ナイトローグの再評価を目指す話   作:erif tellab

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ガラガラガラガラ……

シュー

「彼の容体は?」

「血圧が低く、心音も微弱です。心臓損傷の恐れがあります」

「心エコーを始めます……酷いな。この手術は木野先生でないと……」

※※※

「では、これより心嚢ドレナージ術、及び上行大動脈人造血管置換術を始める。メス」

「はい」

「という訳で急患が入った。前回までのあらすじはカットだ」








禁断のアイテム

 

 実戦テストに満足した最上が弾の妹と一緒に姿を消した後、俺たちは急いで数馬を近くの病院へと運んだ。ネビュラスチームガンが残っていたので搬送の手段には困らない。

 霧ワープで病院に緊急搬送された数馬は、そのまま真っ直ぐ手術室へと入れられた。最上たちが帰った時点では辛うじて意識は残っていたが、あの大怪我では応急処置も施しようがない。内臓がやられているのは確実で、吐血もしていた。

 後は手術で無事助かるのを祈るだけ。この病院のドクターたちの腕前を信じるしかなかった。

 

 その後、数馬と比べてずっと軽傷だった俺たちは通信で帰還命令が出されたのもあって、後ろ髪を引かれる思いで病院を去った。IS学園に戻ってみると、そこでも悲惨な状況が待っていた。クローンヘルブロスの襲撃があったらしい。

 しかし、投入された数は三体だけ。他はガーディアンと言った雑魚だったので危なげなく殲滅する事はできた。問題はその直後。内側から食い破ってきた、五反田蘭が変身する“インフェルシス”とやらである。

 洗脳されたと思わしき彼女の戦闘力は、明らかに戦い慣れたものを感じさせた。当然、俺と同じように何の訓練もしていない平和な少女がいきなり強くなれるはずがない。洗脳ついでに戦闘サポート能力とかも付与されたのだろう。事実、変身した彼女はあの織斑先生を跳ね除け、IS学園脱出の際に邪魔してきたデュノアさんや箒さん、他の教員部隊らを一蹴したと言う。死者は出ていないが、生身で攻撃に晒された織斑先生が一番手酷くやられていた。現在、重体の彼女はメディカルルームで医療用ナノマシンによる回復を待っていた。

 IS学園にも医療設備が整っているがあくまで試験性が強く、専門性やレベルではそこらに医療センターに大きく劣る。難しい外科手術が必要ならば、やはり病院で行なった方が良いという具合だ。

 その設備の数も大して用意されておらず、織斑先生でメディカルルームが満員という事態に陥っている。奇しくも、数馬を真っ直ぐ病院に送って正解となった。

 

 受けた被害はそれだけではない。箒さんの紅椿、デュノアさんのラファールを筆頭に多くのISがダメージレベルC。ライダーシステムやトランスチームシステムと違い、大掛かりな修理をしなければ戦闘にも出せない状況だ。もう一度クローンヘルブロスの量産部隊に攻め込まれれば、ろくな抵抗もできずに全てが終わる。俺やナギさん、京水もトランスチームガンを失い、状況は悪化の一途を辿っていた。

 

 こっそり校舎から抜け出した俺は、日陰の下で遠くの海を眺めていた。激戦の跡がよく残っており、多くの残骸が浜辺に打ち上げられている。人手がないので、今は片付けられる事はない。

 それとは対称的に、敷地内の損壊はあまり見受けられなかった。主戦場は、とにかく頑丈な事に定評のあるアリーナだったのだろうか。守る戦いは周りに気を遣わないといけなくなるから、一人でやろうとすると大変だ。こういう時だけ、頭の硬いお偉方は人命だけでなく建物も守れと抜かしたりする。少し聞き耳を立てたが、織斑先生の代わりに山田先生が政府高官との通信で横須賀基地が機能不全になった事を責められていた。山田先生にあれは、いくら何でも荷が重すぎる。

 

