ViVid Contrail   作:にこにこみ

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蒼き雷霆 前編

新暦78年、4月ーー

 

ミッドチルダ東部の郊外にある都市、ルキュー。 街から北にある学院、レルム魔導学院……ライノの花が咲き始め、新入生が次々と学院の門を抜ける中……

 

「ーー待て! ちょっと待ってくれ!」

 

入学式がある日に、学院の敷地の中にある建物の1つ……小隊棟の一部屋でレルムの赤と黒の2色の制服を着た、赤毛をポニーテールにした少女が声を荒げていた。

 

「はぁ?」

 

「お前が辞めたら、この十七小隊はどうなる!?」

 

少女は目の前にいる軽薄そうな、彼女と同じレルムの制服を着た少年の肩を掴み呼び止めようとしていた。 そして、少年はうんざりしたそうな顔をして答える。

 

「無くなった方が隊長も踏ん切りつくだろう? かの対策課の執行者(エグゼキューター)によって伸ばされたその才能……他の隊で生かした方が、レルムの為だぜ」

 

そう言いながら肩を回し、少女の手を払いのける。 その2人のやり取りを長髪長身の少女、風邪用マスクをつけている少女、背が小さくサングラスをつけている少女が不安そうに見守っており。

 

そしてもう1人、狙撃銃型のデバイスのスコープに目を通していた水色の髪をした長身の青年が、まるで他人事のような目をしながらスコープから顔を上げる。

 

「せめて対抗試合が終わるまで、それまでにお前の気持ちをオレが変えてみせる!」

 

「ご大層なこった……」

 

少女の言葉に少年は大袈裟に肩をすくめる。 それを見た少女は左手首に付けられた赤いブレスレットに手を当て……

 

「セットアップ」

 

静かに呟き、左手にグローブが装着されながら鎖が巻かれた。 どうやらデバイスのようだ。

 

「リ、リーダー……!」

 

「流石にそれは……」

 

「マズイですって……!」

 

「〜〜〜♪」

 

それを見た3人の少女達は慌てふためき、少年は感心するように口笛を吹いた。 どうやら少女はここを去ろうとする少年を脅しているらしい。

 

だが少年はその脅しに怯まず、制服に付けられていた“XVII”と刻印されているバッチを外して少女の足元に投げ捨てた。

 

「バッチを返したからには訓練じゃ済まないぜ。 丸腰の俺がどうにかなれば……即、隊は解散だ」

 

「………………ッ……」

 

「ーー待ってください!」

 

少女は、背を向けて去ろうとする少年に向かって拳を向けようとすると……振り上げた拳を長身の少女が掴んで止めた。

 

「落ち着いてください、リーダー!」

 

「離せミア!」

 

「らしくないですよ、リーダー」

 

「今隊を解散させる訳にはいかないんだ! 離せ!」

 

少女はミアの手を振り払うと……それと同時に背後の扉が閉まる音がし、少年はこの部屋から……この十七小隊から去ってしまった。

 

それに気付いた時にはもう遅く、少女は歯をくいしばる。 そしてそれを傍観していた少年は少女に狙撃銃を向け……

 

「バーン」

 

ニヤケながら口で銃声を言い、少女の怒りを煽った。

 

「ちょ、先輩……」

 

「ハリー、もっと気楽に行こうぜ」

 

「………………」

 

「えっと……あ! リーダー、そろそろ新入生が講堂前に集まる頃です! 逸材がいないか見に行きましょう!」

 

「……分かった。 後、オレの事は隊長と呼べ」

 

この小隊の隊長である少女……ハリーはため息をつきながらデバイスをしまい、4人と一緒に部屋を出て入学式が行われている正門に向かった。

 

「あいつの穴を埋めればいいんですよね? 今日は入学式ですし、変わりはいますよ」

 

「スティレット先輩も協力して下さいよ? 得意なナンパでもいいですから」

 

「男の隊員なら大歓迎だ」

 

『嘘をつけ』

 

ハリー達の先輩……スティレットは頭の後ろで腕を組みながらそう言うと、4人は声を揃えてそういった。

 

そんな事がありながらも5人は本棟2階のテラスに出ると……途端にハリーは笑顔になって手摺に駆け寄り、下を覗き込む。

 

「いるいる!」

 

下には何人もの真新しい制服を着た新一年生がいた。 しかし、その制服は2種類あって、ハリー達と同じ赤と黒の制服とオレンジ色の制服に分かれていた。

 

