「それではみなさんお元気で! またご用のある際は、ぜひともアルカンレティアに!」
「へいへいありがとよ。たぶんもう行かねえと思うけど」
ゼスタに馬車で魔王城の付近まで送ってもらったあと。
やたらとハイテンションなゼスタに対し、別れの挨拶をする。
途中『こんなに可愛い娘がいると、こう、少し興奮しますね……』とか途中馬車から放り出そうかと何回も思ったが、ゼスタがいるとそれはもう楽だった。
あいつのおっかなさはモンスターにも広まってしまっているのか、だいたいのモンスターはゼスタを見るとすぐに逃げる。
一回嘘を感知するあの魔道具で、モンスターに変なことをしたことがないかどうか調査した方がいいと思う。あいつ絶対に鳴るだろ。
「ふわーあああぁぁ……うーん……よく寝たわ……。それにしても馬車って案外寝れるわね。私すぐ寝ちゃったわ。みんなはどう?」
「寝てたのはお前だけだ」
けっこう馬車は揺れていた気がするのだが、図太いアクアはすぐに飽きてしまい寝てしまった。
「それにしても久しぶりに来たな。魔王を討伐しに来た以来か?まさか再び来るとは思わなかったが」
「ああ、そうでしたね。ダクネスはここの爆裂散歩にはあまり来ていなかったですね。私は何回も来ていましたが」
「めっ、めぐみん! カズマさんに怒られるよ!」
なんでもないようにさらっと重要なことを言うめぐみんと慌ててめぐみんの口を塞ごうとするゆんゆん。
あいつらがなにを言っているか分かりたくないけど分かってしまうのが悲しい。
アクセルの付近に手頃な爆裂スポットがもうないため、ちょくちょくゆんゆんのテレポートで魔王城に行っては爆裂魔法を撃っていたらしい。なんで厄介事を自ら起こしにいくんだろう……うちのメンバーは……。
ほんとこれが切っ掛けで魔王軍の残党とかに攻めこまれたりしたらたまったもんじゃない。
俺が怒る意味もこめて、ジトーッとめぐみんを見ていると、その横で気持ち悪そうにしゃがみこんでいるエリス様が。
「カ、カズマさん……き、気持ち悪いです……」
その言い方だと俺が気持ち悪いみたいだからやめて欲しいんだけど。
「どうしたんですかお頭。お頭ってそんなに乗り物酔いとかするタイプでしたっけ?」
クリスの時はあんまりそういうイメージがない。
むしろ嬉々として色んなところに登ったり、つれ回したりしてくるけっこう活動的なタイプだと思ってたから、あんまり乗り物酔いとかするイメージがない。
「この姿でお頭は止めてってば……。センパイにバレたらどうすんのさ……。普段まったく乗り物になんて乗らないですからね……。ちょっと気分が……」
そう言うと、気分が悪そうに三角座りになってうずくまるエリス様。
この辺りは草むらなのに、三角座りなんてしたら服にいっぱい雑草とか付きそうだけど、大丈夫なんだろうか。
エリス様の背中でもさすろうかと思っていたら、横に魔剣に手をかけ、警戒体制のミツルギが。
「な、なあ……。 ついたのはいいが、どの辺りにその不死鳥とやらがいるのかは分かるのか? しかしモンスターが近くにいるのかもしれないのになんでこんなにまったりと……」
「俺たちのパーティーはいつもこんなもんだよ。それにしょうがないだろ、俺もついたら不死鳥が飛んでるかと思ったのに、さっきからまったく気配がしないからどうしようもないんだよ」
そう。さっきから不気味なほどにモンスターの気配がしない。
普通、魔王城に近づけば近づくほど、もっとたくさんのモンスターと遭遇するかと思ったが、逆に近づけば近づくほどだんだんと出会わなくなっていった。
まぁ、モンスターと会わない方が、無駄な戦闘を避けることが出来るからそっちの方がいいんだが……。
「それにしても困ったわねー。私もてっきり馬車に乗ってる間に見つかるかと思ったのに、まったくなーんもないわねー」
そう言うとモンスターのいる場所なのに、ごろんと寝転がるアクア。だから草が服に……。
「私もせっかくこんなにもマナタイトを用意してもらったのに、使えないとは残念です。いっそもうあの壊れかけてる魔王城にでもトドメを……」
「ねえめぐみんっ、なにを考えてるの! これ以上私は怒られるのはイヤよ! やるならめぐみんだけでやって来て!」
