目の前に広がるのは、二度と来てたまるかと思っていた町、アルカンレティア。
ーー水と温泉の都、アルカンレティア。
相変わらず町並みは美しく、人がいなかったら毎日でも来るのになあ……と思う景色だ。
「つきましたよみなさん! はぁ、良かったあ……。事故も何もなくて……」
出発前に俺たちがなんやかんや言ってたからなのか、事故がなかったことにホッとするゆんゆん。
その後ろでは、久しぶりに来たのが嬉しいのかキョロキョロと色んなところを見て、落ち着かない様子のアクアとどこかどんよりしてるエリス様。
するとそんなエリス様たちの元へ、女の人がせかせかと近づいてきて……。
「ようこそいらっしゃいましたアルカンレティアへ! 観光ですか? 入信ですか? 冒険ですか? あら、その格好はもしかしてあなたプリーストかしら? ねえねえあなたはアクシズ教徒?これから一緒にところてんスライムを食べる会をやるんだけど一緒にどう?」
「いえ、その、私、エリス教徒でして……」
一瞬の沈黙が流れ……。
「ペッ!」
勧誘してきた女の人が、これ見よがしにつばを吐いた。しかもエリス教徒の女神様の前で。
「知ってました……。この町に来たらこんなことになるんだろうなって……。だってここセンパイの本拠地ですもんね……」
ふふっと自嘲気味に笑い、この町に来てそうそう、死んだ目になっているエリス様。
このままだとこの町から出る頃には、エリス様喋らなくなってたりするんじゃないか?
「ご、ごめんね! みんなも悪意があってやってる訳じゃないと思うの! 後で私がみんなに言っとくから! ほら、元気出して!」
少し罪悪感を感じたのか、未だ放心気味になっているエリス様をアクアが励ます。
そんな女神たちの隣では、めぐみんたちがアクシズ教徒に絡まれていて……。
「あらっ、めぐみんさん奇遇ね! それにゆんゆんさんも!今日は皆でどうしたの?温泉でも入りに来た? お姉さんが背中でも流してあげようか?」
「いきなりなんですか、いらないです! それにどうしてセシリーさんがここにいるんですか! 貴方アクセルの屋敷で最近ずーっとゴロゴロしてたじゃないですか!」
「私だってここに来ることもあるわよ。ちょっとお仕事をゼスタ様に頼まれててね。二人ともアクア様たちと一緒ということは観光?」
どう考えてもあれは俺が知ってるアクシズ教徒だった。何、アクシズ教徒って分身でも出来るの?
「い、いえ。今日は魔王城付近にモンスターを討伐しに行くのでその準備をここで……あのゼスタさんは今いますか?」
「ゼスタ様? ゼスタ様ならどうやって女性服の布地を減らすかっていうことを他のみんなと一緒に教会で話し合ってるわ。せっかく私を呼んだのにこの会議があるからまた後でって言われて暇だったのよ」
「なんですかその下らない会議は……。まあ、いいです。ちょっとゼスタさんに用事があるんですが、連れていってもらえないでしょうか? ですよねカズマ?」
「ああ、うん。あんまりあの人には関わりたくないんだけど……俺のことを変な目で見るし……」
あの人悪魔以外ならなんでも良いのか、俺を見てもよだれ垂らしてたからな。
「別に良いわよ。さっきから暇すぎてどこかお金落ちてないか探してるだけだったし。それじゃ早速行きましょうか?」
「おお! よくぞ来られましたみなさん! これはこれはアクア様も! みなさんお越しいただきありがとうございます!」
教会に着くと、落ち着いた風貌の老人が両手を大きく広げて歓迎してくれた。
「あら、あなたがこの教会の責任者なの? 始めましてね。皆は元気かしら?」
「アクア様のご加護もあって、我ら一同怪我なく元気に過ごしております。本日はどのようなご用件で?」
アクアの言葉に対し、聖職者らしく対応をするゼスタ。この人いつもこんな感じだったらいいんだけどな……。
「今日はあんたに頼みたいことがあって、ここまで来たんだ。この前ゼスタに魔王城まで馬車で運んでもらっただろ? 今日か明日までに、そこへモンスターを討伐しに行くから、そこまでの護衛を頼みたい」
「モンスターですか? はて、最近あの付近ではモンスターなどほとんど見られなかったと思いますが。いったいどのようなモンスターを討伐しに行くので?」
自分の長い髭を触りながら、ゼスタがきょとんとした顔をする。
「知ってるかわからないけど不死鳥ってモンスターだよ。俺も話でしか聞いてないから、いるのかいないのか半信半疑なんだけどな」
「ああ、なるほど……。だからモンスターが……。分かりました、いいでしょう。カズマさんにはアクア様を助けてもらったお礼がある。ぜひともすぐに準備に取りかかりましょう」
良かった……。モンスターを見ただけで、モンスターの方から逃げていくゼスタの力があったら、魔王城までの道のりは格段に楽になる。
正直ゼスタ頼みで行こうと思っていたので、断られなかったことは非常にありがたい。
「ところで先ほどから気になっていたのですが、そちらの男の人とお嬢さんはもしかして……」
ミツルギとエリス様を見てゼスタが訝しむ。
「僕か? 僕の名前はミツルギキョウヤだ。ソードマスターが僕の職業だ。あとこちらの方は、ええっと……」
「エリスです……。アクア様の後輩の女神です……」
先ほどから、ここに来るまでに受けたアクシズ教徒たちのいやがらせによる、精神的なダメージがまだ抜けていないのか、乾いた笑みを浮かべるエリス様。
「おお!やはり二人ともそうでしたか! こちらのやたらとイケメンな方は、王都の冒険者ランキングで3位に入ってるミツルギさんですか! なぜかカズマさんは入っていませんでしたが」
その情報いらなくない?
