翌日ーー
「遅い!!」
第十七小隊の室内訓練場でハリーはイライラしながらソウが来るのを待っていた。
「まさかアイツ……逃げたんじゃ……!?」
「嫌がるのを強引に引っ張り込んだだろ? そりゃ逃げるわなあ」
「なにっ!?」
「ああいや、何でも……」
ハリーはソファーで寝そべりながら狙撃銃を弄るスティレットに鋭い眼光を放ち、スティレットは何でもないと目を背ける。
「あー……ほら! 道に迷っているんだと思いますよ!」
「迷いようが無いと思いますが」
「そこは否定しなくてもいいから!」
「大丈夫ですよ! もうすぐ来ますから!」
誤魔化そうとするリンダにルーフは突っ込みをいれ、慌ててミアが取り繕うが……ハリーは額に青筋を立て、スティレットは欠伸をする。 と、そこで訓練室の扉が開き……魔導科の制服を着たソウが入ってきた。
「すみません、あのーー」
「おおぉ! 皆に紹介するぜ。 こいつが新しく入隊したソウ・コルベットだ!」
「あの、その事なんですが……」
ソウはなにかを言おうとするが、その前にハリーが十七小隊の自己紹介をした。
「アイツは魔導科3年、狙撃手のスティレット・キューブリック」
「ウィースッ」
「そんで2年、デバイスメカニックのリンダ・イグニス」
「よろしくな」
「同じ2年、オペレーターのミア・トライク」
「…………(ペコリ)」
「隣の小さいのがメディカルのルカ・レブォーク。 3人とも一般教養科で、オレの舎弟だ」
「小さいは余計です」
「で、最後に念威操者のルーフ・ロスト」
「………………」
「あのー……あのですね……」
ソウはハリーの自己紹介の途中で何度も声をかけるが、ハリーは全く聞いてなく続けて自分の自己紹介をする。
「そしてオレが魔導科2年、十七小隊隊長のハリー・トライベッカだ。 …………ん?」
そこでハリーはソウの制服に《XVII》と刻印された小隊のバッチが無いことに気が付いた。
「十七小隊のバッチはどうした? 昨日渡したはずだろう?」
「……やはり小隊には入れません。 技術棟の清掃が夜中なんです」
「それなら気にするな! セットアップ」
技術棟の清掃を言い訳にして断ろうとしたが……ハリーは笑顔でそう言い、続けてデバイスを起動し、両手にグローブを装着した。
「…………?」
「今からお前の試験を行う。 硬くなる必要はねえ、リンダ」
「分かりました。 ソウ、自前のデバイスは持っているか?」
「い、いえ……それで一体なにを」
「次の対抗試合のポジション決めをするだけだ」
「次の対抗試合……?」
何のことか分からなかったが……答えが出る前にリンダがダンボールを持ってソウに近寄った。 ダンボールの中には色んなデバイスが入っていた。
「これ練習用のデバイスだけど、個人データは入れてないから癖はないはずだぞ。 どれにする?」
「…………もうどれでも。 セットアップ」
ソウは半ば諦めながらダンボールに手を入れて適当にデバイスを掴み、起動した。 するとソウの手の中には剣型のデバイスが収まった。
「本気で行くぞ……」
ハリーは地を蹴り、一気にソウの眼前まで接近した。 先ずは初撃で右からの拳を放ち、次に左の裏拳を放った。
それをソウは一撃目を弾き、二撃目の背を狙った拳を剣を背負うように構えて防いだ。
「ハハッ! ハリーの初撃を受け切った奴なんて久しぶりに見た!」
ハリーは左手を軽くてあげながら、ソウは刀身に手を添えて構え、お互い睨み合いながらジリジリと横に移動する。
先に攻めてきたのはハリー。 足を動かし素早いフットワークで左右から拳を振るう。 それをソウは受け流しながら後退し……一瞬の隙を狙い右のアッパーを放った。 その拳は防御を通り……ハリーの顎に当たる直前で寸止めした。