2年前からレルムは一科生、二科生の制度を廃止にし、2つの科を1つにして魔導科とした。 ならオレンジ色の制服は何か……それは魔力を持たない一般人である。 レルムは魔導の他にも力を入れ始め、魔導師以外の人間も入学するようになった。

 

オレンジ色の制服は一般教養科と呼ばれており、幅広い様々な分野の教育をしている。

 

「キシャー!」

 

ハリー達は階下に降り、ハリーは“キシャーキシャー”言いながら、獲物を探す目で新一年生達を睨みつけるように品定めを始める。

 

「隊長……怖いですよ」

 

マスクをつけた少女……リンダはハリーの行動に若干引いていた。

 

「ーーアレ! アレなんかどうだ! ディフェンスに使えそう!」

 

「制服を見てください。 あの人は魔導科じゃありません」

 

目を輝かせながらハリーはオレンジ色の制服を着たかなりガタイのいい長身の少年を指差したが、それをサングラスをかけた少女……ルカが無理だと却下する。

 

「じゃあアイツ!」

 

「彼は他の隊にスカウト済み」

 

「アレは!」

 

「右に同じです」

 

「ーーなんだよ!! 誰もいねぇじゃねえか!」

 

「めぼしいヤツはほとんど入隊が決まっているみたいだぜー。 ほれ……」

 

苛立ちを露わにするハリー、スティレットは顎で横を指差した。 そこには魔導科の先輩と握手をしている、同じ魔導科の新入生がいた。

 

「それに……ウチら弱小小隊に、未来ある新入生諸君らが入ってくれるのかねぇー」

 

「……まるで他人事だな……」

 

「まあまあ」

 

「! アイツは魔導科だよなーー」

 

ハリーは制服が魔導科なら誰でもいいようになっており、目に付いた新入生を見た時……目の前に誰かが横切ってきた。

 

「カムリ……」

 

魔導科の制服の上にコートを着ている青年……カムリがハリーに気付いたのか、その場で止まった。

 

「……悪いがアイツはオレが先に目をつけたんだ」

 

「昔の事はスッカリ忘れちまったらしい」

 

「何……?」

 

話が噛み合ってなく、しかしハリーは心当たりがあるようだがそれを口にはしなかった。

 

「貴様にそんな事が言えた義理か」

 

「ーーカムリ!」

 

それだけを吐き捨てると踵を返し、カムリは去って行った。 去り際にスティレットを横目で見て……茶髪の少女がカムリの後について行った。 それを見たスティレットは苦笑しぬがらポリポリと頰をかいた。

 

「気にしないでください、隊長」

 

「……ああ、わかってる」

 

「場所を変えましょう。 まだ新入生は大勢いますし」

 

「……ああ」

 

「講堂の前がいいですね」

 

ハリー達の側に緑色の念威探査子が横切った。 緑の探査子は近くのライノの木に向かうと、薄緑色の綺麗な長い髪をした少女が木に寄りかかっていた。

 

『他の隊にスカウトーー』

 

「………………」

 

ハリー達の会話が念威から届いてきたが……その途中で手の中の探査子を消した。 そして少女の胸には“XVII”という文字が刻印されたバッチを付けていた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

『ーー新入生は講堂に集合して下さい』

 

「わぁっ! 遅れる!」

 

「ご、ごめんなさい……! 私が花に見惚れてしたせいで……」

 

「あ、ううん。 気にしないで、僕も見惚れていたし」

 

もう少しで入学式が始まろうとする頃……2人の男女が学院前の坂を慌てて登っていた。

 

走っているが息を切らしていない少年は腰まである金髪を三つ編みにしていた。 逆に息絶え絶えの少女は短いアホ毛のある薄紫色の髪をしており、さらに二ヶ所に濃い紫のメッシュが入っていた。

 

少女が息を切らせながら坂を上りきると、正門前には2人の他に多数の新入生がいた。

 

「遅かった……新入生はほとんど講堂の中だな……」

 

「入学式が終わってからまた来ましょうよ」

 

「……ああ、そうするか」

 

先輩らしき人物の横を通りながら2人は学院を見回しながら歩いていると……

 

バシャッ!