「それにそちらの方はエリス教徒の女神様ということで。女神アクアと女神エリスは先輩後輩の仲。エリス様も以後アクシズ教徒をよろしくお願いします」
こいつ驚いたりしないのか……。てっきり驚いて床に倒れたりするかと思っていたが……。
いたって真面目な顔で、エリス様にアクアと同じ深い深い礼をするゼスタ。
おかしい。今日のゼスタは普通だ。いや、それでいいんだけど。
エリス様もアクシズ教徒の人に真面目に挨拶されると思っていなかったのか、手をブンブンと胸の前で振り。
「いえいえいえ! 私も普段からセンパイにお世話に……お世話に……あれ、よく考えたらあんまりセンパイにお世話になっていないような……」
「なんでそこでそんな反応するのよ! そこは嘘でもいいからお世話になってるって言うのよ! それに私だってエリスが困ってるときいつも手伝ってるじゃない!ええっと……あれ?」
何もないのかよ。
数えようとしてもまったく思い浮かばなかったアクアを見て、エリス様が頬の傷を掻きながら苦笑いし。
「あはは……。なんかすみません……。でも私はセンパイのことをちゃんと尊敬してますから、これは本当ですよ?」
「そ、そう……? その割には私今日の朝に二回も叩かれた気がするんですけど……。エリスってばけっこう力強いから痛かったんだけど……」
今朝のことを思いだし、アクアが頭をさすりながら、エリス様の言葉に不満気な顔をする。ぽこんって可愛い音してたけど、そうでもないんだな。
「ハッハッハッ、それは私も見たかったですな。ああ、馬車の用意をする前に、エリス様に1つお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「は、はい……! 私が答えれることならなんでも……」
そのエリス様の言葉を聞き、ゼスタが改まって真面目な顔をし……。
「ズバリ! 今日のエリス様のパンツは何色でしょうか!」
エリス様が固まった。
「私としましてはエリス様はやはり白だと思うのですが、やはり黒というのも捨てがたく! 大丈夫です!ちょっとちらっと見せてもらうだけで構いませんから! 我々アクシズ教徒の中でもやはり気になることでして! 出来れば恥じらいながら『も、もういいでしょうか……』とスカートをたくしあげて」
「嫌です!! ちょっとは普通の人だと思った私の気持ちを返してください! やっぱりアクシズ教徒は変な人しかいないじゃないですか! ちょっ、ちょっと! どこを触ろうとしてるんですか!カ、カズマさん! センパイ助けて、助けてください!」
突如暴走しエリス様のスカートを直接めくろうとしたゼスタの頭を俺が思いっきり叩くと、そのあと派手な音をたてながらエリス様にビンタされていた。
けどご褒美だ……とか恍惚な表情で言ってたから、こいつらの精根はたぶんもう治らないのかもしれない。
「カズマ、カズマ! 見てください! この温泉は私が大きくしたんですよ! どうですかこの綺麗な湯ぶねの形! これはまさしく爆裂魔法でしか出せません!」
エリス様がゼスタとやり合っている間、呆れた表情のめぐみんに誘われた俺は、一緒にアクシズ教会の中を散歩していた。
めぐみんがはしゃぎながら、自分が大きくしたという温泉を俺に見せてくれる。
確かにこのデカさの湯ぶねはアルカンレティアでもなかなかない。これだと百人入っても大丈夫とか言えそうだ。
「どう? やっぱり私の妹はすごいでしょ! しかも私ここでめぐみんさんと一緒に温泉に入ったのよ? 羨ましいでしょー!!」
「それはちょっと羨まし……いや待て、お前こんな周りに民家のあるところで爆裂魔法を撃ったのか? どう考えても周りに迷惑がかかるだろ……」
その言葉にぷいっと横を向き。
「いいんです。お姉さんにもちゃんと許可はもらいましたから。それに杖も無しで、威力もいつもより弱めに撃ってあるので、町のみんなに被害を及ぶことはありません! ……今ならもっと大きい湯ぶねが作れそうですね……」
「おいやめろよ。今のお前だと威力もバカ高いんだから洒落にならないからな? せっかく魔王を討伐したのに借金まみれになるとか絶対嫌だからな」
「だ、大丈夫です、し、しませんよ……。しかしカズマ知っていますか? アクシズ教徒にはこんな言葉があります。『犯罪じゃなければ何をやってもいい』という言葉が……!」
なんかめぐみんがだんだんアクシズ教徒に染まってきた気がする。
