この不死鳥討伐に祝福を!   作:イチセ

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この不死鳥討伐に祝福を!

 「ああああああああぁぁ!! あんなにデカイなんて聞いてねえよおおおお!!!」

 

 意気揚々と不死鳥討伐に来た俺たちはというと。

 

 空から降ってくる火の粉、いや炎から逃げ回っていた。

 

 「カズマさん! あれは私たちには無理だわ! ええ無理よ! いっそ潔く逃げましょう!」

 「何言ってるんですか! センパイがあれを逃がしたんでしょ! 一緒に封印してくれるって約束だったじゃないですか!」 

 「だって私が逃がしたのはもっと手のひらサイズだったのよ!? ちょっとは大きくなってるとはいえ、あんなに大きくなってるなんて誰が思うのよ!?」

 

 エリス様とアクアが逃げ回りながら言い合う。

 

 悠々と空を飛んでいる不死鳥は、宝島と同じくらい、いやそれ以上のサイズだ。 

 

 まるで空に巨大な山が浮いている感覚。

 

 アクアの言う通り、魔力を蓄積してるから大きくはなっていると言っても、ここまでの大きさは想像していなかった。

 

 ひたすら落ちてくる炎を避けることしか出来ない俺たちに、後ろから慌てたミツルギの声がして。

 「お、おい! サトウカズマ! いったいどこまで逃げているんだ! このままだと攻撃することが出来ないぞ!」

 

 こいつ、まさか戦う気なのか!?

 

 「何言ってんだお前! 俺たちは走るだけで精一杯なんだよ! お前もどうせ攻撃出来ないだろ! いったん帰って作戦練り直しだこんなの!」

 

 確かに討伐するとは言った。

 だがそれはあくまでも倒せそうな場合のみ。

 

 これは無理だ、うん、無理。

 

 落ちてくる炎を避けながら、何とかして不死鳥の範囲内から脱出しようとしていたら、後ろから聞き覚えのある、不穏な詠唱が長々と聞こえ。

 

 「カズマカズマ! 爆裂魔法が完成しました!撃ちますね? 撃っていいですよね?」

 

 めぐみんの杖の先が爛々と光輝いていた。

 

 「バカかお前! なんでなんにも作戦が決まってないのに完成させちゃうんだよ! ほら、ポイしろ! 早くそれをポイしろ!」 

 どう考えても、今はそんなことしてる場合じゃないだろ! 

 

 しかし、俺に怒られためぐみんは納得いかなさそうにぷくーっと頬を膨らませ。

 

 「こんなところでポイ出来るわけないじゃないですか。フルパワーで詠唱したので、ここにポイしたら辺り一面爆発しますよ? それでもいいんですか?」

 「良くない! そうじゃなくてとっととそれを何とかしろ!」

 

 まったく! 最近少しは言うことを聞くようになったと思ったらこれだよ!

 

 俺に怒られためぐみんは、目を紅く光輝かせ。

 

 「ああ、なるほど……そういうことですか、分かりました……。それではカズマの言う通りポイしますね」

 

 そう言い、めぐみんが杖を向けた先は……。

 

 「宝島の時は中途半端な爆裂魔法しか撃てませんでしたからね。あの時は少し消化不良だったのですよ。ああ……何度神獣に爆裂魔法を撃つ夢を見たことか……。それではいきます。不死鳥よ、我の爆裂魔法を喰らうがいい!『エクスプロージョン』!!!!!」

 

 撃ちやがったこいつ!!

 

 「お前は人の言うことが聞けないのか、ああん!? 誰があれに爆裂魔法を撃てって言ったんだよ!」

 

 すっきりした表情のめぐみんの頬を思いっきりつねる。

 「いたい、いたいですよやめへください!だってカズマがポイしろって言ったんじゃないですか。だから言うとおりにしてポイしたんですよ。不死鳥に」

 

 そういうことじゃない!!

 

 幸い不死鳥には爆裂魔法は利いているのか、明らかにさっきとは動きが違い、よろよろと飛んでいる不死鳥。

 

 とにかくこの間に逃げなければ……っ!

