この不死鳥討伐に祝福を!   作:イチセ

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この不死鳥討伐に作戦を!

 「それでは何か質問がある人どうぞ。はいそこの金髪の人!」

 「どうして僕はここにいるのか聞かせてもらってもいいか……?」

 

 穏やかな天気の昼下がり。

 

 そんな中、俺は女神様たちから引き受けた、不死鳥討伐のために作戦会議をしていた。

 

 「なんでって……暇そうにしてたから?」

 「待て! 僕は暇じゃない! 今日もギルドへ行って何かクエストをやろうとしていた途中だったんだ! それを君が何も言わずに連れてくるから……」

 「いいじゃん、俺たち友達だろ。友達の家に来るのはなんの不思議もない、そうだろ?」

 「まったく気持ちがこもってないような気がするのだが! そもそも僕とキミは友達だったのか!? 友達ならどこかへ一緒に遊びにいったりするものだと思うが……」

 

ミツルギがわんわんと何か喚いている。俺が呼んできたけど、なんかこいつめんどくさい。

 

 「あの、それを言うなら私も何も聞かされてないんですけど……急にめぐみんに連れてこられたから、何をやるかまだ聞いてなくて……」

 

 もじもじと体を小刻みに動かしながら、ゆっくり手をあげるゆんゆん。

 

 「まあまあいいじゃないですか。この前も貴方は屋敷に来たがってたじゃないですか。だから誘ったのですよ。……少し危険な冒険についてきてもらいますが」

 「ねぇめぐみんなんか不穏な言葉が聞こえたんだけど! 危険な冒険って何よ!私そんなの聞かされてないんだけど! 『一緒に家でお茶菓子でもどうですか』って言われてついてきたのに、いったい今から何をやるのよ!」

 

 めぐみんが静かに漏らした言葉に、ゆんゆんがすぐに気づき声を荒らげる。

 

 なんだよ、めぐみんも何も言わず連れてきたのか。まぁ、強いやつがいればいるほど安心だから良いんだけど。 

 

 『このままじゃ、私女神なのに無銭飲食になっちゃう……さ、皿洗いとかしたら許してもらえないかしら……』とお金のないエリス様の慌てふためく姿を、アクアと二人で見物したあと、俺は屋敷に返り、ちょうど、都合良くいためぐみんとダクネスに事の顛末を話した。

 

 最初は二人とも、エリス様のことや不死鳥討伐のことに驚いていたが、だんだんと『再び私の力が活躍するときが来た……』とか『安心してくださいカズマ。不死鳥だろうがなんだろうが我の爆裂魔法の前では灰燼とかします! 』とか言っていた。見事にやる気満々だ。

 最近強いモンスターと闘ってなかったからな。二人とも案外不満だったんだろうか?

 

 そのあと、『さすがに、私たちだけでは厳しいのではないでしょうか? もう何人か仲間を連れてきたほうが良いと思うのですが』というめぐみんの提案を受けて、めぐみんはゆんゆんを、俺はそこら辺に歩いていたミツルギを連れてきた。

 

 連れてくる最中にもミツルギはずっと疑問ばっか言ってきたが、無視した。

 

 「まぁ、二人とも落ち着け。ここまできたらもう了承したも同然だ。大丈夫大丈夫、やることは簡単だって。俺たちと仲良くちょっとしたモンスターを討伐しに行くだけだから」

 奇しくも魔王を討伐しに行った時のメンバーだ。魔王と比べたらちょっとだよ、たぶん……

 

 「嘘です! 絶対『ちょっとした』とかいうモンスターじゃないですよね! そんなモンスターならカズマさんたちだけでも討伐出来ますし! ミツラギさんと私も連れてきてるってことは、けっこう強いモンスターですよね!」

 

 「まぁ君が僕の力を借りたいと言うのなら貸してあげてもいいが……少しはどんなモンスターを討伐しに行くぐらいかは教えてくれないか? それと僕の名前はミツルギだ」

 ゆんゆんとミタラシの意見はもっともだ。

 

