「ーーうっ……く……」
気絶したラルクが目覚ました時、まず目に写ったのは見慣れた自室の天井。
「……俺は……一体……なんで家に?」
ラルクは意識と記憶が混濁し、家のベットで寝ている理由とそこからの記憶が思い出せなかった。
「う……痛! ……夢……ではなさそうだけど」
ベットから起き上がり、腹部の痛みが怪物に襲われるた出来事を現実と教える。 ふと、ラルクは月明かりが赤いのに気がついた。 窓の外を見ると……そこには赤い満月が浮かんでいた。
「緋の夜!? なんで?」
ーーシャン
「この鈴……ネロ!!」
いつの間にか手に持って鈴を見て、ラルクはネロの身を案じベットから飛び降り。 慌てて家を出た。
家の外はいつもと同じ光景なのに、赤い月明かりのせいで地獄に思えるような光景だった。
グルルルル……
その時、背後から唸り声が聞こえ、ラルクは振り返ると……そこには先ほどの人狼が、しかし何体もの人狼がいた。
「化物が……こんなに!?」
先の戦いで勝てる相手ではない事は身にしみ、踵を返して逃げる。
「一体なにが……コノエ村になにが起きているんだ!!」
村の中心に向かうと……そこは既に化物の巣窟であり、その足元には村人の死体が無残にも横たわっていた。
「あぁ……村は、もう……」
村の惨劇を見て、ラルクは悲観する。 だが、まだ諦める訳にもいかず、祭壇の元に走り続ける。
「はぁ……はぁ……」
ーーズキン
「うっ!? クソッ!!」
前回より酷くなる頭痛。 だが休まず、振り向かず走り続けるラルク。 背後からは人狼の怪異が追いかけてくるも……
「諦めるな……諦めるな!」
そう自分に言い聞かせ、グネグネした道を通って怪異を振り切り……祭壇に到着した。
そこには避難していたネロと……この村に訪れていたスカリエッティと先ほどラルク達を助けてくれた紫色の髪をした短髪の女性がいた。
「お兄ちゃん!」
「……ラルク君か」
「ああ、よかった……あなたが妹をーー」
祭壇の上に立っている3人を見てラルクは安堵する。 が、昨日とは違うスカリエッティの狂気に満ちたような表情……そしてネロの暗い表情を見てラルクは混乱する。
だが、それよりも目を疑うような光景を目にする。 それは……女性がネロを拘束している事。
「な、なに……しているんです……?」
「ーーかつて、この場所、この世界である1人の鬼神が誕生した。 私はね、それを再現したいんだよ」
ラルクの質問にスカリエッティは答えず、ただ淡々とこの場所の歴史を口にする。 だがラルクはその意味が分かるわけもなく、ただあの男の側にネロを置いては置けないと3人の元に向かおうとすると……
「うわっ!?」
突然足が何かに絡みついて転倒、さらに両手と両足を動かせなくされ……四肢に焼かれるような痛みが走る。
「うああああっ!!」
「お兄ちゃん!
「フフフ、ごめんなさいね」
「この場所、この緋の夜の瞬間、鬼神の因子を持ってかの鬼神を今世に呼び起こす」
「な、なにを……言っているんだ?」
スカリエッティの言葉を理解できず、ラルクは呆然としていた。 それを見たスカリエッティはその疑問に答えるように……懐からナイフを取り出した。 だが、その刀身の色はとてもこの世のものとは思えないほどの色をしていた。
「おいよせ、なにを……」
この後起きる事を予想したラルクはやめろと言うが、スカリエッティはナイフをネロに向ける。 ネロは抵抗するも、拘束されて動けず。 ゆっくりと刃が近付いて行き……
「やめろおおぉぉっ!!!」
「あら?」
ラルクは無理や拘束を破壊し、立ち上がると同時に右手を振り払って刺突剣を抜き、スカリエッティを止めるべく全速力で走り出す。
ザクッ……
「ーーあ」
「……あぁ……」
だが、一歩間に合わず。 ネロの胸に刃が突き立てられた。
「あ、ああ…………あああああああっ!!!」
刺突剣を振るって2人をネロから離れさせ、ラルクは血だらけのネロを抱きかかえる。
「ネロ! ネロ!!」
「お兄……ちゃーー」
その言葉を最後に、ネロの身体全体が瘴気に呑まれた。 ラルクは渦巻く瘴気によって跳ね飛ばされ、呆然と渦を見つめると……中から蛇と人間が混ざったような怪物が現れた。
「ネ、ロ……?」
「ゴアアアアアッ!!」
「がっ!!」
丸太のように太い尻尾がラルクの腹部に直撃し、骨が軋みながら崖際に吹き飛ばされてしまった。
「フフフ……さあ、ネロ。 お兄さんを喰らいなさい」
「グルル……」
「ネ、ネロ……そんな……ネロ……」
ラルクに向けて牙を向けるネロ。 その時……ラルクの目にネロを異形へ変えたナイフが目に入った。 ラルクは意を決してそのナイフを掴み……左手の甲に突き刺した。
「ぐああああああぁぁぁ!!!」
激痛が全身を内側の至るところか発生し、ラルクは絶叫をあげる。 ネロは再びラルクに襲いかかった。 そして、瘴気が膨れ上がり……
ザシュッ!!
