「——ふむふむ、中々面白くなってきたじゃねえか」
山の頂上から双眼鏡でサバイバルゲームを観戦するクーは、7チームの戦況を見て不敵に笑う。
「ツバサクロニクルとブラックシザーが交戦中、しかしツバサクロニクルは相手チームの策略で2名が谷底に落下、安否は問題なし。 ブラックシザーは6人共無事で、犬のパーツ2つを奪うためツバサクロニクルの残りの4人を追っています」
「ウィザーズは待機。 ガンナーズハイとバトルクッキングは対戦し、バトルクッキングが圧勝。
そこで言葉を切るようにため息をつき、ジロリとクーを睨んだ。
「こんな仕掛けする必要があったのかしら?」
「その方が面白いだろ。 鬼畜なもんはないし、生かすも殺すもあいつら次第だ」
「はぁ……全く貴方ときたら。 その場のノリで運営される身にもなってください……」
「ふふ、エテルナさんも相変わらずですね。 さて、このサバイバルに敗戦がないから奪い返す事が出来るとはいえ、2つのパーツを持っているのは2チーム、1つのパーツは3チーム……残り5時間、どう転ぶかしらね?」
戦況を冷静に分析しながらスクリーンに目を向け、アリサは事の次第を見届ける。
同じく、会場の観客席でサバイバルゲームを観戦していたヴィヴィオ達。 コロナはネイトとミウラが谷に落ちていく光景を見て、両手を胸に押し当ててギュッと握りしめた。
「兄さん、ミウラさん……」
「開始早々、敵と戦う事になって……大丈夫かなぁ?」
「あぁ、ねね……」
「2人も心配だけど、お兄ちゃんとアインハルトさん達もまだ敵と戦っているし……見ててハラハラするよ……」
ヴィヴィオ達はそれぞれ身内を心配で仕方なかった(テディーはバラバラにされたねねに対して)。
「う〜、何もできないのが歯痒いよ〜」
「それは皆、同じ気持ちだよ……」
「——あ!」
その時、ネイトとミウラが彷徨っている谷底で動きがあった。
◆ ◆ ◆
ツバサクロニクルとはぐれてしまったネイトとミウラは、谷底に流れる川沿いに沿って上流を目指していた。
「皆さん、大丈夫でしょうか……?」
「さあな。 だが、ねねパーツの1つはここにある……まだ勝負は諦めてないだろう」
「はい」
歩いていると……ポツポツと雨が、数秒置けば一気に雨が降り始めた。
「…………雨? なんだいきなり……」
「地下だと思ってたんですけど、やっぱり外だったのかな?」
突然の雨、ネイトとミウラは空を見上げながら不審に思っていると……進行方向、雨に隠れて誰かが立っていた。
「誰だ!」
気配に気付いたネイトは身構えながら問い掛ける。 出て来たのは腰まである青髪色の髪にカチューシャを付け、蒼玉のような瞳を持つ美少女だった。 その手には雨を予期していた傘を持っていたが……何故かさしておらず、丸められていた。
「あなたは他のチームの……」
「初めまして、と言っておこう。 チーム、ワイルドファングのメイヤ・ニーヴァだ。先ほどの戦いは見ていた。 そう簡単に倒せると思わぬ事だな」
「そうか。 だが俺にも意地ってもんがあるんだ。 俺達はこの大会に優勝する……筋を無理にでも押し通してな」
「………………」
美しく、凛とした雰囲気の女の子だが、意外と渋い喋り方をする子だった。 だが違和感はなく、態度が堂々としていてよく似合っていた。
雨降りしきる中、お互いに強い意志をぶつけ合って睨み合う。 と……突然、彼女は顔を赤らめて背を向けた。
「そうか……私の負けだ。 ではさらば」
「おいおいおい! 何じゃそりゃ!?」
