ナイトローグの再評価を目指す話   作:erif tellab

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「前回までのあらすじ。復讐の業火は真っ白に燃え尽き、何も残す事なく、何も生み出す事なく消えて行った。しかし、ヘルブロスたちは違った。少なくとも彼を人として看取ったのだった。だからこそ、洗脳兵士のインフェルシスの凶行が彼らの――特にヘルブロスの琴線に触れたのだ」

「青ちゃん。今の感じ、ものすごく戦争ドキュメンタリーのナレーションみたいな声だったよ。滅茶苦茶渋かった!」

「黄羽と赤羽が棒読みすぎるんだよ、大根役者みたいに朗読して。何だお前ら、小学生か」

「うるせぇな、堅苦しい文章読むとそうなるんだよ! 俺と黄羽も! それよりもおい、こっちも生存戦略を大詰めにしようぜ」

「キルバスも攻略してようやく平和になったかと思えば、メタルビルドにファントムクラッシャー。……こりゃ俺死ぬな、真っ先に」

「まぁた青ちゃんがネガティブになってるー。大丈夫だよ、三人で行けば何とかなるって!」

「そうそう! いい加減ハザードフォームのトラウマなんて吹っ飛ばせ! 東都と戦争するよりもずっと楽なはずだから! ナイトローグたちも最終決戦に挑んでんだし、俺たちも最後まで頑張るぞ! えいえいおー!」

「「「えいえいおー!!」」」







乱 ―Kaiser―

 次の階層へと向かったナイトローグたち。貨物用のエレベーターを上がっていった先には、さながら宇宙を舞台とした亜空間が広がっていた。廃墟となった高層ビルの街がデブリ帯のように漂い、少しでもボロボロのコンクリート足場から踏み外すと、遥か下方には美しい星雲が待っている。

 宇宙に数多の星々が煌めく。無人のビル街には人工的な灯りは点いておらず、普通なら視認が難しい六等星の朧気な輝きも見つけられる。太陽のように亜空間を一つの星系と見た場合の恒星は間近になく、強いて言うなら足元の星雲が非常灯のような明るさでデブリ帯を仄かに照らす。

 亜空間の遥か前方には、未だ現実世界でもペーパープランに留まっている軌道エレベーターのような柱が、星雲の中から亜空間の天辺を突き抜けて真っ直ぐ繋がっていた。この景色が最上の趣味であれば、マッドサイエンティストでなければどれほど友好的に打ち解けられた事か。

 

 三人は高速道路の上にいた。途中で道が崩れており、下を覗けば地上のない星雲の底が見える。軽々と飛び越えると、軌道エレベーターまでの中間地点の辺りで二体のスマッシュと接触した。

 そのスマッシュの特徴はスッキリとした、まるで素体とも言うべきようなボディをしていた。よくあるような上半身の肥大化はなく、人間だった頃の面影が非常に残っている。

 同一個体のスマッシュたちはそれぞれネビュラスチームガンを所持していた。ナイトローグたちの姿を見つけるや否や、そそくさとギアを装填して引き金を引く。

 

《Gear engine! ファンキー!》

 

《Gear remocon! ファンキー!》

 

 銃口から撃たれたのは、赤と青の歯車。何の故障もなく、カイザーシステムはスマッシュの全身を戦闘スーツで覆っていく。

 

《Engine running gear》

 

《Remote control gear》

 

 かくして、スマッシュが変身するRカイザーとLカイザーが現れた。共にエネルギー刃やネビュラスチームガンを撃つだけでなく、スマッシュとしての能力である雷撃や風刃までも絶え間なく放つ。その正確無比な射撃に、迂闊に軌道エレベーターへ近寄れなくなったナイトローグたちは各々回避に徹する。

 コンクリートの壁やフェンス程度では盾にもならない。たちまち敵の攻撃に粉砕され、隙を見てナイトローグが単身突っ切ろうと試みるが、二体は抜け目なかった。スチームショルダーより放つ煙でコンマ数秒のラグもなく、ナイトローグの目前へ瞬間移動する。咄嗟に防御した彼を容赦なく、二体同時に拳をストレートにぶつける。