5つの赤黒い刃がネロの身体を貫き……崖から落とした。 ラルクは呆然とネロが落ちていくのを目に写し……短髪の女性の蹴りによって祭壇の前に吹き飛ばされながら正気戻る。
「ぐっ……がはっ! はぁ……はぁ……」
「フフ、フフフ……フハハハハッ!! 成功だ! 鬼神の因子を打ち込む事で、今!! この世に鬼神は再臨した!!」
ラルクが苦痛に耐えるように異形の左手が地面を握りしめ、それを見たスカリエッティが狂うように笑う。
すると、辺りに人狼型のグリードが湧いて出てきた。 その一体が背後からラルクに襲いかかり……
「ーーふんっ! ああっ!!」
異形の左手で顔面を掴み、地面に叩きつけた。 そしてその異形の左手で握りしめ……血を吹き出し返り血を浴びながらその手で喰らった。
「ふううう……っ!!」
「左手で怪異を喰らう怪異……伝承通だな」
「はぁ……!! 貴様ら……ッ!」
「スカリエッティィィ〜〜〜ッ!!」
「あらあら」
ラルクは怒りに満ちた目でスカリエッティを睨み、彼を殺そうと走り出そうとするが……行く手を怪異が塞ぐ。
「ッ!! そこをどけええぇぇぇっ!!」
ラルクは左手をデタラメに振るい、握りつぶし、切り裂き……邪魔をするものは左手で喰い殺した。
「うおおおお〜〜〜っ!!!」
そこに理性はなく、怒りに血に塗れたラルクは怪異を嬲り殺す。
「なんでこんな事をした!? あの子の血が……こんなに……なぜっ!! なぜっ!! なぜぇぇっ!!」
「勘違いしないでもらいたい。 最後にとどめを刺したのは……君だ」
「うあああああ!!!」
スカリエッティに向かって叫びながらも、その怒りを怪異にぶつける。 それに対してスカリエッティはただ、ただ笑うだけ。
「ネルエルが! ネロが! 何をしたって!! どけえぇぇぇっ!!」
「……っ!!」
次々と怪異を喰らっていくラルク。 その悲しみと、殺戮に満ちた光景に、近くで見ていた赤髪の少女はラルクから目を背ける。
「ぜぇ……ぜぇ……」
「ほう……見事だ」
「ですが、周りをよく御覧なさい」
「? ………………!!」
ラルクは不振に思いながら周りを見ると……ラルクの周りには村の人々の死体が転がっていた。 そこには、両親の姿もあり……ラルクは目を見開いてそれらを見下ろし、無意識に左手を握る。
「誰が鬼神の子孫か分からなかったから。 全員に鬼神の因子を打ち込んだら……皆、醜い化物になっちゃったのよ」
「まさか当たりは1人だけとはな。 全く、割りに合わない……」
「フフ、まあそう言うな。 これも貴重なデータだ。 ホアキン君には感謝しないとね」
「ーーう、うあああ〜〜〜〜っ!!」
後悔、憎悪、憤怒、それらが混ざり合い……ラルクは叫びながら再びスカリエッティに向かって走り出す。
「ふむ?」
「ああーーぐはっ!」
スカリエッティに左手を向けて襲いかかったが……横から赤髪の戦闘機人が割って入り、ラルクを蹴り返した。 その際にラルクの懐からオレンジの鈴が落ち、シャンシャンと音を響かせながら赤髪の少女の足元に転がった。
「ぐっ……ノー……ヴェ!?」
苦痛に悶えながら彼女を見ると……次々と周りに女達が現れてラルクの周りを取り囲む。
「あ……あ……」
苦悶の表情を浮かべる中、赤毛の戦闘機人は足元に転がった鈴を拾い上げ……ラルクの元にスカリエッティが近寄る。
「君は言ったね? 『鳥はなぜ飛ぶか?』と……これが私の答えなんだよ、ラルク君」
「ジェ……イル……」
「許さなくてもいいよ。 これはただの通過点に過ぎないのだから……ジェイル・スカリエッティとホアキン・ムルシエラゴ。 この2人の名を……憎悪に満ちた心で覚えておくとといいよ」
そう言いがら、スカリエッティはラルクに向かって鉤爪を振り上げ……
「スカリエッティッ!!!」
その直前、怨念に満ちた叫び声で目の前の男の名を呼び……ラルクの意識は途絶えた。
ーーお前は……お前だけは……!!
