ViVid Contrail   作:にこにこみ

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復讐鬼 前編

新暦77年、8月ーー

 

薄暗い、日の光も届かない牢獄の底。 そこに……一体の人狼の怪異が落とされた。 怪異は辺りを見回すと……その場には先に誰がいた。 その人物は軽く左手を振るうと……異形の手に変貌し人狼に襲いかかった。

 

「がああああっ!!」

 

顔面を鷲掴みにし、襲いかかった勢いのまま壁に叩きつけ、そのまま左手で怪異を掴んだ。 左手が生きているように脈動し……怪異を喰らった。

 

ーー薄汚れた地獄で、凍りついた心が感じるのは……血に塗れた肉の味……そして、()()の憎悪……

 

堕とされた闇の底で、俺は喰らい続けた……怪異の血と肉を。 生きるために……生きて、あの男供をーー村の、家族の、妹の仇を殺すために。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「……………………」

 

ミッドチルダ南西、本土から遠く離れた遠海に一台のモーターボートが走っていた。 その船首に、黒いトレーニングウェアを着た人物が目深くフードをかぶって水平線の向こうを見つめていた。 その後ろから動きやすく、綺麗な服を着た髪の長さが胸まである金髪の少女が近寄ってきた。

 

「ジーク、方角はこのままでよろしいですか?」

 

「うん。 なんとなくやけど、こっちであってると思う」

 

「思うって……もっと自信を持ってもらわないとこちらも困りますわ」

 

操縦士の執事服を着た男性に目線を合わせ、ハンドジェスチャーでこのまま前進を伝えると男性は頷いた。

 

「全く、あなたが昨日いきなり船を借りたいなんて言ってきた時は何事かと思いましたが……」

 

「別に着いてこんでもよかったんよ?」

 

「あなた、ボートを操縦できるんですか?」

 

「……………………」

 

それを指摘されると、ジークと呼ばれた人物は黙り込んでしまう。 それを見た少女は嘆息する。

 

「それで、いい加減目的地を言ってもらいたいのですが? 地図を見てもこの先は何もありません。 さらに先の大陸に行きたいのならそれこそ飛行船で向かった方が建設的でしてよ」

 

「ううん、ええんや……そろそろ見えてくるはずや」

 

「見えてくるって……」

 

『ーーお嬢様。 前方に何か見えます』

 

執事……エドガーが拡声器を使ってそう言い、2人は先を見ると……水平線に浮かぶ小さな大地、島が見えてきた。 金髪の少女……ヴィクターはメイフォンのマップアプリで確認を取るが、現在地の先の海には何も載っていなかった。

 

「地図にない島?」

 

「あそこに……あそこにおるのか……ベル……」

 

フードを被った少女……ジークは空を見上げ、独り呟く。 雲行きが怪しくなる中……数分後、島に到着し。 島の南側にあった埠頭にボートをつけ、3人は無人島上陸した。

 

「埠頭があるという事は人の手が加えられていますね。 なぜ地図に乗っていないのでしょうか?」

 

「ジーク様がここを突き止めた事も含め、この島には何かあるようです」

 

「……………………」

 

「あ! 待ちなさい! 1人で行くのは危険よ!」

 

「ならヴィクターとエドガーは待っているとええ。 ウチは1人でも行く」

 

ジークはサッサと先に進み、ヴィクターとエドガーは1人で進むジークを追いかけて島の中に建てられた建築物の中に入った。

 

中は明かり1つ無く、ヴィクターが魔力球を浮かして明かりをつけた。

 

「古い様式ですが……教団が建てたものではありませんね。恐らくは古代ベルカ時代に……

 

「………………(スタスタ)」

 

「あ!? ジーク、お待ちなさい!」

 

ヴィクターはキョロキョロと辺りを見て考えこむ中、ジークはそれを無視して迷いなく前に進む。 まるでこの場所の道を知っているかのように。

 

ジークはこの建物の各部屋……牢屋を1つ1つ確認しながら下に向かっている。

 

「牢屋が多いようですね」

 

「どうやらここは監獄だったようですね。 しかもここまでの規模を……これは私の手に余ります、一度すずか様に連絡をーー」

 

「それはアカン。 それだけはアカンのや」

 

メイフォンを出したヴィクターの手を、ジークが抑えた。 ヴィクターはジークのその真剣な目を見て……嘆息しながらメイフォンをしまった。

 

「後でキッチリと説明してもらいますからね」

 

