グランド・フェスタ第1予選会場……イット達、ツバサクロニクルは本戦に出場するための最終試験、大森林でのサバイバルゲームに望んでいた。
7チームはランダムにバラバラの地点に転移され、相手チームを探そうとした矢先……既にイット達は囲まれていた。
「準備はいいですか?」
「うん(モグモグ)」
「先ずはおにぎりを食い終えろ」
「来ます」
敵はいつどこからでも襲ってくる。 イット達は警戒を強めていると……
「トルネードショット!」
「!!」
「上!?」
木の上にいた選手が風の弾丸を放ち、イット達の中心で炸裂し暴風が巻き起こる。
「くっ!(風の砲撃か……!!)」
「今だウェイク!」
砲撃を打った選手の合図で木の陰から背の高いアフロの男が、体勢を崩したねねボディーを持っているイットに接近してきた。
(しまった! さっきの攻撃はねねちゃんを持っているイットさんと分離させるために……!)
「っ!」
「おっと!」
「行かせないよ」
「邪魔!」
援護に向かおうとしたアインハルトとエディを2人の相手チームが妨害する。
「イット!」
「犬ゲットーーー!!」
両手を伸ばしてねねボディーを捕まえようと飛びかかるが……
「させるか!」
右足でステップを踏み、イットは急加速して捕獲の手から逃れる。
「うまい!」
「いいヨ、イット!」
「そう簡単に奪られないよ……」
「そうかしら?」
回避した先に短髪の女子が待ち構えていた。 急な加速でイットは方向転換できず、このままではねねボディーは奪取されてしまう。
「しまっ——ってない!!」
すぐさま切り替え、身体を捻ってねねボディーをミウラにパスした。
「ああ!!」
「ナイスパスです!」
両手を前に出して受け止めようとした時……横から音もなく、あのスベる支柱を攻略した金髪の男子が掠め取った。
「ああっ!?」
「注意力が足りないな。 もっと全体を見ろ、凡人が」
「——甘いです」
「!?(いつの間後ろを!)」
取られたねねボディーをフォンが取り返し。 そのままイット達は踵を返して走り出し、仕切り直そうとする。
「皆さん、体勢を立て直しますよ!」
「一度撤退しましょう!」
「はい!」
「ちょ、ちょっと! 一度奪わられた犬を取り返すのは反則じゃないの!?」
「——いえ違います。 運営の人は時間制限までにねねを揃えたチームの勝利と言っていました」
「つまり、その間何しても問題は無いのです」
「——その通り!」
その質問を、中継ではなく双眼鏡で観戦していたクーが答える。
イット達は森の中を走り、その後を彼ら……ブラックシザーが追いかけて来る。
「いきなり不意打ちを喰らったな」
「あいつら、一抜けの奴らだろ! どーやってあんなに速くオレらに近付いたんだ!?」
「恐らく、腕のいい探知能力を有している選手がいるのでしょう」
「——おーい、逃げても無駄だよ! その先は崖で行き止まりだ!」
「さっきそこ通ってきたからね! 諦めて止まりなよ!」
「……くそ! このままじゃ振り切れねぇぞ!」
「この中で飛行魔法使える人は?」
「いないです……」
ツバサクロニクルは全員、格闘タイプの魔導師。 純魔導師は1人もいないため、空は飛べない。
「ネイトが氷の橋を架けれバ?」
「崖の大きさにもよりますが、今後を考えると魔力の消費は減らしたいです……」
ボヨーーーン
「それは最後の手段にしましょう」
「だったら他の方法は……」
ボヨーーーン
「……ボヨーーーン?」