 爆裂魔法を撃てたら相手は何でもいい爆裂娘や、モンスターは強ければ強いほど、受けるダメージが増えるから良い! とか言ってるドMクルセイダーと違い、言ったら断られる可能性もあると思ってたから、何も言わなかったんだけど、これ以上隠し通すことは無理そうだ。

 

 ここは正直に言うしかないよな……。

 

 「落ち着いて聞けよ。俺たちは今から不死鳥討伐へと向かう。あの宝島と同じ仲間のやつだ」

 

 俺の言葉に、ミツルギがポカンとした顔をして。

 

 「は、はぁ? 今から不死鳥を討伐しに行く? 君たちと僕で? でも確か、ここ最近何十年も不死鳥は確認されてなかったと思うが……」

 何十年……? あれ、でもエリス様は『私たちが封印したって……』

 

 「カズマさん。ここから先は私がお話します」

 

 困惑してるミツルギとゆんゆんのため、気づいてはいけないことに気づいた俺の代わりに、エリス様が説明してくれた。エリス様もアクアと同じで、やっぱり年齢高いんだろうか?

 

 話としては、不死鳥がアクアのミスで下界へ逃げてしまったこと。不死鳥は特別な能力があり、このままでは皆に多くの被害が及ぶということ。この二つだった。

 

 始めはただただ困惑していた二人だったが、エリス様の分かりやすい説明のお陰で、すべて飲み込めたようだ。

 

 しかし肝心の、この討伐をする原因を作った張本人は、ソファーに寝っ転がって、ゆんゆんが持ってきたお菓子を食べていた。何やってんだよお前。少しは働けよ。

 

 エリス様の説明が終わったあと、指を一つ一つ折り曲げながら、さっきの説明の確認をするゆんゆん。 

 

 「なるほど……では私たちはエリス様とアクアさんのお手伝いをすればいいということなんですよね。うん、それなら大丈夫です。お手伝いさせてください」

 「ありがとう、ありがとうございます……っ! やっぱりゆんゆんさんは優しい人ですね……っ! ありがとうございます……!あと『様』は付けなくて大丈夫です。『さん』付けで構いませんよ」

 

 ニコッとエリス様に笑いかけるゆんゆんに、エリス様がうぅ……と泣きそうになっていた。

 

 エリス様はクリスとしてもゆんゆんと交流があるらしい。ゆんゆんの優しさに弱いんだろうか。

 

 「なるほど、最初は不死鳥討伐と聞いて無理だと思ったが。話を聞いてる限りでは僕でも手伝えそうなことがありそうだな」

 「はいはい、ありがとよ」

 「なんだかエリス様と反応が違いすぎやしないかキミは!?」

 

 ミツルギが相変わらずめんどくさい反応をしてくる。まぁいいやミツルギだし。放っておこう。

 

 「まあ、ありがとな二人とも。正直このメンバーだとまともな攻撃手段がないし、途中でモンスターに出会ったら、パーティー全滅ってことにもなりえないし」 

 

 魔王を討伐していた時、ミツルギは先にアクアと一緒に行っていたから分からないが、俺たちと一緒にいたゆんゆんは、雑魚モンスターを効率良く処理してくれていた。

 

 めぐみんの一度こっきりの爆裂魔法や、そもそも当たらないダクネスの攻撃と違い、モンスターの強さを考えて、最小の攻撃で倒してくれるので、ゆんゆんが討伐に参加してくれることは本当にありがたい。魔剣を持ってるミツルギもそれは同じだ。

 

 「なぁカズマ。ゆんゆんたちが入って来てくれるのは良いんだが、詳細な作戦というのをまだ聞いてないのだが。 私もまだおおざっぱな作戦しか聞いてないし、倒す算段とかはあるのか?」

 

 食っちゃ寝ばっかしてた女神を起こして、一緒に皆の分のお茶を淹れに行ったダクネスが、お茶を配りながらそんなことを聞いてきた。

 

 「俺も詳しいことは分からないんだよな……おいアクアー!あんときはうやむやになったけど、結局どうやって封印すんだよ?」

 

 ダクネスに言われて、しぶしぶゆんゆんとミツルギにお茶を配膳していたアクアに聞く。

 

