ViVid Contrail   作:にこにこみ

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金の明星 後編

第42管理世界スピナにある霧がかかる山……その山から何度も拳がぶつかり合う音が響いていた。

 

「はあああっ!」

 

「ふっ!」

 

「そこだよ、リオー!」

 

「どっちも頑張れー!」

 

その山の頂上にある遺跡の広間で、ウェズリー兄妹が手合わせをしていた。 その近くでは2人の友人が観戦しており、2人を応援している。

 

「流水」

 

「わっ!?」

 

放たれたリオの蹴りをフォンは両手を広げて回転、投げるように受け流した。

 

「っ……まだまだ! 久しぶりのフォン兄との手合わせ、もっと楽しみたいからね! はあぁ……炎龍! 雷龍! 招来!!」

 

「おっと……」

 

リオの周りに衝撃が走り、フォンが後退して衝撃から逃れると……リオの背後に炎で出来た龍と雷で出来た龍が現れた。

 

「今度はあたしの番! 炎雷双頭(えんらいそうとう)!」

 

両手を前に出し、炎龍と雷龍がフォンに向かって飛びかかる。 しかしフォンは襲いかかる二頭の龍を見切り、軽やかに避ける。

 

「逃すもんか!」

 

続けてリオは二頭の龍を操り、フォンを追い込んでいく。

 

——ふぉおおーー!

 

——ねーーー!

 

「ん?」

 

広間の戦闘音に交じりどこからか誰かの声が聞こえて来た。 その音を感じ取れたのはイットだけだったが……気のせいと思い2人の手合わせの方に目を向けた。

 

「やっぱりフォン兄は凄いや! でもまだまだこれからだよ!」

 

今度はフォンから攻め、二頭の龍の合間を縫って掌底を放った。 が、その掌底はギリギリの所、リオによって逸らされた。

 

「また腕を上げましたか」

 

「炎穿陣!」

 

そしてリオは両手を左右に広げ、圧縮した炎を解放した爆破を起こした。 迫り来る衝撃にフォンはバックステップで回避、岩場を蹴って上空に飛び上がった。

 

「もらいます!」

 

「させないよ、雷鳴衝!」

 

雷と衝撃が周囲に轟き、砂塵が舞い上がって辺りに立ちこもる。

 

「うわわっ!」

 

「こ、これが手合わせですか?」

 

「あいつらのとってはそうらしいな。 こっちはせいぜい創造(クリエイト)の見せ合いくらいだけどな」

 

「うん……あそこまで激しくないですね……」

 

「うちは魔力球でのキャッチボールかな? よくやっているのは」

 

「いつもはなのはママとだけど、お兄ちゃんとキャッチボールするのも楽しいよ!」

 

「へえ……そうなんだナ」

 

エディの思うキャッチボールは微笑ましいものだが……実際は高速でいくつも放たれた魔力球を打ち返す事をヴィヴィオの言うキャッチボールである。

 

と、砂塵が晴れていき……中から構えを解いてないフォンとリオが出てきた。

 

「さすがフォン兄! 全然隙がないや!」

 

「リオも、しばらく稽古を見ないうちに腕を上げましたね」

 

2人は会話を交わしながらも戦う手を止めず、入れ替わり立ち回りながら何度も拳をぶつけ合う。

 

「でも……私もフォン兄に対抗するために秘策がある! 甘く見ない方がいいよ〜!」

 

「あ、リオちゃんアレをやるみたいだね」

 

「行っけ〜! リオー!」

 

「なんだ?」

 

「っ!」

 

「行くよ、ソル!」

 

《オーケー、リオ!》

 

「変っ身!」

 

八角形のアミュレット型のデバイス、ソルフェージュを眼前に構えると……リオは自身の赤い魔力光に包まれ、しばらくして光が収束して出てきたのは……

 

「なっ!?」

 

——ほぉっ?

