王虎城の3人組と交戦を始めたイット達。 舞台は森の中から山岳地帯に移り変わっていたが……
「ちいっ……!」
「………………」
「っ……」
先程から押され逃げるように追いやられており、ルーフェン武術の連携攻撃に3人は為す術が無かった。
「行くぞ、ツバサクロニクル!」
「その翼、折らせてもらう!」
「っ……うわあああっ!!」
まるで三頭の龍のうねり……イットは避けようとしても、即座に避けられないと判断し防御するも……止める事も出来ずひかれてしまう。
「っ……まるで猛牛! なんて密度の高さ攻撃をして来るんだ!」
「また来ます!」
「やらせるかよ! アイスメイク——
第二撃が来る前にネイトが地面に両手を当て、進行を止めるためにウォウ達に向かって地面に氷を這わせて足場を悪くさせる。
「無駄だ! はあぁ……破砕・
地面氷が張られた瞬間にウォウが飛び上がり、左脚を立てながら着地すると……氷にヒビが入り、一気にヒビが全体に広がった。
「嘘だろ!?」
「このままでは……いつまで保つか……」
《にゃあ……》
(マズイ……完全にかわすことのできない攻撃……このままじゃやられる……いつもなら身体が反応して対応できるのに……あの3人の攻撃には何故かついていかない……なんでだ?)
「ゆくぞ!」
(落ち着け……こういう時、慌てれば死を招く。 心頭滅却、我が太刀は無……心を静めろ……頭の中を真っ白に……)
再び攻めて来るウォウ達。 その間、イットは息を吐いて脱力し……手に持つ太刀を下ろして構えを解いた。
「えっ!?」
「おい、イット! 何してる!?」
「戦いの最中に構えを解くとは……諦めたか、神崎 一兎!」
「それでも華凰拳最強の孫!?」
「………………」
迫る三位一体の攻撃——天地一陣。 そのうねりが眼前に迫っても防御すら取らないイット……
「ふっ」
「えっ!?」
しかし、直撃する瞬間イットは一呼吸で跳躍し、天地一陣を飛び越えた。
「ぐっ!」
「ああっ!」
「いい跳躍力だ!」
「!!」
だがアインハルトとネイトは吹き飛ばされる。 そして、飛び上がりイットは上から天地一陣を観て……
「観えた! 技の秘密は円、線、螺旋にある!」
「なっ!」
「ほう……」
木の上に乗り、イットは技の正体を見抜いた。 その光景を観戦していたクーは口笛を鳴らす。
「いい判断ですね。 ノーガードで攻撃への未練を完全に捨て、敵の分析に全神経を集中しています」
「へぇ……オメェの息子もやるじゃねえか」
「この大会に出場する間に、それなりに仕込んだつもりよ。 “見切る力”。 実戦で多様な敵と渡り合う上で最も必要な能力の一つよ」
戦いにおいて相手を、技を、全体を理解することはとても重要ということだろう。
その間にもイットは木から降り、再び太刀を抜刀する。
「剣で大切な事は“見る”のではなく“観る”事である……アインハルト、ネイト、構えろ! 反撃するぞ!」
「はい!」
「おおっ!」
「反撃だと? 天地一陣のカラクリを見抜いたからといって……反撃できる程、天地一陣は甘くない!!」
「アイスメイク——
ネイトが行く手を氷の盾で塞ごうとするも、一撃で破砕される。
(確かに……そうだ……)
「今度こそ捕まえて……えっ!?」
「八卦拳の円運動!」
負けじとアインハルトがユンを捉えようとするも、ユンはクルクルと回って攻撃しながら間をアインハルトとイットのすり抜ける。
「ハアッ!」
「ガッ!」
「形意拳の直線の軌道!」
間を置かず、そこへハオによる急加速による突進。 2人は弾かれてしまう。