「もちろんや」

 

何故ここに来たのかの説明をジークは確約し、3人は監獄の最下層に到着した。

 

「ここは……」

 

「どうやら監獄の最下層のようですね。 かなり月日が経っているようですが、今もこの場には嫌な空気が充満しています」

 

「ーーよいっしょ」

 

その時、重苦しい音がすると……ジークが床にあった重鈍な金網を持ち上げていた。 金網を退けると、そこには地の底にまで続きそうな縦穴があった。

 

「ジーク!?」

 

「2人はここで待ってて」

 

それだけを言い残すと、ジークは迷いなく暗闇の中に飛び込んで行った。

 

「ああもう! いつも以上に勝ってですわね! 私も行きます、エドガーはここで待ってなさい」

 

「かしこまりました、どうかお気をつけて」

 

ジークの後に続いてヴィクターも縦穴の中に飛び込み、ジークは両手に黒い手甲を出現させると……

 

「はあああああっ!!」

 

虚空に向かって拳を振るい……何かに衝突した。 浮かび上がってきたのは縦穴に黄色い線が張り巡らせる事で構成されていた結界。 それをジークによって破壊され、2人は縦穴の底に着地した。

 

「っ……今のは結界? しかもグリードだけに作用するものですね。 どうしてそんなものがここに……」

 

「ーーシッ! 静かに……」

 

ジークは自身の口元に人差し指を当ててそう言うが……ヴィクターは縦穴の反対側に誰がいる事に気がついた。

 

「? 誰かいるのですーー」

 

「ウアアアアアアッ!!」

 

獣のような咆哮を上げながらヴィクターに襲いかかり。 異形の腕がヴィクターの頭を鷲掴みにして吊り上げ、壁にぶつけた。

 

「ぐっ!?」

 

突然の攻撃にヴィクターは驚くが、すぐに対処し異形の手を掴むと雷撃を流した。

 

「ガアアアアッ!!」

 

痛みの咆哮を上げながらその人物はヴィクターを後ろに投げた。 ヴィクターは受け身を取りながらデバイスを起動し、その手にハルバードを掴んだ。

 

そして、襲いかかってきた人物が日の明かりに照らされ……そこにはボロボロの服を着た、左腕の全体に包帯を巻いた少年が立っていた。

 

「い、いきなり何をするのですか!?」

 

「………………」

 

「ーーベル! ベルベットなんか!?」

 

「…………お前は…………リッドか」

 

ヴィクターが警戒する中、ジークは少年の事をそう呼んだ。 そして少年はジークの顔を見て、ジークとは違う名で彼女を呼んだ。

 

「良かった……本当に良かったんよ……」

 

「ーー本当に良かった思っているのか? これを見て」

 

2人に見えるように、少年は左手を突き出す。 包帯に巻かれた左手を見て、ジークは目を見開いた。

 

「また、なんか……?」

 

「リッド、俺が聞きたい事はただ一つ。 それは今も昔も変わらない」

 

少年は背を向け、壁に寄りかかった。 そしてその壁の上には……大きな爪で抉られた跡があり……

 

「答えろ…………ジェイル・スカリエッティとホアキン・ムルシエラゴはどこだ」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

第76管理外世界、エルダーアイランド。 この世界は魔法文化、近代的な文化もなく、中世時代と同じ暮らしをしていた。

 

そしてエルダーアイランドにある小さな村の1つ。 コノエ村……そこに1人の少年がいた。

 

「ーー起きろ、ネロ。 もう朝だぞ」

 

「う……うん……」

 

ごく普通の一軒家、そこで燃えるような目をした黒髪の少年が妹と思われる少女を起こしていた。

 

「ようやく起きたか、この寝坊助」

 

「も〜、子ども扱いしないでよ。 私はもう10歳なんだから〜」

 

「俺からすればまだまだヨチヨチ歩きの赤ん坊だ」

 

少年は妹……ネロの頭を乱雑に撫でる。 と、そこに外から誰かが家に入ってきた。

 

「ーーネルエル。 あまりラルクを困らせないで、はやく起きなさい」

 

長い黒髪を三つ編みにし、両手にいくつもの卵が入っている籠を持った女性がネロが起きるのを促す。

 

「はーい、おかーさーん」

 

「母さん、もう鳥達の世話を?」

 

「後はお父さんに任せてきたわ。 さあ、朝食にしましょう。 2人とも、顔と手を洗ってきなさい」

 

『は〜い』

 

