バタバタした特訓から帰ってきたイット達は、公務員である親達にテディーとねねについて説明し、保護した。
「それですずか母さん、2人はどうなったの?」
翌日、イット達は異界対策課にある研究室にいた。 そこで白衣を着ている長い紫髪の美女……神崎 すずかがテディーとねねについて説明した。
「テディー君は対策課で保護したよ。 今後を考えると身元保証人が必要だけど、その間は施設で預かる予定だね。 問題は……ねねちゃんの方だね」
「やっぱり、そうですか……」
「あんなに可愛らしいのに……怪異ですので……」
「ただ、怪異と言っても通常とは違うみたい。 まずこれを見て」
展開された空間キーボードを操作し、すずかはイット達の前に空間ディスプレイを展開させ、ねねの映像を映し出した。
「分類としてねねちゃんはグリムグリード。 ただ魔力がかなり落ちているようでね、その影響かサーチアプリに反応しないんだよ」
「確かに、あの時ねねが目の前にいながらもイットのサーチアプリは無反応でした」
「分かったのはこれだけだよ」
「……え、これだけですか?」
分かった事は少ないことにユミナは疑問に思った。
「元々、私はデバイスマスターが主な仕事。 怪異関係となるとアリシアちゃんが専門だけど……今はレンヤ君と管理外世界の調査に行っているからすぐには調べられないの」
「そうですか……」
「ねねちゃんの今後の扱いとしては調査を名目に特例として保護するという形をとります。 ただ、怪異は市民にとって嫌われている存在……可愛くてもその事実は変えられないから、あまり無闇に広めたりしないでね?」
「はい、当然です!」
「もちろんだヨ!」
ちなみに当の2人は階下でヴィヴィオ達と遊んでいたりする。
「さて、それじゃあこの話は一旦終わりにして……グランド・フェスタの参加資格にClass3以上デバイスを所持と装備しなければならない規定があって。 イット、エディちゃん、アインハルトちゃんにそのデバイスを受け取ってもらうよ」
「うわぁ! やっとだヨ!」
「ありがとうございます」
お礼を言っていると、部屋に赤毛の少女と銀髪の少女が入ってきた。 その手には両手で持つくらいの箱を持っていた。
「アギト、リイン!」
「久しぶりだな」
「久しぶりですぅ! また大きくなりましたか?」
「まあ、ボチボチかな」
イットと言葉を交わしてから2人はアインハルト達の前に出た。
「紹介するよ。 こっちがアギト。 そしてリインフォース・ツヴァイ」
「よろしくな」
「リインって呼んでくださいね!」
「よ、よろしくお願いします」
(…………人間、じゃねえな)
「彼女達もデバイス作製に協力を?」
「エディちゃんはともかく、イットとアインハルトちゃんは真正古代ベルカ式だからね。 私だけじゃ無理な面が多かったから協力してもらったの」
アギトとリインはイット、アインハルト、エディの前に箱を1つずつ置いた。 どうやらこの中に3人が所望しているデバイスが入っているようだ。
「皆の希望通り装着型や武器型じゃない補助・制御型に仕上げておいたよ」
「デバイスの外装はアタシが考えた。 アインハルトのは一から古代ベルカの歴史について調べてつくったんだぜ」
「確か豹をモチーフにしたんだっけ?」
「ああ。 なんかアインハルトって見た目似てるからな、クラウス陛下と。 それにちなんで動物型にした」
「っ……」
アギトは一生懸命調べたと胸を張るが、アインハルトは少し険しい顔をしてしまった。
(アインハルト……)
「ユニットベースはリインがやりました! はやてちゃんもAIシステムの仕上げと調整面で協力しているですぅ!」
「さあ、開けてみて」
すずかに催促され、3人は少し緊張しながら箱を手に取った。
「少しドキドキしますね」
「そうか?」
「あ、面白そうだから順番に開けてみたらどう?」
「それいいかもナ! じゃあ早速ワタシから……」
先ずはエディから箱を開けると……中に入っていたのは羽飾りのあるペンダントだった。 どうやら非人格型のデバイスのようだ。
「わあ……!」
「綺麗な羽飾り……」
