後頭部がズキズキと痛みながらGVは目を覚ました。
(まさかこんな状況であの時の夢を見るなんてな……)
少し微笑みながらGVは辺りを見回す。 そこは薄暗く個室で……痛々しい拷問器具がそこら中にあった。 そして耳に入るのはこの場所で一際明かりを放つ空間ディスプレイで投影されたユリシスのライブだった。 GVは椅子に座らされ、後ろに手を組まれ鎖で拘束されていた。
「ーーあーらお目覚め〜?」
入り口から長身の男性……だが。 その手に拷問用の鞭を持ち身体をクネリクネリと捻りながら歩き、オネェ口調と相まってGVの背筋に怖気が走る。
「ホントに来ちゃうもんだからビ〜ックリしたわぁ〜ん。 アタシ達に刃向かうなんておバカねぇ〜」
オカマはGVの前に来て、挑発するように眼前に鞭の先をを揺らす。
「2つ、教えてあげるわぁ〜。 ユリシスちゃんはこれから列車の旅を満喫するの残ァ〜念〜。 もう1つ、これから始まるのは尋問じゃない……」
オカマはGVに顔を近づけ……
「可ァ愛い子を痛ぶるのはアタシの純粋な……シュミッ! さぁ〜、少年! いい
気色悪くウインクし、鞭を張ると電撃が流れ出す。 それと同時にGVの腕が蒼く発行し……自分を拘束していた鎖を砕いた。 立ち上がるとオカマが持っていた電撃が流れる鞭を掴んだ。 GVは顔を俯かせ、オカマを睨みつける。
「ヒ、ヒィイイ……! あ、蒼い……雷! まさか、アナタは……ガンヴォルトォオオ!?」
「情報提供感謝するよ。 変態なオジサン」
「くぅ〜〜〜〜っ!!」
変態なオジサンは気色悪く顔を歪め、GVはそれを無視して部屋から出て、耳に手を当て通信を開いた。
「コードネームGV、ガンヴォルトよりスノウピー、回線開いて」
『ーーこちらスノウピー! 無事だったんだね、ガンヴォルト』
「問題なく……情報の修正を。 ターゲット電子の謡精は別のポイントに移動中。 これから施設を脱出、ミッションを継続してターゲットを追いかける」
『……罠の可能性も低くないけど……それではミッションを再開します! どうか気をつけて!』
それと同時に走り出し、ビル中に警報が鳴り響きながらもGVは警備隊を倒しながら急いで通路を走っていた。
「侵入経路はまだ、セッカ!?」
『今やっているから急かさないで!』
列車という事は、どこにいようが地上1階のビル内にいる……そこに向かいながらGVが敵を倒している間に通信が届いた。
『ーー見つけた! 研究施設行き……自動輸送型自動列車! もう出発しているけど加速はまだ、誘導する……急いで!』
「了解!」
『速度を維持。 その突き当たりを右に……見えるはずだよ!』
通信の通り突き当たりを右に曲がると線路に出て、GVは目標が乗せられている列車と並走する。 並走はしているが次第に加速していく列車に突き放されていく。 その前にGVは柵を乗り越え……列車に飛び移った。
列車にへばりつき、トンネルを抜けビル施設から出た。 風が収まるとGVは足に電撃を流して身体を固定し、スクッと立ち上がった。 そして前に進もうとした時……目の前に2機の自立型戦車……マンティスが道を塞いだ。
「第九世代の自立型戦車か……」
『GV、戦車にダメージを与えて非常冷却装置を作動、コアを露出させて。 それを破壊すれば倒せるから』
「了解」
マンティスは両腕の機関銃を向け、警告もなく発砲してきた。 GVは生体電流を活性化して運動神経を強化し、銃撃を避けながらマンティスに接近する。 飛び上がり、腰から銃を抜き
「ふうっ……」
爆発する前に列車に飛び乗り、もう一機のマンティスに振り返り両手で銃を持ち雷撃を球体状に展開……雷撃鱗を発動し、避雷針を超電磁砲の原理で高速で、連続で射出。 マンティスは蜂の巣にあい、爆発した。
『先のポイントを切り替えて列車を埠頭に向かわせるよ』
「了解」
スノウピーはハッキングで列車の進路を切り替える準備を始め、GVは先頭車両に向かった。 そこで待機していた警備員を倒し……目標のコアがある部屋のロックをアームドブルーの電子を操る能力でハッキング。 ロックを解除して中に入った。
『ーーだれ?』
「……あ……」
