ナイトローグの再評価を目指す話   作:erif tellab

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光芒 ―unite― 後編

 その時、不思議な事が起こった。ナイトローグの持っていた銀のボトルと、ロットロが避難したエンプティボトルが共鳴を始めたのだった。不屈の魂を持つ彼らに間近で触発されたロットロが、瀕死であるにも関わらず力を振り絞る。二人のライダーキックが一つになり、真っ向から極光に打ち勝つ。

 

「何っ!?」

 

 目を見開かせるEVOLカイザー。ワープゲートで返させるには、翼竜共々突撃してくる彼らの火力が高すぎる。潜らせる直前にワープゲートは崩壊してしまい、あらゆる迎撃も容易く突破された。気付けば目前にまで迫られたEVOLカイザーは、辛うじてその一撃を避けた。

 天へと繋ぐ光は闇を明るく照らす。戸惑いを隠し切れないEVOLカイザーの目の前に、一人の融合戦士がゆったりと降りてきた。

 全身が白銀に輝き、腰からローブを垂らす。ビルドドライバーにセットされるのは、コブラとコウモリを目の形にした独特の缶。右肩にはナイトローグ、左肩にはブラッドスタークの仮面が備え付けられ、背中には青い炎の翼を一対生やしている。各部位の特徴も左右非対称となり、以前の状態とは全く異なる新しい戦士が誕生した。コブラとコウモリの複眼がEVOLカイザーの顔を覗き込む。

 

 その名も双烈融身、ユナイトローグ。目の前で起きた奇跡にトラウマを刺激されたEVOLカイザーは、癇癪を堪えて冷静に努める。それから黙って五十体ほどの分身体を生み出し、本体である自分は下がって攻撃を彼らに任せた。

 

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 五十丁のエボルスチームガンが一斉射される。だが、ユナイトローグから放たれる波動に弾幕が触れた瞬間、凍り付くや否や消滅する。エネルギーの塊が凍結するという奇天烈な現象に本体は面食らい、ユナイトローグに側を通りすがられた分身体たちが為す術なくどんどん凍っていく。

 やがて分身体が全滅し、拳と拳がぶつかり合う。ユナイトローグの凍て付く波動には、EVOLカイザーは同じくアイススマッシュの凍結能力を以てして対抗した。分身体のような急激なダメージが大きく抑制される。

 

 即座に残像ワープで大きく距離を取ろうとすれば、余裕だと言わんばかりにユナイトローグが霧ワープで追撃してきた。ワープ同士が接触した刹那、反発する力が働いて互いに弾き飛ばされる。その際にワープは解除され、もう一度逃げようとするEVOLカイザーの周囲に山のように立ち昇る巨大な雲海が発生した。発生源はユナイトローグのパイプからで、とてつもない濃度のスモークが暗黒空間内に出現する。

 巨大雲に覆い被されたEVOLカイザーは残像ワープを試みようとするものの、周りの浮雲たちがそれを阻害するように力場を放つ。次いで、猛スピードでユナイトローグが彼を追い掛けてきた。

 

 雲の中にいるだけでも、身体が凍結していく。究極の変身として完成させた戦闘スーツに発生した信じられない不具合に、EVOLカイザーは困惑してしまう。彼としても、そんな軟な作り方はしていないと自負していた。アイススマッシュの能力を全開にし、冷気を操作して自身が凍り付いてしまうのを防ぐ。

 程なくして吹雪が吹き荒れる。接近してきたユナイトローグと何度も肉弾戦の応酬をする。ワープとは関係ないスタッグスマッシュの純粋な高速移動にすら追い付かれ、劣勢を強いられる自分のパフォーマンスが低下している事に気付く。ビームを放とうとエネルギーを手のひらに込めるが、たちまちそれが冷却されてしまう。

 熱というのは下げるよりも上げる方が遥かに簡単だ。それなのに、結局作り出せたのはちっぽけな光一つだけ。ビーム照射は中断し、エボルスチームガンを取り出す。

 

 その赤い銃に目を光らせたユナイトローグが、執拗にそれの破壊を仕掛けてきた。せっかくなので、あっさりとエボルスチームガンを彼に上げる。案の定、動きが一瞬止まった。

 すかさずEVOLカイザーは、もう一つのエボルスチームガンを取り出して引き金を引いた。ゼロ距離でユナイトローグのどてっ腹に散弾全てが命中し、相手を突き放す。

 

「バカめ!! 戦闘に使うのは全て予備に決まっているだろう!!」

 

