が逃げようとするよりも早く、男は彼女に手をかざす。叫ぶ暇などなかった。途端に蘭の動きは止まり、徐々に虚ろとなる瞳の代わりにチョーカーの宝石が一際赤く輝き始める。

 やがて男が手を下げると、蘭は無言で彼と顔を合わせた。今の彼女に、自我とも呼ぶべき意識は残っていなかった。その機械的な所作は、さながら脳改造を受けた洗脳兵士だ。

 そして何も言われないまま、一丁の赤いショットガンと二本のボトルを渡される。支給品を確認した蘭は即座に次の行動を開始した。

 

「さて、テスト開始だ……」

 

 男はそれだけ呟き、ホログラムのように姿を消す。

 

 

 ※

 

 

 遂にIS学園にも量産ブロスの襲撃がやって来た。数は三体と少なめだが、他にもガーディアンなどの無人兵器も密かに投入されている。最上によるクラッキングとシステムダウンは既に解消されたが、よく訓練された特殊部隊にも引けを取らない動きのガーディアンたちにすっかり内部への侵入を許してしまった。

 量産ブロスは外でIS部隊の陽動・足止め。内部破壊はガーディアン。とりわけ量産型と言っても強力なヘルブロスに多くの人手が向かっているため、ガーディアンを迎撃する戦力が限られてしまう。中にはより戦闘に特化したハードタイプも確認されており、同じく無人機のガードボットで対抗しても火力・防御共に敵わない。

 そのため、限られた戦力の一人である千冬が生身でガーディアンの掃討に向かう事となった。最大の障害である量産ブロスは全力で排除しなけれぱならず、ISは全て出払っている状態。先の戦闘から修理必須の訓練機が少なくなく、予備は残されていない。これが並の兵士なら、間違いなく厳しい戦いを強いられるだろう。そう、並の兵士なら。

 

 閉じられていた隔壁が爆破される。穴が空いた場所からガーディアンが雪崩込み、クリアリングをこなして前進していく。各種センサーを搭載した頭部が忙しなく動き、敵影無しと判断した。

 その時、天井の通気路から一つの影が颯爽と舞い降りてきた。それは何の躊躇もなくガーディアン部隊の中に飛び込み、隊列と行動を狂わせる。もはや銃を撃つよりも、ナイフを使った方が早い距離だった。一体のガーディアンの首が断ち斬られる。

 影の正体は、黒の戦闘スーツに身を包んだ千冬だった。長い髪はポニーテールで一纏めにし、振るった右手にはIS用のショートブレードが納められている。立て続けにショートブレードを後ろに振り、また一体を両断した。

 

 敵の奇襲にガーディアンたちは近接戦闘へ移行する。射線上に味方が多いため発砲はしない。各々、銃剣を千冬に繰り出す。

 前後からガーディアンが一体ずつ迫る。正面から振り落とされた銃剣をショートブレードで受け止め、背後の刺突は身体をズラして回避。強烈な裏拳一発で後ろにいたガーディアンの顔面が粉砕され、銃を奪われると同時に肘鉄で大きく吹き飛ばされた。

 すかさず千冬は奪った銃で目の前のガーディアンに発砲。その胴体に風穴を開け、機能停止に追いやる。

 直後、新たなガーディアンが飛び掛かってくる。腰を低くし、彼女の背後から勢い良くタックルを仕掛けた。しかし、タックルを甘んじて受けた千冬はそのまま倒れる事なく、そのガーディアンの背中の上を華麗に後転した。今度は自分が、ガラ空きとなった相手の後ろを突く番だ。

 

 着地するや否や銃を捨て、両手に構えたショートブレードでこのガーディアンを刺突する。機械のボディはあっさりと貫通し、股下まで斬り落とされる。これで、この場にいる残りのガーディアンは一体だけとなった。

 千冬の視界を遮るジャンクが地に伏せ、尚も変わらず襲い掛ってくるガーディアンの姿が露わになる。銃弾がバラまかれるより一歩早く、千冬は剣の間合いへと詰めた。

 肉体スレスレで弾丸が飛ぶが、掠り傷にもならない。やがて千冬の位置が銃口よりも後ろとなり、床に叩きつけられた刹那にガーディアンは首を掻かれた。引き金が引かれたままの銃が、程なくして弾切れを起こす。

 

「これで三十……あらかた片付いたか」

 