 

「え……?」

 

「へ……」

 

いきなりフラッシュが焚かれ、2人はキョトンとした顔になる。 そして彼らの前には髪をツインテール気味に結っている少女がいた。 手にはカメラを構えている。 上着を着ていないが、緑色の蝶ネクタイを見てどうやら一般教養科のようだ。

 

「ーー週刊リーヴスですけど、写真いいですか? ってもう撮っちゃった、ゴメン」

 

少女はウィンクしながら謝り、矢継ぎ早に2人に握手をしてくる。

 

「初めまして。 2人とも新入生だよね? お名前は?」

 

「……ソウ・コルベットです」

 

「わ、私はセピア・ユリシスです! えっと……週刊リーヴスとは……?」

 

「ミッドチルダの書店で、売り上げNo. 1を誇る情報誌だよー? 今、“制服イケメン男子No. 1は誰だ!?”って言う特集の取材をしているんだけど……ちょっと色々聞かせてもらってもいいですか?」

 

話しながらソウは写真を撮られ、また矢継ぎ早に喋られて流されていく2人。

 

「ーーおーい、インチキ記者」

 

と、そこに少女の後ろから声をかけられ……少女は驚愕した顔になると振り返って“シーシー!”っと静かにするようにジェスチャーを出す。 後ろには魔導科の制服を着た短髪の少女と、一般教養科の制服を着た気弱そうな少女がいた。

 

「インチキとか言うなぁー!」

 

「したり顔で取材して、まだこの街に来たばかりだろ?」

 

「……………そう! 実はあなた達と同じ新入生! 正確にはこれから記者を売り込むので……記者と名乗るには、少々……抵抗が……まあでもでも! 私はほら、未来の大記者って事でもう記事には自身アリアリだし! 大丈夫、任せーーゴホッゴホッ!」

 

2人は誤魔化そうと少女は再び矢継ぎ早に喋り、問題ないと胸を逸らして拳を胸にぶつけると……肺に空気が入って咳き込んだ。 それをただただ見ていた2人は苦笑するしかなかった。

 

「気分を害したからすまない。 やる気だけは人一倍なんだ、大目に見てやってくれ」

 

「せっかくだから自己紹介させてね? 私はエリーゼ・ラッテン。 趣味はカラオケ。 でえ……幼馴染のナル・ミストラルと、こっちがセリカ・イリューシン」

 

「……初めまして」

 

「あたしらはオルディナ島出身。 ソウとセピアはどこから来たんだ?」

 

「あ…………」

 

「え、えっと……」

 

『??』

 

ナルはソウ達にどこの出身と聞くと、2人は気まずそうに顔を伏せる。 それを見た3人は不振に思った時……どこからか魔力の放出を感じ、それが風となって5人の身体を煽る。

 

魔力の発生源を見ると……2人の魔導科の男子生徒が睨み合っていた。 どうやら2人とも新入生のようで、何らかの理由で喧嘩になってしまったらしい。

 

「喧嘩か……?」

 

「うっひょーー! 特ダネだーー!」

 

「エリちゃん、危ないよー……!」

 

「え、え……?」

 

(行くよ、セピア……)

 

(あ、うん……)

 

新入生達が騒めく中、ソウとセピアは目立たぬようにその場を離れる。 そして対面している2人の男子生徒の1人が前に踏み出し……魔力を纏った拳を放って来た。

 

大柄な男子はそれを受け止め、少し後退して防ぎ。 続け様に身体能力を強化して肉弾戦に持ち込んだ。 細身の男子は迫って来た拳や蹴りを防ぎ、隙を見て足払いをかけ……大柄な男子は地面を砕きながら盛大に転んだ。

 

「くぅ〜〜! こんな現場に出会うなんて!」

 

「でも、魔導科同士が外で喧嘩なんて……」

 

ナルの心配も当然だ。 ここは耐久性のあるドームではない。 さらにここには魔法が使えず、自衛も出来ない新入生も大勢いる。 そして、さらに恐れていたことに大柄の男子は柄を取り出すと……起動して鞭した。 それを見ると辺りからは悲鳴、煽り、声援が上がってくる。

 

「マズイ……このままだとエライことになる。 教官か魔導科の先輩を呼んでくる!」

 

「じゃあそれまで私は取材続行!」

 

「エリちゃん!!」

 

ナルとエリーゼは別方向に走り出し、セリカは心配の声を上げる。 大柄の男子は鞭を振るい、細身の男子は屈みながら首を曲げる事で鞭を避け……振り抜かれた鞭は学院の窓ガラスと壁を破壊する。 それにより一層悲鳴は大きくなる。

 

細身の男子は横に移動するが……その際にセリカがおり、セリカは慌てながら移動する。 そして細身の男子も柄の長いメイス型のデバイスを起動し、鞭を避けながら棒高跳びの要領で二階のテラスに登った。