 大きく吹き飛ばされるナイトローグ。それと入れ替わるように、雪羅のビームシールドを前面に押し出した白式HSがカイザーたちに突撃した。

 

「うおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 雪羅は敵の放つエネルギー兵器をことごとく打ち消す。餓狼の如く斬り込む彼の勢いに、カイザーたちは纏めて押し込められる。エネルギー切れを気にしない乱射と、ハーフスマッシュ化による普通の人間では負担大で実現不可能な超機動力で二体を翻弄した。

 

「弦人、鏡さん、先行ってくれ! こっちは一人でどうにかなりそうだ!!」

 

 口を開く暇がない白式HSが、通信越しで大きく叫ぶ。一方で敵の注意が薄くなったブラッドスタークとナイトローグは、見事な立ち回りを見せる彼に惚れ惚れとしながら、その勇敢な姿に感謝して先に進む。

 

「わかった!! 気を付けてね!!」

 

「武運を祈る……!!」

 

 赤と黒の翼を広げた二人が宇宙を素早く駆ける。それを追う形で白式HSと戦うカイザーたちは、結局彼に阻まれたまま二人の侵入を防ぐ事ができず終いだった。

 

 

 

 

 

 

 ヘルブロスはインフェルシスと武器を高速で交えながら、地下路線を一直線に疾走する。低い前傾姿勢で走る両者は速度を緩める事なく、慣性操作の姿勢制御も駆使しつつ生身では成し得ない打ち合いを繰り広げた。

 やがて行き止まりに差し掛かり、突如インフェルシスが前方の壁へ跳躍する。ぶつかる直前でブレーキを掛けるヘルブロスの一方で、壁を足場に跳んだ彼女は真正面から彼へと斬り掛かる。剣と槍が勢い良くぶつかり、そのとてつもない衝撃が周囲に伝播する。夥しい量の塵があっという間に舞い上がり、近くにあった線路が軋み、噴火に遭ったかのように辺り一帯のランプやガラスが割れる。

 

「ぐうっ……!!」

 

 苦悶の声を上げるヘルブロス。実の兄であるにも関わらず、スチームランサーを振るう妹は洗脳の影響で全ての攻撃に殺意しか乗せていない。厳密に本人の意識は預かり知らぬところなので殺気などは存在しないし感知できないが、こちらも本気で戦わなければ数馬の二の舞になるだけだ。舌打ちまでしたくなる。

 インフェルシスが恐ろしく鋭い刺突を放つ。それをブレードの腹で受け止めたヘルブロスだが、凄まじいパワーに踏ん張りが利かせられない。そのまま猛スピードで押し出され、何枚もの分厚い壁を瞬時に貫通していく。

 身体をパイルバンカーの杭代わりにさせられ、ふわっと宙に吹き飛んだヘルブロスは地上へと踊り出ていく。辺りは純白のビルに金、翠の印がよく映える大都市となっていた。電線や信号機の類いは見当たらず、区画ごとに道路下から飛び出す隔壁が設けられている。と言っても壁の上が空いているので変身さえしていれば越えるのは可能だが、何の道具もない生身の人間では突破が不可能なほどの高さだ。

 貨物を運ぶモノレールは、周囲にそのエネルギーを伝達させている。送電線代わりだ。翠色に発光するエネルギーが伝播し、無人の街を都心並に明るくする。

 

 ヘルブロスは窓ガラスを割りながら、近くのオフィスビルの一室へと飛び込んだ。そうして受け身を取りつつ、外から銅のエネルギー刃が数枚飛来してくる事に気付く。スチームライフルで撃ち落とす。

