Fate/Grand Order IF 星詠みの皇女   作:ていえむ

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邪竜百年戦争オルレアン 第4節

一夜が明け、カドック達は朝食もそこそこにジュラの森を跡にした。

目的地はリヨン。

そこにいるという「竜殺し」と会うためだ。

 

『竜の魔女が操る竜にあなた達は絶対勝てない』

 

『竜を倒すのは聖女ではない、姫でもない。竜を倒すのは古来から竜殺し(ドラゴンスレイヤー)と相場が決まっているわ」

 

『リヨンに行きなさい、かつてリヨンと呼ばれた都市に』

 

昨夜、襲撃を仕掛けてきたライダー、聖女マルタはそう言って消滅した。

救世主の教えを受け、後に悪竜タラスクを鎮めた一世紀の聖女。

鋼の如き理性と竜の魔女に施された狂化がせめぎ合い、瓦解寸前の自我でこちらを試し、導くために己を差し出した聖女。

短いながらも鮮烈なやり取りの応酬は、ここにいる誰もが決して忘れる事はないだろう。

 

「いや、美化し過ぎだろう。彼女、最後の方は素手でぶん殴ってきただろ」

 

「脱ぎ捨てた法衣が重みで地面にめり込んだような気がしたけど、あれ気のせいだよね?」

 

『戦闘の余波で映像が最後乱れてたけど、彼女「『荒れ狂う哀しき竜よ』(タラスク)よ!」とか叫んでマシュのこと押し潰そうとしたよね』

 

『あれ本当にライダーか? 実はボクサーとかグラップラーなんてことないか?』

 

昨夜の壮絶な死闘を思い返して感極まるカドックに対して、他の男性陣はやや引き気味な反応を見せる。

それはそうとしてマルタからもたらされた情報はこちらにとって非常に有力なものだった。

狂化の影響もあり、決して多くを語れたわけはないが、それでも黒いジャンヌはワイバーンをも超える何かを切り札として有していること、それに対抗できる者がリヨンにいるということを知る事ができた。

恐らく、リヨンにいる竜殺しとはサーヴァントのことだろう。

もちろん、これが周到に用意された罠であるという可能性も否定できないため、途中にある街に立ち寄って情報収集を行った。

そこでわかったことは、リヨンには確かに竜殺しがいたという事実だった。

リヨンから逃げてきた難民の話によれば、市民から守り神と呼ばれていた屈強な騎士がワイバーンの群れから街を守っていたらしい。しかし、少し前に恐ろしい力を持った人間―――サーヴァントの集団がやって来て彼は行方不明となり、リヨンも怪物が跋扈する地獄の街へと化してしまった。

マルタの言葉を信じるなら、恐らく竜殺しの騎士はまだ生きていてどこかに潜んでいるのだろう。

少なくともその手がかりがリヨンの街に残されているはずだ。

 

「それと、シャルル七世が討たれたのを切っ掛けに混乱していた兵をジル・ド・レェ元帥がまとめ上げたそうよ」

 

マリーが聞いた話によると、リヨンを怪物から解放するために進軍の準備を進めているらしい。

それを聞いたジャンヌは非常に複雑な表情で彼方の街―――オルレアンの方角を見やった。

共に戦ったかつての仲間。

ジル・ド・レェはジャンヌの信奉者であり、優れた参謀であり、彼女の死によって人生を狂わした狂人だ。

英霊として座に招かれたジャンヌは自分の死後、彼がどれだけ苦しんだ末に悪逆に手を染めたのかを知っている。

恐らくは自分と瓜二つの竜の魔女と戦うにあたり、人知れず苦悩していることを思って胸を痛めているのだろう。

 

「ねぇ、フランス軍が動きを見せているなら足並みを合わせられないかしら?」

 

「それは・・・難しいと思います、アナスタシア皇女」

 

「わたしもアナスタシアと同意見なのですけれど、なぜ難しいのでしょう? ジル・ド・レェはジャンヌの信奉者でしょう? ジャンヌがお願いすればきっと力になってくれるのではなくて?」

 