 

 ふたたび走るスピードを早め、安全な場所へと逃げようとする。

 すると後ろから、アクアの緊迫した声が聞こえ……。

 

 「カズマカズマ! めぐみんのバカなこと聞いてないでちょっと上を見て! ヤバイわよあれ! 魔力が尋常じゃないわ!」

 

 アクアに言われた通り、空を見上げると……。

 

 不死鳥の口に炎がみるみるとたまっていく。

 それはいかにもファンタジーのような風景。

 

 あっ、あれはヤバイ。

 

 アイリスが必殺技をドラゴンに放った時やめぐみんが爆裂魔法を撃つときにすごく似てる。

 巨大な魔力に肌がチリチリとする、そんな感覚。

 

 「あ、あのカズマ……あれから我が爆裂魔法と同じぐらいの魔力を感じるのですが……」

 

 周囲の大気から魔力を集めているせいなのか、周りの空間が一瞬ぐにゃりと歪む。

 

 それは俺でも分かるぐらい、莫大な魔力。

 

 あれはヤバイ、長年色んな敵と戦ってきたが、あれが一番ヤバイ気がする。あいつ俺たちを一掃する気だ。

 

 莫大な魔力に見とれて、みんなが立ち止まった瞬間。

 

 空高々と飛んだかと思うと、俺たちの方を向いてきた不死鳥は。

 

 

 「コオオオオオオオオ!!!!」

 

 

 巨大な火の玉を放ってきた。   

 

 

 

 

 にげっ……!

 

 「おおおおおおお!!! ヤバイヤバイ! このままだと全員黒焦げになる!!!」

 

 あれは洒落にならん! このままだと全員全滅の可能性が出てくる……っ!!

 

 「何とかしてくださいよカズマ!! あれを食らったらさすがのダクネスでもヤバイです! なああぁぁぁあ!!!」

 顔面蒼白になりながら逃げ惑う俺とめぐみん。

 

 不死鳥と俺たちは距離があるから、攻撃が届くまでまだ時間があるけど、それも時間の問題だ!

 アクセルしか飛ぶ場所がないが、テレポートするしか助かる手段がねえ!

 

 そう思い、他のみんなの手をとろうとした途端。

 

 

 「『セイクリッド・クリエイト・ウォーター』!!!」

 

 

 ぶつぶつと詠唱をしていたアクアが、火の玉と同じぐらいの水の塊を放った。

 アクアが放った水は、不死鳥の炎を相殺してくれて。

 

 なんとか助かった……。 

 

 「ナイスアクア! お前が魔法で役にたったとこなんて初めて見たぞ!」

 「ひと言要らないのよ! 私いつももっと役にたってるから! それよりもう一発くるからあれをなんとかしなさいよ!」

 

 珍しく役に立ったアクアに感心していると、確かに不死鳥がもう一発火の玉を放ってきて。

 

 「はああああああああぁぁ!!!」

 

 今度はミツルギが、火の玉を真っ二つに叩き切ってかき消した。

 

 こいつやっぱチート持ちなだけあるな……。俺もやっぱりあんなチート欲しいんだけど。

 

 ふと周りを見渡すと。

 

 不死鳥が攻撃をしている間、ぶつぶつと何かの魔法を唱えているエリス様が。アクアと同じ支援魔法か何かなんだろうか?

 宗派によって支援魔法は何回もかけれるらしいから、これ以上守りは大丈夫だろう。

 

 そしてその後ろでは、エリス様の支援魔法をかけられたダクネスが前線に立つ。

 攻撃もゆんゆんが何回か上級魔法を使っているし、何より最大の攻撃役であるめぐみんがまだ何個もマナタイトを持っている。

 

 これってもしかするといけるんじゃないか?