「これ……バルカスの工芸品だヨ」
「ああ、それを元にして作ってみた。 気に入ったか?」
「モチロン!」
ペンダントを首にかけ、エディは鏡の前に立って羽飾りと一緒に自分の姿を見た。
「エディさん、素敵だよ!」
「ありがとナ!」
「ふふ、気に入ってくれてよかった。 認証と命名は後で皆とやるとして……次はアインハルトちゃん、開けてみて」
「は、はい……」
次にアインハルトが緊張した様子でゆっくりと箱を開け、中を覗くと……白い豹柄の子猫のぬいぐるみが眠っていた。
『——猫?』
箱の中で豹柄の猫のぬいぐるみがスヤスヤと寝ていた。 それをアインハルトと一緒に見ていたイット達は思わず声を揃えて第一印象を言った。
「えええっ? なんだ今の皆の心の声!?」
「もしかしてイメージと違ってましたか?」
「いえ、そんな……!」
「な、なんというか……」
「豹と聞かれましたので……不意を突かれたというか……」
実際、最初に豹の動物型のデバイスと聞かれればそれなりの大きさを予想していた。 だが現実は猫だった。
「ふふ、はやてちゃんがおちゃめを効かせてぬいぐるみ外装にしたの。 でも性能は折り紙つきだから安心して」
「は、はやてさん……」
「そこは心配してないです。 けど……」
「あ……」
そこで猫? が目を覚まし、アインハルトを見つめると立ち上がって箱の縁に前脚を乗っけ……
「にゃあ」
「あ……」
「か、可愛い!」
「可愛い! カ〜!」
アインハルトを含め女性陣が顔を赤めながら猫の愛らしさに心打たれる。
「触れてあげて、アインハルトちゃん」
すずかに言われ、アインハルトは優しく子猫を抱える。
(ああ、温かいんだ。 ホントに、生きているみたいだ。 雪原豹……シュトゥラ地方に住む頼もしい仲間……)
(アインハルトさん……)
(よかった……初めて会った時からあんな顔を見せたことなかったけど、そんな顔も出来るんだな)
今まで見せたことない表情を見てイット達は少しだけだがホッとする。 と、そこでアインハルトは遠慮がちに質問した。
「こんな可愛らしい子を私が頂いてよろしいんでしょうか?」
「もちろん!」
「アインハルトのために生み出した子ですから!」
「最後はイット、開けてみて」
少し息を呑みながらイットが箱に手をかけ、蓋を開けてみると……
『——犬?』
そこにいたのは灰色と白い毛並みをして尻尾は上に巻いており、狼に似た子犬のぬいぐるみだった。 大きさは先ほどのアインハルトの猫より少し大きいくらいだ。
「だからなんだよ、その心の声は!?」
「狼をイメージしたのですが……」
「そもそも、アインハルトはともかく男であらイットにぬいぐるみ型って似合わないだろう」
確かにそうかもしれないが、イットは子犬をジッと見つめ、子犬もつぶらな瞳でイットを見つめ返す。
「すずか母さん、この犬って……」
「うん。 あの時のぬいぐるみをモチーフにしているよ」
「あの時……?」
「色々あったんだよ、昔にな」
少し誤魔化しながらイットは子犬を両手で抱えた。
「あん!」
「お、おお……」
「わあ、この子も可愛い!」
「その2匹がいるとあんまり閉まらなくなると思うんだが……」
「まあ、緊張するよりはいいでしょう」
と、そこでアインハルトの子猫とイットの子犬の目と目が合うと……
「にゃおー!」
「あおーん!」
“初めまして”とでも言っているように2匹は小さな雄叫びを上げた。
「お披露目と授与はこれでお終いです。 次はマスター認証と命名ですぅ!」
「上においで。 小規模だけど魔法発動実験室があるから、そこで認証をやりましょう」
「はい」
「うーん、なんて名前を付けようカナ〜?」
「そうだな……」
すずか達に連れられてイット達は階段を登り、その間アインハルトは手の平に乗る子猫を見下ろした。
(そういえば……オリヴィエ聖王女が特に気に入ってらしたつがいいたっけ。 気の早いオリヴィエ殿下はいつも子が生まれる前から名前を考えてくれていて……でも、悲しいことこの世に生まれる事ができなかった子がいて。 あの豹には、なんて名前を贈ろうとしていたんだっけ……?)