 弾は数馬や妹の事で思うところがあるのだろう。手当を受ければ、そそくさと一人でどこかに消えた。一夏は姉への心配や、怪我で医務室に運ばれた箒さん、デュノアさんの元へ訪れている。掛けるべき言葉は、今の俺に持ち合わせていなかった。

 

 ナイトローグに変身できなくなった。あまり考えたくなかった悪夢が、現実のものとなって心にのし掛かる。トランスチームガンを再び取り返せば済む話だが、その手段がとても思い付かない。真の意味で、自分の本当の実力が問われる。

 これ以上、後手に回る訳には行かない。戦える人が限られた今、最上のところへ直接殴り込む必要性が出てくる。

 そのためにどうすればいい? バットフルボトル片手で万歳突撃? 生身でジェットスライガー搭乗?

 いや、それらはただの無駄死にしかならない。とは言え緻密な計画を立てたところで、純然たる科学者である最上と知略勝負する事自体が無謀なので、いっそ漠然とした感じで考えた方が良いのかもしれない。ナイトローグという職業柄、シンプルに腕力で訴えた方が遥かに楽だ。

 敵の襲撃頻度はどんどん多くなっている。明日になれば、世界中に完成されたクローンヘルブロスの量産部隊一万人が解き放たれるという未曾有の事態だってあり得るのだ。ISでは機動力が十分でも、決定打となる火力が足りない。かのてんこ盛りフォームの先駆者たちのようなフルアーマーで決めていかなければ、必須戦闘力の最低ラインにも満たないだろう。肝心のそのISでさえ、余裕のある機体が残されていないが。

 

 ここまで追い詰められるのなら、かの合法的なコスプレナイトローグをれっきとしたパワードスーツに改造するべきだった。今から作業を始めても徹夜になるのは必至。間に合いやしない。

 装備はどうにかなる。スチームブレードは回収したし、ジェットスライガーの攻撃力もバカにならない。ただ、残像ワープ使いたい放題のEVOLカイザー対策となると――

 

「弦人くーん!」

 

 遠くからナギさんが俺を呼ぶ。視線をそちらに動かすと、元気に駆け寄ってくる彼女の姿が見える。ネビュラガス投与を受けたにしては、生身の走力に関しては以前と変わっていないように思える。

 

「何?」

 

「生徒会長の楯無さんが一度来てほしいって!」

 

 今度の呼び出しは会長からだった。

 

 

 場所は変わって生徒会室。この前来た時とは違い、会長以外の役員の姿がない。会長はと言うと、多少の怪我を負っていた。頬や腕の絆創膏、包帯が目立つ。

 俺やナギさん以外に京水も集まっていた。この面子の関係性からして、こうして呼び出された理由が何となくわかる。会長がおもむろに口を開いた。

 

「生徒会へようこそ。と言っても今いる役員は私だけ、だけどね。改めて自己紹介するわ。私は更識楯無。生徒会長にして学園最強と謳われし高校二年生よ」

 

 バッと開かれる、白地に“学園最強”と黒文字で書かれた扇子。会長は話を続ける。

 

「集まってもらったのは他でもないわ。あなたたちがトランスチームガンを失った件で話があるの、石倉さんが」

 

 そう言って、デスクの上に一つの小さな装置を置く。六角形のプレートとなっているそれは、中心部に埋め込まれたレンズからレオナルド博士の顔を立体で映し出す。

 

『やぁ諸君。無事で何よりだ』

 

「レオナルド博士、用件とは何ですか?」

 

『俺の方でキャッチしていたトランスチームガンの信号が消滅してな。まさかとは思ったが全滅らしいな。俺の叡智の結晶を紛失するとか情けないぞ! 特にナギ、京水!』

 

「うぇっと……それはぁ……」

 

「テヘペロ♪」

 

 どうやらレオナルド博士はご立腹のようで、ナギさんは気まずそうに顔を下に向ける。一方で京水は完全に開き直っていた。

 

『そんな訳だから、困ったお前たちに俺からプレゼントを贈る事にした! プレゼントは既に楯無に渡してある!』

 

