Fate/Grand Order IF 星詠みの皇女   作:ていえむ

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永続狂気帝国セプテム 第5節

ネロ達と別れ、馬を走らせること半日。

既に日没が迫る中、カドック達は離脱したスパルタクスと呂布の姿を捉えていた。

カルデアが捉えたサーヴァントらしき魔力反応がいる場所を虱潰しにアナスタシアが透視したことで、2人の行方は早々に見つけ出すことができた。

しかし、逃げ回る連合兵を追って暴れ回る2人の姿を前にして、馬を近づけることができずにいた。

2人はさながら嵐の具現だ。

大木や巨岩を物ともせず、巨大な腕で連合兵を薙ぎ払う。

敵も敵で敵わないとわかっているのか、隊列を縦に伸ばして2人を誘導することに専念していた。

あれでは全員を倒し切る頃には、ネロ達との合流が間に合わないくらい離れてしまうかもしれない。

 

「マスター、どうするの?」

 

「わかっている。少し、待ってくれ」

 

手持ちの礼装で2人を鎮められるようなものはない。

令呪を使えば大人しくなるだろうが、その場合は全画を用いなければ2人を止める事はできないだろう。

この先、連合首都での戦いも控えているため、それはできるだけ避けたい。

やはり、馬を横付けさせて呼びかけるしかないのだろうか。

皇帝を相手にあそこまで大見得を切ったのだ。絶対に手ぶらで帰るわけにはいかない。

意を決したカドックは景気づけに頬を叩くと、西部劇の登場人物にでもなったつもりで馬を走らせた。

馬から飛び降りたアナスタシアも呼びかけの邪魔にならないよう、連合兵達を次々に凍らせていく。

 

「スパルタクス! 呂布! これは敵の罠だ! すぐに戻れ!」

 

2人の攻撃の余波が届かないギリギリの位置まで馬を近づけ、声を張り上げる。

しかし、連合兵との戦いで感情が高ぶった2人は呼びかけを無視して逆走を続け、獣のような雄叫びを上げて暴れ続けるばかりだった。

 

「ブーディカがさらわれた! すぐに戻るんだ!」

 

「圧制! 圧制! さあ、圧制者よ、叛逆の時が来たのだ!」

 

「■■■■■■■■■■■―――!」

 

「言うことを聞け、2人とも!」

 

振り下ろされた槍が大地を割き、薙ぎ払われた剣が大木を裂く。

森に入ろうと川に遮られようと、2人は止まることなく暴走を続ける。

こちらが何度呼びかけても、何を言っても止まらない。

アナスタシアの攻撃の余波が彼らにも及ぶが、それでも2人は止まらず爆走する。

焦りがカドックの胸中を渦巻く。

 

『カドック、ムニエルだ! 藤丸達が敵サーヴァントと遭遇した。相手はあのアレキサンダー大王と諸葛孔明だ!』

 

西方世界を一度は征服した大王と三国志一の軍師。

どちらも一筋縄ではいかない強力な英霊だ。

マシュ達も強くなってきているとはいえ、苦戦は免れないだろう。

やはり、一刻も早くスパルタクス達を連れ戻さなければならない。

 

『頼むぜカドック、早く2人を・・・』

 

「わかっている! 少し黙れ!」

 

『お、おう・・・わかった』

 

こちらの剣幕に圧されたムニエルが静かに通信を切る。

焦りと怒りで胃がチリチリと痛みだす。

ローマに来てからというもの、思い通りにいかない事ばかりだ。

理不尽といういう意味でならフランスも負けていないが、単純に敵が強かったあちらと違ってここでは味方のはずのサーヴァントが頭を悩ませる。

 

「キャスター!」

 

「ここよ」

 

霊体化して移動してきたアナスタシアがカドックの背後に現れる。

 

「目につく範囲に動いている敵はいません。生き残りも撤退を始めました」

 

「なら、後はスパルタクス達だけか」

 

「どうするの、マスター?」

 

「2人を攻撃する」

 

「・・・はい?」

 

こちらの意図を読み取れず、アナスタシアの言葉が詰まる。

 

「気にも留めないっていうなら、無視できないようにするまでだ。敵と同じことを僕らもする」

 

「無茶よ。この馬だって走り詰めなのよ、保たないわ!」

 

「なら自分の足で走るまでだ。キャスター!」

 

自分はネロに約束したのだ、必ず2人を連れ戻すと。

なら、何が何でもそれを成功させなければならない。

 

