男女逆転の世界に転生したんでテンプレ通りに生きます!   作:明太子サラダ

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この作品はとある男女逆転の他作品様に多大な影響を受けております。
ですからどうかパクリって言わないでください(自覚アリ


プロローグ

 水瀬静香は警視庁警備部警護課警護第五係所属の警察官、通称SPである。

 

 SPとはセキュリティ(security) ポリス(police)の略称であり、要人警護を専従する警察官のことだ。年に一回、警視庁に在籍する優秀な警察官の希望者約250名から僅か20から30名を選考するというかなり狭い門を潜った先にある職種でもある。日常会話レベルの英会話力を所有し、剣道、柔道そして合気道のいずれかの武道三段以上の有段者であることが前提条件。逮捕術や格闘術、射撃能力が高いのはもちろんのこと、要人に対する礼儀作法や常に周囲を警戒するための空間把握能力、そして何よりも護衛対象をそれこそ殉職してでも守り切る覚悟を持った人間がSPに選ばれる。警察官の選りすぐりから更に絞ったエリート、それがSPなのだ。

 

 しかし、それはあくまで一般的なSPの話。

 

 静香の所属する第五係はSPの中でも更に特殊で、まず彼女の護衛対象は男性限定である。これはそのままの意味で、性別が男であるのならば政界の要人であろうが会社の一社員であろうが誰にでも適応される。そして次に、その倍率の高さ。一年につき大体90人程度が新しく第五係に就任するのだが、希望者はその1000倍の90000人である。これは民間の警備会社、果ては一般人からも募集をかけているからなのだが、それにしたってかなりの競争率になる。

 

 これには一応理由があって、簡単に説明するとこの世界の人口の約9割9分が女性なのである。つまり残りの1分が男性、というわけだ。どう考えても不自然なバランスの上に成り立っている人類であるが、どうにもこの99:1という比は遥か昔から続いてきたようで、例えば病などで大多数の女性が死亡したとしてもなんやかんやで元の男女比に戻るように復活してきたらしい。したがってこの世界の常識で言えば、『男性は数が少ないからそれだけである程度の価値がある存在』という事になる。

 

 そんなあべこべな世界観であるせいか女性の性欲は男性のそれに比べて異常に強く、なんなら世界的に見ても深刻な社会問題となっている。軽いものでセクハラ、酷いもので強姦。聞く者が聞けば卒倒しそうな話である。しかし繰り返すようだが、ここでの常識が少男多女(しょうだんたじょ)社会である。数の多い女性が権力を握りやすいのは言うまでもなく、主な性犯罪の被害者は男性となる。

 

 まして人類繁栄のための精子はこの世界においてありとあらゆる資源にも勝る価値を有し、その生産源となる男性は国の財産であるとすら言えるのだ。ともなると男性の保護、もとい身辺警護は国としても人類としても最も重要な課題となる。しかしこの世界の事情(主に男女比)から男性を警護する人間もまた女性になるので、本末転倒(どう言う意味かはもう察してほしい)とならないように第五係の試験は通常のSP認定試験よりも数段過酷なものとなっている。

 

 当然ながら第五係の試験が極めて難しく、数値的に見れば就任できる確率が1%すらない事は受験者全員が知るところである。しかしそれでも挑むだけの価値があると、殆どの彼女達受験者は考える。なんせ合格すれば夢にまで見た男性とお近づきになれるのである。法整備された現代において男性を見る機会なんてテレビくらいな彼女達にとって、生の男とはもはや尊さそのもの。少しでも男性と接触できる機会があるのならば、それは人生をかけるだけの魅力と価値がある。悲しいかな、この世界の女性は本気でそのように考えているのだ。ただまぁ、邪な気持ちで臨んでいることを試験官や面接官が見抜けないはずもなく。そういった手合いは真っ先に落とされる。

 

 ともあれ、試験が終わり合格したところで待つのは3年間の特殊教育課程である。これは民間企業や一般人からの合格者(ほとんど存在しないが)のための配慮であるため必要なしと判断された者には特別に免除される。しかし大抵の合格者は、元々警察官であったとしてもこの教育課程を修了しなければならない。そしてこの3年間はシンプルに『地獄』と呼ばれており、試験に合格して浮かれたものを地の底に叩き落とす役割がある。実際、3年間を耐え抜き『男性保護訓練学校』を無事卒業できるのは合格者の三分の一以下ほどなのである。(因みにこの3年の間は一応形だけは公務員なので税金から生活費がである)

 

 そうして過酷極まる道を経て正式に第五係に就任した猛者はSPの中でもエリートを超えたエリートとなり、というかもう人類を超越したナニカとなり、なんかこう多くの女性達から尊敬と羨望の眼差しを一身に浴びる対象になる。そして、ようやく話は戻るがその中の1人が彼女、水瀬静香である。

 