 金の歯車のように攻撃の反射能力はなかった。しかし、撃ち落とされる瞬間に近くのエネルギー刃も巻き込んで連鎖爆発を引き起こし、ヘルブロスは咄嗟に後退せざるを得ない。彼が再び窓ガラスを破って外に出た直後、その大きな爆発はオフィスビルを瞬く間に倒壊させた。背後で粉塵と瓦礫が飛び舞う。

 

 それから目の前のビルの屋上へ転がるように着地する。さっと振り向けば、まだ煙たい粉塵が止まない倒壊したビル跡の向こうよりインフェルシスが現れる。彼女もゆっくりと屋上に降り立てば、仕切り直しと言わんばかりにスチームランサーを構える。ヘルブロスもそれに応じた。

 

「おい、蘭。兄貴だぞ」

 

 そう問い掛けるが、彼女は答えない。代わりにスチームランサーを振るう。

 

「いい加減……目を覚ませッ!」

 

 斬撃を受け止め、何度も打ち合う。鍔迫り合った先に偶然にも二人は息を合わせるよう、揃って相手の武器を宙へ弾き飛ばした。

 それぞれ武器が交換される。しかし、それを受け取るつもりはない。さながら矢が装填されたボウガンのように、ヘルブロスとインフェルシスはほぼ同時に剣と槍を蹴り飛ばす。脚で放たれた二つの刃物はそれぞれの持ち主に命中する寸前で、見事キャッチされた。 

 

 それも束の間、彼らはもう一度鍔迫り合う。インフェルシスが両肩からサソリの爪を放つのに対し、ヘルブロスは歯車の盾を召喚してガード。すかさず、互いにギアを武器に装填させる。

 

《Gear scorpion!》

 

《Gear engine!》

 

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 鍔迫りから弾かれるようにして飛び退き、銃口からエネルギー弾を撃つ。威力は双方共に負けず劣らず、どちらか一方を打ち破る事なく強烈な対消滅が発生した。行き場を失い爆発するエネルギーに、ヘルブロスとインフェルシスは屋上から身を吹き飛ばされる。

 

 空中に浮かんで受け身を取ったヘルブロスは、そそくさとギアエンジンをビルドドライバーに入れ直してレバーを回す。ドライバーから音声が流れるよりも一歩早く、彼は突撃した。

 

『Ready go! ボルテックアタック!』

 

 同じく宙で身を翻したインフェルシスは、前面に金色の歯車を何枚も展開させる。次いでエボルスチームガンを歯車に向けて撃ち出し、自分が歯車の後ろに隠れている一方で散弾をヘルブロスの元へ綺麗に反射させていった。

 迎撃の反射弾が猛威を振るう。だが、ヘルブロスは怖気付きはしない。飛び蹴りの姿勢で急加速し、射出した水色のエネルギー刃は金の歯車に命中する直前に自爆。爆発の巻き添えとなった盾は、それを反射する事なく静かに消滅していく。

 

「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 遮断物がなくなったインフェルシスに、ヘルブロスがライダーキックを繰り出す。彼女が慌ててスチームランサーで真っ向からぶつかろうとするものの、敢えなく穂先が力負けしてしまう。ガラ空きとなった彼女の胴に、渾身の一撃が炸裂した。

 インフェルシスの身体が飛んでいく。背中から落ちたアスファルトの道を激しく削りながら二転三転し、その変身が解除された。受けたダメージに見合わず生身に目立った外傷は特になく、その柔い肌には傷一つ付いていない。ヘルブロスは急いで彼女の元に駆け寄る。

 その時だった。目を閉じて倒れていた蘭が急に起き上がり、至近距離まで近付いてきたヘルブロスを撃ったのは。所持者と同様に無傷のエボルスチームガンが連射される。思わず胸部に直撃を受けたヘルブロスは、後ろから大きく倒れ込んだ。

 

《Gear gold!》

 

 蘭がエボルスチームガンにギアをセットした瞬間、負担のある再変身による拒絶反応が起きる。しかし、エボルスチームガンから電流が全身に流れても彼女は顔色一つ変えず、挙動をカクつかせながらも次のギアをセットしようとする。