 

「はあっ!」

 

大柄の男子は奴を落とそうと支柱に向かって鞭を振るうが……その先にセリカがいた。

 

「きゃっ!?」

 

「ッ!?」

 

「セリっち!!」

 

「ーー危ない」

 

鞭は支柱に巻きついて砕き、ゆっくりと崩落を始める。 上にいた細身の男子は軽やかに跳躍して避難するが……このままでは崩落したテラスがセリカに落ちようとしていた。 悲鳴が最高潮に達しようとした時……

 

『誰か……助けて』

 

「……………………」

 

緑色の念威探査子が辺りを飛び交い……その念話を聞き取った、ここを去ろうとするソウに届き……蒼い雷霆が迸った。

 

ドオオオオオッ!!

 

テラスが崩落し、衝撃と爆風が巻き起こる。 その時……爆風を割いて接近する人物がいた。 少しして砂塵が晴れると……そこにはセリカを抱きかかえたいたソウがいた。

 

ソウは腕の中にいるセリカの無事を確認すると、キッと喧嘩をしている2人を睨んだ。

 

「ーーいた。 とうとう見つけたぞ……蒼き雷霆(アームドブルー)!!」

 

「ふうん、あいつがガンヴォルトか……」

 

二階からソウの事を見下ろす2人の人物がいた。 と、そこで助けを読んでいたナルがハリー達を連れて戻ってきた。

 

「ーーあそこです!」

 

「お前達、辞めろ!!」

 

ハリーは声を上げて止めにかかるが……静かに、しかし只者ではない雰囲気を放つソウを見て足を止めてしまった。

 

そして次の瞬間……男子2人はソウによってあっという間に叩き伏せられてしまった。

 

「ふう……」

 

「ソウ!」

 

「大丈夫だよ……」

 

セピアが慌てながらソウに駆け寄り、ソウはやってしまったという顔をする。 その後……喧嘩を収めてから入学式は滞りなく終わり、その後すぐにソウはこの学院の生徒会長に呼ばれ……学生会館にある生徒会室を訪れた。

 

「失礼します」

 

「ようこそ。 生徒会長のラム・ロストだ」

 

生徒会長の席には薄緑色の髪をしてメガネをかけた青年……ラムが座っていた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

入学式の日は授業も無く、学院は午前で終わったが……ハリーは十七小隊室で自身のデバイスであるブレスレットを磨いていた。

 

レルム魔導学院は先のJS事件を見て、その教育方針を大きく変えていた。 先に話した通り一科と二科の併合による魔導科、そして非魔導師の入学を可能にした一般教養科……その他にも、両方の科には小隊制度が新たに加えられている。

 

小隊は4人以上の学院生徒だけで組まれ、生徒だけで運用されている。 教官が指導するのは授業時間内と特別実習の行く先の指定だけ。 そして自身が所属する小隊で特別実習や、学院の小隊内で対抗試合を行ったりする。

 

そしてハリー隊長率いる第十七小隊は戦闘員である魔導科が3名、デバイス技師やオペレーターといった後方支援を行う一般教養科が3名の計6名で構成されている。 しかしこの小隊には多々問題がある事に加え、新設の小隊である事からか……学院内で弱小の小隊となっている。

 

「入学式の時くらい訓練休んだらどうですか?」

 

「いくら待ってもスティレット先輩とルーフは来ませんよ」

 

「…………なあルカ、アイツどう思う?」

 

「アイツとは?」

 

「さっき喧嘩を収めた新入生だ」

 

ルカはこの隊のオペレーター、パソコンで作業しながらハリーの質問に答え……ふと手を止めた。

 

「まさか隊長……彼、どう見たって一般教養科ですよ。 今、生徒会長に呼び出されているみたいですし……もしかしたら退学なんて事も……」

 

「!! 何っ!? それを早く言え! リンダ、これ頼む!」

 

「え!? うわぁああ!?」

 

ハリーは勢いよく立ち上がりながら磨いていたデバイスを放り投げ……リンダはスライディングしながらデバイスをキャッチした。

 

「はあ……」

 

「ナイスキャッチ」

 

「もう!! 丁寧に扱ってくださいよ!」

 

デバイスを手にしながら憤慨するリンダ。 だがハリーはそれを聞く前に部屋を後にした。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

表情には出していないが、内心ソウは緊張しながら目の前で座っている生徒会長と対面する。

 