 「はいお茶よ。温かい内に飲んでね。 えっ、なに、封印? そんなのどーんとやってぱぁーって封印すんのよ。分かった?」

 何も分からねえよ。

 

 こいつはやっぱり雑でダメだ……。やっぱりエリス様に聞かなきゃな……。

 

 そう思い、猫舌なのかふーふーとお茶を冷ましているエリス様の方へ向く。

 

 「あのエリス様。アクアの説明じゃ何も分からなかったんで説明お願いします」

 

 そう言うとエリス様が自身満々な表情で。

 

 「ふふん。作戦は完璧です! まずはめぐみんさんの爆裂魔法でどーんと攻撃! そのあとみなさんの攻撃でドドーンと攻撃して弱らせたあと、私とセンパイでぱぁーと封印するんです!」

 ちょっと詳しくなっただけで何も変わってねえじゃなえか。

 

 けど考えてみたら、行き当たりばったりで、クリスも義賊すること多いもんな。けっこうおおざっぱなところはあるし……。

 やっぱり俺が作戦を考えなきゃいけないのか……。

 

 うーん……うーん……とどうやって倒すのか考えをめぐらしていると、隣に座っていたミツルギが困った顔をしながら、俺の肩をとんとんと叩いてきて。 

 「お、おい、さっきアクア様はお茶と言っていたような気がするんだが、これはどう考えても水じゃないのか? もしかして異世界のお茶は水もあるのだろうか? それとも僕はアクア様に何か試されているのだろうか」

 ミツルギが手元に持っていたコップを見ると、中身は完全に水だった。アクアが浄化しちゃったんだろうな。それぐらい気にすんな。  

 

 でも、ゆんゆんはもう慣れたのか、白湯を『アクアさんこれおいしいですねーどういうお茶なんですかー?』って言いながら飲んでた。今度ちゃんとしたお茶を飲ませてやろう……っ!

 

 俺が目頭を押さえながら、不憫なゆんゆんのことを憐れんでいると、めぐみんがアクアたちの方を向いて。

 「結局、封印はアクアたちに任せて良いのですね? 私はその不死鳥を弱らせるという役、ダクネスは皆から守る役、ゆんゆんとミタラシさんは周りのモンスターを討伐する役、カズマは司令塔。こういうことで大丈夫ですか?」

 

 俺がゆんゆんのことを気の毒に思っている間、めぐみんがあらかたの役割を振ってくれた。こういう時のめぐみんはありがたいなあ……。

 

 「その通りです。封印は私たちに任せてください! あの、センパイ……。封印のやり方って覚えてますよね?」

 一応確認のためなのか、アクアに封印が出来るかどうか聞くエリス様。

 「ふ、封印ねっ! だ、だいじょうぶよ! なんの心配もいらないわっ!ちゃんと覚えてるわよ!」

 

絶対覚えてないだろこいつ……

 

 エリス様は、アクアの返答を聞き、苦々しく弱々しくあはは……と笑っていた。

 天界でもずっとこんな感じだったんだろうか。大変だ。

 

 すると長い付き合いのめぐみんが、アクアの反応を見て機転を聞かせ。

 「ほら、アイリスの屋敷に行った時にアクアがやってたじゃないですか。手を前にかざしながら『封印っ!』って。あんな感じじゃないんですか?」

 

 すると、一瞬心当たりがなさそうな顔をしていたが、アクアはポンっと手を叩き。

 

 「あぁ! あのときの盗賊団のことね! 仮面付けてた男の子と銀髪の男の子が、アイリスのネックレスを盗もうとしてた時ね! 言われてみればたぶんあんな感じね。ありがとねめぐみん!」

 

 

 「お頭!抑えて! 抑えてください! 確かにお頭はスレンダーボディーですが大丈夫です十分女の子です!おっぱいもちゃんと分かるぐらいにはありま、 痛いっ、痛いです! 肘で俺のことを小突くのはやめてください! お頭のおっぱいがちっちゃいのは事実なんですから落ち着いてください! ここで正体を明かしたら、今のあいつはお金ないんで平気で言いますから!まだ懸賞金がかかってますから危ないです! 抑えてください!」

 

 

 