次に目を覚ました時、ラルクは日の光も届かない牢獄の底に入れられた。 こうして……彼女と重なり合わせるようにラルクの世界が終わり、それから3年……ラルクは生きるために怪異を喰らい続けた。
◆ ◆ ◆
監獄島、最下層ーー
さらにその底にある牢屋で、ラルクはジークとヴィクターと不穏な空気を出しながら対面していた。
「答えろ」
「……………………」
ジークは答えられなかった。 変わりにヴィクターが前に出てラルクの質問に答えた。
「ホアキンという人物は知りませんが……ジェイル・スカリエッティは2年前の事件の折に逮捕、どこかの無人世界にある拘置所にいるはずです」
「……そうか」
その時、上から梯子が降りてきた。 どうやら上にいるエドガーが降ろしたようで、ラルクは梯子に向かって歩く。
「どこに行く気ですか?」
「居場所が分からないのなら、まずは人形供を殺しに行く。 そいつらなら何か知っているだろう」
「ベ、ベル……」
「俺はラルクだ。 その名はまだ生きている……口にしない方がいい」
「…………それなら自己紹介をしておきましょう。 私はヴィクトーリア・ダールグリュンと申します。 彼女はジークリンデ・エレミア」
「雷帝と黒鉄が一緒とは……随分と面白い組み合わせだな」
思いがけない組み合わせだったのか、ラルクは少しだけ笑った。 それから上にいたエドガーによって牢屋に梯子が降ろされ。 3人は梯子を登って牢屋を出た。
「お嬢様、ご無事ですか?」
「ええ、見ての通りよ」
「それで、彼がジーク様が探していた……」
「ラルク。 別に覚えなくてもいい」
エドガーがラルクの方を向き、ラルクは背を向けながら愛想悪く名前だけを名乗った。
「どちらに?」
「先ずは俺の武器を探しに行く。 ま、ここにあるといいんだがな……」
「あ……それならここに来る途中で見たんよ」
「案内しろ」
1つ上の階にあった部屋に入り。 ラルクはそこに置かれていた荷物を漁った。
「…………俺以外の荷物もあるな」
「恐らくここはラルク1人の為にスカリエッティが作った監獄島……一体誰のやろう?」
「どうでもいいか」
ラルクは突然、上に着ていたボロ切れ同然の服を破り捨てて脱いだ。
「キャッ!?」
「わわっ!?」
それを見た女子2人は慌ててラルクから背を向ける。
「ッ〜〜〜〜〜///」
「き、着替えるなら着替えると先に言ってくださいまし!」
「そこで突っ立ているのお前らが悪い」
「ではラルク様、私がお着替えをお手伝い致しましょうか?」
「いらん」
ジークとヴィクターは顔を赤くしながら背を向け、ラルクはボロボロの服を文字通り脱ぎ捨てながらエドガーの手助けを断る。
そしてラルクは黒を基調としたワザとボロボロにしたような服に着替え、右手と靴底にこの世界では質量兵器と呼ばれる装備を身につけた。 ラルクは右手の籠手から刺突剣を抜き、納刀して感触を確かめる。
「ラルク君……やっぱり復讐を辞める気にはーー」
「辞める訳ないだろ。 リッドにも、クラウスにも言ったはずだ。 道を阻むのなら誰であろうと喰らい殺すと」
「せ、せやけど……」
「フン、見た目が随分女らしくなったと思ったら……さらに女々しくなったようだな」
そう言いながらラルクは首に掛けていたネックレスを取り出した。 無骨な鎖に繋がれていたのは1つの指輪……それを自身の右手の中指に嵌める。 そしてラルクは唐突にジークに質問する。
「……ジーク。 お前には歴代エレミアの記憶が500年分を持っているらしいな?」
「そ、そうやけど……」
「俺は良くてたったの最初の20年分しかない。 けどな……彼女の憎悪と、今の俺の憎悪が交わって……復讐するしかこの絶望から逃れる術はないんだ」
「………………」
いつも以上に気力が無いジーク。 ラルクの復讐を止めることは出来ないが、ヴィクターは納得しなかった。
「そ、そんな事をしたところで、何の解決にもーー」