 

「やめろ蘭!!」

 

 間髪入れずに立ち上がったヘルブロスが蘭と組み合う。生身のままでも蘭の戦闘力は健在で、とても人間技とは思えない。並のスマッシュよりも殴る力が強く、非常に格闘術に精通している。エボルスチームガンを鈍器に見立て、隙あらば関節を極めようとまでしていた。ヘルブロスと戦う度に、蘭の首元にあるチョーカーの光が強まる。

 

 最上に言われるまで、蘭のしていたチョーカーはお洒落なのだろうと適当に考えては一切何も気付かなかった。既に魔の手が伸びていたのだと知らず、悔しい以外の言葉が見つからない。この瞬間まで、自分は相手に先手を打たれるばかりで何もできていない。

 やめれば良かったのに、南波重工の黒い取引現場を覗いてしまった。

 不運にもハザードレベル2以上あったせいで、兵器の被験体にされた。監視という体で家族を人質にされた。

 その嫌な気持ちを誤魔化してくるように、甘い蜜滴る暗黒の中へとズルズル引き摺り込んでくるように、バイト代という名の口止め料が渡された。

 人質を突き付けられて、IS学園での実戦テストを拒否できなかった。

 ダメ元でもいいから誰かに助けを求めようともしなかった。

 親しい友が妹に殺されかけた。

 そして先程、妹が人殺しになった。実際に手を下したのがハードガーディアンだったとしても、人殺しに加担したのは間違いない。本人の意志関係なしに、彼女なら忌避する事は確実な殺人に手を染めさせてしまった。

 

 例えどんなに自分が変わってしまっても、バカなところは相変わらずだ。大事な場面で何も成せずに終わってしまう。

 しかし、だからこそ、ここで諦めてはならない。絶対に蘭を助ける。その一心で彼は、彼女が着けているチョーカーに手を伸ばした。

 

「……っ!!」

 

 一度掴めば、後は簡単。蘭の首元からチョーカーを外すと、彼女は糸の切れた人形のようにその場で崩れ落ちた。ヘルブロスは慌てて彼女を片腕で受け止める。

 一方でチョーカーは、握り締められた彼の片手の中で生物のようにジタバタと暴れていた。蜘蛛のような細長い八本足を生やし、無謀にも蘭の元へ戻ろうとする。それを見たヘルブロスは――

 

「コイツが……!」

 

 声に怒気を交えながら、赤い宝石ごとチョーカーを粉々に握り潰す。全体を破壊し尽くされたチョーカーは、二度と動く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 迫り来る赤熱刃を左腕で受け止め、相手の胴を殴る。大きく退いたRカイザーと入れ替わるようにして、Lカイザーが間髪入れずに白式HSへと攻撃を仕掛ける。スラスターや翼も無しに浮かび上がる二体は、徐々にだが彼との空中戦に対応していっていた。

 銃撃とエネルギー刃がやって来る。白式HSはそれらを華麗に躱しつつ、回避できない分は雪羅で防ぐ。

 

「こいつら、徐々に学習してるっ……!?」

 

 微かにだが、カイザーたちと何度もぶつかり合ってはそんな直感が働いた。連携の精度も厄介と感じるほどにだんだん上がり、ナイトローグたちを先に行かせたときのような優位性が失われつつある。こちらが決め手を使おうとすれば、必ず敵はその妨害に走ってくる。考え無しのゴリ押しは最早、通用しなかった。

 長期戦に持ち込まれれば、不毛な体力勝負となる。早期に決着を着けるべきだ。あまり時間も掛けていられなかった白式HSは、多少のダメージは覚悟の上で斬り掛かっていく。

 

 Lカイザーのスチームブレードを上に弾き、相手の膝の上を走るようにして後転。上下逆さまになったまま、後ろから迫るRカイザーにビームを撃って牽制。ほんの少しの間だけ背中を無防備にしていると、ここぞとばかりにLカイザーが刺突を仕掛けてきた。