「(目まぐるしくあまりにも質の違う攻撃に身体がついて行けなくなった時に……)うあっ!!」
「ああっ!!」
追い討ちをかけるように身体を捻りを使って放たれるウォウの螺旋の掌底。
「っ……さらに太極拳の複雑な螺旋!! あまりの異質な3つの動きによる連携攻撃。 それがこの天地一陣に隠された秘密か!」
「どうした、反撃をするんじゃなかったのか?」
「こうも動きの違う3つの攻撃を同時にやられちゃ、身体がついてこれないな」
「円、線、螺旋……その通りだ。 これまで見抜いたのはお前が初めてだ」
まさに必殺なのだろう。 ウォウは天地一陣を見抜いたイットを賞賛する。
(マズイです。 イットさんは条件反射的に相手の動きに対処する体です。 天地一陣はその対処自体を逆手にとる攻撃……円と見るや線。 線と見るや螺旋。 どうしても前の動きが後を引きます……)
「これは本格的にマズイぞ! アイスメイク——
「ハッ! 剛腕一閃!」
一蹴しようとネイトは氷の大鎌を造り出し、大きく薙ぎ払おうとするも、ウォウの硬化した腕で刃が砕かれる。
「螺旋!」
「線!」
「円!」
「くっ! 順番も自由自在か……」
これこそが天地一陣が最強たる所以。 円、線、螺旋の組み合わせを変える事ができ。 さらに複雑で読めない攻撃を繰り出す事ができる。
「イットさん!」
「円!」
「螺旋!」
「線!」
「くっ!」
円、螺旋で体勢を崩されつつ動きを身体が覚えてしまった所に線攻撃による突進。 避ける事もできず、さらに小柄なハオだがその力は簡単に押し返せない。
(しまった!!)
「もらった!!」
ハオの背後から現れたウォウが追撃。 後退しようとするイットに肉薄、足をかけて体勢を崩させ側面に潜り込み……
「
身体を一気に捻り上げ、背面部で体当たりした。 その威力は軽く木を折るほど、イットは吹き飛ばされてしまったが、辛うじて生きていた。
《あん、あんっ!》
「ガハッ……あ、ありがとうシオン……ギリギリで持ち堪えられた……」
「イットさん!!」
バリアジャケットのお陰でなんとか耐えられたがすぐに動けるわけでもなく。 痛みに悶えるイットの前にウォウ達が歩み寄る。
「もう諦めろ。 お前達ではハオ達には勝てない」
「年貢の払い時ネ」
「……ユン。 間違っている上に、使いどころを間違えているぞ。 彼らは敵ではあれど悪人ではない」
「そうなノ?」
首をひねるユンに溜息をつきながら額を抑えるウォウ。 しかし悠長に構えてもいられず、ウォウはイットに手を差し出した。 手を貸すのではない、パーツを寄越せと言っているのだ。
「さあ、パーツを渡してもらおうか」
「くっ……」
「——アイスメイク
もうこれまでと思った瞬間……突如としてイットとウォウの間の地面から氷がせり上がり、両者を分かつ巨大な氷の壁が造り出された。
「ウワッ!?」
「氷の壁!?」
「また同じ事を!」
氷の壁など無駄だと言うようにウォウが拳を繰り出すが……今度は逆にウォウの拳が弾かれてしまった。
「なに!? 壊せないだとっ!」
「へへ、ちょっとコツがいるただけだ。 最初の試練でも言ってただろ、目先の勝利に油断したな?」
「なるほど、君がやったんだナ」
三叉の城壁によりイットとハオ、ウォウとアインハルト、そしてネイトとユンの3組に分かれて対面した。
「フン……天地一陣が破れぬと見て各個撃破に切り替えたか。 だがいささか遅かった……もうお前達はかなりのダメージを負っている。 我らの有利は変わらず、勝利も揺るぎない」
「それでも……私達は負ける訳にはいきません!
