魔王が討伐され、すっかり平和になった今日この頃。
そんな魔王を討伐した俺はというと、二人の女神様に呼び出されていた。それも天界なんて厳粛なとこじゃなく、近くの喫茶店で。
「カズマさんこんにちは。お久しぶりですね」
目の前にいるのはこの世界を司る女神様、エリス様。
みんなが遊んでいる間にも、使われなくなった神器などを回収するなどの本物の女神様だ。
そしてもう一人は……
「先に行っておくわね、カズマ。女の子の頭を叩くのはダメだからね!? それと私は悪くないから怒らないでね……いたっ!?」
仮にもセンパイであるアクアの頭を、エリス様がポコンと叩いた。
こいつ絶対またなんかやらかしたな……
普段は温厚なエリス様が、言い訳をしていたアクアの頭を叩いたのが何よりの証拠だ。
だいたい、なんでエリス様がこの姿のままでアクセルにいるんだよ。そんなによっぽどのことなのか?
やだな……まだなにやるか聞いてねえけどやりたくねえな……
絶対めんどくさそうな顔をしてたであろう俺に、エリス様がこほん!と、わざとらしく咳をしてから話し始めた。
「カズマさん。魔王を倒した貴方にお願いが
「嫌です」
エリス様が何か言う前に、俺はノータイムで返事をした。何事も先手必勝だ。面倒ごとには関わらないぞという姿勢を見せなければいけない。
すると少しの間固まっていたエリス様は、意識を取り戻すとプルプルと涙目になって……
「なんでですかっ! なんでですかっ! まだ私何にも言ってないじゃないですか! どうしてカズマさんはそんなにすぐに断るんですか!」
「いやだって、エリス様が『魔王を討伐した貴方にお願いが……』とかやたら持ち上げて言うし……そんな風に言うってことは絶対めんどくさいことですよね? しかもアクアが関わってるから余計めんどくさいし……」
さっき急に叩かれたから、エリス様を警戒して、よく分からないファイティングポーズをとっているアクアの方を見ながら理由を話す。さっきから何やってんだよこいつ。
「確かに面倒な事かもしれないですが、何も聞かずに断るのはダメですよね!」
「あっ、面倒だって認めましたね! 嫌ですよ、このままずるずる話を聞いてたらいつの間にか俺がやることになってるんだ! 魔王も討伐したからやらなきゃいけないことも終わりましたし! そもそも討伐したんだしエリス様から何かご褒美とかくれても良いんじゃないんですかね!? とにかく、俺はこのままぐーたらな生活をし続けたいんです!」
「お願いごとなら叶えたじゃないですか! あの時カズマさん言ってたじゃないですか!『女神はチートに入りますか?』って!忘れたんですか!」
「恥ずかしくなってきたからこれ以上はやめてくださいエリス様! 」
いまだに、あの時の自分が言ったことを思い出したら、足をばたばたするぐらい恥ずかしくなるからやめて欲しい。
それに、急にアクアが静かになってチラチラ見てくるのが気になる。お前そんなキャラじゃないだろ顔が赤くなってくるからやめろ!
「はぁ……カズマさんは魔王を討伐した勇者という自覚をもっと持ってください。カズマさんはいつからそんなダメな人になったんですか……」
元からです。
魔王を討伐したときも初めの内は騒がれたけど、最近は何もないからなほんと。
むしろ俺が町中を歩いても、アクアの宴会芸の方が人目を集めてるまである。何も変わんねえ……
「カズマさーん、大丈夫ですか? なんで急に元気がなくなりはじめたんですか? 取り敢えず喋りますね。実は先日天界で、ある騒動が起きまして……ほらセンパイ!センパイから言う約束でしたよね!」
エリス様がアクアのわき腹をツンツンと肘で小突く。
すると俺に怒られるのを恐れているのか、アクアが怯えた表情でぽつりぽつりとしゃべり始めた。
「いや最初はね。こんな大事になるとは思ってなかったのよ? ちょっと遊んでたらこんなことになっちゃって……怒らない?」
早く言えよ。
「カズマは宝島って覚えてるかしら? 四神の一柱で甲羅に宝石とかマナタイトとかをつけてたあの亀のことよ」
あんなの忘れろって言う方がむずかしい気がするが。
宝島。それは冒険者の一攫千金のための存在といっても過言ではない生き物。
金の欲にまみれた目の前の女神や、しがない貧乏悪魔と一緒にツルハシで宝石を掘っていたが、最後の最後に爆裂魔法を撃ち込んだんだっけ。
「ああ覚えてるよ。お前が一心不乱にツルハシを振っていた姿もな。それで?」
「それと似たような朱雀っていう不死鳥を、天界で飼ってたんだけどね。その、ええっと……私が逃がしちゃいました……」
こいつ今なんて……っ!?