「!!」
「……あぁ〜……」
「おおっ……!」
「お前中々筋が良いな!」
ハリーはやられた事に悔やまずに逆に笑い、剣を弾いて距離を取った。
「こちらも遠慮はなしだ!!」
既に実力を計る試験の事など忘れ、ハリーは全力の猛攻でソウを攻撃する。 それをソウは受け、流しながら耐え抜く。
2人の攻防を観戦していた5人もただただ傍観していた。
「……よし、魔法は使えるな?」
「…………え」
「攻撃、防御魔法は使えるか?」
「……はい」
ハリーは魔法が使える事を確認すると……左手の前に赤い魔力球を浮かばせる。
「ーー受け切れよ!!」
高速の左の掌底を放ち……赤い砲撃がソウに迫ってくる。
「くっ…………う、おおおわあっ!!」
「!?」
ソウは剣を構えて受け止めただけでアッサリと砲撃が防御を崩し、ソウは大きく吹き飛ばされて壁に激突してしまった。
「………………」
「……あ、あれ……?」
◆ ◆ ◆
ハリーは倒れたソウを学院の医療室に運び、トボトボと意気消沈、項垂れながら廊下を歩いていた。 と、そこで待っていたリンダが声をかけた。
「ソウ、どうでした?」
「……一晩寝かせれば明日には復帰出来るそうだ」
「よかった」
「……全然よくない……」
「え……」
リンダは聞き返すと、ハリーは涙目になっていた。
「最初の一撃を躱したのはマグレだったのか? 戦っている時は確かに手応えを感じた……だがさっきのはなんだ! マトモに喰らう奴があるか!? 受け切れないにしても、鈍すぎるぞ……!」
勝手かもしれないがハリーは裏切られた気分であった。そんなハリーの肩にリンダは手を置いた。
「最初から強い奴なんていませんよ」
「……そうだな。 焦っても仕方ないな」
「そうですよ」
2人は明日に備え、その場を後にした。
所変わって医療室で、ソウは無意識のうちに身体中に魔力を循環させ、自己治癒力を活性化させていた。
「………………」
その工程を、ルーフはベットに上がってソウの顔を覗き込みながら観察した。 その視線に気付いたのか、ソウは目を覚ました。
「………………」
「………………」
「ーー! 何してるんですか!?」
状況が読めないソウとそのまま見つめるルーフ、しばらく見つめ合っていると……ソウは驚愕して飛び起き、ベットから転がり落ちた。
「イタタ……」
「痛くないでしょう? それだけ魔力で身体を回復させる能力があるなら」
「いや痛いですよ! ベットから落ちたんですから!」
「そうでしたか」
「え、ええ……?」
淡々とそう言い、ルーフはベットから降りるとそのまま病室を出てしまった。 それをただソウは見ていることしか出来なかった。
よく分からなかったが、もう平気なのでソウは医療室を出てルーフの後を追いかけた。
「あの、ルーフ先輩……」
「……兄があなたを、陥れてまで魔導科に転属させた理由が分かりました」
「兄? 陥れるって……」
「十七小隊を追い詰めたのも、入学式のいざこざも……全て生徒会長である兄が、あなたを十七小隊に入れるために仕組んだ事です」
「……あ」
「信じられないでしょうけど」
「いえ、僕の腕は左より右の方が僅かに長いんですよ。 急場で用意されたはずの魔導科の制服が、誂えたようにピッタリだったのはそういうことか」
ルーフの話にソウは両腕を合わせながら納得した。
「やはり、鈍いフリは意図的なものですね」
「鈍いフリって……」
「さっき隊長の攻撃を避けなかったのも、ワザとでしょう?」
チラリとソウの顔を見て、ルーフは自分の寮に向かって足を進める。
「それで、あなたはこれからどうするつもりですか?」
「え……」
「私は兄を許しません。 あの人は……勝つためならどんな卑怯な事だってします。 だからあなたも、今のままでいいと思います」