2人揃って返事をし、その後帰ってきた父親と朝食を食べた。 何の変哲もない村のごく普通の4人家族……この光景を見ながらラルクはこの平和がいつまでも続くと思っていた。 そう、思っていた……

 

朝食後……ラルクは狩りをしに家を出た。 ラルクの家は養鶏場で、基本卵を売って生計を立てている。 だがラルクは育ち盛りの13歳……肉、特に猪肉を欲していた。 それを想像したラルクは少し口から涎を垂らしながら村の外に出ようとすると……村長の家の前に人だかりが出来ていた。

 

「何かあったのか?」

 

「ん? ああ、ラルクか。 なんでも都会からここの祭壇を研究しに考古学者が来ているらしいんだ」

 

「ふーん、あの古臭い場所をねえ……」

 

コノエ村の外れには遥か昔に作られた祭壇がある。 何を祀り、何を崇めていたのかはわからないが……祭事の時に使う時以外に使い道がない場所だった。

 

「ーーあ、そう言えば村長がお前の事呼んでたぞ?」

 

「ええ!? これから狩りに行こうと思ってたのに……」

 

「頑張れよ」

 

ラルクは軽く嘆息しながらも空を見上げ、人混みをかき分けて村長の家に入った。

 

「失礼します……」

 

「おお、来たか」

 

ラルクがまず目にしたのは村長と対面するように座っていたのは白衣を着た男性。 後ろには数人の女性達が控えている。 恐らく彼らが都会から来た考古学者なんだろう。

 

「村長、俺に何かようですか?」

 

「ラルク、お前には彼らを祭壇に連れてってはくれないだろうか?」

 

「祭壇に? 他に適任な人がいるでしょう、なぜ俺が?」

 

「ここ最近獣が荒れている。 護衛の意味もあるのだ。 他の者には荷が重いが……村一番の強さを持つお前なら安心だ」

 

「……そういう事なら、まあ……」

 

一応ラルクは案内を了承すると、白衣の男性が立ち上がってラルクの前に立った。

 

「初めまして、ジェイル・スカリエッティと言う。 今回は案内、よろしく頼むよ」

 

「あ、はい。 ラルク・エスパーダです。 ……彼女達は、助手ですか?」

 

「まあ、そんな所だ。 私の娘達でね」

 

「……随分と子沢山で……」

 

2人は握手をし、ラルクは視線をスカリエッティの後ろに向けて女性達を見る。 女性達ら全部で3人……その中の1人、メガネをかけた女性が手を振る。

 

「では早速行きましょう。 祭壇は村を東門から出て森を抜けた先です」

 

「ああ、よろしく頼むよ」

 

ラルクはスカリエッティ達を引き連れ、村を出て東に向かった。 この地帯はそろそろ寒気を迎え、緑生い茂っていた木々は紅葉に彩られていた。

 

「あの、スカリエッティさんはどうしてこんな辺境に?」

 

「先に言っていた通り、ここの祭壇を調べにね。 なんでも古代ベルカ時代に作られたようなんだ」

 

「古代ベルカ時代……聞いたことないですね。 なんだか凄そうですけど……」

 

1体の猪を発見した。 その猪もラルク達を視界に捉えると……前脚で地面を軽く掘り、威嚇してきた。

 

「おや?」

 

「猪か……」

 

「下がってください。 ここは俺が」

 

ラルクは前に出て彼らを下がらせ……猪が突進すると同時に地面を踏みしめて走り出した。 ラルクは突進してきた猪を飛び越え……右手を振るうと同時に籠手から刃が、刺突剣が飛び出して猪の背を斬り裂いた。

 

「せいやっ!」

 

着地して地面を踏みしめると同時に1回転し、靴底から仕込み剣を出しながらその勢いで回し蹴りを放ち……猪の喉元を切り裂いた。

 

「よし、夕食ゲットだ」

 

「お見事、村長が村一番というだけはあるね」

 

「ふうん……なかなか、やるじゃねえか」

 

戦いが終わり、スカリエッティは近付きながら拍手でラルクの戦いぶりを賞賛する。 赤毛の少女もチラ見でラルクを賞賛する。

 

「少し待っててください。 血抜きをしますので」

 

ラルクはナイフを取り出し、手際よく解体し。 猪を木に吊るして血抜きをした。 流れた血に女性達の内2名が不快な顔をしたが……赤毛の少女はラルクに近寄った。

 

「もういいか?」

 