「だからこそ、です。竜の魔女となった私のことは知っているでしょう。彼がそんな自分を受け入れるとは思えません」

 

「そっか、元帥自身は良くても他の人が納得しないのか」

 

ポンっと自身の手を叩いて納得する黒髪のマスター。

彼が言うように、ジル・ド・レェは彼女を受け入れるかもしれない。

しかし、今やフランスにとってジャンヌ・ダルクは祖国への復讐を誓った竜の魔女。

そのような人物と元帥が手を取り合ったと知れば、兵の統率は乱れて軍は機能しなくなる。

ジャンヌ・ダルクが2人存在し、争い合っているという異常事態など誰も理解できないだろう。

 

「なるほど。うん、無理して会わなくていいに一票。わたしたちも急がなくてはいけないし。

リヨンの街に住み着いた怪物をフツーの兵士さんたちがが倒せると思えないし」

 

「確かにその通りですね、私達だけで倒しましょう」

 

「大丈夫、みんながいれば必ず勝てるさ」

 

理由も根拠もなく、黒髪の少年は確信を告げる。

理屈などつけようと思えばいくらでもつけられるが、この男はそんな事は微塵も考えずに思ったことを口にする。

本人に自覚はないのだろうが、その方がより相手の心に響くことを体が知っているのだろう。

 

「ええ、指揮官はそうでなくっちゃ。えーい、ご褒美です」

 

「な!?」

 

淀みのない所作で自分のマスターが口づけされる瞬間を目撃し、マシュが言葉を失った。

余りに衝撃が大きかったのか、盾が手から離れて坂道を転がっていく。

カドックとしては彼女がそんな人並みな反応を返すことの方が驚きだったが。

 

「どう、よかった?」

 

「ありがとうございます!」

 

「・・・先輩、頬が緩んでますよ、先輩」

 

マシュの冷めた言葉を聞いて、真っ赤に染まっていた顔から急速に色が抜けていく。

慌てて何か取り繕っているようだが、拗ねているのかマシュはしばらくそっぽを向いたままだった。

その様子を見守っていたアマデウスは懐かしいものを見たとばかりに口角を吊り上げる。

 

「大目に見てやって欲しい。何でもかんでもベーゼするのもマリアの悪い癖だ。そのせいで宮廷は大混乱に陥ったものさ。信じられるか? 彼女にベーゼされたされないで派閥ができかけたんだ。下手をすれば革命前に自滅していた王政なんて、童話作家でも演劇作家でも馬鹿らしくてネタにしないだろうに」

 

『あー、俺は見てないぞ。モニターしてたのはカドックだけだ。マリー王妃のことなんか見てないぞ』

 

可笑しそうに腹を抱えるアマデウスと現実逃避を始めるムニエル。

先ほどまで竜殺しの行方だジル・ド・レェ元帥との共闘はどうだと真面目に話し合っていたのが嘘のような騒々しい騒ぎが街道で繰り広げられる。

戦時中もあってか他に誰も通っていなかったのがせめてもの救いだ。

 

「ねえ、カドック?」

 

こちらの袖を引きながら、アナスタシアが他の面々には聞こえないよう耳元で囁きかけてくる。

 

「私もキス、してあげましょうか?」

 

「なっ、何を言って―――」

 

「嘘よ」

 

「嘘なのか!」

 

「マスター、しゃきっとしてください。ほらほら、しゃきっと!」

 

「ごめんよ、マシュ。もう許してぇ」

 

「え? みんなはしないの、ベーゼ? こう、ハートがぐぐ――って、なったらしちゃうものでしょう? ね、ジャンヌ?」

 

「し、しません、しません! そういうのは結婚を前提とした―――」

 

呆れたように一声鳴いたカラスが空を飛ぶ。

さっきまで一歩離れたところから見つめていたはずなのに、いつのまにか自分も騒動の渦中にいた。

こうなっては誰も止める者がおらず、結局、荒くれものの一団と遭遇してひと騒動起きるまで、この騒ぎは続いた。

 

 

 

 

 

 