目を閉じ、自分の生きている間で記憶した事がないはずの場面を思い出す。
(思えばその年は2人の最後の年……イットさん、ヴィヴィオさん、あなた達を見ていると思い浮かべてしまいます。 オリヴィエ殿下と——ベルベットを)
ふと、階段の折返し地点に備え付けられてあった窓の外を覗く。 そこから見える空はいつもと同じ色をしている。
(既に私の先祖について感づいている人は多い。 いつか……私の口から話す時が来るのでしょうか? 私が——覇王イングヴァルトの直系子孫だということを。 そしたら……受け入れてくれるのでしょうか? 私を……本当の仲間として、彼女達のように……船でただ一つの航路を進んで)
「——にゃあにゃあ(ぺろぺろ)」
「あっ!」
深く考え込み、気が落ち込んでまっているの感じ取ったのか……いつのまにか子猫がアインハルトの顔までよじ登って慰めるように頰を舐めた。
「……ありがとう。 慰めてくれたの?」
「にゃあ!」
肯定するように元気よく鳴く子猫にアインハルトは心が少し軽くなった気がした。
上階の実験室に到着し、3人は早速起動を試みた。
『個体名称登録——』
すると、エディは近代ベルカ式、イットとアインハルトは古代ベルカ式……3人の足元にそれぞれの魔法陣が展開、同時にマスター認証を始めた。
「オマエの名前は風の刻印……セフィル!」
「あなたの名前はアスティオン。 愛称はティオ」
「にゃあー♪」
「お前の名前はオラシオン。 愛称はシオンだ」
「あおーん!」
それぞれのデバイスに名前を授け、眼前に掲げる。
「セフィル……」
「アスティオン……」
「オラシオン……」
『セットアップ!』
同時にセットアップし、バリアジャケットを纏いながら3人は変身制御……通称大人モードで10代後半くらい成長した姿になった。
エディのはかなりの軽装で、グローブとアームガードとホットパンツ、肩やヘソが出ておりかなり肌が露出している。
アインハルトは白を基調とした服に両手には指ぬきの小手のついたグローブを付けている。
イットは黒い服に白い線が描かれた赤のコートを前を閉めずに羽織った風のバリアジャケットだ。
「へぇ……全員大人モードか」
「エ、エディさん……露出が多くない?」
「そうカ?」
「でも皆さん、カッコイイです!」
「——さて、それじゃあ少しずつ慣らすように微調整をするよ。 違和感があったら遠慮なく言ってね」
「お願いします!」
使い易くするようにデバイスの調整を行い。 それが終わるとイット達は集まった。
「——大会の参加登録もしたし、これでチームツバサクロニクルも準備万端だね!」
「ああ、大会まであと1週間……最後まで気を抜かずに行こう!」
『おおっ!』
「にゃおー!」
「あおーん!」
イット達7人はそれぞれの愛機のデバイスを片手に持って空に掲げた。
「ふふ。 あの子達を見ていると、昔の私達を思い浮かべちゃうね」
「だな」
「はいです!」
結束を固めるイット達、ツバサクロニクルをすずか達は懐かしそうに見つめていた。
◆ ◆ ◆
一週間後……グランド・フェスタ開催当日——
『参加者は登録証を係の者へ提示し、会場内へお進み下さい。 繰り返します——』
グランド・フェスタは大勢の参加チームがいる事から最初に4箇所で予選が開かれる。 予選で通過できるチームはたった1チーム、そして本戦では予選通過チームに加えて前回の大会優勝チームを含めた計5チームによる総当たり戦で、勝敗が多いチームが優勝する。
