「前回までのゴールドスコーピオン! 遂に私の出番がやって来た! 怯えろ財団B! 震えろ大人ども! 貴様らの身勝手な事情で私は歴史の闇に葬られ、その座をサンタケーキに奪われた! この恨み、晴らさずにはいられようか!」
「待つんだ、ゴールドスコーピオン君! 復讐は何も生まない!」
「いいや。それは違うぞ、F1ザウルス。復讐は自己満足を満たしてくれる。生産性がない? スカッとするのも最初だけ? 復讐の後は虚無しか待ってない? だからどうした! 人間だって今の幸せを存分に享受するためなら全てを犠牲にできるだろ!? いいじゃないか、堕ちた生き方を選んだって!!」
「でも……でも……やっぱり復讐は――」
「もういい、黙れ。否定の一点張りで他の答えを出さずに思考停止するヤツと話しても無意味だ」
「まぁ、そうカッカとするなよ、ゴールドスコーピオン。F1ザウルスが可哀想だろう?」
「君は……メタルビルドのタンクタンク君! 君もゴールドスコーピオン君を止めに来てくれたのかい!?」
「いいや、俺は君を連れに来たのさ。復讐の道にね。君だって歴史の闇に葬られただろ? なら彼の気持ちがよくわかるはずさ。そもそも復讐をやっちゃいけないルールなんて、元から俺たちフルボトルにはないんだ。憎くないのか? あの楽しい時を創る企業、財団Bが」
「え……え……?」
「俺は我慢できないね、同じ事されたら。それに俺はベストマッチ先のラビットをあのドラゴンに寝取られた。捨てられたんだ、アイツに。だからメタルビルドとして生まれ変わったのは運命なんだよ、きっと。これでラビットとドラゴンに復讐できる。さぁ、君も復讐に走ろうか」
「あ……あ……」
「「さぁ! さぁ!」」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
数馬が道端に落ちていたスマッシュボトルを拾ったのは偶然だった。その場でフタを開けたらネビュラガスを放出してきたのには驚くものの、ガスを浴びても奇跡的にスマッシュ化はしなかった。訳がわからなかった数馬はエンプティボトルを放り捨て、そのまま帰路へ着く。後日、南波重工の人間に目を付けられるのは当然の事であった。
落とし物のスマッシュボトルは、深夜にスマッシュを外で活動させる実験の際にヒューマンエラーで起きたものだった。制御下から外れたスマッシュの暴走により、いくつかのスマッシュボトルが紛失。回収漏れの一つが、数馬が拾ったそれである。
もはや運が悪いとしか言いようがなかった。澄まし顔で生物兵器を開発する大企業に捕まり、しかも自分の預かり知らぬところで弾も同じ目に遭っていたのだから。一方で一夏は花園であるIS学園に(強制的)に入っているものだから、一時は彼の待遇を呪いたくなった。後にそれは違うと考え直すが。
こんな事をされれば警察に通報しただけで簡単に終わると思っていたが、実際は違った。気が付けば、提出した被害届の存在がなかった事にされているのだ。もちろん馬鹿正直に真実をありありと書いた訳ではなく、シンプルに現実味のある暴行罪で。明らかに権力が働いた予感しかしなかった。
それからは、普通の男子高校生でしかない数馬の日常が一変した。目に見えないところに家族への監視を置き、必要ないはずの口止め料で心を¥色に揺さぶり、まるでバイトのように量産へ向けたカイザーシステム開発の実験台にされる。普段の日常生活を壊さないスケジュール管理と匙加減の良さが、ネビュラガス投与の影響もあって精神的にタガが外れかかっている数馬をおかしくさせた。
結果、家族を人質にされた事やモルモット扱いに憤慨するよりも、むしろこの状況を楽しもうという気持ちが徐々に強まった。そうしなければ毎日のスマッシュやガーディアンとの死闘に近い模擬戦に耐えられなかったのもあるが、漫画やアニメでしかありえないような力を手にし、どこか喜ぶ自分がいたのは事実だった。
