暗い。
暗い。
個の存在など許さぬとでも云うかのような圧倒的な質量の闇。
ふとした瞬間に押し潰されてしまいそうなソレの中で私は呆然と立ちつくしていた。
目の前にはよく見知った人が泣いている。
髪で顔を隠すように俯いたまま、ポロポロと涙を流している女。
彼女が泣く理由。
それは普通の女の子が背負うにはあまりにも重いもの。
常に彼女を苛み、苦しませ、束縛するもの。
いっそのこと身も蓋も無く大声で泣きわめいたっていいのに。
誰かにすがりついて助けを乞えばいいのに。
何故私だけがこんな目にあわなければならないのか、と八つ当たりしたっていいのに。
けれど彼女はそんなことはしない。
絶え間なく溢れ出る涙を彼女は他人には見せない。
どんなにか苦しいだろうに唇を噛み締めていつも独りで泣いている。
誰でもいいのに、その誰かにすがりつく為の手は彼女の涙を拭うばかりだ。
あんなに酷い目に合っているのに、外ではそんなことおくびにも出さずにフツウに振る舞っている。
そうして、私はいつもそんな彼女を傍観するだけ。
彼女を救うことも、
彼女の身代わりになることすら叶わない。
生まれながらの出来損ないである私は彼女の身代わりになることは出来ない。
かといって彼女を苛む元凶を排除することも出来ない。
何故なら私が無力だからだ。
何故なら私が卑怯だからだ。
幼い頃にそうして自分の無力さを思い知って一人布団の中で泣いたこともあったっけ。
一晩中泣いて
泣いて
泣いて。
涙が涸れ果てた時に理解した。
お伽噺のような都合の良い英雄なんていないのだと。
泣いている人に差し伸べられる救いの手なんてないのだと。
そして何より、私は彼女の英雄になることは出来ないのだと。
そうだ、ようやく分かった。
世界はこんなにも一個人に対して無関心で、酷く残酷だ。
だったらそれでいいじゃないか。
私では彼女を救えない、だったら私も皆と同じように無関心でいればいい。
簡単なことだ。
元々血縁関係も無い部外者に情けをかける道理なんてないだろう?
ああ、全くもってその通りだ。
それは私が傷付かない為の自己防衛の一つ。
それはある種の逃避。
···いいや、それだけはどうあっても出来ない。
何も知らなかった頃にはもう戻れない。
彼女の境遇を知った時に私は願ったのだ。
彼女に幸せになって欲しい、と。
その気持ちが本物である以上、誤魔化すことなんて出来ない。
無関心でいることは簡単だ。
相手が他人であるなら尚更。
けれど私は彼女のことを他人だと思ったことは一度も無い。
だから私はもう諦めない。
さあ、抗おう。
運命という名の渦に。
たった一人の家族を守る為に。