 

冷静なフォンでも思わず驚いてしまう。 出てきたのは腰まで髪が伸び、少し身長が大きくなっているリオだったからだ。

 

「身体強化魔法の応用だよ。 それじゃあ、いっくよー! スゥ……」

 

するとリオは身を低くし、天を見上げながら息を大きく吸い込んだ。

 

「あれは……」

 

「リオの魔力変換資質である炎雷……それを砲撃として放てば!」

 

「——雷炎龍の……咆哮!!」

 

口から放たれたのは雷を纏った砲撃のような炎のブレス。 レーザーのように真っ直ぐファンに迫って行く。

 

「衝破……月蝕!」

 

迫るブレスをフォンは一息で掌底を打ち出し、ブレスを下からかち上げて上空に逸らした。 ブレスは霧を、雲を貫くと勢いを失って霧散した。

 

「うっそお!? あたしの秘策がこうも簡単にい!?」

 

「今のは危なかった……ですが、次は決めます」

 

「……! まだまだ……これからだよ!」

 

「来なさい、リオ!」

 

2人がまた拳をぶつけようと飛び出した、その時……

 

「——ほおぉおおぉっーー!」

 

「んん!?」

 

突然、岩陰から楽しそうな声を出しながら誰が飛び出てきた。

 

「ほほほほ、ほほほほほぉ。 ほーーほぉ!」

 

「きゃっ!?」

 

「今のは!」

 

正体不明の人物は2人の間に飛び込み……一瞬金色の魔力光が閃くと2人まとめて弾き飛ばした。

 

「ほほほ♪ ほほほい♪ ほほほほほほー♪」

 

「ねねねー!」

 

「あれは……!」

 

「魔物だー!」

 

「あれが……?」

 

「変なお面を被った子どもにしか見えないヨ」

 

岩の上で楽しそうに左右に揺れるように踊っていたのは……何かの怪物を模したような仮面を被った少年だった。 仮面は少年の肩幅の大きさまであり、少年の頭をすっぽりと覆っていた。

 

その仮面の上には尻尾が緑色の口に目がついたコンセントとカマキリを足したような顔があり、身体は垂れ耳の犬のような動物が乗っていた。 恐らくアレが怪異なのだろう。

 

そして少年と思わしき魔物と呼ばれる者は踵を返し、霧の遺跡へと消えていった。

 

「うわぁ、ホントにいたんだあ!」

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん、魔物だよ魔物!」

 

「す、凄い顔をしてたね……」

 

「いや、あれ仮面だろ」

 

(2人の間に割って入り、いとも簡単に左右からの攻撃を弾き返した……)

 

魔物の存在に驚く中、アインハルトはフォンとリオの攻撃を弾き飛ばした事に驚きつつも、魔物を追いかけようとするイット達の後を追った。

 

「ほらほら! 早く追いかけて退治するよ!」

 

「いや、確認するだけで退治するわけじゃ……」

 

「もたもたしてると逃げられちゃうよ!」

 

「こ、こら……待ちなさい」

 

ヴィヴィオ達3人は殺る気……もといやる気があるようで、イット達を引っ張りながら魔物を追いかけて遺跡の中に入った。

 

「どこに行ったのかなあ?」

 

「んー、迷路みたいだね」

 

「………………!」

 

「待って……」

 

「え……?」

 

T字路を右折しようとするミウラをイットが止めた。 すると、反対側からあの仮面の魔物が通路に入るのを見つけた。

 

「あ、いた!」

 

「待てー!」

 

魔物を追いかけて、遺跡での追いかけっこが始まった。 だが魔物はこの遺跡の構造を熟知しており、行き止まりにぶつかる事なくイット達を翻弄する。

 

「ほっほー♪」

 

「あ!?」

 

「ほっほほー!」

 

「いつの間に!?」

 

「ほほ!」

 

遺跡を縦横無尽に駆け回る魔物にイット達は翻弄され、次第に体力を消耗してしまう。

 

「な、なんて体力……」

 

「こんな空気の薄い中なのに……」

 

「はあはあ……どこ行った?」

 

「——ほ?」

 

「あ! あそこ!」

 

通路の陰からこちらを除く仮面の魔物をヴィヴィオが見つけ、そのまま追いかけようとしたが……

 

「よぉし、今度こそ!」

 

「ほっほーー!」

 

「ねねー!」

 

いつの間にかイット達の背後に回り込んでいた。

 

「ほっほー」

 

「えっ!?」

 

「ほほほほー」

 

(なんて瞬発力……)

 

仮面の魔物はへたれ込んでいるイット達を見てまるで馬鹿にするように踊る。

 

「なんだアイツ! おちょくりやがって!」

 

「ほ、ほほ、ほほ、ほほっほ、ほっほっほー!」

 

「ねねねー!」

 

「待ーてーー!」

 

「待て、ヴィヴィオ!」

 

ヴィヴィオは魔物の背を追いかけるが……遺跡を巡り巡ってイット達の元に戻って来た時にはもうバテバテだった。

 

「はあはあ……」

 

「だから待てと言ったのに……」

 

「それでどっちに逃げたの?」

 

「どこに行ったんだろう……?」

 