 捨てたエボルスチームガンはワープゲートでこっそり回収する。ワープゲートの大きさも、銃器一つを持ち運べる程度までしか展開できなかった。

 この雲の中では、どうやらブラッド族の力が抑制されるらしい。己の身体の中にそう短くない期間居続けたSOLUが抗体のような性質を得たと考えれば、あの融合したナイトローグがここまでの能力を発揮するのはさほど不思議ではない。つくづく仮面ライダーが忌まわしくなる。

 二丁持ちとなり、ユナイトローグに向けて計六十発ほど連射する。近寄らせないのも束の間、突如EVOLカイザーの付近に雪の腕が複数伸びてきた。雲から生える形で、雪の腕はEVOLカイザーを殴り飛ばす。

 

 すると、雪腕のラッシュを耐え忍ぶEVOLカイザーの全身が発光を始めた。そこから途方もない熱エネルギーが生み出され、巨大雲を霧散させる勢いで胸部からビームをそこら中に照射する。熱を浴びた雲や雪は破裂音を轟かせながら一瞬で気化し、ありったけの蒸気が生まれて視界が更に酷くなるのも少しの間だけ。遂に雲は晴れ、EVOLカイザーはとある場所から数十本のフルボトルを手元に転送させた。

 そのフルボトルは全て、ネビュラガスを浴びた人間たちの血肉と魂が込められたもの。憎悪と怨嗟に満ち溢れているため、耐性のない者が使用するとボトルに心身を食い殺される。あくまでスマッシュ用として開発したが、使いようでは攻撃にも使える。それを全部、ユナイトローグに放り投げた。

 

 フルボトルがバラバラに飛んでいく。ユナイトローグを囲む位置まで落ちていくと、フルボトルを起点に黒い雷撃が彼を穿った。雷撃は対象をその場で捕縛し、霧ワープで逃がす事も許さない。たちまち身の回りを黒くおぞましい液体で包み込む。多くの負の想念を添えて。

 幽霊のように人々の幻影が浮かんでは、ポツンと消えていく。ボトルに詰められた無数の声がおどろおどろしく木霊し、身動きの取れないユナイトローグの身体を蝕んでいく。白銀の輝きも次第に奪われていった。

 

 

 

 恋人が出来た。プロポーズに成功した。明日は結婚式だった。妻が妊娠した。子どもが生まれたばかり。ようやく孫に恵まれた。最期は笑って逝きたかった。

 テストで満点取ったから、家に帰れば親が褒めてくれる。部活動の大会で優勝した。やっと会社の面接に受かった。遂にここまで出世したのに。

 長い時間を掛けてドナーを見つけた。重たい病気から回復した。最後に美味しいものを食べたかった。喧嘩別れした友達と仲直りをしたかった。冤罪を晴らしたかった。

 親の愛が欲しい。本当は自殺したくない。救われたかった。普通の人生を謳歌したかった。学校に通いたかった。煙たがれたくない。人身売買されるなんて嫌だった。

 騙されて借金を背負わされた。植物状態から目覚めたら、家族・友人・恋人・財産の全てが奪われていた。わざとバイクで轢かれて、音楽が弾けなくなった。話を聞いてもらう事すら許されず、見た目だけで全てを否定された。クラスメート全員に校舎の窓から落とされた。

 葬式で死んだ兄弟を下卑たく笑う奴がいた。親が危篤の時、人の命より仕事だと強いられた。車が店に突っ込んできて家族が死んだ。事故で足が潰れた。瓦礫に埋もれた。誰も助けてくれない。見殺しにされた。

 死にたくない。死にたくなかった。許さない。まだ生きたかった。

 

 

 希望と読み取れるものさえ絶望に反転し、そんな声ばかりが暗闇の中に反響する。言葉だけでは何の力も持たないし、意味もない。陰惨な死を遂げた彼らの無念をEVOLカイザーは仮面の下で嘲笑いながら、エボルスチームガン二丁にギアを四本装填させる。独りでに浮かんだギアは、彼の意思に沿うままに動いた。

 

「終わりだな」

 

 そうして狙いを定める次の瞬間――

 

「〜♪ 〜〜♫ 〜〜〜♬」

 

 どこからともなく、歌が流れ始めた。音楽に通じていなくとも曲調でなんとなく理解できる。これは鎮魂歌だと。いきなりの出来事に原因を探るEVOLカイザーは、頭上に人知れず映像が流れている事を知る。自分はそうした覚えがないのに、勝手に鎮魂歌が歌われていた。