「お姉さんは別に歓迎よ? 温泉だって、アクア様が浄化してくれた聖水が山ほどあるしね」
「これ以上大きくしてどうすんだよ……。別にここって混浴風呂とかそんなんじゃないんだろ?」
「あら、今は女湯だけどカズマさんなら別に入っても良いわよ? カズマさんは魔王も討伐したものね。そのねぎらいの意味もこめて、今から入っても良いわよ?」
「いや今は別に着替えとかも持ってきてないし良いよ」
今から不死鳥討伐に行くとかじゃなかったら喜んで入るんだけどな。屋敷の風呂もまぁまぁ大きいが、たまにはこれぐらい大きい湯ぶねにも浸かりたいものだ。
ぼんやりとそんなことを考えていると、めぐみんもボーッとした顔で佇んで。
「どうしためぐみん? 入ってもないのにのぼせたのか?」
「いえ、昔なぜかカズマと一緒に、屋敷でお風呂に入っていたことを思い出していたのですよ。あの頃のことがもうずいぶんと昔のように感じるなって思いまして……」
「まあ、そうだよなあ……。あん時は確かちょうど屋敷を手に入れた頃だったよな。懐かしいっちゃ懐かしいな」
悪霊騒ぎでなんやかんやあって、ようやく手に入れた念願の屋敷。
屋敷に住む前は、よく四人で川の字になって、馬小屋で寝ていたものだ。
あの時はあの時で、楽しかった思い出がいっぱいあった……と感慨に耽っていると、横からセシリーが。
「ちょっと待って。なんか二人ともいい感じに感傷に入ってるけど今何か重要なこと言ってたわよね。めぐみんさんってカズマさんと一緒にお風呂に入ってたの? ねえねえどうやって誘ったのかお姉さんに言ってご覧なさいよ!」
「誘ってなんかいません! その時は確かカエルの粘液でぬるぬるで流れでそのまま……」
「そのまま!? そのままいったいカズマさんとどんなぬるぬるプレイをしたの! 恥ずかしがらずにお姉さんに言ってごらん!めぐみんさんが『カズマぁ……一緒にぬるぬるプレイをしませんか……』って言ったの!?」
「言いません!言いませんよそんなこと! お姉さんは私のことをなんだと思ってるんですか! カズマもニヤニヤしないでください! お姉さんがさらに勘違いするじゃないですか! ああもうっ! お姉さんも露骨に落ち込まないでください!あの時は何にもありませんでしたから!本当ですから!」
めぐみんたちと一緒に、温泉を見に行ったあと教会へ帰ると。
「いや、いやあああ!! やめてください! もう、ゼスタさん! もうちょっと自重してください!」
「なぜなのだ! なぜ私には何もしてこないのだ! いや、しかしこの何もされないというのもなかなか……」
ゼスタにうちわらしきものでスカートをめくられそうになってるゆんゆんと、勝手に一人で興奮してるダクネス。
「うっ、うぅ……だからあんまり来たくなかったんですよ……ここに来ても色んなところでパッド詰めてるのかって言われるますし……今はつけてないですし、私だって少しはあります……うっ、わあああああああ……」
「エ、エリス、ご、ごめんね! 今度みんなにちゃんと言っとくから! 言わないでおいてって言っとくから! だからもう泣きやんでってば!ああもうっ。よしよし……元気出しなさい」
この町に来てからずっとアクシズ教徒たちに胸の大きさをからかわれて、我慢の限界が来たのかアクアに泣きついてるエリス様と、その『エリスの胸はパッド入り』というエリス様が泣く原因を作った張本人がいた。
なんでちょっと散歩しただけでこんなことになってんだよ……
荒ぶるみんなに対してどうしようかとうろたえているミツルギを捕まえて、詳しく話を聞いてみると。
「最初はゼスタさんがエリス様とずっと話してたら、突然あのように泣き出して……アクア様が慰めている間、ゼスタさんがあの娘と喋ってて……それで今に至る」
ちょっとはまともになったのかと思っていた俺の気持ちを返せ。
「ふぅ……やはり可愛い娘をいじめるのは楽しいものですね。おや、カズマさんお帰りになったのですか。どうでした、当教会自慢の温泉は?」
「広くて良かったですよ。あの、あんまり俺の連れにセクハラすんのやめてくれないですか……このままだと不死鳥討伐どころじゃなくなるんで……」
「ハッハッハッ、何セクハラではなく単なるスキンシップですよ」
何一つ悪びれる顔をすることもなく、そんなことを笑いながら言うゼスタ。たぶんこいつの存在がもうダメなんだと思う。