 

《アイススチーム》

 

 咄嗟に白式HSが身をよじらせると、脇腹に氷結した刀身が掠る。次の瞬間、逃がすまいとLカイザーの腕を掴んだ彼は、雪片弍型改を逆手に構えて背後に突き出す。同時に刃から吹き出した煌めく蒼光が、Lカイザーを飲み込むや否や彼方に吹き飛ばした。くの字に折れ曲がった青いボディがいくつもの廃ビルを貫通していく。

 

「まずイチ!」

 

 残すは正面のRカイザーのみ。一対一となれば負ける要素も少なくなる。ここで一気に畳み掛けた。

 勢い良く前進していく白式HS。剣を振る彼の猛攻にRカイザーはどんどん後ろへと下がっていく。ネビュラスチームガンとスチームブレードを叩き落とされ、素手で攻撃を捌きながら壁を破って無人のショッピングモールに入る。

 すると、Rカイザーの手のひらに電撃が纏われた。肩口への斬撃を甘んじて受け、手のひらを白式HSに触れさせる。食らった損傷は小さくないが、ゼロ距離から電撃を浴びた白式HSの動きが止まる。

 

「うぐっ!?」

 

 次にRカイザーは、深く抉るようにして彼の腹部を殴打。そのまま彼の身体を持ち上げ、空いた腕で天井目掛けて全力で殴り抜く。打ち上げられた白式HSはあっさりとショッピングモールの天井を突き破り、それをRカイザーが追撃していく。

 白式HSが宙を舞う。何とか姿勢制御してその場に留まり、休む暇もなく突進してくるRカイザーの姿を目にする。その腕に纏う電撃の量は、明らかに増している。

 

「でやあぁぁぁぁぁ!!」

 

 放電に耐え、間近まで肉薄してきたRカイザーの頭部を蹴り飛ばす。

 蹴られる形で屋上まで戻っていったRカイザーは、見事なまでに首が折れ曲がっていた。それを見た白式HSが青褪めるのも束の間、平然としたまま自力でその首を元通りにする。一瞬、やってはいけない罪の意識を覚えた自分がバカバカしくなった。

 しかし、通常のスマッシュがカイザーシステムで変身したにしては、頑強性や戦闘力が先日の事件で現れた個体群よりも遥かにずば抜けている。普通なら、今の首の骨折で戦闘不能になるものを。ナイトローグとヘルブロスの会話で出た“クローン”という単語が、ふと頭の中によぎる。

 

 その時、Rカイザーの隣にLカイザーが空間転移してきた。青色の歯車の装甲は五割近くが焼け落ち、それでも戦闘不能にならないタフネスに白式HSは僅かに慄く。とても自分が戦った経験のあるスマッシュとは思えない化物ぶりだった。

 

《Gear engine!》

 

 Lカイザーにギアエンジンが渡された。距離が離れすぎているため、斬ろうと思えばフォームチェンジの阻止は間に合わない。すかさず白式HSは雪羅を放つが、展開されたエネルギー刃に全てのビームが防がれた。Lカイザーは遠慮なくネビュラスチームガンのトリガーを引く。

 

《ファンキーマッチ! フィーバー!》

 

 瞬間、引き寄せ合うようにして二体の身体が融合する。通常の合体とは異なる変身シークエンスを経て、赤と青共に無傷の装甲へと生まれ変わったバイカイザーが現れた。

 

《Perfect!》

 

 景気よく回転する歯車から火花が散るだけでなく、バイカイザーの周囲に風雷が迸る。ぐっと全身に力を込めると、一回り分の巨大化を果たす。同じく大型化の進む第三、第四世代型ISとさしてサイズの違いはなかった。

 

「そんなのアリかよ……!?」

 