「そういう事。研究所に戻る葛城博士たちの護衛ついでに頼まれちゃって」

 

 そして、会長はどこからともなくスーツケースを取り出した。すかさず鍵が開けられ、その中身が俺たちの前に披露される。

 特徴的な赤のレバーに、配管とギアが組み合わされたバックル部分。スロットは二つ用意され、特に一番目立つ円形の発動機の姿を忘れやしない。この忌まわしくも輝かしい希望の光に、俺は目を疑った。

 

「これ! えっと、何だっけ? ……そう! ビルドドライバー!」

 

「しかもちょうど三人分! ……あら? ちょっと待ってくれないかしら。これ使うのにボトル二本必要よね? ワタシそんなに持ってな〜い!」

 

『ナギはコブラフルボトルをブラッドドラゴンに填めてセット! 京水は日室少年から分けてもらえ! 彼はバットフルボトルと改造ガジェットの合体で行けるようにしてあるから!』

 

 ナギさんと京水は各々にビルドドライバーを手にする。そのはしゃぎぶりには、俺もそんな風になれればという鬱屈とした感情が芽生えてくる。

 わかっている。それを掴めば周りの世界が変わる事を。力を求めるなら合理的にもその選択が正しく、普通の人ならば後悔する事はまずない。愛と平和のために使えば、どんな相手とだって戦える。悪党を体現するコウモリの翼をへし折り、無様に地へ落とす事も可能だ。ナイトローグをボロボロにした、かのラビットタンクスパークリングのように。

 やがて、唯一ビルドドライバーを取っていないのは俺だけとなった。不思議に思った京水が、きょとんと首を傾げる。

 

「弦人ちゃん、どうしたの?」

 

 そんなものは端から決まりきっている。これは俺にとって特典でも何でもなく、とてつもなく残酷な仕打ちだ。どうして両手を上げて喜べようか。思わず俺は、レオナルド博士に追及する。

 

「博士、トランスチームガンがないのはわざとなんですか?」

 

『トランスチームシステムより俺のライダーシステムの方が優れているからだ。さぁ、受け取りたまえ』

 

 彼の容赦ない正論に俺は一言も言い返せない。自分もそうだと認識してしまっているからだ。

 いくら序盤で優位に立とうとも、元々トランスチームシステムはライダーシステムの仮想敵として用意されたもの。拡張性や自由度では逆立ちしたって敵わず、下手すればカイザーシステムの劣化コピーという謗りだって受ける。少なくとも根気や愛情、拘りがなければ、相手がパワーアップしてもなお使い続けるのは精神的にも肉体的にも辛い。瀕死のエージェントがナイフ一本で生物兵器を有するカルト教団を「超余裕!」と言いながら殲滅させるぐらいに、俺が貫きたい意志は世間一般で言うところの“無謀”なのだ。

 最上に対抗するためには受け取るのがベスト。しかしナイトローグの事を想えば、このまま真っ直ぐ手を伸ばす事さえ億劫になる。ここで折れてしまえば、もしかしなくとも捨てられたサガークのようにナイトローグを綺麗サッパリ忘れてしまう事だろう。ビルドドライバーの魅力に取り憑かれて。こんなにまで気持ちが揺らいでいるのだ。そこまで自分が精神的に強いとは、明らかに断言できない。

 ならば、ここは何も言わずに立ち去ろう。ビルドドライバーに頼らない方法を直ちに模索しなければならない。

 

『どこへ行くんだ?』

 

 すると、レオナルド博士が俺を呼び止めた。ここで足が止まってしまうのは、ビルドドライバーからの魅力を断ち切れていないからだろう。あの力に甘えてはいけない。ビルドになるぐらいなら、コスプレナイトローグで戦う事を選ぶ。

 

『生身で戦おうとするつもりならやめた方が良いな。いくらネビュラガスの副次効果で頑丈になっているとは言え、君が人間である事に変わりはない。それに頑丈になっただけで君はバランス重視、ナギは耐久力、京水は柔軟特化と肉体に変化を及ぼしているに過ぎない。と言うか、ここまで極端に尖った個人差が出るとは思わなかったがな。お前らおかしすぎ』