 歌うのはドッグマイク。映像を繋げているのはトラUFO、マグゴースト、おばけパーカーの三人。EVOLカイザーが閉じようとしても映像は切れず、為されるがまま。あの一箇所だけが、エニグマと完全に切り離された別次元のように感じられた。

 一体どういう事なのか。それを考えるまでもなく、マグゴーストが画面の向こう側から話し掛けてきた。

 

『オカルトパワーならこっちの分野だ! 負けるなナイトローグ! 世界の壁を越えて、多くのビルドたちがお前を応援している!』

 

 無論、エニグマに平行世界の住人と会話できる機能も許可していない。まさかの身も蓋もない超常現象に頭が痛くなるが、すぐに詮無き事だと気持ちを切り替える。

 

「……ふん、ふざけた事を。たかが応援と歌だけで強くなれるなら苦労はしない。所詮、ヒトではな」

 

 人間の限界を超えなければ、この先やって来る異星人にすら歯が立たない。そもそも純粋な人間であり続ける必要性もない。ナイトローグたちが人間であろうとする限り、端から自分が負ける要素など何もなかったのだ。以前なら違っていたが、今なら自信を持って断言できる。仮面ライダーなど、恐るるに足りぬと。

 何度でも奇跡を起こすなら、何度でも奇跡を破ろう。何度でも蘇るのなら、何度でも殺そう。お前の事だ、Black RX。

 例え無敵でも血が流れるのなら、生物であるのなら殺す事ができる。ブラックホールにでも放り込めば、あらゆる生命は瞬時に消滅する。ゆっくりと進化していけば、やがて自分もブラックホールを生成できるほどの力を得るだろう。惑星を食らうほどの規模はいらない。

 

 気を取り直してエボルスチームガンを構える。すると、ユナイトローグを囲む負の想念に何らかの変化が起きようとしていた。だが関係ない。そんなものは原始的な暴力で木っ端微塵に粉砕せしめる。

 

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 立て続けにエネルギー弾がユナイトローグに命中する。フルボトルも巻き込んでしまうが些細な損失だ。派手に爆発し、宇宙で発射された描く弾頭のように大きな火球が生まれる。これで目の前の障害は取り除かれた――かのように思えた。

 

 爆発が止んだ先から、金色の光が差し込む。ユナイトローグの抹殺は失敗していた。彼を捕らえていたフルボトルが黄金に輝き、封じられていたネビュラガスを一斉に外へ解き放つ。ガスは解放された瞬間に浄化され、その中から大量の生命のカタチが飛び立った。

 死んでいった者たちの魂にレクイエムを。ドッグマイクの奏でる歌が奇しくも死者を慈しみ、慰める。もはや全ての生きとし生ける者にまで留まる事を知らなかった怨念を鎮め、安息へと着かせていく。

 EVOLカイザーは思わず息を飲む。とにかく、これから起きるのはかつてない程の理不尽であると頭に浮かんで離れない。光の中から飛び出してきたユナイトローグの後を、光球となった無数の魂が追従する。まるで彼を天から迎えに来た使者と捉えるように。

 その一方で、自分に仇なす奇跡をとことん嫌う進化の皇帝が、成仏するはずの魂たちが報復と言わんばかりに牙を剥いてくるのではないかと気が気でなかった。光球を纏って金色に輝くユナイトローグが、地獄から来た断裁者のように錯覚してしまう。

 この胸の内に抱く恐怖は、世界を越えて集結した四人の世紀王と対峙する時の比ではない。光の戦士に蹂躙された時のケースとも違う。闇を無くすほど照らす強い生命の輝きに、ドス黒く染まった自分がゼロまで掻き消されるような気分だった。

 

「ぐおおぉぉぉぉぉぉッ――!?」

 

 金色の嵐に飲まれる。ユナイトローグの突き出した拳が、暗黒空間を貫いてEVOLカイザーをエニグマの外へと殴り飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エニグマの外へ盛大に抜け出した生命の輝きは、未だ勢いを衰えさせない。惑星級戦闘体の真正面で物怖じせず、人工ボトル以外から集まってきた光も引き連れて更なる変化を巻き起こす。金色の嵐は人の姿を織り成し、やがて細部もユナイトローグのものへ形成される。エニグマに負けず劣らずの光の巨人と化した、ユナイトローグが誕生した。

 その輝きの中に、ナイトローグとブラッドスタークはいた。何事もなかったかのように平静さを装うが、内心は合体した事や光の巨人になった事で驚きが一杯である。特にブラッドスタークが、隣にいる彼を何度もチラチラ見たりとそわそわしていた。

