最初のIS、白騎士の全長は大体二メートルぐらいで、世代を重ねるごとに巨大化しています。これ、宇宙世紀のモビルスーツの恐竜的進化に軌跡が似ているので、最終的には小型化に行き着くと思います。
つまり、惑星破壊できて宇宙航行もできる仮面ライダーエボルはISの理想的完成体……? なんだ、エボルもISだったのか(白目)
モニター室。リアルタイムモニターの映像では、ブルー・ティアーズとナイトローグとの決着がついたばかりだった。コンソール席に座ってモニターを凝視していた山田真耶は、ついつい感嘆の声を漏らす。
「はぁぁ……。日室くん、すっごく頑張りましたね! あんな格好をしていたから、一時はどうなるかと思いました」
インチキ臭いご利益装備に、突拍子もなく繰り出された弐拾壱式波動球。弦人とセシリアとの試合が始まるまで不安しか抱いていなかった真耶だったが、ナイトローグの戦闘技能の高さを知るや否やすっかり手のひらを返した。
顔を綻ばし、弦人の勝利に心から喜ぶ。彼を馬鹿にする思いは、最初から彼女の中になかったのだった。敗北してしまったセシリアを悪く言うつもりも毛頭ない。互いの健闘を称えるばかりだ。
直後、羽織や麦わら帽子が炎上して大慌てになるナイトローグの姿をモニター越しで見つめて、思わず苦笑する。専用機を持つ代表候補生相手に勝利を飾ったにしては、何とも締まらない終わり方だった。
「山田先生。ナイトローグの戦闘データを纏めるように」
「あっ、はい!」
横から千冬の声を耳にした真耶は、我に返るようにして正面のコンソールパネルとディスプレイに向き合う。
一方の千冬はナイトローグをじっと見つめて、先ほどの試合の内容をそっと振り返る。二人の決着までに掛かった時間は十分にも満たなかった。
ビットの全方位攻撃を防ぐため、壁際に寄る。これは無難な対策だ。特に注目すべき点は次となる。
レーザーを一撃も食らわない、目を見張るほどの回避能力。いくらナイトローグが他のISと比べて的が小さくとも、多方向からの正確な射撃をほとんど避けきるなど至難の技だ。しかも、ナイトローグはあまりその場から離れずスレスレにかわし、千冬がよく目にするISの回避機動を取らなかった。
ここで気になるのが、ナイトローグの素の防御力の高さだ。仮にも避けたレーザーとはほぼゼロ距離まで近かったにも関わらず、ろくにバリアーが余裕を持って発動していない。まるで、必要ないと言わんばかりである。羽織などはレーザーの熱を浴びて燃えたが。
ナイトローグを初めて捕らえた瞬間を千冬は昨日のように思い出す。あの時はいつ霧ワープされて再び逃げられるかわからない状況だったので、ナイトローグの迅速な無力化が求められた。
しかし、絶対防御を発動させて相手のシールドエネルギーをゴッソリ削ろうにも、手応えが明らかにいつもと異なっていた。絶対防御そのものを突き抜けているような気分に襲われたのだ。後にナイトローグの絶対防御が装甲表面に薄く、硬く、頑丈に発動しているのを確認したが、強制的に変身解除させるまでは生の感触の嫌悪感は拭えなかった。
「千冬さん――」
「織斑先生と呼べ」
その時、うっかり名前呼びをしてしまった箒に千冬が一喝する。一瞬だけすくんだ箒は咄嗟に謝る。
「っ、すみません織斑先生。その、一夏は……」
「ラッキーパンチでもない限り、今のあいつでは日室にほぼ確実に勝てない」
「……っ」
「私が以前に日室を捕まえた時、あいつから生き残ろうとする力をひしひしと感じた。きっと無人島生活の賜物だろう。まぁ、逃走に徹するなら相当の実力を持っていた」
逃走に徹するならば。千冬がこう断言するのは、ナイトローグとの戦闘でフェイントなどが思いのほか効いたからである。当時の弦人の戦闘技能はちぐはぐだった。みっちりと体系化された格闘技を完璧なレベルで習得していれば、とりあえず返り討ちにできる程度に。
しかし、だからと言って手加減するほど弱くはないのも事実。ナイトローグを非常に使い慣らした弦人を捕まえるには、わりかし全力で挑めばならなかった。
「だが、その時と比べて今は我流の戦闘スタイルが洗練されている。あれほどの見切りと勘の良さはなかった」
