ViVid Contrail   作:にこにこみ

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“軌跡を探して”の続編です。 待っている人がいたかどうかは確認しようがありませんが……とりあえず、ゆっくりとまた始めていきます。

自分が考えているオリジナル展開と原作ViVidの展開の構成が恐らくかなり違っていて、変になりそうですけど……そこは温かい目で見守りながら訂正をお願いします。

それに書いている途中……いや前作の時点で自覚していましたが……またかなり混ざっています。


鬼を宿した兎 前編

新暦76年、12月ーー

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

第1次元管理世界、ミッドチルダ……その都会から北へ、ベルカ自治州よりも更に北に行った場所にある辺境・アルマナック地方の広大な高原にポツンと、1人の少年がいた。

 

少年はその身に身体を隠す外套を着て凍てつくような冷たい風から身を守り、その背には身の丈以上の荷物が入ったリュックを背負って高原を歩いていた。

 

「ふう、ふう……あともう少し……」

 

リュックを背負い直し、少年は小高い丘を登り切ると……目の前の平な土地にいくつもの移動式の家屋(ゲル)が連なる集落があった。

 

「……やっと着いた……」

 

少年は集落の前まで歩き、そこで荷物を降ろしながらようやく息をつく。 外套を取払うと黒髪が外気にさらされ、初等部の上学生くらいの少年の顔が姿を見せた。

 

と、そこで集落の人たちが少年が帰ってきた事に気付き、次々と集まってきた。

 

「皆さん、ただいま戻りました」

 

「お、帰ってきたか」

 

「往復1日ちょっとか……また早くなったんじゃないか?」

 

「はは、鍛えてますので」

 

「大変じゃなかったかい?」

 

「はい、大丈夫です。 今からお配りしますので、ちゃんと並んでくださいね」

 

少年はリュックの中身、消耗品を取り出すと集落の人たちに配っていく。 その途中、この集落の長老らしきご老人が少年に歩み寄り労いの言葉をかけてくる。

 

「おお、よく帰った。 また物資を運んでもらって本当に助かった、苦労かけて悪かったな」

 

「いえ、無理を言ってここに住まわせてもらっている身、これぐらいしないと申し訳が立ちません」

 

「気にせんでもよい。 あの者は基礎を教えた後は放任主義じゃからな。 おおよそ、後はこの集落に押し付ける気じゃんたんだろう」

 

「……老師……」

 

タバコを吹かせながらそういう長老に、少年はガックシと項垂れる。

 

「ーーあ、にいちゃんだ!」

 

「イットにいちゃんが帰ってきた!」

 

子ども達が黒髪の少年……イットの元に駆け寄る。 イットは囲まれてしまい、苦笑いしながらお菓子を配り始める。

 

「はいはい、ちゃんと皆の分もあるから慌てない」

 

「わぁ! お菓子だぁ!」

 

「やったあ!」

 

「コラ! もらったら先に何を言うの!」

 

「あ、うん! ありがとう、イットにいちゃん!」

 

『ありがとうー!!』

 

「どういたしまして」

 

一斉のお礼の言葉を子ども達からもらい、イットは嬉しくなった。 それからリュックが萎むまで配り続け……ふと、イットは気付いた。

 

「長老、そういえばエディは……」

 

「今日、あの子は南の少し下にある森で狩りに出ると言っていた。 もう昼も過ぎておるが……まあ心配ないじゃろう」

 

「そう思います。 でも、1度呼んできますね」

 

萎んだリュックに懸架していた反りがある剣……太刀を取り出して腰に佩刀し、イットは1度長老に礼をして踵を返し……猛スピードで駆け出した。

 

高原を駆け抜け、下り坂を飛び降り、スピードを落とさず森に入って木々の合間を縫って進み……

 

「ーー見つけたよ、エディ」

 

「ん?」

 

いくつもの木々が道を作るようになぎ倒され、その突き当たりには巨大なイノシシが横たわっていた。 そしてその上に褐色肌の少女が座っていた。

 

「もう帰って来てたのカ。 早かったナ」

 

「少し頑張ってみただけだよ。 そういうエディはまた大物を仕留めたね」

 

「うーん、イットから戦い方を教わって狩りが楽になったのはいいけど……少し退屈になったヨ」

 