 

 それは初耳だ。二人に分けられたボトルの相性とやらも、それで決まったのだろうか。

 

『それに、いかにも量産タイプというカラーリングのした歯車野郎がゾロゾロと研究所の方にも出てきたんだが……あれはヤバかった。ちょうどリニューアルしたドライバーと護衛の楯無がいなかったら、死んでたかもしれん』

 

「ええ、出てきたのは横須賀基地やIS学園を襲ったのと同じ無人機タイプだったわ。流石に七十体も攻めてきやしなかったけど、現行のISやトランスチームシステムでは対抗するのは厳しいと言ったところだわね」

 

 新たな事実が、レオナルド博士と会長の意見と共に突き付けられる。これから一切の予断も許されないのが、嫌と言うほど伝わった。レオナルド博士はともかく、学園最強の名に恥じない実力を持つ会長がそう言うのだ。間違いない。

 あの織斑先生だって、生身のところをインフェルシスに襲われて敗れたと言う。生身では彼女よりもずっと弱い俺が変身せずに戦いに出たところで、精々倒せるのはスマッシュ程度だと誰に言われなくても理解している。

 だからこそ悔しい。こうしてモノに頼らなければ弱いまま何もできないのもそうだし、守りたいものがあるのならビルドドライバーを手にしなければならないのが悔しい。ナイトローグで生涯戦い抜くのを諦めるという、過酷な選択肢が目の前で立ちはだかる。

 

 ふと周りを見れば、期待と困惑の混ざった眼差しをしたナギさんと京水の顔が視界に映る。二人にまでトランスチームシステムを使い続けろと強要はしないが、ビルドドライバーを拒否する事は彼女たちを守れない事にも直結する。

 もしも守れなければ、その事を悔やみ続けるだけではない。娘を失った家族に激しく非難され、大切な人一人も守れない愚かな敗北者という決して降ろす事ができない罪の十字架を背負う事となる。

 守る者が弱ければその分だけ犠牲も多くなり、当然それを周りに咎められる。非情な事に、世の中には完璧な結果しか求めない人間もいるのだ。被災地で消防士が死を恐れず、今にも崩れそうな建物の中に閉じ込められた人を助けに行くといった過程などは考慮しない。誰かを死なせればここぞとばかりに責め立て、完璧な結果を残せば例え助けられた当人であろうとも、さぞ当たり前かのように済ませて感謝の一言も言わない。

 最悪、弱いならどんなに守りたいものがあっても戦うなという冷たく無関心な声も飛び出してくる事だろう。それはスバリ、ナイトローグを失った俺の事を指している。このままでは、本当にその通りになってしまう――

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が付くと、俺は真っ白な空間の中にいた。やけに見覚えがあるなと思うと同時に、目の前でナイトローグが現れる。

 

「よく来たわね」

 

 発せられたのは聞き覚えのある女性の声。このナイトローグは、俺が以前に出会っていたのと同じナイトローグだった。

 

「ここは?」

 

「ここはあなたの内なる世界。あなたは今、氷室幻徳や内海成彰と同じ道を辿ろうとしている」

 

 すると、何の前触れもなしに俺の手元にスチームブレードが握られた。突然の事に目を白黒させるのも束の間、同じく剣を手にしたナイトローグが斬り掛かってくる。

 肩口が斬られるところを、上半身を反らしてギリギリ躱す。しかし、恐ろしく研ぎ澄まされた斬撃は風さえも断ち、衣服が僅かに斬り裂かれた。俺は数歩飛び退き、スチームブレードを一度下げたナイトローグと見合う。

 

「あなたは今日まで、どんな苦難が立ち塞がってもめげずにナイトローグとして戦ってきた。だから、あなたにビルドドライバーを使う事を赦すわ」

 

 急に何を言い出すかと思えば、俺がビルドドライバーで変身するのを赦すだなんて。ナイトローグが直々にそんな発言をかますなど、そんな自分で自分を否定するなど予想外の出来事だ。

 

「そのために、ここで私と戦って打ち克つ事。それがあなたに課せられた試練よ」

 

 試練? ナイトローグに勝つ事が? このスチームブレードでナイトローグを斬れと?