同時にそんな楽観的な自分を嫌う部分が確かにあって、さらにそれを誤魔化そうと享楽的な部分がエスカレートする連鎖が続く。弾のように、どうにかして南波重工の掌の上から逃れようとは考えなかった。このISに比類する力が悪用されるのは明白だったにも関わらず。
「よっし、ISに勝った! なんだ俺ってやればできんじゃん! ハハハハハ! ハハ……」
IS学園のタッグトーナメントに乱入した日の事。自宅の部屋に戻った数馬は、ようやく自身の力に恐怖した。食事も喉に通らず、ベッドに潜り込んでも全く寝付けない。
機械でも怪人でもない、生の人間を初めて傷付けたという罪悪感が深く根付いていた。ISには絶対防御があるからという理屈は関係ない。シールドエネルギーがゼロになれば、防御をバリアに依存しているISは酷く脆弱となる。それこそ、エンジンブロスの手刀で軽く殺せるほどに。ナイトローグだけでなく、ベテランであるはずの教員が乗ったISを容易く鎮圧させたのだ。一歩間違えれば、殺していた。
その後悔から、反旗を翻す機会を狙っている弾に進んで協力する事に決めた。せめてもの贖罪と、これ以上南波重工の好きなようにさせてはいけないという義憤、使命感からだ。この頃になって、やっと自分の愚かさを思い知ったのだった。
二度と同じ過ちを犯して溜まるかと、しかと心に刻んで。
※
「こんにゃろッ!!」
エンジンブロスがスチームソードで量産ブロスを袈裟斬りにし、破壊する。大ダメージを与えても量産ブロスは変身解除に追い込まれる事なく、活動不可能となるや否や爆発した。無傷のはずのネビュラスチームガンやギアも、証拠は残さんと言わんばかりに自壊する。
最初の敵小隊を撃破した後、やって来る敵の増援は尽きる事を知らなかった。一つの波を超えるごとに量産ブロスが一体ずつ増え、今や十一体にまで膨れ上がっている。今しがたエンジンブロスに撃破されたのが、その第八波最後の一体である。
「ハァ……ハァ……」
荒く息を上げながらエンジンブロスは膝を着く。「戦力の逐次投入とかバカじゃねーの?」と笑っていられたのも序盤だけ。他の面々も酷く消耗しており、白式HSに至っては剣を杖代わりにして立っているのがやっとだ。
そして、間を置かずに第九波が煙幕を纏って登場する。十二体の量産ブロスが横一列に並んでいた。
「ウソだろ、おい……」
「耐久地獄だな。遊ばれてる」
白式HSが絶句する一方で、リモコンブロスは冷静さを貫く。かれこれ六十体以上の量産ブロスを撃破してきたが、流石に限界だ。トランスチームガンを手にしたブラッドスタークが、皆に声を掛ける。
「皆、一度撤退しよ!!」
そうして黒煙を振り掛けるが、身体がワープしない。まさかの事態に理解が追い付かないブラッドスタークは慌てふためき、その横でナイトローグが静かに空を見上げる。
「チッ」
赤い光のドームが横須賀基地一帯を包み込んでいた。よくよく見れば、十二体の内一体が白いパンドラボックスを持っている。
次にナイトローグは、素早くバットフルボトルをカメラガジェットに装填した。それを今度はスチームライフルのスロット部分と接続し、スコープで狙いを付けて撃つ。
《Bat. スチームショット!》
放たれた高速弾は一発だけではなかった。機関銃のように光弾が吐き出され、白いパンドラボックスを持つ量産ブロスへ一直線に飛んでいく。咄嗟に張られた歯車のシールドを打ち砕き、その白い箱に光弾を命中させる。
しかし、吹き飛ばされた白いパンドラボックスを破壊する事は叶わなかった。それどころか、傷一つ付きやしない。赤い光のドームは展開されたままだ。霧を纏って逃げる事は不可能である。
瞬間、量産ブロス部隊が一斉に駆け出してきた。白いパンドラボックスには目もくれず、ナイトローグたちに殴り掛かる。どちらが優勢なのかは明白だ。疲弊した戦士たちを、疲れを知らない兵士たちが蹂躙する。
「キャアァァァァァ!? やめやめ、やめてぇーッ!? もうパワーないのよワタシィー!!」
無様に地面に転ばされるホールドルナ。幻影のマスカレイドは召喚した側から即座に倒されてしまい、余力を浪費してしまう。誰かが彼女を助けに行こうとも、数の差がそれを許さない。それぞれ二対一に持ち込まれ、限界が近い方から倒れていく。
