ブラックシザーから逃れたイット達。 だがチームメイトであるネイトとミウラと逸れてしまい、イット達4人は渓谷に沿って南下していた。
「どこまで落ちたんでしょうか?」
「生きているとは思うけど……先ずはどこか降りる場所を探さないといけないな」
「探知系の魔導師がいれば良かったのですが……」
「ウチらは揃いも揃って全員近接格闘系だからナァ」
「くぅん……」
「にゃ……」
このチームの中でネイトだけが近接に加えて中距離魔法型だが……いても余り意味はないだろう。
その時、不意にイット達の足元が揺れ始めた。
「——ん?」
「これは……」
一体何事かと思いながらも振動が大きくなり始め……
『うああああーー!!』
谷底から大量の水と共にネイトとミウラが押し上げられてきた。
「ネイトさん、ミウラさん!?」
「いきなりですね」
「エディ!」
「ほい来タ!」
エディは腰に懸架していた輪っかがついたロープを取り出し、頭上で振り回して2人に向かって投げ……ロープの輪が2人を捕まえた。
「よし!」
「引っ張りますよ!」
「はい!」
そして全員でロープを引っ張り、2人を引き寄せた。 だが勢いよく引き寄せたせいで飛んで来た2人がイット達に衝突し、もつれ合ってしまった。
「い、いたたたた……」
「全く、静かに帰れないのか……」
派手な帰還だがネイト達が無事だったことイット達は安堵する。 イットはネイトに手を貸そうとすると……
パカ……
「アラ?」
「ほえ?」
「しまっ——」
突如としてエディ、ミウラ、フォンの足元が開き……3人は落下してしまった。
「また落ちるのぉーー!?」
「ミウラ!」
再びミウラと2人は重力に引かれて落下を始め……完全に深い落とし穴の闇に消えてしまうと落とし穴の扉が閉まって閉まった。
そして再び、ツバサクロニクルは離れ離れになってしまった。
「……ど、どうしましょう?」
「この森、罠が多過ぎるだろ……」
「落とし穴をこじ開ける事もできるが、同じ場所に出るとも限らない。 ネイト達を追っていた時と同じようにデバイスの信号を追おう」
「あ、それがあったか。 すっかり忘れてた」
「それでは早速——」
「待て」
また、次の捜索に向かおうとした時……背後から声がかけられ、イット達はバッと振り返り得物を構えた。
茂みから出てきたのはルーフェン風の服を着た男女3人組だった。
「いつの間に……!」
「あなた達は……」
「3人だけ……他のメンバーはどうしましたか?」
「それはお互い様と言っておこう」
確かにその通りだ。 どうやらお互いに他のチームメイトとはぐれているようだ。
「ツバサクロニクルのメンバーとお見受けする。 我らはチーム・
「ふうん……それで、お前らは俺らとやり合うのか?」
「当然だ。 こちらは手ぶら、そちらは犬のパーツを2つ持っている、これは又とない機会。 ただ、ルーフェンの地の流派の1つ、春光拳の使い手がいないのがいささか残念だが……」
「何……?」
春光拳……恐らくはフォンの事を指しているのだろうが、ウォウはいないものは仕方ないと首を拳を振り構えた。
「我ら王虎城はルーフェン武芸者で構成されたチーム。 とはいえ、剄を使えるものは1人しかいないがな……」
「けど、油断は出来ない。 アインハルト、ネイト! 行くぞ!!」
「あん!」
「はい!」
「にゃ!」
「おう!」
イット達はデバイスを起動し、大人モードになりながらバリアジャケットを展開する。
「勝つのは……」
「我ら王虎城だ!」
「いざ、人情に勝負ヨ!」
「……それを言うなら尋常に勝負では?」
「そうとも言うー」
思わず突っ込んでしまうアインハルトだが、返答は構えで返された。
「太極門、クワン・イー!」
「八卦門、ウォウ・ソウ!」
「形意門、ハオ・ショウ! 参る!!」
「八葉一刀流、神崎 一兎!」
「覇王流、アインハルト・ストラトス!」
「——って、俺も流派名乗んの!? えっと……造形魔導師、ネイト・ティミル!」
「行くぞ——天地一陣!」
ウォウが指示を出すと、髪を団子のように後頭部に纏めた髪型……シニョンをした少女、クワンが物凄い速さでイット達の周囲を滑るように取り囲んだ。
「なんだ!?」
(あれは……
「——輪を突破します!」
「あっ」
アインハルトが囲いを突破しようと試みるが……いとも簡単に弾き返されてしまった。
「アインハルト!」
「ぐうっ……い、今のは一体?」
「どうかしたか!?」
「わ、わかりません……あの円運動に合わせて押さえ込んだつもりでしたが……」
