Fate/Grand Order IF 星詠みの皇女   作:ていえむ

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幕間の物語 -そして終局へ―

その日、彼らは運命と対峙する。

 

 

 

 

 

 

彼にとってこの旅路は、ゼロに至る物語だった。

持って生まれたもの、今日までの人生で得てきたものを清算する道のり。

濁った汚れが清流で洗い流されるように、自身への卑屈も、他者への妬みも、壁を一つ越える毎に吐き出されていった。

今まで大事に抱えてきた自分自身が零れ落ちていく毎に、彼の心に暖かな光が差し込んだ。

あの日、彼は運命と出会った。

全てはあの時、彼女と出会った瞬間から始まった。

その終着は近い。

彼が何を証明し、何を失い、何を得るのか。

彼が生き抜いた先に出会うものは何なのか。

獣は静かにその時を待つ。

その時こそ、彼は第四の悪と対峙するのだから。

 

 

 

 

 

 

彼女にとってこの旅路は、出会いの物語だった。

今、目の前で苦しんでいる親友も、心配そうに親友を見守っているパートナーも、二人を鼓舞して治療にあたる自分の最愛の人も。

全てはこの第二の生で出会い、育んできた絆であった。

故にこそ、彼女は最後まで自身の力を彼らのために使うと決めていた。

皇女としての自分は既に死んだ。あの寒い地下室で、惨たらしく殺された。その事実が覆ることはなく、この胸の内から無念が消えることもない。

望むものは何もない。

願うものは何もない。

最後まで彼らに寄り添い、共に生きる。

例えこの命を散らす事になったとしても、最後の一瞬まであの人の側で戦う。

それは彼女が自身に課した誓約であった。

生きる事も死ぬ事も諦めていた自分が、最後に取り戻した生きたいという思いであった。

 

 

 

 

 

 

少年はただ、巻き込まれただけであった。

自分は世界の行く末など関係のない、路傍の石であったはずだ。

それが、様々な偶然が重なってこの重大な局面に立ち向かうこととなった。

今でもその認識は変わらない。

恐怖もある。

不安もある。

何度、戦いを経ても足の震えは止まらない。

それでも、前を向いて進む事だけは止めるつもりはなかった。

人は生きていくものだ。前を向いて、上を目指して、一歩ずつ歩き続ける生き物だ。

七つの壁は少年の心を強くした。

恐怖を抱えたまま、生きたいという純粋な願いを押し通せる我欲を与えた。

だから、戦う事から逃げようとは思わない。

成さねばならぬことがあるのなら、例え自分が役者不足であったとしても、その責務から目を逸らすつもりはない。

恐ろしいのは握り締めた熱が消えてしまうことだ。

大切なパートナーが苦しんでいるのに、ただ呼びかけることしかできないことだ。

代われるのなら代わりたい。

熱がいるのなら、この胸を裂いて赤いうねりを与えよう。

だから、どうか最後まで一緒にいて欲しい。

最後まで、笑顔のまま――生きて欲しいと、願わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

少女は世界を知った。

何も知らない無垢で無色な魂は、多くの出会いと別れを経て彩りを宿していった。

ただ終わりを迎えるその日まで、小さな生の実感に満足していた頃の少女はもういない。

この胸の苦しみが生きた証。

この体の痛みが生きていることへの実感。

その喜びがある限り、最後の一瞬まで生きていられる。

だから、そんな顔をしないで欲しい。

心配をかけさせたい訳ではない。不安にさせたい訳ではない。

大切な人が必死で呼びかけているのに、応えられないことが歯痒くて堪らない。

大丈夫。あなたの未来はわたしが守る。

自分はその為に生まれ、今日まで生きてきたのだから。

それでも、もしも願いが叶うのならば――あなたが生きる明日に、どうか自分を――。

 

 

 

 

 

 

男は自ら、不自由であることを選択した。

これは運命だ。

あの時の選択が呼び寄せた自らの運命。

それと対峙する時は遂に訪れたのだ。

この日の為に自分の全てを捧げてきた。

折角の青春を勉学に費やし、寝食を削って準備を進めてきた。

端から見るとそれは地獄のような毎日であっただろう。

いつ訪れるかもわからない破滅に向けて、常に気を張り詰めておく。

そこに求めていた自由なんてなかったが、それでも男は幸福だった。

何故なら、諦めることができたからだ。逃げ出すこともできたからだ。

全ての出来事に目を瞑ることだってできたからだ。。

けれど、男は自分の意思で目を逸らさないことを選択した。

男は初めて、自分の生き方を自由に決めることができたのだ。

男は未来のために、不自由であることを選択した。

その物語の結末は、直に終わりを迎える事となるだろう。

手袋の上から指輪をそっと撫で、これから向き合うことになる真実に思いを馳せる。

いざとなれば、これを使う事も視野に入れなければならない。

果たして、その代償を自分は受け入れることができるだろうか。

それだけが唯一の懸念であった。

 

 

 

 

 

 

王はその瞬間を待ち続けていた。

自分達が辿り着いた答え。それを実践する時が、刻一刻と近づいてきている。

全てが終わった後、この惑星から嘆きは失われるであろう。

悲劇は泡となって消え去り、星の彼方から聞こえる慟哭は最初からなかったことになる。

恐怖。そんなものは存在しない。存在してはならない。

その為の自分達であり、その為の■■■■だ。

全てを焼き尽くして手に入れた力。それを余さず使えば目的は遂げられる。

計算は完璧だ。

懸念事項はないに等しい。

訂正、奴らを放っておけば計画に何らかのイレギュラーが生じる恐れあり。

結末は変わらないが、排除するのが妥当と判断する。

故に王はその瞬間を待ち続けた。

決戦の時は近い。

星詠みどもが芥となって消え去った時こそ、自分達の大偉業の始まりとなるのだから。

誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの。

あらゆる生命は、これをもって過去となるのだ。

 

 

 

 

 

それぞれの思いを胸に、最後の一日が過ぎていく。

人類の未来を賭けた一戦。明日を取り戻す戦いまで後一日。

全ては、冠位時間神殿ソロモンにて、決する。

訣別の時は――近い。




決戦前のそれぞれの心境を。
誰が誰かはきっとわかるでしょう。

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