「ああ、帰りに取りにくる時には終わっているだろう。 さ、気を取り直して行きましょう」

 

ラルク達は再び森の中を歩き始める。 と、そこで赤毛の少女がラルクに近寄ってきた。

 

「さっきの戦い方、誰から教わったんだ? 手と足の仕込み剣なんて普通思い浮かばないだろ」

 

「全部我流だよ。 不思議と頭に思い浮かぶし……でもなぜかしっかり来るんだよ」

 

「そうか……」

 

再びラルク達は歩き出し……しばらくして崖に面した、海が見える場所に出た。 そして例の祭壇は崖の側に立っていた。

 

「見ての通り、祭壇は石造り以外特徴はないです。 ただ、ここの景色は良いんですけどね」

 

「そうだな。 この景色はいいもんだ」

 

赤毛の少女が海原を見つめながら同意し、スカリエッティ達は早速調査を開始した。 ラルクはやる事がないので木に寄りかかって座り、暇を持て余していた。 そして数分後……ふと、ラルクはスカリエッティに近寄る。

 

「あの……あなたは……鳥がなぜ飛ぶのか分かりますか?」

 

「……ふむ?」

 

唐突な質問に、スカリエッティは手は休まずとも眉を釣り上げる。

 

「と、突然変な質問してすみません。 やっぱり忘れてください」

 

「ふふ、いや、とても興味深い質問だ。 鳥がなぜ飛ぶのか、だったね? 普通に考えれば生きるためだ。 翼をもがれた鳥は生きてはいけない……当然の帰結だ。 だが……」

 

「だが?」

 

「私は鳥の本能と考えている」

 

動かしていた手を止め、振り返りながら答える。 ラルクはスカリエッティの目にほんの僅かに本性と、狂気の色が見えるのを感じた。

 

「親鳥が雛鳥に飛び方、餌の取り方を教えるか? 例え教えられなかったとしても雛鳥は餌を与えられ成長すれば勝手に飛び方を覚え、生きる為の本能で餌を取る……鳥が飛ぶのに理由なんてないのさ」

 

「……………………」

 

この質問に意味はない、答えもないが……正しいのかもしれない、ラルクはスカリエッティの答えにそう思ってしまう。 だがラルクは頭を振り払い、お礼を言って逃げるようにその場を離れた。

 

その後、調査は終わり。 ラルク達は来た道を引き返して村に戻った。 スカリエッティ達は村のすぐそばで野営をしているらしく、ラルクは猪を担ぎながら村の中で別れた。 そしてラルクはこの村で商業を行なっている家に向かい、食べない分の猪肉を売りに行った。

 

「おじさん。 これいらない分を売ってくれる?」

 

「お、そうか。 使う部位はいつもと同じか?」

 

「それでお願い」

 

解体を任せ、テーブルに無造作に、大雑把な種類別に分かれた商品を見る。 顎に手を当てて流し見すると……ラルクはオレンジの鈴を見つけた。 すると、横から誰が近寄り、ラルクは隣を見ると……先ほどの赤毛の少女だった。

 

「お前は……」

 

「ーーお前じゃない、ノーヴェだ」

 

「あ、そっか。 自己紹介をしてなかったっけ……改めて、ラルクだ」

 

「ん」

 

「……あの人に着いて行くのにあんまり乗り気じゃなさそうだな?」

 

「まあな。 でも、あいつが決めた事だからアタシは従うだけだ」

 

「ふうん? 考古学者も大変なんだな」

 

「………………」

 

何気なく言ったが、ノーヴェは暗い表情になる。 それを見たラルクは少し悩み……

 

「ウチに来るか?」

 

「え……」

 

「この後猪肉で夕飯なんだけど、いつも余っちまってな。 良ければどうだ?」

 

「…………じゃあ、遠慮なく」

 

「よしきた」

 

ラルクは猪肉と売却分の料金を受け取り、ノーヴェと一緒に自宅に向かった。 家に入ると、中には誰もいなかった。

 

「誰もいねぇ……」

 

「ウチはここからちょっと奥に行った所に養鶏をやっているんだ。 家族は今そこにいるんだろう」

 

「ここから離れてんのか? なんですぐそばでやらない?」

 

「そうなると臭いがここまで届くんだ。 行ってみればわかるが、初めての人にはキツイぞ」

 

お茶を出しながらノーヴェの質問にラルクは答える。 ノーヴェは納得しながら出された紅茶と、茶菓子のプリンを食べた。

 