「先ほど学院長から君の処分を生徒会に一任された。 最終決定権は、私にあるわけだ」

 

「………………」

 

決してソウが問題を起こした訳でもなく、逆に収めたというのに……まるでラムがソウの命運を握っているかのような物言いだ。

 

「それのしても……新入生とはいえ、魔導科の生徒を一般教養科の君がああも簡単にあしらうとはねえ。 武術の心得があるのかい?」

 

「嗜み程度です」

 

何を考えているのか分からず、ソウは素直に答えるが……ラムはデスクにあった資料を手に取った。

 

「ふむ……ソウ・コルベット。 就労学生、働き先は……技術棟の清掃。 報酬は良いが、キツイ仕事だ」

 

「……………………」

 

「身元も不確かで、まして君の奨学金ランクはDランク、報酬のほとんどは学費に消えると思うが……」

 

「承知しています」

 

「それで3年間は辛いよ?」

 

「体力には自信があります」

 

「ーーセピア・ユリシス……彼女も一緒にいると言うのに?」

 

「……………………」

 

完璧とは言い難いが、完全にソウの腹な内を読まれている。 と、その時、ラムは唐突に話を切り出した。

 

「君には、魔導科への転属を考えている」

 

「ーーはっ!?」

 

「君とセピア君の奨学金ランクはAになり、学費は免除だ。 悪くない条件だと思うが?」

 

ラムはソウの前を通りながら話し、そのままソファーに座る。 だがソウは突然の提案についてはいけなかった。

 

「ちょっと待ってください……! 魔導科に興味はありません!」

 

「現在、我が校はある問題を抱えている。 酷くなればこの歴史と名誉あるレルムは廃校に追い込まれてしまう。 つまり、後がないんだ」

 

「それと僕が魔導科に転属するのと、何の関係が?」

 

「単純な話、学院間の対抗戦で負け続き……我が校が誇れる実績はかの“VII組”の存在だけ。 しかしVII組はもう存在せず、3年後に設立される第II分校に移される予定だ。 まあつまり、今我が校には君のような戦力が必要なのだ」

 

「僕がレルムに来たのは、普通の勉学をするためです!」

 

ラムはソファーに寄りかかっていた身体を起こして目の前で手を組む。

 

「それはここ……レルムが生き延びればの話だよ」

 

「……クッ……」

 

「これは……打診ではないのだよ」

 

「! それはどういう事ですーー」

 

「失礼します」

 

ラムの言葉にソウは怒りを露わにするが……その前に生徒会員らしき女性がソウの前を横切り、2人の前に仕切りを置いて来た。 するとラムは右手を振り上げ……

 

「始めてくれ」

 

パチンッ!

 

指を鳴らすと……いきなりドアが開き、何人もの女生徒達が黄色い声を上げながらソウに迫り、服を脱がしにかかった。

 

「うわぁああっ!?」

 

「大切なお客様だ。 丁寧におもてなしを」

 

『は〜〜〜い♪』

 

「うわっ! ちょっと! 自分でしますから!」

 

『それ〜〜♪』

 

無慈悲にもソウの服が1枚、また1枚と放り投げられる中……ドアがノックされてハリーが入ってきた。

 

「失礼します。 折り入って、会長に頼み……が?」

 

ハリーが目にしたのは真っ白になって魂が抜け、本体はパンツ一枚で床で倒れ伏しているソウだった。

 

「君は……十七小隊隊長の……取り込み中なんだが、急いでいるみたいだな? ええっと……」

 

「ぐえっ!?」

 

「ハリー・トライベッカです! お願いというのはコイツをーー」

 

ラムが態とらしく思い出そうとする中、ハリーはソウに近寄って腕で首を挟みながら持ち上げた。 ハリーはソウを指差し……そこで言い淀んだ。

 

(えっと、お前名前はなんだ?)