「気を抜くな! 来るぞ!!」
クワンの背後には丸帽子を被っている小柄な少年、ハオと。 リーダーらしき少年、背まである髪を一まとめにしたウォウが控えていた。 次の瞬間……予測不能の衝撃が3人を襲った。
「痛っつぅ〜!」
「強烈ですね。 しかし……」
「ああ。 動きが読めない」
「——ルーフェン武術、天地一陣!! この陣を破れるかな!?」
◆ ◆ ◆
「——ぁぁあああああああぶっ!?」
「よっ……」
落とし穴に落ち、くねった通路をもみくちゃと通らされ、最後に放り出された3人。 ミウラは盛大に顔面から突っ込み、エディとフォンは華麗に着地した。
「ふう……どこだ、ココ?」
「古典的な罠ほど引っかかる……まだまだ未熟ですね」
「ぺっぺっ! 口に砂が……」
辺りを見回すとそこは砂漠……後ろには口が空いたモアイ像のような石像があり、3人はそこから出てきた事が伺える。 しかし、その口も閉じられ、石像は砂の中に沈み消えてしまった。
「砂漠……どうやら出発地点の反対側のようですね」
「山が壁になってみえなかったんだナ。 広過ぎて制限時間内に終わるか心配になるナ」
「さ、さあ……終盤になれば移動手段が増えるのではないのでしょうか?」
「フウン……? ま、ここにいても仕方ないナ。 北に向かって、さっさとこの砂漠から出るヨ」
「南は壁、北西に湖……合流するなら北の森に向かうのが当然ですね」
「それじゃあ、早速……」
「——待ちたまえ!」
いざ向かおうとした時……突如静止の声が背後から飛び、瞬間3人はその場から飛び退いて即座に反転、構えを取った。
「しまった……他のチームがいるなんて!」
「まあ、当然といえば当然だろうナ」
「……6人……1チーム全員ですか……」
警戒する中、リーダーの1人が前に出て名乗りを上げた。
「僕達は、チーム・バトルクッキング!」
「どうやら犬のパーツは持っていないようだけど、ここで倒させてもらうよ!」
ここで逃しては後々面倒になると考え、6人は身構えた。 そんな彼らをエディは不審な目で見る。 全員が格好は料理を作るコックのような白い服装だったからだ。
「なんだか全員変なバリアジャケットだナ」
「クッキングというくらいですから、料理人なんでしょうか?」
「あまりこの大会とは関係ない気がするのですが……」
簡単に言えば出場する大会が間違っている。 前の試練を突破した事から実力はあるようだが……その疑問に彼らのリーダーが答えた。
「君達の疑問は最もだ! 僕達はある目的でこの大会に参加している!」
「私達はある人物の教えを受け、異界で採取される食材を使った料理を作っていた……その産物を使い、大会を勝ち抜こうと決めたのだ!」
「いきなり話が飛躍してませんか!?」
異界の素材が食べられることはそれなりに周知されているが、何がどうして戦闘系の大会に参加に繋がるのかは理解出来なかった。
「——ねねー!」
「あ、ねね!」
「頭だけって……シュールだナ」
と、そこで1人が抱えていたねねヘッドがミウラ達を見て飛び跳ねながら鳴く。 頭だけがピョンピョンと跳ねているのでかなりシュールな光景だ。
「ふふ、この犬が欲しければ私達を倒すことね!」
「では……総員、カレー用意!」
『はい!』
どうやらヘッド以外にも前脚も持っているようだ。 そして、6人全員がどこからともなくカレーを取り出して構えた。
「——って、なんでカレーなんですか!? 何がどういう訳でカレーなんですか!! バトルクッキングって文字通りなんですか!? 食べ物を粗末にするのはシャマル先生とミユキさんだけで充分ですよ!!」
「へぇ、そうカ」
「そうなんですか」
「って、君達もなにさも当然のようにカレーを用意しているんですか!! ボクが可笑しいんですか、両親がレストランを経営して、メニューにカレーがあるのに、その娘であるボクが可笑しいんですか!? はあっ、はあ……」
相手と同じように両手にカレーが入った皿を持つエディとフォンに、息継ぎすら忘れて叫び、今までの常識が破綻するような気分になるミウラ。
「ふっ、いかに君達がカレーを用意していようと、日々料理の腕を磨いてきた僕達のカレーには叶うはずない」
「それ、カレーを手に持ちながらじゃなくてテーブルに置きながら言ってもらいません!?」
「アハハ、これってなんの大会でしたっけ?」
「——行くゾ!! トリプルカレーでアイツら倒すんダ!」
「トリプル!? それボクも入っているの? ねえ、それボクも入っているの!?」