最後にそう言い残し、ルーフは寮の中に帰っていった。
◆ ◆ ◆
夜になり……ソウはセッカから夜食の弁当を貰うと作業着姿で再び学院に向かい、艦などを収容している技術棟の清掃に向かった。
「ここが技術棟……これは骨が折れそうかもね……」
ゴンドラで地下に移動する程の大きさにソウは戦慄を覚える。 しばらくして、ゴンドラに乗り壁を清掃していた人物を発見した。
「すみませーん! 今日初めてなんですけど、何をすれば!」
「ああ! 今上がるから!」
小さくて見えないが女の声で返事をし、ゴンドラのケーブルが巻き戻されて上がってきたのは……
「いやぁ、前のやつ抜けて困っていた所だ」
「先輩!?」
「ん?」
肩にデッキブラシを担いでいてつなぎ服を着ていたハリーだった。
「ソウ! お前、医療室を抜け出して来たのか!?」
「い、いえ、もう良くなったんで。 それにバイト初日から休むわけにもいかないし」
「……あのダメージから立ち直ったというのか? どういう身体してるんだお前」
ハリーは疑いの目を向ける。 その視線にソウはたじろぐ。 しかしその目も直ぐに辞め、ソウはハリーと共にデッキブラシで内壁の清掃を始めた。
「…………ふう、なるほど。 バイトを理由になんか辞めさせてくれないわけだ」
昼に問題ないと言った理由が分かり、ソウはため息をつく。
「先輩はなんでこんな所でバイトしてるんですか?」
「キツイが金がいいからな」
彼女にも事情があるのだろう、ソウはそれ以上は追求しなかった。 しばらく深夜を回ると2人は休憩を入れ、先ほど言ったからかハリーは語り始めた。
「親がレルムに行くのを反対してな。 半ば家出のようにここに来た。 だから実家からの仕送りはない。 お前はどうしてだ?」
「奨学試験を合格出来たのが、ここしかなかったんです」
「………………」
「身寄りがないのでお金がないんです」
「そ、そうだったか、済まない……」
ハリーは一瞬不純な動機だと思ったが、続けて言った言葉を聞いて謝罪した。
「え……いえ」
「……食べるか?」
「はい」
詫びのように差し出されたのはサンドイッチの弁当だった。 ソウはそれを喜んで受け取る。
「ハム……美味いですね」
「店の弁当の中でも1番人気だからな。 買いに行くなら気をつけろよ、あそこでの乱闘は禁止されてない」
「な、何があるんですか、その店は………あ、では僕の弁当もどうぞ」
ランチボックスを差し出した。 中身はハリーのと同じ、食べやすく一口サイズにされたサンドイッチだった。
「美味そうだな」
「僕の同居人が作ってくれたんです」
「な、同居人!?」
「ええ、僕と同じ境遇で、少し事情があって街の近郊に家を借りているんです」
「そ、そうか……」
「よければどうぞ」
「では、ありがたく。 いただきまーー」
ハリーはサンドイッチを手に取り、大口を開けて食べようとすると……手が止まって手元のサンドイッチを見つめているソウを見た。
「先輩の弁当も美味しですよ。 ハム……」
「…………ハム。 んんっ! これすごくおいしいな! 美味い、美味すぎる!」
「よければお弁当取り替えます?」
「いいのか!? ホントにいいのか? いいよな!」
「え、ええどうぞ……」
味を占めたハリーは半ば強引にランチボックスを受け取った。 そしてあっという間に平らげてしまった。
「おいしかったー」
満足したハリーは水筒を取り出し、カップにコーヒーを入れてソウに差し出した。
「お返しという程ではないが」
「え……いただきます」
ソウは受け取ったコーヒーを一口飲む。
「おいしい……これも売っているんですか?」
「いや、これは自前だ。 飲み水は自分で用意しておけ、ここの水はマズイ」