 意味がわからない。こんなもの、まるで踏み絵じゃないか。自分の好きなものを自分で傷付けるなど、理解に苦しむ思考だ。

 

「……試練は受けない」

 

「背を向けないで。これは氷室幻徳たちも辿った道。……私をボロ雑巾のように捨てて、ライダーシステムに走った彼らのね」

 

 自虐してまで俺の注意を引っ張ろうとするや否や、ナイトローグは再び襲い掛かる。迫り来る剣戟を俺は必死に受け流しながら、ナイトローグに尋ねる。

 

「だからどうして! そんなに自分を傷付ける!」

 

「いいえ、私は自分を傷付けてはいない。これはあなたにとって必要な事なのよ」

 

「ますますわからない! ナイトローグを倒す必要なんてないだろう!?」

 

「わかっているはず。もうトランスチームシステムでは力不足という事を。それでは最上魁星に勝てない」

 

 痛いところで突かれ、防御に徹する剣先が鈍る。次の瞬間にはスチームブレードを頭上に弾き飛ばされ、俺は胴を蹴られる。

 地面に突っ伏し、急いで立ち上がる。クルクルと落ちるスチームブレードをナイトローグはキャッチすると、丁寧にもそれを俺の元へ返した。刃が綺麗に地面に突き刺さり、ナイトローグの発する鋭いプレッシャーが俺にスチームブレードを抜き取らせる。

 直後、ナイトローグは俺への攻撃を再開した。遠慮はまるでしてくれない。腕や足に斬撃が及び、俺が倒れると再び立ち上がるまで不動の姿勢を貫く。不思議と出血はないものの、斬られた痛覚は神経を通してダイレクトに脳へと伝わっている。痛みでショック死するのは十分にありえた。

 

 ナイトローグが戦意を高めている一方で、俺はどうしてもこの試練に意味を見出せなかった。変身デバイスの乗り換えにこうした試練を受けた人物など、心当たりがない。歴代ナイトローグが辿った道と言うが、共通項がナイトローグに変身した事だけで先人たち二人は何の躊躇いもなしにライダーシステムへ乗り換えた。エボルトだって乗り換えた。ここで立ち止まっている俺とは全然違いすぎる。

 もちろん、それは乗り換え=ナイトローグへの裏切りという許しがたい行為である。どんなにボロボロになろうとも、どんなにこちらが傷付けられようとも、ナイトローグの味方でありたい限り裏切る事もない。この生死の狭間で感情的になりすぎた余り、激しく斬り結んでいるというのに俺は饒舌に叫んでいた。

 

「嫌だ! 俺はナイトローグを裏切れない! 裏切りたくない! 捨てたくないんだ!」

 

「なら、もしも私が何の罪のない人々を殺したら、あなたはそれを止めずに眺めるだけなの? 人々を殺し続ける私を止めないの?」

 

「そんな起きもしない仮定はどうでもいいッ!!」

 

「どうでも良くないわ。あなた、真のナイトローグになるのではなかったの?」

 

 刹那、ハッとさせられた俺の胸をナイトローグは容赦なく刺し貫く。それから乱暴に剣を引き抜かれ、地面に押し倒される。

 呼吸ができなかった。スチームブレードの太い刃で肋骨が破壊され、心臓の辺りに鈍い痛みがずっと残る。ようやく息が吸えるかと思いきや、喉が酷く咽る。流れるはずのおびただしい量の血は一向に出てこないが、視界に入っているナイトローグは冷たく俺を見下ろすだけで、決して救いの手は差し伸べて来なかった。

