明日、グラウンドフェスタ本戦第1回戦を控えており。 イット達チーム・ツバサクロニクルは早朝から最後の追い込みをかけていた。
いつも使用しているミッドチルダ西部にあら野外の練習場、ミウラとエディは居合いの構えで身構えるイットに向かって走り出す。
「ふっ」
「エディ!」
「デヤアアッ!!」
足払いをかけにスライディングを仕掛けたミウラ。 イットは跳躍して回避し、それを追いかけエディが追撃をかける。
「甘い——!」
伍の型・残月——
エディの蹴りを身を捻ってかわし、避けた瞬間抜刀し弾き返した。
「今のは良かったぞ」
「うーん、もう少しだったんだけどなぁ」
「ちょっと悔しいヨォ〜」
グランドフェスタの本戦前日であっても手は抜かず、全力で挑む。 それから数時間……日が真上に登った昼頃に練習を終えた。
「今日の訓練はここまで。 予定通り、残りの時間は明日に備えて各自休んでくれ」
「えー、もう少しやってもいいんじゃないかナー?」
「疲れを残していると本番で力が発揮できませんよ?」
「休むこともまた練習。 しっかりクールダウンしてから上がってね」
『はーい』
マネージャーの指示に従い、ジョギングや柔軟をしてクールダウンを行っていると……
「お兄ちゃ〜ん!!」
「兄ちゃ〜ん!!」
「兄さーん!」
妹3人組が手にバックを持ちながら駆け寄ってきた。
「ヴィヴィオ。 どうしたんだ?」
「いい匂いがするけど、もしかして?」
「はい、お弁当です。 なのはママが作ってくれたんです。 皆さんの分もあるので、皆で食べましょう!」
「あたし達も手伝ったんですよ!」
「お口に合うのか心配ですけど……」
「へえー」
せっかくなのでご馳走になり、イット達は近くの小さな湖がある記念公園の一角にシート引き食べることになった。
メニューは……簡単に言えば海苔弁だが。 揚げ物、サラダ、スープと言ったものもありバランスもよく、満足感ある弁当だった。
「これは、また手の込んだ……」
「ええ……とても食欲が唆られる見た目と匂いです」
「しかも、どれもサイキョーに美味しい〜!」
「疲れも吹き飛んじゃいます!」
皆、手に持つ弁当を美味しそうに食べ。 勢いよくがっつく事はないが、エディとミウラは食の手を緩めない。
「気に入ってもらえて良かったです」
「とても美味しいです……ヴィヴィオさん、リオさん、コロナさん、どうもありがとうございます」
「いえいえ、喜んでもらえるならそれで」
「(ぱくっ)ん〜、このフライとても柔らかいのにサクサクで美味しいー!」
「スープもとろみがあって……けど、ちょっとフライの魚と味が似てるナ? 美味しいけど」
「魚はタラエを使っていて、柔らかくするために一度煮ていて……その時に出た出汁をスープに使っているんです」
「前に、上手く出汁の取り方をお母さんから教わってたんだ。 お母さんも老師って人から教えてもらったみたい」
(老師……)
「いいなぁ。 ねえリオちゃん、今度教えてもらえるかな? 料理のレパートリーを増やしたいし」
「あ、僕もお願いできるかな?」
「はい、もちろん!」
料理ができるユミナとミウラは料理談義に花を咲かせるのを……
「……私も料理を覚えておいた方がいいのでしょうか?」
「ウン?」
その会話を見ていたアインハルトは料理を覚えるべきか悩み、エディは全く興味がないようだった。
と、ヴィヴィオはイットの手が止まっていることに気がつく。
「お兄ちゃん? ……もしかして、美味しくなかった?」
「ああいや……そうじゃないんだ。 ただ、なんていうか……いつもの味だなあって思ってさ」
「あー……うん、そうだね。 いつも違う料理と味が出て来て、どれが神崎家の味なのか迷走したるもんねぇ」
「迷走というか、争っているだろこれ」
「あおーん(はぐはぐ)」
「にゃー(はぐはぐ)」
嫁が複数いると家庭の味が中々決まらないのであろう……そんな中、シートの真ん中ではシオンとティオは2匹の為に作られた餌を食べていた。
「ガブ……うんめぇな。 イットん家いつもこんなうめぇもん食ってんのか。 中々いいもんだなぁ」
「……決まってないとはいえ、これも家庭の味の一つ。 そういえば久しく口にしてませんでしたね……」
「え、ネイトさん達とフォンさん達の家はあんまり食べてないんですか?」
「食べてないっうか……お袋は2年前の事件で行方不明になっててな。 家庭っつうか、もうお袋の味は食べてない。 いつもは親父が作ってんだ」
「私達の実家はルーフェンにあります。 その気になればいつでも帰郷できますが……まだまだ修行中の身、そう簡単には帰れません」
「あ……」
ウェズリー家はともかく、ティミル家の事情を聞いてしまい、居た堪れない気持ちになってしまう。
「その……ごめん」
「謝る必要はねえよ。 お袋は管理局に属して無かったとはいえ、俺らに
「お母さんが帰って来れないのは事情がある……って、お父さんも言ってました。 だから私達はその時まで待っているんです」
「そうなのですか……」
「……あの、良かったらどうぞ」
「僕も、ちょっとネイトだからって無神経に思っていた」
「うん……」
「そんな気遣いいらねえよ! っていうかミウラ、それどう言う意味だ!?」
同情してフライを渡そうとするアインハルトとミウラとユミナ。 そんな風に思われたくないネイトはかきこむように弁当を食べる。
