Fate/Grand Order IF 星詠みの皇女   作:ていえむ

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幕間の物語 -藤丸立香-

それはフランスの特異点を修復してから少ししたある日の事。

いつもの定期検査を終え、自室へと戻ったマシュは1人、今日までの出来事を振り返っていた。

元々はマスターの1人としてAチームで訓練を積んでいたはずが、ひょんなことからデミサーヴァントとして戦うことになった。

冬木ではマスター不在のまま、無我夢中で戦い、カドックと共にアーサー王と対峙。

フランスでは新たに藤丸立香と契約を結び、世界を滅ぼさんとするジル・ド・レェの野望を打ち砕いた。

どちらの敵も一筋縄ではいかない相手であり、みんなと協力することで何とか戦う事ができた。

今でもこうして生き延びていることが不思議でならない。

それに、そのどちらもが自分ではうまく表現ができない強い信念を以て戦っていたことは感じ取ることができた。

アーサー王はあの特異点を維持し、自分を試さんと剣を向けた。

ジル・ド・レェは大切な人を奪われ、剥き出しの感情を爆発させて世界を呪った。

自分には2人のように何が何でも果たしたいという願いを持てるだろうか?

 

(アマデウスさんは言っていました。人間は何かを好きになる義務があると)

 

今はまだわからなくても、グランドオーダーを通じて学んでいけばそんな願いを持てるだろうか。

 

「ん?」

 

扉越しでも聞こえるほどの大きな足音が近づき、見知った顔がよろめきながら部屋へと飛び込んでくる。

自分のマスター、藤丸立香だ。

 

「先輩? どうされたのですか?」

 

「ごめん、マシュ。ちょっと匿って」

 

そう言って立香は息を殺し、部屋の外の気配を伺った。

程なくして、扉の前を誰かが駆けていく音が聞こえてきた。

ひょっとして、誰かに追われていたのだろうか?

 

「助かった。ごめんね、マシュ。急に部屋に飛び込んじゃって」

 

「いえ、特に何もしていませんでしたので。お茶でも飲まれますか、先輩?」

 

「うん、ありがとう」

 

汗をかいているし冷たい方が良いだろうと、作り置きのアイスティーをコップに注ぐ。

茶菓子は切らしていたので申し訳なかったが、彼は笑って許してくれた。

 

「それで、どうしてそんなに息を切らしているんですか? まさか、怪しい取引現場を見てしまい、謎の組織に追われているとか?」

 

「いや、そんなのじゃないよ。うん、そんなのじゃ」

 

「そうですか。こう背後から一撃を受けて若返りの薬を飲まされるようなことでもあったのかと」

 

「心なしか残念そうだね、マシュ」

 

「いえ、そんなことは。なら、清姫さんかエリザベートさんですか?」

 

最近、召喚された2人は割とあちこちで問題を起こしている。

清姫は立香のことになると見境がつかなくなるし、嘘に関してスタッフともめた事も幾度かある。

エリザベートは自室から漏れ出る歌声に対してスタッフから苦情がきているとロマニが頭を抱えていた。

ただ、どうやら今回はそのどちらでもないらしい。

立香自身も言いたくないのか目を泳がせているので、マシュは仕方なく追及を諦めて静かにお茶をすすった。

その時、通り過ぎた足音が再びこちらに近づいてきているのが聞こえてきた。

 

『キリエライト、入っていいか?』

 

インターホンを通じて聞こえてきたのはカドックの声だった。

その声を聞いて立香の顔色が変わったところを見るに、どうやら彼を探して廊下を駆け回っていたのはカドックのようだ。

 

「マシュ、鍵かけて鍵」

 

「え? いえ、それは・・・」

 

『いるんだな、藤丸。すまない、後で非難は受ける。開けるぞ』

 

扉が開き、まず飛び込んできたのは小さな白い生き物―――フォウだった。

その後に続くようにカドックが入り込み、椅子の上で縮こまっている立香の首根っこを掴んで引きずり出す。

 

「待って、カドックごめ・・・」

 

「言い訳は聞かない。また勝手に訓練メニュー増やしただろう」

 

「す、少しくらい無理した方が良いかなって―――だめ?」

 

「ダメだ」

 

どうやら、また立香が勝手に無茶なハードワークを行って教官役のカドックがご立腹のようだ。魔術の知識に乏しいせいか、どうも彼は思い付きの肉体改造の感覚で訓練を増やし、その度にカドックに怒られるのが段々と定番化してきている。

 

「待って、どこに連れて行くの―――」

 

「そんなに訓練が好きなら付き合ってやる。カルデアは座学の資料だけは事欠かないからな」

 

資質が劣る分を知識で補ってやるんだと、カドックは意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「マシュ、助け―――」

 

悲痛な叫びを上げる立香を羽交い絞めにしたまま、カドック部屋を後にする。

彼に着いてきていたのか、廊下に立っていたアナスタシアが少しだけ申し訳なさそうに一礼して扉を閉めるのが何故だか印象に残った。

 

「だ、大丈夫でしょうか?」

 

あの様子ではかなりのスパルタな教練が予想される。後で差し入れでも持って行ってあげた方が良いかもしれない。

 

「あれ?」

 

ふと足下を見ると、フォウが暢気に丸まってくつろいでいる姿が目に映った。

そういえばさっき、カドックは彼と共にこの部屋に入ってきた。

ひょっとして、この部屋に立香が逃げ込んだことを知らせたのはフォウなのだろうか?

 

「フォウさん、ひょっとしてカドックさんと仲良くなられました?」

 

自分と立香以外には寄って来なかったのに、不思議なこともあるものだ。

どうしてフォウがカドックにも近づくようになったのか。

それが何を意味するのか、マシュが知る事はない。

そして、いつしかそれが以前からもそうであったと錯覚してしまうほどに、新たな特異点も波乱に満ちていた。

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