ViVid Contrail   作:にこにこみ

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兎が行く学院 後編

 

イットはネイトとフォンに連れられて中央第5区の練習場を訪れていた。大きさはサッカーグラウンドくらいで、都心にありながらも辺りは木々に囲まれていた。

 

「本当に人が少ない……というかいないね」

 

「この地区は微妙に都心から離れてるからな。 ここに来るくらいならもっと近い方の練習場を選ぶのさ」

 

「これなら一眼を気にせずに思いっきりできるというもの、ですが……」

 

そこでフォンをチラリと後ろを見た。 イットとネイトはその視線につられてその方向を見て……そこには木々があるだけで、すぐに姿勢を元に戻した。

 

「では……」

 

「始めるとするか」

 

ネイトは十字のペンダント、フォンは赤い宝玉を取り出し……セットアップし、バリアジャケットを纏った。

 

バリアジャケットのデザインは、ネイトは黒い肩出しのジャケット1枚に黒いズボンで、フォンは袖余りがある赤いルーフェンの民族衣装で布靴を履いている。

 

2人とも武器らしいものは持ってなく、無手の状態だった。

 

「へぇ、それが2人の……」

 

「イットはデバイスを持っていないのですか?」

 

「ああ。 大会に出るに当たって作ってもらってはいるみたいなんだ」

 

今までは持たなくとも問題なかったが……大会を試合をする上で安全上、デバイスの所持は必須である。

 

「じゃあ、まずは俺からだな」

 

デバイスが無いなら仕方なし。 ネイトは練習場の中に入り、両手前に出し……左手の平の上に右手の拳を乗せた。そして魔力を込めて放つと……

 

「これは……」

 

イット達の前に氷の大樹が出来ていた。 大きさは周りの木々と同じくらいだが、歯の細部まで作り込まれた彫刻のようなオブジェクトたった。

 

「氷の創成魔法(クリエイト)さ。 俺は氷の造形魔法(アイスメイク)って呼んでいる」

 

「かなり応用が効きそうだな。 しかも発動までの時間も短い……実力は確かのようだな」

 

「では、次は私が……」

 

次にフォンが前に出る。 拳を握り、中指、人差し指、親指を曲げながら立てて構える。 そして一歩前に踏み出し、姿がかき消え……

 

「飛龍円舞!」

 

大樹の周りを一周回り……一瞬で全ての大樹の氷の葉を落とした。 しかも枝を折らず傷付けずにそれを成し遂げた。

 

「フゥ……」

 

「見事。 素晴らしい腕だ」

 

「またキレが上がってんな。 さすがはルーフェン武術の全流派を会得しただけはある」

 

「いえ、まだまだ修行中の身ですよ」

 

フォンは袖を振りながら謙遜するが、贔屓目でみてもかなりの腕前の持ち主である。

 

「最後は俺だな……」

 

入れ替わるように練習場に入り、イットは刀袋から太刀を取り出し、腰に佩刀して抜刀した。

 

「へえ、太刀か。 となると流派は八葉か?」

 

「よく知っているな?」

 

「イットの父君、蒼の剣聖は有名ですからね。 まあ、その太刀が質量兵器だったことには驚きですが」

 

「本来なら押収されていたんだが……特例で許可を得てな。 親のコネを使ったと思われるけどな……」

 

「かもな」

 

ネイトが頷く事にイットは苦笑いをする。 そこは否定して欲しかったが、無理に取り繕うよりはマシだろう。

 

「さて……」

 

一息吐き、氷の大樹の前に立って太刀を納刀し……

 

「孤月……一閃!!」

 

抜刀と同時に横一閃、太刀を振り抜いた。 すると一瞬遅れて大樹がグラつき……大樹は根元から切られて倒木にされた。

 

「お見事です」

 

「はは、お眼鏡に叶えたのなら良かったよ」

 

「ああ、八葉の妙技……確かに見させてもらった。 これならもう1人も期待出来そうだな」

 

拍手を送るフォン、イットは照れ臭そうに頰をかき、ネイトは期待以上と賞賛する。

 

「さて……」

 

と、そこでフォンは振り返り……

 

「そこの物陰に隠れている方、出てきてください」

 

入り口方面にあった木に声をかけた。 それに対してイットとネイトは特に驚かなかった。

 

「なんだ、お前らも気付いていたのか?」

 

「ああ。 始まる前からな。 敵意も無かったから特に気にしてなかったけど……」

 

「明らかにこちらを見ていましたのでね」

 

3人は最初から誰かが隠れている事に気付いており、そして会話が聞こえたのか木の陰から出てきたのは……

 

「あ、あはは……3人とも凄すぎ……」

 

「あなたは……」

 

「ユミナじゃないか」

 

3人のクラスメイトのユミナ・アンクレイヴだった。 ユミナは頭をかきながらバツの悪そうな顔をしていた。

 