「最初は私も何なのか知らなくてね? ちっちゃくて綺麗な鳥だなーって思って、檻から出して一緒に遊んでたら、その、逃げちゃって……」
膨らんだ借金の利息を、俺に告白する時と同じ顔をするアクア。
「はぁー!? お前なんてことしてんだよ! あの亀の仲間をお前のミスで逃がしたってか! 最近ちょっと大人しいなと思ってたのに、厄介事を犯さないと気がすまないのかお前は! つか、そもそもなんで天界にそんなやつが……」
「朱雀は元々、玄武と同じようにこの世界に住んでいた神獣です。しかし、朱雀は飛ぶ際に、その翼にある炎を撒き散らしてしまうという性質があるのです。玄武と違い、あまりにも人への被害が大きいため、天界にいる女神と冒険者の方に協力してもらい過去に封印したのですが……センパイが封印を破いてしまったのです……」
エリス様が半ば呆れ混じりの口調でそんな説明を加えてくれた。
するとアクアは納得いかないというような顔で
「まるで私が全部悪いみたいにいってるけど、そもそもあんな誰にも見える場所に置かれてあったのも悪いと思うの! 私だってそんなことになると知ってたなら一緒に遊ばなかったわ……痛いっ!」
一度ならず二度もエリス様に叩かれた。エリス様が怒ってもそりゃ仕方ない。
「確かにあんなところに置いていたのも悪いと思いますが、触っちゃダメって書いてたじゃないですか! 天界も狭いのでわざわざ渾身の封印をかけて私の部屋に置いていたんですよ。それをセンパイが勝手に私の部屋に入って破るから……」
じとーっとした目付きでアクアのことを見つめるエリス様。
後輩からの説教に、少しは罪悪感があるのか、アクアはうぅ……とうめき声を漏らしていた。
魔王を討伐したあと、アクアは一度天界に帰った。
しかし天界に帰ったはいいも、一瞬で帰ってきたアクアは、この世界では見たこともない、それこそ俺でもハッキリと分かるぐらい魔力が莫大に増えていた。
俺が連れて来たときと違い、アクア自身の意思で天界から降りてきたため、信徒からの祈りによる力の伝わり方が違うらしい。よく分からんかったが。
あれがこいつ本来の力なんだろなと思ってたら、魔王を討伐したというのに、なぜかまだ弱い俺を考えてしまい、少し悲しくなった。どうせこいつ宴会芸にしか魔力使わないけど。
だからエリス様がかけた封印も簡単に解いちゃったんだろうか。女神は信者の信仰心がパワーになるらしいが、こいつの信徒は狂信的なやつばっかだしな。
「それで、俺は何をしたら良いんですか? アクアが言った通りならちっちゃいんですよね? それならエリス様たちだけでも何とかなるんじゃないんですか?」
「ええ、最初の大きさなら私たちでも何とかなったと思います」
最初の?
エリス様の言葉に怪訝な顔をする俺に、アクアが説明してくれる。
「不死鳥はね、周りから魔力を吸いとって大きくなる性質があるのよ。私が最初に下界で封印される前の不死鳥を見たときはそれはもう大きかったわ。だからあんなにちっちゃくなってたなんて気づかなかったんだけど……」
「センパイが逃がした時は手のひらサイズだったと思いますが、元々はかなりの大きさです。このままではいつ人に被害を及ぼすか分かりません。しかし私たちだけではどうにもならないので、カズマさんに助けてもらいたいのです」
真剣な表情で、俺の目を見つめるエリス様。
魔王を討伐したあともこの世界のことを真摯に考えてくれるなんて、ほんとにこの人は女神様だな……
「あの、そう言えばその不死鳥は今どこら辺にいるんですか? あまり不死鳥が災害を起こしたなんて聞いたことないんですが……」
もしそんな存在が王都やアクセルにいたなら、俺の耳にも少しは聞こえてきそうなもんだが。
「不死鳥は今、元々魔王城があった付近を飛んでるわ。あそこら辺は魔力がすごいから不死鳥も好むのかもね」
「それに、魔王城の付近は魔界と繋がっている場所もあるので、禍禍しい魔界からの魔力で溢れています。なので不死鳥もその魔力を吸いとって完全にモンスター化しています」
絶対ヤバいやつじゃん、それ。
「じゃあ、どうするんですか。魔王城を攻略した時みたいに、めぐみんの爆裂魔法を連発で撃つとかそんなんしか思い付かないですよ。あれあいつはやりたがるかもしれないですが、負担がかかるんであんまりやりたくないんですけど。あっ、でも倒しちゃったらマズいからダメですかね?」
いくらなんでもモンスター化してるといっても、神獣なんて存在を倒しちゃったら不味いだろう。
すると、若干あきれたかような顔をしながら、アクアが衝撃の事実を口にした。