 報告にあった侵入者は殲滅。懸念されていたハードガーディアンも、装甲に守られていない関節狙いで近接戦に持ち込めば訳はなかった。こことは別の場所でその残骸が転がっている。

 残すは外の量産ブロスのみ。千冬は早速その場を離れようとし──何者かに死角から急襲された。

 前に突き出された拳を受け流す。感触からしてガーディアンのような機械の身体ではない。チラリと相手の顔を確認したところ、その思い掛けない人物に千冬の目が僅かに開く。

 

「お前は──」

 

 言葉の続きを襲撃者が遮った。絶え間なく千冬を攻め立てる様は、既に彼女が手加減してあしらえるものではない。明らかにこちらを殺そうとする意志が、虚ろな表情と裏腹に存在した。

 相手の猛襲に千冬はつい、強めで反撃する。放った回し蹴りが相手に命中し、宙に浮かせる。

 しかし、大して苦も見せずに襲撃者は綺麗に着地し、その髪と同じ色をした赤いショットガン──エボルスチームガンをどこからともなく取り出した。迷う事なく引き金を引き、千冬が間一髪で襲撃者の懐へ無理やり入る。明後日の方向に飛んでいった散弾は、分厚い廊下の壁を深々と穿つ。

 相手に掴み掛かった千冬は反撃をもらわないように押し込み、その襲撃者の名を呼んだ。

 

「蘭。貴様、一体何をしている?」

 

 襲撃者の正体は蘭だった。蘭は何も答えず、輝きを増していくチョーカーの光に応じて全身の力を跳ね上げさせる。徐々に千冬の怪力に迫り、自己主張の激しいチョーカーを彼女に気付かせる。

 

「仕掛けはそのチョーカーか!」

 

 ならばとチョーカーの奪取を試みる千冬。元々一般人であるはずの蘭も、負けず劣らずの格闘術で彼女に喰い付いていた。咄嗟にぶつけ合った右ストレート同士も、全く力負けしている様子がない。

 蘭を救わなければならないだけあって、こうも一方的に殺しに掛かれると非常に戦いにくい。チョーカーの光によって、単純な戦闘力は自分に匹敵していた。明らかに鍛錬不足な身体つきなのに、ここまで機敏に動くとは。このまま長引かせれば、酷使された蘭の肉体が保たない。

 蘭が一度飛び退き、銃口を向ける。直ちに千冬も飛び下がり、物陰へと身を隠した。散弾が数発、頬や腕に掠る。

 

 そして──

 

《Gear gold! Gear scorpion!》

 

 その隙に、エボルスチームガンに二本のギアを装填されてしまった。最悪な予感に千冬が再び表に出るも時既に遅く、蘭は相変わらず口を閉じたまま変身に移行する。

 

《ファンキーマッチ! フィーバー!》

 

 発射された煙幕と金・銅の歯車が蘭の身体を包み込む。組み合わさった歯車が火花を散らしながら高速回転し、スーツを形成する。

 

《Perfect!》

 

 やがて現れたのは、真紅の双眼を持つ金色の槍士だった。通常のヘルブロスやバイカイザーとは異なり、U字のバイザーではない。後頭部にサソリの尾を小さく垂らし、淡麗な甲冑には金と銅の混じった数珠が掛けられていた。

 右手には長柄のソード、スチームランサーを持っている。石突部分に銃身があり、柄の中央部に専用のトリガーとスロットが付けられている。肩もスリムになっているため、長物を扱うのに邪魔にならない。エボルスチームガンは腰の後ろに提げられ、向き合ったままでは奪い取る事も難しい。

 その槍士の仁王立ちは威風堂々としており、とても少女の変身体とは思えない雰囲気だった。一度変身されてしまえば、遠慮する必要はなくとも生身での対抗では勝算が薄くなる。少なくとも、ショートブレード一本では心許無かった。

 槍士が力強くスチームランサーを振り落とすと、激しい衝撃波が千冬目掛けて発せられる。その四肢が高貴な毒針となって、彼女に襲い掛かった。

 

 




Q.逆襲のゴールドスコーピオン

A.地獄少女と名付けたいが英語で直訳するとダサくなるので、ギリギリまで名前悩んでます。


Q.量産ブロス

A.サメバイクの弱点無し。内蔵ユニットで飛行可能。速い、硬い、強い。取り敢えず、ビルド本編よりも優遇。

唯一のデメリットを挙げるならば、感情を排したクローンのために120%のスペックを発揮できない事。


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