いまだにめぐみんが物騒なことを言っているが無視だ無視。
このままだと収集がつかないので、手をぱんぱんと叩いてこっちを向かせて。
「とりあえずここで固まっていてもしょうがないだろ。いったんそこら辺を探索してみようぜ」
少し気だるげな声で、そう提案した。
探索のためアクア、めぐみん、ダクネスと残りのやつとで二グループに別れた俺たちは、まずはと思い、魔王城のすぐそばへ近づいていった。
目の前に見えるのは、ボロボロで、至るところに爆裂魔法の跡らしき穴が空いている元魔王城。
「これはまたすごいことになってんな……」
まあ、こんなのことをやれるのは、百発百中あいつしかいないのだが……。
「あれーどうしてだろうー? なんかボロボロだなー。カズマさん魔王城ってこんなにボロボロでしたー?」
「演技下手すぎやしないかゆんゆん……」
爆裂魔の共犯者がすごい白々そうにしている。
別に毎日爆裂魔法撃ち行ってるのは知ってたからいいんだけどね。けどその尻拭いをするのは何故かいつも俺なんですよ……。
「これは……っ、すごいな……あのウォルバクのよりも巨大な爆裂魔法の跡が……」
そりゃそうだろう。あの時よりもさらに強くなった爆裂魔が毎日のように通っていたんだから。
「しかしここにも何もありませんね……。天界から見たときは、この辺りから莫大な魔力を感じたので、少なくとも痕跡か何かが見つかるかと思ったのですが……」
残念そうにがっくりと肩を落とすエリス様。
目の前に見えるのは、もちろん不死鳥の痕跡らしきものはあらず、あるのはただ爆裂魔法で破壊された魔王城の残骸だけ。
もしかするともう既に不死鳥はどこか遠くへ飛んでいってしまったのではないか。
そんな不安を抱えながら、ボーッと考え事をしていると、近くでふと聞き慣れない声が聞こえ。
「お、おい……もう治まったって本当なのか? 本当にあの爆裂女はいないんだろうな」
「あっ、ああ……偵察してきたやつによると、あの女はここ暫くあの極悪非道な魔法を撃ちには来てないらしい。ああっ!? ここもこんなにボロボロに……」
そこには悲痛な顔をした、恐らく魔王軍の残党が、がれきの中を一生懸命探している姿があった。
俺は潜伏スキルを使い、静かに近づいていき。
「おい。お前ら何してんの?」
肩をポンポンと叩いてみた。
「ひうううぅぅぅ!! 許して!許してください! お願いします命だけはっ、俺たちはただの雑用で……あっ、お前は……!」
やけに怯える残党たちが、俺の顔を見たとたん、戦闘体勢に入ろうとする。
「おいおい、まてまて。別に俺たちは残党刈りに来たとかそういうわけじゃない。だから落ち着けって、なっ?」
正直こんな場所で無駄な闘いなんてしたくない。めんどくさいし。
そう言うと残党たちは少し警戒を解いてくれ。
「そ、そうなのか……てっきり勇者があの女を引き連れて、残党刈りにきたのかと……」
あの女?
「ああ。見たところ今はいないようだな……。本当にあの女のせいで、魔王城は跡形もなくぶっ壊されるわ、俺たちの私物を回収しに行こうと思ったら、ひっきり無しにあの極悪魔法がくるわくるわ……。なっ、なあ? 本当にいないんだろうな? あの爆裂魔法を撃つ頭のおかしいやつはいないんだろうな?」
思い出したくないのか、プルプルと小刻みに身体を震わせる残党たち。
そうか。こいつらってめぐみんがずっと爆裂魔法を撃ってたから、まったく近づけなかったのか。可哀想に……。
「だ、大丈夫だって。とりあえず落ち着けって。今はいないしたぶんもう飽きたからやらないと思う」
「ほっ、本当かっ!? それは信じていいんだな!? ああぁ……良かったぁ……本当に良かった……」
どんだけあいつ魔王軍に恐れられてんだよ……。
まぁ俺も爆裂魔法の恐さは邪神のお姉さんのせいで痛いぐらい知っているので、分からんでもない。
もし俺がこいつらの立場だったとしたら、毎日毎日爆裂魔法が飛んでくるとかたまったもんじゃない。
「そうじゃなくても最近は、急に空が暗くなったかと思えば、空から火の粉が降ってきたり本当ろくなことがないからな……。あの魔法がなくなったことは本当にありがたい……」
空から火の粉?