「……でも、このまま闇雲に追いかけても拉致があかないね」

 

「——あ! ならワタシに考えがあるヨ! ネイト、手伝ってくれル?」

 

「それはいいが……何やるんだ?」

 

「散々走り回ってこの遺跡の構造は大体分かったからネ。 先ずはそこの通路を塞いで……」

 

「そこだ、な!」

 

エディの指差した通路にネイトは両手を翳し、氷の壁を作って通路を塞いだ。

 

「それで次はコッチ」

 

「ほいっと!」

 

「ほー? ほほほほー」

 

続けて通路を塞ぎ、魔物は道が塞がれている事を疑問に思いながら迂回した。

 

「こうやって順に道を塞いで行けば……」

 

魔物を追いかけながら次々と通路に氷の壁を作って通路を塞ぎ、少しずつ魔物を追い込んでいく。

 

「最終的には逃げ道は無くなって……」

 

「捕まえる事が出来るって訳か」

 

「なるほど……」

 

「凄いよ、エディさん!」

 

「これくらい、狩人なら当然ヨ」

 

次第に追い込まれていると感じ出した魔物は慌て始めた。 そして……

 

「ほおー!? ほ……ほおっ!?」

 

とうとう仮面の魔物を氷の壁の行き止まりまで追い詰める事が出来た。

 

「ついに追い詰めたぜ。 魔物」

 

「……あれ? あのねーねー言ってたのは?」

 

少年の仮面の上にはあの犬とのような怪異はいなかった。

 

「そういえば……」

 

「途中からどこかに行ってしまったのでしょうか?」

 

「うっひゃあー、でも近くで見るとますます凄い顔してるね」

 

「だからあれは仮面だって」

 

「よく見ればすぐにわかりますよ」

 

「仮面?」

 

「……あ、本当だ」

 

「おいお前、仮面を取れ」

 

「!? うう、うう!」

 

ネイトの言葉を嫌がるように魔物は首を横に振るう。

 

「なんか怖がっているみたいだけど」

 

「いいからさっさととれ! さもないと……」

 

「まあまあ。 ネイトさん、落ち着いてください」

 

フォンはネイトを宥めようとする。 だが、そのネイトの剣幕に仮面の魔物は怯え出し……

 

「——ま、待って! 今取るから! 乱暴は辞めてー!」

 

仮面越しに言葉を発し、仮面に手をかけ……晒されたのは赤みがかった跳ねた紫色の髪の一部を首の後ろに纏め、朱い瞳をしたヴィヴィオ達と同年代くらいの少年だった。

 

恥ずかしいのか、両頬に白い牙のようなペイントをしてある頰を赤くし、仮面で顔半分を隠している。

 

「うう……」

 

「え?」

 

「はあっ?」

 

「この子が……魔物の正体、ですか?」

 

「君の名前は?」

 

「なんでそんなお面を付けているの?」

 

リオとコロナの質問に、少年は顔を赤らめながら遠慮がちに答えた。

 

「ぼ、ぼ、僕は恥ずかしがり屋だから……」

 

『え?』

 

『はあ?』

 

「だ、だから、こうやって仮面で顔を隠しているの…………ああああ恥ずかしいよお! 見ないでー!」

 

チラチラと仕切りにイット達を見て……自分に視線が集中していると分かると身を低くして仮面の後ろに隠れた。

 

「え、ええっと……」

 

「あ、村を襲ったんだよね?」

 

「それに、ここで何をしているんですか?」

 

「恥ずかしいから、誰にも会わないようにここに隠れて暮らしていたの。 ここには普段誰も来ないから」

 

「そうなんだ……」

 

「けど僕……恥ずかしがり屋だけど、寂しがり屋でもあるんだ」

 

「な、なんだソレ……」

 

「時々遊びたくなって村に降りるんだ」

 

が、どうやら山を降りて村の子ども達に会うと……その仮面を怖がられ、逃げられてしまうようだ。 それに加え、仮面を付けていると今の恥ずかしがり屋ではなくまさしく魔物? のような声を出すため恐怖に拍車がかかる。

 

結果、同年代の子ども達に逃げられ……お腹が空いて、子ども達が置いていった食料を仕方なく取って行った事から色々と噂に尾鰭がついたという訳らしい。

 

「なるほど」

 

「それが魔物の噂として広まったといえわけですか……」

 

「なぁんだ。 驚いて損した」

 

「僕はただ……皆と遊びたかっただけなんだ」

 

「そうなんだ……」

 

「ねぇ! だったら私達と遊ばない?」

 