走りながら意見を言い合っていると、背後から変な音が聞こえ振り返ると……アフロの男に他の5人が乗り、かなりの速度で接近してきていた。
上に乗っている女子の1人が足元に魔力球を転がし、アフロの男が踏んで飛び跳ねていた。
「は……速ィーーー!?」
「弾性のある魔力球を踏んで加速している!」
「そうか……さっきもあれで近付いてきたのか!」
「……っ! い、行き止まり!?」
奴らか言っていた通り、行く先を大きな崖が塞ぎ足を止めてしまった。
「本当だった!」
「ネイト!」
「溝が大き過ぎる! 直ぐには出来ねぇ!」
(まずい……このままじゃ……)
「——ガストブロー!!」
眼鏡の男が持っていた空気砲のような銃から突風が全体に放たれ、イット達は吹き飛ばされる。
「ぐあっ!」
「きゃ!」
「っ……追いつかれた!」
崖から落ちなかったものの、前はブラックシザー、後ろは崖……退路を塞がれてイット達は崖側に追い込まれてしまった。
「今度こそ逃げ場はない!」
「もらったぁーー!」
「ミウラー! こっちこっち!」
「ミウラさん!」
「早く! パスパス!」
「えっと、ええっと…………えいっ!!」
ねねを持つミウラに一斉に襲い掛かれ、アインハルト達がねねを受け取ろうと声を出してパスを受けようとする。 だがミウラ追い込まれたせいでテンパり……真後ろにねねを投げた。
『バ……バカヤロォーー!!』
テンパっていたとはいえ、ミウラの突飛な行動に思わず全員が声を揃える。
「チャンスだ! 跳べ、ウェイク!」
「ゴムスプリングとウェイクの脚力があれば、向こう岸まで跳べる!! ……はず!」
「うおおおおお!!」
それをチャンスと見たブラックシザーのリーダーが指示を出し。 アフロの男が助走を付け、ゴムスプリングを踏み台にし……大きく跳躍した。
そのジャンプ力は大きな谷を越える勢いで、投げられたねねにも追いついていく。
「い……けぇーーー!!」
「犬ゲットーーー!」
今度こそ両手で捕まえようとすると……下から帯が飛来、ねねボディーに巻き付くと引き寄せられ、捕らえようとした両手は空を切った。
「…………って、あれ?」
「帯!?」
帯は伸縮し……ねねボディーはフォンの手元に収まった。
「ねね奪還!」
「今のうちに逃げるぞ!」
「オウ!」
「フォンやるぅ!」
「し、しまったーー!」
隙をついてねねを取り戻したイット達は再び逃走する。 彼らはチームメイトが向こう岸に行ってしまい、今度はブラックシザーもすぐに追いかけられなかった。
「は、早くこっちに戻ってこいウェイク!」
「無理だよ! ゴムスプリングなしじゃ!」
「遠回りだけど、向こうの吊り橋で戻ってきて」
「ああ! 逃げられるーー!」
追おうにも追えない事をもどかしく思いながらもチームワークを重視するブラックシザー。 その間にイット達は走り距離を取る。
「逃げられたのはいいけどよぉ……」
「あの人達が持っているねねパーツをうばわないと、何も始まりませんね……」
「うーん……」
先手を取られ、体勢を整えるために撤退しているが。 勝利条件はねねパーツを7つ揃えること、逃げてばかりでは勝利は得られない。
「よし、“先回り作戦”でイこう!」
と、そこで悩んでいたエディがある作戦を提案した。
「先回り?」
「さっき谷の先の方に吊り橋が見えたんだケド……多分あの人達、アフロと合流するためにまずあの橋に向かうと思うんダ」
「なるほど! その橋に俺らが先回りし罠を仕掛けるってわけか!」