「おいちょっと待て。空から火の粉? なんだよそれ。ちょっと詳しく聞かせてくれないか?」
「あ、ああ……そんなに気になるのか? しかし俺たちも詳しくは知らないんだが……。最近この辺りで、急に空が暗くなったと思ったら、空から火の粉が降ってくるという怪奇現象が起きているんだ。そのせいもあってなかなか近づくことが出来なかったんだがな……」
間違いない、確実に不死鳥のことだ。
「おい、それっていつぐらいに起こったか分かるか? 最後に被害があった日を教えてほしい。俺たちはたぶんそいつの正体を知ってるし、なんなら今から討伐しに行こうと思っている」
「あれの正体を知っているのか!? しかも倒しに行く!? あれはもしかしてモンスターなのか? しかし最後に被害にあったというなら。ちょうど昨日同じ目にあったぞ。ほら、その辺りの雑草がところどころ黒くなっているだろう? それが証拠だよ」
指を指しているところを見ると、確かにそこには黒く焦げたような後がついている草が。
これで確実に昨日まで不死鳥がこの辺りにいたことが分かった。ならまだ飛び去ってはいないか……?
「ありがとよお前ら。お陰で今までの苦労が無駄にならずにすみそうだ。ありがとな」
「いや、それは別にいいんだが……。しかし、魔王様を撃ったお前に、お礼を言われるというのも少し複雑な気持ちがするのだが……。というかお前一緒に道連れになって死んだんじゃなかったのか? どうやって生き返ったんだ?」
「いろいろあってな。勇者特権で生き返らせてもらったよ。おーいお前らー。不死鳥はまだここら辺にいるそうだ……」
ミツルギたちを呼ぼうと後ろを振り替えった瞬間、突如目の前に神々しい魔方陣が現れ。
「『セイクリッド・ハイネス・エクソシズム』!!!」
エリス様が思いっきり退魔魔法を放った。
「うおおおっっっ! あぶねえ!! なんだよこの魔法! 一発で死ぬぞ!」
魔王軍の残党は間一髪で浄化魔法を避け。
顔面蒼白になりながら、俺の後ろに隠れてきた。
さすがにここまで情報を渡してもらいながら、勝手に浄化するのはよくないだろう。
「ちょっ、ちょっと、エリス様! 落ち着いてっ!」
「はなっ、離してくださいカズマさん! ここで私が根絶やしにしないと!」
「こわ、根絶やしとか怖いんですよエリス様! ミツルギとゆんゆんが引いてますから! ほらっ、お前らもさっさとやられたくなかったら逃げろ!」
魔王軍の残党と別れたあと、あてもなくぶらぶらと城の付近を歩いていたが。
「本当に何もないな……」
まったく何も見つけることが出来ない俺たちは、すっかり途方に暮れていた。
「さっきの彼らの言うとおり、いるのはいるんだろう? それなら根気強く探さないとな」
そうはいってもな……。
さっきから目の前に見えるのは、爆裂魔法のせいで出来たガレキの山と、ところどころ黒くなっている一面に広がる野原。
こう、こんなにもなんにもないと、さっきまで満ち溢れていたヤル気というのもなくなってくる。
「なんかもう歩き疲れた……。そろそろ屋敷へ帰って晩ごはんにでもしようぜ」
周りもだんだんと暗くなってきて、前が見辛くなってきた。
これは早々とアクアたちと合流しないとな……。
「ダメですよカズマさん。不死鳥討伐のために来たんだからもうちょっと頑張りましょうよ。ねっ?」
ゆんゆんが歩き疲れた俺を励まそうと、ふんっ!とヤル気を入れ直してくれる。
たゆんたゆんと揺れるゆんゆんのたわわな部分をじっくりと見ていると、少し元気が出てくるような気がするから不思議だ。
「それでも先程からずっと歩いていますからね……。そろそろここら辺で休みましょうか……」
汗を拭ったエリス様がそう言うと、近くにあった手頃な岩に腰かける。
俺もそれにならい近くの岩に腰かけようと……。
岩ないし……。
どれだけ探してもエリス様とゆんゆん、ミツルギの三人分しか岩がなかったので、なぜか俺だけ草原の上に直に座ることになった。なんか納得いかねえ……。
しかし、もう疲れた。
今日はずっと歩きっぱなしだったからな、さっきから足がもうあんまり動かない。
こんな状態で不死鳥と戦うとか大丈夫なんだろうか。
一回家に帰って屋敷のベットで寝たあと、お酒飲んでゆっくりした方がいいんじゃないんだろうか。