リヨンの街は凄惨たる光景が広がっていた。

家屋は薙ぎ払われて瓦礫の山と化し、炎で焼かれた炭のような何かがあちこちに転がっており、死者は生きる屍となって往来を闊歩する。

男も女も、老人も子どもも、串刺しにされた者、首を折られた者、矢で射抜かれ、爪で引き裂かれ、腕や足が切り捨てられて這っている者もいた。

そして、その中心にいたのは1人の仮面の男。

舞台衣装に身を包み、長い爪に血を滴らせた異形の青年。

名をファントム・オブ・ジ・オペラ。

小説『オペラ座の怪人』に登場する名もなき怪人。

ただ1人の歌姫に恋い焦がれて凶行に走った殺人鬼。

それが竜の魔女の命を受け、この街の支配者として君臨していた。

 

「喝采せよ、聖女! おまえの邪悪は、オマエ以上に成長した!」

 

死者を操り、魔の調べでこちらを呪う怪人をカドック達は容赦なく討ち滅ぼした。

今のファントムはいつ消滅してもおかしくないほどのダメージを負っており、一節を紡ぐだけでも地獄のような苦痛が全身を駆け抜けている。

だが、それでも彼は歌う事を止めない。

それが己に課せられた役割なのだと。

そのような形でしか生きられないのだと、哀れな怪物は言の葉を紡ぐ。

 

「もう黙りなさい。それ以上は苦しいだけです」

 

「これは言葉ではない、これは歌だ。お前の先を嘆き、憂うためのな。竜殺しは諦めることだ。

そうして果ての果てまで逃げろ。運が良ければ逃げ延びられる可能性はある」

 

竜が来る、と怪人は告げる。

謳うように、呪うように、これから自分達にふりかかるであろう災厄を予言する。

 

「来る、竜が来る。悪魔が来る。お前たちの誰も見た事のない邪悪な竜が!」

 

そうして、ファントム・オブ・ジ・オペラは消滅した。

不可解な言葉だけを残して。

 

『ああ、やっと繋がった』

 

通信機からロマニの悲鳴のような声が聞こえてくる。

街に入ってから音信が途絶えていたが、ファントムの消滅と共に復調したところを考えるに、彼の力で通信が阻害されていたのだろう。

 

『全員、撤退を推奨する。サーヴァントを上回る、超極大の生命反応が猛烈な速度でそちらにやってくるぞ!』

 

「サーヴァントを上回る? そんなものがあるんですか?」

 

『あるところにはあるさ。だって世界は広いからね。それとそれに先行する形で三騎のサーヴァントが向かってきている』

 

こちらの動きを読まれたのかそれとも罠だったのか。

いずれにしろ、このままではその超極大の生命体とやらと出くわすことになるだろう。

いずれは相手どらねばならない敵。だが、今はそれと相対できるだけの力がない。

先行しているサーヴァントが追い付く前に逃げなければ。

 

「待って下さい。サーヴァントを上回る生命反応が正しいなら、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)はますます必要です」

 

「マシュの言う通りです。この街のどこかにいるのなら、そのサーヴァントを探してからでも―――」

 

「アナスタシア、そんな時間は―――」

 

「ダメだ、カドック。竜殺しを探そう。ここで僕達が逃げれば、その人が殺される」

 

意見が割れる。

すぐにでも逃げなければ超極大の生命体がやってくる。だが、今逃げれば貴重な戦力となるかもしれないサーヴァントが失われる。

自分達の命か、明日への希望か。

目の前の少年は既に答えを決めていた。

迷っているのは自分だ。

竜殺しの存在に一縷の望みをかけているから、この男の言葉を否定して街から脱出するという意志を示すことができない。

 

「マリー、いつでも馬車を出せるように準備してくれ。アナスタシアとアマデウスは時間稼ぎだ」

 

「カドック!」

 

「僕だって死にたくないんだ。勝ちの目は多い方が良い」

 

こんな悪態を吐かなければ決められない自分が嘆かわしい。

だが、後悔している時間はない。

ロマニが今、カルデアの計器をフル稼働させてサーヴァントの反応を追っている。

何としてでも敵がこちらに来るよりも早く竜殺しを見つけ出し、この街を脱出しなければ。

 

「・・・居ました!」

 