 

「弦人くん、あの、その、私ね……」

 

「言うな、スターク」

 

「言わせて! ここで吐き出しておかないと悶々とするもん! あの、いきなり合体しちゃったりしたけど……弦人くんとだったからイヤじゃなかった、よ……?」

 

 気まずい空気が流れ出す。恥ずかしがりながら指をもじもじしさせて小首を傾げるブラッドスタークを、ナイトローグは最後まで直視する事はなかった。あくまで前を見据え、それでも傍目で彼女のそんな素振りを確認してしまい、とうとう片手で頭を軽く抱える。小さく溜め息もついた。

 この合体現象に類似するケースは他にもクローズビルドやブラッド、クローズエボルがある。しかし、その前提条件として要求されるのは、人間の限界を遥かに超えたハザードレベル7以上とブラッド族の遺伝子だ。自分とブラッドスタークは、どんなにネビュラガス投与を受けているとしても人間の範疇は越えていない。一人の人間に誰かの意識を転送するならまだしも、普通なら何の触媒もないのに生身同士の合体など不可能だ。

 

 考えられるに、切っ掛けはブラッド族と同じ宇宙生命体であるロットロの存在である。二人同時にライダーキックした時に、懐に仕舞っていたロットロ入りエンプティボトルと銀のボトルが共鳴・発光現象を引き起こした。SOLUには優れた学習能力と擬態、そしてレアケースと思われる進化速度を持っている。EVOLカイザーに取り込まれていた際にそのメカニズムを我が物としていたなら、この不思議な事は仮定だらけだが説明できる。本当に奇跡だった。

 加えて、光の巨人にもなっている。クマテレビが投影する“熊出没注意!!”の看板よりも大きい。そうしてナイトローグは適当にこの合体の原因を考えた後、次にブラッドスタークへ何の言葉を投げ掛けようかと数瞬悩む。

 

「……責任は取る」

 

 結果、一瞬だけ間の抜けた表情になったブラッドスタークを見る事になった。仮面で素顔が隠れていても、今どんな風になっているかは想像に難くない。

 

「へ? ……えぇっー!? あっ、ちょっ、待った! タンマタンマ! 合体って言っても別に聖なる営みとかじゃないからセーフ!! セーフ!! ……セーフだよね?」

 

 不安げになりながら、そう尋ねてくるブラッドスターク。しかし、ナイトローグは違った。

 

「だが初めての合体という事に変わりはない。俺もナイトローグだ。ナイトローグとして最低の行為だけはしたくない」

 

「……えっと、不本意でそうするつもりなら私、全然嬉しくないよ? てか、そんな気持ちで責任取ってほしくない」

 

「……大丈夫だ。俺も、お前と合体できて悪い気はしなかった。そもそも、嫌いなヤツとは共闘すらお断りだ」

 

 若干照れつつ、しっかりと言い切る。この方向性がねじ曲がったナイトローグとしての真面目ぶりが、戦闘中にも関わらず奇妙な化学反応を起こして、どこか緩んだ空気を生み出した。

 その言葉を聴いたブラッドスタークが、途端にわなわなと震え出す。まるで羞恥に堪えきれない様子で首をふるふると横に振り、顔を真っ赤にしながら精一杯叫んだ。

 

「そう言ってもらえると嬉しいけどぉ! 嬉しいけどさぁ! ものっっっすごく恥ずかしいっ!! キャアァァァァァァァァー!!」

 

 彼女の口から黄色い悲鳴が飛び出た。その場で子兎のようにピョンピョンと小刻みに跳ね、喜びと恥ずかしさが混ぜ合わった姿を表現する。しばらくそれを眺めるナイトローグだったが、エニグマが行動を始めた事に気付いて彼女に告げる。

 

「来るぞ」

 

 実に騒がしかったブラッドスタークが、その一言だけで静まり返る。次に正面のエニグマを確認して、素早く気持ちを切り替えた。

 EVOLカイザーが投げ付けたフルボトルの闇に飲まれた時、死を凝縮させた多くの人々の怨嗟を四方八方ぶつけられた。それはたちまち身と心を蝕むほどで、ドッグマイクの鎮魂歌で安らかな光へ変わってもその事実は変わらない。ここでEVOLカイザーを倒さなければ、理不尽にも命を奪われた彼らが完全に報われる事はないだろう。既に人外となった奴が生きている限り、戦う力を持たない人々が犠牲になり続ける。片手間で星を滅ぼせる力に綺麗事での対抗は無意味だ。