 フォローしたのにエリス様になぜか怒られたあと、めぐみんが話を戻そうとする。

 

 「あの。そう言えば、その不死鳥は今どこら辺にいるのでしょうか。元々魔王城があった付近に今はいると言っていましたが、鳥だからもうすでに他の場所へ飛んで行ってしまってるのではないでしょうか」

 

 それは俺も気になっていた。せっかくあんなところまで行って、結局いませんでしたってなったら絶対すぐ帰る自信がある。

 

 すると、さっきまで顔を真っ赤にして怒っていたエリス様が、こほんっと一度咳払いをしてから。

 

 「確かに、不死鳥は飛びます。でも大丈夫です。不死鳥の性質として私が知っているのは、魔力の多い場所を見つけたあと、いったんそこで定住し、魔力を蓄積します。そしてその後、そこでの魔力の蓄積が終わると、再び新しい魔力を求めて飛ぶということです。そして私たちは、不死鳥がこれ以上被害を増やす前、つまり魔王城付近から飛ぶ前に討伐してしまおうということなんです」

 

 エリス様の説明になるほどとめぐみんが相づちをうつ。

 

 確かに、不死鳥が飛ぶ前にさっさと片付けたないとヤバそうだ。ただでさえ飛んでるだけで炎を撒き散らすのに、そんなのがアクセルとかに来られたらもうどうしようもない。

 

 するとミツルギが気になったことがあったのか、おずおずと手をあげ。

 

 「それなら僕の魔剣で不意討ちしたらどうでしょう。いくら相手が空を飛んでいると言っても、寝ている時に攻撃したらすぐに終わると思うのですが」

 

 こいつの魔剣は確かアクアにもらった神器だったな。ならミツルギの不意討ちですぐに案外弱らせたり出来るのかも知れない。

 

 そんなことを考えていると、エリス様がゆっくりと首を降り。

 「残念ながらそれは不可能です。不死鳥は眠ることがないので、そもそも不死鳥に対して不意討ちをすることが難しいのです」

 

 マジかよ。

 

 「それにもし不死鳥に対して不意討ちをすることが出来たとしても、ミツルギさんの魔剣では、不死鳥を瀕死にさせるほどの攻撃力はありません」

 「そ、そんなことはないはずです! だってこの魔剣は何に対しても切れるとアクア様が……!」

 「それはセンパイの説明が悪いのもあります。そもそも、その魔剣は使用者の魔力の使い方によって切れる切れないが決まります。たいていの物は切れると思いますが、神獣や大悪魔と言った存在になると話は別で、使用者の更なる鍛錬が必要となります」

 

 そうなのか。てっきりあの魔剣ならなんでも切れると思ってたが、神獣レベルになってくるとそうでもないんだな。 

 

 「そうだったのか……なら僕はまだ、この魔剣の力を最大に活かせてなかったということか……」

 

 エリス様の説明を聞いて項垂れるミツルギ。

 

 まぁ、気持ちは分かる。男だったらなんでも切れる剣とかカッコいいもんな。俺も普通に特典がもらえたら、絶対その魔剣にしてるもん。

 

 「だ、大丈夫ですよ! 確かに鍛錬は必要となりますが、その魔剣を極めた者は何でも切ることが出来ます。大丈夫です。信じてください、私が作った物なんですから」

 落ち込んでいるミツルギへ、慌ててフォローするエリス様。

 

 つか、んっ!? 今『私が作った』って……!

 

 「えっ、エリス様が神器って作ってたんですか!? 初耳だったんですけど!」

 

 まさかエリス様が神器を作ってるなんて思ってもみなかった。

 

 「そうよ。知らなかったの? 神器は私やエリスが作ってるのよ? どういうものにしたいかまず決めて、私たちの魔力をたくさん籠めて作るのよ。まぁ最近は私が地上にいるせいであんまり作れてないんだけどね」

 さも当たり前みたいな口調で、そんなことを言うアクア。

 

 すると、エリス様がこしょこしょと内緒話をするように、俺の耳元に囁きながら。

 