そんなバカなことを考えながら、すっかり暗くなった周りを見渡し。
「おいミツルギ。なんか面白い話しろよ」
「僕!? どうして僕がそんなことしなきゃいけないんだ! イヤに決まってるだろ!」
あまりにも暇過ぎてミツルギを弄るぐらいしかやることがない。
「はぁ……だいたいお前ならちょっとは面白い話があるだろ。ほらなんかないのか? 飲食店でバイトしてたら畑からサンマとってこいって言われたり、人を騙そうとするモンスターを討伐しようとしたら、仲間に散々責められたりとか」
「なんだそれは、むしろキミの話の方が気になるんだが……。なら僕がドラゴンを倒しに行った時の話でも。あの時の僕はだな……」
「あっ、それはいい」
「言えって言ったのは君だろう!」
だってドラゴンなら俺たちも倒しにいったしな。
別に俺はなんにもしてないけど。むしろ俺たちじゃなくて、アイリスだけでやっつけた感はあるけど。
「カズマさん暇なんですか? それなら私が面白い話でもしましょうか?」
エリス様が身体を少し前のめりにし、そんなことを言ってくる。
「エリス様の面白い話なんか、俺にパンツ盗まれるやつしか思い出せないんだけど。それともまた別の人にパンツ盗まれたとか?」
「違いますっ! そんな話じゃありません! それに私はまだカズマさんにパンツは盗まれていません!」
まだって……。けどこの姿のエリス様のパンツを盗むのは恐れ多いからやらないが。
「そうではなくてですね……。せっかく魔王を討伐した勇者がいるので、昔からこの世界に伝わるお伽噺をしようかと……」
お伽噺……?
「ーー昔、昔。あるところに一人の少年がいました。
私たちが与えたチートのおかげなのか、ほんのちょっと闘うだけですぐに強くなる少年は、一人でも十分に凶悪なモンスターともやっていけるぐらいの大きな力を持った少年でした。
冒険者たちはその大きな力を頼りにしながらも一方で恐れ。
少年から仲間に誘おうとしても、畏怖されているせいなのか皆から避けられるようになり。
そして、だんだんと少年は一人ぼっちになっていきました」
どこかで聞いたことがあるような、ないような。
「そんな中、その少年にもある冒険者達が声をかけてくれたのです。
『一人でなんかやってないで、俺たちと一緒にやろうぜ』と。
しかし過去に皆に避けられた経験を思い出した少年はこう言いました。
『チートがあれば仲間なんて必要ない。俺は一人でもやっていけるんだ。そんな安っぽい同情をかけてくるな』と」
まあそうなる気持ちも分からんではない。
「そしてその言葉の通り、天才と呼ばれ一人で戦い続けた少年は、様々なところを訪れ、モンスターを討伐し、さらには魔王の幹部をも次々と倒し。
そしてついには、魔王と対峙し。
ーー圧倒的な力で倒してしまいました。
さてここから少年、いや勇者はどうなったと思いますか、カズマさん?」
エリス様が何か試すような顔で俺の顔を見つめてくる。
そんなのもちろん決まってるんじゃないか?
「そりゃ、そっから皆に祝われたり、国直々にパーティーでも開かれたりするんじゃないんですか? あっ!そういえば俺まだそんなのやってもらってないぞ……」
おかしい……。普通ならそういうのが俺にもあってもいいと思う。
「あはは……。それはまだ皆さんも実感がないというか、カズマさんはいつも宴会ばかりしているというか……」
あながち間違いじゃないから困る。
「おほん。普通ならそう思いますよね。いくら一人で討伐しに行ったとしても、感謝されるだろうと。しかし、現実は違いました。その少年は感謝されるどころか、反対に魔王を討伐するまでの実力を持っている危険人物として見られるようになりました」
……。
「『どうして俺だけがこんな目に。』『なんで俺は誰にも感謝されないんだ』
どこへいっても畏怖の目で見られ、恐れられ。
その状況に嫌気がさした少年は、行くあてもなく、過去の自分の栄光の場所である魔王の城へと向かいます。
『俺はどこで間違ったんだ』『こんなことになるために勇者になった訳じゃない』
そして時が経ち、彼は生まれた子供にある能力を与えます。
せめて自分みたいにはならないようにと『仲間を強化する』能力を。
やがて少年とその子供たちはこう呼ばれるようになります。
『魔王』と
「はっ、えっ!? 魔王っっ!?」