崩れた古城の一角で、倒れていた男をマシュが発見する。

灰色の鎧を身に纏った長身の騎士。

朦朧とした意識の下でも戦意だけは失っていないのか、右手は剣を強く握りしめていて放さない。

 

「くっ、次から次へと・・・」

 

「待ってください! 私たちは味方です! 少なくともあなたを害するつもりはありません!」

 

「・・・?」

 

「急いでください。ここに竜種がやってきます。他、サーヴァントが数騎。戦力的にはこちらが不利で―――」

 

「竜か・・・なるほど、だからこそ俺が召喚され、そして襲撃を受けたわけか」

 

「手を貸しましょう、脱出します」

 

「すまない・・・頼む」

 

マシュに肩を借り、長身の男をマリーのもとへと運ぶ。

幸いにもまだ敵はリヨンにまで辿り着いていない。

今ならばマリーが全力で馬車を走らせれば逃げられるだろう。

 

「飛ばします。みんな、しっかりと掴まって」

 

ガラスの馬が嘶き、荷台が大きく揺れる。

瓦礫の山は見る見るうちに遠ざかり、ガラスの馬車は新緑の広がる草原へと躍り出た。

そうしている間も長身の騎士は苦しそうに息を乱しており、何かを求めるように視線が宙を舞っていた。

 

「カドック、俺の礼装だけじゃ治りきらない」

 

「見せてみろ」

 

魔力の波を通し、傷ついた青年の体を解析する。

情けない事にカルデアの礼装の力は自分の魔術よりも遥かに強力だ。

それでも治りきらないという事は、何か別の要因があるはずだ。

 

「これは・・・黒魔術か何かか?」

 

「恐らくは・・・呪いの類だ・・・・」

 

「複数の呪いがかかっているようです。解呪自体は洗礼詠唱でできますが、私1人の力では足りません。せめて、もう1人聖人がいれば―――」

 

聖人のサーヴァント。

そんな都合の良い存在がこのフランスに召喚されているだろうか。

いや、それよりも今は追っ手を巻くことが先決だ。

先の事を考えるのは逃げ切った後でいい。

 

「きゃっ!?」

 

急ブレーキをかけられ、態勢を崩したアナスタシアがこちらに倒れ込んでくる。

何事かと御者台を見やると、ガラスで透けた荷台の向こうにワイバーンに襲われるフランス兵の姿が見えた。

 

(どうする? 迂回していたら追い付かれる。突っ切るか、反転して応戦か―――)

 

「マリー、このまま突っ込め! フランス軍を助けるんだ!」

 

「なっ、正気かお前は!?」

 

「俺達を見失えば、追いかけている奴らは彼らを襲うはずだ」

 

「そうじゃない、僕達の目的は―――」

 

「カドック、フランス軍が倒れればフランスは竜への抵抗力を失います。そうなったら、きっとこの歴史はもう正せません」

 

アナスタシアの言葉が最後のダメ押しとなった。

彼女の言う通り、この時代がまだ保っているのはフランスという国とそこに住まう人々が生き残っているからだ。

それが失われれば、人理定礎は一気に破壊されて歴史が崩壊する。

ならば、何としてでも彼らを守らなければ世界は救えない。

 

「わかった! なら追っ手は僕とアナスタシアで相手をする」

 

「えっ!?」

 

さっきまで強気で啖呵を切っていた男が真顔に戻って言葉を失うのをしり目に、カドックはアナスタシアを伴って揺れる荷台から飛び降りた。

向かってくるのは2頭の飛竜。

乗っている1人は見覚えがある。ラ・シャリテでマシュ達と戦っていたカーミラだ。

またの名をエリザベート・バードリー。

己の美貌を保つために600人以上の少女を殺してその血を浴びた狂気の殺人鬼。

もう1人は黒い甲冑で全身を覆った騎士だ。

黒い靄のようなものが体を覆っており、その全体像を掴みにくいが、ただならぬ気配を保っている。

どこまでやれるかわからない。だが、やると決めたからには全力で当たる。

 

「キャスター!」

 

「ええ、宝具発動『残光、忌まわしき血の城塞(スーメルキ・クレムリ)』」

 