 「確かにセンパイも神器を作っていましたが、その、センパイの作った魔道具は変な物が多くてですね……カズマさんに分かるように言えば、聖鎧アイギスやアイリス王女が持っていた入れ替わる魔道具なんかも全部センパイが作ったものです。結局全部私が回収するんですけどね……」

 

 エリス様が過去の苦労をしみじみと語っていた。

 

 そう言えばアイリスの魔道具もやたらと変な日本語が書いてあった。やけに日本に詳しいアクアが作ってたとかなら、確かにつじつまは合う。

 

 しかし、ちょっと気になることが。

 

 「なぁ、アクア。お前今でも神器とか作れたりするのか?」

 「うーん、まぁ、天界に戻ったら作れないことはないわね。それがどうかした?」

 

 ……。

 

 「あの、少しお願いがありましてですね。その、アイリスが持ってた入れ替わる魔道具あるじゃん? あれを作って欲しいなぁ……って」

 「いやよ。だってカズマったら絶対えっちなことに使うもの。誰かと入れ替わってその身体で温泉行ったりするでしょあんた」

 

 図星だった。

 

 「つ、つ、使わねえよ!!! だいたい俺が使うって証拠がどこにあるんだよ!なぁお前らもそう思うよな!」

 

 後ろにいたダクネスたちに、ささやかな希望を持ちながら聞いてみる。

 

 するとダクネスたちはにっこりと笑いながら。

 

 「いや、使うな」

 「ええ、確実に使いますね」

 「カズマさん、その、私も使うと思います……」

 

 三人ともに否定された。

 

 「だから使わねえよ!! ちょっと知ってるやつにお願いするだけで……っ! あれ、どうして目をそらしてるんですかエリス様! やっぱりエリス様もそう思っているということですか! エリス様にもそう思われるのってけっこうショックなんですけど!」

 

 普段の態度を考え直そう、つくづくそう思った。

 

 

 「あっ、お茶がなくなっちゃった……」

 

 手元の水を飲み干したゆんゆんが、そんなことをぽつりと漏らす。

 

 するとめぐみんが憐れんだ目をゆんゆんに向けながら。

 

 「私が淹れてきますよ。アクアに任せたらだいたい浄化されますし……」

 「えっ、いいの!? じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」

 

 嬉しそうにぱあっと顔を綻ばせるゆんゆんと、『はいはい』と適当にあしらうめぐみん。

 

 「あれっ、んん? カズマーお茶ってどこにありましたっけー」

 「ああん? そんなのあの棚に……あれ、ないな……」

 

 いつも、ダクネスばっかりにお茶を淹れてもらってるから、どこにあるかすっかり忘れてしまった。

 

 目の前にあるのは調味料とかそんなんしかない。

 

 二人でここはどうだ、ここになかったかと言っていると後ろからエリス様が。

 

 「お茶ならこの棚にあると思いますよ。はい、どうぞ」

 

 屋敷に始めて来たはずのエリス様が、住んでる俺たちより早くお茶を見つけた。

 

 するとめぐみんは怪訝な表情で。

 「……? どうしてエリスがお茶の場所を知ってるんですか? もしかしてこの屋敷に来たことが……?」

 「あっ、あれー、なんででしょうー! 私始めて来たんですが、何となくで当たっちゃったのかもしれないです。あはははは……」

 

 そう言えばクリスとして遊びに来たときにお茶とか淹れてたな。

 アクアにも散々『ねえねえクリスのお茶ってなんでそんなにおいしいのかしら。私の後輩のエリスって娘ぐらいにおいしいわ。ねえねえもう一杯お願いできるかしら?』とか言われてた。

 

 エリス様も昔はアクアに良くお茶とか淹れてたんだろうか? アクアにおいしい、おいしいって言われて、ドヤ顔でお茶淹れてたし。

 

 でもですね、そうやってみんなが甘やかすからうちの女神が余計働かなくなるんですよ……ほんとあいつ俺以上に働いてないぞ……最近……。

 

 「女神様というのは何でも分かるものなんでしょうか? アクアもたまに勘がすごい鋭い時がありますし。エリスに住んでもらったら、家事が楽になりそうですね。部屋も余っていますし住んじゃいますか?」