「嫌なら令呪を使ってでもやらせる。ここで2人を引き留められなきゃ、もう本隊との合流が間に合わなくなる!」

 

「カドック・・・・・・わかったわ」

 

静かに決意し、アナスタシアが暴走する2人のバーサーカーを睨みつける。

瞬間、2人の足が凍り付いて地面に縫い留められた。

バランスを崩した2人に向けて更に容赦なく氷塊が降り注ぎ、荒れた平原の真ん中に氷のオブジェが出来上がる。

カドックは油断なく身構えた。

来るなら来い、魔術師(圧制者)はここにいるぞと動かぬ氷塊を睨みつけ、握り締めた手綱に力を込める。

直後、轟音と共に氷塊が砕け散り、2匹の獣が咆哮を上げた。

 

「キャスター! 落ちないようにしっかり掴まれ!」

 

腹を蹴られた馬が嘶き、一目散に来た道を逆走する。

直後、先ほどまでいた場所にスパルタクスの剣が叩き落された。

 

「ふははははははっ! アイッ! とうとう正体を見せたな圧制者よ! さあ、抱擁の時だ! 潔く我が腕の中で散るがいい!」

 

「■■、■■■■■■!」

 

笑いながら剛腕を振るい、スパルタクスは手近な岩を砕いてこちらに投げつけてくる。

カドックは半ばパニックを起こしかけている馬の手綱を何とか操ってそれをかわし、避け切れない分はアナスタシアが撃ち落とす。

その様を見たスパルタクスは満面の笑みを浮かべ、次々と岩を投げつけながらこちらを追ってくる。

一方、呂布の方はというとしばらくは槍を持ったまま呆けていたが、スパルタクスが動き出したのを見て同じようにこちらを追いかけてきた。

一先ずは計画通りだ。

このまま自分達が囮になって、連合首都まで2人を誘導する。

だが、それは口で言うよりも遥かに困難で恐ろしい作戦だった。

2人はブレーキが壊れた機関車か何かのように、脇目も振らずにまっすぐこちらへ向かってくる。

大木や巨岩が投げつけられ、立ち塞がった河川が滅茶苦茶に踏み潰され、通り過ぎた場所は嵐が過ぎ去ったかのように草木も残らない不毛の土地と化すのだ。

剛腕から繰り出される攻撃はほんの少し先端が掠めただけでも、この体はバラバラに砕けてしまうだろう。

 

「キャスター、2人は!?」

 

「つ、ついてきています・・・」

 

『段々、追い付かれているぞ。もっとスピードを上げろ!』

 

カルデアから位置情報が送られてくるが、確認している余裕はない。

とにかく手綱を握り、疾走する馬に食らいつくのに必死だった。

既に半日以上、走り続けたことで馬の脚も限界だ。

暗示と治癒の魔術で無理やり走らせ続けているが、それもどこまで保つかわからない。

それでも遮二無二、馬を走らせ続ける。

崩れかけたバランスを無理やり立て直し、うろ覚えの記憶を頼りに連合首都を目指して荒野を駆け、追いすがる2人の狂戦士の攻撃を紙一重で避ける。

心臓が跳ね上がる。

馬を走らせるのに夢中で、呼吸をすることを忘れている。

容赦なく叩きつけられる風圧に、思考がぶつ切りと化す。

背後では咆哮が轟き、冷気が束になって渦巻いている。

 

「―――っ!?」

 

一瞬、天地が引っくり返る。

とうとう、馬が限界に達したのだ。

足が折れて倒れた馬からカドック達は放り出され、固い地面の上を何度も転がって着地する。

視界の端に剣を振り上げたスパルタクスの姿が映った。

本能的に恐怖を感じて地面を這う。

急いで逃げなければ、彼の剣は容赦なく脳天を勝ち割るだろう。

だが、ここまで馬を走らせ続けた疲労が立ち上がることを阻害する。

疲れ切った体は鉛のように重く、思うように動いてくれない。

その様を自覚し、もうダメなのかと、諦めが胸を過ぎった。

 

「マスター、こっちに!」

 

剣が届くまで後、一歩と迫った瞬間、何もない地面でスパルタクスはその身を捩る。

その僅かな隙を突いてアナスタシアはカドックを背負うと、狂戦士から距離を取ろうと地を蹴った。

彼女のスキル、「シュヴィブジック」によってスパルタクスを転ばしたのだろう。

しかし、数歩もいかぬ内にアナスタシアは足をもつれさせて倒れてしまう。

 