「そう言えば馬車の準備ってもう出来たんですか? えらい暇そうな感じですけど……」
「アクシズ教徒は時間ならたくさんありますから。しかし先ほど確認してみたところ少し整備が必要とのことで、馬車はまだ用意出来てません。どうです? このままだとまだもう少し時間がかかりますから、少し町を観光してきては?」
「ほら、もうちゃっちゃと泣き止みなさい。そんなに泣いてたら疲れて後で馬車で寝ちゃうわよ」
「だって……だってみんなが……うぅ……」
未だにぐすっ、ぐすっ……と泣いて、どこか子供っぽくなってるエリス様と、何故かやたらとあやすのが上手いアクアを連れて、町へと赴く。
さっきからエリス様にアクアが優しいのが妙に気持ち悪いが、天界にいる時もこんな感じになることがあったんだろうか。アクアもときどき母性というかなんというかそんなのがある時があるもんな。
「てかもういい加減泣き止んでくださいエリス様。まだちょっと時間ありますのでどっか行きたいところありますか?」
「私はパァーッと温泉にでも入って行きたいわねーせっかくここまで来たもの!」
「はいはい、また今度一緒に来たときにな」
えーなんでよーとあからさまに不満そうな顔をするアクアを無視し、泣き疲れたのかようやく落ち着いたエリス様が。
「そう言えばここにもエリス教会はあるんですよね? なら少しそこへ寄って行きたいです。センパイの町でどんな生活をしているのか気になりますし……」
「なら寄るかー。おいアクア、教会ってどこら辺にあるかお前知ってるか?」
「確かさっきの私の教会と近いところにあったはずよ。あ、ほらほら。あれがそうじゃない?」
二人と喋りながら歩いていると、アクシズ教会よりはこじんまりとした、しかしそれとなく気品が感じられる建物を見つけた。
「ああ、たぶんあれだと思います。中に誰かいるのかな……」
自分の教会だというのに、遠慮がちにエリス様がドアを開く。
「あら、洗礼? それともエリス教徒の方かしら? こんにち……は……」
元気よく声をかけてくれたどうやら一人で掃除をしていたお姉さんが、エリス様の姿を見た瞬間に固まった。
それもそうだろう。なんせ自分たちが信仰してる神様が目の前にいるんだから。アイギスを捕まえる時も熱狂ぶりがすごかったしな……。
「も、も、もしかして、エ、エ、エ、エリス様……っ!?」
信じられないと言う顔で、緊張して呂律が上手くまわっていないお姉さん。
「ふふっ。どうでしょう? 今日はちょっとどのような雰囲気なのか気になっただけですので、秘密にしてくださいね」
エリス様に言われて、お姉さんがものすごい勢いでぶんぶんと首を縦に振る。
すると、そんなお姉さんの姿を見て、どこか自信満々にエリス様が俺たちを見てくる。そうだもんな……この町に来てから、ろくに女神として扱われてなかったもんな……。
アクセルでは、同じぐらい、もしくはそれ以上の神気を持つアクアが隣にいたから、それに紛れてエリス様が来ていると気づかれず。
アルカンレティアではエリス教の女神だとは気づかれるも、それをいいことにセクハラばっかされてたもんな……。けっこうかわいそうだなエリス様。
「あ、あの! 今日はあいにく私しかいなくて……っ! きょ、今日はどのようなご用件で!」
「大丈夫ですよ。そんなにかしこまらなくても。本当に今日は教会の様子を見にきただけですので、いつも通りでいてください」
直接女神と逢えた興奮がまだ収まらないのか、少し前のめりになっているお姉さんに、エリス様が優しい微笑みを浮かべる。
ここ最近エリス様のこういう女神らしい姿を見てなかったから、少し新鮮に感じる。
「ねぇーカズマさーん。ちょっと暇なんですけどー。なんかエリスがずっとお喋りしてるから暇なんですけどー」
「お前は少しは落ち着くってことを覚えろ。今エリス様が女神としての尊厳取り戻してるとこなんだから。暇ならここら辺ちょっと見て回ってこいよ。俺も一緒に回るからさ」
ぶーたれているアクアと共に、初めて訪れたエリス教会の中を探索する。
エリス教会はまさしく俺のイメージ通りの教会だ。
外国の映画とかで出る教会そのまんまだと言ってもいいぐらい。
ただ1つ違うところといえば、エリス様の肖像画が真ん中にどーんと鎮座していることであろうか。
「なあアクア、なんであんなに肖像画と実物が違うんだ? 特にエリス教徒は胸が、アクシズ教徒は頭が」