 「うーん……最近センパイが帰ってきたといっても仕事がまだまだ残ってるし、いっそ抗議としてここに住んでみてもいいかも……」

 

 女神が二人もアクセルにいたらダメだろ。転生とかどうすんだよ。

 

 「せっかくいるので聞いてみたいのですが、女神の仕事って普段何をやっているんですか? 私もよく知らないので、本物の女神様から聞いてみたいのですが」

 

 するとエリス様の淹れたお茶とお菓子を食べながら、アクアが不満そうな顔で。

 「『本物』ってどういうことよめぐみん。ここにも本物の女神様がいるんですけど……。まぁそうねー、女神の仕事って言えば、死んだ人をどこに転生させるのかを決めたり、それの書類書いたりとかね。あんまりおもしろくないわよ? ギルドのお姉さんたちと案外やってることは変わらないわ。私もすぐに飽きっちゃったし」

 

 ないないと手を身体の前でひらひらと降るアクア。

 

 そんなアクアにエリス様が頭を抱え。

 「センパイ。飽きるのはダメです……。確かに退屈な作業もありますが、この世界の管理も女神の大事な仕事です。人が少なくなりすぎたらいけませんし、転生者の希望に沿ったこともしなければいけません。あとはセンパイがさっき言っていた神器を作ったり、最近は不幸な事故でなくなられる方も少ないので、これから起こる被害を食い止めるのも女神の仕事ですね。といってもそこまで深く関わることは出来ないのですが……」

 

 どこか悲しげな表情をしながらエリス様がそんなことを話してくれる。

 

 自分でも助けたいのに助けられないって言うのは何かしらルールがあるんだろうな。

転生者たちに神器を持たせて魔王を討伐しろって言ったのも、そういった被害を食い止めるためだったんだろうか?

 

 「……そう言えばカズマもどこかから転生してきた人らしいですね。あの時は驚きましたが、今考えてみると、カズマの変に常識を知らなかったことにも納得がいきます」

 「あれは常識じゃなくて、変なんだよ。俺のいた世界じゃ、さんまは畑じゃはえないし、キャベツも飛ぶことはない。俺とミツルギから言うとそっちが変なんだよ」

 「確かに、始めて空飛ぶキャベツを見たときはびっくりしたなあ……食べようとしてもすぐに飛ぶからな……」

 

 ミツルギが遠い過去を、懐かしむように話す。やっぱりこいつも転生者だから分かってくれるのか!

 

 「なあ、そうだよな!あとは始まりの町だっていうのに、薬草取ったり、町の人の依頼を聞いてお金を貯めたり、そんなゲームみたいなことなんて出来なかったし。ファンタジー世界に来たっていうのに、最初はアクアと一緒に土木工事ばっかりだったな……」

 

 過去の苦労を一つ一つ思い出し、二度とやりたくねえなと思っていると、ミツルギが苦笑いしながら。

 「いや、すまない。僕は土木工事とかはやらなかったから……。最初からモンスターとかを倒してたからゲームみたいとは思ったな」

 「俺、やっぱお前嫌い」

 

 そういやこいつチート持ちだから、簡単にお金を稼げるんだった。今は俺の方が金持ちだけどなんか腹立つ……。

 

 「まぁまぁ、カズマさんも今では魔王を倒した勇者じゃないですか。今ではそんなことも甘酸っぱい思い出でしょう?」

 エリス様にたしなめられ、少しそんな気持ちが軽くなる。

 

 いや、待て、そういやずっと聞きたいことが……。

 「今思い出したんですけど、なんで転生したときに所持金ゼロだったんですか。普通なんか初期装備と多少のお金は持たせるべきじゃないですか。俺めっちゃ大変だったんですよ」

 

 アクアにお金持ってるかって聞いても持ってないし。めぐみんたちと出会ってなかったらずっと土木工事のアルバイトしてたんじゃねえか?