「というか見えたって……一体どんな動体視力しているんですか……」
「高原育ちなら当然ヨ」
尋常ではない動体視力に少し驚きながらも足を動かして先に進み、イット達はそのエディが見たという吊り橋の元に向かうと……
「…………」
「アレ?」
確かに崖に吊り橋が架かっている。 しかし、吊り橋は今のも壊れそうな古い橋とガッシリした頑丈な橋の2つあった。
「向こうにももう一つ、古い橋が架かっていますね」
「多分あちらの橋の老朽化に伴って、こちらの新しい橋を作ったのでしょう」
「ふーん」
正確な情報ではなかったが、さして問題はなかった。
「さて、どんな罠を仕掛けるかだな、問題は」
「彼らの中の誰がねねパーツを持っているか分からない以上、1人ずつ倒すしかないですね」
「けど、よほど不意をつかないとあの人達を倒すのは難しいですよ?」
「うーん……あ!」
ふと、イットは何かを思い付き人差し指を立てた。
「ならこれならどうだ?」
◆ ◆ ◆
ブラックシザーは対岸に跳んで行ってしまったアフロと合流するため吊り橋まで来ていた。
「くそ……してやられたな」
「ゴメン」
「お帰りー」
アフロは気弱そうにペコペコ頭を下げて謝り、リーダーらしき男性は陽気そうに笑う。
「いやはや、あいつらの連携プレーも大したもんだ! よほど互いに信頼しあってんだろうな」
「けど、結束ならウチの方が上! オレらの連携プレーで今度こそ奴らの犬を奪うぞ!」
気持ちを新たにし、ブラックシザーは気を取り直した。 と、そこでアフロの男が横を見て硬直していた。
「どーしたウェイク?」
「あ。 いや、あれ……」
「ん?」
隣には古くて今にも壊れそうな橋があり、その中央に……モコモコしたねねボディーが置いてあった。
「犬だ」
『すっごく怪しいんですけどーー!?』
「絶対罠だな……」
頑丈な橋から移動し、古い橋の前に来ながら彼らは困惑する。
「どーしますリーダー?」
「どーするったって、どーみても罠だろう。 あの橋に何か罠が仕掛けてあるのは目に見えている……」
「ボロい橋だしな」
明らかに罠であるためねねボディーを取ることを躊躇ってしまう。 しかし……ブラックシザーのリーダーが顎に手を当て、ニヤリと笑った。
「くっくっくっくっ! 計算ミスだったな小鳥達よぉ!」
「!?」
「リーダー、何を!?」
「オレ達が業を煮やして犬を取りに行くと思ったか? 残念ながらそーはいかねーよ! わざわざ橋を渡らなくても……これで!」
ズカズカと橋の前まで歩き、空気砲をねねボディーに向けると……そよ風のような砲撃でねねを撃ち、フワッと浮かせ風に流されてしまう。
「一度谷底に落として拾いに行けばいいんだ!」
「——くっ……!」
ここまでは谷底に落ちる……すると森の中からフォンの帯が飛来し、ねねボディーを巻き取った。
「そこか! ハリケーンブロー!!」
すかさずリーダーが帯が出て来た付近に銃口を向け、強烈な突風を砲撃として放った。 その威力は大きく岩を抉るほどあった。
「バカめ! 本当に谷底なんかに落とすわけないだろう! お前達の居場所を突き止める為の芝居だよバーーカ!!」
罵倒する。 その時……森からイット達が出てきて彼らの背後を取った。
「!?」
「な、何っ!?」
「
「ぐあぁ!!」
驚愕する暇もなくネイトの巨大な氷のハンマーがブラックシザーの眼前に落下し、衝撃で相手は吹き飛ばされる。
(ば……馬鹿な! なんでこいつらが後ろに!?)