思わずすっとんきょうな声をあげてしまった。
「なるほど……。だからあの魔王も仲間を強化する能力を……。確かにあれは厄介なものだった……」
したり顔で一人納得しているミツルギ。
「そもそも魔王ってチート持ちの冒険者だったんですか!? ならなんで人間を襲うように……」
「それについて詳しくは分かっていません。一説によると、自分を排除したものへの恨みや、魔界からの瘴気に当てられて、いつのまにか悪魔化してしまったことが原因だとも言われています。
私たちも反省してあんなチートは与えなくなりましたが、彼に最初からあんなチートなんかあげなければ。彼がカズマさんのように弱くても。それでもカズマさんのような仲間がいたなら。どうなっていたんでしょうね?」
そこには少し寂しそうな顔をした、たとえ魔王となったものにでも慈悲の心をかける女神様が。
俺がもしアクアを選ばず、あるチートを選んでいたとして。その先はどうなるかは自分なんかには分からない。
けど、ひとつだけ言えるのはあいつを連れ出さなかったら皆とは出会わなかったということだ。
こう考えたらいつも食っちゃ寝ばっかしてるあいつにも感謝しないといけないのかもな……。俺ばっかに迷惑かかってるような気がするけど。
「すみません。なんか暗くなっちゃいましたね。それではセンパイたちと合流しましょうか」
「あっ、カズマさーん! なんか見つかったかしらー」
遠くの方に人影が見えたと思ったら、やっぱりアクアたちだった。
こいつ馬車で寝てたから、あんま疲れてなさそうだな。
「なんも見つかってねえよ。お前たちは?」
「こちらもまだなんにも見つかってないのです。ちょっとはモンスターと遭遇するのかと思ったのですが、まったくそんな気配はなく……。というかカズマはいつの間にゆんゆんたちといたのですか。カズマがいないと私たちなんかすぐに全滅しちゃいますよ?」
「そこはあんまり誇るもんじゃねえ……というかやっぱりそっちもそうなのか」
どこもかしこも不気味なほどにモンスターが見当たらない。
すっかり辺りも暗くなり、互いの顔も見えづらくなってきた。
「なあカズマ。これからどうするのだ? 野宿をしようにも私はなにも持ってきていないのだが」
不安そうにするダクネスに、自分の荷物から野宿のために必要なものを出し。
「ああー、それなら大丈夫だ。一応ほら、こうやって持ってきた。たぶん今日は野宿だろうな」
過去にアンデットに襲われたり、ドラゴンゾンビに襲われたりと野宿にそこまでいいイメージがない。
まあ、今日はそこまでモンスターと会っていないから大丈夫なんだろうか。
「野宿か……。野宿なら僕が見張りをしようか?」
「なに?お前ソードマスターなのに夜目見えたりとかするのか?」
「いや見えないが」
なんでドヤ顔してんだよこいつは。
「役に立たないじゃねえか。なんで言ったんだよ。いいよ、別に暗視スキルがあるから俺が見張るし。けどあと誰か一人ぐらい俺の後ろを見張るやつが欲しいんだけど……」
やっぱり少なくとも見張りは二人欲しい。
万が一の際、すぐにモンスターに気づくために必要だ。
そのために暗視が出来て、俺みたいに眠くないやつを誰か……。
あっ、いるじゃん。
「おいアクア。お前暗視出来てたよな。ちょうどいいや、俺と一緒に見張りするぞ」
「ええっ!? 私? 私もっと寝たいからイヤなんだけど!」
「お前馬車でぐーすか寝てただろ。ほら、うだうだ言ってないで、さっさと火起こしの準備をするぞ」
「カズマさーん。眠いんですけどー。もうちょっと私のお肌のために寝かして欲しいんですけど」
「そのわりにはえらい元気だなお前……」
皆がすっかり寝静まったあと。
パチパチと見える火を見つめながら、夜でもうるさいアクアの声を聞き流していた。
「ねえねえカズマさん。私暇なんですけど。みんなすぐに寝ちゃったから何もやることがないんだけど」
そう言いながら器用に水を出し、遊ぶアクア。
「ちょっ、水が火にかかりそうだからやめろって……。暇なのは俺も同じなんだから我慢しろって」
そう言いながら、ふと気になったことを聞こうとアクアに。
「なあ。お前って魔王のお伽噺って知ってたか? ついさっきエリス様に聞いたばっかなんだけど……」
俺が尋ねると、アクアはポンっと手を叩き。