「え、ええっ!?」
勝利条件はねねを集める事であり、敵チームを全滅させることでは無いので別段おかしくはないが……いきなり背を向けた彼女に2人は驚愕する。
(ああ……どうしてしまったんだ私は。 彼を見ら胸の鼓動がうるさく聞こえてくる)
「待てコラ! ねね持ってんならよこしやがれ!」
「ああ……胸の高鳴りが、私が抑えられない!」
当の本人は胸を押さえて内心ドキドキしていた。 何に対してかは不明等だが、平静を保ってはいられなかった。 メイヤは振り返ると同時にネイトに手をかざした。
「——水牢球!」
「なっ!?」
一瞬で雨がネイトに集結し、水の中に閉じ込められてしまった。
「ネイトさん!」
「ガボガボ——ッ!! ガハッ!!」
ネイトは脱出しようともがくと……脇腹の傷が開いてしまった。
「! なっ、怪我をしていたのか!? ど、どうするべきだ……いや、早く魔法を解除……」
「っ——おらっ!!」
メイヤは怪我を見るや慌てふためくが……ネイトは全身から冷気を放出し、一瞬で水を凍らせると砕いて脱出した。
「凍らせて砕いた!?」
「大丈夫ですか、ネイトさん!」
(な、なんて美しい……水と氷、まさにこれは運命……)
「ゲホッ! してやりやがって……」
「あう……(キュン)」
「痛ってえ……」
メイヤはネイトの行動の一連一連に一々顔を赤らめる。 そして、痛むのは確かであろうが……ネイトは何故か上着を脱いで上半身裸になった。
(な、なぜ服を脱ぐ……ま、まだ心の準備が!?)
(ま、またネイトさんの悪い癖が……)
イット達、ツバサクロニクルが大会に向けて特訓している最中、ネイトは事あるごとに服を脱ぐ癖があった。 なんでも氷と……冷気と一体になるために特訓した結果らしい。
集中している時に無意識に脱ぐらしく、街中で脱がないのがせめてもの救いだ。
「下がってろミウラ!」
「は、はい!」
「避けねぇと怪我するぜ! アイスメイク——
両手を重ねて突き出し、無数の槍をメイヤに放った。 するとメイヤは……手に持っていた傘を一閃させ、槍を全て斬り払った。
「なっ!?」
「無駄だ。 雨が降る中で、私に勝つ事は不可能としれ」
「雨?」
するとメイヤは降っている雨を集め、無数の水球を自分の周囲にフワフワと浮かせる。
(なんかスライムっぽいな)
「……水の魔法ですか……」
「——水!! そう水! 水なんだ!!」
「な、なんだあ?」
「い、いきなりどうしたんですか?」
「今一瞬“スライムっぽい”って思っただろ!?」
いきなりのメイヤの言葉にネイトはギクリと肩を震わせる。 そして続けて矢継ぎ早にメイヤは喋る。
「ちちちち、違うからな!? 決して、衣服を溶かし生娘達を絶頂させるとか……そういう破廉恥な魔法ではなくてっ! ちょっと自分でもされてみたい……とか! 穴という穴を蹂躙されてみたい……とか! そういうわけでは!!」
「そ、そう……ですか……(ゴクリ)」
「……何言ってんだ……?」
何も聞いてないのに自分から墓穴を掘りまくるメイヤに、ミウラは戦慄を覚え息を呑む。 どうやら彼女は自分の魔法にトラウマ……ではなく、思い込みが激しいようだ。
「(ハッ!) コホン……しかし、相対する私達は敵同士、馴れ合う事は出来ない……私もワイルドファングの一員、裏切る事は出来ない! さらば、小さき恋の花!」
「うおっ!?」
傘を振り飛ばされたのは水の斬撃。 ネイトは驚きながら避け、斬撃は背後の壁に大きな切傷を残して霧散した。
「高出力で噴射された水の斬撃!