「キャスター!?」

 

「痛・・・足が・・・・・・」

 

アナスタシアは痛みを庇うように立ち上がり、もう一度走り出そうとする。

そういえば、行軍中に彼女は足が痛いと言っていた。

いつものわがままの類と思っていたが、本当に足を痛めていたのか。

 

「ごめんなさい、こんな時に・・・」

 

「君のせいじゃない、気づけなかった僕のミスだ!」

 

奥歯を噛み締め、迫りくる狂戦士を睨みつける。

ダメもとでガントを放ってみたが、自分の技量ではほんの少し、動きを鈍らせるのがやっとであった。

こうなってはもう、令呪を使うしかないのか。

そう思った刹那、カドックの目はスパルタクスの背後に迫る巨大な影を捉えた。

呂布だ。

中華鎧を身に纏った巨人。

先ほどまでスパルタクスと共に暴走していた狂戦士が、あろうことか仲間であるはずのスパルタクスの背中に強烈な体当たりを仕掛け、彼を突き飛ばしたのだ。

 

「■■■■■■■!!」

 

まるでこちらを庇うように立つと、呂布は倒れたスパルタクスを見下ろす。

案の定、起き上がったスパルタクスは何ら堪えた素振りも見せず、自分を突き飛ばした呂布へとその牙を向けた。

 

「圧制者を庇い立てるか、反骨の将よ! 立ち塞がるなら容赦はせん!!」

 

「■■■■■■■■■■■■―――!」

 

如何なる理由によるものか、呂布は自分達を守るためにスパルタクスと腕四つで組み合った。

そのまま互いの腕が軋みを上げるほどの力比べを始め、踏ん張りの余波で地面が陥没する。

 

「ど、どうして、呂布が私達を?」

 

「わからない。彼もスパルタクスと同じように暴走していたはずだ」

 

ひょっとして、狂化の度合いの違いが関係あるのだろうか。

スパルタクスの狂化は思考の固定に表れているが、呂布は単純に理性が喪失しているだけであり、僅かではあるが思考能力を残している。

アナスタシアの攻撃で冷静さを取り戻し、こちらの言い分もある程度は通じていたのかもしれない。

無論、彼自身が生粋の戦闘狂でスパルタクスとの死闘を望んでいるという線も捨てきれないが。

 

「■■■■■■!!」

 

「雄々々ッ!!」

 

腕力で勝る呂布がスパルタクスの巨体を投げ飛ばし、彼に対して何事かをまくし立てる。

しかし、スパルタクスは聞く耳を持たない。

呂布が力を抜いた瞬間を見計らって強引に抑え込み、そのまま強烈な鯖折りを仕掛ける。

 

「我が鉄の意志は止められぬぅっ!!」

 

まるで投げ縄かなにかのように呂布の巨体を振り回すと、ボディスラムからのフライングボディプレスで追撃を仕掛ける。

だが、呂布もやられっ放しではない。地面に転がりながらも自身の武器である方天画戟を取り出すと、宙を舞うスパルタクスの腹部にその切っ先を突き立て、力任せに近くの岩へとその巨体を縫い付ける。更に、両手足の骨を折る事で彼の動きを完全に封じる事に成功する。

 

「■■■■■、■■■■■■!」

 

スパルタクスが動かなくなったことで、呂布の纏っていた戦意が消えていく。

普通ならば、これで大人しくなったと安堵することだろう。それは当然の反応だ。

だが、スパルタクスの場合はその限りではない。

カドックも一度、目にしている。

彼は痛めつけられるほど、力を増す英霊なのだ。

 

「離れろ、呂布!」

 

「アイッ!」

 

宝具『疵獣の咆吼』(クライング・ウォーモンガー)が効果を発揮し、巻き戻るようにスパルタクスの傷が再生する。

折れた骨は再び繋がり、膨れ上がった肉が方天画戟の刃を押し出す。更に余剰魔力が全身に余すことなく行き渡り、先ほどよりも一回り大きくなったスパルタクスの腕が油断していた呂布の巨体を吹っ飛ばした。

その勢いのまま倒れ伏すカドックに迫ると、アナスタシアを押しのけて彼の首根っこを掴み上げた。

 

「ふはははははははっ!!!」

 

「カドック!?」

 