 

 「あはは……すみません。当時転生者が多かったから、そこまで手が回らなくって……。昔はちゃんと用意してたんですよ。でもそのあとセンパイがカズマさんに連れていかれたから、仕事が増えて何の対策も出来てないままですが……」

 

 それは、ほんとすみません。

 

 「しかもそのあとセンパイがやり残した仕事の対処や、カズマさんが死んでもすぐにセンパイがわがまま言って生き返らせるから書類を書き直したりするのも大変でしたし……はは……」

 「ほんとありがとうございます!! いやほんとすいませんでした!」

 

 だんだんとエリス様の表情が曇っていく。こう考えたら俺ってけっこうエリス様に迷惑かけっぱなしだな!

 

 しかし、これからは特に死ぬこともないから迷惑をかけることもないはずだ。たぶん。

 

 俺に謝られたエリス様は、恥ずかしそうに小さく笑いながら。

 

 「良いんですよ。それが女神の仕事です。カズマさんは無事魔王を倒してくれたじゃないですか。それに、私も困った時はこうやってカズマさんにお願いするのでどっちもどっちです。それではそろそろ行きましょうか?」

 

 エリス様が俺の目を見てニコッと笑いかけてくる。そんなんされたら惚れちゃうからやめてくださいエリス様!

 

 

 「おーい。準備出来たかー! トイレ行きたかったら行っとけよー!」

 

 不死鳥討伐のための準備を終え、言われた通り屋敷の玄関に集まる。

 

 今回の旅のルートはまずアクセルからアルカンレティアへ行ったあと、そのまま馬車で魔王城の付近まで行くという計画だ。

 

 最初は、めぐみんとよく魔王城へ爆裂散歩をしているらしいゆんゆんに、直接魔王城までテレポートしてもらおうと思ったが、どうやら魔王城への爆裂散歩はめぐみんが飽きてしまったらしく、もうテレポート先からは消してしまったらしい。

 

 なので、非常にめんどくさいがアルカンレティアへよることになる。あそこあんまり行きたくないんだけどな……

 

 特に準備することも少ないので一番に出てきた俺はぼーっとしながら、みんなが出てくるのを待っていた。

 すると準備が終えたのか、みんながぞろぞろと出てきた。

 

 「ねえねえめぐみん。後で一緒に温泉に入らない? アルカンレティアって温泉が有名でしょ? だから一緒に入りたいなぁーって……」

 「……。嫌です。あなたと温泉に入ったら何か負けた気がするので嫌です。エリスとなら入ってもいいです」

 「ねえねえエリス。せっかくアルカンレティアへ行くんだし後で温泉でも回りにいかない? 行ったことないでしょ?」

 「あの、お気持ちはありがたいんですが、その、あそこは変な人しかいないのでなるべくなら早く行きたいです……。それにセンパイと一緒に入ると、何か負けた気がするので、なるべくならめぐみんさんと一緒に……」

 

 二人の純粋さゆえに、無自覚に傷つけられ表情が死んでる二人。まぁ二人ともちっちゃいもんな。

 

 「ふぅ、私も準備できたぞ。ゆんゆんのテレポートで行くのだろう? どうすれば良いのだ?」

 

 一番準備に手間取っていたダクネスが遅れてやってきた。

 

 「みなさーん。それでは忘れ物はありませんね。今からテレポートするので、力を抜いてください」

ゆんゆんに言われた通り、指定された場所にぎゅうぎゅう詰めになって集まる。

 

 女の子に囲まれて良い気持ちだな……とか思ってると、アクアがエリス様に対して。

 

 「ねえねえエリス。もしこれでテレポート失敗しちゃったら天界はどうなるのかしら? 女神が二人ともいなくなったら、絶対大混乱するわよね」

 「洒落にならないですからやめてくださいセンパイ! 私達以外の変わりはいないんですから!」

 「あ、あの大丈夫ですよ。テレポートで失敗することはほとんどないので。それよりもアクアさんはもうちょっと落ち着いて……っ! 本当に事故が起こるかもしれないので……。それでは行きますよー」

 

 ゆんゆんがテレポートの詠唱をぶつぶつと始める。

 

 エリス様たちに頼まれて、ひさびさに冒険をすることになった俺達。

 俺としては正直だらだら過ごしていたいが、やっぱりそうもいかないよな。

 

 それではいざ、アルカンレティアへ!

 

 「では行きますよ! テレポートーー!!」

 

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