不意に少女の声が頭に響いた。 そして真っ暗闇の部屋に明かりがつき、その明かりは正面のカプセルから発光されており……その中を見ると、GVは目を見開いた。
カプセルの中には目を閉じている短い薄紫色の髪をした少女が椅子に座らせれて拘束されており、身体中をコードで繋がれていた。
「まさか……君がユリシスなのか……?」
『彼女は私のレアスキル』
GVの呟きに答えるように、少女は念話と似て非なる能力で答える。
『あなたは……誰? どうしてここに?』
「……ーーこちらGV。 コアを発見した」
『あ、やったんだね』
「ただ……ユリシスはプログラムデータじゃない。 レアスキル保持者の女の子だ」
『え!?』
「ここにいるのは……小さな女の子だ……!」
『本当ですか!?』
「ーーミッションの変更を要請。 これより少女を救出する」
『了解。 周辺の警戒をしつつ埠頭で合流しましょう』
『ーー私を……殺して』
「!?」
不意に聞こえた少女の願いにGVは驚きを表す。 カプセル内を見ると……少女が赤い瞳でGVを見ていた。
『もう……あの人達の為の唄は……皆を苦しめる歌は唄いたくない』
(……この子……同じだ。 あの頃の僕と……スノウピーに……)
今の彼女の状況と、過去の自分の境遇を重ねる……GVは無言でカプセルに手を添えた。
「聞いてくれ。 もし君が自由を望むなら……僕達が
『……私の……願い……』
「ーー勘弁してよもぉ……」
少女から返答を待っていると……いつの間にか誰が入り口の扉に寄りかかっていた。 GVは振り返ると、そこには若干年下のヘッドフォンを付けた少年がいた。 その少年が身に纏っているのは……ヴァンデインの制服だった。
「何で僕が戦わなくちゃいけないルートに来るかなぁ……」
「ヴァンデインの構成員か……」
「メラクだよ。 はぁ……外に出ようか。 コッチとしても彼女を傷付けるわけにはいかないからねぇ」
そう言いメラクはその場を後にし、GVも後に続き列車の上に出た。 GVは身構える中、メラクはブローチのような物を掲げると……ロボットのような装甲に身に纏い、後ろに丸いゲートのような物が開くと……中から1人用のソファーのような座席と巨大なアームで構成されたロボットが出てきた。
「面倒くさいからサクッとやるよ。 こっちはネトゲのフレンド待たせてるんだから」
ロボットの両アームの手の平からミサイルを発射してきた。 GVは首に下げているペンダントで電磁結界カゲロウを発動。 ミサイルをまるで幽霊のようにすり抜けて回避、跳躍して避雷針を打ち出した。
それをメラクは先程のゲートを背後に展開して、そこに飛び込んで回避し。 GVの背後にゲートが現れ……掴み取ろうとした所を電磁移動で避ける。
メラクのレアスキルは
「あの子の姿を見て何も思わないのか!?」
「うわぁ……そう言う暑苦しの、勘弁してよ」
GVの言葉にメラクは嫌な顔をし、自身とロボットの右手を横に突き出し……その先にゲートが開きロボットのアームを射出した。 同様にGVの背後に転送し、GVは振り返らず跳躍さて避けた。
「っ………うわっ!?」
その時、どこからともなく赤い魔力レーザーが飛来し、後ろからGVの左肩に直撃した。
「ん?」
「ぐわっ!!」
メラクはその攻撃を疑問に思いつつも射出したアームを操り、GVの背を殴って列車に叩きつけた。 すると先程の赤い魔力レーザーがメラクの背もたれに当たり、メラクは鬱陶しそうにアームでレーザーを払った。
「だぁれだよ、勝手に侵入してんのは?」
第三者からの攻撃にイラつきを覚えるが、その前にGVがメラクの眼前に現れ、避雷針を射出した。 避雷針はメラクの頭の左右にあった触覚のようなアンテナ、その片方を射抜いた。
「お互い敵が多いみたいだな?」
「コソコソ隠れているバグも、僕が修正するよ。 君の次にね」
「……お前はどうして戦っているんだ?」
GVは唐突にメラクに問いかける。 2人は目的は違えど……同じ力を持つ者、GVはどうしても聞いておきたかった。
「ハァ? 僕が働くのはただゲームを買いたいからさ」
「そういう願いが、あの子にだってある!」
