ドム呼ばわりは許すまじ(憤怒)
「それじゃ、いってくるね。りそな」
「はい。今の兄に正体バレもなにもありませんが、またいつ男に戻るかも分からないんです。気をつけてください。」
「ふふ、そうだね。りそなが紹介してくれたんだ、その面目を潰すようなこと、したくないし。」
さて、今日からルナ様の元へご奉公です。紹介してくれたりそなの手前、失態を犯すわけにはいきませんし、その上でルナ様のデザインから何かを盗もうというわけですから、決して簡単なことではないでしょう。けれど、やらなければならない事なのですから、腹をくくってやってみせましょうとも。
今日のりそなの機嫌はちょうど真ん中くらい。今日から暫く会えないのだから、どこか気を使ってくれているのかもしれません。本当に、いじらしい妹です。
「りそな。」
「なんです?」
「待ってるよ」
りそなは、大蔵遊星と桜小路ルナに希望を見出だした。ならば、私は彼女に道を示さねば。そう思うと、更に気が引き締まります。…道を示すだなんて、随分と大層な事を述べてしまいましたが、かわいいかわいい天使な妹のお手伝いをしたいのは、兄としては当たり前のことではないでしょうか。姉でも可。
りそなのお見送りもあり、意気揚々と家を出た私ではありますが、やはりなにかとこの身は視線を集めてしまう様子。先日、りそなと一緒に出掛けた日は一人ではなかった事も相まってかそこまで気にならなかったのですが、今は一人で青山を歩いているので、正直恥ずかしい気持ちです。なんだって私を見るのでしょうか、他にも美人さんは山ほどいるのがこの世界だというのに。
「すいません!僕『ファット』って雑誌の者なんですけど───」
「あら、貴方は。」
「───あぁ!君か!妹さんは一緒じゃないの?」
そうして、隙あらば話しかけて来るイケてる髭のおじさんもいる、と。この方はりそなと外出していた時にも声をかけてきた人です。もっとも、その時はりそなが追い払ってしまったので少しかわいそうに見えましたが。今はこんな風に偶然を装っていらっしゃいますが、私が一人であることを確認してからきたのでしょう。雑誌の方というのは、とてもめざといものですから。
「わざとらしい。私が一人でいる事を見てから来たのでしょう?」
「───バレちゃった?いやぁ、どうしても話しかけたくてさ」
「そのように仰って頂けるのは光栄です。しかし、私はもう奉公先を見つけてしまっているものですから…貴方のご期待には沿えませんよ?」
「うーん、そっかぁ。じゃ、写真一枚だけお願いしてもいいかな?」
写真、写真。どうしましょうか。この姿で雑誌に載る、というのはやはりよろしくない事。衣遠お兄様が所謂若者系雑誌を読んでいらっしゃるとは思いませんが、まわりまわって伝わってしまった日には大変な事になってしまいそうです。申し訳ありませんが、ここは断ってしまいましょうか。
「申し訳ありません、ご奉公先にご迷惑をおかけしてしまうかもしれませんので、それもご遠慮願えませんでしょうか?」
「…後生だから、一枚だけ!」
「申し訳ありません。」
「…どうしても?」
「はい。申し訳ありません。」
なんだかだんだんと情けない顔になっていくこの方の顔を見ていると、本当に申し訳なく思ってくるのですけれど、ここはグッとこらえます。ここで頷いてしまったら、本当に危惧した事態になってしまいかねませんから。
「そっかぁ…君すっごくいいから、雑誌に載れば一気に人気出ると思ったんだけど…ま、そんなに断わられちゃ、強引にも連れてけないか。ごめんね、時間取らせちゃって。」
「いえいえ、こちらこそ。」
名残惜し気に去っていくおじさんをしり目に、桜小路ルナ様が住まう桜屋敷へと歩を進めます。あの髭のおじさま、良識がきちんとある方だったようです。実は有名なスカウトマンだったりするのでしょうか?これからの彼の成功を祈りつつ、私は私で進むべき道を邁進するとしましょう。
「かっこいい…きれい…かわいい…!!!」
「お嬢様、あの方はもう行かれましたよ。」
「はっ。あぁ、声をかける機を逸してしまいました…どうしましょう、私、あの方とお友達になれません!」
「道行く人との縁を結ぶというのは、とても難しいことでしょう。またお会いする機会があればいいですね。」
「むぅぅぅ…あんなに純真で、清楚で、なによりかわいい方なんて、それこそアイドルにだって少ないのに…」
後に縁を結ぶ事になるお嬢様が、この時の顛末を全て見ていた事を知るのは、また別のお話です。
実はここで写真を撮られた場合、おつりろ方面へ進行する事になります。