「皆がグランド・フェスタに出るって聞いて……ちょっと気になっちゃったんだよね」

 

「ああ、そういえばユミナさんは格闘技のファンでしたね。 ですがグランド・フェスタはインターミドル・チャンピオンシップと違って格闘技とは言い難いはずですが……」

 

「まあ、それはそうなんだけど……私、グランド・フェスタも好きなんだよね。 熱く盛り上がれるから」

 

「それは同感なんだが……何で俺達の後をつけてコソコソと覗き見してたんだ?」

 

「いやそりゃ気になるよ。 我がクラスを代表する実力者2人が転校生と手を組んでグランド・フェスタに出るんだから……気にならないわけないよ!!」

 

「は、はぁ……」

 

相当なファンのようで、ユミナの熱のある言葉に少し3人は気圧されてしまう。

 

「それで、メンバーが2人足りなかったんだよね?」

 

「(どこまで盗み聞きしてたんだよ……)まあそうだが……お前が5人目になってくれんのか?」

 

「無理! 私は見る専だから!」

 

「そう胸を張って言われても……それでユミナさんは何がしたいのですか?」

 

「それは……マネージャーだよ! こう見えて整体施術の一級資格を持っているんだから!」

 

「それは凄いな。 でも……それだけじゃないんだろ?」

 

イットは疑り深い目でユミナを見る。 その視線に気付いたユミナはあははと苦笑いをする。

 

「イット君は鋭いなあ。 実はイット君の事は前から知っていたんだよ。 前からすずかさんに色々と聞いていて……今日はイット君の事を頼むって言われてたんだ」

 

「すずか母さんから!?」

 

「ーー神崎 すずか……氷華の戦乙女か」

 

「その通り名が1番有名だね。 けどすずかさんは医療の方も優秀でね、その関係で私の先生になってもらって指導を受けているんだ」

 

「そうだったんだ……すずか母さんも人が悪い」

 

母のいたずらにイットは嘆息する。 そして後日、残りのメンバーについて話し合う事になり、一旦その場で解散となった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

3人と別れた後、イットは帰路についていた。 だが初日から色々あって気苦労が重なり、イットは少し溜息をついた。

 

「ふあ……編入初日から大変だったなあ……」

 

夜道を欠伸をしながら歩く中、イットは独り呟く。 ただ勉学を学ぶだけの場だと思い込んでいたイットだが……色々と思わぬ方向に進んでいるのを感じていた。

 

と、そうこうしている内に自宅前に到着した。 イットの家……神崎家は中央区の北寄りにあり、学院から徒歩で通学できる距離にある。

 

そして神崎家はかなり広い敷地と、基本的に周りの家と同じ形だが……豪邸と見間違える大きさを誇っている。 イットは門を開けて中に入り、玄関のドアを開けると……

 

「おっかえりーー!!」

 

「グホッ!!」

 

黄色い物体がイットの腹部に飛来し、イットは空気と苦悶の声を出しながら黄色い物体に押し倒された。

 

「ヴィ、ヴィヴィオ……危ないからやめなさいと何度も言っているだろう……」

 

「えへへ」

 

押し倒されたイットの腹の上に跨っていたのは腰まである金髪をツーテールにした紅玉と翡翠のオッドアイの少女……神崎 ヴィヴィオだった。

 

「それから早く降りなさい。 女の子なんだからあんまりはしたない事はするな」

 

「もう、お兄ちゃんとパパにしかやらないから安心してよ」

 

「そういう問題じゃありません」

 

溜息をつきながらイットはヴィヴィオを下ろし、立ち上がると家の中に入った。 そしてリビングに向かうと……

 

「ただいま、なのは母さん」

 

キッチンに栗色の髪をサイドポニーにした二十代の女性がいた。 彼女は神崎 なのは、2人の母親の1人である。

 

「お帰り、イット。 ヴィヴィオ、聴こえていたけど……あまりイットを困らせないの」

 

「はーい。 そういえばパパ達は?」

 

「レン君達はもうそろそろ帰ってくるよ。 晩御飯もそろそろ出来るから早く手を洗って来てね」

 

はーい、と2人は返事をし、

 

イットはダイニングの方に目を向けた。 そこにいたのは……容姿の違う7人の子ども達だった。

 

「行け、ヴァリ丸!」

 

「…………後10分で帰ってくる」

 

テーブルにいる双子の兄妹……黒髪でアホ毛のある兄の悠黎(ユウリ)と、栗色の髪を流している妹のみやび。

 

「……ふぁ〜…………zzz」

 

欠伸をしたらすぐに眠ってしまった金の長い髪を螺旋状に巻いたリボンでまとめている女の子……ラナ。

 

「おりおり、おりおり……鶴、出来たあ!」

 

折り紙を折って鶴を作っている、茶髪を色違いの3本のヘアピンで留めている女の子……めいや。

 

「ロゼ。 メキョッ、だよ!」

 

「め、め……めきょ……?」

 