 

 最初はなんてバカなことをしたんだって思ってたけど、案外勢いで行けそうな感じがある。

 

 というか俺のやることがほとんどない。立ってるぐらいしかやることがない。 

 

 「おーい。俺ほとんどやることないんだけど何かやることある? ほら、勇者らしいもっとかっこいいこととか……」

 「やること? なら私と役割変わって……いやカズマさんには無理だったわね。あんた飛んでる敵に攻撃出来る手段とかあるの?」

 「いや、一応弓とか中級魔法があるけど……あんなデカイのに撃っても効くかどうか分からんからなぁ……」

 

 

 一瞬の沈黙のあと。

 

 

 「……あんたって本当こういうとき役に立たないわよね。まあそれがカズマさんなんですけど……」

 

 役に立たないってお前……。

 

 しかしこの状況で、威力の弱い弓や俺の魔法を放ったところで、不死鳥に効くわけないからなぁ……。

 

 依然として、俺たちには珍しく、攻守共に上手くいっている。

 

 「カズマカズマ! 見ていてください! 二発目撃ちますね!!」

 嬉々として、ふたたび爆裂魔法の詠唱をするめぐみん。

 

 本来こいつは詠唱しなくても撃てるはずなのだが、詠唱してるということはやっぱりこいつにとっては余裕なのかもしれん。

 

 ふたたびめぐみんの周りに、莫大な魔力が集まっていき……。

 びりびりと大気が震え、肌がチリチリするようなそんな感覚。

 

 

 そしてめぐみんが一呼吸したあと。

 

 

 「『エクスプロージョン』!!!!!!!」

 

 

 爆裂魔法が、もう一発不死鳥に突き刺さった。

 

 苦しそうに不死鳥が呻き声を漏らす。

 

 飛んでいる敵だってのに、よくもこんな簡単に当てることが出来るな。

 

 「ふぅ……。この前はただの結界でしたが、モンスターともなるとやはり当てるのに集中する必要がありますね……。どうです? まだマナタイトはありますので、カズマも一発撃ってみては?」

 手元に持っている高級マナタイトを渡そうとしてくれるめぐみん。こいつにとっては珍しい。

 

 けど、俺が使ってもなぁ……。

 

 「いや、いいよ。どうせ俺が撃ったところでたいした威力にならないし、あんな遠いところで飛ばれてたら俺じゃ当てれないしな」

 「そうですか……私もカズマの撃つところを見てみたかったのですが……」

 

 当てれるとしたら、ギリギリまで不死鳥に近づいていったあと、真横で爆裂魔法を撃つぐらいか。

 

 もちろんそんな状況だったら、よっぽどのことじゃない限り、あの時みたいに仲良く道連れになるからやらないが。

 

 

 

 たぶん……やらないよな……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なっーはっはっははあ! 唸れ、唸れ、我が力! 今こそかの宿敵を討ち滅ぼす時が来た! ふっはっはっはっはっ!!!! 我が爆裂魔法の餌食となれ! 『エクスプロージョン』!!!」

 「めぐみん怖い! ちょっとあなたってば撃つたびに怖くなってるわよ! ねえこのまま撃っても大丈夫なの!?」

 

 爆裂狂がひたすら攻撃している間。

 

 そんな俺はというと、ぼーっとしてるぐらいしかやることがなく。

 

 「大丈夫ですよ。ゆんゆんも知っているでしょう! あの魔王城の結界を壊したのはこの私だと! あの時はこれ以上撃っていたんですよ、絶対大丈夫です。それにたとえ我が身体がうち滅ぼうとも、我はただ撃ち続けるのみ……」

 

 こいつこのまま放っておくと倒れるかもしれん。

 

 倒れないかどうかめぐみんを見張りつつ、攻撃されている真っ最中な不死鳥を見上げる。

 

 しかし、いくら神獣とはいっても、こんなに爆裂魔法を喰らっていたら、そろそろ討伐出来そうなものなのだが……。

 

 めぐみんが今までに撃った爆裂魔法の数はざっと数えて9回か10回ぐらい。

 もちろん若干のタイムラグはあるが、徐々には効いてきているはずだ。

 あの宝島の時は、威力を抑えたといっても、一回で長年固まっていた甲羅の宝石も剥がすことが出来た。

 

 あの時よりも更に威力が増しているめぐみんの爆裂魔法なのに、まだ倒せないのはどうも変だ。

 

 「おいアクア。なんかさっきからおかしくないか? もうこんだけ撃ってるんだし、そろそろ倒せてもいい頃合いじゃないか?」 

 

 さっきからちょこちょこバカデカイ魔法を撃っていながらも、今だ余裕げなアクアに尋ねる。

 