《にゃ!》
ウォウは浅はかな策だと冷ややかな目でアインハルトを見る。 それに対しアインハルトは拳を構えウォウを真っ直ぐに見る。
「苦肉の策だが……これで天地一陣は封じた。 もう一方的にはやられないぞ!」
《あん!》
「……なるほど、してやられたな。 だが!」
ハオは右手を前にかざすと柄が現れ、それを抜き取ると……大きな反りと幅広の刀身がある剣を抜いた。
「1対1になったくらいでいい気になるな。 ハオ達は1人でも強しい負けない!」
「青龍刀……なるほど、あの突進力も頷ける」
納得しながら太刀を構え、2人は睨み合いながら太刀と青龍刀を突き付け合う。
「さっきまでは見せられなかったケド。 八卦掌の真髄……見せてしんぜよう!」
「それは楽しみなことで!」
左手の平に右拳を乗せるネイト。 片脚を軽く上げて構えるユン。 そして……3箇所で衝撃と魔力同士の衝突が起こった。
◆ ◆ ◆
エディ、ミウラ、フォンは放り出された先で出くわしたチームバトルクッキングを打倒し、新たにねねヘッドと右の前脚を手に入れた。
そしてイット達と合流すべく砂漠の中を歩いていた。
「ウー、身体がカレー臭いヨ」
「頭から被れば当然ですよ」
「はぁ、早く帰ってシャワーを浴びたいよ……」
「ねねー!」
これぞ
どうやら砂漠を抜けたようで、そこから少し森を進むと渓流地帯に出た。
「わあ……! 綺麗な渓流!」
「ねー!」
「ふむ……どうやらイット達もこちらに向かっているようですね」
フォンはデバイスを取り出し、空間ディスプレイに表示された地図と3つの反応を見る。 その反応はフォン達に向かって真っ直ぐ進んでいた。
「これならすぐにでも合流できそうですね」
「そうだナ。 ソレとまた離ればなれにナルのもイヤだから……罠に気を付けつつ、急ぐとしヨウ」
そうと決まり、3人は暖流を登り始めようとした時……
「——ふぁ……」
『!?』
誰かが欠伸する声が聞こえ、3人はすぐさまその場から飛び退いた。 そこから周囲を見渡すと……大岩の上に1人の薄い赤い色をしたコートを着た、セミロングの茜色の髪をした少女が座っていた。
「……え……」
「な……!?」
「コレハ……」
いつからそこにいたのか問いただす前に……彼女の背後にはルーフェン風の衣装を着た3人組が倒れ伏していた。 恐らく
そして岩に座る彼女の側にはねねの左前脚のパーツが置かれていた。
「ルーフェンの……全員ではないとはいえ彼らも手練れ。 それを1人で、無傷のままであしらうとは……」
「…………(ゴクリ)」
「かなりサイキョーだな」
「ねー!」
デバイスを起動し身構える3人。 それに対し目の前の少女は立ち上がり、ゆっくりと振り返った。
「1人だけ、のようですね」
「チームワイルドファングの一員とお見受けします。 素直に答えるとは思いませんが、どうして1人でここに?」
フォンは静かな口調で質問をする。 その問いに答えるように少女は歩るき始め……
「——お父様が言っていた。 “太陽は常に1人である”。 私はこの世で最も強く輝く存在……誰も私を陰る事は出来ない」
「……ハ?」
「うわぁ、すっごいゴーイングマイウェイ……」
全然問いの答えになってないが、少女は続けた。
「私はチームワイルドファングの牙が1つ、アウロラ・イグニス。 どうやらお前達のチームメイトが水のを退けたようだが……私はそう簡単にはいかない」
「ミ、水……?」
「あ、もしかしてメイヤさんの事ですか?」
ワイルドファングと水から連想し、1時間前に見に覚えのない嫉妬の熱湯を浴びせてきたメイヤを思い出しながら指摘すると、アウロラは肯定するように頷く。
「責任者が仕掛けた罠で逸れたが……その先で彼らと鉢合わせになった事は僥倖だった」