そう言いながらハリーは手を叩くと立ち上がり、手すりに寄りかかった。
「……この世界で生きるには力が必要だ。 皆を守れる力が。 しかし一方で、力という概念には意志がない……力を一言で言っても多種多彩だ」
「………………」
「オレは自分だけの、オレが進みたい道を開くために力を得たい。 そして目標としている人物に認められ……勝つために。 その為にここに来た……両親には、えらく反対されたがな」
「それで家出を?」
「試験を勝手に受けたのがバレてな。 格闘技、魔法はオレにとって……これしか脳がないというものだ。 だから魔導科に入った」
ハリーは振り返り、ソウの前に立つ。
「お前には、分からないだろうがな」
「………………」
見上げながらハリーの顔を見るソウ。 ソウにその気持ちは……本当の意味では理解出来なかった。 ソウが考え込む中、ハリーは背を向けてゴンドラに向かう。
「対抗試合は明日だ」
「…………ん?」
「今日のバイトは早めに切り上げよう」
「え……明日あぁっ!?」
「あれ、言ってなかったか?」
ソウは冷や汗を流す。 まだ倉庫内の清掃は終わってない……ここまでは朝までかかる事になってしまう。
「ゆっくりメシ食って、人生語るなんて今日しなくてもいいじゃないですか!」
「何となく深刻そうな話になることだってあるだろう!」
「早く終わらせないと……! 寝ないで試合なんて辛すぎる!」
「だぁうるさい! 口より手を動かせ新人!」
「そんなぁ!」
「ほら働く!」
「やってますって!!」
「もっとだ!!」
2人が口論する騒ぎ声と共に、シャカシャカとデッキブラシを擦る音が倉庫内に響いた。
◆ ◆ ◆
対抗試合当日。 十七小隊が控えているベンチにハリー達がおり、そしてソウは……目元に濃いクマをつけてフラフラの状態だった。
後方の3人の服装はバラバラだが、戦闘員3人の服装は同じデザインの黒い隊服だ。 レルムも含め、各学院の小隊は決められたバリアジャケットを着用しなければならなくなっている。 以前のように自分が決めたバリアジャケットは着られなくなっていた。
「すごい……眠い……」
「お前が頑丈でよかった。 じゃなきゃこの試合、棄権するとこだったんだ」
ハリーは褒めるようにバシバシとソウの肩を叩く。 と、そこで今日試合を行う相手……第十六小隊の面々が到着した。
十六小隊のバリアジャケットは、十七小隊と同じデザインだが色は黒ではなく紺色で、彼らに気付いたハリーすぐ様前に立って挨拶をした。
「よろしくお願いします」
「小隊を率いて対等になったつもりか?」
「………………」
「寄せ集めがどこまで持ち堪えるか見ものだな」
十六小隊の隊長はハリーの肩を掴んで横に押し退けるのフィールドに入って行き、横を通っていく十六小隊の隊員も笑い声を出しながら歩いていく。
明らかに小馬鹿にされている。 ハリーの実力はこの学院でも群を抜いているが、それは個人戦の場合のみ……集団戦においてはまだ甘さが残ってしまっているのが現状だ。
「この試合の勝敗が学戦でのポジションに左右する。 気を抜くなよ」
そうは言うが、やはり心配は拭えなかった。 その後十七小隊もフィールドに入り、2つの小隊は向かい合うように整列した。
十七小隊の戦闘員3人に対して十六小隊の戦闘員は7人……十七小隊が不利だが念威操者と後方支援がいるため対等となっている。
「ーーこれより対抗試合を行う! 十七小隊は攻撃、十六小隊は守りだ!」
ソウは審判を務める男性を見て不振に思った。 彼も魔導科の制服を着ていたからだ。 その視線に気付いたスティレットは耳打ちをした。
(全部隊を統括する部隊長のビアノだ)
「…………!」
「本番の学戦のつもりで望むように!」
