ViVid Contrail   作:にこにこみ

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「——着いたぞ」

 

「ここ、ですか?」

 

イットとユミナはミッドチルダ南部にある《天瞳流抜刀術》の第4道場を訪ねていた。

 

その目的はイットの手に持つ刀身が半ば折られている太刀について……2人は少し長い階段を登り、山の上に構えているこの地域では珍しい道場に到着した。

 

道場の中から様々の声と音が聞こえてくる……稽古の途中のようだ。

 

「す、凄い気迫……ここからでもビリビリ感じるよ」

 

「あん!」

 

「今日も熱が入っているようだな。 頼もう!!」

 

「あ、イット君!?」

 

道場の扉を開き中に入るイットを追いかけるユミナ。 道場内は何人もの門下生達がいるが……稽古の手を止めて入ってきたイット達に視線を向けていた。

 

すると……門下生達は笑顔を向けて近寄ってきた。

 

「よおイット、久しぶりだな!」

 

「お久しぶりです。 また腕を上げたのではないでしょうか?」

 

「お前に比べればまだまだだよ」

 

「——っ、てて……」

 

「あ、どうかしましたか?」

 

「あ、いや……今の打ち込みで肩をちょっとな……」

 

「見せてください。 私は医療に嗜みがあります」

 

怪我人を放っては置けないユミナはそっちに行ってしまった。

 

「そういえば……前のグランドフェスタ、残念だったな」

 

「……いえ、自分の修業不足でした。 いつまでも引きずっていては前に進めません」

 

「そっか……ここに来たって事は師範代に用があるんだろ? 今から——」

 

「来たか」

 

そこで道場に入って来たのは長い黒髪の女性……この道場をまかされている師範代のミカヤ・シェベルだった。 彼女は《蒼の剣聖》の弟子でイットとも面識はあり、何度か手合わせもしている。

 

——なるほど……1、2の3少し揉みますね。

 

——はい……

 

——1……2っ!!

 

——ぎゃあああ!! 嘘つき!!

 

——こうすると余計な力が抜けるんですよっ

 

——ぎゃあああああっ!!

 

「なるほど……」

 

「くぅん♪」

 

イットとミカヤは正座で向かい合い、2人の間に置かれた太刀を見てミカヤは膝の上に乗せているシオンの背を撫でる。

 

「……分かっているとは思うけど、折れた刀をもと通りに修復することは不可能だ。 仮に直せたとしても刀としての価値や耐久性はガタ落ち。 それが分からない君ではない。 つまり、ここに来たのは新たな太刀を求めてきたんだね」

 

「はい」

 

ミカヤは腰にさしていた刀を鞘ごと抜き、2人の間に置く。

 

天瞳流(うち)は抜刀術を基本としている居合い刀。 多種多様な技を用いる《八葉一刀流》ではうちにある刀は合わないだろう」

 

「そうですね……俺の使う太刀はサーベルと言った曲剣に対して、ミカヤさんの使う刀はソードと言った直剣……形も重さも違います。 使えなくもないですが、八葉の真価は発揮出来ないでしょう」

 

「その通りだ。 だから……新たに作るしかない」

 

そう言って差し出したのは1枚の紙。 そこには住所と簡単な地図が描かれていた。

 

「これは……?」

 

「そこに書かれている住所は天瞳流が懇意にしてもらっている鍛冶屋だ。 そこで刀の鍛造や研ぎをお願いしている。 話は通しておくから一度行ってみるといい。 ただ……」

 

「ただ?」

 

「……そこの爺さんは少々気まぐれでな。 その日の気分では鍛造はおろか研ぎすらもやってはくれない。 腕は確かなのだが……」

 

「そ、そうなんですか……」

 

「もしいなかったら弟子の方にお願いするといい。 腕も確かで、信用できる」

 

とにかく一度行って見ることになり、イットはお礼を言って立ち上がり、ユミナと共に道場を後にした。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

翌日——

 

ミカヤに紹介された鍛冶屋を探しにイット、ネイト、フォン、ユミナ、ミウラの5人がミッドチルダ南部にある通りを歩いていた。

 

エディはDSAAのタイトルマッチ。 アインハルトは通院のためこの場にはいない。

 

「うん、ここだね……」

 

「えっと……なんて読むんですか?」

 

「地球にある言語の1つで《天鏡屋(てんきゃうや)》って書かれている」

 

しばらくして地図にある場所までたどり着き、目の前に煙突のある古風な家があった。 看板には《天鏡屋》と漢字で書かれている。

 

「ごめんくだ——」

 

「せいやっ!!」

 

カンッ!