と、そこで少年の寂しそうな顔を見たヴィヴィオが少年に遊ぼうと誘った。

 

「え、いいの!?」

 

「もちろん! それで何して遊ぶ? あ、追いかけっこは無しだよ」

 

「うん! 僕、さっきの人達みたいに遊びたい!」

 

「さっきの、人達……?」

 

「うん! この人達みたいに!」

 

少年が指差したのはウェズリー兄妹だった。 先ほど2人は手合わせをしており、つまり少年は手合わせをしたいという事だろう。

 

「それって……手合わせをしたいってこと?」

 

「それ遊びじゃねえだろ」

 

「まあ、遊びとも取れるかもしれませんね」

 

「なら、私が言い出した事だし、私が相手になるよ」

 

「本当? やったー!」

 

少年は両手を上げて嬉しそうにはしゃぐ。 が、そんな中イットは険しい顔をしていた。

 

「おい、ヴィヴィオ」

 

「大丈夫。 お兄ちゃんがいない間、私はお父さん達に稽古をつけてもらったんだから。 危ない事もしないよ」

 

「………………」

 

しかしデバイスを持っていない2人が手合わせをする……安全面を考えるとイットは納得出来なかった。

 

「あ、私は神崎 ヴィヴィオ。 こっちはお兄ちゃんの……」

 

「神崎 一兎だ」

 

それから一人一人彼に自己紹介し、恥ずかしがって仮面に隠れながらも全員の名前を覚えた。

 

「それで、君の名前は?」

 

「えっと……テディーって言います」

 

「テディー? よろしくね、テディー! じゃあ早速始めよう!」

 

ヴィヴィオは少年……テディーの手を引いてイット達と一緒に先ほどフォンとリオが手合わせをした広間に戻った。

 

いつの間にか霧が晴れ、日が沈み始めた夕方……今度はヴィヴィオとテディーが広間の中心で対面した。

 

「テディーー! 準備はいーい?」

 

「オーケーだよ!」

 

「よおし! じゃあ、始めよう!」

 

「久し振りのバトルに胸が踊るよ!」

 

準備万端のヴィヴィオの呼び掛けに、少し興奮気味のテディーは元気よく返事を返す。

 

「どう思います? この手合わせ?」

 

「そうだね……ヴィヴィオは父さん達とノーヴェさんの教えでストライクアーツを習っている。 まだ荒削りだけど……」

 

「対して、テディーさんの戦闘スタイルは未知数……ただ身体能力に関してはヴィヴィオさんより上でしょう」

 

「私とリオの攻撃を弾き、私達に追われながらも息一つ乱れていませんでした」

 

「この山に住んでいるんだ。 空気が薄い中で駆け回れば、そりゃ心肺能力はかなりのもんになるだろう」

 

「魔力もそれなりにあると思うよ」

 

「これはチョット分からなくなってきたナ」

 

「——それでは……2人とも、始めるぞ」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

イットの立会いの元、2人は対面する。 ヴィヴィオは右手を手刀にして立て、左拳を腰だめにして構え。 テディーは右手を何も持っていないのにまるで剣を掴んで肩に担ぐように、左手は脱力して構えを取った。

 

「——始め!」

 

そしてイットが手を振り上げ、テディーとヴィヴィオの手合わせが開始された。

 

「いっけーー、ヴィヴィオー!」

 

「うん!」

 

「うっほー! ワクワクするー!」

 

ヴィヴィオは観客の声援を受け取りながら駆け出し、楽しそうに笑うテディーは防御体勢を取り……ヴィヴィオの拳がテディーの交差している腕を弾いた。

 

「おおおおお!」

 

「もう一回!」

 

痺れる両腕にテディーは楽しそうな声を上げ、続けてヴィヴィオはラッシュを繰り出した。

 

「はあああっ!!」

 

「おほほほほー!! 強烈だー!」

 

ラッシュを抜け……殴り返して上空にあげた。

 

「っ!」

 

「どんどん行くよー!」

 

テディーは瞬発力、そして先ほどとは別次元の機動力でヴィヴィオの落下地点に先回りして蹴りを入れた。 そしてヴィヴィオはまた上にあげられ、同じ事をテディーは繰り返した。

 

「くっ……凄い速さ! やるね、テディー!」

 

「楽しいな! あははは!! やっぱりバトルは楽しいなー!」

 

どうやら興奮して性格が変わっているようだ。

 

「なんだアイツ?」

 

「試合が始まった瞬間、まるで人が変わってますね」

 