「肖像画からは頭の良さなんて分からないと思うんですけど……! あんたほんと女神様に対して無礼ね、その言葉エリスに知られたら、洒落になんない天罰くらうわよ?」
それだけは勘弁してもらいたい。
「まあ、あれなんじゃない? 私がここに来るまで、なかなか私達も直接来たことなかったし。だから、肖像画も銅像も想像で描かれてるものがほとんどなんだけどね。けどやっぱりみんなは私のことをよく分かってるわね! みんなはちゃーんと私が神々しくて麗しいって思ってくれていたってことね!」
自信満々に腰に両手をあて、自分の可愛い信者たちをベタ誉めするアクア。
正直アクア自身は『美しい』とかより『天真爛漫で可愛い』とかの言葉の方が似合うと思うが。
アクアは、自分たちのとは違う、見慣れぬ教会に興味津々なのか、至るところに目を向け。
「カズマ、カズマ。これって何かしら? なんか魔道具っぽいんだけど」
アクアが手に持っているのは、美しい色でありながら、透き通っている水晶。
なんだったけなこれ……。どっかで見たことあんだよな……。
アクアが色んな方向からその水晶を見ていると、先ほどの場所から、少しドヤ顔のエリス様とさっきのお姉さんがやって来て。
「それは悩みを相談してもらう時によく使う魔道具です。その魔道具に魔力をこめてもらうと、その人の一番大事にしているものが分かるといったものです」
依然ウィズの店でめぐみんとゆんゆんたちが遊んでいた、過去の恥ずかしい思い出が暴露される水晶と同じ類いのものだろうか。あっちよりは害とか無さそうだけど……。
「よかったら皆さん使ってみますか? こめる魔力といっても一般の方でも使えるよう、ほんの微々たるものですし」
「あら、そう? じゃあいっちばーん!」
何かと珍しいものにすぐ手を出してしまうアクアが魔力をこめていく。
するとすぐに水晶がアクアの魔力で満たされ、部屋一面を光が覆い始め……。
『お酒』
水晶の中にまさかの言葉が表れた。
「アクアお前……」
「センパイさすがにこれは……」
一番大切なものが酒ってお前……。
「ちょ、ちょっとなんでそんな結果を出しちゃうのよ! ち、違うのよ二人とも!? そんな目でみないでちょうだい! 確かにお酒も好きだけど! ああもうっ、ちょっと見てないでエリスもやってみなさいよ!」
女神としての尊厳がすっかりなくなったアクアが、うろたえながらエリス様にやるように急かす。
「ええっと、あまりやる気はなかったのですが……。こう……かな?」
エリス様が手をかざした途端、先ほどと同じように水晶が光り輝き……。
『みんな』
「ねえエリスそんな答えズルいわよ。いつからエリスはそんなにいい娘だったの? そんなの私は認めないわ!!」
「いい加減認めろよ宴会女神。エリス様とは比較にならないから。お前はやっぱり水の女神とかじゃなくてそろそろ宴会芸の女神を名乗れって、な?それにしてもやっぱりエリス様は本物の女神だったんですね……」
「あはは……こうやって分かると少し恥ずかしいですね……」
顔を少し赤らめながら、苦笑いをするエリス様。
なんというか、こうやって気軽に喋っているけど、この人は本当に『女神様』なんだよなあ……
「ねえカズマ、私を見て露骨に残念な顔をするのはやめてくれないかしら。エリスから私を見たらなんだか私薄情者みたいなんですけど。私だってあんな答えが出たのはたまたまで、いつもはエリスとおんなじようにみんなのことを大切に思ってるからね。あっ! なんで今少し笑ったのよ!? ちょっと気に入らないわ! あんたもやってみなさいよ!」
「やめ、やめろってお前! スティールすんぞ!」
スティールという脅しにも屈しず、必死なアクアが無理矢理俺の手を水晶にかざそうとする。
俺もアクアをふりはなそうとしたが、力を間違えて水晶に魔力をこめてしまった。
アクアとしわくちゃになってる間にも、水晶は光を増していき……。水晶の中に出た言葉は。
『仲間』
……。あれっ。
「そうね。私ってばカズマがツンデレさんだと言うことを忘れてたわ。私は金髪ツインテールしかツンデレは認めないんだけど、カズマはもう名誉ツンデレとして認めてあげるわ。けどいつもひどい扱いをされるから忘れかけてたけど、やっぱりカズマさんってなんだかんだいっても仲間思いよね。ねえねえちょっと向こう向いてないでこっち見なさいよ」