『もしも許されるのなら……私は……』
不意に少女の念話がGVに届く。 自分と同じ年頃……やりたい事と聞けばキリがないはず。 だが少女には無理やり歌わせられる以外ない……それを理解して欲しかった。 だが相容れぬように、メラクは顔を怒りに歪める。
「だから……激ウザなんだよ! そういうのがさ!!」
怒りに比例するようにメラクの背後に無数のゲートが開いた。 すると座席から砲身が飛び出し……砲撃がゲートに向かって放たれた。 砲撃は何度もゲートを潜り抜け、連続でGVに放たれる。 GVはカゲロウを駆使して避ける。
『外の世界で……』
「フリーズしちゃいなよ!!」
これで終わりとばかりに、メラクはGVに向かって4方向から砲撃が放ち……
『ーー私の唄を歌いたい!』
「!! 迸れ、
少女の願いを聞いたGV……全身から蒼い雷撃を迸らせ、自身が雷となり駆け抜け、砲撃をかいくぐる。
「嘘だろ!? そんなのチートだ!」
「ーー煌めくは
イメージを明確にする詠唱を口ずさみ、GVは両手を天に掲げ……巨大な蒼き雷剣をその手に掴んだ。
「スパーク……カリバーーー!!」
雷剣を振り下ろし、振り抜いた軌跡が雷撃として残された……メラクを縦に一閃した。
「こりゃリスポーンは無理かなぁ……」
最後の最後までゲーム言語を言い残し……聖具の影響か、メラクは爆散してしまった。
「ハアハア……」
疲労が今になって現れ、GVは列車の上で膝をついて息を上げた。
その後、列車はスノウピーによって切り替えられたポイントを曲がり埠頭に向かって進路を進めた。 その間にGVは戦闘車両に戻り、少女の元に戻った。
「……聞こえたよ。 君の願い……名前を教えて」
『セピア……』
「セピア、君も自由を選べる」
すると、GVの前に電子が集まり……セピアのレアスキル、
「ユリシス……」
『……………………』
セピアの心を表すかのように、ユリシスは笑顔になり、その目尻には涙が浮かんでいた。
『本当に……本当にこの子と私が自由に……?』
「ああ……」
その時……セピアを照らす薄青い光が少しずつ赤に変色していき、その色と同色の電撃がGVに飛んできた。 だがGVは片手で受け止め、苦も無く振り払った。 GVのレアスキル、
「!? どうした!」
『ーーGV! 聞こえる!?』
「スノウピー! これはどういう事だ!?」
『分からない……けど、非常用の送信装置が作動しているみたい。 ライブのユリシスもラグっているし……その子が信号を拒絶しているのにも関係あるみたい』
恐らくセピアの意志が彼女を拘束している装置に反応し、不測の事態が起きてしまったようだ。
『いや……もう歌いたくない……!』
「!」
『「いやあああああ!!」』
念話と声帯の発声による悲鳴が重なり、超音波となって強烈な音量と衝撃を放った。 たまらずGVは耳を塞ぐ。
『じ、GV! ライブが大混乱だよ! しかもこれがミッド中に放送されている。 このままじゃ不測な事態が起こるし……
「う、うううっ……『唄え……ない』」
「この部屋事態が送受信装置になっている……信号そのものを止めないと……!」
『私を……殺してください……!』
「ーーダメだ!! こんな所で終わったら!」
『私の唄で……皆が……死んじゃうよ……! これ以上、唄を嫌いになりたくない……私は大丈夫だから……お願い』
諦めている、しかしそう願っている……セピアは後悔のないように笑顔でGVに懇願した。
「セピア……!」
だが、GVは見逃さなかった。 セピアの頰に……涙が伝っているのに。 彼女の本心は……生きたいと、夢を叶えたいと願っている。
「……ごめん、セピア……その願い……聞けない!」
カプセルに両手を当て、渾身の蒼い雷撃を迸らせる。
「うおおおおおおっ!!!」
残りの力を振り絞り、最大出力で雷撃を放出する。 その威力は蒼い雷を地上から打ち上げているようで……余波で首都全域が停電になるほどだった。 そして停電した事により……ユリシスの唄は止まった。
その後、GVにより自動運転が停止していた列車を慌てて手動で埠頭に停車させた。 GVは気絶しているセピアを抱きかかえ列車を降りる。 それと同時に車が猛スピードで接近し、目の前で急ブレーキで止まるとドアが開き……長い銀髪の少女が慌てて出てきた。