そしてモニターを見てわかる通り、ナイトローグは視覚だけでなく他の感覚もフルに用いてレーザーの雨を避けた節がある。例えハイパーセンサーが全天周囲三百六十度の視界を操縦者にもたらそうとも、人間である限りは文字通り全ての方向を同時に見る事はできない。
肝要なのは、何度も経験を培って戦闘勘などを養う事。物理的に背中に目をつける事は無理でも、似たような事は鍛えれば誰にもできる。さながら、第六感とでも呼ぶべきか。ナイトローグはその技術を半ば身に付けていた。千冬から見ればまだまだの一言だが、今の一夏が同じ事をできるかどうかは語るまでもない。
※
ご利益装備の大半がなくなり、残ったのは数珠だけとなった。それだけではご利益装備の意味がないと考えた俺は紙袋に戻す。
次の試合が始まる前に一度ピットへと戻った俺は、試しにナイトローグの再変身をおこなう。するとシールドエネルギーの残量値が元の量に回復していた。フルボトル本体に、外部に流れた成分を自動回収する機能でも備え付けられているからだろうか。不思議である。
ただし、セントラルチムニーの状態がレッドゾーンであり、これを使った霧ワープはできないまま。トランスチームガンでも霧ワープは一応可能なのだが、インターバルとの表示が出ていた。
つまり、あの霧ワープ殺法は休息を挟まないと不可能な訳だ。正直不安だが、俺にはまだトランスチームガンとスチームブレードがある。自分を信じろ。
十分間の休憩は必要なかった。俺はそそくさと外に出ていき、腕組みしながら相手の登場をじっと待つ。温まった身体が冷めないうちにとっとと戦いたいものだ。
すると、向こう側のピットゲートから一つの白い影が飛び出す。雰囲気からして訓練機ではない。正体は専用機を装着した一夏だ。
「ようやく来たか……!」
「ああ。待たせたな」
待ちかねていた俺の言葉に一夏は応答し、同じく地面の上に降り立つ。元々のISの全長が高いため、一夏の方が目線が高くなっている。
「手加減はしない」
「望むところだ。真剣勝負にこそ意味があるからな」
俺がやや冷淡にそう告げると、一夏は強気に答えて静かに近接ブレードを取り出す。試合開始の合図が下りていないので、構えるだけだ。
手加減しなくてもいいなら助かる。容赦はいらない。合わせて俺もスチームブレードとテニスボールを手元に出現させて、来たるべき瞬間に備える。
そして、ブザーが鳴った――
「弐拾壱式波動球ぅ!」
「はあっ!?」
俺は開幕早々に波動球を放つ。ブザーが鳴る前から少しテニスボールに気を取られていた一夏は面食らっていて、回避行動に遅れる。このまま行けば、まさに直撃コースだ。
対して一夏は思いきったのか、近接ブレードで波動球を打ち返そうと試みる。ただ、俺がスチームブレードの腹で打ったのに対して、彼がボール側に刃を向けているのが非常に気掛かりだ。
そして案の定、俺の危惧していた事が起こった。テニスボールは容易く真っ二つにされ、上下に分かれたそれぞれは明後日の方向へ飛んでいく。
「ボール破壊!? なんてタブーを!?」
「いやテニスじゃないし」
「……それもそうか!」
俺は即座に気を取り直して、スチームブレード片手に一夏へと走り出す。反撃として繰り出された刺突を顔を横にひねる事で回避し、一気に肉薄する。
しかし、ISの背の高さは同時に間合いの長さへと直結していた。近接ブレードとはいえ、本体の長さは人間大だ。その上、一夏の剣技は明らかに型があると感じたため、接近には少し苦しかった。
身体を逸らし、軽く跳ねて、スチームブレードでどうにか受け流す。おまけに一夏は器用にホバリングして何度か後ろ走りするものだから、お互いの距離は絶妙な感じで保たれている。
必死に剣を振る一夏の顔に、焦りが徐々に見えてきた。だが、それは俺も同じ事。これではキリがない。
背中を大きく後ろに反らして、近接ブレードの横一閃を避ける。それから間髪入れずに左手でトランスチームガンを握り、一夏に向けて引き金を引く。発射された光弾はたちまち彼の顔面に当たった。
「うっ!?」
光弾は寸でのところでバリアに遮られ、尚且つ相手のシールドエネルギーを確実に削ってから霧散する。それでも一夏は眼前にまで迫った光弾を前についつい目を閉じてしまい、背中側に浮かしている一対のウィングスラスターを前面に吹かして、俺から急いで距離を取る。見事なバックステップだ。