襲い来る2つの脅威。

迎え撃つののは北国の城塞。

戦いの火ぶたは切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

咆哮を上げて、黒い騎士が城塞に突撃する。

扉をこじ開け、その先の戦場へ進まんと両腕に力を込める。

だが、城塞の扉は漆喰で塗り固められたかのようにビクともせず、逆に魔力を放出して黒騎士を吹っ飛ばした。

 

「Arrrrrrrrrrrr」

 

怒りに震えた騎士がその場に転がっていた大石を投げつける。

サッカーボールほどの大きさの石は黒い靄をまとったまま城塞の壁へとぶつかり、その衝撃で城塞内に軋むような音が響き渡る。

更に立て続けに黒い石がぶつけられ、堅牢なはずの城壁はへこみ、あちこちに小さな傷ができていく。

 

「なんだあれは? 宝具だっていうのか?」

 

本来ならば投石程度で宝具であるアナスタシアの『残光、忌まわしき血の城塞』(スーメルキ・クレムリ)が傷つくことはない。

ならば何か必ずカラクリがあるはずだ。

その正体を見極めようと黒騎士を凝視するが、本来ならば見えるはずのサーヴァントのステータスすら霞がかって読み取る事ができない。

ただ、あの理性のない暴れ方を見る限り、今までのバーサーク・サーヴァントとは違う、正真正銘の狂戦士のクラス、バーサーカーであることだけはわかる。

 

「そちらの相手は任せるわ、バーサーカー」

 

カーミラが城塞を避け、後方の戦場へ向かおうとワイバーンを迂回させる。

すかさず、迎撃のための銃撃が城塞から放たれるが、カーミラは乗っていたワイバーンを盾にして跳躍し、フランス軍を守っているジャンヌへと切りかかった。

 

「マスター、こちらに集中しなさい。気を抜くとやられるわ」

 

バーサーカーは今度は大木を引き抜いて振り回し、城塞の扉に叩きつける。

今度もただの丸太による一撃が城塞全体を揺るがした。

冗談染みた出来事にカドックは冷や汗を禁じえない。

信じられない事に、あのサーヴァントは手にしたものを何でも宝具に変えてしまうことができるようだ。

加えて素のステータスもかなり高いようで、アナスタシアの言う通り、隙を見せれば一気に押し切られるかもしれない。

 

「Arrrrrrrrrrrr!!!」

 

迎撃に出た銃士達が丸太の一振りで薙ぎ払われ、降り注ぐ銃弾は全て叩き落される。

投石は当たらず、火矢は振り払われ、ヴィイの冷気をまともに受けても怯むことなくバーサーカーは攻撃を続ける。

やがて、強度の限界を迎えて丸太は中ほどから真っ二つに折れ、武器を失ったバーサーカーは倒れていた銃士から奪ったサーベルで切りかかってきた。

二度、三度、アナスタシアの宝具の付属物であるはずの武器が、彼女に対して牙を剥く。

所有権まで奪われてしまったのか、武器を消し去ることもできなかった。

 

「―――――ッ!」

 

こちらの存在に気づいたバーサーカーが自分達がいる見張り台へとサーベルを投げつける。

無論、目に見えない魔力壁でサーベルは弾かれるが、完全に狙いを見張り台にいる自分達へと定めたバーサーカーは、城壁を走る魔力で己が傷つくことも厭わずに壁をものすごいスピードでよじ登り始めた。

そうはさせまいとアナスタシアも銃弾や砲弾を立て続けに食らわせ、水や油を流してバーサーカーを滑り落そうとする。

しかし、それでもバーサーカーを止めることはできず、とうとう黒い甲冑の小手が見張り台へと届いた。

 

「Arrrrrrrrrrrr」

 

「ラストナンバーか? 悪いが興醒めだ」

 