 

(ソ、ソウです……)

 

「ーー用は何かな? ハリー・トライベッカ君?」

 

「ソウを……ソウをオレにください!」

 

「(ぐええっ! 閉まる閉まってるううーー! って) ハァッ!?」

 

まるで婿にもらいたいという発言にも取れるが……そんな事を聞き取る余裕はソウにはなく、ただ流されるしかなかった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

夕方……ソウとハリーは一緒に下校していた。 ただし両者には温度差があり、ハリーは上機嫌で上を向きながら、ソウはトボトボと下を向きながら歩いていた。

 

「じゃあ明日、訓練室で。 それじゃあな!」

 

ハリーは寮、ソウは別の物件を借りている事なので駅前の分かれ道で別れた。 ハリーが寮に向かって進むと、途中で振り返り……

 

「魔導科の制服、似合ってるぞ!」

 

ソウが着ている魔導科の制服を褒めると嬉しそうに走って行った。

 

「…………ハァ……」

 

当の本人はため息しか出なかったが。 そこでふと、ソウは両腕を合わせると……

 

「……あれ?」

 

制服の袖の長さが同じだった事に疑問に思った。 そう思っていると……目の前に緑色の花びらが通り過ぎて行った。

 

「あの花びらは……念威の……」

 

花びらを追って線路方面に向かうと……川沿っている河川敷に出た。 そして、川の側には薄緑色の髪をした少女がいた。 ソウは彼女を見るとどうにも先ほどの生徒会長を連想してしまう……

 

『ーー不毛です不毛です!』

 

「え……」

 

だがそんな考えも彼女の声によって消え去り、少女は壁に埋まっている土管のような管を……思いっきり蹴り始めた。

 

「コンチクショウ……ただで済むと、思うな……!」

 

「……あれ? この声……」

 

かなり悪態ついているが、少女が今朝方の入学式の時に届いた念話の声と同じだった。 そして少女は土管に上半身を潜り込ませると……

 

「卑怯なゴミ虫め! お前なんか……“ピーー”して、“ピーー”して、“ピーー”してやるーー!!」

 

……彼女の悪態にソウは苦笑しか出来なかった。と、そこでソウが近寄っていた事に気付いた。

 

「あの……」

 

「……聞こえましたか?」

 

「あ、はい……」

 

「腹の虫が収まらない時、この穴に悪態を吐くとスッキリするんです」

 

「はあ…………あの、もしかして入学式に僕に念威を送って知らせてくれた人ですか?」

 

が……少女は無表情のままで答えてはくれなかった。 困惑するソウ、だが少女は今朝は一般教養科の制服を着てたソウが今は魔導科の制服を着ている事に疑問に思った。

 

「魔導科に転属したのですか?」

 

「したというより……させられたというか……」

 

先ほどの生徒会長とのやりとりを言うわけにもいかず、曖昧に話す。 その時、ソウは彼女の右胸にあった“XVII”小隊のバッチに気付いた。

 

「あ……そのバッチ。 あなたも十七小隊なんですね」

 

「………………」

 

やはり答えてはくれず、少女はソウの横を通ってそのまま去ってしまった。

 

愛想ない少女にソウは頭をかくしかなく、ソウも歩き出して学院から離れた場所にある一軒家に入った。

 

「ーーソウ!」

 

帰宅するとセピアが駆け寄ってきた。 セピアはかなり心配した様子で、今朝とは変わった制服姿のソウを見た。

 

「その制服は……何があったの?」

 

「ええっと……なんて言ったらいいのか」

 

家に上がり、ソウはリビングで事の次第を2人に説明した。

 

「ふうん、それで魔導科に転属させられたと。 ゴメン……私がもっとミッドチルダにある学院間の情報を調べていれば……」

 

「セッカのせいじゃないよ。 敢えて名門校に入学して隠れ蓑にしようとしたその矢先……こんな事になるとは誰も思わないよ。 僕が不用心だっただけだよ。 流されるように魔導科に転属しちゃったけど、どうやらこの学院の生徒会長は僕達の正体まで知らないけど、弱味は握られてしまったようなんだ」

 

「私達は身元保証人がいないからねえ。 就労学生という事もあるけど……まあ、不幸中の幸いで2人の学費が免除になったんだから良しとするかな」

 

「だ、だったらセッカも学院に入れるんじゃ……?」

 

「前にも言ったでしょう? 私は剣であって人じゃないの。 私はここで待って2人を帰りを待ちながら……いつか時が来るまで力を蓄えないといけないから」

 

「……本当なら、そんな時は来ないでくれるとありがたいけどな」

 

「あはは、そうだね」

 

そこでセッカはソウの手を取り、祈るように両手で包み込んだ。

 

「でも気をつけてよ、ソウ。 私達の存在を許さない組織……敵はいる。

 

「分かっている。僕達は立ち止まるわけにはいかない。 自由を掴み取る為にも」

 

「セッカ、ソウ……」

 

意志を固める2人を、セピアは心配しながら……しかし嬉しそうに微笑みながら見守った。

 

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