「さっきまで人見知りって言ってたよね?」

 

「心から手合わせを楽しんでますね。 なんだか少し羨ましいです」

 

「ああ、そうだな」

 

心の底から楽しむ心……それを見せられたイット達は少しテディーを羨ましそうな目で見た。

 

「よぉし、こっちもガンガン行くよ!」

 

「あはは! 僕の障壁を舐めたらダメだよ!」

 

すると、テディーの周りに金色の魔力で出来た障壁が展開された。 その障壁は円柱の形をしており、テディーの身を隠すくらいの高さだ。 それに加え、その障壁が回転を始めた。

 

「うえ!?」

 

「!? なに、あの防御魔法!?」

 

「……デコボコした防御魔法があの子を囲むような回転しているね」

 

回転する障壁。 ヴィヴィオは蹴りを繰り出したが……触れた瞬間大きく弾かれてしまった。

 

「なははは! 驚いたかヴィヴィオ!」

 

「まだまだ! もっと、もっと攻める!」

 

両手に虹色の魔力を纏わせ、連続でアクセルスマッシュを放つ。 しかし一撃一撃が重いヴィヴィオの拳を高笑いしながらテディーは余裕で受ける。

 

「効かない効かない! そんなの全然効かないよ!」

 

「もーー! 厄介な防御! まるで巨大な城の……城壁みたいな!」

 

「今度はこっちの番だよ!」

 

「うあっ!」

 

障壁に囲まれたままテディーは突進し、ヴィヴィオは凄まじい衝撃を受けながら吹き飛ばされてしまう。

 

「あの障壁、攻撃にも転じられるのか!」

 

「あの大きな凹凸が高速で回転する事で攻撃を防ぎつつ相手を襲う……厄介ですね」

 

「そもそも身を守るための防御魔法を攻撃に使うなんて発想、普通思いつきませんよ」

 

「何者なんだ、あいつ……?」

 

テディーはヴィヴィオに向かって移動する事で障壁ごと肉薄し、ヴィヴィオは逃げるしかなかった。

 

「あははは! もっともっと行くよ! もっともっと遊ぶよ!」

 

「っ……」

 

(あれとまともにぶつかり合っても勝ち目はない。 どうする、ヴィヴィオ?)

 

「(あの障壁をなんとか攻略しないと……)よぉし、それなら!」

 

イットがヴィヴィオを静かに見守る中、ヴィヴィオは手の中に魔力球を作り出す。

 

「おおっ?」

 

「これでどう! ディバイン……バスター!」

 

「あうっ!」

 

魔力球を殴ることで砲撃を放ち、砲撃は障壁に衝突するとテディーは衝撃を受けてダメージを負う。

 

「高速砲。 なるほど……考えましたね」

 

「どうやらあの障壁、物理攻撃には強いですが魔法攻撃には弱いみたいですね」

 

「相手がいなかったんだ、仕方ないだろう」

 

「どんどん行くよ!!」

 

ダメージを占めたヴィヴィオは続けて砲撃を放って攻撃する。 その砲撃をテディーは瞬発力を発揮して回避する。

 

「凄いや! 触れてもないのにどうなってるの!? 凄い凄い、ヴィヴィオは魔法使いだね!」

 

「ええ? 魔法使いじゃなくて魔導師なんだけど……」

 

「魔法の存在も知らないのか?」

 

「どうやら自分の使っている障壁も魔法と認識してないようだな」

 

この世界は一応管理世界ではあるが、この地域はそんなに魔法文化は行き渡っておらず。 どうやらテディーは自分の力について余り知らないようだった。

 

「まあでも、これなら触れずに攻撃する事が出来る! 悪いけどこの勝負、私の勝ちだよ!」

 

「あははは! あははは!」

 

「それ! ディバインバスターの乱れ撃ち!」

 

「うわわわっ!」

 

休む事なく砲撃を放ち……その一発が直撃し弾き飛ばされ、受け身を取って着地し、嬉しうにはしゃぐ。

 

「ほほ! 凄いや、楽しいや! 痺れるよ!」

 

「うぇ!? これでも決まらないの!?」

 

「ヴィヴィオが魔法使いなら、僕も魔法使いだよ! そう簡単には決まらないよ!」

 

「魔法!?」

 

「うっほう! 僕の足裏には摩擦が起きやすくする魔法が常時発動しているんだ! そのおかげで防御と持久が半端なくなっているんだよ!」

 

その言葉にイット達はテディーの足元に注目した。 革靴の底が仄かに光っており、グリップの効いた動きが出来ている。

 