「引っかかったな!」
フォンは帯を一度真横に伸ばして木に回させてからねねを回収する事で、相手に居場所を誤認させた。
「じゃあこいつら、橋の上に罠があるとみせかけて……始めからこれが狙いだったのか!」
「完全に不意をついたわけだ!!」
全員が1人ずつ一斉に攻撃し……アインハルトが攻撃した短髪の女子がねねの右の前足を奪った。
「奪りました!」
「撤退!!」
「——火星撃!!」
「
唸るミウラの拳が大地を砕いて敵を牽制するように破片を飛び散らせ、ネイトの氷の壁が両者を分断した。 そして古い橋の上を躊躇なく走り出した。
「ひ、ひえ〜〜……」
「下見なイ下見なイ。 ほら行っタ行っタ!」
「……倒さなくていいのですか?」
「奪うものは奪った。 先は長いんだ、体力は温存しないと保たない」
「あん!」
「にゃ!」
そのまま逃げ切れるかと思いきや……いつの間にか相手チームの2人に先回りされ、そらに2人が間に割って入り、氷の壁を破壊されて背後に2人……行く手を阻まれるどころかあっという間に追い込まれてしまった。
「なっ!?」
「速い!」
「あまり私達を甘く見ないことね」
「奪っておいて、簡単にトンズラできると思わないことだな?」
2on2が3箇所、橋の上とその出入り口の両端で始まってしまい、イットとアインハルトは今にも崩れ落ちそうな橋の上でデスマッチとなってしまった。
「くっ……やはりそう甘くはないですか……」
「やるしかない……皆、行くぞ!!」
『おおっ!』
イット達は完全に戦闘態勢に入り、デバイスを起動して変身魔法で大人になり武器を構えた。
「へぇ……」
「一丁前に見てくれだけを大きくしやがって」
そして、3箇所でそれぞれ戦闘が開始された。 狭く不安定な場所での戦い、イットとアインハルトは苦戦せずともやりずらかった。
「ふん!」
「っ!? 〜〜〜っ!! 硬っ!」
「なんつう硬さだ!」
ネイトとミウラが相手をしている金髪の男子が身に纏う魔力が硬化して、2人の攻撃が全く通らなかった。
「ほら! 避けないと斬られるよ!」
「あうっ!」
「フウ……ハッ!」
加熱している剣を振るい対象を焼き切る黒髪の少女。 防具をしていてもその上から焼き切る剣に受ける事が出来ず、フォンとエディは苦戦を強いられていた。
「弧影斬!」
「エアバレット!」
橋の上でリーダー同士が対面しあい、飛ぶ斬撃と空気の弾丸が衝突し、相互消滅する。
「覇王——」
「反転」
アインハルトが繰り出した拳が茶髪のポニーテールの少女の手の平に触れると……逆にアインハルトが弾き返されてしまった。
「な、何が……」
「斥力の……自分で自分を殴ったのと同じ効果を生んだのか」
「へぇ……1回見ただけで見切るなんて、いい目をしているね」
「——だあっ!?」
そこへ、東側の崖側にいたネイトとミウラがイットとアインハルトに向かって飛んできた。 イット達はネイト達とぶつかり……イット達はフォン達のいる西側に吹き飛ばされてしまい、ネイト達は橋の上に転がった。
その際、橋の上にいた相手チームの2人は西側に跳んだ。
「あいたたた……」
「っう〜〜」
「落ちろ」
「えい」
すると東側と西側、ブラックシザーの2人が橋の縄を切り落とした。
「え……」
「マジかよ!?」
「ネイト!」
「ミウラさん!」
橋は切り落とされ、残っていたネイトとミウラは重力に引かれ谷底に落ちていく。
「うああああっ!?」
「わああああっ!!」
「ネイトさん、ミウラさん!」
「っ!」
アインハルトが手を伸ばすも当然届くはずもなく、フォンが帯を伸ばすも届くよりも前に帯は伸びきり……2人は谷の奥深くに落ちていく。
「っ……飛爪!」
ネイトはミウラを背負いながら冷静に両手で鎖付きの鉤爪を左右の壁に投げ制動し、鎖がゴムのように伸縮しながら徐々に速度を落とし……緩やかに谷底に着地した。
「ふう……」
「た、助かりました……」
命の危機に侵された一瞬を脱しミウラは心臓を抑えながら大きく息を吐き、ネイトは上を見上げ……線にしか見えない溝から見える空を見つめる。
「それにしても凄いですね。 氷をあんな風に柔らかくするなんて」
「氷の性質変化させただけだ。 さて……」
顔を正面に向け、川上を見ても川下を見ても同じ景色……
「どうすっかなー……」
「そうですね……メイフォンは使えないし、私達6人全員、念話を使えませんし……」
ここでごねても仕方なく、ネイトとミウラはイット達と合流するため谷底を歩き始めた。