「カズマさんはやっぱり素敵な方ですね。ダクネスを望まない結婚から救ってくれたり、センパイを魔王城から救い出した勇者様ですものね。あっ、どうしたんですか、どうしたんですかカズマさん、照れてるんですか? 可愛い反応してないでこっちを向いてくださいよ」
「うるせえ! なんだよ文句あんのか二人とも! 別に仲間が大切っていっても大事にするなんて言ってないし! ちょっ、やめ、やめろお! お前ら頬っぺたツンツンしてくんなって! 恥ずかしいから!」
「ねえねえカズマさん。さっきからふてくされてないでなんか言いなさいよ。もうからかったりしないから。どこへ行くのよ今から」
思わず猛烈に恥ずかしい思いをしてしまった教会を後にして、俺たちは不死鳥討伐のために必要なものを手に入れようとしていた。
「何ってそりゃマナタイトだろ? この作戦自体がめぐみんの連続爆裂魔法ありきなんだから、今から買いにいくんだよ。金もたくさんもってきたしな。たぶん大丈夫だろ」
なるほどっ!とポンと手を打つアクア。
「だから出かける前にせっせと家のお金を集めてたのね。それで? その魔道具店はどこにあるの?」
「確かこっちの方だったと思いますが……あっ、あれがそうなんじゃないですか?」
目の前に見えるのはこじんまりとした、小さな魔道具店。見たところ、ウィズの店と同じぐらいかそれよりも小さい程度だ。
「おっ、たぶんあれだな……名前はっと……よし合ってる。さっさと買ってさっさと教会に帰るぞ、ごめんくださーい!」
ドアに備え付けられた鈴の音が、チリンチリンと店に鳴り響く。
「いらっしゃい! 本日はどのようなご用件で!」
おそらく店主なのだろう、ニコニコとしたおっちゃんが商人らしく明るく挨拶をしてくれ。
「今日はちょっとマナタイトがほしくて……。単刀直入に聞く。この店で爆裂魔法を撃てるぐらいのマナタイトを在庫あるだけくれ」
「はっ、えっ、お、お客さん爆裂魔法ですかい!? 確かにあるはありますけど、少々お値段がは値上がりますよ? お客さんあんまりお金持ってないように見えますが、大丈夫ですかい?」
「大丈夫だよ。金ならけっこう持ってきたから」
そう告げると店主が喜んだ顔をして、せっせと店の奥へとマナタイトを取りにいった。
「カズマさん今のセリフすごい悪役みたいだったわね。ワイン片手に膝に猫を撫でていたら、一流の映画スターよ」
「へいへいありがとよ」
他愛もない話をアクアとしていると、急いできたのか息を切らした店主がすぐに奥から出てきて。
「はぁ……はぁ……。今うちの店にあるのはこれが全部ですね……ふぅ……」
机の上に最高級マナタイトが何十個も無造作におかれる。
「にじゅー、にじゅーいち、にじゅーに……うん、これだけあったら十分なんじゃない? いいわ、こっからここまで全部ちょうだい!」
言ってみたかったのか、どこぞの大富豪みたいなセリフを言うアクア。でも別にお前が出すわけじゃない。
「へっ、へっ、そうですかい! これはこれはありがとうございます! ええっと、それじゃ合計金額は……こんなものですかね?」
店主がさらさら~とペンを走らせ、紙の上にマナタイトの金額を書いて見せてくれる。
そこにかかれてあった金額は……。
「お、おいおっさん。なんか0が1つ多いような気がするんだけど……」
書かれてあった金額は、到底今持っているお金だと足りない金額だった。
「いやいやいや間違っておりませんよ! お客さんが依然どこで買ったのかは知りませんが、最高級マナタイトとなりますとこれぐらいが相場となります!」
あっ、そうか。
以前ウィズの店で買った時は、売れ残ってたどう考えてもアクセルでは売れないやつを俺が買ったもんな。ということはあの時いくらかは値引きされていたってことか……。
今持っている金額だと到底こんな大量のマナタイトは買えない。買えてもせいぜい七個か八個が限度だろう。それでは少し不死鳥討伐に不安が残る。てか一方的にこちらがやられるという可能性も出てくる。
「なに、どしたのカズマさん? お金足りないの? 私がちょっと出してあげようか?」
「いや、いい、いらん。お前が出してくれてもまったく足りないぐらいには足りない。おいこれどうすんだよ、金が足りないとかまったく考えてなかったぞ!」
今からゆんゆんにテレポートしてもらって、銀行に預けている俺の資産を全部引き出してこようかと思ったが、そもそも今日は休みだ。