巨大コブラがあっさり斬り刻まれ、ブラッドスタークはゼロ距離から銃撃を受ける。白式HSはウィングスラスターを破壊され、羽交い締めに。赤目になろうとしたナイトローグはエンジンボトルを叩き落とされ、殴り飛ばされる。既に横須賀基地に配属された部隊は撤収しており、味方の増援も望めない。彼らに為す術はなかった。
「ぐあっ!?」
「弾!!」
やがてリモコンブロスが強制的に変身解除され、倒れ伏す。白式HSが叫ぶも、彼と対峙していた二体の量産ブロスはその歩みを止めない。全ての量産ブロスたちの中にあるのは、命令を忠実に遂行する事。目標を仕留めないという考えは彼らになかった。
無慈悲にも、生身の弾に刃が落とされる――はずだった。
「っ!?」
間一髪で割り込んだエンジンブロスが、その刃を受け止める。無理矢理にでも力を振り絞り、目の前にいる量産ブロスの顎を殴り抜いた。すかさずの相手方の銃撃には、白い歯車の盾を張って弾を庇う。
「弾、ギアリモコン!!」
「え」
「いいから早く! Hurry up!!」
一瞬呆ける弾だが、有無を言わせずに急かす。そそくさとギアリモコンを手渡されると、前方に張っていたシールドに亀裂が走った。
時間がない。迅速にギアリモコンをネビュラスチームガンに装填すると、崩壊したシールドの中から二体の量産ブロスが飛び出してきた。後ろの弾に危険が及ばないよう、真正面から二体に掴み掛かる。
《Gear remocon!》
「潤動ッ!!」
《ファンキーマッチ! フィーバー!》
全身全霊の掛け声と共に、二体を押し返す。追加で水色と白の歯車が弾き飛ばし、オリジナルの地獄兄弟誕生のファンファーレを奏でる。
《Perfect!》
数馬がヘルブロスとなった瞬間の行動は速かった。素手となり、未だ宙に吹き飛んだままの量産ブロス二体の頭部を掴み、握り潰す。潰れた頭部からはみ出したのは、人間のものとは思えない緑色の血と有機パーツの数々だ。頭を失った二体は地に崩れ落ち、装備ごと自壊する。
その時、場にいた全ての量産ブロスの意識が彼に向いた。ここにいる誰よりも脅威だといち早く察知し、いつでも倒せるナイトローグたちを置き捨てる。ヘルブロスが動いたのは直後だった。
ネビュラスチームガンで空間転移し、白式HSを羽交い締めにしていた個体の背後に立つ。彼から引き剥がし、容赦なく投げ飛ばした。量産ブロスは呻き声一つ漏らさずに受け身を取ったが、掴まれた腕がひしゃげかけている。
次いで、歯車を数発射出。遠くにいる量産ブロスたちを狙い、相手の注意をこちらに引き付ける。運良く、こちらが空に飛ぶと全ての量産ブロスが釣られて来た。螺旋状に上昇する彼の下を追従し、弾幕を張る。
「そうだ! 全員こっち来やがれッ!!」
地上に残されたメンバーは全員ボロボロで、肩で息をしながらぐったりとしている。黒と緑に光る派手な弾幕に晒されながら、誰も死なせまいとヘルブロスは死に物狂いで奮起した。
ある程度の高さまで浮かび上がったところで、余計な武器は仕舞う。己の拳一つで十対一の乱闘へ挑んだ。
勢い良く敵の集まった部分に突進すると、そこに固まっていた量産ブロスは四方へと散らばる。一度包囲される形となり、周囲からファンキードライブ・ショットの一斉砲火が放たれる。着弾の拍子に大爆発が発生した。激しい爆炎と共に、モクモクと黒煙が空中に立ち込める。
しかし、ゆっくりと晴れていく煙の中にヘルブロスの姿はなかった。木端微塵になった様子もなく、量産ブロスたちは即座に索敵を行い――その内の一体が頭上から強襲された。
両手を握り締め、量産ブロスの頭に鉄槌を落とすヘルブロス。容易く粉砕せしめ、息つく間もない敵の攻撃からの肉盾とする。既に死体にも等しいそのガラクタは、手足をぶらぶらさせながら献身的にヘルブロスを守り、爆散していった。
次いでヘルブロスは近くの敵に肉薄し、格闘に持ち込む。正面切っての殴り合いではやすやすと譲ってはもらえず、後ろからも別の量産ブロスが迫ってきたが、根負けするつもりは毛頭ない。正面の量産ブロスに掴み掛かり、それを後ろの個体に押し付ける。繰り出した手刀は、二体の身体をあっさり貫通した。