「彼の身体能力に加え、機動力が増しているのはそのためですか……」

 

「あの魔法で足元の防御力と持久力を高め、摩擦が高いのなら攻撃力も高めるでしょう」

 

「無茶苦茶に見えてバランスが取れているナ」

 

「うそ〜! ……ん? 摩擦? そっか、それなら!」

 

どうしようかと頭を悩ませていたヴィヴィオ、そこで何か妙案を閃いた。

 

「こっちだよ!」

 

「ほほ?」

 

テディーを呼び、誘うかのように背を向けて走り出す。 2人は広場の端付近に向かうと……テディーは足を取られた。 足元を見るとそこは砂の上だった。

 

「ほぉっ!?」

 

「どう? いくら動きが良くても砂の上じゃ自由が効かないでしょ? でも、私は!」

 

ヴィヴィオは爪先立ちになりながら砂を蹴り、地面と同じ速さでテディーに接近した。 そして拳の連打を障壁に繰り出し、足元の覚束ないテディーを大きく揺らして行く。

 

「うわあああっ!?」

 

「どう? 今度こそもらうよ!」

 

「あそこは……さっきコロナが俺の攻撃を防いだ時にできた砂場か」

 

「凄い! 私が作った砂を使うなんて!」

 

「相手を見ながら周囲を把握し、臨機応変に対応する……中々出来る事ではありません」

 

「ヴィヴィオはそんなに身体は丈夫な方じゃないが、目はいいからな」

 

足を取られて動けないテディーをヴィヴィオは何度も殴りつけてダメージを与えていく。 踏ん張りの効かないテディーはどんどん追い詰められて行く。

 

「凄い……こんなに追い詰めらるのは初めてだよ。 楽しい……ドキドキする! こんな強い相手と出会えるなんて——嬉しくて身体が震える!! 感動したーー!!!」

 

「うえっ!?」

 

「なっ!?」

 

追い詰められている筈のテディーは逆に興奮を隠せず、それに呼応するように大きな金色の魔力が溢れ出していく。

 

「こんな楽しいバトルはもっともっと続けたい! 僕はもっともっと戦っていたーい!!」

 

「っ……そんな状態で何が出来るの!? トドメだよ!」

 

ヴィヴィオが右手を振り上げて接近してその時……放出された魔力が砂を押し、徐々にテディーが沈んで行く。

 

「もっと戦いたーーい!!」

 

「え?」

 

「うぇ!? なにそれ!?」

 

コロナとリオが驚くのも束の間、ヴィヴィオの拳がテディーとぶつかったが……今度は踏ん張りが効いて、ヴィヴィオが弾かれてしまった。

 

「きゃっ!?」

 

「ヴィヴィオ!」

 

「砂の上にいるからダメなんだ。 こうして半分埋まってしまえば、僕の防御は鉄壁だ! さあ、どんどんかかって来ていいよ!」

 

「そんな無茶苦茶な!? このぉ!!」

 

がむしゃらとばかりに拳や蹴りを繰り出すヴィヴィオ。 しかし重心が低くなって安定したテディーの防御は崩せなかった。

 

「なはははは! 戦いは楽しいや! ずっとずっとバトるよ!!」

 

「うう〜〜!! あんまり使いたくないけど……こうなったら最後の手段だよ!」

 

「最後の手段?」

 

何のことかイットにも分からなかった。 そしてヴィヴィオはテディーから距離を取った。すると……ヴィヴィオから虹色の魔力光が溢れ始めた。

 

「あれは……!」

 

「うほ?」

 

「——ジャッチメントインヘルノ!!」

 

次の瞬間……ヴィヴィオから虹の柱が立ち昇った。

 

「うっほおおお!?」

 

「アリシアママ直伝の魔法! 砂の中から引きずり出してあげる!」

 

「イットさん、あの魔法は?」

 

「振動魔法によって空気を超振動させているんだ。 振動の周波数によって相手を引き寄せたり、気圧を操って頭痛を起こさせたりさせるアリシア母さんの魔法だ」

 

「え、えげつねぇ……」

 

「けど、テディー君に対してかなり有効な手ですね」

 

「だがあの魔法はかなり魔力を消耗する……ヴィヴィオ! 余り無茶をするな!」

 

イットが注意を呼びかけるも魔法の発動維持に集中しているためか返事はない。 柱からは超低音の音波が響き渡り、少しずつ砂の中から引きずり出され、徐々にヴィヴィオの元に引き寄せられていく。