「ああ、あのお話ね。私も詳しくは知らないけど、エリスに聞いたことがあるわ」
やっぱりアクアも知っていたことだったのか。
「確か元々はチート持ちの冒険者だったのよね。安易に強かったから、みんなに恐れられても期待されて。カズマさんと違って元々も良かったからすぐに強くなっちゃたのよね」
一言いらないような気がするのだが。
「たぶんあの子はひとりぼっちが怖かったんでしょうね。ひとりぼっちってやっぱりツラいのよ。天界にいた頃がそうだったわ。それはそれで楽しいのよ? エリスとか他の子もいたしね。けどね、やっぱり暇だし、日本の漫画読むことぐらいしかやることがないのよね」
アクアがぽつりぽつりと、遠くの暗闇を見つめながら。
「だから私は今が好き。みんながいて、楽しく喋って。そして大騒ぎしたりして。カズマさんに連れ出された時、こうなるとは思ってなかったけど今から考えたら感謝してるわ。あんな姑息な考えで連れ出したのはちょっぴり気に入らないんですけど……」
それは真剣に人が考えていたのに、ポテチ食ってたお前が悪い。
それにあとひとつ。アクアに聞きたいことが俺にはある。
「な、なあ……。それならなんでお前はあの時、あんなに魔王討伐に熱心だったんだ? いや今は別に倒したからいいんだけどさ、急にお前が家出したのはなんでだったのかな……と思ってな」
そう。これはアクアが急に魔王討伐を言い出してから、ずっと気になっていたことだ。
エリス様に天界に帰れると聞いたからなのかもしれないが、まさかアクアがあんな強硬手段に出るとは思いもしなかった。
だから、今聞いておきたい。
「ああ、あれね。……そうね、色々な理由があるわ。エリスに帰れるって言われたこと。ちょうど良く魔王の幹部も減っていてタイミングも良かったこと。あとはあの邪神の信者に恐いことをされたこと……」
アクアの声の調子が少し落ちる。
「まあ、そんなことが色々と重なって自暴自棄になっていたのかもしれないわね。怖かったのよ。またみんなが私にそっけなくなったらどうしようって考えたら。それにカズマは覚えてる?私が『カズマさんは、この世界に送られて良かった? 後悔はしてないですか?』って聞いたこと」
珍しくアクアが物憂げな感じだったからか、それは確かに覚えている。
「それでカズマってばこう答えてくれたじゃない。『後悔なんてしてないさ。ここに来れて良かったよ』って。それでなんか安心しちゃったのよねー。カズマはもう私がいなくても楽しくやっていけるって」
……。
「だから天界に帰ろうって思ったのよ。私がカズマのために出来ることはもうやったから、もう大丈夫かなって。でもやっぱり魔王を討伐しに行く途中で分かったけどね」
「何を分かったんだ? いかに普段の俺が大切かってことか?」
今の湿っぽい雰囲気を打ち破ろうと、冗談っぽくアクアに問いかける。
しかしアクアは俺の予想に反してにっこりとこちらを向いてきて。
「そうね。案外カズマの言う通りなのかもね。カズマだけじゃなくてめぐみんやダクネスも……。もちろんアクセルの皆や私の信者たちも。みんながいてくれるから今が楽しいんだって」
こうやって素直なアクアを見ていると何だか恥ずかしいんだけど……。
「私、カズマたちがわざわざ私のわがままのために魔王城まで来てくれたことがすごい嬉しかったの。色んな準備をして、わざわざあんな遠いところまで来て。そしてカズマもどうせ無理なのに、魔王と一人で闘って。カズマさんらしくカッコ悪く最後には仲良く爆裂魔法で道連れだったけどね」
しょうがねえだろ。あんときはあれぐらいしか選択肢がなかったんだから。
「そして死んじゃったカズマがまた天界に来ちゃって。日本じゃなくてまたこの世界に来てくれて。そして私を選んでくれて。あの時はすごい嬉しかったわ」
優しげな声で、たどたどしくそんなことを言って。
「そうね、だからもう一回ちゃんと。あの時はバタバタしてたからもう一度だけ。けどこれで最後よ?」
かしこまったアクアが体の向きを変え、俺の目を見つめながら。
「ありがとねカズマ。私カズマと一緒にいられて良かったわ。これからもお願いね?」
屈託のない笑顔で言った。
「おおお、おう! ま、まあな!魔王を倒した勇者のカズマさんだからな!それぐらいなんでもねえよ!」