少しおかしな口調で、溜息をつきながら話す少女……エディ。 イノシシから飛び降りると懐に潜り込み……腹を持ち上げて頭上で抱えた。

 

「さ、帰るヨ。 今日は猪鍋だヨ〜♪」

 

「やれやれ……」

 

猪を運び、ウキウキになりながらエディは歩き始め、その後をイットが苦笑しながら着いていった。

 

この時期、日に日に気温が下がる中、イット……本名、神崎 一兎はとある理由で都会から離れ、この地で剣の修行をしていた。

 

自身の身に刻まれし剣……八葉一刀流を極めるため。 彼の心臓に呪われし力……鬼神の怨念を制するため。 彼は今日も生きていた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

半年前、6月ーー

 

高原の中腹にある大きめな池……その中の水面の上に転々とする岩の上にイットが黙祷しながら立っていた。

 

「………………」

 

真っ暗な視界でイットが感じ取れるのは肌を撫でる風の感触、風によって凪ぐ木々の音、岩を踏むしめる足。 その時……不意にイットに向かって無数の飛来音が聞こえてきた。

 

「ーーッ!」

 

開眼、それと同時に岩を蹴って跳躍。 目で認識し、飛んできた小石を紙一重で避けるが……

 

カッ!

 

「痛ッ! うわっ!?」

 

小石の1つが足場の岩の上で跳ね返り、イットの頰を掠める。 それによりバランスを崩し、イットは池の中に落ちて行った。

 

「ふむ……まだまだじゃな」

 

岸の方で手の中にジャラジャラと小石を玩ぶ老人が水飛沫を見ながら嘆息気味に言った。

 

「勘はいいが、ワシの模倣された動きと合っておらん。 先ずは身体と心を合致させんとな」

 

「はあはあ……はい……」

 

岸に上がってきたびしょ濡れのイットにそう言い、イットは息を荒げながらも返事をした。

 

イットと老人……八葉一刀流の開祖、ユン・カーファイ、2人はこの地で剣の修行をしていた。

 

「視覚に頼るでない。 心の目で察知するんじゃ」

 

「……気配、というか事でしょうか?」

 

それからも鍛錬は続き……焚火に当たりながらイットは手に持つ太刀に目を落とした。 生まれて目が覚めた時から持っていた太刀、風切……だが、今は鞘の飾り紐で鍔が縛られて抜けないようになっている。 と、イットが太刀を見る目に気づいた老師は口を開いた。

 

「……刃物は相手を選ばない。 使い手が未熟者なら、未熟な切っ先のまま……要らぬものまで斬る事になる。 例えば……己自身」

 

「………………」

 

「例えば……守るべき者」

 

「………………」

 

「お主が斬るべき者のみ斬れるようになるまで……それは解くなよ」

 

「…………はい」

 

イットは老師の言葉が重く聞こえ、しっかりと受け止めた。 過去の過ちを思い出し、繰り返さないように。

 

今日は早めに修行を切り上げたが……老師はイットにある事をさせた。

 

「イット。 お主には改めて一から八の型を教えた」

 

「はい」

 

「じゃが……この地で剣を振るうに当たってしなくてはならぬ事があってな。 この地に住む民族に挨拶しておらんのじゃ」

 

「…………え」

 

実際、ここの民族がこの地を所有しているわけない。 が、イット達がこの地で修行をしている以上、断りを入れなくてはならない。 つまり、老師は面倒ごとをイットに押し付けたのだ。

 

「ゆえにイット、今からその民族の住む集落に行ってこい」

 

「………………はい……」

 

かなり間があったが、イットは項垂れるように頷くしかなかった。

 

「ああ、それとコレをつけて行け」

 

「え……これって……」

 

老師から手渡されたのは白い布、網目が際まで縫われていて丈夫そうだが……イットはこれで何をするのかと頭を捻る。

 

「それで目隠しをしてそのまま集落に迎え」

 

「え……!?」

 

「お主は目で反応する、気配で反応する……この2つにバラつきがある。 それを矯正するに当たって、見える前に反応するしかないと至った」

 

イットはよく分からないようだが、いつになく真剣な表情の老師は嘘を言ってないだろう。

 