「……って、こんなにいんのかよ参加者!」
そして……その予選会場の1つにイット達、ツバサクロニクルの姿があった。
「うわぁ……人がいっぱいだヨ〜」
「今年の参加チームは約120。 今年のグランド・フェスタは過去最多らしいよ」
「そのチーム数が4当分されて1つの予選会場辺りの人数は……」
「ここには約180人のライバルがいることになりますね」
「想像を絶する人数ですね」
「にゃー」
「あん!」
「——お兄ちゃん頑張って!」
ザワザワと騒いでいる……というより、屋台も立ち並んでおり、もうお祭り騒ぎである。 屋台の通りを歩いて会場に向かうイット達。 そこへ、応援に来てくれたヴィヴィオ達からの声援を送られる。
「あたし達が応援しているから大丈夫だよ!」
「皆さん、怪我のないように!」
「頑張れー!」
「ねねねー!」
「うん、頑張るよ!」
応援に来てくれたヴィヴィオ達の声援に応える。
(…………あ…………)
そこでイットは声援を送るヴィヴィオ達の後ろにサングラスをかけて変装しているアリサを見つけた。 その視線にアリサが気付くと軽く手を振った。
(あれで変装しているつもりなんだろうけど……誰だか分からないとは思うだけで、美人だということは隠せてないよ)
事実、アリサの周りがそこまで騒がしくないとはいえ、男達の視線はアリサに釘付けだった。
(あれがイットさんとヴィヴィオさんのお母様。 綺麗な方です)
(でも変装、出来てませんよね……?)
(しかしよく来れたな。 “紅の戦姫”は毎日怪異の討伐や教導で忙しいと聞いていたが……)
「よし! それじゃあ早く会場に入りましょう!」
意気込みながらズンズンと進むミウラ。 と、そこでテディーが……頭の上にいたねねがいなくなっている事に気付いた。
「……ん? 皆、ねね、どこ行ったか知らない?」
「ねねちゃん? さっきまでそこに……」
「あれ? ねね?」
先程までテディーの膝の上にいたねねがいつの間にかいなかった。 一瞬シーンとなり……
「おーい、ねねー!」
「ええっ!? もうすぐ開会式ですよ!?」
「ねねちゃーん、どこー?」
「ねねー! ねねー!!」
大声をだして辺りを見回すが、人も多い事からねねは見つからなかった。
「ったく……ウロウロしてて悪い奴にでも連れてかれたらどーすんだよ!」
「ぱっと見珍しいからナ……あり得なくもナイ」
「……時間がありません。 とりあえず手分けして捜しましょう!」
『ラジャー!!』
ネイトとコロナの指示を聞き、イット達とヴィヴィオ達は敬礼した。
妙な統率感を出しながらねねを捜しに回ったのだが……
「ねねー!!」
「いるわけねーだろ!!」
「クゥン……」
排水溝を除くイット。
「ねね!?」
「あ?」
「デカすぎるわ!!」
ガラの悪そうな大男を叩くエディ。
(ピューロロロ〜♪ ピューロロロ〜♪)
「呼べんのかよ!!」
オカリナを吹くフォン。 逆に物見に人が集まる。
「へっ、へっ、へっ」
「ねねちゃんですか?」
「にゃあ?」
「違ぇよ!」
同じ茶色い毛並みの野良犬に問いかけるアインハルト。
「あわわわっ!?」
「どこ行ってんだよ!」
人混みに流されて慌てふためくミウラ。
「ねねー?」
「ねねー!!」
「ねーーー?」
「ねねちゃーん! ねねちゃーん!?」
(よし!!)