幻影が掻き消え、見張り台に残されたのは囮人形とそれをへし折ったバーサーカーのみ。

すかさず、どこからか伸びた鎖が狂戦士を拘束し、城塞全体が激しく振動を始める。

いつから入れ替わっていたのか、カドックとアナスタシアは既に城塞の外へと降りていた。

そして、バーサーカーが見張り台へと昇りきった瞬間を見計らって彼を拘束し、城塞ごと押し潰したのである。

轟音を上げて崩れ去り、魔力の塵となって霧散していく北国の城塞。

城塞の跡から姿を現したバーサーカーはうつ伏せに倒れ、ピクリとも動かない。

ダメージを負ったことで黒いもやの力が薄まったのか、霊核に傷を負って消滅が始まっていることが読み取れた。

 

「キャスター」

 

「私は大丈夫です。それより、みんなは?」

 

振り返ると、戦線はこちらに傾きつつあった。

フランス軍の指揮を取っていたジル・ド・レェがジャンヌ達と協調し、ワイバーンへの攻撃を兵に優先させているのだ。

もちろん、兵の中には竜の魔女への怒りをジャンヌにぶつけようとする者もいるが、それをジルはギリギリのところで抑え込んで戦線を押し返している。

後に狂人とまで呼ばれる者とは思えない、卓越した指揮だ。

 

「くっ、ここまでね」

 

ジャンヌの一撃を受けて傷を負ったカーミラが追撃を断念し、ワイバーンを伴って戦場から離脱する。

何とか凌ぎ切った。

この瞬間、誰もがそう思った。

土を掻き毟り、黒い殺意が起き上がるまでは。

 

「・・・A・・・A―――urrrrr!!」

 

既に黒いもやを失い、全身を露にした狂戦士が立ち上がり、一直線にジャンヌのもとへと駆ける。

手には漆黒の両手剣。

強大な魔力を帯びた刃が振り上げられ、憤怒の叫びと共にジャンヌへと振り下ろされる。

カーミラとの戦いで疲弊しているジャンヌにそれを避けるだけの力は残されていない。

 

「させません!」

 

両者の間に、マシュが盾を持って躍り出る。

振り下ろされる漆黒。

少年の叫びが木霊し、ある者は目を覆い、ある者は駆け出した。

そして――――。

 

「Ga―――――」

 

漆黒の剣は、振り下ろされることなく盾の直前で止まっていた。

甲冑で見えぬはずの狂戦士の瞳に驚愕の色が浮かんでいることがわかる。

彼はマシュを見て、何かを察して剣を止めたのだ。

 

「――――ad」

 

その言葉を最後に、バーサーカーは最後の力を失って消滅した。

今度こそ終わった。

ホッと胸を撫で下ろし、全員にこの場を離れるよう指示を出す。

ワイバーンと敵サーヴァントを撃退した以上、フランス軍の次なる矛先は自分達の向けられるはずだからだ。

 

「ジャンヌ! お待ちを! 貴女は確かにジャンヌ・ダルク! 竜の魔女ではない、正真正銘の聖女」

 

戦陣をかき分け、1人の騎士がジャンヌのもとへと向かう。

恐らく、彼がジル・ド・レェ。

この時代を生きる、かつてジャンヌと共に戦火を駆け抜けた彼女の同胞。

だが、ジャンヌが彼の言葉に応える事はない。

彼には軍をまとめてフランスを守るという役目がある。

だから、今や竜の魔女としての悪名が広がってしまっているジャンヌが彼に言葉をかける訳にはいかない。

 

「行きましょう」

 

ジャンヌに促され、カドック達はその場を立ち去った。

ほんの一時とはいえ、かつての仲間と共に戦えた。

それは彼女にとって僅かでも救いになればよいと、誰もが考えた。

一方で、苛烈な戦いの連続が彼らから冷静な思考を奪っていたのだろう。

リヨンの街でロマニは先行しているサーヴァントは三騎だと言っていた。

一騎はカーミラ、もう一騎は黒いバーサーカー。

では、残る一騎はどこに行ったのか。

それを知るのは、もう少し後のことであった。




マルタ戦はできることなら書きたかった(泣

アナスタシアの宝具演出は完全に妄想です。
もうちょっとランスロット暴れさせたかったけど、中世時代じゃ武器が限られるのと打ち合いできるのがマシュとジャンヌだけだったのでこんな感じになりました。
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