 

「うっほほー! これは凄いや、楽しいや! 僕はこういうのを待ってたんだ! ヴィヴィオなら僕も全力で戦えるよ!」

 

「え、えええっ!? まだ全力を出してなかったの!?」

 

「なにっ!?」

 

「あいつ……!」

 

「嘘、あれで全力じゃない?」

 

今までの奇想天外な行動がまだ全力では無いと言われ、ヴィヴィオを含めイット達も驚きを隠せなかった。

 

「行くっよーー! アシェンスパーク!!」

 

そしてテディーは一気に魔力を解放、ヴィヴィオの魔法による束縛を物ともせずに空高く飛び上がった。

 

「飛び上がった!?」

 

「この魔法下で……なんてヤツだ!」

 

「え……きゃああっ!?」

 

障壁を回転させ落下しながら加速、虹の柱と衝突し、いとも簡単にヴィヴィオのジャッチメントインヘルノを打ち消した。

 

「嘘……」

 

「ヴィヴィオの魔法をこうも簡単に……」

 

「! まだです!」

 

2人の技の衝突で砂塵が舞い上がってしまい、そして次第に晴れていくと……テディーかヴィヴィオの上に乗りながら踏みつけるように攻撃していた。

 

「え!?」

 

「うっ! うわっ!?」

 

「ヴィヴィオとのバトルは楽しいや! もっともっと遊ぶよ!」

 

テディーは喜びを体現するようにその場で飛び跳ねる。 しかし、その場というのはヴィヴィオの上……飛び跳ねる毎に何度もヴィヴィオを上から踏みつける。

 

「うっ! や、やめてテディー!」

 

「あはは! 楽しい楽しい!」

 

ヴィヴィオは両手を頭の上で交差させ、腕を何度も踏みつけられる。 跳躍する事にヴィヴィオは砂に沈んでいき、もう太ももまで砂に埋もれてしまった。

 

「な、なんて子……」

 

「無邪気な顔してえげつねえ事するな」

 

「まるで変幻自在……型に囚われない自由な戦いです」

 

「やることなす事デタラメ……しかし、確実に言えることは、テディーさんは強い!」

 

「もうっ!! やめててって、ば!!」

 

「おおっ!?」

 

踏みつける足を見切り、ヴィヴィオは振り下ろされたテディーの右足を掴んで投げ飛ばした。

 

「いつまでも調子に乗らないでよね! 勝負はこれからだよ!」

 

「うほう! 望むところだよ!」

 

互いに魔力を高めながら睨み合い、ほぼ同時に2人は魔力を纏いながら地を蹴って飛び出す。

 

「うおおおっ!! アクセルインパクト!!」

 

「やるからには絶対勝ーつ!! イシュタルインパクト!!」

 

虹色の魔力と金色の魔力が一気に近付き、そして……

 

「うわあっ!?」

 

「くっ!」

 

2人は衝突、テディーの金色の魔力が柱のような天高く登り、衝撃が辺りに飛び散る。

 

「ど、どうなったの?」

 

「えっと……」

 

煙が晴れていき、広間を見ると……そこにはテディーしかいなかった。

 

「ヴィヴィオちゃんは!?」

 

「…………! 上です!」

 

「っ!」

 

あの衝撃でヴィヴィオは空高く飛ばされており、すかさずイットが飛び出し……落ちてきたヴィヴィオを受け止めた。

 

「きゅう………」

 

「ヴィヴィオ!」

 

「ヴィヴィオちゃん!」

 

「大丈夫。 気絶しているだけで大した怪我はしてないよ」

 

「そこまで——と、言う必要はないようですね」

 

「やった! やったー!僕の勝ちだー!」

 

勝敗は決し。 テディーは無邪気に笑い、ピョンピョンと跳ねながら勝利を喜ぶ。

 

「やれやれ……」

 

「……ん」

 

「目が覚めたか?」

 

「ヴィヴィオちゃん、大丈夫?」

 

「ここは…………私、負けちゃった?」

 

目が覚めたヴィヴィオは辺りを見回していると、テディーがヴィヴィオに歩み寄った。

 

「はー、楽しかったー! ヴィヴィオとのバトルは最高だよ! 僕はこんなバトルがしたかったんだ!」

 

「ほえ?」

 

「ヴィヴィオは強い! またバトルしようね!」

 

「テディー……」

 

「……ダメ?」

 

「ううん! そんな事ないよ!私もテディーとの手合わせすっごく楽しかったよ!」

 

「じゃあ!」

 