 「うーんそうね……。確かにもうオーバーキルもいいところだと思うんだけど……。というかめぐみんにあんなに爆裂魔法を撃たれてちょっと可哀想になってきたわ。ねえエリスは何か分からないの? あれってあんなに体力があるものなの?」

 「うーん、そうですね……。私もあんなに大きくなったのは初めてみるのでなんとも……。あれ? 二人とも。なんでしょうあれ……」

 

 上を見上げるエリス様につられ、俺も不死鳥が飛んでいる場所を見上げる。

 雄大に羽ばたく不死鳥の周りが、少し輝いたかと思うと、淡い光が不死鳥を包んでいき……。

 

 「あら、あれってば回復魔法に似てるわね。 それにだんだん元気になって……」

 

 あかん、あれは絶対に回復してる。

 

 「おいおいおい待て。なんだよあの能力! お前あんなこと言ってたか?」

 回復魔法があるなら、今まで攻撃してきた意味がないじゃないか!

 

 「いや、私も今知ったんですけど……めぐみんが爆裂魔法を撃つにはちょっと休まなきゃいけないし、それ以外にあんなに高く飛んでる敵に大きいダメージを与えれる人もいないし……。あれ、これって無理じゃないかしら?」

 「そんな簡単に諦めないでください! 最後まで一緒に戦ってくれるんじゃなかったんですか!しかしまさか封印された直後に回復魔法を使えるなんて、私も思って……」

 早々と諦めかけるアクアとうろたえるエリス様。

 

 ついさっきまで爆裂魔法の猛攻を受けており、飛び方もフラフラしていた不死鳥は、もはや初めて遭遇したときと変わらない動きになってしまい。

 

 「コオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」

 

 大気が震えるほどの咆哮をした。

 

 「おいおいおい、あれめっちゃ怒ってるんだけど。なんか逃がしてもらえない感がすごいんだけど。というか俺はもう屋敷に帰ってお風呂に入りたいんだけど!」

 「奇偶ねカズマさん。私も今さらとんでもないことをしたんじゃないかって思い始めたわ。というかさっきからあの子、すごいこっちを見てるような……」

 

 未だに続いている咆哮。

 

 ようやく止んだかと思うと、その後不死鳥は空高く飛び、ぐるっと空を一周旋回する。

 

 

 それは何となく俺が危惧していた可能性。

 

 

 

 

 火の玉も撃てるんだったら火炎放射っぽいのも出来るんじゃね?という……。

 

 

 

 

 俺の予感は見事にあたり、不死鳥が先ほどとは比較にならないぐらいの魔力反応がしたかと思うと。

 

 まるでそれは大波のような。

 

 

 ーー数十メートルに広がる炎の波を撃った。

 

 

 「ヤバっっっっっ……!」

 

 

 これは死ぬ。

 このままだと全滅か?この速さでテレポートの詠唱が間に合うか? それとも、それとも……。

 

 余りの出来事にうろたえることしか出来なかったが、珍しく真剣な表情のアクアが

 

 「んっっっっっ……!!」

 

 水の魔法で同じ波を出して相殺した。

 

 さすがに何発も撃てないのか、少し疲弊しながら羽ばたく不死鳥。

 だが、たとえ魔力無尽蔵のアクアがいるとしても、あれをそう何発も撃たれたらなにがあるか分からん。

 

 「カズマ! 今のはたまたま上手くいったけど、もう一度出来るとは限らないわよ! どうすんのよ! このままだと撤退しなきゃヤバイわよ!」

 

 それはアクアも考えてたのか、珍しく切羽詰まった声を上げる。

 

 避けたいのは全滅だ。俺一人だけならなんとかなるが、他のみんなはそうもいかない。

 

 どうするっ……! 無謀だったのかっ! やっぱりもっと仲間を集めて……!