その後イット達は、弁当を華麗に平らげて解散となり——メンバーはそれぞれの帰路に着く。
イットとヴィヴィオ、アインハルトの帰り道は途中まで同じのため同行する事になったが……どうにもアインハルトは妙にオドオドしていた。
「あの……ヴィヴィオさん」
「うん? 何ですか、アインハルトさん?」
「えっと……その……」
冷静沈着なアインハルトにしては妙に歯切れが悪い。 というよりも、何故かアインハルトはヴィヴィオを前にするといつもたどたどしくなる。
「……なんでもありません……」
「………………」
その言葉を最後に会話はなくなってしまい。 途中でアインハルトは2人と別れ、見送った後ヴィヴィオはイットに声をかける。
「ねえ、お兄ちゃん。 私は……どうすればアインハルトさんと仲良くなれるのかな?」
「……分からない。 彼女の身の上は、俺達に流れる血でおおよそ見当がつくが……こればっかりはアインハルト自身が決めることだ。 俺達に出来る事は……」
「出来る事は?」
「——その時になったら考える」
「え、ええ〜?」
煮えきれないヴィヴィオはしつこくイットに質問ぜめにしながら、兄妹は帰路についた。
◆ ◆ ◆
グランドフェスタ、本戦当日——
「おおー……!」
「人がこんなにも……」
ミッドチルダ中央部のクラナガン……その地域にある大型スタジアム、そこでグランドフェスタの本戦が行われようとしている。
人も予選の参加人数を優に超える人が会場の内外に敷き詰めていた。
「もう完全にお祭り騒ぎだね。 DSAAとは大違い」
「あっちも観客は多いには多いが、こんな露店なんてねぇからな」
「それだけ大規模な大会なんですね」
「ニャー」
「あ、いたいた!」
「兄ちゃーん!」
そこへ人混みを掻き分けてコロナとリオが駆け足で駆け寄って来た。
「なんだ、お前達も来ていたのか」
「なんだじゃないよも〜。 皆して私達を置いて行っちゃうなんて酷いよ」
「選手の参加登録がありましたから」
「……ん? そういえばヴィヴィオは?」
「ヴィヴィオは……あ、あそこ」
リオが辺りを見回し……露店の前にいたヴィヴィオと、露店の食べ物を勢いよく頬張っているテディーとねねを指差した。
「はぐはぐはぐ」
「ねぇー!」
「もう、そんなにがっつかなくても食べ物は逃げないよ」
テディーとねねは一口サイズのカステラを頬張り、ヴィヴィオが恭しく水を差さしだしていた。
と、そこへ2人を連れてくるように長い金髪を毛先の近くで纏めている美女がイット達の元にやってきた。
(うわぁ……)
(チョー美人……)
女子陣は彼女の美貌に見ほれる中……目の前に来た彼女はニコリと笑った。
「あなた達がこの子達の友達だね。 初めまして、フェイト・T・カンザキです。 よろしくね」
「あ、はい」
「よ、よろしくお願いします……」
やんわりと微笑みながら挨拶するフェイトに、アインハルト達はおずおずと頭を下げる。
と、そこで突然イットはネイトとミウラに肩を掴まれ、フェイト達に背を向けてヒソヒソと話し始めた。
(おいどういう事だよイット)
(どうって、何がだ?)
(あ、あのフェイトさんが来てくるなんて聞いてないよぉー!)
(俺も誰が来るのかは聞いてなかったからな)
「えっと、どうかしたのかな?」
「い、いいえ……」
「何でもありません!」
「そう?」
内緒話をしていた彼らにフェイトは声をかけ、ミウラとネイトは慌ただしく何でもないと手を振る。
『——10時より、グランドフェスタ本戦の開会式を行います。 出場選手は……』
スピーカーから聞こえて来た放送で、イット達は気を引き締める。
「呼ばれたみたい」
「それじゃあフェイト母さん、行って来るよ」
「気をつけてねー」
「皆ー! 頑張ってねー!」
「ふぁんふぁれー(頑張れー)」
「ねー!」
フェイト達の声援をもらい、イット達は会場に向かって走り出した。
「さあて、初戦は張り切ってやるか!」
「はい!」
「ニャー!」
「チーム・ツバサクロニクル、行くぞ!」
『おおーっ!!』
イット達とヴィヴィオ達が息を揃えて空に拳を突き出した。 そして……
チーム・ツバサクロニクル……初戦敗退。
◆ ◆ ◆
イット達の大会は終わり、今はフェイトが運転する車の中……車内はまるで通夜のような重い空気で沈黙が続いていた。
「……………………」
「え、えっと……」
「……………………」
(ど、どうしよ〜……)
事情は分かるとはいえ、ヴィヴィオ達はこの重い空気に耐えられず、空気を変えようと奮闘するも……何も名案は思い浮かばない。
「………………」
1番沈黙が重いのはイットだった。 イットの手の中には、半ば刀身が折れた太刀が握られていた。
「風切、折れちゃったナ……」
「ああ……でも、仕方ないさ」
太刀を鞘に納め、イットは窓の外を覗き過ぎ去る景色を横目で見る。
「圧倒的だった。 個人の技量なら優っていたかもしれない。 けど、まるで1つの生物のような連携で俺達を圧倒した」
「あの連携をこじ開けるのは至難の技……あれだけ善戦できただけでも良しとするしかないでしょう」
「悔しくないわけじゃないですけど……」
「でも……」
負けて仕方がない流れになろうとする中、アインハルトは俯きながら両手を強く握りしめていた。
「でも、私は……勝たなきゃ……こんな事じゃ……守る事なんて……!」
「アインハルトさん……」
感情を表に出す事が少ないアインハルトが拳をさらに強く握りしめた。