「なにいってんの。不死鳥よ? いくらめぐみんの爆裂魔法でも倒せないわよ。そもそも不死鳥はどんな攻撃を受けても、ダメージは蓄積するけど死ぬことはないわ。ある程度時間がたったらまた回復するしね。けど方法はめぐみんの爆裂魔法で弱らせて、小さくさせるしか方法はないわね」
話を聞いてるとますます無理な気がしてくるんだが……
玄武と同じ四神の一柱で、魔界からの魔力を吸いとってる? しかも攻撃を受けても決して死ぬことはないとかどんなラスボスなんだよ。
あともう1つ気になることがある。
「小さくさせるってどうするんだよ。爆裂魔法撃ち続けたら勝手に小さくなったりするのか?」
「確かに攻撃しても小さくなるとは思いますが、それだけでは、封印できるまで小さくすることは出来ません。そのために私たちがいるんですよ。その理由についてはまた後日話します」
長い説明を終えたエリス様がはぁ……とタメ息をつく。
まぁ、タメ息をつく気持ちも分かる。だってこれ魔王討伐よりムズいだろ。しかもアクアが逃がさなければこんなことしなくて良かったんだし。
「ええっと、それで、カズマは受けてくれるかしら? このままだと私とエリスで討伐しに行かなきゃならないんですけど……」
申し訳なさそうに人差し指をつんつん合わせながら、俺の方をチラチラ見てくるアクア。
しかし、いくらなんでもこれは……
無理だと告げるか、どうしようかと悩んでいるとエリス様が俺の肩をつんつんと叩いてきた。耳を近づけろっていう合図だろうか? 恥ずかしいんだけど……
合図された通りに顔を近づけると、エリス様はひそひそとアクアにバレないようにしゃべり始めた。
「カズマさん、私からもお願いします。さっき、センパイが逃がしたしまったあと、『このままだとみんなが!みんなが大変なことになっちゃう!』と泣きそうになりながら、ずっと慌てていたんです。センパイのためだと思ってどうかお願いします……」
うっ、それを言われると……
「もし倒してくれたら女神特権でなんでも1つ言うことを聞いてあげますから! どうかカズマさんの力を貸してください……!」
ひたむきにエリス様が頭を下げて頼んでくる。
相手は玄武と同じ四神の一柱で、絶対に死ぬことはなくて、しかも回復魔法持ち。そのうえ飛んでるだけで炎を撒き散らすとんだモンスターだ。
でも、どっちの女神様もこの世界の人のことを真剣に心配してくれていて、でも自分たちではどうしようもないから、へたれな俺なんかにも頼んできてくれて。
なら、選択肢は一つしかないだろーー
「あぁ、もう! しょうがねえなあああああぁぁ!!」
エリス様とアクアがぱあっと晴れやかな表情で俺を見る。
危険な冒険なんてもうこりごりだと思っていたが、こんなに期待されたらやらなきゃな。
「やったぁ!! ありがとカズマ!!! 大好きよ!!!愛してる!!」
「はいはい。分かった。分かった。嘘でも照れるから止めろって。それに無理そうだったらすぐに撤退するからな。同じく俺が死にそうになっても絶対に撤退する」
俺とアクアのやり取りを見て、エリス様が優しげな笑みを浮かべて目を細めた。そんなに俺が受けたことが嬉しいんだろうか。 討伐できるって確証は出来ないんだけど。
「それでは決まりですね。カズマさんが引き受けてくれましたが、他のみなさんにも頼まないといけませんし。一応作戦の説明をしたいので今から皆さんと会いたいのですが」
「そうですね。じゃあ今から屋敷に帰って一緒に作戦会議しますか。なんとかして作戦を成功させなきゃいけませんし。エリス様とのデートのためにも」
俺の言葉にエリス様とアクアがピシッと固まった。
そしていち早くアクアが反応しはじめて……
「ねぇエリス? さっきこそこそと何か喋ってたと思ってたら、そんなこと喋ってたの? まぁエリスもお年頃だし、そういうのに興味が出ても仕方がないと思うけど、今から不死鳥討伐しに行くのにそんなことを話してるのはあまり良くないと思うの。いつから私の可愛いエリスはそんないやらしい娘になったの?」
「セ、センパイ! 待ってください誤解です! 確かになんでも言うことを聞いてあげるって言いましたけど!!そういうことじゃなくてもっと大事な……っ! それにそもそも私はいやらしくありません! あっ、カズマさん! センパイ! 待ってください!お会計がまだで……!あっ、二人とも逃げないでください! 私今1エリスも持ってないんですよ! このままだと私女神なのに捕まってーー」
そのあとアクアと一緒に店を出るふりをしたあと、お金がなくうろたえて、泣きそうになってるエリス様を影から見ていたらバレて怒られてしまった。それも一時間ぐらい。