「ならないだろうな。 復讐を遂げだ所で後は虚しくなる……よくある話だ。 だから復讐を忘れて静かに暮らす事もいいだろう。 だがな、この憎悪はもう心の奥底にまで根付いているんだよ。 復讐を成し遂げなければ……前に進めない事だってあるんだよ」
「……………………」
「…………皆様。 ここでは落ち着いて話も出来ません。 まずはここから出る事をお勧めします」
「そ、そうね。 ここは息苦しくて仕方がないですし」
ラルクは先に進み、後にジーク達が後に続いた。 先ほど通った道だが、ラルクがいるだけでまるで違う場所に思え……唐突にラルクは足を止めた。
「ラルク?」
「……来るぞ」
次の瞬間、前方の通路から無数の化物……怪異が湧いて出てきた。
「えっ!?」
「な、何故誰もいない無人島に怪異が!?」
「俺が3年間、何を喰らって生き延びてきたと思っている。 ここは見た目はボロくてもスカリエッティの手が入っている島……たった1人の囚人の為の島だ。 脱獄くらい視野に入れているのは当然だ」
「………………」
「このグリードは地脈から送られ、いくらでも湧いて来る。 俺を閉じ込めていた檻が壊れるのをスイッチに、こいつらが留めておいた蓋が壊れたようだな」
「ッ…………」
グアアアッ!!
無数の咆哮をあげながら襲いかかる怪異共、ラルクはそれらを前にしても怯まず、
「面倒な警備共だ」
ラルクは左手を怪異の手に変え、薙ぎ払うように目の前の軍団に突っ込んだ。 そしてその中の一体、悪魔の怪異を鷲掴みにし……喰らった。
「邪魔だ……ジェット・ブリザード!!」
喰らった怪異の力を右手の刺突剣を抜きながら刀身に纏わせ、左右に振る度に鋭利な氷を作り出して怪異を串刺しにした。
それからは一方的な蹂躙と、空腹を満たす狩りだった。 その光景を後ろからジーク達が黙って見ていた。
「な、なんですか、あの力は……」
「あれが鬼神と呼ばれた人物と同じ力……左手で喰らったものを放出することが出来るんや」
「聖王、覇王と並んで語り継がれた鬼神の存在……その真実の一端ですか……」
ベルカ時代の歴史を調べているヴィクターは内心驚きながら目の前の鬼神を畏怖した。 だがラルクは彼女達を無視して先に進んだ。
「……………………」
「あ……待ってえな!」
3人はラルクを追いかけ、ラルクが放つ殺伐とした空気に感化されて無言のまま階段を登り……
「地上に出たようやな……」
「はあ……ようやく広場まで戻って来れましたわね」
「怪異がまだいる。 気を抜くと死ぬぞ」
「わ、分かってます!」
ギャアアアアアッ!!
ラルクがヴィクターに軽口を言っていた時……前方の扉の先から咆哮が聞こえ、扉を蹴破るようにして広場に入って来たのは小型のドラゴン型のグリードだった。
「こ、これは……!?」
「ドラゴンパピー。 ドラゴン型では最低ランクだが、リハビリには丁度いいだろう」
「それを言うのはラルク君くらいやで」
「お嬢様、ジーク様、ラルク様、どうかお気をつけて!」
エドガーが後方に下がる中、ヴィクターはハルバードを構え、ジークは拳を上げて構え、ラルクは身構えて左手を上げる構えを取った。
「はあっ!」
ヴィクターが飛び出し、ハルバードを振るいドラゴンパピーの腕を殴りつけるが……ハルバードの刃は硬い鱗に阻まれ、途中で止められていた。
「っ……やはり通常の怪異とは違いますね。 いつものならこれで通るのですが……!!」
ヴィクターはその状態のままさらに踏み込み、腕に力を入れハルバードを大きくしならせた。 そして後退と同時にハルバードが元に戻る力でドラゴンパピーの腕を斬り裂いた。
「流石ヴィクター、やるなあ!」
「ふっ、分校とはいえこれでもレルムの学生。 当然です」
「ウチも負けてられんなぁ!」
「ーー
意気込むジークを他所にラルクがドラゴンパピーに向けて冷気弾と炎熱弾を連続で放ち、その急激な温度差によって竜の鱗を砕いた。
「ちょ、危ないやないか!?」
「戦闘中に賞賛なんてする方が悪い。 どうやら慢心もあるようだな」