「途中で休んでも良い。 じゃが、気配を感じられるようになるまで……決して目隠しは取るな」

 

「はい」

 

そう言い切ると、老師は持ってきていた最低限の荷物を持って踵を返した。

 

「ワシはこの辺りの龍脈を探ってから向かう」

 

「……分かりました」

 

確かに剣と身体、心の修行をつけてはくれたが……最後の最後で老師はイットに面倒ごとを丸投げして去って行った。

 

「………………」

 

残されたイットは両手にある目隠しを見つめ……目に当てて解けないようにキツく縛った。

 

そして世界は暗くなり、イットはしばらくの間そのまま棒立ちになる。 風だけが感じとられ、時の流れも曖昧になりかけた時……黒い世界に僅かな色がついた。

 

(これは……葉っぱ……)

 

決して見えているわけではない。 だが確かにイットは周りに舞っている葉っぱを認識していた。 次いでその先にある木も……

 

「ーーフッ!」

 

手を前に伸ばし、落ちてきた葉っぱを掴む……が、葉っぱは手から滑り落ちる。そして再び前を見ると……地面が、茂みが、木々が見えてきた。 いや、正確にはそれら全ての気配を感じ取れた。

 

イットはしばらく思案し、歩み始めた。 オロオロせずに迷いなく、恐れずに……目を開けている時と同じように歩く。

 

(……集落まではまだ遠い。 でも、少しだけ分かって来た)

 

歩きながら周りに意識を向ける。動き回っている小動物の気配、そして木々の気配を感じ取る。

 

(生きているものと、そうじゃ無いもの……全然違うけれど、どちらにも確かに気配があるんだ)

 

進行方向に木があり、このままでは衝突してしまう。 だがイットは木にぶつかる一歩手前で足を止め、まるで見えているかのように横に逸れて木を避けた。

 

しばらくその状態が続いていると……一際大きな生きている気配がイットの道を塞いだ。

 

(ッ……大きな気配……生きている物……)

 

「ーーオオオオッ!!

 

咆哮と共に気配がイットに飛来してきた。 危険と判断したイットは横に跳躍して回避する。

 

(生き物が襲い掛かってくる! 肉食系……でも一体なんの……!?)

 

次々と襲い掛かる危険な生きている気配から避け続ける。 その時……

 

「ーー何してるヨ!!」

 

「ッ……」

 

背後から走ってきた人物の声と共に目隠しが取られた。 夕日の明かりで目を細め、すぐに目が慣れると……目の前に、襲い掛かってきている身の丈以上の大熊がいた。

 

「! ……はあっ!!」

 

イットは完全に目視すると振り下ろされた爪を咄嗟に飛び上がって躱し、熊の頭上を取り……

 

「はああぁ……破甲拳ッ!!」

 

落下速度がプラスされた掌底が脳天に振り下ろされ、熊は脳を揺らされ……その大きな巨体を地に伏せて気絶した。 イットは突然の事に驚き、大きく息を吐いた。

 

「もうちょっとでコイツに殺やれる所だったんだヨ! なんでこんな事してるノ!?」

 

突き出された目隠しを見て、手を伝って助けてくれた人物の顔を見る。 褐色肌で長くて白い髪をした同年代くらいの少女だった。

 

イットは事情を説明するため、ここにいる経緯と一緒に目隠しの意味を説明した。

 

「剣の修行でネ……ゴメン、邪魔しちゃったヨ……」

 

「気にしなくていいよ。 あのままだったらその熊にやられていたかもしれないから」

 

倒れた熊に乗りながら頭を下げる少女にイットは気にしてないと手を振る。

 

「そういえば……君はどうしてここに?」

 

「!? う、ううううっ!?」

 

なぜここにいるのかを聞くと……まるで悪寒がしたように少女は身震いを起こした。

 

「ど、どうしたんだ?」

 

「君ぃなんて言われたらゾワゾワしてむず痒いヨ! ワタシはエーデルガルド・バルカス、エディって呼んでネ!」

 

「分かったよ。 俺は神崎 一兎、よろしく頼むよ、エディ」

 

2人は右手を差し出し、握手をした。これが、鬼を宿した兎と高原の狩猟者との初邂逅だった。

 




親にしてこの子ありパート2……早速1人目?
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