『はい!』
「両隊、配置につけ!」
『これより十六小隊、十七小隊との対抗試合が行われます。 観客の皆様は流れ弾、その他における負傷に充分ご注意くださいーー』
物騒な注意案内が流れながら両小隊は背を向けてお互いのスタートポジションに向かった。 その際、ルーフはソウに目線を向け……そのまま行ってしまい、またソウは首を傾げてしまった。
「ソウ……」
「どうか無事で……」
観客席でセピアが祈るように懇願し、この場にいないセッカもソウの無事を祈った。
そしてブザー音が鳴り渡り……試合は開始された。 ルーフが
「オレ達が勝つには敵陣に置かれたフラッグの破壊しかない」
「守り側の勝利条件は?」
「制限時間までフラッグを守り抜くこと。 もしくは……敵の隊長を戦闘不能にすることだ。 立てなくなるまで、完膚なきまでに」
「え……」
一瞬呆けてしまうソウ、そんなソウを無視してハリーは走りながら後ろを向いた。
「敵の狙いはオレだ。 オレが囮になって敵を引きつける」
「強気な隊長さんだ」
「ソウは敵陣前に走れ。 スティレットは援護しろ」
「了解」
『ーー敵反応、接近』
ルーフからの念話でハリー達は進行を止めると、前方の崖の上に十六小隊の隊員3人が待ち構えていた。
「セットアップ!」
デバイスを起動し、グローブとチェーンを装着しながら襲いかかってきた3人の攻撃を駆け抜けて避ける。
斧使いがハリーに向かって斧を振るう。 ハリーはそれを跳躍して避け……
「もらった!」
「はあっ!」
斧使いの後ろにいた銃使いの顔を蹴り飛ばした。 ハリーは銃使いを倒し、手から離れた銃型のデバイスを踏みつけ使用不能にする。
1人目……ハリーはフラッグの元に向かおうとするが、行く手を残りの2人が塞いでいた。
「隊長! うわっ!?」
「こっちに構うな!」
「っ……セットアップ!」
援護しようとすると、ソウの足元に魔力弾が撃たれ、すぐ様剣型のデバイスを起動……増援に来た隊員と剣をぶつけて鍔迫り合いになる。
「スティレット! こっちはいい、ソウをバックアップしろ!」
「ーーとはいっても……」
スティレットは近くの木に登り狙撃銃を構えるが……ソウは敵と鍔迫り合いのまま動くだけ、同士討ちを恐れたスティレットは引鉄を弾けなかった。
◆ ◆ ◆
この対抗試合を別の場所で部隊長のビアノは受話器を片手に観戦していた。
「例の新人、動きが悪いな。 魔力の通りも悪そうだ」
『彼の実力は保証付きだよ』
「お前……何を隠している?」
通話の相手は生徒会長のラムだった。
『今のレルムは所詮、卵ばかりが集まる場所だ。 彼にとっては幼稚な遊びに見えるのかもしれないな』
「俺達はその幼稚な遊びに必死こいてんだぜ」
『生き残る必死さは、誰もが同じだよ。 それが彼には……中々伝わってくれない』
ラムはそう言うが、ピアノは画面に映し出されている十七小隊の面々を見ながらため息を吐く。
「奴だけじゃないぜ。 お前の妹もな。 やる気のない2人に、協調性のないスティレット……問題だらけの小隊だ。 ハリー・トライベッカは他の小隊に付けてキチンと育てるべきだ。 一対一なら、ハリーは俺よりも強い。 今奴が最弱なのは部隊の指揮、そして集団戦においての実力と経験がないからだ。 周りを意識するあまり、自分の足元すら見えてない状況だ」
『それを拒んだのは、彼女自身だ。 それに……失敗が何も生み出さない訳でもない』
「つまりはあの小隊そのものが、捨石という事ではないのか?」
『捨石になるかどうかは……結果次第だよ』
一体ラムはソウの何を知り、何をやらせようとしているのか分からない……ビアノは額に手を当ててまたため息を吐く。