 そんな生命の輝きが、こうして力を貸してくれる。その使い方は決して復讐の代行ではない。一つの命に繋がる多くの人間たちと、その未来を守るためだ。ナイトローグとブラッドスタークは一度目を合わせる。

 

「スターク、この光の意味がわかるか? 最上に連れ去られた全ての人間の命の結晶だ。何千もの命が、小さなボトルに掻き集められた」

 

「うん。あの時、色んな人の声を聴いた。英語とかごちゃまぜだったけど、確かな悲しみが心に伝わった。それだけで私も死にそうになった。でも今は違う。今ならわかる。守るのは誰か一人だけじゃないって」

 

「ああ。悪い事ばかりじゃない。守った先に人々の想いが紡がれていく、永遠に。それこそが俺の力の源だ。それでもスターク、俺に着いてくるか?」

 

「愚問すぎない? ここまで来たんだから、最後までひとっ走り付き合うよ!」

 

 これから成すべき事は決まりきっていた。ただでさえ、ビルドたちにナイトローグとして応援されてしまったのだ。悩んでいる時間も、その必要もない。

 

 EVOLカイザーはエニグマの頭頂部に立っていた。憤りが収まらない彼の手振り一つで惑星級戦闘体が起動する。

 エニグマの右腕より、海すら両断する長大なビームソードが発振された。その有り余るエネルギーは空気を破裂させ、成層圏を突き破り、雷鳴のような轟音を響かせる。炙られるだけで海は沸騰を始め、そこに生きる魚たちがどんどん死滅し、燃えていく。これが陸上で放たれれば、それ以上の被害が出るのは一目瞭然だった。

 エニグマが勢い良くビームソードを突き出す。それは容易く光の巨人の身体を貫くかと思いきや、ユナイトローグがさっと左手をかざすだけで受け止められた。その力場同士の超絶な反発力により、ビームソードを弾かれたエニグマは大きく仰け反る。

 ナイトローグたちのいる光の中は、謂わばコクピットのようなものだった。彼らの息の合った行動に合わせて、ユナイトローグがドライバーのレバーを回す。

 

『Ready go!!』

 

 その場で跳躍し、三位一体となってライダーキックのフォームを取る。エニグマの攻撃行動とは違い、どんなにユナイトローグが派手に光のエネルギーを迸らせても、それが周囲の環境を乱す事はない。エニグマが左腕の空母を盾にするが、その程度で彼らは止まらなかった。

 

『ユナイトフィニッシュ!!』

 

「「うおおおぉぉぉぉぉぉぉーっ!!」」

 

 空母の甲板を粉砕し、エニグマの胴体にライダーキックが炸裂する。宇宙創生のビッグバンもかくやと言わんばかりの光芒が煌めき、大地を抉り取って得たそのボディが崩落を始める。無数の残骸が激しい水飛沫を上げながら海に落ちていく。その勢いはやすやすと高波を生み出し、潮水に揉まれながらも広大な海のど真ん中で徐々に列島が無造作に築かれていったーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光の巨人が消えて、ナイトローグたちの変身が解かれる。過剰なまでの融合はビルドドライバーの限界を超えてしまい、とうとう二つとも破損してしまった。

 弦人とナギがいるのは、エニグマの残骸が形成した荒地の中だった。遥か下を見下ろした先には怒り狂うかのように波が打ち、ここを船舶が通ろうとするものならば即刻転覆するような大荒れ具合だ。その上空を、ユナイトローグに集まっていた光が静かに上っていく。やがて天まで届くと、その光の姿は見えなくなる。

 それを見届けたナギはホッと一息ついた。そして、弦人に話し掛ける。

 

「終わった……のかな?」

 

「ああ。見ての通り、エニグマは破壊した」

 

「帰りどうする?」

 

「……どうするか」

 

 ビルドドライバーが壊れたため、変身は不可能。トランスチームガンも奪われたままなので、この絶海の列島から日本へ帰る手段は残されていない。このまま誰にも迎えに来てくれなければ、もれなくサバイバル生活の突入であった。

 

「取り敢えず衣食住を確保しよう。一応、スチームブレードが出せるから――」

 

 バン!!