 今度は上手くいくかもしれない。このままだと本当に全滅の可能性がある。

 

 やはり大事をとって、撤退しようと告げようとすると……。

 

 

 

 そこには悔しそうに、そして悲痛そうな顔をするエリス様が。

 

 「仕方、ないですっ……。このままだと私たちのわがままのせいで本当に全滅してしまいます……。カズマさんテレポートの準備を……」

 

 少し泣きそうになりながらも、俺にテレポートをするよう指示をあおいでくるエリス様。

 

 アクアもそんなエリス様の様子見て、思うところがあるのか申し訳なさそうにしている。

 

 そんな中めぐみんがふっと優しく微笑んで。

 

 

 「どうするんですかカズマ。このままやられっぱなしで勇者のカズマは撤退しますか? それともいつものように、私たちを助けてくれますか?」

 

 

 俺が何を言うか分かってるような、そんな信頼しきった声で。

 

 相手は不死鳥。それも尋常じゃない攻撃と、回復魔法まで使ってくる敵だ。

 今まで色んなやつと戦ってきたけど、こんな無理ゲーは魔王と一対一で戦った時以来だ。

 

 こんな無理ゲー本当にやりたくない。 

 

 でも、でも。このままだと今度はいつ討伐出来るかなんて分からない。

 

 それに女神様がこんなに世界のことを考えて、俺へと頼んできたのだ。

 それをないがしろにするほど、俺はカッコ悪いやつじゃない。

 

 ここまで来たら乗り掛かった船だ。

 

 

 

 

 「ああもうっ、しょうがねえなあああああ!!」

 

 

 

 

 エリス様が泣きそうな顔で、アクアがパアッと顔を輝かせて、同時に俺を見てくる。

 

 「無理ですよ! あんな攻撃もされて……っ、このままだと私たちのわがままのせいでっ……」

 エリス様が俺の腕をとっさにつかんで引き留めようとする。

 

 そんなエリス様に、めぐみんがポンっと肩に手を置き。

 

 「大丈夫ですよ。こういう時のカズマはすごいから安心してください。この男はいつもはビビりでやる気がないですが、やるときはやります。信じてください。ねっ、カズマ?」

 めぐみんの貶してるのか褒めているのかよく分からない言葉を聞き。

 

 

 俺は覚悟を決めた。

 

 

 「次で決めるからな! もう拒否すんのは無しだぞお前ら!」

 

 

 

 

   

 

 

 「はぁー!? なんですって!? あんたまた死ぬ気!? そうやって勝手にすんのはいくら私でも怒るわよ!」

 「うるさい。アクアは俺をもっと信じろって。今回は大丈夫だからさ」

 

 近くにあった岩の影に潜伏スキルで隠れながら、小さく寄り集まって作戦会議をする。

 

 しかし、エリス様だけには見張りをしてもらっていており。

 こんな作戦エリス様に聞かれたら絶対に反対されるからな。

 

 幸い不死鳥はまだ気づいていないようだ。 

 

 しかし、ずっとこのままでいるといつ別の場所へと飛ばれるか分からんから早く終わらせなければ

 「本当に大丈夫ですか? また無理をしていませんか? 確かに私が火をつけましたけど、作戦を聞いている限りではまたカズマが……」

 不安そうな顔をしているめぐみんから、あるものを一つ手渡して貰う。

 

 「そうだぞカズマ。お前は私のように堅くはないからまた何かあったらと考えると……」

 本当に心配そうに、俺のことを見つめてくるダクネス。

 

 「ああもうっ、お前らはもっと俺のことを信じろって! 大丈夫だから!」

 

 本当に、こいつらの俺への過保護は何とかならんものか……。

 

 「とりあえずさっき決めた俺の作戦で行くぞ! 異論はない分かったな!」 

 

 不安そうにする仲間たちをとりあえず納得させ。

 まだどこか不満そうだが、これぐらいしか方法がないから仕方がないだろ。

 

 「はぁー……。分かったわ、悪運の強いカズマのことだからどうせまた何とかするわよね。ほんとあんた気を付けなさいよ? カズマさんってば死ぬの大好きなんだから」

 「別に好きじゃない。元はといえばお前のせいで、こんなめんどくさい目に遭ってるんだからな。帰ったらお前の隠してるお酒ちょっとは寄越せよ」

 「えっ、それはイヤなんですけど……」

 

 なんでだよ。そこは『しょうがないわねーあんたが生きてかえってきたら』とか言うところじゃないのかよ。

 