と、そこでフラッグの前で動かなかった十六小隊の隊長の動きが見られた。 手に持っていたデバイスを起動し……2振りの槌を手につかんだ。
◆ ◆ ◆
「スティレット! なぜソウのカバーをしない!?」
「味方と派手にやり合ってる敵を撃つなんて無理無理」
「ルーフ! 敵の割り出しが遅過ぎる、もっと早く出来ないのか!?」
『これが限界です』
思い通りにいかない事に苛立ちを覚え、その苛立ちを目の前の2人にぶつけるように拳を振るう。
単純な実力ならハリーの方が上だが……敵はそれを理解した上で小技のヒット&アウェイで動き、体力が消耗されハリーは決定打が打てない状況だった。
ソウも目の前の敵でいっぱいで……少し横に目を向けると、ハリーは背後から剣の一撃を振られ、地面に倒れた。
「くっ……」
ハリーは疲労でフラフラになりながらも立ち上がる。 敵はたった2人だが、倒せない……その事実にハリーは怒りで歯軋りする。
ソウは剣を振り下ろすも、受け止められる。 そして剣に伝わる自分の魔力を見て……軽蔑する。
(なんて無様な魔力の色だ……)
「ーーはあああ……!」
「!?」
その思考の隙が仇となり、横から斧使いが渾身の力で地面を叩き……衝撃がソウに襲いかかってきた。
「……っ……!」
「ソウ!」
直撃の瞬間、ソウと戦っていた隊員は離脱。 衝撃はソウの眼前で爆散すると土煙を巻き上げた。 ソウは辺りを見回すが……その土煙を突き破って斧使いが接近してきた。
突然の事にソウは反応出来ず、モロに斧の一撃を受けて吹き飛ばされてしまい……
「おおっ……おわああああっ!!」
そのまま崖を転がり落ちてしまった。
『ソウ離脱、ダメージ不明』
「なにっ!?」
ハリーはすぐに助けようと踵を返しすが……立ち塞がるように目の前に十六小隊の隊長が降りてきた。
「!?」
「ーーはあああ……はあっ!」
十六小隊の隊長は槌を振り回し、ハリーに攻撃を仕掛ける。
「しめたーーチッ……」
スティレットはハリーが離れた所を狙って十六小隊の隊長を狙撃しようとしたが……ハリーが入ってきて中断せざる得なかった。 仕方なくハリーを狙っていた斧使いを狙撃し、倒すだけに留める。
「敵1人なら問題ねぇのによ」
「隊長……」
「リーダー……」
「………………」
リンダ、ミア、ルカも自分の役割を果たしながらもハリーを心配していた。 そして崖から落ちたソウは意外にも無事で、崖を登っていたが……
(別に……負けていいんだよな?)
内心そう思っていた。 その考えを、念威でルーフは盗み聞きしていた。
その間にもハリーへの攻撃の手は休まず、次第に追い詰められ、疲労で膝をついてしまう。
「ッ……先輩っ!?」
「ハアハア……」
「確かにお前は強い。 だが、所詮それは決められたルール下の時だけだ」
「はあっ!!」
十六小隊の隊長が見下しながらそう言う。 そしてとどめとばかりに隊員がハリーに剣を振り下ろした時……ハリーはその隊員を踏み台にして高く跳躍した。
「まさか……!? あれだけの力がまだあるとは!」
「残りの力……一点突破で、全てをッ!!」
左手に赤い魔力を放ち、全身に纏いながら急降下。 地面に激突させ、衝撃波で全体を吹き飛ばした。
だがそれで倒せたのは1人だけ、隊長はゆうに回避していた。 さらに、ハリーの行動に怒りを覚えていた。
「それが小隊隊長としての戦い方かっ!!」
「ぐっ……」
言い返す気力もなく、十六小隊の隊長は両手の槌を掲げ……全力の魔力を込め始めた。
「先輩!!」
「ぬあああああ!!」
連続で、強烈な槌の連打を浴びせてきた。 ハリーは両手でチェーンを張り、連打を防ぐが……長くは持たないだろう。
「1人で戦い! 独りで死ぬ! それが正しいと思うな!」
(くそ……負けられない、負ける訳にはいかないんだ……!)