「! うめぇ……!」

 

「卵が毎日出るウチだからこそやつでな。 村からも評判は良い……って、聞いてねえか」

 

パクパクとプリンを食べ、あっという間に平らげてしまう。 しまいには「ん」と言いながら空になった容器をラルクに出し、ラルクは図々しなと思いながらもお代わりを渡した。

 

と、そこで家の玄関が開き。 ネロが入ってくると、ラルクとノーヴェを視界に捉え……

 

「よお、ネローー」

 

「ああーー!! お兄ちゃんが女の子連れ込んでるー!」

 

大声を上げて兄を指差した。 その声に2人の両親も駆け足で家に入り、ノーヴェを見ると同じ反応を示した。

 

「おー、マジかよ!?」

 

「あら、今日はお祝いかしら?」

 

「そ、そんなんじゃないからーー!!」

 

その後も、ノーヴェが夕食を食べている間でもラルクは家族にイジられ続け。 その光景をノーヴェはただ羨ましそうに見ているだけだった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

翌日ーー

 

ラルクは日の登らないうちに目を覚まし、養鶏場に向かい毎日行っている仕事をこなした。 ちなみに昨夜ノーヴェはそのまま家に泊まる事になり、ネロの話し合い手になり一晩を過ごし……早朝にぶっきらぼうにお礼を言いながら帰って行った。

 

「く……ふあぁあ〜……」

 

ピヨピヨピヨピヨ!!

 

欠伸をしながらも手を休めず、餌を求めてラルクに群がるひよこを見て……ラルクはホッコリとした顔で餌を撒いた。

 

「さて……ん?」

 

日は完全に登り、家に帰ろうとした時……いつもと違う光景を目にしたラルクは不審を感じる。

 

(鶏達が怯えている……?)

 

いつも世話をしているラルクだからこそ、鶏達が怯えている事に気付いたが……なぜ怯えているのかはわからなかった。

 

その後、残りの仕事を両親に任せ。 昨日狩りをしたため暇をしていたラルクは村の中をブラブラしていた。

 

「ーーなあ知っているか? 今日は()()()()なんだってよ」

 

「あの薄気味悪い夜か……来ると分かっていてもあまり気持ちのいいもんじゃないな」

 

(……緋の夜……)

 

ラルクは村の中を歩いていた時、男性達の会話を耳にした。 緋色の夜とは周期的に起きる赤色月蝕(せきしょくげっしょく)、この村ではあまり良い印象を持っていない現象と言われている。

 

「ーーッ……!」

 

その時、突然頭痛が起き、ラルクはよろけながら近くの木に寄りかかった。

 

「またか……緋の夜が近づくいつもこうだ……」

 

前回の緋の夜の時、ラルクは緋の夜が起こる1週間前から頭痛に悩まさられる時期があった。 それは緋の夜が過ぎればパタリと消えたが……今回もまた頭痛が起きていた。

 

「たっく……なんだってんだ」

 

胸にあるペンダントを服越しに握りしめながら頭を振り払い、ラルクは頭を抑えながら再び歩き出す。

 

(ふう、やっと収まった……ってあれ……? あの鈴がない……)

 

昨日の家の前に差し掛かると、テーブルに置いてあったラルクが気に入ったあの鈴がなかった。 そこでラルクは店主に誰が買っていったのか確認を取った。

 

「なあ、おじさん。 昨日あった鈴は売れたのか?」

 

「ん? ああ、売れたぞ。 ネロちゃんが買っていった」

 

「ネロが?」

 

「ああそうだ。 その後ネロちゃんは1人で祭壇のある方に行ったんだが……何か知っているか?」

 

「! ネロが1人で外に!? そんな事……聞いないぞ!」

 

「あ、おい!」

 

店主が止める間もなくラルクは走り出し、昨日来た道を……祭壇に向かう道を走り抜けていると、その途中で蹲っている少女……

 

「ネロ!」

 

「あ……お兄ちゃん……」

 

ラルクは急いでネロの元に向かい、膝を下ろして怪我をしてないか慌てて確認する。

 

「全く心配したぞ! ここ最近は動物達が騒いでいるから村の外に出るなと言っただろう!」

 

「……ごめんなさい……」

 

「……はあ……まあ、無事でよかった」

 

ラルクはネロがシュンとしながら謝るのを見て……額についた汗を拭い、息を吐きながら一安心する。

 