「あまり甘く見ると痛い目を見るぞ」
「くっ……アイスメイク——
氷の斧を造り出し、横に振り抜いた。 しかし斧が当たる前……いや振る前にメイヤは回避行動を取り、跳躍され避けられてしまう。
「無駄だ。 お前の動きは見切っている」
「っ……どういう事だ……」
「…………!」
後方にいたミウラは目を細めて集中し、見る事だけに意識を向け……視界の中、そこら中に糸が走っているのを捉えた。
「ネイトさん! 辺りに物凄く細い水の糸が張り巡らされています! それでネイトさんの動きを感知しているんだと思います!」
「! そういう事か! サンキュー、ミウラ! 助かった、
「?!?!」
ミウラの助言を受けてネイトは冷気を全体に放出し、水の糸を凍らせて砕く。 しかし、その行動にメイヤは頭がついて行けてなかった。
「も、もう! そういう冗談はよしてください! そ、それに僕は……////(ボソボソ)」
(愛してる、愛してる愛してる愛してる……? ——恋敵、恋敵恋敵恋敵!!)
「?」
「——うあああああああっ!!」
メイヤが突然叫び、頭を抱えて半狂乱気味に悶え苦しむ。
「何という苦しみ! 何という過酷な定め! 胸が……胸が張り裂けそうに痛い!」
「ど、どうした!? 仮病か!」
「あわわ……どうしましょう……」
理由も分からず唐突に、乱心気味に悶え苦しむメイヤ。 しばらくして、顔を上げると……
「————」
「ヒイッ!?」
「私は許さない……ミウラを決して許さない!!」
とんでもない顔しており、一直線にミウラを睨みつけた。
「……へっ?」
「わ、私ぃ!?」
するとメイヤの周りから熱気が飛んできた。 雨に紛れて水滴がネイトに飛ぶと……
「——熱っ!? 熱湯かよ! つうか、何でミウラに切れてんだ?」
「フン!」
問答無用とばかりに傘を振り回し、高熱の高圧力の水の斬撃を飛ばしてきた。
「こっちに来たぁ!?」
「ミウラ! アイスメイ……っ!?」
先ほどより斬撃の速度は速く、ネイトは咄嗟に防御は無理だと判断し横に飛んで避ける。
その後も狂乱気味にメイヤは傘を振り、壁に切り傷を刻んでいく。
「っ……太刀筋はメチャクチャだが何てスピードだ! 俺の
「ネイトさん! うきゃあ!?」
ミウラの真上に斬撃が飛来し、壁に直撃して勢いを失った熱湯を頭から被った。
「あっつーーーい!!!」
「チッ! アイスメイク……かき氷!」
熱湯を頭から被り、冷やすために暴れるミウラの上にネイトが大量の雪のような氷を降らせて冷却させた。
「はふぅ……」
「雨の中ではお前達に勝ち目はない。 嫉妬の炎で私の水は煮えたぎっているぞ!!」
「何じゃそりゃ!? アイスメイク——
放水として放たれた熱湯を八方に広がる花のような形状をした氷の盾を造り出して熱湯から身を守る。 が……
「っ……なんて熱量だ! 耐え切れねぇ!」
「無駄だ。 雨も降り川も流れている、一部しか造り出せない氷と違い、水の量は圧倒的に私の方が多い!」
「——なろっ!」
「っ!?」
突然、氷が熱湯で溶けて蒸発……水蒸気が発生し、ネイトの姿が隠れてしまった。 水蒸気が晴れると……そこには誰もいなく、川の中で熱を冷やしていたミウラの姿もなかった。
「水蒸気を煙幕に。 顔だけではなく頭も良いなんて……愛い奴め……!」
少し頰を赤らめながら悔しがるメイヤ。 そして2人は……壁の中に隠し扉を通り、そこに入り通路を走っていた。
「どうやら運営はこの森に色々仕掛けをしているみたいですね。 そのおかげで助かりましたが……」
「こんな所で手間取っている暇はねえんだ! 早いとこあいつらと合流しねえと!」
「見た感じ彼女はねねちゃんを持っていなさそうでしたし、早くしないと……(僕に熱湯の矛先が向く前に、逃げないと!)」
ねねパーツを持たない以上戦い続ける理由もなく、仲間との合流を優先した。 どこに続くのかも分からないまま走り続けていると……先にあった横の通路から大量の水が流れてきた。