ハリーのその想いが……ルーフの念威によって崖から上がってきたソウの元に届けられた。
(先輩が倒れる……!)
誰が見ても、残り数秒でハリーは倒れるだろう。 ソウはそれを見て歯軋りをし、自分がここに来た目的と目の前の状況を見て葛藤し……
「くうっ……!!」
今できる全力を解放した。 ソウは立ち上がりながら青い魔力を放ち、その衝撃で辺りの茂みを吹き飛ばし……目にも留まらぬ速さで走り出した。
ソウの行く手を塞ぐように残りの2人が立ち塞がるが、ソウは走りながら剣を逆手に持ち返ると……
「ストームブロー!!」
魔力が高まり、魔法発動の余波で2人は吹き飛ばされ……回転しながら剣を振り抜くと竜巻が発生。 その竜巻は進行方向の先にいた十六小隊の隊長まで上空に吹き飛ばした。
「ブーストヴォルト!」
ソウは吹き飛ばした十六小隊の隊長を追いかけて身体能力を上げ、1回の跳躍で高い崖を登り切った。それを見たハリーとスティレットは開いた口が開かないくらい驚愕した。
「……お前……」
「おいおい……」
明らかに実力を隠していた……そう思うしかなかった。 ソウは気絶した十六小隊の隊長を横たえると、先にあった十六小隊の陣地……フラッグを見た。
「だあああっ!!」
跳躍して一気にフラッグに接近し、支柱を切り裂いて着地した。
「うわっと……!」
落下で一瞬地面に突き刺さったフラッグ、しかし倒れそうになったのでソウは慌てながら掴むと……試合終了のブザーが鳴り響いた。
「やった! やったねソウ!」
「ホント、ホントにやっちゃったよ……」
ソウはあまり嬉しそうではない顔をして手に持つフラッグを見る。 と、そこでリンダ達3人が駆け寄って来た。
「凄いぞソウ!」
「よくやったな!」
「くぅ〜! いつ以来の白星だ!?」
「それよりもすいません。 デバイス、使い物にならなくなってしまって……」
ソウは右手に持つ剣に視線を落とすと……そこには捻り曲がった剣があった。
「うわぁ……」
「こんなの初めて見たぞ。 魔力が強過ぎてデバイスが持ち堪えられなかったのか。 これからソウの設定も、色々考えないとな!」
「お前ぇ、こんな爪どこに隠し持ってた〜? うりうりー♪」
「あはは……あ、先輩」
フィールドから戻ってしたスティレットがソウの肩を掴み、人差し指で頰を何度も撫でる。 ノリについて行けず苦笑するソウ……そんなソウをハリーは強い眼で見ていた。
「………………」
「……あ」
ハリーはソウから視線を外し、そのままここから去って行った。 さらにソウは同様の視線を向けていたルーフに気付いたが……
「あーー」
「裏切り者」
突き放すようにそれだけを言い、またハリーと同じように去って行った。
◆ ◆ ◆
「あーーらら。 ソウったらやっちゃったよ」
ソウ達の自宅で十六小隊と十七小隊の模擬戦を見ていたセッカはソウの見せてしまった実力を見て苦笑いをしていた。
「ま。 見せたのは表面上の力だけ……ソウ本来の姿はまだ誰も知らない。 奴1人を除いては、ね……」
セッカは端末を操作し、レルムの生徒会長であるラムの画像を表示した。
「まだ、私達の戦いは始まったばかり。 立ち止まってはいられない……本格的に