「……なにが?」
ヴィヴィオ達と探し回るコロナを見て、今までツッコんでいた、親指を立てるネイト。 それを見たユミナが少し苦笑気味になる。 それからもねねを探し回ったが……
「ダメだ……見つからない」
「こっちもです」
「そ……そうか……」
「少し面倒な事になったわね」
大会が始まる前から疲労するイット達。 ただし、ネイトに関してはツッコミ疲れ。そろそろ開会式も始まる……後をヴィヴィオ達に任せ、イット達は会場に向かった。
そして……件のねねは……
「ねー……」
焼きそばの匂いにつられて途中で迷子になっていた。 と、トボトボと歩くねねの前に誰かが立っていた。
「ね?」
◆ ◆ ◆
『——定刻となりました。 これよりグランド・フェスタ、予選を開始します』
「あ、始まるみたいですね」
「それじゃあ皆、私も観客席から応援しているよ!」
「うん! 頑張りますよ!」
マネージャーとして同行していたユミナは手を振りながら会場を出て行き、それからすぐに開会式が始まった。
『まもなく予選会の説明に入りたいと思います。 皆さま、白いラインの内側まで下がってお待ちください』
案内の通り参加者は正方形に描かれた白いラインの内側で待機していた。 イットはチラリと周りを見ると多種多様な人物がおり、気配を感じ取ると強者の気配を感じ取る事ができた。
「うわー、強そうな人達ばかりだね……」
「心配するなミウラ。 こっちにはどんなレギュレーションでも対応できるようにみっちり特訓したんだ!」
「はい。 なにが来ても問題ありません」
「にゃ!」
(…………? なんだ、この変なカンジ?)
『——ではこれより、第3予選会場の責任者である運営員より、挨拶と予選の設明をいただきたいと思ます』
「お、始まるぞ」
エディが顔をしかめる中、スピーカーによる予選の説明が始まった。
『(ピーガー) あーあー。 オホン!! 私がこの第3予選会場を任されている者です。 見たところ今年も強者揃いのようですね。 さて大会の運営は各会場の責任者の裁量によってルールが決まります。 つまり4つ同時に行われる予選が同じである事はない。 そして……私が決めた予選の内容は——』
ガシャン! と選手達の正面にある舞台から何かが出てきた。 舞台の下から出て来たのは……
『この、さっき拾った変な犬争奪戦です』
棒と一緒に簀巻きにされて磔にされている、ねねだった。
『ねねいたぁーーーー!!!』
『ねねーー!?』
ヴィヴィオ達が散々探し回っていたねねが、イット達の前に捕獲されて出てきた。
「オイオイ、きいてねーぞこんなの!!」
「いや、でもコリャチャンスだぜ!! この百近いチームの中から勝ち抜くより、全然こっちの方が楽だ!」
「こりゃ実力云々より早い者勝ちだぜ!!」
選手から非難や歓喜の声が広がっていく。 イット達、ツバサクロニクルも予想外とばかりに頭を抱える。
「どんなレギュレーションでも対応できる修行して来たのに……!」
「争奪戦なんて予想外過ぎますよぉ!!」
「こうなったら何がなんでもねねを奪い取るしかない!」
『この犬かなんだかよくわからない動物、こいつを捕まえたチームを予選通過とする。では、よーい……スタート!!』
選手達の心情も何のその。 あっさり予選を開始すると……選手達は走り出し、我先にねねを捕まえようとする。
「くっ……」
「やべ!! 出遅れ……」
「待った!!」
『!?』
一瞬遅れてイット達も走り出そうとした時、エディが肩を掴んで止めた。 その意図を問いただそうとした、その時……
『うわあああああああぁぁ!!!』
「ええっ!?」
「おお……」
白いラインと舞台の間の床が盛大に開き、大多数の選手が落ちていった。 あのまま走っていたらイット達も落ちていただろう。
「お、落とし穴かよ……」
『今1人でも仲間が落ちてしまったチームは失格です。 慎重さに欠け、目先の勝利を疑うことも必要だぞ?』
「……この声……」
「アリサママ、どうかしたの?」
『えー、それでは改めて……』
少し口調が崩れた事で、アリサが何かに気付いた。 そして、その声の主がねねの隣に歩いて来た。
「このクー・ハイゼットが引き続いて執り行いたいと思う」
「クー先輩……」
「お、アリサじゃねえか。 久しぶりだなー」
大勢の観客がいる中、クーはアリサを見つけると手を振る。 すると、つられてアリサを発見した観客が騒ぎ始めた。
「あの馬鹿は……ごめんなさい、ヴィヴィオ。 私は少し席を外すわ。 あの馬鹿にいっぱつぶち込んで来るから」
「あわわわ……」
「う、うん」
「お、お気をつけてー……」
少し怒り気味のアリサを、ヴィヴィオ達は止める事も出来ずに見送ることしか出来なかった。