「もしかして、祭壇からの景色を見たかったのか? それなら連れて行ってやるから一言ぬらい言えっての」

 

「うん、次からはそうする……」

 

ラルクに言われ、ネロは反省した。 それが分かったラルクは頷き……

 

「よし、ならこのまま一緒に行くか」

 

「え、いいの!?」

 

「ああ。 久しぶりなんだし、問題ない」

 

ラルクとネロはそのまま祭壇に向かう事にし。 森を抜け、祭壇のある崖に到着した。 ネロは崖の手前にある原っぱに座り、陽の光と潮の風を心地よく感じる

 

「ふう……」

 

「……お兄ちゃん、今日は連れてきてくれてありがとう」

 

「なんだよ、あらたまって」

 

ピイイィ……!

 

その時、2人の遥か上空を鳥が鳴き声を上げて飛んでいた。 それを見たラルクはあの質問を口にする。

 

「なあ、ネロ……鳥がなぜ飛ぶのか知っているか?」

 

その質問に、ネロは立ち上がりながら考える。

 

「え……うーんっと……餌を取るためかな? そうしないと生きられないし」

 

「まあ、そうだな……」

 

「でも、私は思うんだ。 翼をもった鳥はーーあ……!」

 

その時、ネロはラルクの方に振り返ると何かを見つけて声を上げる。 ラルクもその視線の先に振り返ると……狼、しかし二足歩行で歩く……人狼がそこに立っていた。

 

「あ、あ……あれって……まさか!?」

 

「化け物……!?」

 

なぜこんな場所にと考える前にラルクは身構え、右手の手甲から刺突剣を抜く。

 

「……ネルエル。 俺が引きつけるからその間に走れ」

 

「お兄ちゃん!?」

 

「怖がるな。 お前にならできる。 それに、俺はここでくたばるような男じゃないからな」

 

「やめて! ダメだよ!」

 

グルアアアッ!!

 

「逃げろ!」

 

それと同時にラルクは人狼に向かって飛び出し、人狼に刃を向ける。

 

ラルクは一進一退を心がけ、常に距離を取って人狼と戦う。 だが、いくら攻撃しても人狼は一向に倒れる兆しが見えない。

 

「なんでこんなのが……まさか動物達が怯えていた元凶!?」

 

「お兄ちゃん!」

 

「ーーさっさと走れ! お前を庇っていれば共倒れだ!」

 

「でも!」

 

「行け!!」

 

振り降ろされた爪を避け、ラルクは地面に突き立てられた足を左足で踏み潰し、右足の仕込み剣で腹部を刺したが……

 

「ガアアアア!!」

 

「ッ……! 全く効いてない!? だからって!!」

 

後退しながら刺突剣を抜き、怪物に向かって斬りかかるが……ラルクは腹部を殴られ、祭壇の側面に吹き飛ばされてしまう。

 

「がっ! ぐうう……っ!」

 

ラルクは苦痛に身悶え、ゆっくりと彼の元に人狼が歩み寄ろうとしたその時……人狼の頭に石がぶつけられた。 投げられた方向に人狼は向くと……

 

「やめて! お兄ちゃんを傷つけないで!」

 

そこにはネロがいた。 だがネロは恐怖で足が震え、立っているのもやっと……だが人狼はそんな事御構い無しにネロに近付き、爪を立てて無造作に手を振るってネロを吹き飛ばした。

 

「あああ……!!」

 

ーーシャン……

 

「ネロ!!!」

 

裂傷は負ってないもののネロは軽く吹き飛ばされてしまい、ラルクはネロの名を叫ぶ。

 

「お兄……ちゃん……」

 

ラルクは地面を這いずりながら近付き、ネロの手を掴む。 その手には、ラルクが欲しがっていたオレンジの鈴が握られていた。 先ほどの衝撃で音止めが外れ、鈴は音を鳴らしていた。

 

「これって……!」

 

ラルクは鈴がネロの手にある事に驚きつつも差し出された手を握る。 だが、その間にも刻一刻と怪物は2人に近付き……その爪を振り上げる。

 

「……っ!!」

 

咄嗟にラルクはネロに覆いかぶさり、ネロを守ろうとした時……

 

ドスッ……!!

 

肉が貫かれた音がした。 ラルクはおそるおそる顔を上げると……そこにはスカリエッティの娘、短い紫髪の女性が人狼の胸を貫いていた。

 

命からがら助かったと安心する。 しかし、それを最後にラルクの意識は途絶えた。

 

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