 静香は『第五係長室』と明記された扉の前に立ち、一度深呼吸してからノックする。扉の奥からの「入れ」という指示に従い一言失礼しますと告げて扉を開く。そこにはワークチェアに深く腰掛ける中高齢らしき女性がいる。女性の正面にあるデスクにはおよそ尋常ではない量の書類が積み重なっており、彼女はその紙の山から一枚だけ器用に引き出していた。

 

 容姿として最初に目についたのは頰から首にまでかけて広がる大きい傷跡。次に裏社会の住人を発想させるほど壊滅的に悪い目つき。明らかにカタギのものとは思えないを外見を持つこの女性の名は片桐(かたぎり)翔子(しょうこ)と言う。歴とした警護課第五係係長であり静香の直属の上司でもある。翔子は手にした書類に目を通しながら話を始めた。

 

 「さて、あたしも時間に追われていてね。手短かに済まそう。水瀬特務警護官、貴官には本日付で男性警護任務についてもらう。一応面接もあるが形だけだ」

 

 「形だけ、といいますと?」

 

 静香の疑問に翔子は頷き、手に持っていた書類を静香に差し出す。書類を受け取り、それらを流し読みした静香は自身が警護する事になるだろう男性の名前を知って小さく目を見開いた。

 

 「……立花由紀夫、■■誘拐事件の被害者ですね。半年前の」

 

 ■■誘拐事件、それは当時中学一年生だった男子生徒を2年と半年もの間拉致監禁した事件として世間の記憶にも新しい。しかし世に報道された内容は大幅な規制がかけられており、正確にはただの拉致監禁事件ではなく複数犯による拉致監禁強姦(・・)事件であった。被害者の男子生徒は■■県の■■■山にある小屋の地下に監禁されそこで週に数回、複数人の女性に犯されていたという。

 

 国の保護対象である男性、それも二十歳にも満たない少年が失踪したならば警察が総力を挙げて捜索するのが常である。しかし当時の国際情勢は非常に不安定で、国際テロリズムが活性化したため警察組織は末端に至るまでそちらの対策、対応に力を注いでいた。また被害者、立花由紀夫を取り巻く家庭環境の劣悪さと状況証拠が揃っていたという事もあって、事件は男子生徒の自殺という形であっさり処理されてしまったのである。

 

 再調査が始まったのは情勢が落ち着いた二年も後。それだけの時間が経過しては立花由紀夫の生存は望み薄であると判断され、編成された捜索チームはわずか数名であった。

 

 そして更に半年後、捜索チームは少数ながらも必死の捜査で奇跡的に生存していた立花由紀夫を発見することになる。彼は栄養失調と度重なる性的暴力によるストレスで、発見が少しでも遅れていたら命が危ういほどにまで衰弱しきっていた。一方、犯人らは警察の捜査が■■■山の小屋に及ぶ一週間前には逃亡していたらしく、最終的に捕えたものの警察の不手際が世間に露呈することは免れなかった。当然、世間の警察組織への批判は殺到し、マスコミの偏った報道が民衆を暴動一歩手前にまで導くことにもなった。

 

 言ってしまえば立花由紀夫とは警察側にとって厄ネタそのものであり、同情はしてもあまり近づきたくない相手であった。とはいえ、だからと言って誘拐事件の完全な被害者である彼を放って置くわけにもいかない。由紀夫がまた同じように犯罪に巻き込まれないためにも、警察は優先的に彼を保護しなければならないのである。故に静香は疑問に思った。

 

 「一つだけ、質問よろしいでしょうか」

 

 「ああ。構わん」

 

 「なぜ自分が立花氏の護衛を? 私以上に適任の者はいるかと」

 

 その言葉は何も静香が件の男子生徒を警護したくないがために出たものではない。純粋に彼女は理解ができなかったのだ。訓練学校では主席を卒業したし、それに伴う実力と自負もある。しかし今度の任務は些か荷が勝ちすぎているのではないか、と。

 

 立花由紀夫を取り巻く環境は一筋縄ではいかない。少なくとも数年の間は由紀夫の生活にマスコミの影が付きまとうだろうし、それに扮した魔の手がないとも限らない。また男に飢えた女が跋扈する世の中である。外に出るだけでも相応の危険が伴うのだが、警護対象の行動に制限をかけることは対象のストレスや男性束縛禁止法を考慮に入れて、極力(・・)避ける必要がある。そのため警護官は警護対象の外出時には相当な集中力を要することになるだろう。そして何よりも、由紀夫が女性に対してよい感情を持っているはずがないのだ。友好関係を築くことすら困難であると予想される。

 

 となると、立花由紀夫の身辺警護が通常よりも遥かに難度が高いことは疑いようもない。対して静香は訓練学校を卒業して未だ一年と半月。能力があっても圧倒的に経験が足りてない。

 