俺はすかさずトランスチームガンで追撃の手を打つ。ひたすら連射するが、六メートルも離れれば斬り払いできるようだ。我流ではない分、剣の腕前は俺よりもずっと上なのかもしれない。
「うおおぉぉぉ!!」
次に突撃するのは一夏だった。ウィングスラスターより青い炎を焚き付け、俺目掛けて真っ直ぐ飛ぶ。途中から光弾の斬り払いを止めた様子から、肉を切らせて骨を断つ覚悟らしい。多少の被弾をものともしない。
そのスピードが乗った一撃はとても重たそうだ。受け止めたくない。なので俺も駆け出して、一夏の股の下を滑り抜ける。彼の攻撃は空振りに終わり、俺に背中を呑気に晒した。
間を置かずに立ち上がってスチームブレードを叩き入れる。この斬撃はバリアを突き抜けて絶対防御を発動させるに至り、一夏は小さく呻いた後に方向転換。負けじと俺に剣を振るう。
極力つばぜり合いは回避したいので、次々と迫りくる白銀の刃を避けまくる。遂に切っ先が真っ直ぐ突き出されると、そのタイミングで俺は近接ブレードの上に飛び乗る。刹那、一夏の表情が固まった。IS元来のパワーにより、俺が乗っかっても剣を持つ彼の手は下がらない。
動きも止まり、致命的な隙が出来上がる。チャンスだ。スチームブレードを逆手に持ち直す。
一夏の頭上を小さく飛び越えるようにして、その場から跳躍。すれ違い様に銃撃と斬撃を与える。光弾は顔に、スチームブレードの刃は肩口に当たった。
《Bat》
それから着地するまでの間、手際良くバットフルボトルをトランスチームガンに再装填。スチームブレイクの待機状態にしておく。
その時、背中合わせになっていた俺と一夏はほぼ同時に後ろへ振り返った。二つの視線が交差し、己の得物を相手へ向ける。よく観察すると、一夏の近接ブレードが変形して棒状に青いビームを発振していた。近接武器としてのリーチが倍以上に伸びて、俺を絶対に必殺の間合いの中に収めようとする意志が伝わる。
流石にこれは確実に回避できない気がした。それでも、スチームブレードで受け止めればいい。既にスチームブレイクを放つ寸前なのだ。この至近距離では、相手も同じように回避が間に合わないはず。勝機は十分ある。
だが、この時の俺は完全な思い違いをしていた。そして、スチームブレードでビームサーベルを防ごうとした直後に気づく。この世には力場云々で固めてつばぜり合いができるビームサーベルと、そもそもビームを棒状に発振しているだけだからつばぜり合いが成立しないビームサーベルの二つがある事を。今回のは間違いなく後者であった。
……ミスったあぁぁぁ!!
「うぐっ!?」
《スチームブレイク》
ビームサーベルは防がれた部分から先がすっぽりと消滅。スチームブレードを通り抜けると再び元の長さに元通り。俺は敢えなく光の斬撃を浴びてしまう。
それほど痛くはなかったが、装甲越しでもビームサーベルの圧倒的な熱量が伝わってきた。焼かれたとついつい錯覚してしまうほどだ。パラメーターを確認すれば、最初から三百近くあったシールドエネルギー残量が二桁にまでゴリゴリ減っていた。
「ぐわあぁっ!?」
同時刻。スチームブレイクの直撃をもらった一夏は着弾時の衝撃で後ろに大きく吹き飛ぶ。宙に身を投げ出され、受け身を取れていない。
《アイススチーム》
俺は大急ぎでスチームブレードのパルプを回し、ようやく受け身を取った一夏の足元へ投合する。スチームブレードは勢い良く地面に突き刺さり、そこから巨大な氷柱を瞬時に発生させた。
気づいた一夏は逃げ出そうとするが、もう遅い。氷柱は一夏を飲み込み、彼の身体をあっという間に凍結させる。上半身だけが凍らないのは、恐らく絶対防御に守られているおかげだ。
『勝者、日室弦人』
「あー……チックショウ」
試合終了のアナウンスが響き渡り、氷柱から抜け出そうジタバタ暴れていた一夏は途端に大人しくなる。首をガクリと項垂れさせ、ひっそりと声を漏らす。
一方の俺は、まんまとビームサーベルの罠に間抜けにも引っ掛かった事もあって、あまり釈然としていなかった。完全勝利にはびっくりするほど遠い有り様だった。
※
試合終了後、俺と一夏はそれぞれピットへと戻った。俺のところには相変わらず人がいないと思いきや、そこでは山田先生が一人で待っていた。
「日室くん、お疲れ様でした! 二連勝もするなんてすごいですね!」
「あっ、いえ。まさか山田先生に出迎えに来てもらえるなんて光栄です。ありがとうございます」