 融合、巨大化と軽く物理法則を無視したバイカイザーの行為に絶句する白式HS。驚きで瞬きするや否や、両手で印を結んだバイカイザーから稲妻を帯びた竜巻が勢い良く直進してきた。竜巻の規模はIS学園のアリーナを簡単に覆い尽くす程で、あっという間に竜巻の中へと囚われる。

 

「何っ!?」

 

 頭上にあった竜巻の出口は、すぐさま網目状の稲妻の結界によって閉じられた。ここまで来れば稲妻も、高出力レーザーとあまり変わりやしない。竜巻の中は航空機を容易く墜落させる程の風で吹き荒れ、うっかりすると風に攫われそうだ。

 そんな中、この竜巻を使役する張本人は何の苦もなく、白式HSの元へと駆けていく。何の武器も手にしていないが、IS並の巨体で殴り掛かられるのは普段以上の驚異となる。ナイトローグと散々模擬戦していたからわかる。右ストレート一つでも、通常のISからすれば大幅にシールドエネルギーを削られる必殺の質量攻撃だと。

 まさにこちらを押し潰さんとするバイカイザーを、白式HSは真っ向から迎え撃つ。竜巻の動きに沿いながら、両者は二重螺旋を描くような機動で何度も激突する。時折四方から飛んでくる雷撃を避け続け、アタックモードの雪羅とバイカイザーの拳がぶつかれば、力の強い方が押し勝つ。白式HSが殴り抜かれた。

 

 次にバイカイザーが踵落としを繰り出し、真下に吹き飛ぶ白式HSは竜巻を抜けて廃ビルに激突。そのまま貫通し、荒れ果てた高速道路の上へと転がった。

 急いで立ち上がると、スチームショルダーから黒煙を吹かしたバイカイザーが傍に空間転移する。至近距離での遭遇は即座に肉弾戦へと発展し、白式HSをバイカイザーが圧倒していく。多少殴ったり蹴ったりした程度ではビクともしない。零落白夜の一閃も、掠り傷止まりだ。

 その圧倒的防御とパワーを活かして、一瞬の隙を突いたバイカイザーは再び白式HSを殴り飛ばす。ピンポン玉のように白い騎士の身体は放物線を描き、背中から瓦礫の山を何度か突き破った上でちょうど良い足場に受け身を取る。バイカイザーがやって来たのはすぐだった。

 

「っ!?」

 

 直ちに雪片弍型改を振ったが上手い具合に捌かれてしまい、背後にあったコンクリートの壁に深々と突き刺さってしまう。簡単には抜けず、こうして剣に執着している間にもバイカイザーはその拳を叩き付けようとしてくる。一貫の猶予もなかった。

 

 この抜き差しならない状況で、今日までの記憶が走馬灯のように蘇る。楽しい思い出もあれば、それと比例するかのように辛く苦しい事もたくさんある。

 特に最近は辛い事の連続だ。ここまで執拗に平穏を脅かされる事も初めてで、自分の知らないところで実は親友が苦しい目に遭っていた。どんなに守りたい人がいる・守りたいと豪語しても、そもそも知るきっかけがなければ簡単に通り過ぎてしまう。どんなに戦う力を得ても意外と無力であるのを酷く痛感し、悔しく思った。

 気が付けば、親友二人がネビュラガスの被験者にされていた。洗脳された蘭が千冬や数馬、箒、シャルロットたちを傷付けた。身近な人間すら守れないのかと打ちひしがれそうになる。

 

 瀕死になった数馬がを見た時は生きた心地がしなかった。死んだようにベッドの上で眠る、傷付いた箒とシャルロットの顔が焼き付いて離れない。横須賀基地での戦い以降、重体の姉とは一度も顔を合わせていないまま。ここで自分も倒れるには、あまりにも未練と不屈の精神が残りすぎていた。

 

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 守るという事は明日へと繋げる事。依然として諦める事を知らない彼は、負けて堪るかとひたすら叫ぶ。これから来たるであろう最悪の未来への不安や恐怖を誤魔化す意味もあったかもしれない。されど、誰かを守るために戦うのだという意志は本物だった。