白い兎のような使い魔……ソエルと戯れている黒のセミロングの女の子……ローゼリンデ。 愛称はロゼ。

 

「………………」

 

静かに読者している紫色の長い髪を一纏めにして肩にかけている女の子……ことね。

 

「……ニシシ」

 

そのことねの背後から、笑みを浮かべながら迫る金髪を後頭部で纏めて簪で留めている女の子……リンネ。

 

上から順になのは、フェイト、はやて、アリサ、すずか、アリシアの子どもとなっている。 これだけでも世間一般から見れば少し変かもしれないが、それに加えて7人の子ども達にはそれぞれ特別な能力を持っているのだが……

 

「ま、それはいいか」

 

「? 何のこと?」

 

「いや、こっちの話ーー」

 

「ただいまー」

 

と、そこで呼鈴が鳴り3人の女性達が帰宅してきた。 黒い制服を着た長い金髪を先端で結んだ女性……フェイト。 茶色い制服を着た肩をくすぐるくらいの茶髪の女性……はやて。 そして部分的に長い髪がある白い制服を着た金髪の女性……アリサだった。

 

「帰ったわよ」

 

「お帰りなさーい」

 

「お帰り。 レン君達は?」

 

「少し遅れて来るよ。 先に晩御飯を食べてくれって」

 

それを聞いたヴィヴィオは少し残念がるが……気を取り直して家族で食卓を囲み、夕食を食べ始める。

 

幼い子ども達がワイワイと騒ぐ中、心配性なフェイトはイットに今日の学校について質問する。

 

「イット、編入初日だけど……何とか馴染めたかしら?」

 

「まあ、少し流されている気もしたけど……何とか。 早速今日、大会に出場してくれるメンバーも増えたところ」

 

「ああ、前に言ってたチーム戦のことやね。 確かメンバーはイットとアルマナックから来た野生児の2人……何人増えたんや?」

 

「2人だよ。 氷使いのネイト・ティミルとルーフェンの拳法使いのフォン・ウェズリー。 2人ともかなりの腕前だったし、チームに入れて良かったと思う」

 

「え……ティミル、ウェズリー?」

 

聞き覚えがあったのか、ヴィヴィオは2人のファミリーネームを復唱した。

 

「ヴィヴィオ、どうかしたの?」

 

「う、ううん、何でもないよ。 ただ……」

 

「ただ?」

 

「私の友達の2人もティミルとウェズリーって言って、すごい偶然だなぁーって」

 

「偶然もまた必然よ。 同い年の3組みの兄妹が知り合った事……運命を感じるわね」

 

「そ、そうかな?」

 

アリサの言葉に、イットは首をかしげるようにご飯を口に入れる。

 

「ふふ……それでイット、残り2人のメンバーは決まっているの?」

 

「うん。 1人は誘う途中で、後1人誰か適任者がいればいいんだけど……」

 

「ーーはいはーい! 私、お兄ちゃんのチームに入りたい!」

 

「ヴィヴィオはまだ基礎がしっかり出来てないから出ちゃダメだよ。 中途半端で出場しちゃったら怪我しちゃうし」

 

「イットもそうだけど、あまり無茶な事はしないでね」

 

「はーい……」

 

フェイトの心配性は筋金入りのようだ。 それを見ていたはやてが微笑む。

 

「まあ、それはそうと……1人、うってつけの子がおるで」

 

「え、本当!?」

 

「うん。 ザフィーラが師範代としてちょっとした道場を開いていてな。 その中の1人にとても強い子がおるんや。 何とその子……レンヤ君の抜刀を会得しているそうや」

 

「父さんの、抜刀を……」

 

集束魔法(ブレイカー)の1つ、抜刀。 基本的に遠距離砲撃しかない集束魔法を刀身に纏わせる事で高い近距離斬撃を出す事が出来る魔法……有名な魔法であるが、習得するのはそう容易ではない事はイットがよく分かっていた。

 

「なら、その子が良ければ誘ってみるよ。 ありがとう、紹介してくれて」

 

「ええんよ、そのくらい」

 

「デバイスの件も問題ないから。 今月中にアリシアから連絡が来るはずよ」

 

「うん、わかった」

 

「ーーさ、お話はそのくらいにして、冷める前に早く食べちゃおう」

 

それからイットは夕食を食べ終え……自室に入るとそのままベットに倒れこんだ。

 

「ふう……」

 

息を吐きながらいつもの天井を見つめる。 その瞳には強い意志があった。

 

(まだ力も、自分の存在意義も見出せていないけど……先ずはグランドフェスタで優勝する。 エディも個人戦のチャンピオンを目指して歩みを進めている……俺も負けてられないな)

 

イットは意気込みを新たにしながら起き上がり、窓に近寄り夜の景色を見る。

 

(やってやるさ。 この身を侵している鬼を乗り越える為にも……俺は、1本の刀となろう)

 

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