 「本当は私がカズマの役割でもいいのですが……。このマナタイトで私と同じ威力を撃とうと思ったら、カズマの魔力だと本当にギリギリですよ。悪ければ途中で意識を失うことも……。すみません、私がもっと連続で攻撃できたら……」

 「お前はもうそれで十分だって……。相手が回復魔法を使うからこんなことになってるだけで、それ以上強くなってどうすんだよ……。それにお前にこんなことやらせる訳にはいかないからな。安心しろって」

 

 今回の俺のやることは、めぐみんにはとてもさせることが出来ない。

 

 万が一のことを考えたらなおさらだ。

 

 俺が安心させようと、めぐみんの頭にぽんっと手を置くと、後ろから冷ややかな声のアクアが。

 「何イケメンっぽいことしてるのよ。カズマさゆにはそんなの似合わないわよ? もっとカズマさんは嫌がって、泣いて、逃げ回ってたりするカッコ悪いのが似合ってると思うわ」

 

 うるせえ……。お前も同じようなもんだろ……。

 

 「でも、カズマさんは弱っちいからね。これはカズマさんには必要ないかもしれないけど、私からの贈り物。 汝に幸がありますように……。『ブレッシング』!! 」

 

 

 自分の身体を淡い光が包み込み。

 

 

 

 

 「それじゃ、やってきなさいカズマ!」

 

 

 

 

 ニヒヒと笑ったアクアに、背中をドンと叩かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 潜伏スキルでダクネスとエリス様と一緒に近くの岩場に隠れている間。

 

 まずはゆんゆんが集団の前に出る。

 

 「はぁー!!!『カースド・ライトニング』!!!」

 

 最高級マナタイトをまるまる使った上級魔法。

 

 威力は爆裂魔法には劣るものも、不死鳥に傷を与え、こちらに向かせるには十分な威力だ。

 

 さっきまで探し回っていた敵が急に現れ、その上攻撃されたことに怒る不死鳥。

 

 

 

 一瞬の咆哮の後。

 

 

 

 再び火の玉を撃ってきた。

 

 しかしすっかり慣れたのか、アクアが即座に水の魔法で相殺し。

 撃ち合ったところには大量の水蒸気が。

 

 そのあとも連続で不死鳥は火の玉を放ってくるが。

 ほとんどすべての火の玉はアクアやミツルギによってかき消される。

 

 アクアたちが不死鳥の注意を引き付けている間に、俺はエリス様に頼んでおいた強化魔法をかけてもらう。

 

 「あ、あの……今からこんなに魔法をかけてカズマさんは何を……? さっきは見張りを任されていたから、私作戦を聞かされてなくて……。まるで今からカズマさんが危ないことをするような……」

 

 魔法を唱えている間にも、エリス様が俺の心配をしてくれる。

 でもまだエリス様にはちょっと言うことは出来ない。

 

 無言でニヤリと笑い、はぐらかすと、これ以上聞いてもムダだと気づいたのかタメ息をつくエリス様。

 

 その間に朗々と自身の渾身の魔力を籠めて、詠唱していためぐみんが。

 見えてはいない俺に対して、合図を告げる。

 

 「さぁ! 出来ましたよカズマ! 我が究極奥義である爆裂魔法が! いつでも大丈夫です!」

 

 めぐみんの杖の先が辺りを赤く光輝せ。

 

 感情が高ぶっているのか、めぐみんの瞳も赤く輝いており……。

 

 

 

 

 

 

 さあ、準備は整った。

 

 

 

 

 

 

 「じゃ、ダクネスよろしく頼むぞ」

 

 「あ、ああ……。しかしこんな無理なことをするのはカズマらしくないというか、なんというか……。本当に心配なのだが……。それにいくら強化魔法をかけてもらってるからといって、私だってこんなことはするの始めてだから上手くいくかは分からないぞ?」

 そう言いながら、ダクネスはひょいと俺の身体を持ち上げる。

 

 突然のダクネスの行動に、エリス様が慌てふためき。

 「まっ、まってください! 今から何を……!」

 

 

 何を?