放たれた氷柱が突き刺さるが、スパルタクスは構わず腕に力を込める。

一瞬で脳が酸欠を起こし、視界が赤く染まった。

カドックは一本一本が子どもの腕ほどもある指を押し広げようと力を込めるが、ビクともしなかった。

 

「さあ、報いの時だ圧制者よ」

 

「っ―――っ―――!!」

 

「カドックを放しなさい、スパルタクス!」

 

「いや、いいんだ・・・アナスタシア」

 

苦し気に息を漏らし、途切れ途切れの言葉でカドックは己のサーヴァントを遮る。

 

(そうだ、これでいい)

 

今、スパルタクスは自分のことを倒すべき圧制者としてまっすぐに見つめている。

思考回路を狂わされ、意思疎通ができない彼と向き合うためには2つの方法しかない。

共に戦う叛逆者として肩を並べるか、圧制者として対峙するかだ。

そして、渾身の力で締め上げてくる手を伝って、彼の純粋で歪みのない敵意、気高き叛逆の心が伝わってくる。

自分は今、あのスパルタクスに圧制者と認識されている。

倒さねばならない敵として、彼の心の中に存在できている。

自分のことを弱くて力のない子どもだと言った、強くて大きな大人に認めてもらえている。

どんな形であっても、彼と対等の場所に立てていることが嬉しい。

 

「聞・・・・・聞いて欲しい・・・向こうに・・・・・・連合の首都がある・・・2日もあれば・・・・・・辿り着ける」

 

ローマを救うためにスパルタクスの力は必要だ。

凡人の自分なんかよりも、ずっと必要だ。

彼の力は、叛逆の精神は必ずや連合ローマ帝国を打ち破り、この地に平和をもたらすだろう。

だから、自分の旅はここでおしまいだ。

 

「圧制者は・・・そこにいる・・・・・・ローマを・・・人理を脅かす敵が、いる・・・・・・倒すんだ、呂布と一緒に・・・たおして・・・ぼくの・・・かわ・・・り・・・」

 

覚悟していても、やはり死ぬのは怖い。

後悔だってある。

結局、アナスタシアとの約束は果たせなかった。

それが悔しくて、情けなくて、一筋の悔し涙が、頬を伝って狂戦士の指を濡らす。

すると、あれほど苦しかった締め付けが緩み、気道に空気が送り込まれる。

直後、カドックの体は地面に尻餅をついて倒れていた。

 

「カドック、大丈夫!?」

 

「あ、ああ・・・けど、どうして?」

 

見上げたスパルタクスは、相変わらずいつもの朗らかな笑みを浮かべていた。

彼は苦しそうに悶えているこちらを優しく立ち上がらせると、鉄板か何かのように分厚い手の平で肩を叩いてきた。

 

「やあ、また会えたね少年。さあ、ここより叛逆の始まりだ! 内なる炎に身を任せ、傲慢なる圧制者に鉄槌を! 虐げられし同胞に自由を! ふははははははっ!!」

 

いつものスパルタクスがそこにいた。

まるでさっきまでの戦いが夢だったかのように、彼からは敵意を感じない。

口に出す言葉に変わりはないが、今だけは彼が何を言わんとしているのかがわかった。

さあ、一緒に戦おうと。

 

「さあ、進め! 我らが前に敵はなし、それはただの試練と知れ! 乗り越えた先に待つ圧制者を討つのだ! 少年よ―――ついて来れるか」

 

一足先に踏み出したスパルタクスが、狂気に惑いながらも確かな意志を持った眼差しでこちらに振り返る。

その瞬間、顎に力が入った。

ギリギリと歯を鳴らし、支えてくれていたアナスタシアの手を取って先を行く剣闘士の後を追う。

空いている方の手はとっくに握り拳を作っていた。

 

「ああ、お前の方こそついて来るんだ、スパルタクス!」

 

疲れ果てた体にありったけの熱を込め、傷だらけの背中を突破する。

ローマで過ごした短い時間、常に前を走り続けていたスパルタクスの背中がそこにはない。

視界いっぱいに広がる景色を、遮る者は何もない。

何故なら、追いかけ続けた男は自分の隣にいるのだから。

さあ、ここからが叛逆の始まりだ。




Q どうして呂布は急に助けてくれたんですか?

A 陳宮「自重するのです我が無敵主君(むてきロボ)。覇を求めるのなら彼らと共に行くのです。そもそも貴方は欧州に土地勘がないでしょう」

などと言われたのかもしれません。
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