胸部を穿たれ、爆散。ゼロ距離で自爆に巻き込まれるものの、ヘルブロスは全く堪えない。歯車から放出したエネルギー刃を二枚操作し、背後に侍らせながら突撃した。すれ違った量産ブロスへの殴打は掠るだけで終わり、間髪入れずに飛び込んだエネルギー刃がその両腕を断ち斬った。一瞬にして両腕を喪失した量産ブロスは、程なくして胴体も真っ二つにされてエネルギー刃共々爆発する。
残り七体。連携されないよう掻き乱していくが、とうとう順序良く対応されてしまう。二体の量産ブロスに両脇を固められるや否や、エレキスチームを発動したスチームブレードを突き刺された。高圧電流が簡易的な拘束具と化し、痺れを通り越した激痛にヘルブロスが身動き取れずに呻く。
「うぐぅぅぅッ!?」
他の個体が延々と遠くから光弾を撃ち込む。近接戦に持ち込まれるのは得策ではないと判断したのだろう。ヘルブロスを捕まえる二体以外は、一ミリたりとも近付こうとしない。我慢比べなら、機械から生まれた感情や痛覚のない量産兵士に分がある。
だが、彼はそこで終わりやしなかった。右手から水色、左手から白のエネルギー波を放ち、隣にいる二体を吹き飛ばす。二体はたちまち全身を焼かれ、真っ黒焦げとなった。足や腕に刺さったスチームブレードを抜き、ブーメランの要領で敵集団に投合する。
無論、スチームブレードは撃ち落とされるが、少しでも相手に近づく盾にはなった。僅かに集中砲火が逸れた瞬時に加速し、一気に空を駆け抜ける。一体の量産ブロスに接近できれば、両手でその首を軸に回転。へし折らせる勢いで背後を取り、背中を上空目掛けて膝で蹴り飛ばした。吹き飛ぶ方向を先回りし、今度は大地にまで殴り飛ばす。
その殴打の威力は、量産ブロスをアスファルトの中にあっさり陥没させるほどだった。まだ戦おうとする量産ブロスの挙動はぎこちなく、ところどころでスパークを引き起こしている。あと一押しでトドメとなる。
すると、ヘルブロスも同じようにして他の個体が放った大量の歯車で地面へ叩き落とされた。高速で装甲を刻まれ、振り払ってはそのエネルギーの塊を掻き消す。ぶつかってくる歯車の生み出す衝撃が凄まじい。
再度飛翔しようとすると、足元から半壊の機械兵が亡者のようにしがみつき、離れようとしない。先程の仕留めきれていなかった個体だ。
「邪魔!」
ほんの一撫でで、その首をもぎ取る。ふと空を見上げると、残り四体の量産ブロスが一箇所に密集していた。揃ってスチームライフルを構え、同時にギアを装填する。
狙いは全て自分。銃口にエネルギー弾が最大限まで充填され、間もなく引き金が引かれようとしている。精密射撃となれば、スチームライフルは並の狙撃銃よりも遥かに高性能である。直撃は不味い。
しかし、ヘルブロスは回避や防御といったものを選択しなかった。むしろ逆に、真っ向から打ち破る気概だった。とっくに悲鳴を上げている己の身体にさらなる鞭を打ち付け、奮い立たせる。静かに両手に光を集めた。
光は球体へ。歯車状のエネルギー刃を発射する要領で、されど形状は球体のまま維持する。次いで左右の光球を一つにし、両手の中に大きなエネルギー塊を納めさせる。今にも大量なエネルギーが辺りに溢れ返ろうとするが、必死に保った。
そして、量産ブロスたちと同じタイミングで、そのエネルギー塊を直線状に解き放った。
「波ァァァァァーーーーーッ!!」
四発のファンキーショットが融合した巨大な光弾と、両手を突き出したヘルブロスが放つエネルギー波が衝突する。それから数秒も満たず、完全にヘルブロスのエネルギー波が相手方の攻撃を飲み込んだ。水色に輝くその光は射線上にいた量産ブロスを消し炭にし、間一髪躱して逃げようとする生き残りもあっという間に薙ぎ払う。
それだけに留まらず、エネルギー波は天を貫くまでその勢いを削がなかった。たまたま通り掛かった積乱雲を蹴散らし、空の彼方まで光芒を走らせる。全てのエネルギーを撃ちきったヘルブロスは、ヘトヘトになりながらも満足げに叫んだ。