 

 その時、銃声が響いた。ナギが前に倒れ込む。弦人は咄嗟に彼女を抱えて、近くの岩陰へと身を隠す。

 

「ナギ!!」

 

 ナギの容体を確かめる。後ろから一発、脇腹が撃ち抜かれていた。苦しげな表情で傷口を抑える彼女だが、出血が止まらない。すると、彼女のビルドドライバーに納まっていたブラッドドラゴンが独りでに動き出す。

 

「ド、ドラゴン……」

 

 覚束ないナギの声に応えて、口から軽く火を吹く。火は傷口を軽く焼き、強引だが止血させた。彼女は苦悶の表情で酷く歪む。一気に顔から汗が吹き出した。

 弦人が短く「動ける?」と尋ねると、無理に立ち上がろうとしたナギから呻き声が上がる。呼吸も荒くなり、顔色がどんどん悪くなっていく。見かけによらず重傷だった。

 次に岩陰から辺りの様子を窺う。程なくして、そう遠くない距離で射撃手の声が聞こえてきた。

 

「よくも……よくもやってくれたな……!」

 

 全身傷だらけで満身創痍の最上魁星が、ネビュラスチームガンを構える。弦人が様子見を続けると、彼はこちらに向けて発砲しながら騒ぎ立てた。

 

「何だったんだ、今の一撃は……。何故、ブラッド族の遺伝子が消えている? 何故、白いパンドラボックスが全て消滅した? 何故、私は人間に戻っているッ!? ふざけるなぁッ!!」

 

 岩陰に顔を引っ込める弦人。ネビュラスチームガンの光弾は、元々エニグマの一部だった岩陰を貫通する事はない。しかし、こうも延々と連射されると攻めようがなくなる。相手が一方的に弾切れしない銃撃戦ほど、嫌気が差してくる状況はない。

 手立てがない。その時、飛行モードに変形したカメラガジェットが、そのコウモリの羽で器用に弦人の肩を叩いた。釣られた弦人はカメラガジェットの示す方向に視線をやると、そこに信じられないものが落ちている事に気付く。それを取りに行くには相手の射線上に一度生身を晒す事になるが、迷いはしなかった。

 颯爽と駆け出し、光弾を掻い潜る。目先の岩陰へ一思いに滑り込み、しっかりとそれを拾い上げた。まだ失って一日も経っていないにも関わらず、握るグリップの感触が懐かしくなる。対抗手段はここに生まれた。

 

 再び岩陰から飛び出す。最上の放つ光弾は、弦人の研ぎ澄まされた集中力でどんどん撃ち落とす。

 その間にも最上の元へ駆け付けた弦人は、追従してくるカメラガジェットから渡されたバットフルボトルを素早くトランスチームガンにセットした。

 

《Bat》

 

《Gear engine!》

 

 対して、鬼気迫る形相でギアエンジンをセットする最上。次に引き金を引くのは同じタイミングだった。

 

「「蒸血 / 潤動ォッ!!」」

 

《Mist match / ファンキー!》

 

《Bat. Ba,bat. Fire! / Engine running gear》

 

 黒煙を纏い、すかさず振るったスチームブレードで斬り結ぶナイトローグとRカイザー。両者共に疲弊しており、一つ一つの動作に精細さを欠く。決着は直後に決まった。

 

「うぐぉ!?」

 

 ナイトローグが繰り出した剣が、Rカイザーの胸を背中まで貫く。ピクリとRカイザーが身じろぎするのも束の間、力無く自分の武器を地面に落とす。

 それから弱々しい雰囲気でナイトローグのスチームブレードを掴み、喉から恨み節のような声を絞り出した。

 

「貴様ぁ……! ただの人殺しに、成り下がる気かッ……!?」

 

「その罪を一生背負って生きていくだけだ。お前の言う未来も守ってみせる」

 

「……ふっ、どうせ貴様も……人間に失望するだけだ……!! ――グフッ」

 

 一回咳き込んだRカイザーの身体が粒子化していく。遂に変身が解除され、口元から大量の血を垂れ流す最上の姿が露わになった。粒子化は生身にまで進行し、地面にポタポタと落ちた血液すらも消滅させる。

 そうして自身の肉体が消えるまで、最上は終始狂った笑顔をナイトローグに見せつけるばかりだった。くつくつと相手の耳に強く焼き付けるような笑い声を漏らし、それでどんなに吐血しても余裕で耐える。心臓を貫かれているはずなのに、消滅する最後の瞬間まで己の生き様を刻み残そうとしていた。

 しばらくして、一人の人間を串刺しにしていたスチームブレードが不意に軽くなる。その場に残っていたのは、寂しげに地に転がる最上の僅かな遺品だけだった。

 

 

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