 

 

 「決まってますよ。俺が今から倒しにいくんですよ。エリス様は封印頼みましたよ」

 

 

 そう、不死鳥をだ。

 

 

 「えっ!? カ、カズマさん!?どういうことで……!」

 

 

 「よし、ダクネス!! やれ!!!」

 「い、いくぞ……? ぬっ、ぬおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

 ダクネスが渾身の力を籠めて不死鳥に向かって俺を投げる。

 

 顔に当たる風が少し痛い。

 

 でも強化魔法を受けた今ならどうにでもなりそうだ。

 

 「カ、カズマさん!!! 死んじゃいますよ!!!!」

 地上から心配性の友人の声が聞こえる。

 

 あまりの飛ぶ速さに意識を失いそうになるが、必死に抗って。

 

 この世界最強の魔法使いに指示を下す。

 

 「今だめぐみん!! やっちまえ!!」

 

 俺の言葉を聞いためぐみんはどこか楽しげな声色で。

 

 「カズマ! 決して死なないでくださいね!! 今から全力の爆裂魔法を撃ちますから見ててください!! いきます!!」

 

 

 一瞬の一呼吸の後。

 

 

 不死鳥の上に複雑な魔方陣が浮かび上がり。

 

 

 

 

 「『エクスプロージョン』!!!!!!」

 

 

 

 

 めぐみんの爆裂魔法が不死鳥に突き刺さった。

 

 「カズマ!!! 後は頼みましたよ!! 」

 

 分かってる。当たり前だ。

 

 不死鳥は苦しそうな声をあげるが、それでもやはりまだ倒せはしないようで。

 翼を必死に羽ばたかせ、この場から逃げようとする。

 

 

 

 だがな、それぐらいお見通しなんだよ。

 

 

 

 「今よ!! やっちゃいなさいカズマ!」

 

 能天気な声が下から聞こえて。

 

 そして不死鳥の前に突如現れた俺は。

 

 

 

 「あばよ!! この俺を相手にしたことを恨むんだな!!」

 

 

 

 手に持ったマナタイトと、すべての自分の魔力を手のひらに籠めて。

 

 不死鳥の真正面へと手をかざした。

 

 

 

 

 

 

 

 「『エクスプロージョン』!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 不死鳥の悲鳴が轟く音が聞こえる。

 そしてそのまま不死鳥は意識を失い、落下していき。

 

 

 

 

 「「ーー光よ!!」」

 

 

 

 

 かすれゆく意識の中で。

 そんな二つの声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 「痛い痛い! お前はもうちょっと怪我人を慎重に運ぶことを知らないのかっ!! だからお前はせっかく自分で買ったお花を枯らすんだよ!」

 「今はそれは関係ないじゃない! ああもうっ!やっぱりめんどくさいわねあんた! そんなに文句を言うなら一人で歩いたらどう!?」

 

 不死鳥を討伐し、封印したあと。

 

 爆裂魔法を撃った俺は、そのまま意識を失いながら、まっ逆さまに落ち。

 

 そのあとはよく覚えてないから分からないが、何とかダクネスがキャッチしてくれたらしい。

 

 けど無理に受け止めたせいなのか、起きた時にはまったく歩けなくなるほど腰が痛くなっていたので、アクアにおんぶしてもらっていた。

 

 でもこいつさっきから雑なんだよ……。

 

 「おいアクア。ほら、もう少し丁寧に運ぶこととか出来ないのか? そりゃがさつなお前には無理だろうが……いってえ!! 揺らすんじゃねえお前俺が腰やったらどうすんだよ!」

 「うっさいわね! カズマがさっきからぶつぶつ文句言ってるからでしょ!次そんなこと言ったら本当に下ろすからね!」

 「セ、センパイ……もうその辺で……。カズマさんも痛がっているようですし……」

 

 まったく、少しは活躍した俺を労って欲しい。

 

 「いや、確かにアクア様の言うとおりだ。回復魔法もあんなにしてもらったんだから、キミももう十分歩けるだろう」

 「で、でもカズマさん本当に痛そうで……」

 「ゆんゆん騙されてはいけませんよ。どうせこの男はアクアの身体の感触を楽しんでいるだけです。その証拠に、さっき鎧の着たダクネスが運ぼうとしても断ったじゃないですかこの男は」

 「なっ、そうだったのか……っ! では今から鎧を脱いだらカズマの下卑た欲望が私に……っ!」

 「いやー!! 気持ち悪いんですけど! ちょっと誰かこの男を運ぶの変わってよ!!」

 

 

 ああもうっ! こいつらうるせえ!