 

「せいやっ!!」

 

カンッ!

 

熱した鉄をハンマーで叩く音よりも大きな気合の声……イット達はその声に呑まれるだけではなく、その声の主が打っている刀に見入っていた。

 

しかし、それよりも刀を打っている人物。 老人ではなく年若い少年だった。

 

「す、凄い……」

 

「扉を開けた瞬間にここまで大きな声が……どうやら防音対策は万全のようですね」

 

「っていうか、偏屈な爺さんがやっているんじゃなかったのか?」

 

「そう聞いたんだが……あのーー!」

 

「せいやっ!!」

 

「すみませーん!」

 

「せいやっ!!」

 

「すみませーーんっ!!」

 

「せいやっ!!」

 

呼びかけても反応がない。 よほど集中しているのだろう。

 

「全然聞こえてないね」

 

「それだけ集中しているのかな?」

 

「こういう時は罵倒すれば聞こえるもんだ。 このチビ(ヒュン!)ふごっ!?」

 

「ネイト君!?」

 

ネイトの言った通り、罵倒するとすぐに金槌が飛来、ネイトの額に直撃した。

 

それから来客に気付いた少年はネイトに謝罪し、鍛冶場のすぐ側にある囲炉裏がある客間に案内された。

 

「先程は失礼しました。 自分はワタル・ユキムラ、鍛冶金物《天鏡屋》の元で修行中の身です」

 

「初めまして、神崎 一兎と言います。 横槍を入れて申し訳無かった」

 

「いてて……」

 

「ありゃー、コブになっているね」

 

ユミナがネイトを診る中、彼は要件を伺った。

 

「それで本日はこの鍛冶屋に何用で?」

 

「ええ、実は折り入って頼みがあって来ました」

 

イットはミカヤの紹介の元、太刀の鍛造をお願いしに来たと説明した。

 

「なるほど、ミカヤさんの紹介ですか」

 

「それでここの主人はどこに?」

 

「師匠は今、とある依頼を受けてこの店を空けています。 いつお戻りになるのかは自分にも……」

 

「そ、そんな……じゃあイットさんの太刀は」

 

「いえ、それなら彼に頼むのもいいのでは? 先程の刀の鍛造を見るに……腕は確かなようですし」

 

「そう言ってもらえると。 自分に頼むのは先ずは置いておいて、折れたという太刀を拝見しても?」

 

「あ、はい。 こちらです」

 

折れた太刀を差し出し、手に取って刀身を抜き、ワタルはジッと太刀を見つめる。 その目は職人の目だった。

 

「……いい刀。 いえ太刀ですね。 手入れも頻繁にされていて、折れるまで大事にしていたんですね」

 

「はい。 風切とは、本当に生まれた時から一緒にいたので……」

 

(生まれた時から……?)

 

少しイットの言葉を不思議に思ったが、ワタルは静かに頷いた。

 

「……分かりました。 やれるだけやってみましょう」

 

「本当ですか!?」

 

「やったね、イット君!」

 

「ただ……何分太刀は初めて鍛造します。 一見刀と似ていますが、太刀には反りがあります。 先ずは何回か試作を繰り返してみないと。 そして、これが1番重要です」

 

「そ、それは……?」

 

「太刀の材料となる鉄です」

 

そう言われて……ネイトは横の鍛冶場に積まれてある砂鉄の山を指差す。

 

「鉄ならそこに積まれてんじゃん」

 

「いえ、イットさんが御所望になられているのは自分が出来る限りの最高の太刀……それを作るのに自分が知りうる限りの材料が足りてません」

 

「それでその材料、というか鉄とは?」

 

「《万象鉱》という、異界でしか採れない鉱物……その名の通り万象を司ると言われている珍しいもの」

 