「うん! これからもずっと、何回でもバトルしよう!」

 

「うっほう! やったー!! じゃあ早速もう一回バトるよ!」

 

「望むところだよ!」

 

「——ちょっと待った!」

 

また試合をやろうとすると……リオから待ったが入った。

 

「ヴィヴィオだけじゃなくて、私とも試合しようよ!」

 

「私も! 私もテディー君と試合したい!」

 

「うっほう! やろうやろう! 皆でバトろう! 皆でやればもっと楽しめるよね!」

 

年少組はすっかり意気投合してしまい、誰とバトルするから楽しそうに笑っていた。

 

「——ねー!」

 

と、その時……どこからともなく鳴き声らしき声が聞こえると、テディーの頭の上に動物らしき影が乗っかった。

 

その影は、最初にテディーと一緒にいた怪異らしき動物だった。

 

「あ、ねね!」

 

「ねね!」

 

「うわぁ、何この子? カワイイ!!」

 

「最初に会った時、テディー君の頭の上に乗っていた子ですね?」

 

「変な動物だナ。 名前なんて言うんダ?」

 

「ねねだよ」

 

「ねねー」

 

「鳴き声まんまだな」

 

「………………」

 

ヴィヴィオ達は目を輝かせながらねねを撫でる中、イットは険しい目をしてねねを見つめていた。 その雰囲気をミウラが感じ取った。

 

「イット君、どうかしたの?」

 

「あのねねって動物……怪異だ」

 

「え……」

 

「まあ、あんな尻尾をしてますし……」

 

身体を見れば少し珍しい犬に見えるが、そこから生える尻尾は明らかに変わっている。 例えば片手で口を作り、そこに目をつけたような形の尻尾だ。

 

「一応確認したがメイフォンのサーチアプリが反応を示さない。 ちょっと珍しい事例だな」

 

「えっと……この事はイットさんのお父君に?」

 

「報告はするけど討伐はしないでしょう。 少し研究のために調べはするけど酷い事はしないよ」

 

「……って、こいつをミッドチルダに連れて行く気か?」

 

「村の人から退治を頼まれたからな。 村の脅威が無くなるなら方法はいくらでもあるだろう?」

 

「それもそうだナ。 無益な殺生はしないのが狩人の礼儀ダ」

 

そうと決まれば、イットはテディーの前まで歩いた。

 

「なあテディー、少しお願いがあるんだけどいいか?」

 

「あ、はい」

 

「ねー?」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「皆ーー!」

 

山から降りたイット達はテントを設営してあるキャンプ場に向かい、心配していたユミナが慌てて駆け寄って来た。

 

「大丈夫? 怪我はない?」

 

「大丈夫です、怪我の心配はありません」

 

「これくらい余裕ヨ」

 

「少し、やんちゃしただけだ」

 

「? って、この子達は?」

 

イット達の後ろにはヴィヴィオ達がおり、出発した時より人数が増えている事にユミナは疑問に思い質問する。

 

「山の遺跡の中で鉢合わせになってな。 妹とその友人達だ」

 

『こんにちはー!』

 

「はい、こんにちは」

 

ヴィヴィオ達の挨拶にユミナはやんわりと答えた。

 

「それで本題の魔物や怪異の方はどうだったの?」

 

「それはですね……」

 

イット達は視線を後ろに向けると……ヴィヴィオ達の後ろに隠れているテディーを見た。

 

「は、恥ずかしいよ〜!」

 

「ね〜」

 

仮面を被って慌てるテディーを見てねねはやれやれと首を振る。

 

「えっと……もしかして、あの子とその動物が?」

 

「ええ。 彼らが魔物と怪異です。 色々と噂に尾鰭がついていたようで……」

 

「それで色々あって連れて行く事になったんです」

 

「……どうしてそうなったか経緯は後で聞くとして……こんな事になっちゃったし、もう切り上げちゃう?」

 

「そうだな。 鍛えられたといえば鍛えられたし……」

 

「身になる成果はありましたね」

 

先に村に“魔物と怪異は退治した”と虚偽の報告もしてあり、テントを片付け出発の準備を整えた。

 

「それじゃあ行こう。 ミッドチルダに」

 

「楽しい場所、いっぱい案内するからね!」

 

「おほうっ! 楽しみだなー!」

 

「ねー!」

 

ツバサクロニクルの大会に向けての訓練の筈だったが、思わぬ事になってしまった。 だがイット達はそれを不幸とは思わず……グランド・フェスタに向けて意気込みを新たに前に進むのだった。

 

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