 

 

 「な訳ねえだろ! 俺もアクアなんかに運んでもらうんだったら他のゆんゆんとかエリス様とかの方がいいわ!」

 「はぁー!? 何よ今のどう言うこと!? こんなとこで堂々とセクハラ発言ですかー!」

 「あはは……元気ですねみなさん……」

 

 やんややんやと騒ぎ始める仲間たち。

 

 ちょっとは大活躍した俺に賛辞の言葉を送ったりとかしろよ!

 

 すると、エリス様が無言で前を歩き始め、ちょいちょいと俺とアクアを手招きする。

 そしてそのまま、まだ騒いでる仲間たちと少し距離をとり、エリス様と一緒に少し前を歩く。

 

 アクアにおんぶされたままの俺に、エリス様が微笑みかけてくると。

 「今回は本当にありがとうございました。カズマさんたちが依頼を引き受けてくれなかったら、今ごろ大変なことになっていたと思います。本当にありがとうございました」

 

 ああなるほど。わざわざ呼んできたから何かと思ったらそんなことか。

 

 「まあね!仲間の困ったことにはたいてい何とかしてあげるのがうちのカズマさんだから大丈夫よ! 気にしないでいいわエリス!」

 「なんでお前がそんなに誇らしげにしてるんだよ! 元はと言えばお前のせいでこんなことになったんだろ!反省してんのか!」

 

 まったく……。もう既に忘れてたりしないだろうなこいつ……。

 

 「ふふっ、二人は相変わらず変わらないですね……」

 

 まあな、こいつとはこれからもこんな感じなんだろう。

 

 するとエリス様がふと真面目な顔になって。

 

 「カズマさんカズマさん、一つ聞いてもいいですか?」

 

 改まった口調で、エリス様が俺に。

 

 

 

 「カズマさんはこの世界に来て後悔はしていませんか? たとえ魔王を倒しても、また冒険に連れ出されるようなそんな世界に」

 

 

 

 そんなことを尋ねてきた。

 

 

 後悔か……。

 

 この世界に来たばっかりの俺ならなんて言うんだろうな。

 早く元のニート生活に戻りたい!!とかなんでこんな世界に来たんだ……とか言ってるかもしれん。

 

 

 でもなぁ……。

 

 

 答えは既に決まっている。

 

 

 

 

 「してないよ。昔は案外そうじゃなかったけど、俺はこの世界が好きだよ。こうやって仲間のわがままに付き合ったりすんのもたまには良いもんだ」

 

 

 

 これは俺の心からの言葉。

 

 

 

 「そうですか、そうですか。ふふっ、なら良かった……。

 

 カズマさんが魔王を倒してくれた勇者で。

 

 カズマさん今回は、いえ、今回も本当にありがとうございました!」

 

 エリス様が珍しく満面の笑みで俺に笑いかけてくる。

 込み上がってくる妙な恥ずかしさを誤魔化そうと、手を必死に胸の前で振り。

 

 

 「いっ、いいですよ別にこんぐらい! それにこんな頼みならいつでも大丈夫ですから!」

 

 

 「何あんたそんなに顔赤くなってんのよ。カズマってば調子に乗ってキザなこというくせに恥ずかしがりやさんなんだから。ねえ、みんな聞いたー!? 今カズマさんが珍しくデレたわよー!! 」

 「うっせえいちいちそんなこと言わなくていいんだよお前は!! なんでエリス様もニヤニヤしてるんですか! ああもうっ、お前ら全員人の顔見てニヤニヤすんじゃねえ!!」

 

 

 心地よい喧騒を耳にしながら。

 

 

 

 俺たちは長い長い旅から帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これにてこの物語は終わりです。
たまにはカッコいいカズマさんや、仲間への信頼などが少しでも伝わったら幸いです。

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