 ここで敗北してしまえば、エニグマに突入した他のメンバーの足を引っ張るだけでなく、即全滅に繋がってしまう可能性さえあるのだ。自分が死ねば、守ろうとする意志と行動はそこで潰える。未来に続ける事は叶わない。例え負けが見えていても、剣だけは絶対に放しはしない。偉大な姉を世界の頂点にまで登り詰めさせた“雪片”の名を継いでいるのだから。最後まで、その業物を持つ身として恥じぬ生き方を貫く。

 

 無我夢中になりながらも、全力で雪片弍型改を壁から引き抜く。その次の瞬間の自分の行動はよく覚えていない。どう足掻いても頭を潰してくる敵の攻撃を、誰かが防いでくれたような気がした。自身と同じく全身を装甲が包み込む、力強くも華奢な身体付きの白い騎士が――

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如、白式HSを中心に閃光が生まれる。その光にバイカイザーは大きく後ろに押し出され、ある程度離れたところから受け身を取りつつ彼の方を見やる。光は徐々に収まり、一つの騎馬が露わになった。

 それはブラッドスタークの召喚するコブラのように、全身を青いエネルギーで構築していた。純然たる熱の塊にしては、不思議とその背に人を跨がらせている。頭から背にかけた毛並みや尻尾は優雅にたなびき、美しくも鋭利で攻撃的な一本角を主張する。

 幻想的な雰囲気さえ纏う光のユニコーンは背中に主人を軽々と乗せながら、蹄を何度か地面に蹴り付けて甲高い鳴き声を上げた。

 

「ヒヒィィィ―ン!!」

 

 それを皮切りに、両者は互いに動き出す。手刀と雪片弍型改の切っ先同士の激突は白式HSが制した。仰け反ったバイカイザーを、華麗にユニコーンが後ろ脚で盛大に蹴る。

 砲丸のように飛ばされるバイカイザー。間を置かずに白式HSはユニコーンの手綱を引き直し、正面へ向くと同時に蹄音を響かせる。それを行ってどうなるかは、誰に説明されるまでもなく心で理解していた。

 

「ハッ!!」

 

 蹄から放たれた波動が、雪片弍型改を斬馬刀へと変化させた。斬馬刀を片手で持ちながら、吹き飛んでいったバイカイザーの追撃に打って出る。

 宇宙を駆けるユニコーンのスピードは高速で飛翔する戦闘機にも劣らない。邪魔な障害物は斬馬刀の一太刀の元で粉砕し、廃ビルの内部も滞りなく疾走していく。一度振る度に斬馬刀から零落白夜の刃が飛び出し、高層ビルすらも縦に両断してみせた。

 射出される高出力の零落白夜をバイカイザーは何度も受ける。一発ごとに込めた莫大なエネルギーは、対抗してエネルギー刃の盾を何枚も展開する程度では相殺にも至らない。次にバイカイザーが眩しいほどの雷撃や風刃、赤と青の歯車を撃ってくるが、例え本体に当たってもユニコーンが常時発動しているバリアに全て阻まれる。白式HSに懐まで潜り込まれるのは、あっという間だった。

 

「行っけえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 斬馬刀がバイカイザーの胸部を穿ち、突進の勢いのまま背中まで串刺しにする。ダメ押しに肉体の内部から零落白夜を奔流させて、一息にその巨人の胴体を真っ二つに断ち切った。

 力強く踏ん張りながら、近くの足場へユニコーンが着地する。ブレーキを掛けた蹄の接地部分から軽く火花が散り、白式HSが斬馬刀の重心を利用して素早く制動させる。その後ろで、上半身と下半身に断たれたバイカイザーは程なくして爆発四散した。肉片は一つも残らず消滅し、僅かな稲光と風が燃えカスのように散っていく。

 

 





Q.北都三羽ガラス生存戦略

A.結果はVシネグリスにて
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