「ハァ……ハァ……どうだ! かめはめ波撃ってやったぞゴラァ!! ハァ……ハァ……」
喜びに打ちひしがれるのも少しの間だけ。まだこの赤い結界が解けていない。あれで敵の増援が終わったのも考えづらく、継戦できる力も残っていない。白いパンドラボックスをどうにかして、早急に撤退する必要がある。
その時、視界の端で例の煙幕が発生するのを確認した。やはり敵襲は終わらないと戦慄するが、その煙の数がたった二つと極端に少なくなっている。警戒してみれば、現れたのはEVOLカイザーと見知らぬ金色の槍士だった。
「諸君、クローンヘルブロス先行量産型の実戦テストは終了だ。協力に感謝する。さて……」
開幕早々、厚かましい物言いのEVOLカイザー。瞬きした次の瞬間には赤い残像を残しながら高速移動するEVOLカイザーの攻撃によって、ヘルブロスと弾以外の人間が変身解除に追い込まれる。ワープ中の接触は不可能のようだが、それを込みにしても攻撃を叩き込み終えるのは数秒にも満たなかった。
「あぐっ……!!」
「い、今何が……?」
「あれ!? トランスチームガンがない!」
EVOLカイザーの方を見れば、彼は白いパンドラボックスだけでなく、三丁のトランスチームガンを奪取していた。オリジナル以外の二丁を、手に触れる事なく破壊する。
「命までは取らない。だが、この破壊できないオリジナルは没収だ。ボトルの回収は次の機会としよう」
これほどにまであっさり変身手段を奪われた事に、三人は愕然とした。
「くそっ! だったら……ッ!?」
そう言って一夏が再変身を試みる。しかし、白式の待機状態のブレスレットにフルボトルを挿せば、それを拒絶するかのように全身に激しい痛みと電流が走った。
「よしたまえ、織斑一夏。その状態での再変身はただの負担にしかならない。今の私が望んでいるのは、敵対ではなく彼女の実験の仕上げだ。その相手にはぜひヘルブロスにしてもらいたい。さぁ、前に出ろ」
高慢な口調は変わらず、EVOLカイザーは後ろにいる金色の槍士にそう促す。槍士は特に返事を返さず、静かにヘルブロスの前へ踊り出た。
「紹介しよう。彼女の名はゴールドスコーピオン《インフェルシス》。変身者はリモコンブロスの妹、五反田蘭だ」
それを聞き、誰よりも驚愕の表情に包まれたのは弾だった。唇を噛み締めるや否や、ネビュラスチームガンの銃口をEVOLカイザーに向ける。
だが、発砲する事は叶わなかった。インフェルシスが振るったスチームランサーから刃の如き衝撃波が放たれ、地面に強く叩き付けられる。ネビュラスチームガンも、手の届かない距離まで大きく落としてしまう。
この間にも、EVOLカイザーの解説が進む。
「今回の変身システムは、ネビュラガス未投与でもIS適性が高ければ変身可能としてみた。無論、それだけでは高い戦闘力を望めないので、外部装置による洗脳強化を施している。彼女がしていたチョーカーを奇妙に思わなかったか? 五反田弾。珍しくファッションしていると思っていただけなら、とんだ間抜けだな」
弾は何も答えない。無言を貫き、睨み付けるだけだ。その滲み出る悔しさをこれっぽっちも隠さない。
「だから何だよ」
そこで、唯一戦える力を残しているヘルブロスの声がハッキリと辺りに響き渡った。我流喧嘩スタイルのファイティングポーズを取り、インフェルシスと対峙する。
「要は変身解除させて、そのチョーカーとやらを取ればいいんだろ? 簡単じゃねぇーか、おい」
「その通りだ、ヘルブロス。しかし、既に死に体の貴様に、インフェルシスの偉大なる肥やしとなる以外の結末があると思うか? 私は手を下さんが、断言しよう。貴様は彼女の踏み台として死ぬだけだ」
「ほざいてろッ!」
ヘルブロスの叫びを皮切りに、両者は互いに踏み込んだ。今回ばかりはヘルブロスもブレードとガンを取り出し、攻撃リーチの長い彼女と何とかして渡り合う。