 「ふむ、当然の疑問だろうな。私も貴官と同じ立場なら同じように問い詰めていた」

 

 「ではなぜ」

 

 「他でもない立花氏が貴官を指名したからだ」

 

 「は?」

 

 一瞬、静香の脳内が真っ白になった。しかしそこは流石と言うべきか、『地獄』を経て主席を勝ち取っただけのことはある。彼女は脳内フリーズを一秒にも満たない時間で処理し、すぐさま思考を再開する。しかしどれだけ考えても自分で納得する答えが見つからない。それもそのはず、そもそも静香と由紀夫の間には、

 

 「なんの関係もない。そうだな?」

 

 翔子の言葉に静香は「はい」と頷く。これまで無表情を貫いてきた彼女の額にはほんの少しの冷や汗が見えた。

 

 「こちらでも貴官と立花氏の間に如何なる関係もないことは調べがついている。だから不思議な訳だが、立花氏の強い希望を無碍にするのも頂けない。それに■■事件の犯人一行はその全員が中年女性だった。無理にベテランの警護官を充てるよりも歳が近い貴官がそばに居た方がかえって安心できるかもしれん」

 

 「それは、安直過ぎるでしょう。ほかに若くてもベテランといえる方はいくらでも」

 

 「くどいぞ。貴様も特務警護官の肩書を持つのなら知っているはずだ。警護対象の希望は最優先。ならば貴官は貴官の職務を果たせ」

 

 反論を許さない気迫でそう言い切ると、翔子は積み上げられた書類の中から複数枚を取りだしてそれらを読み始める。どうやらもう話すことはないらしい。そのことを認めると、ここに残っても何の進展もないだろうと確信した静香は腑に落ちないながらも表情には一切出さず一言「失礼」と告げて部屋を出た。

 

 

 

 

 白を基調とした廊下を静香は足早に進んでいく。

 

 翔子から渡された書類は立花由紀夫の大まかな経歴が記載されたプロフィールと彼の護衛任命書だった。本日付けという翔子の言葉に虚偽はなかったようで、面接場所は由紀夫がリハビリしているという病院の病室である。

 

 傑物揃いの警護課第五係、その長である翔子ならば新人に丸投げせず何らかの対策を用意しているかもしれないが、それだけを頼りにするのは女として情けない。故に全力を尽くす。命も張る。しかし所詮は新人。そこは弁えなければならない。不測の事態に対応し得るかどうかは未知数であり、失敗は許されない。酷い緊張感で体が硬直しそうになる。だがこれからマルタイとなる男性を前に無様を晒すわけにもいかないのだ。歩を進めるにつれ、緊張を打ち消すように覚悟が彼女の中に満ちていく。

 

 由紀夫の病室に向かう静香はツリ目でキツイ顔立ちを更に険しくさせ、凄まじい気迫(オーラ)をまき散らしながら歩く様子はさながら鬼である。静香とすれ違う医師や看護婦たちの表情は軽く恐怖に歪み、中には泣き出しそうな輩までいた。しかしながら自身と立花由紀夫のことで頭がいっぱいの静香にとって周囲の反応を気にするほどの余裕はない。端的に言ってテンパっていた。

 

 そうこうしている内に目的の病室に到着すると、静香は軽く三度ノックする。

 

 「開いてます、どうぞ」

 

 姿が見えないが、その鈴を揺らすような澄んだ声から部屋の中にいるのが男性であることがすぐに分かった。わかっていた筈なのに、その事実を認めただけで先ほどの燃え上がるような決意は鳴りを潜め、再度信じられないほどの不安が彼女を襲う。

 

 男性警護はこれが初めてではない。しかし、立花由紀夫の持つの過去や要求されるであろう能力を鑑みるに特A級の警護難度であることは疑いようもない。たかだか任務を複数回こなしただけの新人に務まるものなのか。否、無理でもやらねばならないし関係ない。男性は国の財産で、守られるべき存在だ。疑問は残るが己は立花由紀夫氏直々にその守護者としての役割を選ばれたのだ。自分がやらずに誰がやると、静香は自分を鼓舞する。

 

 震える手を無理やり収めさせ、なるべく音を立てないように扉を開ける。そして入室とともに彼女は深く頭を下げた。

 

 「水瀬静香です。今日から貴方の身辺警護を担当させて頂きます」

 

 緊張を面に出さないように努めるも、緊張のあまりどこかつっけんどんな態度となってしまった。しまったと後悔しても後の祭りである。恐る恐る顔を上げると、

 

 「あ、ああ。こ、これは丁寧にどうもです。知ってるとは思いますけど、俺は立花由紀夫といいます。これからよろしくお願いしますね、水瀬さん」

 

 目を丸くしたのもほんの一瞬、彼はさして気にした様子を見せず笑顔で応じた。

 

 




文章チンパンジーな上に説明ばっかりで申し訳ないです。

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