「って、異界の材料っ!?」

 

思いがけない名前が出て来てイット達は驚愕する。

 

「万象鉱は異界の鉱物の中でも最上位の高度を誇ります。 他にもベルカ自治州にある《ヒヒイロカネ》も候補に上がっているのですが……店の炉では火力が足らなく」

 

「なるほど……とにかく、その万象鉱を集めればいいのですね?」

 

「はい。 合計で20キロは必要です」

 

「2、20……それくらいなら……」

 

「でも万象鉱ってかなり珍しいみたいだし……そう簡単に見つかるかどうか……」

 

聞く限り万象鉱の希少性は高い……20キロ集めるだけでかなりの時間を有することになるだろう。 と、そこで、目をつぶりながら腕を組んでいたネイトが口を開いた。

 

「仕方ない……ガチャるか」

 

「ガチャ?」

 

聞き慣れない言葉にミウラとユミナは首をひねり、イットが説明を加える。

 

「突発的に現れるフリーな異界の最奥にはスロットがあるんだ。 出た目が大きいほどレアな素材が出てくる……なんであるのかよく分からないやつだ」

 

「も、もしかして……出るまでやるつもり?」

 

「そういう事だ」

 

「な、なんか……とっても嫌な予感がします」

 

「奇遇だな。 俺もだ」

 

とにかく、イットの太刀の材料集めが始まった。 しかしそれは、泥沼の始まりだった……

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

1週間後——

 

「……ガチャガチャガチャガチャ(ぶつぶつ)」

 

「出ない……何度やっても出てこない……」

 

「マラソン……もう嫌だ……」

 

イット達は……泥沼にはまっていた。 生気のない目で異界最奥にあるスロットを蹴って回し……ほぼ狂気に満ちた目を見開いてルーレットを睨み……また蹴りを入れて止める。

 

今回出た目は6……スロットから出てきた材料を血眼で探り……

 

「どこだぁー!!」

 

「うわああっ!!」

 

このスロットは課金制ではないので減るものではないと思っていたが……減る。 確実に色んなものが減っていた。

 

ゲートから出てきたイット達をユミナは迎え、スロットで出てきた万象鉱を受け取った。

 

「はぁ……」

 

「あと何回マラソンすりゃいいんだ? 太刀の材料ってもう十分足りたんじゃねえのか?」

 

「うーん、後10個は欲しいかな?」

 

「うわーーん! もう無理だよぉー!」

 

「た、鍛錬にはなりますが……流石にもう……」

 

今まで変なテンションでマラソンしていたツケが回って来たようで、疲労はマックスを超えようとしている。

 

イット達がもう何百回も攻略している異界迷宮はミッドチルダとベルカの中間にある森林地帯にゲートが置かれており、ここを発見したのは5日前……それからずっと万象鉱を集め続けている。

 

「もう怖い……ガチャ怖い……」

 

異界や怪異の恐怖よりもガチャに恐怖を覚えてしまっている。

 

そんな事がありながらも本日中にイット達は規定量の万象鉱をなんとか集める事に成功し。 万象鉱をワタルに渡し、約1カ月後に完成するも言われた。

 

「それにしても……エディはともかくアインハルトな奴、薄情だよなぁ」

 

「そう言わないでください。 彼女にも事情や……先のグランドフェスタで思う所があるのでしょう」

 

「アインハルトさんが1番落ち込んでいたもんね……でも、本当にそれだけなのかな?」

 

どこか納得のいかない風にユミナが言う。

 

「それってつまり?」

 

「んー? よく分からないけど……でも、何でか心配しちゃうんだよねえ」

 

「そうか……」

 

「——俺達とアインハルトは仲間だ。 俺達がアインハルトを信じないでどうする」

 

「イット君……」

 

「今はまだその時じゃないって事だ。 それにグランドフェスタにはまだまだ出場できる。 優勝するまで挑戦すればいいだけだ」

 

「そ、そうだね……うん、そうだね!」

 

ミウラは強く頷き、イットはミウラ達の顔を見渡す。

 

「俺達は4月には中等部に上がる……心機一転して、前に進んで行こう!」

 

『おおー!』

 

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