手持ちのお金はこれ以上用意することは出来ない。
「ね、ねえ、嘘でしょカズマさん。さっきめぐみんに『今からいっぱい爆裂魔法が撃てるわよ』って言っちゃったんですけど。このままだと私めぐみんに絶対怒られるんですけど……。そもそもめぐみんの作戦がないと、ここまで来た意味がなくなっちゃうんですけど……」
それは知ってる。
「どうしましょう、どうしましょう! このままだとみんなが大変なことに……!うぅ、誰か……。お金、お金を誰か……」
帰った時のめぐみんの反応を想像して、サァーっと血の気が引いてるアクアと、あわわ……と落ち着かない様子のエリス様。
これからどうしようかと必死に考えていると、アクアがマナタイトが並んだ机をバンッと叩き。
「ねえおじさん! あなたってアクシズ教徒? それともエリス教徒? 私はアクア! 女神アクアよ! そしてこっちは女神エリスよ! 汝、もしどちらかの宗派であるならば……つけ払いでもいいので売ってください!」
「あっ、私無宗教なんで」
「なんでよおおお!!! なんでこんな町にいてアクシズ教徒じゃないのよ! それにエリス教徒でもないなんておじさんどこかおかしいんじゃないの?」
「セ、センパイ! 落ち着いてください! ここで、もめ事をおこしても何にもなりませんから!」
さすがに何も知らないやつにつけ払いは難しいよな……。
「ねえねえ、あなた本当に私たちのことが分からないの? 無宗教の人でもちょっとぐらいは分かるんじゃないの?」
「確かに女神アクアと女神エリスは知識としては知っていますが……。だいたいこんなところにそんな女神様が来るわけないじゃないですか。それに私宗教というものは胡散臭いものだと思っておりますので。信仰するだけで夢が叶うなら簡単に頭が良くなったり胸が大きくなったりしますかねえ?」
「カズマさん! 放してください! この方はここで少し『教育』する必要があります!」
「そうよ! なんでみんながみんな私のことを頭が悪いっていうのよ! ちょっ、カズマ、放して! 」
「だからどうして二人ともそんな好戦的なんだよ!お前ら女神様だろもっと落ち着いた感じになれよ! それじゃすみませんちょっとまた後で!!!」
「おいダクネスーめぐみんーちょっと話したいことが……」
「どうしてあなたはセクハラしか出来ないんですか! ゆんゆんが泣いてしまったではないですか!」
「おいお前。いくら私でもこれ以上見過ごすことは出来んぞ。……それにそういうことはもっと私にだな……」
狂犬女神たちを引き連れて、いったん教会に帰ると、そこには縄で縛られたゼスタをすごい勢いで怒っているめぐみん、真面目な顔をしつつも時たま興奮しているダクネス、そして床に座って泣いているゆんゆんがいた。なんだよこの地獄絵図……。
「だいたいどうしてあなたたちはそんなことしか出来ないんですか!もう少し世のために役にたったりとかそんなことが出来ないのですか!」
「そんなことを言われましても……。やりたいことはやるというのがアクシズ教徒の教義ですので……。いやはや、縛られたまま、泣いている女の子と怒っている女の子を見れるとはいいものですね」
「まずは話をちゃんと聞いてください! さもなければここに我が爆裂魔法が炸裂することになりますよ!」
どうやら話を聞く限り、ゼスタがまたなんかやらかしたらしい。たぶんこいつもう手遅れだって。
「ちょ、ちょい、落ち着けめぐみん! そんな変態に構ってる暇じゃないんだ! 少しこれからのことで話がある」
「ああ……カズマさんにも変態と罵られた……ああ、ありがとうございますアクア様……」
「お前はもう縛られたまま黙ってろ!」
荒ぶるめぐみんを落ち着けたあと、先ほどあったことをみんなに説明してやる。
「か、買えなかったんですか!? あんなにカズマがいっぱいお金を用意してきたのに……」
「すまん、ウィズたちの店が格段に安いということを忘れてた。今日は銀行とかも休みでテレポートで引き出すことも出来そうにない。……どうしようか?」
「どうしようかじゃありませんよ! 私の爆裂魔法がないとその不死鳥は倒せないのでしょう!? あわわ、でもそんな大金私には……」
討伐に行く前から、クエスト失敗になりそうなことが分かりうろたえるめぐみん。
一瞬ダクネスの家にお金を貸してもらおうかと思ったが、いくら俺だといっても、国の税金を好き勝手に使うわけにはいかない。