いったい俺は何を言っているんだ。アクアの笑顔にやられて、上手く今の気持ちを言葉にすることが出来ない。
「なになに。カズマってば珍しく照れてるのー? もうっ、普段からそんな感じだったら良いのに。さっきから顔が真っ赤よカズマさん」
「う、うるせえ……。いちいちそんなこと言わなくていいんだよお前は……お前もほんと、そういうのやめろって……っ、心臓に悪いんだよ……」
めぐみんやダクネスと同じく、急にそんな顔を見せてくるのは本当にズルいと思う。
「はいはい。分かった、分かった。もうしないってば。あーもうっ、なんかカズマさん見てると私も恥ずかしくなってくるじゃない。もうこの話はおしまいっ!」
さっきまで俺を見つめていたアクアがぷいっと横を向く。
素直なアクアと接していると、やはりいつもと調子が合わない。
俺もどういう態度をとればいいのか分からなくなって、ついついぶっきらぼうな反応になってしまう。
お互いに流れるこっ恥ずかしい雰囲気をなんとかするため、とりとめのない話をアクアにしようかと思うが、上手く口が動かない。
落ち着け……こういう時は周りの風景を見るのが一番だ。
そう思い、深呼吸をしてからすこし明るくなってきた周りを見渡す。
もう少しで日の出がくる。
ほとんど寝てはいないが、正直討伐の作戦にはほとんど俺は必要ないし、アクアも馬車でたくさん寝ていたから作戦は大丈夫だろう。
そろそろ皆を起こすか? と思うと、俺の敵感知スキルに少し反応があった。
「おいアクア。お前の見ている方向になんかモンスターの気配がするんだがなにか見えないか?」
「えっ、なによ。モンスター? 今日私一匹も見ていないんですけど」
そうなのだ。今日はモンスターとまったく遭遇していない。
「どうせあれなんじゃない? アンデットとかそういう類いのモンスターでしょ。特に今日は私だけじゃなくエリスもいるしね。そんな神々しいところにアンデットたちが集まっても仕方がないわねー」
まるで他人事のように、髪を触りながらアクアがそんなことをいう。
アンデットって……もしこの前みたいにドラゴンゾンビとかだったらどうすんだよ……。
万が一のことを考え、ぐっすりと眠っている皆を起こそうと体を揺らす。
「おい、緊急事態だ。起きろ。モンスターが近づいてくるかもしれん」
ユサユサと近くにいためぐみんの体を揺らす。
「うぅ……もうそんなには撃てませんよぉ……」
ぶつぶつと危ないことを言っているめぐみん。なんだこいつ全然起きないんだけど。
一人より二人で起こした方が早そうだ。とりあえずすぐに起きそうなやつを起こして、そいつに他のやつを起こすのを手伝ってもらうようにしよう。
そして近くにいたゆんゆんの体を揺らし。
「おいゆんゆん。起きろって。お、おお……これは……」
ゆんゆんの体をゆさゆさと動かすたびに、ゆんゆんのたわわな部分もゆさゆさと動く。
なんだこれ……めちゃめちゃ楽しいっ!!
ゆんゆんのたわわな部分を揺らすのに夢中になっていると、後ろから冷ややかな声がして。
「ねえカズマさん。さっきからいったい何をしているのかしら。さっき私があんな感動的なことを言ったのにカズマの頭の中はそんなことしか考えてないんですか?」
アクアの声がめちゃめちゃ怖い。ドスの聞いてる低い声でめちゃめちゃ怖い。
これ以上は洒落にならなさそうだと思い、あとは真剣に起こすことにした。
「中途半端に寝たから眠いです」
野宿してた場所から逃げてる最中に、不満そうな声のめぐみんがそんなことをぽつりと漏らす。
「しょうがないだろ。モンスターがいるかもしれないんだから。俺だって眠いけど極力モンスターと戦いたくないから逃げてんだよ」
そう。不死鳥と戦うこと以外には余計な体力は使いたくない。
不死鳥がどんなモンスターなのか分からないのに、無駄な戦闘をするのは本当に避けたい。
逃げている最中も周りに十分気を付けながら逃げていると、また自分の敵感知に反応があり。
「おい待て! また敵感知に反応があった! ちょっと注意しながら歩こう」
「はぁ……昨日とは違ってまたモンスターですか……。けどそこまで注意する必要はないのではないですか? うちのグループには便利なゆんゆんや魔剣の人もいるじゃないですか」
「ね、ねえめぐみん……今私のこと便利って言った……?」