「GV! 大丈夫!?」
「問題ない。 それよりこの子の容体を見てくれないかな?」
GVは抱きかかえていたセピアを地面に下ろして、スノウピーが軽く診察し。 体力が落ちている以外問題ないと分かった。
「……GV、今回のは流石にヤバすぎだよ。 管理局に足を掴まれそうだし、他の組織にも目をつけられそう……このミッドにヤバい連中はウヨウヨいるからね」
「そうだろうな。 管理局にはオーバーSの魔導師が数名、魔乖術師、異編卿、ヘインダール、プラトン……数えてもキリがない」
「改めて多いね……すぐにここから離れましょう。 グズグズしてたら捕まっちゃう」
「了解だ」
スノウピーは駆け足で車に乗り込み。 GVはセピアをもう1度抱きかかえ、車に向かって歩みを進める。
「それで、その子は……」
「うん。 今度はこの子の
「GV……その子の……私達の自由は戦いの遥か先にある。 それはとても苦しくて孤独な戦い……GVはそれでもーー」
「ーー僕はあの列車から解放された時……決めたんだ。 奴らに復讐なんてしたら、僕は僕でいられなくなる。 だから逆を選んだ。 人を憎しむ事しか出来なってしまうなら……僕は自分と同じ境遇を作らないように」
「……愚問だったね。 いいよ、私も付き合うから。 私があなたの剣となれる……その日まで」
と、そこでGVはセピアが目を覚ましているのに気が付き。 彼女に笑顔を見せた。
「もう心配ない。 行こ」
「…………………」
セピアは抱きかかえられている事に少し困惑しながらも。 ジッと、GVの事を見つめていた。
後日ーー
ミッドチルダ東郊にある街……ルキュー。 そこに彼らの隠れ家の家があった。 そこに置いてあるテレビでは、昨晩のニュースが流れていた。
『ーー犯人は昨夜起こした国民的バーチャルアイドル、ユリシスに対する襲撃、略奪事件。 及び都市部一帯におよんだ大規模停電と同じ、管理下にない魔導師、もしくはレアスキル保持者の少年とみられ。 管理局はその行方を追っています』
画面に放送されているニュースには、バッチリとGVの後ろ姿が映っていた。
『この状況を受け、被害にあったヴァンデイン・コーポレーションは会見を開き、声明を発表しましーー』
プツン……
話の途中でリモコンを持っていた短髪でアホ毛がある少女……セピアがテレビの電源を切った。 続いて視線を横に向け、ソファーで眼鏡をかけて読書しているGVことソウ・コルベットを心配そうな目で見た。
(……世間で人がどう言おうと……私は知っている。 あの人が本当にしてくれた事を。 私はそれを……絶対に忘れない)
セピアは目を閉じ、ソウがしてくれた事を思い出し……涙を流しながら感謝した。
「………………」
「ーーセピア、どうしたの?」
「え?!」
いつの間にか夕食の時間になり、目を閉じて思いにふけっていたセピアをソウと、スノウピーこと
「ちょっと辛かったかな?」
「確かに雪華の好みは中辛だけど……」
「ち、違う違う! 雪華の料理は本当に美味しいよ!」
涙を出されたカレーの辛さと勘違いして心配するソウと雪華。 セピアは両手をワタワタと振り、否定しながら涙を誤魔化した。
ウーウゥーーー……!
「! ………………」
不意に遠くから聞こえたサイレンの音、それが自分を探しているとは思わなくても……セピアは顔を俯かせてしまう。
「大丈夫。 食べよ」
「もしもの事があっても守るから……ソウが」
「そこは自分って言うんじゃないのかな……?」
「ふふ……うん」
2人の会話にセピアは笑ってしまった。 そして気を取り直して3人で手を合わせ、カレーを口に運んだ。
(私は絶対に忘れない。 あの時、私に自由をくれた蒼い翼を……たとえその自由が束の間であったとしても。 そして……この人達が戦い続ける限り……私は……この人達の為の唄を……唄い続ける……!)
そう胸の中で決心し、セピアは今日という日を毎日続くように、確実に歩み始めた。
ーーこれは2つ目の軌跡……ボロボロな蒼き翼が嵐の空を飛ぶための道……