「ここはもうあれだ。諦めるしかないってやつだ。というわけでエリス様! あとは観光して帰りますか!」
「嘘ですよね! 嘘ですよねカズマさん! このままだと私セクハラされに来ただけじゃないですか! あの時のかっこいいカズマさんはどうしたんですか! 『しょうがねえなあああ!』って言ってくれたカズマさんはどこですか!」
エリス様がぶんぶんと俺の肩をつかみ振り回してくる。冗談だって……。
しかし、このままだと本当にどうすることも出来ない。銀行が開く日までアルカンレティアにいようかと思ったが、その間に魔力をため終わってどこかへ飛ばれて被害を増やされたらたまったもんじゃない。それこそ俺たちが来た理由もなくなってしまう。
全員がうーんと悩んでいると、縛られたままのゼスタが何故かキメ顔で。
「みなさんお困りのようですね。ふむふむ。なるほど、なるほど……。事情は分かりました。それでは私がなんとかしてみましょうではないですか!」
縄で縛られたままやけにかっこいいセリフを言ってくれるゼスタ。
「ほ、本当か! でも必要な金額がけっこうあるんだけど……」
「ハッハッハッ、それごとき私がなんとかしてみましょう。この町がどこの町か忘れているのですか? 女神アクアを信仰する町ですよ。そのアクア様のお仲間がお困りならば、助けるのが我らの義務です。それにいっぱいみなさんに罵倒されたので、そのお礼もかねて……」
最後に聞いちゃいけない言葉が聞こえたけど、気のせいということにしておこう。うん。
「はぁぁぁ……良かった……。このままだとどうしようかと……」
「危うく行ってもやられちゃうことになりかねませんもんね。良かったああ……」
エリス様とゆんゆんがホッとしたのか、深いため息をつくづくとはく。
「どうです? 二人とも私のことを見直しましたか? 今は縄で縛られてますが、こう見えても私はアクシズ教会のトップなんですよ」
ゼスタの言葉に二人とも顔を見合わせ。
「「いや、それはないです」」
「うっふ……これもなかなか……」
罵倒されて恍惚とした表情をするゼスタ。
ちょっとかっこいいって思ってしまったさっきの気持ちを返して欲しい。
「なあ、そういえば馬車の用意ってもう終わったのか? たぶんそろそろだと思うんだけど……」
「ああ、それなら大丈夫です。もう教会の外に停めてありますよ。今回の馬車は前回と違い、多くの方が乗れるようになっています。それではいきましょうか」
ゼスタが魔道具店へ話をつけ終わったあと。
ゼスタに連れられて馬車が置かれている教会の裏口にみんなで回ってきた。
「おお……でけえ……。おいおいアクシズ教徒って儲かってるんだな」
目の前にある馬車は、一般的に王都で使われている馬車よりもはるかに大きい。
さすがに王族のように竜車とまではいかないが、ただで乗せてもらう上に、ここまで大きいと道中までかなり楽なんじゃないだろうか?
「なかなかこれは大きいな。椅子も王都から取り寄せたやつを使ってるんじゃないか?」
感心したのかミツルギが馬車の色んなところを物色している。
「なんだお前馬車とか乗ったことあんのか? てっきり最初からテレポートばっかで色んなところ行ってるのかと思ってたよ」
「まぁ、確かにだいたいはテレポートだけど馬車も使うよ。テレポートを誰も設定していない場所や僻地は馬車とか歩きじゃないと行くことが出来ないしね」
そういうもんなのか。逆にこいつの方がモンスターとかいっぱい行くから俺たちよりも馬車とかに乗ってんのかもな。
「ねえねえエリス。そこの窓側の席変わってちょうだいよ。私の席だとなんにも見えないから変わって欲しいんですけど。じゃんけんで決めましょうか」
「えっ、ええ、じゃんけんで大丈夫なんですか!?さすがにそれは…… 」
あいつまだ学習してないのかよ。
じゃんけんを終えたあと、『お願いもう一回!もう一回だけでいいから!』と、エリスにしがみついてるアクアを横目に、持っていく荷物の確認をする。
忘れ物はない。必要な道具も無事に全て揃った。
大丈夫。作戦通りにいけば簡単に倒せる。
「それでは皆さん。準備はよろしいでしょうか。行き先は再び魔王城ということで。それでは行きますよ!」
一抹の不安を抱えながら、どうか上手くいきますように……と女神様たちに祈った。女神様たち、隣にいるけど。