「言ってません」
めぐみんとゆんゆんの会話を受け流しながら、どこに敵がいるか探してみる。
すると前方から、徐々に反応が近づいてきて……。
なんだこのモンスター……まるで何かから逃げているみたいな……。
そしてじっくりとモンスターの動向を探っていると、急に敵の気配が消え。
「おいなんかさっきからおかしい。急に敵感知が使えなくなった。なんかすごいイヤな予感がする」
「それってカズマさんの魔力が切れたとかそういうことではないんですか?」
エリス様が不安そうに聞いてくる。
「いや、それはあり得ない……。というかさっきから目の前に見えてるのってそうか?」
目の前の小さな黒い点々がどんどんと大きくなってくる。
やがて姿がぼんやりと見えるようになったかと思うと……。
「ねえねえあれって初心者殺しなんじゃないの?」
この中で一番視力のいいアクアが、モンスターの正体を当てた。
「なんですか。初心者殺しですか。それなら全然大丈夫じゃないですか。ほらこんなときこそゆんゆんの出番ですよ。さっさと雑魚をやっつけてください」
「なんで私だけなのよ! めぐみんもなんでそんなに偉そうに腕を組んでるのよ! 別に初心者殺しぐらい一人でも討伐できるけど」
ゆんゆんがそう言うと、魔法の詠唱を始める。
そんな中、俺はと言うと、千里眼のスキルを使って、アクアの言った通り初心者殺しなのか確認する。
確かに正体は初心者殺しだった。
しかしなんで周りに雑魚のモンスターを連れずに、こんなところで、しかも怯えたように逃げているんだ……?
あのモンスターは非常に狡猾なモンスターだ。こんな何も隠れる場所のないところで走るようなモンスターじゃない。
いつもと違う初心者殺しの様子に違和感を感じていると、ゆんゆんが魔法の詠唱を終えたのか、遠くの初心者殺しに杖を傾けて。
「『カースド・ライトニング』!!」
黒い稲妻が初心者殺しに突き刺さった。
しかし初心者殺しは血を流しながらも、俺たちの方へ走ってきて……っ。
「ヤバイヤバイヤバイ!このままだと俺たちに当たるぞ!!!」
「どうしてあなたは一発で仕留められないのですか!! ああもうっ、とりあえずなんとかしてくださいよ!」
「だからなんでめぐみんがそんな偉そうなのよ! めぐみんなんかそもそもあんな速いモンスターに爆裂魔法なんて当てれないじゃない!」
「おい二人とも! 私の後ろに下がるんだ!」
言い合いをしているめぐみんとゆんゆんに、ダクネスが盾になるために前に立つ。
「さぁこい! 私が攻撃を受け止めてやる!」
その間も初心者殺しは一直線に俺たちの方へと向かってきて……っ!
そのまま俺たちの横を走りさっていった……。
なんだったんだ今の……。なんで攻撃されたのにあの初心者殺しは逃げたんだ……?
呆気に取られた俺たちは何となくダクネスの方を見て……。
「ダクネスってば今のかっこ良かったわね。今のはすごい本物のクルセイダーみたいだったわよ。モンスターは来なかったけど」
「そうですね。今のは頼れる私たちのクルセイダーダクネスでした。攻撃はされなかったですが」
「やめ、ちょっと恥ずかしいから二人ともやめてくれないか……」
ダクネスの顔が真っ赤になっていた。
ダクネスに少し同情を覚えていると、魔剣を構えていたミツルギが俺に向かって。
「いったいなんだったんだ今の初心者殺しは。完全にいつもとは様子が違うかったんだが。キミはどうみる?」
どうみるって言ってもなぁ……。
「分からんが正解だ。俺もてっきり仕返しに攻撃されるかと思ったら、すぐに逃げたし……。ただ完全に様子がいつもと……あれ、おいなんだよこれ」
急に空が暗くなった。
まるで何かの影の下に自分たちがいるようなそんな感覚……。
そしてふと横を見るとアクアやめぐみんたちが、あんぐりと口を開けながら空を見上げていて。
「カ、カ、カズマ……あっ、あれが……」
震えた声で空を指差していた。
「ああん? なんだよ皆して。なんでそんな驚いたような顔……っ、を……」
空を見るとそこには、空一面を覆う、神々しく雄大と羽ばたく神獣の姿が。
まるでそれは夢の中の幻想的な光景で、空が七色に輝いていた。
そして俺はその姿を見て叫ばずにはいられなかった。
「でけえよおおおおおおおおおおおおおおお!!!」