エディとフォンが両手にカレーを構え、その後を手ぶらのミウラが追走してバトルクッキングに接近する。
「3人だけで勝てると思わない事だよ!」
「素人とプロの差を思い知るがいい!」
『うおおおおっ!!』
匂いが異なるスパイスの香りを放つカレーが激突。 両者は一瞬の間に交差、互いに背を向けてしばらく静止し……
『………………』
『……………あ』
数秒遅れて3人は頭からカレーを被っている事に気がついた。 アツアツの出来立てカレーを。
「うあちちちちち!!」
「アッツーーイ!!」
「——フッ!」
ミウラとエディが身悶える中、フォンは一息入れて身震いをし、カレーを身体から落とした。
「ふふふっ、同じ技でもここまで差が出る。 これが僕達と君達との実力の差だよ」
「そういう事」
「——って、食べてるーー!?」
全身カレー塗れのミウラ達と違い、バトルクッキングのメンバーは綺麗なままでハムスターのように口を膨らませてモゴモゴとしていた。
「あ、あんな変な技でも完全に見切られていたと言うの……?」
「ふふ、だから甘いのよ」
「——フ、甘いのは君達だよ」
味? の有利、そして勝利を確信していた彼らに、フォンが横槍をいれた。
「? なにを……」
「私達のカレーが、いつ甘口と言いましたか?」
「な、なに……?」
「——ガッ!?」
その答えを聞く前に……彼らのチームメイトの1人が口元を押さえて倒れ込んだ。 それにつられて他のメンバーも次々と倒れ始める。
「か、辛い!!」
「あが……! い、息が……!!」
「うああああっ!!」
阿鼻叫喚。 チームバトルクッキングは口元を押さえながら地べたに倒れ伏して苦しそうに這い回る。
「それはただのカレーではありません。 そのカレーはイットさんが家を出る時、なのはさんとはやてさんの親戚の方から貰ったそうです」
「その名は……“マジカレー”!!」
「マ、マジカレー?」
「な、なんだそれは……」
「精神力を研ぎ澄ます、特殊な配合のスパイスカレーだそうです」
「マジカレー。 マジで辛い……ダジャレですか?」
「サア? 名前考えたのワタシじゃないシ」
「ううう……」
あまりの辛さに身体が言う事を効かず、彼らは苦悶の表情を見せる。 そんな彼らの前にフォンが歩み寄る。
「知らない人から貰ったものを食べてはいけないと母君から教わりませんでしたか? 己の腕を過信した余り墓穴を掘りましたね。 料理を学ぶ前に常識を学ぶといいですよ」
「フォン君もね。 はあ……イットくーん、助けてー」
「——ねーーー!!??」
と、そこでいきなりねねヘッドが火を吹きながら砂の上をゴロゴロと転がっていた。
「あ……ねね、摘み食いしたナ?」
「あわわどうしよう……そ、そうだ! 牛乳! 牛乳は無いの!?」
「アイツらの誰かなら持ってるんじゃないカ?」
聞くや否やミウラは彼らの元に向かい……牛乳を剥ぎ取るとねねヘッドに与えた。
「ね〜……」
「ふう、よかった……って、フォン君!?」
「いいからいいから」
「——じゃ、これでトドメ」
一安心する間も無くミウラとねねはフォンに押されてバトルクッキングから離れ。
トドメとばかりにエディが投げたのは黄色い物体……オムレツだった。 しかしオムレツはパンパンに膨れ上がっており、今にも破裂しそうな雰囲気だ。
弧を描いて飛ぶオムレツは倒れる6人の中心に落ちた瞬間……
ドオオオオオオンッ!!!!
「いやあああああっ!?」
「おお〜、凄い威力だナ〜」
爆風で砂が頭を抱えるミウラに被さり。エディはキノコ型の爆煙が立ち昇るのを感心しながら見上げる。
数秒して爆風は収まった。爆心地は砂が大きく抉られており、気絶してはいるがバトルクッキングは一応無事のようだ。
「こ、今度のは何……?」
「“爆裂オムレツ”。 衝撃を与えると爆発して飛び散る……色々な意味で危険なオムレツだって」
「な、なんて危険な物を……」
「ね〜〜……」
「まあ、これも本望でしょう。 感銘を受けた人物の手料理を食べる事が出来たのですから」
「す、素直に喜べるのかな……?」
そう思いながらもミウラは倒れている彼らからねねの右前脚を回収するのだった。
「結局、感銘を受けただけであのお2人から何も学べて無かったのですね」
「むしろその方が健全でいいと私は思うよ! あんな
不幸中の幸いとばかりに敵チームを撃破し、新たにねねパーツを手に入れた3人は砂漠を進むのだった。
料理とは……美味しく食べる物であり、栄養を摂取する物であり、服を脱がせる物であり、武器であり兵器である(迷言)。