アウロラは足元にあったネネの足をボールとして扱うように蹴り上げて手に収める。
「チームツバサクロニクルとお見受けする。 どうやらこの子の前足と頭を手に入れたようだね……ならやる事は1つ」
「っ!」
「3対1になりますが……あまりハンデになるとは思いませんね」
「ウン。 気を抜かズ、3人で確実に倒そウ」
3人はデバイスを起動して身構える。 それを見たアウロラは軽く嘆息した。
「数の上で有利でも全然油断してないか……フゥ、これは楽にはいかないようだね」
フラリとアウロラは身体を倒し……一瞬でミウラの正面を取った。
「なっ!?」
「ミウ——」
「フッ!!」
驚く間も無く拳が振られ、ミウラの胸を強打した後一転し、回し蹴りを放ってエディとフォンを一蹴した。
「ウワッ!」
「っ……はあ!」
突然の出来事でエディは体勢を崩すも、即座にフォンは受け身を取り身を低くして足払いをかけた。 それをアウロラは軽く飛び、距離を取り地に足をつけると……再び距離を詰めてきた。
「はっ!」
「させません!」
放たれるとても重く鋭い拳をフォンは紙一重で避けて受け流す。
「ミウラ、大丈夫カ?」
「ゴホゴホッ……う、うん。 大丈夫だよ」
ミウラを助け起こし、エディは抱えると距離を取る。 その間、アウロラとフォンは至近距離で本気の突きを繰り出しつつ避け、激しい攻防を繰り広げていた。
「はっ!」
「っ……」
刹那の攻防を末、フォンの掌底がアウロラの胸部と腹部に当たり、よろめき数歩後ずさる。
「よし……ミウラ、エディ!」
「はい! 下がりますよ!」
「了解!」
「……逃すか!」
距離を取ろうとするミウラ達を睨み。 アウロラは腰から拳銃を抜き、無数の魔力弾を連射しだした。
「チョッ……!?」
「抜剣——嵐舞!!」
すぐさまミウラが逆立ちをして両手を地に着き高速で回転を始め、撃ってきた魔力弾を弾き返した。
「エディさん!」
「兎練脚!!」
跳躍してアウロラの頭上を飛び、エディは踏みつけるように落下しながら蹴りを振り下ろす。
アウロラは乱射を辞めて銃を頭上に掲げ……落ちたきた足を受け止め、角度を変えて足場となっていた銃からエディをズリ落とした。
「フッ!」
「うあっ!!」
「エディ!」
側に落ちてくるエディに回し蹴りを喰らわせ、次いで迫ってきたフォンの拳を受け止める。
「中々の連携。 しかし、私には通用しない!」
「そのようです、ね!」
アウロラはフォンの拳を払い後退、フォンは下がるアウロラに向かって魔力弾を掌底で放ち、体勢を崩させる。
「はああああぁ……!!」
「ふぅっ!」
そして、構え直した両者の魔力が極限まで高まって行き……
「爆龍拳舞!!」
「陽光拳!!」
互いの最大級の技が衝突。 フォンから放たれた紅き龍、アウロラの光り輝く右拳……それが衝突、2つの魔力が迸る。
「終わりだ!!」
「っ……こおおっ!!」
フォンがぶつかり合う力を下に向け……川の水に叩きつけた。 それにより水蒸気が発生、辺りは白い霧が立ち込もる。
「っ……!?」
アウロラは霧からの奇襲を警戒して岩を背にして身構えるが……何も起きなかった。 しばらくして霧が晴れキョロキョロと辺りを見回し……息を吐いた。
「逃げられた……しかし、必ずまた戦うことになる。 次はない……」
手に持つねねの左前脚を確認し、踵を返してアウロラはその場を去って行く。
数分後……木々が揺れ、フォン達が木から飛び降りて来た。
「ふぅ、なんとかやり過ごせましたね」
「あそこまで強いなんて……グランドフェスタ、甘く見ていました」
「うう〜……次こそは絶対に勝つヨ!」
彼女がねねパーツを持っている限りまた、必ず出会う事になる。 その前に早くイット達と合流するため、フォン達は先を急いだ。