繰り出されるスチームランサーの一撃は、どれも非常に重たい。軽く振るだけでも衝撃波を生み出し、いとも簡単に強力な斬撃を飛ばす。歯車の射出量ではヘルブロスに分があるが、身体スペックにおいては目を見張るものがあった。スチームランサーを高速回転させる事で擬似的な盾とし、こちら側の弾幕を防ぐ。手加減するという甘い考えでは、決して勝てやしない。
鍔迫り合うと、インフェルシスの後頭部からサソリの針が伸びてきた。それはサイズや流さが伸縮自在で、ひたすらヘルブロスの顔面を貫こうとする。辛うじて躱すヘルブロスだが、次に相手の両肩から巨大なサソリの爪が生えると乾いた笑いしか出せなくなる。一対の巨大爪がみぞおちを穿ち、ヘルブロスの身体が宙に舞う。
続けて、インフェルシスは槍を逆さにして引き金を引いた。発射される光弾はヘルブロスの応射で迎撃され、迫り来る敵の銃撃を前に金色の歯車をそっとかざす。
光弾を防いだかと思いきや、それを百八十度反射。自分が撃った光弾が返ってきた事にヘルブロスは驚く。
「アリかよ、んなもん!?」
インフェルシスがスチームランサーの穂先を突き付けながら突進する。バルブは自動で回され、刀身に電撃を纏う。ヘルブロスも急いで、自身のスチームブレードのバルブを回した。
また鍔迫り合いとなり、電撃同士のぶつかり合いが強い反発を生み出す。得物が弾かれた二人はもう一度斬り掛かり――リーチの差でインフェルシスが一瞬早くヘルブロスを袈裟斬りにした。
「ぐっ、こんのッ……!!」
肩口に掛けて装甲が破壊されるヘルブロス。されども、生身にまでダメージを負おうが関係なく剣を振るい続ける。
しかし、どの攻撃もいなされるばかりで、今度は流れるようにして全身を斬り刻まれた。スーツは身を守る意味が為さぬほどに損傷し、思わず膝を着く。
「数馬!」
仲間の声がする。それだけで手放しそうになる意識を取り戻し、インフェルシスの懐に潜り込んで最後の一撃を避ける。それから彼女の腰に提げられているエボルスチームガンを目当てに、ひたすら喰らい付く。
「いくら、いい加減に生きてもよぉ――」
武器は捨てて全力で殴り掛かる。相手の変身デバイスさえ破壊できれば、勝機はあった。ネビュラガスさえ関わっていなければ、倒す=消滅のリスクも平気で切り捨てられる。何も問題はない。
「大切なモン捨てるのだけは駄目だな!!」
インフェルシスの手首を捻らせ、スチームランサーを落とさせる。まず相手を自分と同じ土俵に引きずり込ませる。
針と爪の猛襲はスウェイで躱しきり、アッパー。反撃させる暇を与えず、攻撃の手を休ませない。サソリの爪が邪魔をすれば、腕部の歯車でチェーンソーのように斬り捨てた。
完全に手荒になるが致し方なし。どのみちエボルスチームガンを奪えなければ、単純に相手に大ダメージを与えて変身解除に追い込むしかなくなる。
「上等だッ! 助けてんやんよ、友達の妹一人や二人!! だりゃあああぁぁぁぁ!!」
そうしてインフェルシスが盾にした金色の歯車を壊し抜けようとし――その壊したダメージが真っ直ぐ自分に返ってきた。
「なッ――!?」
金色の歯車が跳ね返すのは光弾だけではなかった。拳をぶつける事ですら、例え粉砕されようとも丁寧にダメージを百八十度転換させる。跳ね返された殴打の威力が腕から全身へと伝わり、途端に動きを止めたヘルブロスはその場でよろめく。
まるで全身を殴られたような感覚が自分を襲った。身体が言う事を聞かず、とうとう強制的に変身が解ける。目と鼻の先で相手に隙を晒すなど、致命的だった。
「蘭!! やめろおぉぉぉーッ!!」
兄の叫び声一つでは彼女は止まらない。無情にもその手で、数馬を地に伏せさせた。
Q.インフェルシス
A.inferno(地獄、地獄さながらの光景、大火)+ sis(妹、お嬢さん)
スチームランサーの元ネタは、フェダーインライフル。
金色の歯車の元ネタは、シールドベアラー(地球防衛軍2)、アカツキ(ガンダム)、その他。
ビームだけでなく実弾、ミサイル、ロケットすらも反射してみせるが、一応反射不可能なものも有り。反射能力にパワーを注いでいるため、射出できる量はごく僅か。