 のたうち回ろうとする痛みが増すので、ひたすら我慢する。全身に気持ち悪い汗がぶわっと吹き出て、何も考えられなくなる。

 やがて痛みは引き、自然と胸の傷が消えていく。額から汗が垂れる。とても気が狂いそうな時間だった。

 それでもナイトローグは終始狼狽えなかった。顎をクイッと動かし、戦うように無言で促す。

 先程のナイトローグの言葉が俺の中で反芻する。次にスチームブレードを構えると、少しだけ軽くなった気がした。

 

「理想を目指すなら、いずれ来るわ。情を捨て、親しかった者や大切な人を斬らなければならない日が」

 

 正眼の構えをしながら、静かに耳を傾ける。

 

「もしも鏡ナギがロストスマッシュになって暴れたら、あなたはどうする? ヘルヘイムの実を食べてインベスになったら? 本能のままに人を喰らうアマゾンになったら? ラッキーは続かない。普通の人には殺す事でしか救えないのよ。そう、どんなに強くても、どんなにハザードレベルが高くてもあなたは普通の人なの」

 

 もう、言いたい事はわかった。感覚を研ぎ澄まし、初めて俺の方から動き出す。自分が最も恐れていたものと向き合い、その覚悟を乗せた刃はブレる事なく前に突き出される。

 その後、俺は自分でもどう発したのかわからないほどの叫び声を出しながら、ナイトローグの身体を貫いた。そのまま強引に横へ一閃し、致命傷でよろめくナイトローグに膝を着かせる。スチームブレードは死んでも放さない雰囲気だったが、指先の力は弱っていく一方だ。遂に手からスチームブレードを地面に落とす。

 それに合わせて、俺もガクリとその場に座り込んだ。相手はもう動く様子はない。緊張の糸が解け、荒くなった息を静かに整える。

 

 とうとう、ナイトローグを手に掛けてしまった。一度落ち着いた時間が訪れれば、いくら頭で理解していようとも心が悲しみや罪悪感で満ち溢れる。とても笑って済ませる事はできない。

 

「ビルドドライバーを使えば、それはもうナイトローグじゃない。ただの仮面ライダービルドなんだ。ビルドに似た何かなんだ。仮面ライダーの称号は、俺には重すぎるんだよ……」

 

 つらづらと本音をぶち撒ける。気分はさながら、死刑囚を殺すボタンを一人で押した執行人のようだ。今まで重ねた罪を囚人が悔い改め、潔く死刑を受け入れようとした瞬間にやはり死にたくないと情けない涙声で命乞いする様子を間近で目に焼き付けたような、そんな感じだ。

 例え周囲が仮面ライダーと呼ばなくとも、他ならぬ俺自身がそう呼んでしまう。その称号を背負った途端に圧し潰されるのは想像に容易いから、やはりナイトローグのままでありたい。ナイトローグであった方が気が楽だ。ナイトローグである方が、ナイトローグのためである方が、これからもずっと戦える。ビルドドライバーを使えば最後、ただのナイトローグと名乗れなくなる。

 

「名乗り続ければいい。例え外見やシステムが異なろうとも、ナイトローグと名乗ればいい。他の人が赦さなくても、私が赦す」

 

「そんな中途半端な事ができたら、最初から悩んでない……」

 

 もしもビルドに変身すれば、変身者を失ったナイトローグは再び永遠を彷徨い続けるだろう。受け継いでくれる者は一人もいない。受け継ぐくらいなら、誰だってライダーシステムに走る。

 

「やっぱりあなたは変な人。他の人は簡単に捨てたのに、どうしてそこまで私に入れ込むの?」

 

「良いところも、悪いところも好きだから」

 

 傷を両手で押さえながらも俺を見つめてくるナイトローグの表情は、どこか穏やかそうだった。

 

 

 





Q.スクラップドライバー

A.今回のVシネ『グリス』でスクラッシュドライバーも完全にナイトローグの仲間入りです。でもボトル三本使って必殺技使ったり、エボルラビットの必殺キック直撃しても破損しないぐらい、兵器として完成されているから良いのです。ナイトローグより優遇されていたので。


……されていたので。




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