「うお!?」
「アツアツ!? 焼ける、皮膚が焼けちゃうー!?」
しかも熱湯……メイヤの仕業のようだった。 2人は熱湯に焼かれながら流されていき、先ほどの場所の少し上に飛ばされた。
「これで終わりだ!」
「っのヤロォーー!」
眼下ではメイヤが構えており、2人に向かって高圧の熱湯を放った。 するとネイトは右手を前に突き出し……自ら熱湯に飛び込んだ。
「自分から熱湯に飛び込んだ!?」
「ネイトさん!」
「凍り付けぇーー!!」
ネイトは強力な冷気を放出、熱湯を凍らせながら水伝いにメイヤの懐に飛び込み、彼女ごと凍らせた。
「そ、そんな!?」
「あの熱湯を凍らせた!」
「——け、けど……(ポッ)」
「……ん? ああああっ?!?」
メイヤを凍らせて動きを止めた、そこまでは良かったが……ネイトは彼女の右胸を鷲掴みにしていた。 わざとでは無いといえ、ネイトは動揺しメイヤは顔を真っ赤にした。
「あ、違う! こ、これは……」
「ネイトさん……」
「違うつってんだろ!」
(は、恥ずかしい……いっそこのまま君の氷の中で——)
「仕切り直しだ!」
照れを隠すように、ネイトは手を振り払いながら氷を解除し彼女から背を向けた。
「構えろ! もう一度、きっちりと決着付けてやる!」
「……フ、義理堅いのか。 それともただの阿呆なのか……だが、嫌いではない。 良いだろう! 乙女の胸を揉んだ不義理、きっちりと私の手で着けさせてもらおう!」
「うぐ……」
「あ、あはは……」
メイヤは傘を腰の高さに起き、抜刀の構えを取った。 どうやら一気に、この一撃で決めに来たようだ。
「——水月観音!!」
傘を振り抜き、雨を巻き込み巨大な水の斬撃を放った。
「これで……終わりだぁ!!」
「うああああっ!!」
頭上まで振り抜いた傘を開きながらメイヤは叫び、ネイトは再び自ら水の中に飛び込んだ。
「ネイトさん!」
「負けられないんだよっ!!」
両手で水の斬撃を凍らせながら受け止める。 その止めようとする勢いは周囲にも影響を及ぼしていく。
「周囲の雨まで凍らせるなんて……なんて魔力なんだ!」
「おおおおお!!」
水の斬撃の勢いは凍るごとに止まっていき……
「
「そんな!?」
氷の槍を構えながら突進して水の斬撃を越えた。 そしてメイヤが驚愕する間もなくネイトが一気に懐に入り込み、右拳が地面を殴りつけた。
「——
「きゃあああああ!!」
地面から大量の氷を間欠泉のように噴き出させ、彼女を吹き飛ばすと同時に凍らせ……氷が砕け散り、メイヤは地面に倒れた。
「そ、そんな……この私が……」
「ふう……」
負けた事がないのか、メイヤは顔に雨粒が当たりながらも呆然と寝そべり続ける。
「——お、晴れたか!」
(あ……)
その時雨が止み、次第に雲が晴れていき切れ目から日が差してきた。 日を浴びたメイヤはフッと笑う。
(別に雨女ということでもないが……良いものだな……)
「で? まだやんのか?」
ドキューン!
「ハウゥッ!?」
突然向けられた顔にメイヤはときめき……気絶した。
「おおおい!? ど、どうした? なんだ、しっかりしろ!」
「あー、これはアレですね……」
慌ててメイヤの周りをウロウロするネイトを見て、ミウラは1人納得する。
「ネイトさん、そろそろ行きましょう。 彼女は運営が救助に来るはずですし」
「……そうだな……」
イット達と合流するため、ネイトが一歩を踏み出した時……
カチッ……
不意に、何かのスイッチが入る音が聞こえてしまった。 すると……足元が大きく揺れ始めた。
「ネ、ネイトさん……? 何をしたのですか?」
「やっちまったか、な?」
次の瞬間……2人の足元から大量の水が間欠泉のように溢れ出した。
「うおおおおっ!?」
「うわあああーー!?」
2人は間欠泉に押し上げられ、谷底から飛ばされてしまった。