腰を気遣い一度デッキに出てきたメリーは目をぱちぱちさせる。
「車窓の中の情報量が多過ぎて目が疲れたわ…」
そのままため息をつき深呼吸、ストレッチとエクササイズを続ける。
確かにストレッチもエクササイズだがあんな狭い座席に座って蓮子の話を永遠と聞かされる方がよっぽど運動である。
「さて、戻りましょうかね」
メリーは指定席に戻る。
蓮子は退屈になったのか車内探検に出かけたようだ。
何故探検って分かるかって?だって帽子がないもの、蓮子は気持ちから入るのが大事とか言って何百年も前の探検家のようなイメージを今に持ち込んでるのね。
座席に座るがやはり座席に座っているだけというのは性にあわないようだ、蓮子の声が外を見る原因ではなかったのか…
小さな窓から覗くと外には茶畑が広がっていた。
ヒロシゲでは作り物の美しい風景が出てくるがこちらは本物の美を意識してはいない風景がほとんどである。
-こんな対比を車窓が移り変わる度にしている-
前の座席に取り付けられたディスプレイは常にこの列車の現在位置を示している。
今は静岡を抜けた直後のようだ。
「どぉ?富士山まだ?」
耳元で普通に喋ってきたのは蓮子。
ボリューム考えてよね、全く…
「見ての通り、まだまだ見えませんよ」
直後、窓の向こうが真っ暗になる。
注意力の欠片もなかった状態でいきなり暗転した事で私は驚いてピクっと小さく震えてしまった。
車窓は反射した私と蓮子の顔になる。
蓮子は笑いを必死でこらえた表情だ。
-ムカつく-
その後も窓は景色と私たちを交互に映した。
しかし、3つ目のトンネルを抜けた時に私はとても驚いた。
さっきのような反射的な驚きではなくある一点に目が釘付けになったのである。
それは確かに知らないような山だった。
しかし目の奥でデジャヴを感じた。
ぽつんとひとつ、存在をはっきりとさせる山。
メリーは間近で富士山を見た事がなかった。
彼女が知っていた、思い描いていた富士山とは浮世絵にある幻想的な赤い富士山だったのかもしれない。あるいは遠くから切り取られた写実的な青い富士山だったのかもしれない。
どちらにせよメリーは勝手に思い描いていたイメージとの差異を鮮烈に感じている。
まるで昔の西洋人が東洋に対して抱いていたイメージを覆されたように。
「空気の層によって青い光だけ乱反射してるから青く見えるのよ」
蓮子は全てを見透かしたかのような口調でいう。
「あなたは私より沢山のモノを見てきたかもしれない。それの中には面白くなかったモノやもう見飽きたモノばかりだったかもしれない。けどね、メリーにも知らない世界はまだあるのよ。」
動揺した私を一番わかっているのは蓮子だった。
世界の裏側が全てのようになっていたけどそれは蓮子が表側を教えてくれたからだと今更気づいた。
二人で世界を見飽きるその時はまだまだ遠いのかもしれない。
滑り込みセーフっ!
さて今回はいよいよメリーの知らない東の世界に入れましたね。
今回から毎週日曜更新としたいと思います。
定期的に続けるの苦手だけど頑張る。