「そ、そんな事あらへんよ!」
慌てて否定しながらもジークはドラゴンパピーを見据え、落ち着きながら呼吸を整える。
「ふう……鉄腕」
するとジークの両腕に肘まで覆う黒い小手が装着された。
「ふっ……!」
飛び出し、ジークはドラゴンパピーの爪や翼を使った攻撃を避けながら懐に入り……
「シュバルツ・ヘルツ……!!」
ドラゴンパピーの左胸……心臓に位置する部分に掌底を撃ち込んだ。 それによりドラゴンパピーはヨロけながら後退し……
「リヒト・ヴァルト!!」
追撃をかけ、ジークは目にも留まらぬ速さで自身の足元の地面を何度も殴り……魔力弾を流してドラゴンパピーの足元から発射した。
「はああぁ!」
そしてラルクがドラゴンパピーに向かって正面から接近し……怪異の左手を出しながら頭を鷲掴みにし、地面に叩きつけた。
「喰らい尽くせ!!」
ラルクはそのまま怪異の左手を振るい、ドラゴンパピーを投げ飛ばしながら魔力を奪い取り取り込んだ。
「ラルク……」
「……俺は……どんな犠牲を払ってでも……この復讐をやり遂げてみせる……邪魔をするな!!」
殺気に満ちた目でドラゴンパピーを睨みつける。 その迫力にドラゴンパピーは怯み、ゆっくりと後退する。
「……魔導師だろうが、怪異だろうが、機械人形だろうが何だろうが……俺の邪魔をするのなら全て喰らい尽くす!!」
ラルクは右手を振り刺突剣を抜いて一気に飛び出し……
「墜ちろ! ファランクス・レイド!!」
取り込んだ力を解放し……地面から岩が扇状に鋭い鎗のように隆起させ、ドラゴンパピーを刺し貫いた。 そしてもう一度、刺突剣を振るい岩を砕き、ドラゴンパピーは倒れ伏した。
「た、倒したんですか……?」
「フン……」
エドガーの質問に答える前にラルクはドラゴンパピーに近寄り、その頭を鷲掴みにし……取り込むように喰らった。
「行くぞ」
「あ! 待ってえな!」
勝利の余韻に浸る暇もなくラルクは埠頭に出て、ジーク達が乗ってきたボートに乗り込んだ。
そして4人となった一行は溢れ出てくるグリードから逃げるように島を出発した。 だが沖合に出ても飛行が可能なグリードもいる可能性があり……ジークが戦闘状態で小さくなる監獄島を見ていた。
するとジークは両手を広げ、頭上に無数の魔法陣を展開し……
「ゲヴェイア・クーゲル……ジェノサイドシフト!!」
陣から高密度の魔力弾が斉射され、飛んでいたグリードもろとも監獄島を破壊し……数分で島は瓦礫だらけの更地となった。
「フウフウ………さ、さすがにこれはキツイんよ……」
「ですが、これで当面は安全でしょう。 彼の事は報告しませんが、異界対策課にこの島の存在は明かしておきます。 いいですわね?」
「う、うん……」
ヴィクターの提案に、ジークはよく分からずとにかく頷くしかなかった。
それからジーク達はボートに揺られながら本土を目指し。 ラルクはボートに乗ってから今までずっと甲板に座り、縁に肘を立ててボーッと揺れる海を眺めていた。
「ふう……さて、ラルク様。 どこに向かわれますか?」
「…………そうだな。 先ずはどこか静かに休める場所に」
「!? ラ、ラルク?」
予想していた答えと違っていたのか、ジークは驚きの声を上げながらラルクを見る。
「勘違いするな。 彼女は何度は躓いたがまた立ち上がった……だが、この世界で俺は1度躓けば後がない。 リハビリと修行を兼ねて1年待つだけだ」
「うん、うん! それでもええんよ!」
ジークは嬉しかったのか、目尻に涙を浮かべながら何度も頷く。 笑っているのか泣いているのか分からないが、とにかく嬉しそうだった。
そんなジークを尻目にラルクは左手で頬杖をつきながら海を眺めた。
(……今もなお……あの2人はこの時代で生きているんだろうか……)
ラルクは右手の指輪を見ながら、そう思った。
ーーこれは3つ目の軌跡……復讐鬼となった少年が歩く悲劇……しかし、斉唱による序章である。