「へ!? あの、それってお世辞じゃなくて……ですか? あ、ダメですよぉ! 先生を口説くなんてぇ……」
こちらが謙虚に対応すれば、顔を真っ赤に染めて急にもじもじとする山田先生。とんでもない勘違いぶりだ。
間髪入れずに「口説いてません」とキッパリ告げると、山田先生はシュンとしながらも「アハハ……すみません」と苦笑する。この男性の免疫の無さは今に始まった事ではないと思うので気にしないでおく。それなのに胸元の開いた服を着ているのは、逆に根性があってスゴい。
さて、そろそろ変身解除するか。そう思うのも束の間、突如として奥の扉が開かれる。うっかり肩をびくらせた俺はそちらに振り向き、山田先生も相手がわかるや否や声を上げる。ピットに入ってきたのは京水とのほほんさん、それとメガネを掛けた少女であった。
「あっ、いけませんよ! 一般生徒はここのピットに立ち入り禁止です!」
「山田先生、彼女を通してあげて! ナイトローグのファンなのよ!」
「へ?」
有無を言わせぬ勢いで叫ぶ京水に、山田先生はきょとんとした表情になる。この隙にメガネの少女は山田先生の横をそそくさと通り抜けて、俺の前に立ち止まる。
雰囲気からして、少女は普段から大人しい事がわかる。そんな彼女はおずおずとしながらも、勇気を振り絞るようにして俺の名前を呼ぶ。
「ナイトローグ、さん……」
「はい?」
「その……サインください!」
大声になったのは恥ずかしさを誤魔化すためだろうか。少女はばっと色紙とサインペンを前に出した。それら二つを持つ手は震えていて、少女は目と口を固く閉じる。
「わかった。サイン初めてだけど頑張る」
俺は少し戸惑いもしたが、特に断る理由もないので少女から色紙とサインペンを受け取る。
サインの書き方など知らない。テレビで見たの真似するだけだ。ただ、カタカナで記すのは格好がつかないので英語表記の筆記体にしたら、良い感じのものが出来上がった。出来上がりに内心満足しながら、少女に手渡す。
「どうぞ。これでいい?」
「ありがとうございます! その、握手も!」
「うん」
そうして握手を交わすと、少女の顔がますます明るくなる。その嬉しさは計り知れなかった。
「えっと……写真もいいですか?」
「もちろん」
その瞬間、カメラを持ったのほほんさんがやって来た。少女は俺の隣に並び立ち、俺と腕を組んでピースサインを作る。俺も彼女のノリに乗っかり、カメラに向かってピースする。
「はい、チーズ!」
パシャッ! のほほんさんがカメラのシャッターを切ると、フラッシュが焚かれる。次に俺たちと一緒に取れた写真を確認しようと、トテテと歩み寄ってきた。
写真はピントのズレもなく、良く撮れていた。一切ぶれておらず、くっきり写っている。少女とナイトローグが仲良く並ぶ姿はなかなかシュールなものを感じるが、初めてにしては上々だった。遠くからスマホをかざされる事はあっても、こんな身近に写真撮影をする機会はなかった。
「やった……やったよ、本音!」
「よかったね、かんちゃん!」
「うわーん!」
とうとう感極まった少女は、よしよしとのほほんさんに優しく抱き寄せられる。なんて純真な子なのだろうか。見ていて微笑ましい。
視線を横にずらすと、京水も二人の様子を前にして、コクコクと満足げに頷きながら感動していた。対して山田先生は未だにポカーンとしている。
よし、決めた。俺はおもむろに山田先生に話し掛ける。
「山田先生」
「な、なんですか?」
「第三アリーナで僕と握手! 東京ドームシティ! ……という訳で今回不問にしてくれませんか?」
「えぇっと、その……じゃあ、厳重注意に済ませましょう」
「ありがとうございます」
その後、京水は「ブラボー!」と高らかに叫びながら、精一杯の拍手をピット内に響かせた。
Q.ラッキーパンチ刺さったあぁぁ!?
A.ライアーゲームのプレイヤーが叫んだりする時のアレ
Q.零落白夜受け止めたのにスチームブレード硬くね?
A.ライダーウェポンでは良くある事。きっとビームコーティングされていたのでしょう。
Q.ナイトローグの翼のデカさってどれくらい?
A.人間サイズのモンシロチョウの羽の長さが三メートル、幅が四メートルくらいなので、恐らくそれぐらいあると思います。あれ? 飛翔形態のサイズが他のISと遜色ないぞ?